ベ トナムの高成長 ・貧困削減は持続可能か
木 原 隆 司
Abstract
SincetheadoptionofDo主‑moi(renovation)policyin1986,Vietnam hasexperiencedrapideconomicgrowth,thatwasmorethan7% per yearin1990S,andhasreduceditspovertyheadcountbyhalf.Backed bythesefavorabledevelopments,hugeamountsoffundsintheformsof foreigndirectinvestmentanddevelopmentassistancehaveflowninto Vietnam.Currently,morethan20donorcountriesareplayinginthe fieldsofthiscountry.
Vietnameseprosperouspathtowardfurtherreform andeconomic growthlooksfirm atthefirstglance.However,thereisaskepticism in which,withoutfurtheradvancedreform effort,thegrowthrateofthis countrywouldceasetoreduce.IstheVietnamesehighgrowthwith povertyreductionsustainable? Whatconditionsandpoliciesare requiredforVietnamesegrowthtocontinue?
BasedonthediscussionofDavidDollarofWorldBankInstituteand otherresearchers,aswellasthecontemporaryreform effortofViet‑ nam,thispaperwillelaboratetllepossibilityofVietnamesecontinued growthandpovertyalleviation.Section2Outlinesthedevelopmentof Vietnameseeconomyandsociety,particularlyin 1990S,andshowsthe developmentwas pr山 o‑poor"one.Thefollowingsectionsidentifythe
determinantsoftheeconomicgrowthingeneral,andinVietnam,ap‑
plyingrecentgrowthanalysesandrelevantdata.Dollarassertsthatthe highgrowthofVietnam in1990scouldbealmostentirelyexplainedby thè̀reforms"whichthecountryendeavored.Accordingtothè̀condi‑ tionalconvergence''therecentgrowththeoryadvocates,Dollar
predictsthatVietnamesegrowthratewoulddeclineiftherewouldnot beanaccelerationofthereform efforts.Thispapercontinuestoexa‑
minetheroomsforVietnamesefurtherreform,comparlngWiththesitu‑
ationofotheremergingmarkets.Itfurtherindicatesthat,togetherwith theVietnamesePRSP,i.e."CPRGS",theinternationaltradeagree‑ ments,inwhichVietnam hasengagedorisabouttoengage,Would fosterthecontinuedreformeffortsintheareasofinfrastmctures,gover‑ nance,SOEandStateOwnedCommercialBanks.Thesereformswould upgradethelevelofincometoconverge,thuscouldcontributetosus‑ tainedeconomicgrowthofVietnam.
