修 士 学 位 論 文
数値繰り込み群法による斥力型および引力型 アンダーソンモデルにおける近藤効果の研究
指導教授 堀田 貴嗣 教授
平成
27
年2
月13
日 提出 首都大学東京大学院理工学研究科 物理学専攻
学修番号
13879332
氏名 松井 大
目次
1 はじめに 3
1.1 近藤効果 . . . 3
1.2 NRGの定義 . . . 3
2 アンダーソンハミルトニアン 5 2.1 アンダーソンハミルトニアンの簡単化. . . 5
2.2 対数離散化 . . . 8
2.3 ホッピングハミルトニアンへの変換 . . . 10
2.4 反復対角化 . . . 11
3 数値繰り込み群 14 3.1 数値繰り込み群法の原理 . . . 14
3.1.1 0ステップの計算 . . . 14
3.1.2 N ステップの計算 . . . 15
3.1.3 物理量の計算 . . . 16
3.2 プログラミング . . . 21
3.2.1 プログラムの概要 . . . 21
3.2.2 不純物サイトの固有状態とホッピング行列の計算 . . . 22
3.2.3 基底の作成 . . . 22
3.2.4 ブロック行列の作成と対角化 . . . 22
3.2.5 ソーティングと状態のカットオフ . . . 22
3.2.6 物理量の計算 . . . 22
3.2.7 ホッピング行列の計算 . . . 23
3.2.8 不純物サイトのない場合の計算 . . . 23
4 アンダーソンモデルの解析結果 24 4.1 U >0の場合 . . . 24
4.2 U <0の場合 . . . 26
4.3 U とTK の関係 . . . 29
5 まとめと展望 31
1
はじめに1.1
近藤効果近藤効果は磁性を持つ微量の不純物が含まれた金属の温度を下げていくとき、電気抵抗 がある温度を境に減少から増加に転じる現象である。つまり、電気抵抗がある温度で極小 値を持つ。この時の温度を近藤温度と呼ぶ。この現象自体は1930年代に知られていた。
理論面の研究は1964年の近藤によるs-dモデルに対する摂動計算から解決の糸口がつい た。現在では近藤問題と総称されている。
近藤効果は一般的に、不純物サイトの電子のスピンと伝導電子のスピンがシングレット 状態を形成し、不純物スピンが完全に遮蔽される現象を指す。高温の自由電子系では、不 純物スピンの状態は上向きと下向きの自由度がある。温度を下げていくと局在電子と伝導 電子の混成により、不純物スピンの周囲に反対のスピンを持つ伝導電子が集まり不純物ス ピンが遮蔽され始める。近藤温度まで温度が下がると不純物スピンの周囲に集まった伝導 電子のスピンが不純物スピンを完全に遮蔽する。これが伝統的なスピン近藤効果のメカニ ズムである。
1.2 NRG
の定義NRG とは、数値繰り込み群 (Numerical Renormalization Group) の略称である。
K.G.Wilsonが近藤問題の解決のため1975年に提唱した。複数のサイトがある系におい
て厳密対角化を用いて固有状態を求めることを考える。対角化すべきハミルトニアンの行 列の大きさはサイト数に対して指数関数的に増加する。サイトが多くなるとコンピュータ で扱うことが事実上不可能になる。この問題を解決したのがWilsonの考案した数値繰り 込み群法である。
近藤問題で重要になるのはほぼ無限に縮退したフェルミ面近傍の自由電子である。
Wilsonは対数離散化という手法を用いてフェルミ面近傍の低エネルギー励起を担う自由
電子を選択的に取り込みながらモデルを離散化し、s-dモデルを1次元格子状の強束縛模 型にマップした。Wilsonはこの模型を数値的に解くために、ハミルトニアンをN サイト とN + 1サイトのハミルトニアンに関する漸化式の形に書き直し、対角化を行いつつサ イト数を逐次増やす方法を取った。
Wilson はフェルミ面近傍の低エネルギー状態のみが重要であることに着目し、サイト
