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中 西 智 子

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Academic year: 2021

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幼児におけるシンボリックランゲージからの リズム型認識に関する研究

中 西 智 子

AstudyontheCogni2:anCeOfRythmPettern

Satoko NAMSm

はじめに

文字を持たない西アフリカの人たちがトーキング・ドラムで音の微妙なニュアンスを用いて コミュニケーションの役割を果たすことができるように、人の言葉と打音の関係は音楽におい ても音のニュアンスや雰囲気は重要な役割を果たしている。我が国では、楽器の旋律やリズ

ムに一定の音節をあてて唱えることを唱歌(しょうが)といい、音楽を日本語の音節や擬音で 構成している。もとは雅楽の用語であるが今日では三味線や尺八、竜笛、筆築、褐鼓など、和 楽器の稽古事には記憶に便利という利点などで用いられている。このように、声を音(楽器) で表現したり、器楽曲を声(意味のある言葉や擬音のように意味のない言葉)で伝達する方法 で核心に迫る表現形態は、情報伝達を図る特殊化されたシンボリックランゲージといえよう。

楽曲の演奏には、再生可能な形で音楽を記録する楽譜の存在がある。楽譜は演奏を規則や規 準を定めて人へ伝える媒体である。音楽の演奏には微妙なリズムや強弱の変化が重要な役割を 担っており、例えばフランスのシャンソンのように、楽譜は単純でも歌手の個性によってテン

ポを微妙に変化させフレーズをまとめ、パフォーマンスを伴った歌唱をする。このように、楽 譜の表面に現れる記号的意味内容と、その表現を付随的に支えている雰囲気やニュアンスの関 係を徳丸吉彦は「苦や苦のグループの相互関連がもっ意味こそが苦楽である(註1)」と言う。

さらに、徳丸は紀元前4世紀のアリストクセノスの「声はその動きにおいて、自然の規則に従 い、音程をでたらめにおくのではない。・・・旋律の良いものを、旋律になっていないものか

ら区別している秩序は、言語の場合の文字の配列に見出される秩序に似ている。なぜならば、

音節を作りうるのは、ある文字について、すべての配列ではなく、いくつかのものだけだから である」を引用して、「音楽を言語にたとえたり、コミュニケーションのシステムとみなした

りすることがおこってきます。」と述べる。

幼児が楽譜を通して音楽を楽しむ機会は、ピアノなどの音楽のお稽古事などに限られている であろう。幼児の大部分に共通して、彼らが音楽に接する機会は聴くことからの模倣で再現し ながら音楽経験を重ねている。例えば、ピアノの連弾曲として知られている「ネコふんじゃっ た」のように、鍵盤楽器の稽古をしていない幼児が旋律に「ネコふんじゃった・・・」と歌詞

を付けて唱和することで演奏が可能となり、仲間と共に音楽を楽しむ姿は珍しくない。幼児が 旋律やリズムを習得する出発として、前述の「ネコふんじゃった」には言彙の存在が学習の始

まりといえる。なお、この曲は日本で「ネコふんじゃった」と衆知されているのであって、国

によって曲名などは異なる。

(2)

楽曲演奏の音やリズムを主体とした取り組みとしては、問の研究や勘の研究、音声言語におけ るミュー彼の研究などを挙げることができる(註2、3、4)。演奏における音楽のリズムのゆ らぎに関して、各種のパターンに対する演奏規則の研究は基礎的な知見は得られるが、音楽

リズムに対する従来の研究の特徴として、一人の演奏者を対象としたものが圧倒的に多い。こ れに対して、複数の演奏者のリズムに関しては、Rascbの論文などがわずかに見られるのみで ある(註5)。しかし、複数の演奏者の研究が少なく、その理由としては、

(1)被験者を複数とした実験のデータを取るのが、比較的容易でないこと (2)複数の被験者のデータから法則性が捉えにくいこと

(3)多数の演奏者の関係は複雑すぎて被験者や実験者が意識的に制御できないこと などが挙げられる。このうち(1)に関しては、機械技術の向上とともに、工夫を重ねることで、