Inthesupplementarysection,asimpleexaminationwasmadetosee thatthe "conditionalconvergence"StillholdsevenifVietnamisclassト fiedin "Globalizer''Countries.
Keywords:Vietnam,GrowthandPovertyReduction,Conditional Convergence
目 次
1.はじめに
2.ベ トナムの開発の現状
3.途上国の成長 ・貧困削減要田 (1)長期成長の分析モデル (2)成長分析の主要な結論 (3)「条件付 き収赦」の存在 (4)成長 ・貿易 と所得分配の関係 4.90年代ベ トナムの改革経験
(1)高 インフレか らの安定 (2)金融セクター改革 (3)貿易 ・投資の 自由化
(4)所有権の強化 (5)成長回帰の結果
(6)所得分配 と貧困への影響
5.制度改革の余地 一他の新興市場国 との比較 (1)所有権 ・ガバナンス
(2)生産要素市場 (3)開放度
6.ベ トナムの貿易改革の行方 一国際貿易協定の インパ ク ト (1)貿易改革 と他の構造改革 との調整
(2)WTOへの早期加盟
7.結び ‑ベ トナムの高成長は持続するか (補論)「条件付 き収赦」の検証
主要参考文献
1.はじめに
ベ トナムは,1986年 の ドイモ イ (「刷新」)政策採択以降,特 に90年代 に年 率 7%以上 の急速な成長 を遂げ,貧 困層 も半減 させた。 この ような改革,成 長 を背景に,多額の直接投資や開発援助資金がベ トナムに流入 し,また,ベ
トナムを支援する ドナー国 も急増 している。
ベ トナムの改革 ・成長路線は磐石の ように見 えるが,一方で,更なる改革 の進展 が無 ければ,ベ トナムの成長 は減退 してい くとの論調 も見 られ る。ベ トナムの高成長 ・貧困削減は今後 も継続す るのか。継続す る とすれば, どの ような条件 や政策が必要 か。
本稿 では ,世界銀行研究所 のDavidDollarに よるベ トナムの成長 ・貧 困 削減 に関す る分析1)をベース として,ベ トナムの高成長 ・貧困削減の持続可 能性 について,近年 の成長分析,ベ トナムの改革努力を踏 まえなが ら検討す
1)Dollar氏 には,本分析 に関する資料 ・図表を別途提供 して頂いた。改めて感謝の意を 表 したい。
ることとしたい。 まず,第2節で,ベ トナム経済 ・開発の歩みを概観 し,90 年代のベ トナムの成長が社会指標の大幅な改善を伴 うものであったことを確 認する。第3節では,Dollar(2002)に則 り,近年の成長分析か ら経済成長 に 強い関連 を もつ要因を特定する。第4節では第 3節で特定 した成長要因につ いて,近年のベ トナムの実態が どの ような ものであ ったかをDollar(2002)の 他,最近 の世界銀行 (以下 「世銀」 と呼ぶ)の資料等 によ り検証する。Doh 1ar(2002)によれば,ベ トナムの高成長は90年代の 「改革」ではば全てが説
明で き, これ以上の改革が無ければ,成長理論 に言 う 「条件付 き収赦」が作 用 し,成長率が低下 してい くことになる。そこで第5節では,他の新興市場 国 と比較 して,ベ トナムの更なる改革の余地を検討す る。第6節では,改革 を促進 させ る国際貿易協定のインパ ク トについて述べ,第7節で,ベ トナム の高成長 を持続 させ るための制度改革の必要性 について総括する。
なお,補論 にお いて,ベ トナム を対外貿易等 に開放政策 を採 って きた
「Globalizer」国に分類 し,簡単な回帰分析 によ り,「Globalizer」40ヵ国の 間で 「条件付 き収赦」が見 られることを検証 した。
2.ベ トナムの開発の現状
