経営 と経済 第84巻 第2号 2004年9月
金融商品会計 と公正価値
上 野 清 貴
Abs t ract
Thi spa pe re xpl a i nst hef a i rva l uec o nc e pt , t hei nf o r ma t i o na lus e f ul
‑ne s so ff a i rva l ue,a ndt hea c c ount i ngc ha r a c t e r i s t i c sa ndf unc t i o nso f f a i rva l uec ha nge so nt hef i na nc i a li ns t r ume nt sac c o unt i r 唱.Thec o nc l u‑
s i o nsa r et hef o l l o wi ngs;( 1 )t hege ne r a lc o nc e pto ff a i rva l uei st he pr e s e ntva l uea ndt hec ur r e nte nt r yva l uea nde xi tva l uea r es pe c i a lc o n‑
c e pt s ,( 2 )s uc haf a i rva l ueha sa l lq ua l i t a t i vec ha r a c t e r i s t i c st ha tma ke t hei nf o r ma t i o npr o vi de di nf i nanc i a ls t a t e me nt sus e f ult ous e r s ,t he r e ‑ f o r e,t hei nf o r ma t i o no ff a i rva l uei sus e f ult ous e r s ,( 3 )t hec ha nge so f f a i rva l uea r ei nc o mei ne s s e nc ea ndt hec ha r a c t e r i s t i ci st hee c o no mi c i nc o met ha tma i nt a i nst hee a r nl ngpo we rO ft hef i na nc i a li ns t r ume nt s
,a nd( 4 )t hef unc t i o nso ff a i rva l uei nc o mea r et ohe l pt hede c i s i o nma k‑
1 ngSa nde va l ua t et hepe r f o r ma nc eo fma na ge me nt .Oft he s ec o nc l u‑
s i o ns ,t hemo s ti mpo r t a ntt hi ngi st ha tt hee s s e nc eo ff a i rva l uec o nc e pt i st hepr e s e ntva l ue. The s ec o nc l us i o nsa r ea ppl i c a bl et ot hege ne r a la c ‑ c o unt i ngt he o r ya swe l la sf i na nc i a li ns t r ume nt sa c c o unt i ng.The r e f o r e , t hi spa pe ri sa ni nt r o d uc t i o no ft heo ve r a l lf a i rva l uea c c o unt i nga ndt he ge ne r a la c c o unt i ngt he o r y.
Keywords:f i na nc i a li ns t r ume nt s ,f a i rva l ue,pr e s e ntva l ue,e c o no mi c
l nC O me
Ⅰ は じ め に
近年,世界の経済基盤は,実物経済 か ら金融経済へ,さらには無形 (知的) 資産経済へ と大 き く移行 しつつあ り,金融商品お よび無形資産が社会的に見 て も企業的に見て も重要な地位 を占めつつある。
この状況およびそれ らに共通す る評価尺度について,武 田教授は次の よう に指摘 している
。2 0
世紀企業モデルは,機械設備等の生産手段を中心 とした 企業体 (すなわち,有形固定資産 を生産準備手段 とした物的諸資源の集合 としての企業体,つま り製造業)であった。しかし
,21
世紀型企業モデルでは, 情報技術 (IT)の発達 とともに,デ リバテ ィブ等の金融資産や技術 ・ノウ ハウ ・特許 といった無形資産が企業の価値創造の リソース として重視 される ようにな り,それが企業モデル としての投資評価の メジャー とな る。 これ ら 有形財 と金融財 と無形財 との3着間の共振関係の上 に成立する企業体 に共通 する評価尺度が,公正価値だ とい う認識である [武 田,2 0 0 1 ,6
頁]。この ように,経済基盤の変化 に伴 って,金融商品会計および無形資産会計 が現代の会計において重要 とな りつつあるが, これ らの うち,本稿では金融 商品会計を取 り扱 うことにする。本稿の 目的は,金融商品会計を理解するた めに,それが各国において どの ように規定 されてお り,その評価尺度ないし 評価基準である公正価値の真の意味は何であ り,公正価値変動 (評価差額) の会計的特質が どの ような ものであるのかを解明す ることである。
これ らの 目的を達成するために,本稿ではまず,米国財務会計基準審議会 (FASB), 国際会 計 基 準 委 員 会 (IASC,現在 の 国際会 計 基 準 審 議会 (IASB))およびわが国の企業会計審議会で規定 されている金融商品会計基 準 を取 り上げる。その場合,それぞれの基準における金融商品の定義をまず 明 らかに し,次 に金融商品の うち,主 として有価証券 お よび金融派生商品
(デ リバ ティブ)の会計処理 を,公正価値 を中心 として説 明する。
次に,金融商品会計の最 も進んだ形態 として,ジ ョイン ト ・ワーキング ・
金融商品会計 と公正価値 3
グループ (JWG)の提唱 した公開草案 を解説 し,金融商品会計の理念型 を 理解する。
これ らを踏 まえて,金融商品会計の評価基準である公正価値の真の意味を 解明 し,さ らに,公正価値の情報的有用性お よび公正価値変動 (評価差額) の会計的特質 と機能を明 らかにする。そ して最後 に,かかる公正価値概念等 が,金融商品会計のみな らず,会計の一般的な原理 とな りうることを指摘 し ていきたい。
Ⅱ
各国の金融商品会計基準本節 では,金融商 品会計 を理解 す るため に,米 国財務 会計 基準審議会
( FASB)
,国際会計基準委員会( I AS C)