次第にハードルを越えられてきている。しかし、十分な質・量の被験者の協力を得ることが、

被験者を複数とした場合に難しくなることは避けられない。(2)(3)は、より本質的な問題と言 え、現象の意識一無意識性、表現の所与一自発性といった根本的な要因の解明が必要とされる。

本研究では、音楽経験の少ない幼児期に特に着眼し、従来のリズムのゆらぎの分析を通して、

基本的に意識によるコントロールが可能で、「無意識性」「自発性」が表れる複数の演奏者の間 のリズムのずれと同調に着目した。複雑系における引き込み現象の視点を加え、ずれの変化を 評価することで音楽をはじめとしたリズムを伴う現象に対する新しい見方の提案を目的とし、

CharlesSandersPeirceによる記号の三区分の一つ「シンボル」の視点から、言葉をシンボル としてリズム型に置き換えてリズム認識にどのように関係するのかを考察する。

Ⅰ シンボリックランゲージとリズム型の関係

心拍や脳波は、主に生理的なレベルでのリズム現象であるが、これに対して、行動レベルに おいてもリズムの引き込みが見られる。歩行のリズムやスムーズなコミュニケーションにおけ る動作の同調などが報告されている(註6)。更に、音楽リズムにおける引き込みは、より積 極的に作られるもので、演奏や鑑賞における感動、音楽療法に見られるような療法効果、活力

の源泉などの要因として注目される。

リズムの本質を問うことは、大変困難な課題である。リズムを認知することば、時間経過に 伴う事象の系列を解釈することであり、ある種のパターン認識と考える。さらに、(音楽的な)

リズムとして感じることのできる時間幅のスケールは限られている。短い時間間隔でのリズム は、音の高さとして認知される。周波数が上がれば、音色や母音の識別といった、リズムとは 異なる種類のパターン認識となる。一方、時間間隔が長くなりすぎれば、まとまったリズムと

してのグルーピングができず、ばらばらの事象として認知される。ただし、その場合でも、ゆっ たりとした長い時間変化のパターンに対する認知が、半ば無意識に存在していると推測される。

何らかのプロセスによって、一連のリズムがグルーピングされたとき、これをフレーズと呼ぶ が、このフレーズの概念は、演奏用語としての用法に近く、楽式論における狭義のフレーズ (楽節)よりも意味が広い。

本稿では、リズムの躍動感の源であるフレーズの要素と引き込み現象とを関連付けて考え、

リズム課題として①から③のリズム型を提示した。

リズム課題 ① J♪♪71J♪J71♪JJ71♪777l

(3)

リズム課題 ②JJ7♪l♪J7山一♪J7Jl♪J7♪t リズム課題 ③」」」」」」」」‥‥

リズムが示す内容と頬似性・隣接性をもたないシンボルとしての言葉、即ちシンボリックラ ンゲージ(意味のある言葉と意味のない言葉)を当てはめて言葉と身体の感覚がリズム打ちを する際にリズムの認識と何らかの関係があるのだろうか。即ち幼児が知っている言葉の認識か

ら打つという運動が転用することは、リズム型のイメージを声(言葉)から提供されることで ぁり、幼児にとってはエポックメーキングな出来事であろうと思われる。リズムを打つ運動に 言葉の介在が加わることによって、リズム型の心の認識が声(言葉)と打つ運動(身体運動)

でどのように指示機能を持つことになるのか0リズム型のシンボルとして言葉を用いる場合と 用いない場合で、幼児集団におけるリズム型の同調を調べた。

A〔実験の目的〕

幼児のリズム打ちにおいて、同調するかどうかの要因を提示方法について考察する0リズム 型については、三本締め、切分音形、拍打ちを用いた。リズムの提示方法は、実験者による提 示(リズム型のシンボルとしてシンボリックランゲージを当てはめた場合)とコンピュータか

らの機械音の場合で比較検討した。

B〔実験の概要〕

被験者は幼稚園の年長児である0男女に分けて5人で一つのグループとし、提示リズム(実 験者からのシンボリックランゲージまたは機械音)とともにリズム打ちをする05人の被験者