まず,近年のベ トナム経済 ・開発の歩みを,Fritzen(2002),世銀の国別 援助戦略 (WorldBank(2002C))(以下 「世銀CA S」と呼ぶ)に基づ き概 観 したい。
ベ トナムは, ここ10年,平均7.6%の経済成長 を達成するな ど,中国 とと もに高成長 を享受 している国である2)0 90年代 に経済規模 を倍 に し,それ と ともに,貧困人 口比率 を70%か ら35%に半減 させた3)「貧困削減促進的」
2)Fritzen (2002),p.1 3)世銀(2002C)p.1
(pro‑poor)成長 を遂げている。 この間,貯蓄率は6倍 に増 えGDPの約25
%にまで達 してお り,輸 出も毎年平均25%の増加 を示 した (図 1参照)0 Fritzen(2002)によれば,1975年のベ トナム統一後,北側は トップ ・ヘ ビー の中央計画経済を推 し進め ようとし,南側の農業 を集団化 しようとしたが, 激 しい抵抗 に会い失敗 に終わった とされる。中央計画経済の間,民間取引は 禁止 され,サービス部 門は非生産的な もの と見なされた。銀行部門は政治的 に決定 された投資を受動的に行 うだけの存在であ り,資金不足 に直面 してい た。その結果,70年代 を通 じ,成長率はマイナスになっていた。
79年頃か ら改革が叫ばれ 81年 には,農業 に経営請負制 を導入 し,国有企 業 に自発的商業化 を認める とい う改革が行われた。86年 か らのいわゆる 「ド
イモ イ政策」を受け,87年か ら 「ビ ッグ ・バン」ともいえる抜本的な改革が 始 まった。改革の三本柱は,①大規模な非集団化,②金融 ・価格改革,③貿 易 ・直接投資の 自由化 である とされ る4)。その結果,経済 ・対外関係の安定
と相まって,ベ トナムは90年代に急速な成長 を遂げることとなった。
図 1 ベ トナムの GDP・輸出額 (左 目盛)・貯蓄率 (右 目盛)の推移
億300 250 200 150 100 50
0
ぜ 耳 ♂ ♂ ♂ ♂ ぜ 耳 ♂ ず .cQ
年
(資料)WorldDevelopmentlndicators2002(WorldBank)
4)Fritzen(2002)p.4
%05050322115
0
とはいえ,ベ トナムは未だ貧困国である。世銀によれば,購買力平価で図 った一人当た り国民総所得は,2000年で,全世界207カ国中157位であるとい う。他方,同様の貧困国に比べれば,「社会指標」は良好である。但 し,経 済 ・社会指標に 「地域差」がある。
ベ トナムの 「人間開発指数」(HID)を見 ると,一人当た りGDPの増大等 を受けて,85年以降着実に上昇 し,85年の0.58から99年には0.68にまで上昇 している。85年 か ら99年の間に,平均余命 (67年か ら74年へ),幼児死亡率 (1000人の出生中,49人か ら33人へ),識字率 (85%か ら90%へ) といった 社会指標 も一様 に改善 している (図 2参照)。また,貧困削減 も急速で,政 府統計局 (世銀が支援)による 「ベ トナム生活水準調査 (VNLSS)」が 行われた93年 と98年 とを比較すると,貧困人 口比率は58%から37%へ5年間 で21%ポイン トも低下 している。
しかし,社会経済的 ・地域的な格差は拡大 してお り,98年には北部高原, メコン ・デルタ,北部沿岸地方にベ トナムの貧困層の67%以上が集中してい た (93年 には55%)。所得 ・消費の 「不平等度」は国際的に見れば低いもの の,近年,不平等度が拡大 して きているとの見方 もある。ジニ係数を見ると, VNLSSでは,93年の33か ら98年 に35.4に増えたに過 ぎないが,UNDP による 「国別人間開発報告」では95年の35.6から2000年には40.7までに増大
している。ちなみに,これは中国 と同等の不平等度であるという5)0
ベ トナムは,2001年 3月の第9回党大会で,2001年から2010年 をカバーす る 「10ヵ年社会経済開発戦略」を承認 した。 これは,「社会主義市場経済」
