コンビニエンス・ストア : 複合的小売組織体の特 性と展望
その他のタイトル Convenience Store : Characteristics and
Futures of Multi‑Function Retail Organizations
著者 荒川 祐吉
雑誌名 關西大學商學論集
巻 19
号 3‑4
ページ 227‑253
発行年 1974‑10‑25
URL http://hdl.handle.net/10112/00021120
( 2 2 7 ) 1
コ ン ビ ニ エ ン ス ・ ス ト ア
ー一複合的小売組織体の特性と展望_
荒 J l l 祐 吉
(神戸大学教授)
1 . 複合的流通組織体登場の歴史的論理的背景
ここで複合的流通組織体とは,その社会的機能およぴそれを遂行するため の組織構造において,従来と異なる組合わせを持つ流通組織体をいう。それ を「複合的」と称するのは,行論の途中で明らかになるごとく,伝統的な機 能・構造の措定を基準としてみた場合,それらが従来見られなかった組合わ せにおいて設定せられることになっている事態をあらわすためである。端的 にいうならば,伝統的感覚からすれば異質多様な機能の組合わせと,それに 対応する多彩な組織形態を持つにいたっている流通組織体を,この用語で包 括的にとらえようとするものである。流通組織休は,慣用に従がって,商品 流通の媒介を専有の機能とする組織体を意味する。ここで商品流通という場 合,いわゆる「流通に延長された生産過程」とその担い手は含まれない。し たがって具体的には,輸送・保管・包装等を専有の機能とする組織体は除外 される。
以上のような,複合的流通組織体は,近時先進国において,同時平行的に
かつ急速に展開しつつある。それが最も顕著に認識されうるのは,流通最末
端段階,すなわち小売段階においてであるが,卸売流通においても事態はか
2 ( 2 2 8 ) コンビニエンス・ストア(荒川)
わらない。また流通段階の垂直的統合は,その最も代表的な姿であるとさえ いえる。
このような複合的流通組織休の急展開は,先進諸国における急激な産業構 造の変化と,それに対応する消費需要の複合化を反映し,むしろ,これらの ことによって積極的に要請されてきたものである。消費需要ないし,その背 後にある消費者欲求の複合化は,消費者購買行動の多様化・複合化をもたら し,それは当然のこととして,それに適合した機能と構造を持つ流通組織体 やその一定の集合の出現を要請することとなる。他方において,技術革新と 競争圧力は,製品の量・質における革新的多様化・大量化をもたらし,また 競争次元の多次元化を不可避ならしめる。競争多次元化と製品多様化・大量 化は,生産および流通における水平的・垂直的統合を促進する。しかもその 統合は,同質製品や同一競争次元に対応する形態よりも,異質な競争次元や 異質な市場を横断的・垂直的に連結する形態を優先させることとなる。いわ ゆる複合企業の登場は,まさにこのような事態に外ならない。この事態は,
垂置的関連においても作用する。垂直的統合が,寡占製造企業やその集団の 相互競争の過程から,市場支配を求めて推進される。また資源利用の有効性 の向上という技術的要請からも,このことは推進されざるをえなくなる。流 通過程の内部においても,特に卸売段階と小売段階との統合は,生産段階に おける製品の多様化・多角化・大量化と競争次元の多次元化の展開や,それ に対応する生産段階の複合企業の展開と対応して,急速に進行することとな る 。
生産と流通を通ずる,ないしは,流通内部での卸売・小売段階の垂直的統 合は,その統合の形式からは ( 1 ) 完全統合と ( 2 ) 準統合という 2 つの基本形態を とる。前者は単一企業による複数段階の統合であり,製造業者が販売会社を 経営する場合とか直営連鎖店を組織する場合,又「正規連鎖店」ないし「会 社連鎖店」といった姿をこの内容とする。後者は,通常包括的にボランクリ
ー・チェーン(任意連鎖店)と称せられている製造業者,卸売業者を主導者
とする小売業者との協同組織の姿をとる。このような協同組織は,協同の程
コンビニエンス・ストア(荒川) ( 2 2 9 ) 3 度(強さ範囲など)や協同の形式によって,具休的には多様な姿をとる。そ れは特定の製品・用役のみについての協同(通常「管理」組織と呼ばれる)
から,強力な本部を形成して,それによる加盟店の全営業活動にわたる集中 統合指導と,本部への戦略的管理業務の統合を行なうフランチャイズ方式に まで及ぶ。また主導者も,製造業者や卸売業者,あるいはその集団であるの が普通であるが,小売業者の協同組織が集中仕入本部を設ける逆統合の形態
もある。
コンビニエンス・ストアは,このような垂直的統合と交錯して出硯する複 合的小売組織休である。本稿は,コンビニエンス・ストアを直接の素材とし
,その本質を解明しその展望を試みることを通して,複合的流通組織休が内 包する機能的・構造的諸問題を明かにしようとするものである。
2 . コ ン ビ ニ エ ン ス ・ ス ト ア の 特 性 ー わ が 国 の 場 合 を 中 心 に 一
すべての定義がそうであるけれども,およそある実体について,それをど のように定義づけるかは,定義者の問題意識と,対象実体自体の社会的機能 や構造の,その時々の状況によって左右される。本稿の対象であるコンビニ エンス・ストアについても例外ではない。
現段階において,わが国のコンビニエンス・ストアの特性を,その実態か ら帰納して一般的に規定することは,その歴史の浅さからして未だ適当では ない。しかし,政策当局による,わが国の事情に即した「望ましいコンビニ エンス・ストア像」の提示は,一つの手懸りを与えてくれる。その要点は次
(1)
のごとくである。
( 1 ) 住宅地周辺に立地 ( 2 ) 300m 環 下 の 小 型 店 舗
( 3 ) セルフ販売可能な生鮮食料品,一般食品,雑貨,軽衣料,薬化粧品,
(1) 中小企業庁,コンビニエンス・ストア・マニュアル,昭和 47.3.pp.11‑12
4 ( 2 3 0 ) コンビニエンス・ストア(荒川)
•クバコ酒など緊急に頻繁に要求される最寄品中心の品揃え ( 4 : ) セルフ・サービス方式を採用
( 5 ) 営業時間が,当該地域の他店舗より長く,時には年中無休
( 6 ) 従業員は店主(ないし店長)と若千名の店員で賄う省力型経営で,チ ーム交替制やパートタイマーの利用を考慮
( 7 ) フランチャイズ・チェーン方式を賑々導入 ( 8 ) 顧客との親密な人間関係の確立を志向
上述の各項を総合的にみれば,一応コンビニエンス・ストアの機能的・構 造的特性は次のように定式化することができるであろう。
( 1 ) チェーン・オペレーション,特にフランチャイズ式集中管理指導によ る各店舗経営効率の向上を志向
( 2 ) セルフ・販売方式による省力化と自由選択の保証 ( 3 ) もより品中心の限定的品揃え
( 4 : ) 長時間営業
( 5 ) 狭い地域(供給範囲)内での稲密な店舗展開
これに基きコンビニエンス・ストアの定義らしきものを構築するとすれ ば,「コンビニエンス・ストアとはボランクリー・チェーンという準垂直的 統合による協同組織を基盤として,フランチャイズ・チェーンにみられる強 力な集中管理方式と単位店舗における営業業務の簡約化・体系化を導入し て,経営効率の向上をはかった食品中心のミニ・スーパーマーケット・チェ ーンである。」とすることができよう。
ところが,最近においては,コンビニエンス・ストア方式は,単にフラン チャイズ方式を採用する任意連鎖店を基盤として展開するのみでなく,むし ろ正規連鎖店がその単位店舗の一部分をもってコンビニエンス方式に切換え
(2).