及び実験者は、電流センサーのついた小さなバチを片手に持って水平面を打つ。

実験者(シンボリックランゲージまたは機械音)が示すリズムに続いて被験者がリズム打ち をする。交互に3回線り返した後、実験者と被験者が一緒にリズム打ちを行う。

実験での段取りについての説明は、幼児が理解できるように①から③のリズム型の実験の前 ごとに、説明を兼ねて本番通りに1回通して実施する。この手順では、説明時には実験時と同 様にリズム打ちの中で「はい」「一緒に」の指示を入れている。学習効果の影響を相殺するた めに、同一条件で実施する2グループで順序を逆にして実施する。

C〔リズム形・提示方法〕

実験には次の①から③のリズム型を課題とし、リズム課題の①と②のリズム型にはシンボリッ クランゲージを当てはめた。

a:意味のある言葉をシンボリックランゲージとして提示 b:意味の無い「夕」をシンボリックランゲージとして提示 c:機械音による提示

とした。aとbについては、実験者が模範的にバチでリズム打ちをした。Cについては、スピー カーからの機械音を聞かせるのみである。

cの機械音は、MIDI編集ソフト「CakeWalkHomeStudio」により作成したクリック音を

用いた。クリック音の立ち上がり・減衰時間ははぼゼロ、クリック音の持続時間は100分の1

秒以下である。

(4)

リズム課題

①J=約200J♪J71♪JJ71♪♪♪71J7771

音符番号 12 3 4 56 7 8 910111213141516

a

バナナ りんご みかん だ

b タタタン クタタン タタタン クン

c

機械音による提示

②J=約200 上山7JIJJ7♪lJJ7J】JJ7Jl

音符番号 12 3 4 56 7 8 910111213141516

a

よかっ た よかっ た よかっ た よかっ た

b タタック タクッ タ タタック タクッ タ

c

機械音による提示

③J=約200」」」」」」」」‥‥

音符番号 12 3 4 5 6 7 8

a

ふ ぞ く え ん

b タンタンクンタンクンタンタンタン

C

機械音による提示

以上の組み合わせによる①‑a②‑a③‑a①‑b②‑b③‑b①qc ②LC ③qc の9パターンで実験を実施した。

リズム課題③では、aの言葉を当てはめる場合のみ8拍単位としたが、bとcの提示では不 規則な拍数で続けた。各リズムパターンの実施では前述のように、実験者と幼児が交互に2回 打った後で実験者の提示に続き、実験者と幼児が同時にリズムうちを行った。実験者と一緒の 場合と幼児(被験者)のみで打っ場合の相違を調べるためである。1パターンの流れは、

実験者→幼児→実験者→幼児→実験者+幼児→実験者+幼児→実験者+幼児である。ただし、

リズム課題③ではリズム課題の切れ目がないために、b、Cの場合に教師+幼児は1回である。

D〔実験装置・データ処理〕

匡‖ 実験装置図の概念図

(5)

リズム打ちをするバチは、マイナスドライバー(小)に、アルミホイルを巻き、導線を接続 した。打つ台は、アルミホイルを貼った箱を使用し、導線に接続した。この組み合わせを6セッ ト作成し、実験者と被験者5名が対面できるようにレイアウトした。計6チャンネルについて、

導線をAD入力ボックスに接続した。更に、1チャンネルを機械音収録用に、lチャンネルを アース用とした。

AD入力ボックスからパソコンに装備したADコンバータDAS‑1898XPCに入力し、パソ コンPC‑9801DAで電流波形をデジタルや処理してファイルに保管した。サンプリング分解 能は、250Hzである。

プログラムによって検出した電流波形とリズム打ちのタイミング時刻データによって解析す る。検出したピーク時刻のうち、波形との照合でリズム打ちのタイミングでないと考えられる ものは除外した。また、打数が過剰なもの、リズム打ちが抜けているものなどは被験者のエラー として除外し、有効なピーク時刻のみを用いて標準偏差を求めた。ピーク時刻のデータは、分 解能を考慮して1000分の1秒の単位までを用いている。