へ向けての移行過程を明らかにした もので,今後 とも経済を開放 し,国有 ・ 民間企業のLevelPlayingFieldを創 出してい く旨,約束 している。また, 移行過程は "pro‑poor''であるべきことを強調 し,地方や遅れた地域への投 資の集中,改革の漸進的実施,貧困削減,社会公平,ガバナンスの改善を詣
5)Fritzen (2002)P.7 中国のGINI係数 は98年 で40.3と報告 されている。
図2 ベ トナムの一人当た り所得 (左 目盛)・平均余命 ・非識字率 (右 目盛)の推移
0000000087654321
(**#篤)%・(偉鶴野計)廿 qr.100000000050500221150
‑ 』出生時平均余命 (辛) 国師 非衰鼓字率(%)
「手≡丁 ‑人当たりGNⅠ(購買 力平価 )
‑ヰト ー人当たりGDP(95年
ぜ♂♂♂♂ぜ夢. v Q
年
(資料)WorldDevelopmentIndicators2002(WorldBank)
っている。
この 「10ヵ年社会経済開発戦略」は,ベ トナムのPRSP (貧困削減戦略 ペーパー)である 「包括的貧困削減成長戦略 (CPRGS)」 (2002年5月中 間CG会合 (支援国会合)に提出) に反映されている。CPRGSは,①市 場経済 への移行 を通 じた高い成長 (そのためには構造改革の実施が必要),
②公平で,参加型の持続的成長パ ターン (そのためには適切な分野別 ・社会 的政策の実施が必要),③近代的な行政 ・法制 ・ガバナンスのシステムの採 用 (これによ り,前記の二つの 目標達成が容易になる)を,貧困削減のため の三大 目標 とし,ベ トナム独特の 「ミレニアム開発 目標」を設定 して, 目標 達成 に向けてモニター し評価する指標 を作成 している (表 1参照)0
表 l CPRGにおけるベ トナム開発目標 ミレニアム開発 目標に基づ くベ トナム開発 目標
目標 1 貧困 .飢餓家計の割合の削減
ターゲ ット1
ターゲ ット2 2001年から2010年にかけて,国際的な貧困ライン以下の人 々の割合
・を40%削減
ターゲ ッ ト1 初等教育 の純就学率を2005年 に97%,2010年 に99%まで増加 ターゲ ッ ト2 中学校への純就学率を2qO5年 に80%,2010年 に90%まで増加
ターゲ ッ ト3 ターゲ ッ ト4
ターゲ ッ ト5 2005年 までに初等 .‑中等教育の男女差 を解消 し,2010年 までに少数 民族の差 を解消
2005年 までに40歳未満の女性の識字率を95%にまで増加 させ,2010 年 までに100%にする
2010年 までに教育の質を改善 し,初等教育の終 日化 を増大させる (具体的 ターゲ ッ トは資金の利用可能性 による)
目標3 男女平等 と女性のエンパ ワー メン トの確保 ターゲ ッ ト1 全ての レベルの議会での女性議員数の増加
ターゲ ッ ト2
ターゲ ッ ト3 政府機関や産業 (省庁,企業を含む)における女性参加 を10年間で 3‑5%増加
2005年 までに土地利用証書 に夫婦双方の名前が記 され ることを確保 ターゲ ッ ト4 家庭 内暴 力に対する女性の脆弱性 を削減
目標4 幼児の死亡率,栄養失調の削減及び出生率の低下
ターゲ ッ ト1 ターゲ ッ ト2
ターゲ ッ ト3 乳児死亡率を2005年 までに30/1000に,2010年 までに25/1000に削 減す る とともに,後発地域での更に急速 な改善
5歳以下 の死亡率を2005年 までに36/1000に,2010年 までに32/ 1000に削減
5歳以下 の栄養失調 を2005年 までに25%に;2010年 まで に20%に削 減
目標5 出産 医療 の改善
ターゲ ッ ト1 出産死亡率 を2005年 までに80/100000に,2010年 までに70/100000 に削減 (後発地域 に特 に配慮)
目標6 HⅠⅤ/AⅠDs感染その他主要な疾病の削減
ターゲ ッ ト1 HⅠⅤ/AⅠDs感染の増加率を2005年 までに低減 させ,2010年までに増 加率 を半減 させ る
目標 7 持続可能 な環境の確保
ターゲ ッ ト1 森林面積 を (99年の33%から)2010年 までに43%に拡大
ターゲ ッ ト2