る傾向がかなり顕著にあらわれてきている。このような事実を踏まえるなら (2) 最近の顕著な事例としては奈良地区における「近商ストア」のコンビニエンス
・ストア展開計画がある。この計画では展開するコンビニエンス・ストアを 3 つ
のクイプに分け,売場面積200m2クイプは直営店とし 10om2, 50m2 の両クイプ
はフランチャイズ・チェーンとすることになっている。 (日本経済新聞,昭和49
年 8 月 29 日夕刊)
コンビ•ニエンス・ストア(荒川)
( 2 3 1 ) 5 ば,上述の定義の内,「ボランタリー・チェーンという準垂直的統合による協 同 組 織 を 基 盤 と し て , フ ラ ン チ ャ イ ズ ・ チ ェ ー ン に み ら れ る 」 の部分は「垂 直 的 統 合 組 織 な い し 準 統 合 に よ る 協 同 組 織 を 基 盤 と し て , 強 力 な 集 中管理方 式と……」というように変更する必要があるように思われる。
換 言 す る な ら ば , 現 在 わ が 国 の コ ン ビ ニ エ ン ス ・ストアには会社形式のも の と ,フランチャイズ形式のものと 2 つの種類があると解するべきである。
しかし以下の論述は,後者のタイプに考察を限定して行なわれる。 な ぜ な ら , 硯 在 ま で の 発 展 過 程 に 関 す る 限 り , 後 者 の ク イ プ が典型的でありかつ成
(5)
功しているからである。
コ ン ビ ニ エ ン ス・ストアの硯段階での成果の最も顕著なものは,その驚く べき「生産性」の達成である。それは次の表からも明かであろう。
コンビニエンス・ストア 食品小売業平均( S . 4 7 ) 中小スーパー ( S . 4 6 ) ( S . 4 7 )
従業員 1 人当年売上 1 6 , 6 3 7 千円 6 , 6 3 5 8 , 8 3 0 従業員 1 人当総利益 2 , 2 9 8 1 , 4 6 2 8 8 4
彩
売上高対当期利益率 4 . 4 7 2 . 6 1 . 0 売上総利益対総経費率 7 9 . 9 9 3 . 0 9 6 . 5
(資料「日本コンビニエンス・ストア経営指標」 1 9 7 2 版より算出)
(3) アメリカでもこの 2 類型があり,それぞれ利害得失をもっている。わが国で は,ポランタリー・チェーンが,その加盟店をコンビニエンス・クイプに転換さ せるという経過が典型的に進行した。 K .マート・チェーンはその最も先進的かつ 成功した例である。この場合ポランタリー・チェーンとフランチャイズ方式,そ れにコンビニエンス・クイプとの関係をどう考えるかが大きな問題となる。一応 は,組織としてポランタリー・チェーン,取引契約形態としてフランチャイズ,
小売店舗営業形態としてコンビニエンス・ストアという整理が行なわれているよ うである。本稿での以下の考察は,このようなコンビニエンス・ストア・チェー ン全体を対象としている。すなわち,フランチャイズ契約で集約され管理される コンビニエンス・ストアのチェーン・システムを考察対象としているのである。
(河村嘉一郎「コンビニエンス・ストア・チェーン」三上,田島,西沢編集『卸
売業の経営戦略』第 V 巻『システムヘの挑戦』昭和4 9 , 同文館, pp.125‑135 参
照 )
6 ( 2 3 2 ) コンビニエンス・ストア(荒川)
このような成果を賓らした要因が何であるかを明確に証明する情報は与え られていないが,これが,戦略的意思決定と共同処理可能な管理業務の本部 への集中と各店舗での省力化努力,それに的確な品揃え形成を基礎にしてい るとみることは恐らく大きな誤りでないであろう。しかし,品揃え形成の持 つ生産性向上への効果は,省力化努力ほど顕著なものではない。現在コンビ ニエンス・ストアの品揃構成は尚模索の城を脱していない。例えばアメリカ 合衆国のそれに比し,わが国の場合,生鮮食料品の取扱は不可欠となってお り,その比重,その販売伸長率の何れについても,ますます重要性を増しつ
(4)
つある。例えば現在,わが国のコンビニエンス・ストアの単位店舗の品揃品 目数(アイテム数)は売場面積120m2 の中型店で約 1 , 6 0 0 であるが生鮮食品 の比重は,その店舗の立地場所にもよるが,多い場合売上高の42 彩,品目数
(5)
の 1 4 彩強を占める場合も見られる。しかも今後のコンビニエンス・ストアの 品揃の最重点商品として野菜,肉,果物,塩千魚介が指摘され,生鮮品の比
(8)
重が増大することを方向づけている政策当局の示唆もあるのである。このよ うな傾向と政策的誘導とは,実は,当初導入段階よりも,若干の実際の運営 経験を経て,わが国の消費者欲求ないし需要構造への適合の必要性から重視 されとりあげられるにいたったもので,これが売場面積に占める比重も,例 えば約 1 5 彩という数値が示されており,アメリカの場合と異なった状況を示
(7)
している。これらの諸点を考え合わせると,わが国でのコンビニエンス・ス トアの品揃えにおいて生鮮食品の取扱をどうするかは決定的に重大な意思決 (4) コンビニエンス・ストア開発会議『日本コンビニエンス・ストア経営指標』
1 9 7 2 年版
(5) 中小企業庁,「ポランクリ・チェーンにおけるコンビニエンス・ストアの導入 と展開』 p . 2 1 。
(6) 同上 p . 2 1 ,総理府家計調査年報を基礎として①最重点商品に野菜,食肉,飲 物,果物,塩干魚介類,③次位商品に乳卵,パン,乾物,加工食品,菓子,調味 料,日用雑貨,薬粧品を挙げている。
(7) コンビニエンス・ストア開発会議『日本コンビニエンス・ストア経営指標』
1 9 7 2 年版, p . 1 7 , アメリカでは 8 9 彩である。
コンビニエンス・ストア(荒川) ( 2 3 3 ) 7 定問題となるように思われるが,何れにしても,なおいまだこの点について ある種の結論が得られている段階ではないことを指摘せざるをえない。
こういった品揃え戦略上の模索状況に基くものと思われる問題的な事態 は,売場面積単位当り売上げは,一般食品店や中小スーパーに比し却って低 いといった数値が調査結果から導き出されていることにも表われているとい
(8)
ってよい。
わが国のコンビニエンス・ストアが直面している現段階での問題的事態,
そして同時にその特性を構成する事態は,時間帯別顧客数変化にみられる。