お よびわが国の企業会計審議会で 規定 されている金融商品会計基準を解説する。上述 した ように,その場合, それぞれの基準 における金融商品の定義をまず明 らかにし,次に金融商品の うち,主 として有価証券およびデ リバテ ィブの会計処理を説 明す る。 これ ら が金融商品会計の中心 となると思われ るか らであ る。1 FASB
FASB
では,金融商 品は,現金 ,あ る実体 におけ る持分証書 ,または次 の双方 を満たす契約 と定義 される[ S FAS1 0 7 , 1 9 9
1, pa r. 3
]。(1)一方の実体 に,①現金または他の金融商品を他方の実体 に引 き渡 し, または(∋潜在的に不利な条件で他の金融商品を他方の実体 と交換する, 契約による義務 を課す こと
( 2 )
当該他方の実体 に,①現金または他の金融商品を一方の実体か ら受け 取 り,または②潜在的に有利な条件で他の金融商品を一方の実体 と交換 す る,契約 による権利 を交付す ることこの定義は抽象的で分か りに くいが,具体的には,後述するわが国の金融 商品会計基準 において規定 されてい る次の ような項 目が含 まれ る と解 され
る。
(1)現金預金
( 2 )受取手形 ,売掛金,貸付金等の金銭債権お よび支払手形,買掛金,借
入金等の金銭債務( 3 )株式,公社債等の有価証券
( 4 )デ リバテ ィブ取引により生 じる正味の債権 お よび債務等
ここで,デ リバテ ィブ取引 とは具体的に先物取引,先渡取引,オプシ ョン 取引,スワ ップ取引等であ るが,FASBは このデ リバ テ ィブ も抽象的 に定 義 してお り,それは,次の3つの特徴 をすべて有す る金融商品または他の契 約をいうとしている
[ SFAS1 3 3, 1 9 98, pa r. 6
]。(1)① 1つ以上の基礎値
( unde r l yi ngs )
,お よび② 1つ以上の想定量( no
‑t i ona la mount s )
もしくは支払条項( pa yme ntpr o vi s i ons )
またはその 双方 を有する。これ らの条件は,決済の金額 を決定 し,場合によっては, 決済 を要求するか否かを決定する1)0( 2)
当初 に純投資 を要求 しないか,または市場の要因の変動 に対 し同様の 反応 をする と予想 されるような他の形態の契約 について必要 とされる金 額 に比べて,当初の純投資が少額である。( 3 )その条件は,純額決済を要求または容認 し,契約外の方法 により容易
に純額決済 をす ることがで き,または受取人を実質的に純額決済 と異な らないような地位 にお く資産の引渡 しを規定 している。
この ように して定義 された金融商品の うち,有価証券は次の ように分類 さ れ 会計処理 される
[ SFASl 1 5, 1 9 9 3, pa r s. 7, 1 2, 1 3
]。(1)当該企業が満期 まで保有する積極的な意思お よび能力を もつ負債証券 は,「満期保有 目的有価証券」 として分類 し,償却原価で報告する。
( 2 )主 として近い将来に売却することを 目的 として購入 し,保有する負債
証券 お よび持分証券は,「売買 日的有価証券」 として分類 し,公正価値 で報告する とともに,未実現損益は当期の損益 に計上する。金融商品会計 と公正価値
5
( 3)
満期保有 目的有価証券および売買 日的有価証券のいずれに も分類 され ない負債証券お よび持分証券は,「売却可能有価証券」 として分類 し, 公正価値で報告する とともに,未実現損益は損益か ら除外 し,株主持分 の独立項 目として報告する。また,デ リバティブはすべて公正価値で測定 され,そこにおいて生 じる利 得 または損失は,即時 に損益 として認識 される
[ SFAS, 1 3 3, 1 9 9 8, p a r s. 1 7 ‑ 1 8 ] 。
いま,以上の ことを‑表 にま とめ る と,表 1の ようになる。なお,売却可 能有価証券 における評価差額の処理 はその後,包括利益計算書 において 「そ の他の包括利益」の区分 に計上 され るこ とになった
[ SFAS1 3 0, 1 9 9 7, p a r,
5]2)0
表
1
有価証券およびデ リバテ ィブの会計処理 (FASB)種 類 評 価 基 準 評価差額の処理
満期保有 目的有価証券 償却原価
売買 日的有価証券 公正価値 当期の損益
売却可能有価証券 公正価値 その他の包括利益
この ように,
FASB
は,ほ とん どの金融商品の評価基準 として公正価値 を 適用 しているが,それは,公正価値 が原価 による測定 よりも目的に適合 し, かつ理解で きる情報 を提供する と考 えているか らである。すなわち,公正価 値 は,金融商品に関する過去の取引の価格ではな く,現在の現金相当額を反 映するため,企業の流動性または支払能力を評価するためには,公正価値 が 原価 よ りも財務諸表利用者の 目的に適合 しているのである。また,公正価値の評価差額の処理 として
,FASB
は,売買 日的有価証券 に 関する公正価値の未実現の変動 を損益 に計上すべ きである としている。その 理 由は,公正価値の未実現の変動 を損益 に含める と,各報告期間において,これ らの期間に発生する経済事象による影響を認識することによって,有価 証券を保有する期間にわた り異なる株主集団間に,株主持分の結果および変 動について,より公平な報告が提供 されるか らである。 これは,デ リバティ ブについて も同じである。
しかしなが ら,売却可能有価証券 に関する公正価値の末実現の変動につい て,同様の報告を行 うと利益 に対 して重要な変動を生ぜ しめる可能性があ り, 企業の経営方法 と経済事象が企業全体 に及ぼす影響を的確 に表 さない可能性 がある。 それゆえ,
FASB
は, これ らの変動 を純利益か ら除外 し,その他 の包括利益に含めるべ きであると決定 したのである。それでは,金融商品会計において最 も重要な評価基準である公正価値は,
FASB
において どの ように定義 されているのであろうか。 これを改めて見 てい くことにしよう。FAS B
によれば,公正価値 とは, 自発的な当事者間, すなわち強制または換金売却以外の当座の取引によって資産 (もし くは負債) を買い (もしくは負い)または売 る (もしくは決済する) ことのできる金額 である[ S FAS1 3 3 , 1 9 9 8 , pa r . 5 4 0
]。活発な公表市場価格が公正価値の最良の証拠であ り,それが利用で きる場 合には,測定の基礎 として使用 しなければな らない。公表市場価格が利用で
きる場合には,公正価値は,市場価格 に売買単位数を乗 じた積である。
公表市場価格が入手で きない場合には,その状況の もとで利用できる最良 の情報 に基づいて公正価値 を見積 もらなければな らない。公正価値の見積 り に当たっては,類似資産および類似負債の価格,な らびにその状況の もとで 利用で きる範囲で評価技法の結果を考慮 しなければな らない。評価技法の例 としては,関連 リスクに相応する割引率を使用 した予想される将来のキャッ シュ ・フロー見積額の現在価値,オプシ ョン価格形成モデル,行列価格形成, オプシ ョン修正スプレッド ・モデルおよび基本分析がある。