ターゲ ッ ト3 2005年 までに都市人 口の60%,2010年 までに85%が清潔 で安全な水 にア クセスで きることを確保o(2005年 までに80%にすべ き) 2010年 までに全ての都市 でスラムや一時的家屋 を廃絶
ターゲ ッ ト4 2010年 までに全ての都市の排水を処理
ターゲ ッ ト5 2010年 までに全ての都市の廃棄物 を回収 し安全 に処理
ミレニアム開発 目標には直接基づかないベ トナム開発 目標 目標8 脆弱性の削減
ターゲ ット1
ターゲ ット2 最 も低 い支出区分の人 々の平均所得を2000年比140%,2010年 まで に190%に増加 させ る
自然災害等の リスクによ り貧困に逆戻 りする貧 しい人 々の率を2010
年 までに半減
目標9 貧困削減のためのガバナンス向上 ターゲ ット1 「草の根民主化令」の効果的実施 ターゲ ット2 予算の透 明性確保
ターゲ ット3 法制度改革の実施 目標10 民族間の不平等削減
ターゲ ット1 各民族の言語の読み書 き能力を保持 し,開発
ターゲ ット2 少数民族 .山岳民族の個人的,集団的土地使用権の確保 ターゲ ット3 政府の各 レベルで少数民族職員比率を増加
目標11. 貧困層 向けインフラ開発の確保
ターゲ ット1
ターゲ ット2 基礎 インフラを2005年 までに貧困地域の80%に,2010年 までに100
% に提供 (出所)WorldBank(2002b)
3.途上国の成長 ・貧困削減要因
世界銀行研究所のDavid Dollarは
,
「ベ トナムにおけ る改革 ,成長及び貧 困」 ("Reform,GrowthandPovertyinVietnam"May2002;以下Dollar(2002)と言 う)の中で,最近の理論 ・実証分析 を基 にベ トナムの成長 ・貧困 削減要因を分析 し, これまでの急成長 は劣悪な経済制度 ・政策の状態での若 干の改革が大 きな効果 を示 しただけであ り,今後 ,更に制度改革 を加速 しな い限 り,ベ トナムの成長率は低減 してい くと論 じている。 この節では,Dol‑ lar(2002)の主張の理論的背景を見てみたい。
(1)長期成長の分析モデル
Dollar(2002)はまず,近年一般 に用 い られ る長期成長q)分析モデル に言及 してい る。従来
,
「標準的」 な クロス ・カン トリー ・ベースの成長モデルは以下の ような 「所得水準」の式を推定 していた。
(1) yet‑βo+β1yc,,‑k+β′2Xci+ヮC+ γt+uct
ここで, yctはC国の t時点の一人当た りGDPの対数 (水準),yc,i‑kは k年 の ラグを付 けた もの, xciは説 明変数 の k年 平均 (i‑kか らt期 まで) であ る。ワC(撹乱項)は計測で きない国別効果で期間を通 じて一定, γt(撹乱項) は各 国共通 の計測 で きない時間効果, uclは各 国 ・各期 間に渡 って変動 す る 撹乱項 (系列相関な し) とす る。
以前の推定 は この ように長期間 に渡 る1国のデー タを用 い,その結果 を各 国間で比較 す る とい うものであ った。 これ に対 し,Caselli,Esquiveland Lefort(1996)は,短期 間のパネル ・デー タで推定 す る方法 として, (1)式の 差分 を取 る(2)式の ような方式を提唱 した。
(2)yct‑yc,i‑k‑βlb′C,i‑k‑yc,i12k)+β′2(xct‑Xc,i‑k)+(rt‑rt‑k)+(uct刊 t‑k)
この式 は,「成長」を,過去の (ラグ付 き)成長 と説 明変数の変化で回帰 した ものであ り,個 々の国別効果 りを含 まない (従 って,多数国 ・短期間の パネル ・データで分析で きる) とい うメ リッ トがあ るため,現在 ,多 くの成 長分析で このアプ ローチが用 い られてい る とい う6)0Dollar(2002)も, この 方式 によ り推定 された成長回帰式 に基づ き,ベ トナムの成長可能性を分析 し ている。
(2)成長分析の主要な結論
では,成長の説 明変数 には どの ような ものがあ るのか。Dollar(2002)は, これまでの成長分析 で,以下の5つの主要 な (頑強な)結論が得 られた とし