数とともに指数関数的に増える状態のうち、高エネルギーに相当する状態を落としつつ行
列の次元を一定に保ったまま計算を進めるという巧みな手法を編み出した。これにより、
最終的に低エネルギー状態を正しく記述する有効ハミルトニアンを得ることに成功し、限 られた計算機リソースを用いて近藤効果において起こっていることを数値計算により示す ことができるようになった。
2
アンダーソンハミルトニアン2.1
アンダーソンハミルトニアンの簡単化非磁性体の金属中に1つだけ不純物サイトがある場合のアンダーソンハミルトニアンは HA≡∑
kσ
ϵkckσ†ckσ+∑
kσ
(Vkdckσ†cdσ+Vkd∗cdσ†ckσ)
+∑
σ
ϵdcdσ†cdσ+U (
cd↑†cd↑) (
cd↓†cd↓)
(2.1) で表される。ここで、ϵk, ϵd はそれぞれフェルミエネルギーを基準とした自由電子と局在 電子の運動エネルギーを表す。問題に入る前にs-dハミルトニアンとの違いについて補足 する。s-dハミルトニアンHs−dは
Hs−d =∑
kσ
ϵkc†kσckσ
+ J 2N
∑
kk′
{(
c†k′↑ck↑−c†k′↓ck↓
)
Sz+c†k′↑ck↓S−+c†k′↓ck↑S+
}
(2.2) と表される。ここで、J は交換相互作用であり、J = 8V2/U で表される。N は電子数を
表す。(2.1)式で表されるアンダーソンハミルトニアンにおいて、混成項|V|が十分小さ
くU ≫ |V| とみなせる場合、V に関する2次摂動でs-dハミルトニアンに帰着される。
次に、アンダーソンハミルトニアンの簡単化のための準備を行う。(2.1)式のアンダーソ ンハミルトニアン第4項の演算子に関して、
∑
σ
(
c†dσcdσ−1 )2
=∑
σ
[(
c†dσcdσ )2
−2c†dσcdσ+ 1 ]
=(
cd↑†cd↑)2
+(
cd↓†cd↓)2
+ 2cd↑†cd↑cd↓†cd↓−2cd↑†cd↑−2cd↓†cd↓+ 1 (2.3) ここで、
(cd↑†cd↑)2
=cd↑†cd↑cd↑†cd↑
=cd↑†(
1−cd↑†cd↑) cd↑
=cd↑†cd↑−cd↑†cd↑cd↑†cd↑
=cd↑†cd↑ (2.4)
が成り立つので(↓スピンも同様)、(2.3)式は (cdµ†cdµ−1)2
=−cdµ†cdµ+ 2(
cd↑†cd↑) (
cd↓†cd↓)
+ 1 (2.5)
となるので、(2.1)式の第4項に代入すると、
HA≡∑
kσ
ϵkckσ†ckσ+ (
ϵd+ 1
2U) ∑
σ
cdσ†cdσ+
∑
kσ
(Vkdckσ†cdσ+Vkd∗ckσ†ckσ
)+ 1 2U ∑
σ
(cdσ†cdσ−1)2
− 1
2U (2.6) となる。そこで、次のような単純化を考える。
”エネルギーが−DからD までの広がりを持つ等方的なただ一つの伝導帯を考え、フェ ルミ面は完全にこの中に納まると考える。”
このようにするとl =m= 0の波だけを取り扱えばよく、ϵk, Vkd は|k|のみに依存する。
さらに問題を単純化するために、定数項を落とし、波数表示をエネルギー表示に書き換え るという処理を行う。akが連続な演算子であるとすると、
∑
k
ϵkck†ck−→
∫
d3kϵkak†ak,
∑
k
Vkdck−→
( Ω0
(2π)3 )12 ∫
d3kVkdak (2.7)
となる。ここでΩ0 は系の体積を表す。次にakに対して球面調和関数で展開する。
ak= 1 k
∑
lm
aklmYlm( ˆk ), aklm=k
∫
dΩkˆYlm∗( ˆk )ak (2.8) これらの演算子がϵk =ϵk, Vkd =Vkd で表されることより、
∫
d3kϵkak†ak=∑
lm
∫
dkϵkaklm†aklm (2.9) (
Ω0 (2π)3
)12 ∫
d3kVkdak= ( Ω0
2π2 )12 ∫
dkVkdak00 (2.10)