資産および負債の測定に関する評価技法は,公正価値測定の 目的 と一致 し なければな らない。当該技法 には,利率,債務不履行,期限前返済お よび
金融商品会計 と公正価値
7
ボラテ ィリテ ィに関する仮定を含む,価値,将来の収益および将来の費用の 見積 りに,市場参加者 が使用す るであろう仮定を組 み込 まなければな らない。
また,公正価値の見積 りに使用する場合の予想 される将来のキ ャッシ ュ ・フ ロー見積額 は,合理的 に立証で きる仮定および予測 に基づ く最 良の見積 りで なければな らない。予想 される将来のキ ャッシ ュ ・フローを見積 もるに当た っては,利用で きるすべての証拠 を検討 しなければな らない。
2 lASC
IASCでは,金融商品は,一方の企業 に とっての金融資産 と他方の企業 に とっての金融負債 または持分金融商品の双方を生ぜ しめるあ らゆ る契約 と定 義 され る
[ I AS3 2, 1 9 9 8 , pa r. 5
]。そ して この場合,金融資産 とは,次のあ らゆる資産 をい うとされる。
(1)現金
( 2)
他の企業か ら現金 もしくは他の金融商品を受け取 ることがで きる契約 上の権利( 3)
金融商品を潜在的に有利な条件で他の企業 と交換で きる契約上の権利( 4 )
他の企業の持分金融商品また,金融負債 とは,以下の ような契約上の義務 を負 うあ らゆる負債 をい うとされる。
(1)他q)企業に現金 もしくは他の金融資産 を引 き渡す義務
( 2 )
金融商品を,潜在的に不利な条件で他の企業 と交換する義務この ような金融商品には,具体的 に,受取債権 ,支払債務お よび持分証券 の ような基本的な金融商品 と,金融オプシ ョン,先物 および先渡,金利スワ ップお よび通貨スワ ップの ようなデ リバテ ィブが含まれる。 ここで,デ リバ ティブ とは,次の ような金融商品をい うとされ る
[ I AS3 9, 2 0 0 0 , pa r . 1 0
]。(1)その価値 が,特定 された金利 ,証券価格, コモデ ィティ価格,外国為 替 レー ト,価格 もしくはレー トの指数,信用格付けまたは信用指数 もし
くは類似の変数 (基礎値)の変動 に応 じて変動 し,
( 2 )当初の純投資 をまった く要 しないか,または市場の状況の変動に類似
の反応 をす る他の種類の契約 に比較 してほ とん ど当初の純投資を要 さ ず,( 3)
将来のある 日に決済 されるものこの ようにして定義 された金融商品は
,4
つの範晴 に分類 される。それは, (1)売買 目的で保有す る金融資産 または金融負債 ,( 2)
満期保有投資,( 3)
企 業 により生み出された貸付金および債権,お よび( 4)
売却可能金融資産である。 これ らは以下の ように定義 される
[ I AS3 9, 2 0 0 0 , pa r. 1 0
]。(1)売買 目的で保有する金融資産 または金融負債 とは,主 として価格また は取引マージンの短期変動か ら利益を稼得することを 目的 として取得ま たは引 き受ける金融資産 または金融負債 をい う。金融資産は,取得理 由 にかかわ らず,短期的な利益獲得 を行 っている という最近の実績がある ポー トフ ォリオの一部 に含まれていれば,売買 目的で保有す るもの とし て分類 しなければな らない。デ リバティブ資産 お よびデ リバ ティブ負債 は,それ らがヘ ッジ手段 として指定 され,かつ有効であるものを除 き, 常に売買 目的で保有 されるもの とみなされる。
( 2 )満期保有投資 とは,固定 されているかまたは決定可能な金額の支払 と
固定 された満期 を有する金融資産で,企業がそれを満期まで保有する明 確な意図 と能力を有するものであ り,企業 によ り生み出された貸付金および債権以外の ものをいう。
( 3)
企業 によ り生み出された貸付金 および債権 とは,金銭,財貨 またはサー ビスを直接債務者 に提供することによって,企業が生み出す金融資産を いう。ただ し,売買 目的で保有するもの として分類 されるべ き,直ちに または短期間に売却する意図を もって生み出された ものを除 く。( 4 )売却可能金融資産 とは,
①企業 により生み出された貸付金お よび債権,②満期保有投資,または③売買 目的で保有する金融資産のいずれで もな
金融商品会計 と公正価値 9
い金融資産 をい う。
これ らの金融資産 および金融負債 の測定は,当初測定 と当初認識後の測定 に分け られる。そ して,前者 に関 して,金融資産 または金融負債 が当初認識 される時点で,それを原価,すなわち支払 った対価の公正価値 (資産の場合) または受け取 った対価の公正価値 (負債の場合)で測定 しなければな らない
[ I AS3 9, 2 0 0 0, pa r. 6 6 ] 。
当初認識後,資産であるデ リバテ ィブを含む金融資産 を,公正価値 で測定 しなければな らない。ただ し,次の金融資産で,固定 した満期 を有す るもの は,実効金利法 を用いた償却原価法で測定 され,固定 した満期 を有 しない も のは,原価で測定 され る
[ I AS3 9, 2 0 0 0, pa r. 6 9, 7 3
]。(1)企業により生み出された貸付金お よび債権で,売買 目的で保有 してい ないもの
( 2)満期保有投資
( 3)活発な市場 における公表市場価格 を有 さず,かつその公正価値 を信頼
性 をもって測定で きない金融資産また,金融負債 に関 して,当初認識後,売買 目的で保有する負債お よび負 債であ るデ リバティブを除 くすべての金融負債は,償却原価 によ り測定 しな ければな らない。当初認識後,売買 目的で保有す る負債および負債であるデ リバテ ィブは,公正価値で測定 しなければな らない。ただ し,公表価格のな い持分金融商品に結合 され,またはその引渡 しにより決済 されるデ リバティ ブで,その公正価値が信頼性をもって測定で きない ものは,原価 により測定 される
[ I AS3 9, 2 0 0 0, pa r. 9 3
]。金融資産 または金融負債の公正価値の変動 によって認識 された利得および 損失は,次の ように報告 しなければな らない
[ I AS3 9, 2 0 0 0, pa r. 1 0 3
]。(1)売買 目的で保有する金融資産 または金融負債 に関する利得 または損失 は,発生 した期間の純損益 に含 める。 (これに関 し,デ リバ テ ィブはヘ ッジ手段 として指定 されていない限 り,売買 目的で保有する とみなされ
る。)
( 2 )売却可能金融資産 による利得または損失は,次のいずれかの方法で処