E〔被験者・実験場所〕

被験者は、三重大学教育学部附属幼稚園5歳児60名(男児30名、女児30名)である。実 験場所は、同幼稚園の会議室で行った。被験者のグループ構成は、1グループ5名として男女 それぞれに6組で、計12組となる。実施は朝の自由時間内に、1グループ15分程度を要し、3

日間にわたった。実験助手の三重大学教育学部幼児教育専攻学生が幼児を誘導した。

Ⅱ 結果と考察

1リズム打ちのタイミングの同調度の比較

リズムの同調度は、被験者同士のリズム打ちの時刻のずれの標準偏差を用いて評価した。エ ラーの個所のデータは、標準偏差値からはずして標準偏差値のデータベースを作成し、条件ご とに標準偏差の値を平均して比較した。

ずれの標準偏差を図2‑1〜3に示した。

ずれの棲準偏差(よかった)

ZOt几)

1500

1000

.彷00

.0000

:■ト

̲」ト

ニi

□唱歌・意味あり

一・・■‑一

口唱歌・意味なし

‑‑▲・一

触械守

一1}‑一

全体の平均

(単位;拍) 拍位置

図2‑1ずれの標準偏差(リズム課題①)

リズム課題の提示方法による比較

(6)

ずれの標準偏差(3本締め)

拍位書 (単位;拍)

+口唱歌・意味あり

・‑‑‑■‑・口唱歌・意味なし

一一▲‑一

機械音

一台‑一

全体の平均

図2‑2 ずれの標準偏差(リズム課題②) リズム課題の提示方法による比較 ずれの棟準偏差(拍打ち)

妻1

(単位;拍)

‑‑」トロ■歓・意味あり

・‑t・一口唱歌・意味なし

‥Jト一

見械音

‑㊤一一

全体の平均

図2‑3 ずれの標準偏差(リズム課題③) リズム課題の提示方法による比較

図2に示したリズム課題の提示方法による比較の結果の如くに、リズム課題①ではリズムの シンボルとしての言葉によるリズム型において、大きな差は認められない。しかし、bの意味 の無い言葉の提示の同調度が最も不安定であり、Cの機械音の提示が安定している。

リズム課題②では、aの意味のある言葉の提示が明らかに同調度が低い。bの意味の無い言 葉の提示とcの機械音の提示の場合は、同調度に大きな差は見られない。

リズム課題③では、全体的にcの機械音の提示の場合に同調度が高く、aの意味のある言葉 の提示の場合には低い。

同調度を評価する量は標準偏差値なので、基本的には正規分布はしない。しかし、同調度は いくつかの値の平均値をとっているので、近似的に、正規分布に基づく平均値の差の検定を行

うと、リズム課題①ではaの意味のある言葉の提示の場合とcの機械音の提示の場合の差が5

%水準で有意であった。

リズム課題②では、aの意味のある言葉の提示の場合が他の提示の場合に比べて1%水準で

有意であった。

(7)

リズム課題③では、aの意味のある言葉の提示の場合とbの意味の無い言葉の提示の場合で は5%水準で有意であり、bの意味の無い言葉の提示の場合とcの機械音の提示の場合が5%

水準で有意であった。aの意味のある言葉の提示の場合とcの機械音の提示の場合では1%水 準で有意であった。

同調度はエラーと関係し、同調におけるずれが大きいと打ち間違いのエラーと区別がつかな くなる(註8)。有効打のずれがエラーに近い境界域のデーターは、エラーの要素が混合してい ると解釈でき、エラーが少ないときの方が同調度が高いと推測される。このエラーと同調の要 素に関しては、音楽演奏の上級者が意図的に表現した場合と無意識的に生じた傾向の分離が難

しい事例に共通の問題であるといえよう。

実験から示唆されることとして、5歳児の集中力の状態の差異がある。幼児が機械音からの リズム提示に一定の興味を示し、好奇心を持ったときに大きな集中力を発揮したと推測できる。

ただ、実験者によるリズム提示は、リズムを提示するという役割のはかに、声による感情的な 表現の要素が含まれており、身体の動きなど視覚的な情報が与えられたと思われる。しかし、