となる。(2.10)式でak00 となるのは上記で述べた等方性より、方位量子数をl、磁気量子 数をm とすると、l = m= 0のみを考えればよいためである。以下ではak00 ≡ak と省 略して表記する。
次にϵ =ϵkである時にaϵ =dϵk/dk1/2 で定義されるエネルギー表示を導入する。これに より、
{aϵ, a†ϵ′}= (dϵk
dk )−1
δ(k−k′) =δ(ϵ−ϵ′) (2.11) となる。フェルミレベルに関して−D〜Dのエネルギーのカットオフを導入すると、
∫
dkak†ak=
∫ dk
(dϵk dk
) a†ϵaϵ
=
∫ D
−D
ϵa†ϵaϵdϵ (2.12)
( Ω0 2π2
)12 ∫
dkVkdak= ( Ω0
2π2 )12 ∫
dkVkd (dϵk
dk )12
aϵ
= ( Ω0
2π2
)12 ∫ D
−Dkϵdϵ (dk
dϵ )12
Vd(ϵ)aϵ (2.13) となる。ここで、スピンごとの1電子状態密度
ρ(ϵ) = (Ω0
2π2 )
k2dk
dϵ (2.14)
を使うと、
( Ω0
2π2 )12 ∫
kdkVkd =
∫ D
−D
dϵ{ρ(ϵ)}12Vd(ϵ)aϵ (2.15)
となる。(2.12)式と(2.15)式からエネルギー表示によるアンダーソンハミルトニアン
HA=∑
σ
∫ D
−D
ϵaϵσ†aϵσdϵ+ (
ϵd + 1
2U) ∑
σ
cdσ†cdσ+ 1 2
U D
∑
σ
(cdσ†cdσ−1)2
+∑
σ
∫ D
−D
dϵ[ρ(ϵ)]12 [
Vd(ϵ)aϵσ†cdσ+Vd∗(ϵ)cdσ†aϵσ]
(2.16) が導かれる。
ρとVd のエネルギー依存性を無視し、Vd をフェルミレベルでの値に置き換えることによ
り(2.16)式を更に単純化する。以上より最終的な連続波数形式で表されるハミルトニア ンは
HA =D∑
σ
[∫ 1
−1
kakσ†akσdk+ 1 D
( ϵd + 1
2U )
cdσ†cdσ+ 1 2
U D
(cdσ†cdσ−1)2
+ ( Γ
πD
)12 ∫ 1
−1
dk(
akσ†cdσ+cdσ†akσ)]
(2.17) となる。ここで、
Γ ≡πρVd2 (2.18)
である。
2.2
対数離散化(2.17)式で記述される系における不純物サイトの寄与を計算するために、k空間の対数
分割を行う。カットオフ・パラメーターΛ (>1)を導入する。これを用いて−1< k <1 の範囲で分割する。k >0の場合n番目の分割範囲はΛ−(n+1)からΛ−nであり、k < 0 の場合n番目の分割範囲は−Λ−n から −Λ−(n+1)である。また、Λ = 1で連続となる。
区間nの分割の細かさは、Λが大きいほど荒くなり、Λが1に近いほど細かくなる。
次に、上記のように分割された区間においてフーリエ級数を用いて次のような正規直交 完全系を定義する。
ψnp± = Λn/2 (1−Λ−1)1/2
exp (±iωnpk) (2.19)
(2.19)式はΛ−(n+1) < ±k <Λ−n 以外の範囲では0であるとする。pはフーリエ級数の 添え字であり、−∞< p <+∞の値をとる。ψの肩についている±の符号はk の正また は負の範囲で定義された基底関数であることを意味する。ωn はn番目の区間の基本フー リエ周波数であり、
ωn≡ 2π
Λ−n−Λ−(n+1) = 2πΛn
1−Λ−1 (2.20)
で定義される。演算子akσ はこの基底を用いて次のように展開できる。
akσ =∑
np
[anpσψ+np(k) +bnpσψnp− (k)]
(2.21)
anpσ ≡
∫ 1
−1
dk[
ψnp+ (k)]∗
akσ (2.22)
bnpσ ≡
∫ 1
−1
dk[
ψ−np(k)]∗
akσ (2.23)
anpσ とbnpσ は以下の一般的な反交換関係に従う独立した離散的な電子の完全な集合の生 成消滅演算子である。