理す る。① 発生 した期の純損益に含める
② 持分変動計算書を通 して直接資本の部で認識 し,当該金融資産が売 却,回収,その他の方法 により処分 されるか,当該金融資産が減損 し ていると判断された ときには,過去 に資本の部で認識 された累積利得 または損失を,当該事象が発生 した期の純損益 に含める。
また,償却原価 により計上 されている金融資産 お よび金融負債 については, 償却計算 を通 じて とともに,金融資産 または金融負債の認識を中止 した とき
または減 損 した ときに,利得 または損失 が当期純 損益 として認 識 され る
[ I AS3 9, 2 0 0 0 , pa r . 1 0 8 ] 。
いま,以上の ことを‑表 にま とめる と,表 2の ようになる。
表
2
金融商品の会計処理( l ASC)
種 類 評 価 基 準 評価差額 の処理
売買 目的で保有 す る金融資産 または金融 負債 公正価値 当期 の損益
満期保有投資 償却原価 または原価 償却計算 を通 じて損益認識
企業 に よ り生 み出された貸付金お よび債権 償却原価 または原価 償却計算 を通 じて損益認識
売却可能金融資産 公正価値 ① 当期 の損益② 資本 の部 に直接計上または
この ように,売買 目的で保有す る金融資産 または金融負債および売却可能 金融資産 において,評価基準 として公正価値 を用いているが,これは,公正
金融商品会計 と公正価値
ll価値 が様 々な面で有用であるか らである
。I AS
Cによれば,公正価値の情報 は,企業の全体的な財政状態を判断する際に,また個 々の金融商品に関す る 意思決定を行 う際に,事業 目的のために広 く用い られている。それはまた, 財務諸表利用者 によって行われる多 くの意思決定 にも関連 している。なぜな らば,多 くの状況において,それは金融商品に関連する予想 される将来キ ャ・ソシ ュ ・フローの現在価値 に関する金融市場の判断を反映 しているか らであ る。
公正価値 の情報 によって,金融商品の 目的およびいつ誰 にそれ らが発行ま たは所有 されたかにかかわ りな く,実質的に類似 した経済的特徴 を有する金 融商品の比較が可能 となる。公正価値 は,企業の経営者の職務 を評価する中 立的な基準 を提供す る。それは,金融資産 を購入,売却 もしくは所有するか,
または金融負債 を負担,維持 もし くは償還するかの意思決定の影響を明 らか にすることによってなされる
[ I AS32, 1 998 , pa r. 78
]。I AS
Cの大 きな特徴 は,売却可能金融資産の公正価値 による評価差額の処 理 に関 して,当期の損益 に計上す る方法 と資本の部 に直接計上する方法 との 選択適用を認めていることである。 これは,売却可能金融資産の評価差額は 本来損益であ るが,FASB
におけ るように, これを損益 とす る と企業の業 績 に重大な影響を及ぼす可能性があるので,純損益か ら除外 し,資本の部 に 直接計上す ることを選択肢 として認めた もの と解 される。以上 によって明 らかな ように
,I AS
Cにおいて も公正価値が非常 に重要 な 評価基準 となる。そ こで, ここで改めて,公正価値の定義 について見てみ よ う。I AS
Cでは,公正価値 とは,取引の知識 があ る自発的な当時者の間で, 独立第三者間取引により資産が交換 され,または負債が決済 される価額 をいう, と定義 されている
[ I AS32, 1 998 , pa r. 5
]。活発 な市場 において公表 された価格相場の存在 は,通常,公正価値の最良 の証拠であ る。保有資産 または発行予定負債の適切な公表市場価格は,通常, 現在の買値 であ り,取得予定資産 または発行済負債 については,現在の売値
である。現在の買値 お よび売値 が入手不能な場合には,取得 日と報告 日との 間の経済環境 に重要な変化がない限 り,直近の取得価格が現在の公正価値の 証拠 を提供することになる。企業がマ ッチング した資産 と負債のポジシ ョン を有 している場合には,公正価値 を設定する基礎 として,市場の仲値を用い ることが適切な場合 もある
[ I AS3 9, 2 0 0 0, pa r. 9 9
]。ある金融商品の市場が活発な市場でない場合 には,公正価値の信頼できる 測定値 まで公表市場価格 を修正 しなければな らない。市場 にわずかな取引 し かない場合には,市場は十分 に確立 されてお らず (例 えばい くつかの 「店頭」
市場),または評価 が必要な金融商品の取引単位 と比較 して少量 しか取引さ れていない場合には,公表市場価格はその商品の公正価値 を表す ものではな いかもしれない。取引数量が相対的に少ない場合で も,大 きな取引単位での 価格相場 をその商品の値付け業者か ら入手できるか もしれない。
他の場合には,公表市場価格は入手不能である場合 と同様 に,十分信頼性 のある公正価値 を決定するために見積手法 を用いることがで きる。金融市場 で確立 された手法 には,実質的に同 じである他の金融商品に関す る現在の市 場価値の参照,割引キ ャッシ ュ ・フロー分析,およびオプシ ョン価格形成モ デルを含む。割引キ ャッシ ュ ・フロー分析を適用す るに当たっては,企業は, 債務者の信用力,契約金利が固定 されている残存期間および元本返済までの 残存期間,な らびに支払 いを行 うべ き通貨を含め,実質的に同一の条件な ら び に特徴 を有 す る金融商 品の実勢金利 に等 しい割 引率 を用 い る [
I AS39
,2 0 0 0, pa r. 1 0 0
]。3 企業会計審議会
企業会計審議会では
,FASB
やI AS
Cの ように金融商品を一般的かつ抽象 的に定義するのではな く,具体的に金融資産および金融負債の範 囲を規定 し ている。 これは,金融資産 と金融負債の適用範囲をは じめか ら明確化する趣旨であ り,デ リバテ ィブ取引をも含め,金融資産お よび金融資産 を総称 して,
金融商品会計 と公正価値
1 3
金融商品 とい うことになる。
企業会計審議会では,金融資産 とは,現金預金 ,受取手形,売掛金および 貸付金等の金銭債権,株式その他の出資証券お よび公社債等の有価証券,な らびに先物取引,先渡取引,オプシ ョン取引,スワ ップ取引等のデ リバテ ィ ブ取引によ り生 じる正味の債権等をい う。 また,金融負債 とは,支払手形, 買掛金,借入金および社債等の金銭債務,な らびにデ リバティブ取引により 生 じる正味の債務等をい う [企業会計審議会
, 1 9 9 9
,第一 ,‑]。これ らを要約する と,表
3
の ようになる。表
3
金融資産および金融負債の範囲 (企業会計審議会)金 融 資 産 金 融 負 債
・現金預金 ・金銭債務 (支払手形 ,買掛金 ,借入金,
・金銭債権 (受取手形 ,売掛金 ,貸付金等) 社債等)