即ち,コンビニエンス・ストアの急成長を示したアメリカ合衆国では,コン ビニエンス・ストアは,正規の連鎖店スーパーの営業時間外の緊急な需要に 適合し,正規スーパーとの微妙な補完関係を設定することによってその地位 を確立した。しかしわが国のコンビニエンス・ストアでは,顧客の時間帯別 来店状況は,一般のスーパー店の場合と殆ど同一のパターンを示している。
午前10 12 時,午後 3 5 時に来店ピークが集中し,長時間殊に,夜遅くま
(9)
での営業に対するメリットは,あまり顕著には現われていない。 こ の 事 態 は,わが国のコンビニエンス・ストアに求められる便宜性ないし便利さのう ち,長時間営業や手近さの重要性が相対的に低い状態におかれていることを 示唆しているとも解される。ここにわが国におけるコンビニエンス・ストア の在り方に対する一つの問題性がひぞむものと考えてもよいであろう。
コンビニエンス・ストアの特性を構成する構造的要素としては,狭い地域 における桐密な店舗展開があげられているが,わが国での店舗展開状況は,
直接比較する資料はないが,アメリカ合衆国のそれに比し当然かなり稲密で
( 1 0 )
あり,後者の場合ー店当り世帯数が約4,000 ほどであるに対し前者の場合,
(8) 同上『経営指標』 p . 3 9 , 坪当り月商食料品小売4 0 . 2 千円に対しコンビニ店約 2 0 0 千円。
(9) 同上経営指標 pp,10 11 のデークでみるかぎり午後 7 時代以降の来客比率は,
一日来客総数の 5 %に満たない。
( 1 0 ) 日本コンビニエンス・ストア開発会艤, JICSNEWS 2 0 , 1 9 7 3 . 1 1 . p . 3 .
8 ( 2 3 4 ) コンビニエンス・ストア(荒川)
( 1 1 )
いわゆる 500m 商圏内世帯数は,平均して 2 , 0 0 0 前後となっている。しかも関 西と関東とでは,その分布密度にかなりの差がある。これは,当然のことと して,コンビニエンス・ストアの各単位店舗のおかれる競争条件の差異をも 伴なうものである。すなわち,関東では, 500m 商圏内における競合店舗な いし販売施設数は,平均してスーパー 1 . 8 , 市場 0 . 4 , 食品店 3 . 2 , 魚肉野菜 専業店 2 . 8 であるが, 関西では,それぞれ 0 . 4 , 1 . 1 , 1 . 3 , 1 . 1 となってい
( 1 2 )
る。店舗展開の密度は,競合店の分布,買物行動特性によって規定される が,各単位店舗の店舗規模の設定によっても相互に影響し合う関係にある。
関西の方が店舗展開密度が競争関係的にみて,低いのは,実は平均店舗規模
( 1 3 )
が関東のそれより大きい(平均30 坪以上)ことにも由来すると考えてよい。
こういった,地域による特性の実態の差異ないし多様性は,本来地域密着型 組織体であるべきコンビニエンス・ストアにおいては,むしろ当然のことで あろう。しかし,このような地域差にどう対応していくかは,特定のコンビ 二・ェンス・ストア・システムが全国チェーンを展開する段階に到達すると,
経営戦略的にも重要な考慮点として登場することになると思われる。
以上,流通末端における複合的流通組織体の最も顕著な形態としてコンビ ニエンス・ストアをとりあげ,その特性を,わが国の事情に即して一般的に 定式化し,現段階的定義を与えたのち,その顕著な成果の指標としての,労 働生産性,価値生産性の驚異的な高さを確認すると共に,このような成果と 結び付く,コンビニエンス・ストアの特性の重要なるものにつき,利用可能 な情報の限度において,その実態を検討し,合わせて若千の問題性の所在を 示唆しようと試みた。
この試みを通じて明かになったことは,わが国のコンビニエンス・ストア は現在の段階において,主としてその労働生産性において驚異的な成果を達 成しているけれども,その成果を賓らした主要因がいかなるものかについて
( 1 1 ) 『日本コンビニエンス・ストア経営指標』 1 9 7 2 年 版 , p . 3 . ( 1 2 ) 同上, p . 7 .
( 1 3 ) 同上, p p .6 7
コンビニエンス・ストア(荒川) ( 2 3 5 ) 9 の明確な証拠は尚未だ得られていないこと,そして,コンビニエンス・スト
アの一般的特性のそれぞれについて,なお新型組織体の成長の初期段階に一 般的にみられる各種の矛盾性・問題性を包蔵しているらしいことである。コ ンビニエンス・ストアの驚異的成果は,徹底した省力化と,意思決定および 管理業務の本部への集中化によるチェーン・オペレーションと,品揃えの的 確性とからもたされたものであることは,一応の結論として指摘して間蘊い でないであろうけれど,長時間営業の効果や,類似店舗施設との潜在的顕在 的競争の相対的激しさ,それに結付く店舗展開戦略などにおいて,問題性が 強く包蔵されているといわざるを得ないのである。
では,このような複合的流通組織体は,今後その存続成長過程においてい かなる軌跡を示すことになるであろうか。このような問題に直接答えること は,現在の段階では,情報の不十分さの故に殆ど不可能に近い。しかし,ゎ れわれは,或種の思考枠をこの問題にあてはめることによって,存続成長の 動向について,その基本的方向と,その直面する問題の性格について,極め て基礎的な考察を展開することは不可能ではないと考える。以下は,コンビ ニエンス・ストアを直接の事例とした,このような基礎的考察の枠組と,そ れによる考察の若干の結果を示そうとする試みである。
3 . コ ン ビ ニ エ ン ス ・ ス ト ア の 社 会 的 機 能 の 確 認
新しい「実体」ないし「社会制度」が登場した場合,その将来について何 等かの展望を得るためには,その実体や制度が充足を志向するところの,社 会的機能を確認することが有効である。それは如何なる実体や社会的制度も 必らず,期待される特定の社会的機能の遂行のために形成されるものである からである。このような接近法は,通常「機能主義」の総称の下に包括さ れ,事態の本質認識の努力を忘れ事態廣連の科学的把握を逆転させるもので
( 1 4 )
あると批難されがちであるけれども,ある種の実体や社会制度そのものに即 ( 1 4 ) 例えば,森下二次也「マーケティング経済論の対象と方法」,森下二次也監修
『マーケティング経済論」上巻,昭和 47 年 , ミ ネ ル ヴ ァ 書 房 pp.1012.