6)DollarandKraay(2001b)によれば, この方式は,①地理的な差異に伴 う計測誤差の問 題 を無 くし,②個別 国に特有の 「省略 された変数」 に影響 されず,③ ラグ値 を用いるこ
とによ り因果関係を明確化できる等のメ リットがあるとされる。
ている。
① 「高いインフレ率は成長 に悪 い影響を与 える」 (Fischer(1993))。すなわ ち,ある程度のインフレは政府 に制御できるものではないが,40%以上にも なる高 インフレは明 らかに金融政策の失敗を反映 した もので,マクロ経済政 策の失政を意味 している。
② 「政府支 出 と成長 の間に明確な負の関係がある」 (EasterlyandRobelo (1993))。ある程度の政府支出は生産的に使われ うるが,政府支 出が大 きい 国は公務員の効率の悪 さや汚職の程度の高さを意味する。
③ 「貿易や直接投資 に市場 を開放す ることが,成長を加速する」 (Frankel andRomer(1999),DollarandKraay(2001b))。 これは,最近の成長理論に 則った考え方であ り,市場の広が りが効率的な分業や革新のインセンティブ を与えることを強調するものである。
④「金融市場の発展が,成長を加速する」(Levine,LoayzaandBeck(2000))0 つま り,証券市場や金融システムが発達 しているほど成長が早い。
⑤ 「所有権の強さ,法制度,汚職の程度が,成長 と強い関連がある」(Kauf‑ mann,Kraay,andZoido‑Lobaton(1999);KnackandReefer(1995))。 これ
は,所有権保護が十分でなかった り汚職が多かった りする と,民間企業が, 嫌が らせを受けた り,非効率な規制が布かれていた りといった問題を認識 し て,投資を梼跨することによる。
更に,余 り頑強な結論ではないが,以下の結果 もい くつかの成長分析か ら 得 られている。
⑥ 「電信 ・電力等の インフラの欠如 が低い成長 に関連する」 (Easterlyand Levine(1999))0
この ような従来の成長分析の結果か ら,Dollar(2002)は,経済学者のおお よその合意点 として①民間の所有権保護,②健全な法制度,③マクロ経済の 安定,④過大でな く公共財に集中した政府支出,⑤貿易 ・投資の開放,を 目
指す政策パ ッケージにより,経済成長は促進 されると指摘する7)0 (3) 「条件付き収敵」の存在
他方,近年の成長分析は,「条件付 き収赦」の存在を指摘 している。ジ ョー ンズ (1997)によれば,「条件付 き収赦」 とは,「ある経済が定常状態の 「下 方」にあればあるほど,その経済は速 く成長するが,ある経済が定常状態の
「上方」 にあればあるほど,その経済の成長は遅 くなる」8)一般的傾向を言 う。Dollar(2002)は 「条件付 き収赦」を,「制度 ・政策を一定 に保 ったまま では,成長率は長期的に低減する傾向がある。他方,同様の制度 ・政策を持 つ国であれば,貧困国のほうがより急速に成長 し,より豊かな国に収赦 して い く」 もの と定義 し,この議論を,ベ トナムはこれまで貧困国であったため 急速に成長 したが,今後,制度 ・政策を一層改善 しない限 り,成長率は長期 的に低下 してい くとの結論に結び付けている。
7)perkins.et.al(2001)は,Sala‑Ⅰ‑Martinにより確認 された経済成長に影響する要因 とし て以下の変数を上げている。①所得水準 (「条件付収欽」の議論から,当初の所得水準 と それに続 く成長率には強い負の関係がある),② 出生時平均余命 (出生時平均余命の長さ と成長率には強い正の関係がある。 これは健康改善による生産性の高い労働力,寿命の 長期化 ・果実を受け取 る期間の長期化に伴 う貯蓄 ・投資の増大に関連 している),③教育 水準 (新古典派成長理論 か らも,教育水準の改善は労働の技能改善 ・実効的な労働力の 増大を生み,高い定常状態の所得水準に繋がる),④地理的条件 (感染症,大雨,土壌劣 化等が生産関数 と貯蓄率に影響 し,「熱帯地域」では少数の例外を除 き先進国は無い。