・有価証券 (株式 ,公社債等) ・デ リバ テ ィブ取引に よ り生 じる正味の
・デ リバテ ィブ取引 (引,オプシ ョン取引,スワ ップ取引等)によ り生 じる正味の債権等先物取引,先渡取 債務等
これ らの金融資産お よび金融負債の評価基準 に関 して,企業会計審議会は 基本的 に以下の ように考 えている。まず,金融資産 については,一般的には, 市場が存在す る等 によ り客観的な価額 として時価 を把握で きるとともに,当 該価額 によ り換金 ・決済等を行 うことが可能である。 この ような金融資産 に
ついては,次の ことが必要である。
(1)金融資産の多様化,価格変動 リスクの増大,取引の国際化等の状況の もとで,投資者が 自己責任 に基づいて投資判断を行 うために,金融資産 の時価評価を導入 して企業の財務活動の実態 を適切に財務諸表 に反映 さ せ,投資者 に対 して的確な財務情報 を提供す ることが必要である。
( 2)
金融資産 に係 る取引の実態 を反映させ る会計処理は,企業の側におい て も,取引内容の十分な把握 とリスク管理の徹底および財務活動の成果 の的確な把握のために必要である。( 3 )わが国企業の国際的な事業活動の進展,国際市場での資金調達および
海外投資者のわが国証券市場での投資の活発化 とい う状況の もとで,財 務諸表等の企業情報は,国際的視点か らの同質性や比較可能性が強 く求 め られている。 また,デ リバテ ィブ取引等の金融取引の国際的 レベルで の活発化を促すためにも,金融商品に係 るわが国の会計基準の国際的調 和化が重要な課題 となっている。
また,金融資産の時価情報の開示は,時価情報の注記 によって満足 される とい うものではない。 したがって,客観的な時価の測定可能性が認め られな いものを除 き,時価 による自由な換金 ・決済等が可能な金融資産 については, 投資情報 として も,企業の財務認識 として も,さ らに,国際的調和化の観点 か らも, これを時価評価 し,適切に財務諸表 に反映することが必要であると 考 えられる。
しか し,金融資産の属性および保有 目的にかんがみ,実質的に価格変動 リ スクを認める必要のない場合や,直ちに売買 ・換金 を行 うことに事業遂行上 の制約がある場合が考 え られる。 この ような保有 目的等をまった く考慮せず に時価評価 を行 うことが,必ず しも,企業の財政状態および経営成績を適切 に反映させ ることにな らないことか ら,時価評価 を基本 としつつ保有 目的に 応 じた処理方法 を定めることが適当である。
一方,金融負債は,借入金の ように一般的に市場 がないか,社債の ように 市場があ って も, 自己の発行 した社債 を時価 により自由に清算す るには事業 遂行上等の制約があると考 えられることか ら,デ リバテ ィブ取引により生 じ
る正味の債務 を除 き,債務額を貸借対照表価額 とし,時価評価の対象 としな いことが適当である。
この ような基本的考 え方 に基づ き,有価証券 は,保有 目的に応 じて,(1)
金融商品会計 と公正価値 1 5
売買 日的有価証券,
( 2 )
満期保有 目的の債券,( 3 )
子会社株式および関連会社 株式,および( 4)
その他有価証券の4
つに分類 され 以下の ように定義 され, 処理 される [企業会計審議会, 1 9 9 9
,第三 ,二]。(1)売買 日的有価証券 とは,時価の変動 によ り利益 を得 ることを 目的 とし て保有する有価証券であ り,これは時価 をもって貸借対照表価額 とし, 評価差額は当期の損益 として処理す る。
( 2 )
満期保有 目的の債券 とは,満期 まで所有す る意図を もって保有する社 債,その他の債券であ り,これは取得原価を もって貸借対照表価額 とす る。ただ し,債券 を債券金額 よ り低い価額 または高い価額で取得 した場 合 において,取得価額 と債券金額 との差額の性格が金利の調整 と認め ら れ るときは,償却原価法に基づいて算定 された価額 を もって貸借対照表 価額 としなければな らない。( 3 )
子会社株式お よび関連会社株式は,取得原価 をもって貸借対照表価額 とする。( 4 )その他有価証券 とは,売買 日的有価証券,満期保有 目的の債券,子会
社株式お よび関連会社株式以外の有価証券であ り, これは時価 をもって 貸借対照表価額 とし,評価差額 は洗い替 え方式 に基づ き,次のいずれか の方法 により処理する。① 評価差額の合計額を資本の部 に計上する。
② 時価が取得原価を上回る銘柄 に係 る評価差額は資本の部 に計上 し, 時価が取得原価 を下回る銘柄 に係 る評価差額は当期の損失 として処理 する。なお,前者の方法を全部資本直入法 といい,後者の方法を部分 資本直入法 とい う。
また,デ リバティブ取引により生 じる正味の債権お よび債務は,時価 を も って貸借対照表価額 とし,評価差額は,原則 として当期の損益 として処理す る [企業会計審議会
, 1 9 9 9
,第三 ,四]。いま,以上の ことを‑表 にま とめる と,表 4の ようになる.
表4 有価証券 およびデ リバテ ィブの会計処理 (企業会計審議会)
種 類 評 価 基 準 評価差額 の処理
売買 日的有価証券 時価 当期 の損益
満期保有 目的の債券 取得原価 または償却原価法 子会社株式 .関連会社株式 取得原価
その他有価証券 時価 ・評価差額 の合計額 を資本直入・銘柄 ご とに評価益 を資本直入 し,・洗 い替 え方式評価損 を当期 の損失 として計上
企業会計審議会は, これ らの会計処理 を以下の ように理 由づけている。ま ず,売買 日的有価証券については,投資者 に とっての有用な情報 および企業 に とっての財務活動の成果は,有価証券の期末時点での時価 に求め られると 考 え られ る。 したがって,時価 をもって貸借対照表価額 とすることとした。
また,売買 日的有価証券は,売却することについて事業遂行上等の制約がな い もの と認め られることか ら,その評価差額は当期の損益 として処理すると
している。
満期保有 目的の債券については,時価が算定で きるものであって も,満期 まで保有す ることによる約定利息および元本の受取 りを 目的 としてお り,満 期 までの間の金利変動 による価格変動の リス クを認 め る必要 がない ことか ら,原則 として,償却原価法に基づいて算定 された価額をもって貸借対照表 価額 とす る としている。
子会社株式および関連会社株式 に関 して,まず子会社株式 については,辛 業投資 と同 じく時価の変動を財務活動の成果 とは捉 えない とい う考 え方に基 づ き,取得原価 を もって貸借対照表価額 とす るこ ととした。 また,関連会
金融商品会計 と公正価値 1 7
社株式 については,他企業への影響力の行使 を 目的 として保有す る株式であ ることか ら,子会社株式の場合 と同 じく事実上の事業投資 と同様の会計処理 を行 うことが適当であ り,取得原価 をもって貸借対照表価額 とす る としてい る。