1 0 ( 2 3 6 ) コンビニエンス・ストア(荒川)
して,その展開の方向と,その変貌について系統的な認識を構成するために は,ある歴史的時点での特定の形式にこだわるのでなく,その形式が志向す る社会的機能そのものを確認することからはじめる方がヨリ有効で,しかも 動態的な認識を得易いということも否定できない。
コンビニエンス・ストアについて,それでは,このような意味における
「社会的機能」は,どのようなものとして把握されうるのであろうか。コン ビニエンス・ストアは,明らかに現段階における商業機構の構成要素の 1 つ である。しかもそれは,特にその単位店舗は,商品流通の末端組織の 1 つと して機能している。このことは,コンビニエンス・ストアの社会的機能を商 業のそれとの関連において,否むしろその一環を構成するものとして認識し 措定することの必要性を意味している。
商業の社会的機能を,使用価値としての商品の社会的移動の媒介という側 面で,比較的技術論的に規定すれば,それは「欲求充足可能性の正味増大を
(15)
齋らすような商品取揃え構成の形成」であるととらえることができよう。そ のために,商業機構は,商品構成の量・質・時・空的変換操作を専門に行な う多数多様の組織体の連瑣網によって構成される。小売商業の場合,問題と なる「欲求充足」は,いうまでもなく,最終消費者(個人および世帯)のそ れである。最終消費者は,他の流通段階や,生産段階を構成する需要単位と は異なり,経済的機能達成に専ら志向し従ってそれに基く特定かつ明確な経 済的欲求に特化した需要単位ではなく, むしろ「生活者」として,経済的
・社会的・文化的さらには生物的な欲求を不可分に結合した複合的・多次元
的欲求体系を持っている。このような複合的・多次元的欲求は,単に各種の
末端流通組織体の提供する特有の品揃え形成のみを通じてでなく,多彩異質
な各種の用役を提供する社会制度や実体によっても,総合的に充足されなけ
ればならない。この意味において,小売商業段階即ち流通末端での諸種の組
( 1 5 ) このことは,現代マーケティング論に共通の基礎認識である。この考え方を
明確に定式化に提示した最初の業績は, W. A l d e r s o n , Marketing B e h a v i o r
and E x e c u t i v e A c t i o n , 1 9 5 7 である。
コンビニエンス・ストア(荒川) ( 2 3 7 ) 1 1 織体の社会的機能は,「特有の品揃え形成を通じて,複合的。多次元的な消 費単位の欲求の特定部分を充足することにある。」と規定することができる であろう。そして「欲求の特定部分」とは,包括的に表現すれば,「生活の 便利さ」ということになるであろうっ小売段階の流通組織体が,直接,充足 しようとする消費単位の欲求休系の「部分」は,勢力欲求でも蓄財欲求で も.あるいは生活価値欲求でも,さらにはもっと浩在的な感情欲求でもな い。それはどこまでも有用物としての生産物の利用や消費から直接もたらさ れる「生活の便利さ」である。
「生活の便利さ」はそれ自休多様な次元を持っている。小売組織休がその 充足を志向する生活の便利さの次元は,大別して ( 1 ) 近さ ( 2 ) 能率 ( 3 ) 豊かさに分
( 1 6 )
けられる。
( 1 ) の近さは,更に距離,時間,および社会的・心理的親近性といった下位 次元を持つ。この場合,小売組織休との対応で具休的に内容を特定化すれ ば,消費単位がその欲求充足を期待して獲得しようとする特定の財・用役の 集合が,近距離の,或いは時間的に手近な小売組織体を通じて,その販売員 や経営者との親密な関係の持続のもとに入手し得るということとなる。
( 2 ) の能率は,更に例えば,特定の財およびその集合の使用上の便利さ・容 易さ.低費用での入手可能性,およぴ適時適質適量に必要な財が迅速に入手 し得ることなどをその内容として包摂している。すなわち使用上の便宜,低 費用低価格,有効性という下位次元を持って.いるのである。
( 3 ) の豊かさは.多様性,大量性,自由性,心理的余裕など,最も特定化し 難い多数の下位次元を内包している。小売組織体との対応で特に意味を持つ
( 1 6 ) 厳密にいえば,複合的内容を持つ概念の次元設定は,各次元ができる限り「直
交」するように行なわれなければならない。それゆえ本来ならば「生活の便利
さ」について消費単位の持つ知覚構造に関する経験的デークを収集し.それを数
学的に解析することによって直交次元の軸を検出するという手続きが必要であ
る。しかし,ここでは,全く先験的に,筆者の直観による次元設定が行なわれて
いる。このような次元設定が果して科学的に妥当であるか否かは,将来の経験的
デークの収集分析をまって判断するほかはない。
1 2 ( 2 3 8 ) コンビニエンス・ストア(荒川)
のは,品揃の多様性・大量性と選択の自由性であろう。
「生活の便利さ」は以上のように多様な次元の複合休をなすものと想定さ れるのみでなく,此等次元や,各次元に内包される便利さ要素の比重や相互 の関連は,その極限においては,個人により又時間により,さらにはその個 人のおかれる情況によって多彩に変化するのみでなく,消費単位のライフ・
サイクル上の位置づけにおいても,また地域別の生活様式の差異との対応に おいても,所属社会階層の如何によっても,さらには,国や地域における経 済構造や社会的・文化的・歴史的な異質性によっても多様な変貌をみせる。
しかし,本稿は,このような多様性を経験的に確認することを課題としてい
( 1 7 )
るわけではない。われわれはここでは,多様性の存在と,特定の情況下にお ける,求められている「生活の便利さ」を具休的に把握する経験的調査と解 析が,真に特定の小売組織体の社会的機能を確認しようとする場合には不可 欠であることを銘記指摘するだけでよい。
ところで,基本的に近さ,能率,豊かさという 3次元から構成される「生 活の便利さ」欲求は,現実には,各種の形態と作用様式を持つ小売組織体に よって,特定の対応のされ方をしている。ヨリすなおな表現をするならば,
既存の小売組織休の特定の類型は,特定の「便利さ」の次元に対応し,その
1
次元の欲求を充足すべく機能しているのである。これは特にわが国におい て,いくつかの経験的調査とその解析によって礁聡せられているところであ
(18).