{anpσ, an′p′σ′}=δnn′δpp′δσσ′ (2.24) {bnpσ, bn′p′σ′}=δnn′δpp′δσσ′ (2.25) (2.17)式のハミルトニアンは演算子akσ の代わりに不連続な演算子anpσ を用いて以下の ように展開できる。
∫ 1
−1ka†kσakσdk= 1 2
(1 + Λ−1) ∑
np
Λ−n(
a†npσanpσ−b†npσbnpσ
)
+1−Λ−1 2πi
∑
n
∑
p̸=p′
Λ−n p′−p
(a†npσanp′σ−b†npσbnp′σ
)exp2πi(p′−p)
1−Λ−1 (2.26)
∫ 1
−1
akσdk=(
1−Λ−1)1/2∑
n
Λ−n/2(an0σ +bn0σ) (2.27) (2.27)と(2.17)より、不純物サイトは演算子an0 とbn0 にのみ直接結合する。p ̸= 0に おける演算子 anp とbnp は(2.26) 式の第 2 項より演算子 an0 とbn0 のみに結合する。
(1−Λ−1)
/2πによりこの結合はΛが1に近い時は小さくなる。
ここで、(2.27)式のp̸= 0における演算子anpとbnpを含む項を無視するという近似を 行う。近藤問題の計算ではΛが3程度の時に良い近似となっていることが示されている。
HAの近似の結果は、
HA
D ≃∑
σ
[ 1 2
(1 + Λ−1)∑∞
n=0
Λ−n(
a†nσanσ −b†nσbnσ
)
+1 D
( ϵd+ 1
2U )
c†dσcdσ+ (2Γ
πD )12 (
f0σ† cdσ+c†dσf0σ
)
+1 2
U D
(
c†dσcdσ−1 )2]
(2.28) である。ここで、(2.27)式を用いて次の新たな演算子を定義した。
f0σ= [1
2
(1 + Λ−1)]12 ∑∞
n=0
Λ−n2 (anσ+bnσ)
≡ 1
√2
∫ 1
−1
dkakσ (2.29)
(2.28)式と (2.29)式において、演算子an0 とbn0 の下付き文字の0は省略してある。こ れ以降も同様に省略することにする。(2.29)式の1/√
2はf0σ が{f0σ, f0σ′}=δσσ′ を満 たすようにするための規格化定数である。
連続波数形式のハミルトニアン(2.17)から離散波数形式のハミルトニアン(2.28) に変 換する際、本質的には±Λ−n の離散的なエネルギーの組に対する可能なエネルギー−1 から+1の全ての電子を差し替えている。この過程においてエネルギーはフェルミレベル に近づく。そのエネルギーは系が低温になること(kBT ≪ D)を決定する。電子のエネ ルギーが異なる大きさの順番に明確に分割されており、それぞれのエネルギーがアンダー ソンハミルトニアンの摂動の解に見られる対数発散に等しく寄与するために対数離散化を 行っている。
2.3
ホッピングハミルトニアンへの変換(2.28)式において、不純物は演算子f0 とのみ結合する。f0は本質的に不純物サイトに
おける伝導電子の演算子である。(anσ, bnσ)の演算子の組から新たな正規直交系の演算子 の組(fnσ)と(2.29)で与えられるf0σ へユニタリー変換すると便利である。(fnσ)の組み 合わせは無限に存在する。(2.28)式の伝導電子の運動エネルギーは演算子(anσ, bnσ) に おいて対角であるため、この演算子の組からのどのような変換も他の演算子と結合する演 算子(fnσ) へ導かれる。演算子(fnσ)が最近接の結合を示すような変換を選ぶのが最も良 い。すなわち、fnσ はf(n+1)σ とのみ結合する。HAの離散的な近似は
HA
D =∑
σ
[ 1 2
(1 + Λ−1)∑∞
n=0
Λ−n/2ξn
(
fnσ† f(n+1)σ +f(n+1)σ† fnσ
)
+ 1 D
( ϵd + 1
2U )
c†dσcdσ+ (2Γ
πD )12 (
f0σ† cdσ+c†dσf0σ
)
+1 2
U D
(
c†dσcdσ−1 )2]
(2.30) となる。ξnはΛに依存する1のオーダーの係数であり、
ξn =(
1−Λ−n−1) (
1−Λ−2n−1)−1/2(
