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論文審査の結果の要旨

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Academic year: 2021

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論文審査の結果の要旨

氏名:冨 田 真 浩

博士の専攻分野の名称:博士(文学)

論文題名:古代インドにおけるアスラの変容に関する研究―経典の文献研究と歴史・考古学的視点からの考察―

審査委員: (主 査) 教授 古 田 智 久 (副 査) 教授 合 田 秀 行

東京大学大学院教授 蓑 輪 顕 量

冨田真浩氏は、本論文において、古代インドで自然現象を司る神とされた「アスラ」が、時代を経るに つれていかに変容していったかということについて、ヴェーダ文献、ウパニシャッド文献、プラーナ文献、

上座部仏教経典、初期大乗経典を網羅的に精査した上で、さらに文献学以外の視点からも多面的に考察を 試みている。以下、各部の要点を辿りつつ、本論文の審査結果を記す。

第1部では、アスラに関する代表的な先行研究として、W. E. ヘイルの研究が採り上げられ、ヘイルの 研究成果を踏まえた上で、初期ヴェーダ文献において神話上のアスラと先住民に対する呼称のアスラが重 ねられている点に、アスラ変容の兆しが認められることが指摘されている。さらに、冨田氏は、初期ヴェ ーダ以降の古代インドの諸文献においてアスラの特徴づけが変容していった過程を、環境考古学的視点か ら考察することの必要性を強調し、実際にそのような考察を試みている。

第2部では、バラモン教聖典であるウパニシャッド文献と、ヒンドゥー教聖典であるプラーナ文献の分 析・検討を通して、ウパニシャッド文献の作者たちが、ヴェーダ文献で善神とされていたアスラが悪神に 変貌していく記述に困惑して、かかる変貌の理由を探ろうとしている過程が考察されている。

第3部で、冨田氏は、仏教の開祖であるゴータマ・ブッダの教説においても、アスラを善とみなすもの と悪とみなすものの二面性が認められることを指摘している。冨田氏は、ゴータマという姓や釈迦族の葬 送儀礼などに関する考古学的・歴史学的研究を踏まえて、釈迦族がアーリヤ人の侵略期においてはアスラ と呼ばれた民族の末裔であった可能性を否定できないと推論する。それゆえに、アスラを善い存在として 描く物語が説かれる一方で、アーリヤ人に対しては、アスラを悪しき存在と考えているアーリヤ人の立場 に立って教えを説いたため(対機説法)、アスラが悪しき存在として描かれることになり、アスラを人間よ りも低い存在と見なす「六道」の思想が生まれることになったと結論している。

第4部で、冨田氏は、まず、初期大乗経典におけるアスラ像について考察し、天(諸々の善神)とアス ラを同じように分類するタイプの「五道説」や「八部衆」の概念が形成された過程を明らかにしている。

続いて、冨田氏は、仏教が、アーリヤ人との混血が少ない地域、すなわち正統派バラモンの文化が浸透し ている地域に伝播していく際に、天とアスラを同等に扱うのではなく、天の中でもバラモン教で重視され たインドラを特別扱いした結果、アスラを人間より低い位置に置く現在の「六道説」が成立・定着してい ったとの見解を示している。

本論文の(特筆すべき)ポイントは、サンスクリットおよびパーリ語文献の文献学的解読だけでなく、

当時の生活様式およびその変化や民族の盛衰に関する考古学的・歴史学的な研究成果を踏まえて、アスラ という概念の変遷を考察している点にある。古代インドに関する考古学的・歴史学的研究に関しては、遺 跡・遺物・その他史料の乏しさゆえにその脆弱さを否定できないが、本論文においては、アスラという概 念が変化していく過程について、宗教社会学的観点からの考察も展開されており、その点にも、本論文の 独創性を見出すことができる。この分野の従来の研究は、文献学的手法に依拠するものがほとんどであっ たが、本論文では、他の研究分野の手法・成果を用いて多面的にアスラに関する考察が試みられており、

他に類を見ない画期的なものと評価される。

以上の理由により、学位論文審査委員会は、本論文を、博士(文学)の学位を授与するにふさわしい ものと判断するに至った。

以 上 平成29年1月26日

参照

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