その他有価証券は,業務上の関係 を有する企業の株式等か ら市場動 向によ っては売却 を想定 している有価証券 まで多様な性格 を有 してお り,一義的に その属性を定めることは困難 と考 え られ る。 この ようなその他有価証券 につ いては,個 々の保有 目的に応 じてその性格づけをさらに細分化 してそれぞれ の会計処理 を定める方法 も考 え られ る。 しかしなが ら,その多様 な性格 にか んがみ,保有 目的等を識別 ・細分化する客観的な基準を設けるこ とが困難で あるとともに,保有 目的等 自体 も多義的であ り,かつ変遷 してい く面がある こと等か ら,売買 日的有価証券 と子会社株式および関連会社株式 との中間的 な性格を有す るもの として一括 して捉 えることが適 当である。
公正価値 の一括処理方法 として,企業会計審議会は,前述の評価基準 に関 する基本的考 え方 に基づ き,時価を もって貸借対照表価額 とすることとした。
そ して,その場合の評価差額の取扱 いに関 して,基本的に次の ように考 えて いる。すなわち,その他有価証券の時価の変動は投資者 に とって有用な投資 情報であるが,その他有価証券 については,事業遂行上等の必要性か ら直ち に売買 ・換金を行 うこ とには制約を伴 う要素 もあ り,評価差額を直ちに当期 の損益 として処理することは適切ではない。
また,国際的な動 向を見て も,その他有価証券 に類するものの評価差額 に ついては,当期の損益 として処理す ることな く,資本の部 に直接計上する方 法や包括利益を通 じて資本の部 に計上す る方法が採用 されている。 これ らの 点を考慮 して,原則 として,その他有価証券の評価差額を当期の損益 として 処理す ることな く,資本の部 において他の剰余金 と区分 して記載 する方法を 採用 した。
しか し, この考 え方 に基づ くと,その他有価証券の うち時価評価 を行 った
ものの評価差額は,当期の損益 として処理 されない ことになる。他方,企業 会計上,保守主義の観点か ら,これまで低価法 に基づ く銘柄別の評価差額わ 損益計算書への計上が認め られて きた。 この ような考 え方を考慮 し,時価が 取得原価 を上回る銘柄の評価差額は資本の部 に計上 し,時価が取得原価を下 回る評価差額は損益計算書に計上す る方法 によることもできることとしたの である。
デ リバ テ ィブ取引は,取引により生 じる正味の債権または債務の時価の変 動 によ り,保有者が利益を得,または損失をこうむるものであ り,投資者お
よび企業双方 に とって意義を有する価値 は当該正味の債権 または債務の時価 に求め られると考 え られる。 したが って,デ リバテ ィブ取引によ り生 じる正 味の債権 および債務 については,時価 をもって貸借対照表価額 とすることと
した。また,デ リバテ ィブ取引によ り生 じる正味の債権および債務の時価の 変動は,企業 に とって財務活動の成果である と考 え られることか ら,その評 価差額は当期の損益 として処理する としている。
最後 に,企業会計審議会の金融商品会計 において,重要な評価基準である 時価 について見てい くことにしよう
。
そこでは,時価 とは公正な評価額をい い,市場 において形成 されている取得原価,気配または指数その他の相場で ある市場価格 に基づ く価額をいうとされている。そ して,市場価格がない場 合には,合理的に算定 された価額 を公正な評価額 とするとしている [企業会 計審議会, 1 9 9 9
,第一 ,二]。企業会計審議会は時価 に関 して これ以上言明して いないが, これは,F AS B
およびI AS
Cにおける公正価値 と同じ概念であると解 され る。
Ⅲ
JwGの金融商品会計前節 において
,FAS B,I AS
Cおよび企業会計審議会における金融商品会計 基準を見て きた。そ こにおいて明 らかなように, これ らの会計基準では,金 融商品, とりわけ有価証券の保有 目的 によって評価基準が異な り,評価差額金融商品会計 と公正価値
1 L L l
の処理が異なっている。すなわち,現行 における各国の金融商品会計基準は 統一的な評価基準に則 ってお らず,統一的な会計処理 を行 っていない。評価 基準 として公正価値 (時価)または原価が採用 され,評価差額の処理 として 当期の損益 として計上する場合 と,その他の包括利益または資本の部 に直接 計上す る場合があ り,これ らはいわば混合的な会計処理である。
三の ような会計処理では,金融商品の保有 目的 によって会計処理が異なる ので,悪意性が介入する可能性があ り,また,そ こにおける利益概念が統一 的に説 明で きない恐れがある。かかる金融商品会計の問題を解決するために, 最近 ,ジ ョイン ト ・ワーキング ・グループ (JWG)において,統一的な金 融商品会計を 目指 した公開草案が提唱された。本公開草案は,金融商品会計 の最 も進んだ形態であ り,理念型 ともい うべ きものであるので,金融商品会 計の本質を理解するために,それが どうい うものであるのかを,本節で考察 することにしよう。
1
金融商品の測定JWGは,金融商品 とは,次の うちいずれかをい うと定義 している [JWG,
2 0 0 0 , pa r. 7 ] 。
(1)現金
( 2 )
持分金融商品 (すべての負債 を控除 した後 の企業の資産 に対する残余 持分を表す金融商品)( 3 )
一方の当事者が他方の当事者へ金融商品を引 き渡す契約上の義務,お よびそれに対応す る他方の当事者が義務 か らの解放以外の対価な しに当 該金融商品を受け取 る契約上の権利( 4 )
一方の当事者が他方の当事者 と金融商品を交換する契約上の義務,お よび他方の当事者が一方の当事者 と金融商品の交換を要求す る契約上の 権利JWGによれば,企業は,かかる金融商品を当初認識時に公正価値 で測定
し,それ以降 の各測定 日において も公正価値 で測定 しなければ な らない [
J WG, 2 0 0 0, pa r. 6 9
]。すなわち,金融商品はすべて公正価値で測定 しなけ ればな らず,FASB
やI AS
Cにおけるように,取得原価や償却原価で測定 し てほな らないのである。そ してその場合,公正価値 とは,企業が,通常の営業上の考慮 を動機 とし て行われ る独立第三者問取引で,測定 日において資産 を売却 した とすれば受 け取 ったであろう価格,または負債 か ら解放 された とすれば支払 ったであろ
う価格の見積額である と定義 される [
J WG, 2 0 0 0, pa r. 7 0
]。したがって,金融商品の公正価値 は売却時価
( ma r ke te xi tpr i c e )