1−Λ−2n−3)−1/2
(2.31) で与えられる。これはnが十分大きな場合、1で置き換えることができる。
(2.28)式のハミルトニアンからホッピング形式(2.30)式への変換は近似ではなく厳密
な変換である。後で参照するために演算子f1とf2 を以下に示す。f0 は(2.29)式で定義 されている。
f1σ = {1
2
(1−Λ−3)}12 ∑∞
n=0
Λ−3n2 (anσ−bnσ) (2.32)
f2σ = (1
2Λ )12 (
1−Λ−5) (1−Λ−2)
∑∞ n=0
[(1−Λ−3)
Λ−5n2 −(
1−Λ−1) Λ−n2
]
(anσ+bnσ) (2.33)
一般的な規則そして、fn の表現はnが偶数のときは(an+bn) の組み合わせのみを、n が奇数のときは(an−bn)の組み合わせのみを含むとする。
2.4
反復対角化ホッピング・ハミルトニアンを解くために、以下に示すハミルトニアンの級数HN を定 義する。
HN ≡Λ(N−1)/2∑
σ
[N−1
∑
n=0
Λ−n/2ξn (
fnσ† f(n+1)σ +f(n+1)σ† fnσ )
+˜δdc†dσcdσ+ ˜Γ1/2 (
f0σ† cdσ+c†dσf0σ
) + ˜U
(
c†dσcdσ−1 )2]
(2.34) ここで、簡単のために以下の定義を行った。
δ˜d =
( 2 1 + Λ−1
) 1 D
( ϵd+ 1
2U )
≡˜ϵd+ ˜U (2.35)
U˜ =
( 2 1 + Λ−1
) U
2D (2.36)
Γ =˜
( 2 1 + Λ−1
)2
2Γ πD =
( 2 1 + Λ−1
)2
2ρ|Vd|2
D (2.37)
HAに対する完全に離散的な近似は以下の極限で再現される。
HA = lim
N→∞
1 2
(1 + Λ−1)
DΛ−N−12 HN (2.38)
(2.34)式のスケールの因子Λ(N−1)/2 は、HN における(
fnσ† f(n+1)σ +f(n+1)σ† fnσ
)の係 数で表わされる最少エネルギーのスケールが1のオーダーになるように導入されたもので
ある。エネルギーがおよそΛ−(N−1)/2D であるHAの多電子のエネルギーレベルの構造 に関する情報は、エネルギーがおよそ1であるHN のエネルギーレベルの構造の中に含 まれている。ここで、ハミルトニアンのエネルギーレベルは基底状態を基準とした値であ る。
(2.34)式は次の漸化式を満たす。
HN+1 = Λ1/2HN +ξN
∑
σ
[
fN σ† f(N+1)σ +f(N† +1)σfN σ
]
(2.39) (HN)を定義した要点は、(2.39)式を用いてHN と同様に与えられた HN+1 の多粒子の 固有状態と固有エネルギーの再帰的な手続きを構成できるという点である。最初のハミル トニアンH0(HN でN = 0としたもの)は演算子f0 とcdσ のみを含む。
H0 = Λ−1/2∑
σ
[
δ˜dc†dσcdσ+ ˜Γ1/2 (
f0σ† cdσ+c†dσf0σ )
+ ˜U (
c†dσcdσ−1 )2]
(2.40) このハミルトニアンの固有状態と固有エネルギーは直ちに計算できる。再帰的な手続きを 繰り返し用いることでハミルトニアン(HN)の全体を解くことができる。(2.40)式は次 のように計算できる。
H0 = Λ−1/2∑
σ
[Γ˜1/2 (
f0σ† cdσ+c†dσf0σ
)
+ 4 ˜U nd↑nd↓+ ˜ϵd(nd↑+nd↓) ]
(2.41)
ここで、nd↑, nd↓は不純物サイトに対する数演算子であり、ndσ ≡c†dσcdσである。式の表 記を簡潔にするため、係数および演算子を次のように置換する。
ξN ≡tN
Λ−1/2Γ˜1/2 ≡V 4Λ−1/2U˜ ≡U Λ−1/2˜ϵd ≡ϵd
fN σ ≡cN σ cdσ ≡dσ
(2.42)
HN およびH0は次のように書き換えられる。
HN+1 = Λ12HN +tN
∑
σ
(