る。その対応とは,(1 )近さに対しては「伝統的小売店」,(2 )能率に対しては
「スーパー」,( 3 )豊かさに対しては「百貨店」と「専門店」という組合わせ
( 1 7 ) 注 ( 1 6 ) でも指摘したように経験的デークの収集分析による仮説の検証は必要で ある。消費単位のもつ「生活の便利さ」欲求の構造は,それ自体が複雑であるの みでなく,ここに挙げた種々の外生要因によっても多様化する。これを科学的な 手法によって確謁するという作業は早急に着手されねばならない。そうでなけれ ぱ,ここで説かれている議論は,いつまでも「お話」の域を脱することはできな いであろう。
( 1 8 ) 倉敷市広域商業診断推進協議会, r 倉敷市広域商業診断報告書」,昭和 4 7 . 2 . p p .
4647, この分析は神戸大学田村正紀助教授によって行なわれたものである。
コンビニエンス・ストア(荒川) ( 2 3 9 ) 1 3 である。
この対応の特徴は,「便利さ」の各次元に 1:1 の関係になっていること である。しかし,前節で特定化したコンビニエンス・ストアの「一般的」特 性,その機能と構造は,明らかに,複数の「便利さ」次元との対応を,少な くともその可能性において,志向していることを示している。このことは,
コンビニエンス・ストアが,既に,硯実において,従来から存在する「伝統 的小売店」,「百貨店」,「・スーパーマーケット」とは異なる複合的機能の達成 を志向する組織体であることを示している。と同時に,この事実は,コンビ ニエンス・ストアが今後とも追求すべき,その社会的機能が,複数次元にわ たる多様・多角的な生活の便利さの提供, ヨリ厳密には,そのような生活の 便利さを,消費単位が享受する高い可能性を,提供するところにあることを 意味している。
しかしながら,.硯実に,コンビニエンス・ストアが提供している「便利 さ」の次元は,店舗展開の稲密性による距離的近接性,長時間営業による時 間的近接性,セルフ方式と品揃集約による低費用性,チェーン・オペレーシ ョンによる集中的統合管理に基く生産性の高さといった,「近さ」と「能 率」次元にとどまっている。コンビニエンス・ストアの社会的機能を,この ような次元にのみ限定して理解するならば,「豊かさ」次元と「能率」次元 とを同時提供する機能を持つ新しい小売組織体の出現を期待する必要が生じ る。しかし,コンビニエンス・ストアは,その機能に「豊かさ」を加えるこ とができないとする根拠は今のところ明確にはみあたらない。
われわれにとって重要なことは,コンビニエンス・ストアの登場展開にみ られる複合機能志向小売組織休の登場と,それが,コン ヒニエンス・ストア の顕著な成果にみられるように,ある程度消費単位の欲求複合化に適合し,
受け容れられつつあるという事実とである。ここに,コンビニエンス・スト アの今後の発展のための「機会」が存在するし,また一般的に,複合機能志 向小売組織休の急速かつ多彩な展開を可能にする基盤があるとみてよい。
しかし「機会」や「基盤」があるということと,硯実に複合機能小売組織
1 4 ( 2 4 0 ) コンビニエンス・ストア(荒川)
休が発展するということとは別のことがらである。硯実の発展は,各種の新 しい小売組織体の(その多くは,複数店舗を構成要素とする連合組織の形態 をとるであろうが)もつ組織形態,その支配し得る資源の態様,そしてそれ をとりまく諸種の環境要因の交錯によって規制されてくる。このような要因 が如何なるものであり,如何なる関連において新しい複合的小売組織体の発 展に規制的影響を及ぼすか。これを解明するという課題は,容易には達成さ れない。コンビニエンス・ストアを直接の事例として,この課題への,有効
と思われる一つの接近法とその結果を提示するのが次節の主題である。
4 . コ ン ビ ニ エ ン ス ・ ス ト ア の 発 展 を 規 定 す る 諸 要 因
ここでのコンビニエンス・ストアは,特定の個別組織体を想定するより も,ある種の類型としての存在を想定する。このようなコンビニエンス・ス トアは,それ自体「社会的制度」としての存在であると同時に, あ る 種 の
「システム」を形成しているものととらえられる。
( 1 9 )
システムは,相互行為謁連におかれた多数要素の複合体であると通常いわ れるが,このようなシステムは,さらにそれと相互に襲わりあう一定の喋 境を持っている。システムの存続成長の態様は,システムの内部における構 成要素の相互行為開連の編成と,システムと環境との間の相互関連の態様に よって規定される。それゆえ,システムの存続成長,ないしは発展の動向に ついて,何等かの洞察を得るためには,(1 )システム内構成要素の相互行為関 連 ( 2 ) システムから痕境への働らきかけの関係 ( 3 ) 環境からシステムヘの影響 ( 4 ) 瑛境自体の内部諸要因およぴその相互関係という 4つの領域における動向を
( 2 0 )
究明しなければならない。
( 1 9 ) Ludwig v . B e r t a l a n f f y , G e n e r a l System T h e o r y . 1 9 6 8 , 1 9 7 1 , c h a p t e r 3 .長野敬,太田邦昌訳,一般システム理論,昭和 4 8 .みすず書房, p . 5 1 , ( 2 0 ) F . E . Emery and E . L . T r i s t , The C a u s a l T e x t u r e o f O r g a n i z a t i o n a l
E n v i r o n m e n t s , 1 9 6 5 , i n F , E , Emery ( e d . ) , S y s t e m s T h i n k i n g , 1 9 6 9 .