の見積 額であ り,それは,取引によ り最大の便益または最小の犠牲 を達成 しようと する目的を有する独立の企業間の相互作用で決定 されるものであ る。すなわ ち,公正価値は,無関係の市場参加者が,測定 日における市場状況の もとで,日常の取 引において支払 うかまたは受け取 るであ ろ う価格 であ る [
J WG
,2 0 0 0, pa r. 7
1]。FASB
お よびI AS
Cにおける公正価値概念には,売却時価の はかに購入時価 も含 まれていたのに対 して,JWGの公正価値概念 は売却時 価のみであることに注意する必要がある。JWGが公正価値の適切な評価基準 として売却時価 を採用 した理 由は,吹 の ようである。すなわち,資産 はそれか ら流入する と期待 される経済的便益 の観点か ら定義 されてお り,金融資産の売却時価は公正価値の定義 と整合 し ている。それは,当該 日において当該資産か ら企業 に流入する と期待される 便益の価値 に対する市場の見積 りだか らである。 同様 に,負債は将来におい て企業の資源の流 出を求め られ る と予想 される現在の義務 として定義されて いる。金融負債の売却時価は,企業が当該負債 か ら解放 され るために犠牲 に しなければな らない将 来 の資源 の現在価値 に対 す る市場 の見積 りであ る
[
J WG, 2 0 0 0, pa r. 4. 2 ] 。
かかる公正価値 は以下の ように具体的に測定 される。まず,下記の リス ト における売却時価の情報 が入手可能な場合には,企業は金融商品の公正価値
金融商品会計 と公正価値
i 2 . 1
について当該情報 を基礎 にしなければな らない。下記の リス トにおける複数 の売却時価 に関する情報が入手可能な場合には,企業は リス トの筆頭 に最 も 近い価格情報 を使用 しなければな らない [
J WG, 2 0 0 0 , pa r. 7 7
]。(1)測定 日におけ る同一の金融商品の売却時価
( 2 )
測定 日に十分近 い 日における同一の金融商品の売却時価で,市場価格 の 日付 と測定 日との間の時間の経過 および市況の変化が公正価値 に与 え る影響が実務的に見積 もることがで きるもの( 3)測定 日における類似 した金融商品の売却時価
( 4)測定 日に十分近い 日における類似 した金融商品の売却時価 で,市場価
格の 日付 と測定 日との間の時間の経過 および市況の変化が公正価値 に与 える影響が実務的 に見積 もることがで きるもの同一 または類似商品の観察可能な売却時価を利用 して公正価値 を見積 もる ことがで きない場合 には,企業は,市場参加者が価格決定の際に考慮す るで あろう要因を織 り込んだ評価技法を用いて公正価値 を見積 もらなければな ら ない [
J WG, 2 0 0 0 , pa r . 1 0 4 ] 。
評価技法 を利用 して公正価値で金融商品を測定する 目的は,当該商品の売 却時価 を見積 もることである。金融資産を測定す る技法は,測定 日において 存在 した市況の もとで価格が付け られた秩序ある取引において企業が金融資 産を売却 していれば,受け取 っていたであろう金額を見積 もる。金融負債 を 測定する技法は,当該企業の金融負債を引 き受けて もらうために,信用格付 けが同一である第三者 に当該企業が支払 ったであろう金額,または通常の事 業上の考慮 を動機 として行われた独立第三者間の交換 において企業 自身の負 債 を買い戻すために当該企業が支払 っていたであろう金額を見積 もる。
測定 される商品の価格決定 について市場参加者 が一般 に利用 していて,売 却時価の信頼性ある見積 りを提供す ると実証 されている評価技法がある場合 には,企業はその技法を利用 しなければな らない。市場参加者 が価格決定の ために一般 に利用す る技法が存在 しない場合には,企業は独 自の技法を開発
しなければな らない。すべての評価技法は,測定 されている種類の金融商品 の算定価格 について広 く認め られた経済的方法論 と整合 していなければな ら ず,また実際の取引 か らの価格 を用 いて妥 当性 が検証 されなければな らな い。
その場合,現在価値概念は,金融商品の公正価値 を見積 もるための技法開 発の中心、となっている。金融商品の売却時価 は,予想キ ャッシ ュ ・フローの 現在価値 に対する市場参加者の集団的な見積 りを表 す ものだか らである。そ の見積 りは,将来キ ャッシ ュ ・フローの金額,時期 および不確実性,な らび に市場参加者が不確実性を負担することに対 して請求で きる金額 を反映 して いる。
公正価値 を見積 もるための現在価値法は,一組の将来キ ャッシ ュ ・フロー, それ らのキ ャッシ ュ ・フローの金額 または時期の考 え られる各種の可能性に 関する予想を,予想キ ャッシ ュ ・フローか割引率のいずれかまたは両者の何 らかの組 合せの中に組み込まなければな らない。割引率を決定する際には, 企業は,い くつかの仮定の影響が二重 に計算 された り無視 した りすることを 防 ぐため,予想キ ャッシ ュ ・フローの見積 りに利用 した仮定 と首尾一貫 した 仮定を利用 しなければな らない
3)
0J WG
は,金融商品を公正価値 で測定することは,多 くの重要 な概念上の 利点があ る と考 えている。 これ らの うち,以下の ものが特 に重要であるとする
[ J WG, 2 0 0 0, p a r. 1 . 8 ]
。(1)公正価値 は,現在の経済情勢が金融商品に及 ぼす影響に関する市場の 評価 を反映するものであ り,公正価値の変動は,それ らの経済情勢の変 化が起 きた時にその変化を反映す る。 これは,競争的で開放的な市場経 済で決定 された金融商品の公正価値 は,測定 日までに入手可能であった すべての情報 を具体化 しているという期待か ら導かれるものである。
( 2 )その結果 として,公正価値 は予測に関 して他の測定値 よりも良好な基
礎 を提供する。金融商品の公正価値 は,予想キ ャッシ ュ ・フローを同等金融商品会計 と公正価値
コ 3
の リスクに対す る現在の市場収益率で割 り引いた現在価値 を表す。 した がって,公正価値 は,金融商品の公正価値 がその市場金利 で当該期間に わたって上昇す るであろうとい う市場の予測 を具体化 した ものである。
その結果,投資者 が金融商品の公正価値 を知 り,その重要 な条件 および リスクに関する情報 をもっていれば,その投資者は市場の予測を評価す るための基本的な情報 を もっていることにな る。投資者は,そのあ と, 自らの修正を加 えて市場の予測 とは異なるか もしれない予測を行 う0
( 3)
公正価値は市場 を基礎 とした概念なので,次の ことに影響 を受けない。① 資産 または負債の取引履歴
② 資産 を保有 し,または負債 を負 っている特定の企業
③ 将来 における資産 または負債の利用