c†N+1σcN σ+c†N σcN+1σ
)
(2.43) H0 =V ∑
σ
(
c†1σdσ +d†σc1σ
)
+U nd↑nd↓+ϵd(nd↑+nd↓) (2.44) 再帰的手続きの基本的な仕組みについて説明する。|l, N⟩,(l = 0,1,2,· · ·LN) がHN の 固有状態を表わし、l = 0は基底状態を表すとする。HN は2 (N + 2)個のフェルミオン
の演算子dσ, c0σ,· · ·, cN σ を持つ。それぞれのフェルミオンの演算子は電子が存在する か空であるかの2 状態を持つので、LN = 22(N+2) −1 となる。全てのエネルギー準位 E(l, N)と全ての行列要素⟨l, N|c†nσ|l′, N⟩ が既知であるとする。状態|l, N⟩のそれぞれ から次の4状態が作られる。
|1, l, N⟩ ≡ |l, N⟩
|2, l, N⟩ ≡c†N+1↑|l, N⟩
|3, l, N⟩ ≡c†N+1↓|l, N⟩
|4, l, N⟩ ≡c†N+1↑c†N+1↓|l, N⟩
(2.45)
4 (1 +LN) 状態が HN+1 の空間を張る正規直交基底を生成する。(2.43) 式を⟨i′, l′, N| と|i, l, N⟩の間に挟むことでHN+1 の行列要素を計算できる。(2.45)式の4状態は固有 値E(l, N)に属するHN の固有状態である。cN+1σ またはc†N+1σ は同じラベルl との み繋がり、かつ⟨i′, l′, N|c†N+1σ|i, l, N⟩ のような行列要素はラベルl に依存しないので、
⟨i′|c†N+1σ|i⟩のように略記できる。例えば、⟨2, l′, N|c†N+1↑|1, l, N⟩ ≡ ⟨2|c†N+1↑|1⟩= 1 の ように書ける。cN σ またはc†N σ はiやi′ といった異なる値を持つ状態とは繋がらない。
そして、⟨i′, l′, N|cN σ|i, l, N⟩=⟨l′, N|cN σ|l, N⟩ である。したがって、
⟨i′, l′, N|HN+1|i, l, N⟩=Λ12E(l, N)δii′δll′ +tN
(⟨l′, N|c†N σ|l, N⟩⟨i′|cN+1σ|i⟩ +⟨i′|c†N+1σ|i⟩⟨l′, N|cN σ|l, N⟩)
(2.46) となる。E(l, N)と⟨l′, N|c†N σ|l, N⟩に関する情報はHN+1 の行列を評価するには十分で ある。この行列を対角化するとHN+1 の新たな固有状態|l, N + 1⟩,(l= 0,1,· · ·, LN+1) と固有エネルギーE(l, N + 1)が得られる。さらに、⟨l, N+ 1|c†N+1σ|l′, N + 1⟩ を計算す ることができる。この情報は次のステップのHN+2を計算するときに使う。
3
数値繰り込み群3.1
数値繰り込み群法の原理3.1.1 0ステップの計算
0ステップ目、すなわち、不純物サイトに伝導帯の状態を1つ付加するときのハミルト ニアンは、
H0 =V ∑
σ
(
c†1σdσ +d†σc1σ )
+U nd↑nd↓+ϵd(nd↑+nd↓) (3.1) である。ここで、d†σ, dσ はそれぞれ局在サイトの生成消滅演算子を表し、c†1σ, c1σ は伝導 帯の電子の生成消滅演算子を表す。また、伝導帯のエネルギーの幅の半分であるD を1 とした。このハミルトニアンの行列表示は、
⟨i′, M′|H0|i, M⟩
=V ∑
σ
[⟨i′|c†1σ|i⟩⟨M′|dσ|M⟩θi+⟨M′|d†σ|M⟩⟨i′|c1σ|i⟩θi′
]
+δi′iδM′M(U +ndϵd) (3.2)
である。ここで、|M⟩,|i⟩ はそれぞれ局在サイトと伝導帯の状態を表し、|i, M⟩ は局 在サイトと伝導サイトから生成した基底を表す。また、θi, θi′ は演算子と状態ベクト ルを交換する際のフェルミオンの符号を表し、nd は局在サイトの電子数を表す。第 1 項の和の中にある行列はホッピング行列と呼び、電子の跳び移りを表す行列である。