本実験では純粋にリズムのみの提示である機械音の方が同調度が良かった。

2 シンボルとしての言葉とリズム型

打楽器の唱歌には能の喋子や歌舞伎の嚇子のように、高度に発達した唱歌がある一方で、歌 舞伎の開演前に大太鼓で一番太鼓が「ドントコイ(月」)」と奏する。これは観客が「どんと 来い」との期待を込めて鳴らすものであり、大相撲などのおふれ太鼓にも共通して、言葉を知

らないと単に『太鼓の音が鳴っている』にすぎない。言葉をリズム型に置き換えることを記憶 の便とする考え方の中に、例え何かの事情で中断してもすぐに続けて演奏できるタイミングを っかみ易いというフィードバック・システムの利点もある。幼稚園や学校などにおいて幼児・

児童・生徒ヘリズム指導をする場合には「タンクンウンウン(」」‡り」と唱歌を利用する 場合が当てはまるであろう。

リズム課題①は、最も簡単な打相法の手拍子を用いたリズム型で「三本締め」といわれてい るリズムである。この名称はリズム型からきたもので、他には「三・三・七拍子」「一本締め」

といわれるものがある。何かの披露などの集まりが無事終わってその場の"けじめ"の一つの 認知として参加者全員の参加で行われ、「三本締めでお願いします。お手を拝借」となり、「そ

れでは いよぉ一つ」と始まる。証券取引所の大発会式・大納会や大相撲の千秋楽の最後に相 撲関係者と観客が一斉に打っ等、ニュース等でも流れるこのリズム型は、成人には対応の易し いリズムと思われる。しかし、幼児には経験が無いに等しいと推測してリズム課題に取り入れ た。aは幼児の好きな果物の名前を当て、bでは本来の「タタタン」とした。

リズム課題②は、バイオリン教育の鈴木メソッドで「キラキラ星」の変奏曲の一つに取り入 れられているリズム型である。幼児が演奏をするには運弓が難しいリズムのように思われやす いが、バイオリンを習う幼児には「よかった」の言葉を当てはめて練習をすることで、リズム 理解が可能となっている。「よかった」のキラキラ星変奏曲は、躍動感のある曲として好まれ ている。aは鈴木メソッドと同じ「よかった」とし、bでは「タタッタ」とした。

図2‑1のように、リズム課題①では、幼児は実験者のリズム提示より機械音のリズム提示

に対して安定して同調している。このことば、幼児にとってシンボルとしての言葉を当てはめ

ることは、「連なった音」という把握をしているのではないだろうかと考えることができる。

(8)

幼児が機械音に興味を示したのであろうと考えるが、同時に、幼児には言葉の無い機械音を、

音現象として、音の流れとして把握した故に、安定した同調がみられたのではないだろうか。

筆者は、シンボルとしての言葉が実験者の存在と共に補足的な役割を果たすであろうと予測 したが、幼児が初めてのリズム型を打っ場合には、シンボルとしての言葉に利用価値が認めら れることは少ない、ということであろうか。成人のようにリズムの体系化が衆知されていない 場合、リズム型を初めて模倣する時には言葉という媒体の効果は少ないのであろうか。

図2‑2のように、リズム課題②では、意味のない言葉と機械音での提示に比べて、意味の ある言葉の提示にずれが大きくあらわれていることは、切部音の存在を意味のある言葉で表現 した意図が伝わらなかったと考える。意味のある言葉には言葉のニュアンスが含まれており、

初めて経験する幼児には言葉のニュアンスの共通認識が全員に浸透していなかったことで、同 調度が低かったと考えられる。難度を高く設定しているリズム型においては、意味の無い言葉

の提示と機械音の提示の比較では幼児が興味をもったと思われる機械音の優勢をおさえたと考 えられる。さらに、リズム課題②の休符の個所で誤って打っエラーが機械音の場合において少 ない、ということはなかった。

シンボリックランゲージがあることで休符の後に始まる音のエラーが少ない結果になったの は、リズム課題の休符の感覚は、実験者がリズムを提示する場合においては相対的に予測しや すいからであろうと考えられよう。幼児がリズム打ちをするという体験では、幼児の興味を引 き出す提示方法の考慮も重要であるが、リズム課題②のように難度の高い場合、リズムの要所 としての情報源が必要であり、幼児にはシンボリックランゲージがリズム認識に役立ったと思 われる。また、間違えた場合にもフィードバックが容易なことが考えられる。