p . 2 4 3 . 参照。
コンビニエンス・ストア(荒川) ( 2 4 1 ) 1 5 コンビニエンス・ストアもその一類型であるところの「流通システム」に ついて,以上の如き問題領域は,環境およびシステム内を,さらにいくつか
( 2 1 ) の下位部分に分割することによって次の如く設定されうる。
シ ス テ ム 環 境
9 のも閃 I 意思決定 1 組 織 構 造 政 策 1 課 業 1 制 約 シ 操作そのもの S 1 S 1 S1S2 S 1 S a S1E1 S1E2 S1E3 ス 意 思 決 定 函S 1 S 2 S 2 函S a S2E1 S 五 2 S 共 3 テ ム
組 織 構 造 函S 1 I 函S 2 函S 3 s3E1 s3E2 S8E3 環 政 策 恥 S 1 E1S2 恥 S 3 恥E1 恥E2 恥E3 課 業 恥 S 1 恥 S ' 2 恥 S 3 E 述1 恥E2 恥E3 境 制 約 EaS1 恥 S 2 恥 S 3 恥E 1 EaE2 恥E3
上表において [SS] および[EE] の格子の集合は,それぞれシステム内,
現境内の相互関連である。ここにおいて,主対角線上の格子, S 1 S 1 , S 2 S 2 , S ふ , 恥E 1 , E ぶ 2,E3 恥,はこのままでは自己回帰関連であって,考察をこ の集計レベルに限定するかぎり意味を持たない。 [ES][S E] の格子の集合 は,それぞれ環境からシステムヘの影響,システムから環境への働きかけを 表わしている。
ある流通システムないしある類型のそれの存続成長に関する洞察は,まず 上表における各格子の内容を構成する事態を確認することを出発点として構 成されることとなる。これをいま,コンビニエンス・ストアについて試みる のが本節の主要作業である。考察の重点は,[ ES][S S] 格子におかれる。
その理由は [SE] 格子の実態はなお S の発生後の存続期間が短いので把握可
( 2 1 ) この表は,田村正紀「流通システム論の課題」,京都ワークショップ,「マーケ ティング理論の硯状と課題」,昭和 4 8 , 白桃書房所載の流通システムの一般図式 に提示されている環境要因,システム構成要因を用いたものである。この流通シ ステムの一般図式は,久保村隆祐,荒川祐吉編著『商業学』昭和 4 9 , 有斐閣,
p.87 .図 2‑3 に再硯されている。
1 6 ( 2 4 2 ) コンビニエンス・ストア(荒川)
能な状態において十分の情報が与えられていないこと,[ EE] は,それ自体 としては,さし当って直接の影蓉を持つとは考えられないことにある。
[ES] 格子は,環境がコンビニエンス・ストアに与える影蓉である。これ を明かにするにはまず瑛境要因として,有意の影響をもつと想定されうるも のを特定化し,その内容を確認して,その影響を推測するという手続が必要 である。コンビニエンス・ストアに即したこのような環境要因は,政策要因 としては,( 1 )大規模小売店舗法・中小小売商業振興法の制定施行および各種 の中小商業振興策の実施,(2)流通システム化政策,課業環境要因としては,
( 1 ) 消費者行動,(2 )供給者行動,制約環境要因としては,(1 )競争構造,(2 )技術 進歩に集約することができよう。
大規模小売店舗法は,大規模小売店舗と規定せられた小売組織体に対し,
店舗新設,売場拡張,営業時間設定等に関し,中小小売商との競争条件の適正 化を図る観点から規制を加えようとするもので,届出,変更命令,改善勧告 の形でそれを制御し,その調整制御の実務は直接的には各地商工会議所に設 置される商業活動調整協議会に,そして全国的には大規模小売店舗審誤会に
( 2 2 )
担当させようとするものである。これは明かに大規模小売組織体の成長を抑 制する効果を持ち,スーパーや百貨店との競合度の大きいわが国のコンビニ エンス・ストアにとっては有利な効果を持つものと期待されうる。
中小小売商業振興法は,特定連鎖化事業の促進のために強力な指導・資金
( 2 3 )
援助を行なうことを,高度化事業計画の一喋として規定しており,フランチ ャイズ・チェーンの展開には直接有利に作用すると期待できる。
この他中小商業振興策として挙げられている木材・食料品流通合理化政 策,ボランクリー・チェーン,フランチャイズ・チェーン育成のための啓蒙
( 2 4 )
活動や実態調査の実施などは,間接的ではあるが,やはり促進的効果を持つ ( 2 2 ) 昭和4 8 年1 0 月 1 日,法律第1 0 9 号,「大規模小売店舗における小売業の事業活動
の調整に関する法律」,
( 2 3 ) 昭和48 年9 月29 日,法律第1 0 1 号,「中小小売商業振興法」
( 2 4 ) 国会(第7 2 回)提出資料,「昭和49 年度において講じようとする中小企業施
策」第 2 章第 4 節 , pp.1112.
コンビニエンス・ストア(荒川) ( 2 4 3 ) 1 7 であろう。
流通システム化政策は昭和 44 年以来わが国流通政策の中軸を形成するもの
( 2 5 )
であるが,その実施計画は若干の重要な計画を示している。まず,チェーン
•オペレーション・システムの推進計画がとりあげられ,その政策プログラ ムとして,ボランタリー・チェーン,フランチャイズ・チェーンの普及,中 小スーパーの普及,無人店舗の開発普及が提示されている。普及プログラム の内容は,マニュアル作成,指導,融資を主柱として構成されている。これ らの政策プログラムは,全休としては,コンビニエンス・ストアの発展に有 利に作用するものとみられるが,特に注目せねばならぬのは,無人店舗の開 発である。完全無人店舗と自動販売機型無人店舗との 2 類型が想定されてい
( 2 6 )
るが,無人店舗の開発が「経済的に」成功して実施に移される場合,コンビニ エンス・ストアが,これをどのように自己の販売方式の内部に組込み得るか が,鍵であろう。もし無人店舗方式のチェーン・オペレーションが,全く別 個の組織休として登場した場合,硯在コンビニエンス・ストアの持っている 有利な特性の大部分が喪われる恐れがないとはいえない。
実施計画の第 2 の重要な政策としては,人材開発計画がある。これは単に コンビニエンス・ストアのみでなく一般に商業従業員の質的向上に連なると いういみでプラスの効果を期待できるが,コンビニエンス・ストアの高い生 産性が,省力化の徹底とともに従業員の販売技術の高度化に依存することが 特に大きいと考えられる点からいえば,これは特に強い剌激剤となろう。
第 3 の注目すべき政策は,流通情報ネットワークの整備である。この政策 は実態調査,モデル化,流通情報センクー設置の 3 プログラムから構成され ( 2 5 ) 通商産業省産業政策尾編,「流通システム化実施計画」,昭和4 8 , 1 2 , 大蔵省印
刷 尾 第 6 表および第 4 章I I , 第5 ,6 , 7 章参照のこと。‑
( 2 6 ) 無人店舗システムは,そのハードの開発にも巨額の資金を必要とし,最近まで
「経済採算的」にはなお近い将来現実化する可能性は大きくないというのが常識
であった。しかし最近のニュースでは三菱重工と八百半スーパーとの共同で開発
された無人店舗システムはコストを}命近くに圧縮することに成功したといわれて
いる。