⟨M′|dσ|M⟩,⟨M′|d†σ|M⟩ については、あらかじめ計算しておく必要がある。
次に、このハミルトニアンの行列を対角化し、固有エネルギーと固有ベクトルが求めら れたとする。この時、n番目の固有エネルギーをE0n、n番目の固有ベクトルを |n⟩で表 すと、
|n⟩=∑
i,m
AniM|i⟩|M⟩ (3.3)
と表される。ここで、AniM はE0n に対応する固有ベクトル|n⟩の4i+M 番目の成分を 表す。
最後に、次のステップ(1ステップ)で使用するホッピング行列を計算する必要がある。
それは、⟨n′|c1σ|n⟩と表され、次のように計算できる。
⟨n′|c1σ|n⟩= ∑
i,i′,M,M′
Ani′′M′AniM⟨i′|⟨M′|c1σ|i⟩|M⟩ (3.4)
ここで、
|vac.⟩ ≡ |0⟩, | ↑⟩ ≡ |1⟩, | ↓⟩ ≡ |2⟩, | ↑↓⟩ ≡ |3⟩ (3.5) と定義する。ここで、|vac.⟩は真空状態、| ↑⟩は上向きスピンが1つある状態、| ↓⟩は下 向きスピンが1つある状態、| ↑↓⟩は上向きと下向きのスピンが1つずつある状態を表す。
これにより、
⟨0|c1↑|1⟩= 1,⟨2|c1↑|3⟩= 1,
⟨0|c1↓|2⟩= 1,⟨1|c1↓|3⟩=−1 (3.6) と計算できるので、
⟨n′|c1↑|n⟩= ∑
M,M′
(
An0M′ ′An1M⟨M′|M⟩+An2M′ ′An3M⟨M′|M⟩)
=∑
M
(
An0M′ An1M +An2M′ An3M )
(3.7) 同様に、
⟨n′|c1↓|n⟩=∑
M
(
An0M′ An2M −An1M′ An3M )
(3.8) となる。
3.1.2 N ステップの計算
N ステップのハミルトニアンは、
HN= Λ12HN−1+ξN
∑
σ
(
c†N σcN−1σ +c†N−1σcN σ
)
(3.9) で表される。Λはカットオフである。行列表示は、
⟨i′, M′|HN|i, M⟩
= Λ12EN−1δM M′δii′ +ξN
∑
σ
[⟨i′|c†N σ|i⟩⟨M′|cN−1σ|M⟩θi
+⟨M′|c†N−1σ|M⟩⟨i′|cN σ|i⟩θi′
]
(3.10) となる。この行列を対角化して求めたn番目の固有エネルギー・固有ベクトルをそれぞれ En,|n⟩と表す。この時、固有ベクトルは
|n⟩=∑
i,M
Anim|i⟩|M⟩ (3.11)
で表される。Animはn番目の固有値En に対応する固有ベクトルの4Ni+M 番目の成分 を表す。次のステップで使うホッピング行列は前節と同様に計算でき、
⟨n′|cN↑|n⟩=∑
M
(
An0M′ An1M +An2M′ An3M )
,
⟨n′|cN↓|n⟩=∑
M
(
An0M′ An2M −An1M′ An3M )
(3.12) となる。ただし、
⟨0|cN↑|1⟩= 1,⟨2|cN↑|3⟩= 1,
⟨0|cN↓|2⟩= 1,⟨1|cN↓|3⟩=−1 (3.13) を用いた。(3.13)式については各ステップで共通のため、使い回しが可能である。
3.1.3 物理量の計算
N ステップのハミルトニアン(3.9)式は次のように表すことができる。
HN =ΛN−12 [N−1
∑
n=1
Λ−n−12 ξn∑
σ
(cn+1σ†cnσ +cnσ†cn+1σ)
+Λ12V ∑
σ
(
c1σ†dσ +dσ†c1σ
)
+ Λ12U n0↑n0↓+ Λ12ϵd(n0↑+n0↓) ]
(3.14) N ステップにおける状態密度をZN とすると、
ZN=∑
n
exp (
− En kBTN
)
=∑
n
exp
(−En(N) )
(3.15) となる。ここで、En(N)はN ステップにおけるNRGにおけるエネルギースペクトルを表 し、次式で定義される。
E˜n(N)≡ En
kBTN (3.16)
(3.15)式から、N ステップにおける固有エネルギーの期待値⟨EN⟩は、
⟨EN⟩= 1 ZN
∑
n
Enexp (−βEn)