運 輸 コス トが高い 「内陸部」 も同様),⑤貯蓄 ・投資 (設備投資 ・非設備投資 とも成長率に 正の影響。貯蓄 (特に政府貯蓄)は成長に強い正の関係),⑥貿易 ・為替政策 (公式為替 レー トの闇 レー トの大 きな差が経済成長 と強い負の関連を持つ。国際貿易に一貫 して開 放的な国は成長率が高い),⑦天然資源既存量 (以前は米 ・豪 ・NZの ように天然資源に 恵まれた国の成長率が高かったが,近年は,ナイジェリア ・アンゴラ ・コンゴ等に見 ら れるように,む しろ負の関係),⑧政治的変数 (法の支配,政治的権利,市民の自由度等 の 「ガバナンス」や 「制度」の質 と成長率 に正の関係がある。反対に,革命,紛争等は 負の関係を持つ。「マクロ経済安定」 といった政治的安定は成長に良い影響を与える) 8)ジ ョーンズ (1997)p.690
ジ ョーンズ(1997)に よれば, この条件付 き収敵 は,ソロー (Sollow)流の 新古典派成長モデルを用 いて説 明で きる。すなわち,新古典派成長理論の生 産関数 と,資本蓄積 に関する基本微分方程式 は,それぞれ以下の ように表 さ れる。
y‑kα生産関数
k/k‑(sky/k)‑(n+g+d)資本蓄積基本微分方程式
ここで,yは (技術水準 (A)・人的資本水準 (h)を含 んだ)労働 力当た り の所得 (Y/(A・h・L)),kは労働 力当た りの物的資本ス トック (K/(A・
h・L)),α (<1)は資本分配率,資本蓄積基本微分方程式 の左辺は kの成 長率,skは物 的資本 への投資率,nは人 口増加率,gはAの成長率 (技術 進歩率),dは資本減耗率であ る。 この体系では,生産関数の特性 か ら,yは kと比例的 に成長す る。 また,資本 の平均生産性y/kは kの (α‑1)乗 に 等 し く,収穫逓減の法則 によ り資本 ス トックの増大 とともに平均生産性は低 下する。
資本蓄積 (成長)微分方程式 は,以下の図で表 す ことがで きる。
図3 成長率の 「条件付 き収赦」
率
上記の図3で,両 曲線は資本蓄積基本微分方程式の右辺の第 1項,第 2項
を表 し,両曲線の差が kの成長率 (従 ってyの成長率)を表す。両者が等 し い (k*) とき資本蓄積 (k),労働力あた り所得 レ)が技術水準 (A)の成 長率gで成長する 「定常状態」になる。
kHま定常状態に比べ資本/労働 (技術)比率 kが少ない 「初期の後発経済」 の状態を表 し, ここではk(従 ってy)の成長率が高い。 しか し,kの蓄積
とともに,次第に両曲線の差,すなわち成長率が低下 してゆき (例えばk2), 最終的には定常状態k*でgの (一人当た り)成長率になって しまう。従 っ て
,
「定常状態」が不変である限 り,ベ トナムの ような 「初期の後発経済」(klの状態)は,k2の状態にあるような比較的豊かな国よりも当初は高い成 長率を記録するが,次第に定常状態に収赦 してい く。そのため,高成長を持 続させるには,定常状態を変える制度 ・政策の変更 (改革)が必要になる。
(4)成長 ・貿易と所得分配の関係
ベ トナムの成長 と所得分配の関係を分析 したFritzen(2002)は,途上国に おける成長 ・不平等 ・貧困削減の間の一般的な関係について,最近は以下の 点で多 くの合意を見ていると述べている。
(∋ 成長 と貧困削減の間には必然的な (正の)関係がある (特に低所得国に とっては,貧困削減に果たす成長の役割が重要)0
② 貧困削減の成果 を最大限 に生 かすためには
,
「質の高い成長」が必要 (成長の貧困削減への影響を改善するような政策が必要)0③ 成長 と不平等の間には必然的な関係は無い (81年から92年にかけて,44 カ国についてこの関係を検証 した実証分析によれば,高成長に伴い不平等 が拡大 した国は半分,縮小 した国は半分であった)0
また,Fritzen(2002)は,特 に東アジアの国々が社会的平等を保持 したま ま高成長 を遂げた理 由として,東アジアには,①初期の平等 と資産の公平な 分配,(参平等で質の高い教育システム,③雇用創出 ・実質賃金引 き上げに役 立つような労働集約的成長戦略,が存在 したことを挙げている。
なお