1 8 ( 2 4 4 ) コンビニエンス・ストア(荒川)
ているが,特にモデル化の成果は,コンビニエンス・ス トアにも有利に作用 するものと思われる。チェーン・オペレーションの効率化のためには,いわ ゆる POS システムを軸とする組織体内情報システムの整備が不可欠である が,ことにコンビニエンス・ストアの高い効率は,従来からも流通経営情報 システムの整備とそれに支えられた戦略的意思決定の的確性に依存するとこ ろが大きいだけに,この政策プログラムは有用な効果をもたらすであろう。
課業喋境要因として コン ヒニエンス・ストアにとって特に重要なのは,
消費者(単位)行動である。消費者行動はそれ自体極めて多くの次元を持っ
( 2 7 ) '
た複雑な事象であるが,比較的最近の動向中,コンビニエンス・ストアの発 展に影響を持つと思われる若干の事象を挙げると次のごとくになろう。
( 1 ) 多目的買物行動の増大 ( 2 ) 郊外集団居住地の急展開 ( 3 ) いわゆる「車社会」の形成 ( 4 ) 価値観の変化と多様化
・ ( 1 ) は本稿の頭初に指摘した欲求複合化に対応する消費者行動の発硯形態で ある。殊に,買物のみならずレジャー,食事,ビジネス,コミュニティ活動
( 2 8 )
を総合して一回の出向で欲求充足を達成しようとする傾向が特徴的である。
しかもこの傾向は単に都心買物中心に就いてのみでなく,近隣買物中心やコ ミュニティ・センクーについても同様に見られる。このような多目的買物行 動の増大は,コンビニエンス・ストアの今後の立地や営業方式に重要な影響 を持ちそうである。店舗展開戦略における近隣ショッピング・センクーの重 要性,「ついで買い」を有効に生かすような品揃や接客方式の工夫の必要性
( 2 7 ) 消費者行動の複雑性は,ここ数年急速に展開している理論的経験的調査の蓄積 によって明かにされている。その概観は,たとえば,荒川祐吉,「買手行動研究 の諸形態とその展望」.日本商業学会絹,「マーケティングと消費者」,昭和 4 5 , pp.136.田村正紀,「消費者行動分析」,昭和4 7 , 白桃書房を参照のこと。
( 2 8 ) 田村正紀,「商業複合化時代の到来」, SHOPAGE, V o l . I . N o . 2 . 昭和 4 9 年 7
月号参照。
コンビニエンス・ストア(荒川) ( 2 4 5 ) 1 9 について慎重な検討が必要となると思われる。
( 2 ) は ( 1 ) とも結合して,やはり店舗立地,店舗密度設定戦略において,コン ビニエンス・ストアにとって都合の好い環境を提供するものとみてよいであ ろう。
( 3 ) は直接的には,コンビニエンス・ストアといえども駐車施設整備に対す る配慮が不可欠であることを意味するのみでなく,車社会における消費者の 便利さ欲求の発硯形態を確認し,これに適合した店舗配置を考慮することの 必要性を示唆するものである。
( 4 ) は直接消費者欲求の各次元の要素とその関連の様式を変化せしめる。い わゆる成長至上,モーレツ志向から,人間性回復,生活のゆとり志向への推 移は,恐らく「便利さ」に対する消費者の知覚構造を変化させ,コンビニエ ンス・ストアの提供する機能に対する評価をも変質させることになるであろ う 。
課業環境要因の今ひとつのものである供給者行動については,特に寡占製 造企業のチャネルボリシーの展開や,卸売業界におけるいわゆる市場構造の 動向などが重要なものであるが,此等の要因のコンビニエンス・ストアヘの 影響は主として主宰企業(特定の卸売企業ないし製造企業)を遥じてのもので あり,コンビニエンス・ストア・チェーンヘの加盟店ないし単位店舗にとっ ては間接的になるので,ここではこれ以上立入っての検討は省略しておく。
勿論供給者行動が重要でないというわけでなく,むしろコンビニエンス・ス
( 2 9 )
トア存立前提に深刻な影響を持つ可能性があることは否定できない。
制約環境要因のうち競争構造はさらに,コンビニエンス・ストア間の競争 の動向,百貨店,スーパー,専門店,一般小売店等小売段階の異型態組織体
( 3 0 )
との競争の動向にわけて検討する必要がある。
( 2 9 ) たとえば,コンビニエンス・ストアに適した形態の商品開発は,わが国ではな お遅れているといわれる。これがコンビニエンス方式の展開にやはり制約を与え ることになることは容易に理解できよう。
( 3 0 ) 異型態間競争の特質については,荒川祐吉,「小売商業構造論」,昭和 3 7 , 千倉
書房, pp.163167 参照。
2 0 ( 2 4 6 ) コンビニエンス・ストア(荒川)
コンビニエンス・ストアは,現在その・ライフ・サイクル上ではせいぜいの ところ尚導入期から成長期への移行期にあるとみてよい。ここでは組織体数 も少ないし,相互の競争は熾烈ではない。しかし,スーパーマーケット・チ ェーンが硯在までに経験したような激烈な競争,その結果としての寡占化と 中小スーパーの系列化といった状況は, スーパー業界とは異なった形で登場 する可能性がある。全国的なチェーン展開を達成した少数のコンビニエンス
・ストア組織体相互の競争や,それぞれの比較的狭い領域内における中小コ ンビニエンス・ストア単位店と此等全国組織単位店との競争などが出現し,
特に後者のケースでは,競争の結果がもたらす中小ストアヘの影響は深刻な ものとなろう。
異型態間競争では,特にスーパーとの対抗が問題である。頭初に論じたご とく,小売組織休は如何なる形態のものであれ,消費単位の「生活の便利 さ」欲求の充足を志向する「社会制度」である。従来の伝統的小売店,百貨 店,スーパーが,便利さの重要次元に 1: 1 で対応した機能を果していたこ とは事実であるが,此等伝統的小売組織体が,複合的機能,欲求の複数次元 の同時充足を志向するように自らの機能と構造を創造的に変化させないと想 定する理由は何もない。現実に此等は営業形態を多角化し,できる限り,
「近さ」,「能率」,「豊かさ」を同時に充足し得る方向へと自らを変貌せしめ つつある。このような異型態間競争の同質化傾向に対応して,コンビニエン ス・ストアが その稲密な店舗展開とチェー ノ・オペレ ‑ : ノョンを軸とする
「近さ」欲求と「能率」欲求への適合という差別的有利性をどこまで維持し 拡大し得るかは大きな問題となろう。
いまひとつの制約環境要因である技術進歩では,流通情報システムのハ←一
ドとソフトの開発や,自動化配送システムの導入などは,明らかにコンビニ
エンス・・ストアの効率向上にプラスの効果を持ち得よう。しかし先にも指摘
したように無人店舗システムは,その組入れ方如何によってはコンビニエン
ス・ストアの有力な武器になる可能性と同時に,最も深刻な競争相手となる
危険性がある。さらに重要なことは,流通における技術進歩は,もしそれを
コンビニエンス・・ストア(荒川) ( 2 4 7 ) 2 1 導入しようとするならば,必然的に固定投資の規模を増大させ資本の「有機 的」構成を高度化させることである。このことは,資本力の強い組織休とそ うでない組織体との格差を増大させ,競争を媒介として,コンビニエンス・
ストア組織体間の階層分化,支配従属関係の強化をもたらすことを意味して いる。