図2‑3のように、③の簡単な拍打ちのリズム課題では低いエラー率、高い同調度となった。

このように簡単なリズム課題の場合、幼児には実験者からの声による表現の要素や身体表現の 要素に含まれる情報を必要とせず、機械音へ気持ちを集中した結果であろうと考える。単純な 同調のモデルで考えた場合、集中度の高い方が同調度も高くなるといえるのではないだろうか。

音禁の演奏家にとって音禁表現の本質的な探究はメトロノームの使用を超えたところにある が、トレーニングの一部にはメトロノームを利用する。このように音符で表す音楽の場合にお いて、リズム感覚の滴養の視点からは③の拍打ちに対する幼児の高い集中度は、大きな意味を 示唆する。

おわりに

音楽リズムにおける引き込みを扱う場合、単に同調の良し悪しのみでなく、その詳細な変化 や構造を分析する局面が必要となる。音楽などのリズムを伴うパフォーマンスでは、生き生き とした躍動を持っための基礎という点が演奏実践上の指針として普及している。しかし、打楽 器教育に限定してみても、リズム打ちにおいて演奏者同士の同調程度の差と変化がどのような 要因によるのかを検証するための基礎的なデータが少ないのが現状である。

本実験のように、幼児が5人で互いのタイミングのずれ具合を意識的に制御することは非常

に困難である。互いに合わせようとしているであろうと思われる時のずれの変動は、はぼ無意

識の現象と言えよう。幼児期のリズム打ちにおける同調現象の法則性を解明することは、演奏

における無意識のレベルでの要因を分析する資料として位置付けることができるのではないだ

(9)

ろうか。今後は、音楽的な文脈を設定した場合の実験が必要と考える。現段階では自明でない 点も多く、今後は仮説的部分を順に検証していくことが必要と考える。本研究は、そのための

きっかけとして、広い分野での関心を求めるものである。

謝 辞

本研究に当たり、実験装置の作成、データ解析プログラムの作成で多大の協力をいただいた、

三重大学工学研究科(現:株式会社オムロン)の町井紀善氏に深く感謝します。また、「音楽にお ける引き込み現象」の共同研究者である吉田友敬氏の助言、データ処理などの協力に深く感謝 します。そして、何よりも実験にご協力いただいた三重大学教育学部附属幼稚園の先生方と子 どもたちに深く感謝します。今回の幼児対象の実験で幼児の誘導をしてくれた学生たちは教育 実習で幼児とは親密な関係を作り上げており、彼女たちの協力を得ることで幼児が緊張した雰 囲気ではなく、自由にリズム打ちをした、という意識で望むことができたと思います。中西ゼ

ミの学生さん、ありがとうございました。

参考文献

1徳丸吉彦「楽譜の本質」楽譜の本質と歴史 日本放送出版会 pp.8‑91979 2 中村敏枝「"間,,の解明」『感性の科学』(辻三郎編)サイエンス社1997

3

=黒田 亮『勘の研究』、講談社学術文庫、1980

4 梅田規子『おしゃべりはリズムにのって』 オーム社(テクノライフ選書)1997

5 Rasch,R.A.,nSYnChronizationinPerformedEnsembleMusic,,,AcusticaVol・43,1979

6 渡辺富雄、大久保雅史「コミュニケーションにおける引き込み現象の生理的側面からの分析評価」情 報処理学会論文誌Vol.39No.51998

7 村尾忠贋「楽曲分析における認知」『音楽と認知』(波多野誼余夫編)東京大学出版会(認知科学選 書)1987

8 中西智子、吉田友敬「幼児のリズム打ちにおける同調の分析」関西楽理研究ⅩVpp.29‑381998

9 中西智子「5歳児のリズムの共通感覚‥音声と身体性の研究」国際幼児教育学会19回大会プログラム

pp.211998

10 佐治晴夫「ゆらぎの不思議一宇苗創造の物語‑」PHP研究所1997

参照

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