したがって,公正価値 は,各期間を通 じて同一企業内お よび企業間で 首尾一貫 した偏 りのない測定値 を表 す。公正価値 は予想将来キ ャッシ ュ ・フローの現在価値の現時点での測定値 なので,金融商品の公正価値 は測定 日がいつであって も比較可能で加算可能である。
( 4 )公正価値は,資産の取得 ・売却 または負債の発生 ・決済 についての意
思決定 に加 えて,資産 を保有 し続けた り,負債 を負い続けた りする という経営者の意思決定の影響を反映する。
( 5)
すべての金融商品を公正価値 で報告することは,金融商品に関する現 行の原価 と公正価値の混合会計の変則性を軽減することになる。2
公正価値の変動この ような理 由で,JWGはすべての金融商品を公正価値 で測定す るので あるが,さ らに,JWGによれば,金融商品の公正価値 の変動 は,すべて発 生 した期間の損益 として認識 しなければな らない。これを理 由づけるために, JWGは公正価値利益の有用性の評価 に関する観点 を次の ように4つ挙げてい
る。
(1)公正価値 による利益の経済的な属性
( 2 )
利益の原因事象が発生 した期間に利益を認識することの因果関係( 3)将来 における企業の現金生成能力の予測
( 4 )
委託 された資源 に対する経営者の受託責任お よび説 明責任そ して, これ らの観点に基づいて
,J WG
は金融商品の公正価値 の変動 を すべて当期の損益 として認識することの妥当性を以下の ように説 明している[
J WG, 2 0 0 0 , pa r s. 6. 3 ‑ 6. 1 3 ] 。
(1)公正価値 による利益の経済的な属性に関 して,元来,利益の経済上の 概念は,企業資本の維持を基礎 としている。具体的には,利益は 「企業 が資本を維持 しなが ら所有者 に分配で きる金額で,持分所有者による出 資お よび引出を調整 した後の もの」として定義 される。会計の概念フレー ムワークは,これが利益決定の 目的でなければな らないことを一般に認 めている。
資本市場の観点か らは,金融商品の公正価値の増加は,現時点の企業 の収益率を稼得す るために金融資産 に投資 されている資本の価値を維持 しなが ら所有者 に分配で きる金額 を表 している とい う重要な意味で,刺 益である といえる。いいかえれば,公正価値ベースにおいて資本は,棉 応す るリスクが調整 された現時点で入手可能な市場資本利子率で割 り引 かれた資産 か ら生 じる と市場が予測する将来キ ャッシ ュ ・フローの現在 価値 によって保持 される。
( 2 )
利益発生の因果関係に関 して,取得原価ではな く公正価値 をベース と して利益を認識す ることの実際上 の結果は,事象が発生 した時に当該事 象が公正価値 に与 える影響が反映 されるということである。経済状況の 変化 を,それがたまたま実現 した時ではな く,発生 した時に損益計算書 への影響を認識す ることによ り,経済的原因 (例 えば,市場金利の変動) および損益計算書への影響を分析することが可能 になる。( 3 )将来 における現金生成能力の予測 に関 して,財務会計情報 の基本的な
金融商品会計 と公正価値
2 5
目的は,企業の将来における利益獲得能力お よびキャッシ ュ ・フロー生 成能力の評価に役立つことである。前述 した ように,金融商品の公正価 値は,予想キ ャッシ ュ ・フローを同等の リスクに対する現在の市場収益 率で割 り引いた現在価値を表す。 したがって,公正価値および公正価値 の変動 を知 るとい うことは,市場の予測を評価するための基本的な情報 を もつことにな り,将来における現金生成能力の予測を可能 にすること になる。
( 4)
経営者の受託責任および説明責任 に関 して,損益を発生時に利益 とし て認識することは,経営者の業績の説明責任 と評価を容易にする。 こう した損益を,後で実現させた別の経営者に帰属 させるのではな く,発生 時の経営者に帰属 させるか らである。公正価値 による利益は,金融資産 および金融負債を保有 し引 き受けるという意思決定の損益計算書への影 響 について,経営者に責任をもたせることになる。Ⅳ 公 正 価 値
これまで,
FASB,I AS
C,企業会計審議会およびJ WG
の金融商品会計基 準を考察 し,それ らの会計基準において,公正価値が非常に重要な評価基準 であることが明 らか となった。すなわち,前三者 においては,売買 目的で保 有す る金融商品および売却可能な金融商品は公正価値で測定 されJ WG
にいたってはすべての金融商品が公正価値で評価 される。
この ように,公正価値は非常に重要な概念であるが,これまでの各金融商 品会計基準の考察において明らかな ように,公正価値概念は売却時価,購入 時価お よび現在価値を含んだ複合概念であ り,公正価値の一般概念は必ず し も明 らかではない。 さ らに, これ らの会計基準 だけを見てみ る と,
FASB
およびI AS
C とJ WG
との間で,公正価値概念が微妙に異なっている。前二 者は公正価値概念に購入時価を含んでいるのに対 し,後者はそれを含んでい ないか らである。この ような状況の中で,公正価値を一般的にどの ように解すべ きであ り, 公正価値の本質は何かを解明することが,金融商品会計に とって重要な問題 であると思われる。それ と同時に,かかる本質および概念を有す る公正価値 が会計情報 として有用であるか,および公正価値の変動が どのような会計的 特質 と機能を有 しているのかを改めて考察する必要がある。 これ らの問題を 解明することが,本節の課題である。
1
公正価値概念スミス ‑パールによれば,公正価値 には2つの定義がある。第1の定義では, 公正価値は資産の交換 という概念を具体化 したものであ り,資産の交換条件 を表 した ものである。 したがって,それ らの条件が変われば,公正価値 も変 わることになる。公正価値は,次の状況の もとで資産が取引されるときの価 額である
[ Smi t ha ndPa r r ,2 0 0 0 ,pp . 1 5 5 ‑ 1 5 6
]。(1)取引の当事者は,貨幣で資産を交換する目的で集まる (評価は貨幣に よって行われる)0
( 2)
取引は,購入 したい と考 える者 と販売 したい と考 える者 との間でなさ れ,両者は交換する意思をもっている。( 3 )取引は強制 されるものではない。両者 とも,相手 もしくは状況によっ
て取引を強制 されるものではない。
( 4)
両者 とも関連する事実についてすべて熟知 している。両者 とも,取引 されるものの内容,資産の状態,歴史,可能な利用方法,負債などにつ いて十分な知識を有 している。( 5 )
両者は平等であ り,取引は両者に とって公平 に行われる。公正価値の第 2の定義は,公正価値は,保有することによって将来得 るこ とのできる経済的便益の現在価値 に等 しい というものである。 これは,近年 公正価値概念に とって きわめて重要な もの となってお り,実際の評価の過程 でも,有用な指針 となっている。