[ES] 関係の概括的分析は以上の如くであるが,コンビニエンス・ストア は,それ自体として誠に特異な組織持性を持っている。いまさら指摘するま でもないが,われわれがここでコンビニエンス・ストアと呼ぶとき,問題と しているのは,個々の単位店舗ではなく,そのチェーン・システム全休を想 定している。このようなコンビニエンス・ストア・チェーンは,それがまさ に複合的機能を志向する小売組織体であるだけに,それに適合した複合的組 織を持っているのである。
具休的にいえば,それはシステムとして,次のような構造特性を持つとい ってよいであろう。
( 1 ) 最小構成要素としての主導企業ないし主導店と加盟企業ないし加盟 店 。
( 2 ) これらを構成要素として,これら構成要素の機能・組織の全部又は一
( 5 1 )
部にわたる協同関係の設定による契約システムの形成。
( 3 ) この契約システムのうち,特にその協同関係において,特殊な内容を 付加(たとえばフランチャイズ)することを通して構成され一般にヨリ 高度な協同を志向する特殊集団(コンビニエンス・ストア・チェ.,‑ン)
の存在。
( 4 ) 構成要素における機能の異質性の存在とそれを前提とした協同関係の ( 3 1 ) この項は,ボランクリー・チェーンを基盤として形成されるコンビニエンス・
ストア・チェーンの場合にあてはまるものである。しかし,正規連鎖店を基盤と
する場合でも,コンピニエンス・ストア・チェーンが,その連鎖店チェーンの単
位店舗の全部についてでなく,特定部分を抽出して形成される場合には‑'事態は
同じことであり,協同関係が契約システムでなく,本部と営業所という関係にな
るだけである。
2 2 ( 2 4 8 ) コンビニエンス・ストア(荒川)
設定。具体的には主導企業は卸売機能,加盟企業は小売機能に特化して いるが,これを前提とした協同関係の設定が志向されている。
ここから明らかなことは,コンビニエンス・ストアは,異質機能構成要素 から成る多階層システムであるということである。このようなシステ・ムにお いては,一般に,システム全休として最適性を達成することは極めて困難で
( 5 2 )
あるとされる。いまこのことの詳細かつ理論的な解析を提示する紙幅もな く,又そのこと自体を本稿は目的としていないが, ヨリ具休的なレベルにお いて,異質多階層システムとしてのコンビニ エンス・ストアの持つ組織的統 合性の確保との関係において指摘される困難性は次のごとく示されよう。
( 1 ) システム全休としての紘合的意思決定と構成要素の自律的意思決定と の調整
( 2 ) 統合的管理の有効性確保と構成要素数の増大の必要性との調整 ( 3 ) 特殊集団と一般の契約システムとの間の組織衝突の危険性の調整 ( 1 ) は具体的にはコンビニエンス・ストアの本部の集中的意思決定およびそ れへの加盟店の順応の必要性と,加盟店の自主的・創造的意思決定とそれに 基く独自行動とをどのように調整し適合させるかの問題である。本部に戦略 的決定を集中し,戦術的対応は加盟店の自立に委せるというのは通常とられ うる方式であり,戦略的意思決定に加盟店代表を積極的に参加させる方式も 有効であろうが,加盟店のコンビニエンス参加度 (加説店全取扱商品中コン ビニエンス本部から供給されるものの比率などで指標化されうる)が低い場 合は,意思決定衝突の調整はそれだけヨリ困難になるであろう。
( 2 ) は通常の「制御スパンと制御階層数」の問題の拡張として考えられてよ い。統合管理を徹底させるためには,その下に編成せられうる加盟店の数に ( 3 2 ) 多階層システムにおける最適性達成の可能性の問題は,システム論における一 つの基本的課題である。この課題への論理数学的接近の成果は一部次の書物にお いてみられる。
M. D . M e s a r o v i c , D . M a c k o , Y . T a k a h a r a , Theory o f H i e r a r c h i c a l
M u l t i l e v e l S y s t e m s , 1 9 7 0 , 研野和人監訳,「階層システム論」,昭和4 9 年 , 共
立出版,
コンビニエンス・ストア(荒川) ( 2 4 9 ) 磁 は限度がある。 コンビニエンス・ストアのある組織体が店舗展開範囲を全国 に拡張しようとする場合,このような制御スパン限界の存在の故に,恐らく 多段階の管理階層を設定せざるを得ないであろう。しかし管理段階数が増大 すればするほど ( 1 ) に示した意思決定の統合性の確保,意思決定衝突の極小化 は困難になり,指令の徹底度は低下し,システムとしての統合力は弱休化す る ( : 5 )
( 3 ) はコンピニエンス・ストアの基盤となっているボランクリー・チェーン の一般加盟店と,集団に組込まれた店との間の感情的要素も含めた利害衝突 のみでなく,ボランクリー・チェーン・システム自体の運営と,コンビニエ ンス・ストア集団の運営との間の調整や,この両システム間の組織衝突をど のように処置すべきかといった形で出現する。これについては,本稿が扱っ ている程度の粗い考察段階では何等かの定式的命題を提示することはでき ない。しかし,ここに,コンビニエンス・ストアに固有の調整問題があるこ とを特に指摘しておく必要があると考える。
以上のような組織的統合性にかかわる一般的な衝突協調関係上の困難性の 存在とともに,このような衝突関係や協調関係の実態や, 衝 突 ・ 協 調 の 程
( 3 3 ) これと関連して,むしろ制約要因としてとりあげねばならぬと思われる問題点' をここで指摘しておくことが必要であろう。中小企業庁の指摘によれば,標準的 コンビニエンス・ストア・チェーンとして,売場面積 1 5 0 r r : ! , 年商8,000 万円の単 位店舗 30 店から構成されるものを想定している。この規模のコンピニエンス・ス トア・チェーンは人口2 0 万程度の住宅地に 1 つ以上はなりたつとされている。し かしながら,コンビニエンス・ストア・チェーンの組織としての統合性を阻害し ないためには,単位店舗に規模を含めた格差ができるだけ少ない店舗を揃えなけ ればならない。とすれば, コンビニエンス・ストア・チェーンの発展限度は,一 応静態的な観察からいえば,ここに示されている程度の店舗数が全国で何店ある かによって与えられる。この限界は案外低いところにあると予想される(計算し てみればわかることであるが,ここでは行なっていない。)ただコンビニエンス・
ストアに加盟したりそれに包摂させられた店舗は,そのこと自体によって急成長
し得るのでこの限度は若干高くなると思われるが,いずれにしてもコンビニエン
ス・ストア・チェーンの展開は,適格店舗の面から限界に行きあたるときがくる
であろうことは,確かであろう。
2 4 ( 2 5 0 ) コンビニエンス・ストア(荒川)
度,したがって,その調整のために有効な手段方策は,当該組織がどのよう なライフ・サイクル上の位置にあるかによって変化することに注意しておく 必要がある。例えば, ライフ・サイクルの初期において, 未だ十分協調関 係が確立されていない段階では,相対的に加盟店に有利な誘因が主宰企業に よって提示される必要がある。しかしシステムが成熟し協調関係が定着すれ ば,主宰者側はその「熟練ないし専門家的能力」をある種の制御力として行 使することによって,特別に大きな犠牲を伴なう誘因の提供なしに協調関係
(34)