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[書評] 清水宗一著『資産原価配分論』

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[書評] 清水宗一著『資産原価配分論』

その他のタイトル [Book Review] Soichi Shimizu, The Theory of Allocation of Assets Cast, 1967.

著者 山桝 忠恕

雑誌名 關西大學商學論集

巻 13

号 3

ページ 298‑303

発行年 1968‑08‑25

URL http://hdl.handle.net/10112/00021255

(2)

94 (298) 

清水宗一著

『 資 産 原 価 配 分 論 』

山 桝 忠 恕

関西大学教授清水宗一氏が『資産原価配分論』という好著を世に問われたことは,

学界にとっても,きわめて喜ばしいことであると言わねばなるまい。同書は,前著

『商業会計』(昭35.ミネルヴァ書房)における思考を着実に発展させることによって,

42年の初頭に公刊を見たものであり,当時ただちに読後感を記したく思いながらも,

身辺の繁忙に取紛れて執筆の余裕を見出しえないまま,ついに今日に至った。したが って,その間に1年余の月日が既に経過してしまっているけれども,同書の場合には,

もともと基本原理を取扱っていることでもあり,今後ともかなり長期にわたり斯学の 研究者を稗益する点が少なくない労作のひとつであると思えるところから,なお書評 の対象として取上げておくだけの価値がじゅうぶんにあろう。

重ねて要請を受けたのを機会に,以下,ごく簡単にではあるが,逐次章を追いつつ 同書の内容を紹介するとともに,若干の私見を書き綴ることにしたい。

II 

まず,第1 2

 

章にあっては,主題とする資産原価配分論の基礎として会計公準の 問題をとりあげ,メイの会計公準論とペイトンのそれとを考察している。つまり,著 者は,それら会計公準論を資産原価配分論展開の足場とすることの理由について,「資 産原価の配分ほ,単純に機械的に行なわれるものではなく,人為的なものであり,ま た,種々の慣習や前提によって支配されているので,筆者は,基本的仮定である会計 公準を解明することから出発して,資産原価配分という主題に接近しようと試みるの である」⑲2ページ)と言っている。

そして,メイの会計公準論についてほ,その公準親自体に触れたのち,永続性の公 準,実現の公準,および貨幣の公準を順次とりあげるとともに,公準論の展開を,(1)

(3)

清水宗一著「資産原価配分論」(山桝) (299) 95  成立期,(2)整備期,および(3)再検討期の三期に区分しつつ,各公準の内容の推移を克明 にたどることにより,それらが,原価主義ないし修正原価主義の基盤たりえているか どうかを仔細に吟味している。また,ペイトンの会計公準論についても,公準論の展 開を,(1)初期,(2)『会社会計基準序説』の時期,および(3)『序説』以後の時期の三期に区 分したうえ,貸借対照表に重点をおく初期の公準論と配分思考との関係,損益計算書 に重点をおく時期の公準論と配分思考との関係を究明して,犀利な批判を加えている。

このように,公準相互の関係に留意するとともに原価配分との関係を意識しつつ,

公準論を立体的に分析していることは,本書のすぐれた特微のひとつをなすものとし て,まずもって注目される点である。この傾向は,前著『商業会計』にあっても,ぁ る程度までうかがわれたものの,公準論から出発して原価配分問題に迫ろうとする著 者の意図は,本書に至ってほぼその達成を見るに至っているものと言えよう。

Ill 

つぎに,第3 5章では,資産原価配分論の重要な柱のひとつを形成する棚卸資産 原価の配分の問題を取上げ,まず第3章で棚卸資産原価配分の成立過程を歴史的に解 明している。すなわち著者は,配分思考の発達を阻害していたものに棚卸評価思考が あるとし,その普及の跡をあとずけるとともに,棚卸資産原価配分思考の生成要因を 探求し, 19世紀における株式会社の発達に伴なう収益力資料への関心の芽ばえ,工場 制工業の発生に伴なう原価計算の発展を,その刺激要因と認め, 1929年の恐慌を契機 とする収益力の重視をもって,前近代的な評価思考から近代的な原価配分思考への転 換に決定的な役割を果した要因と看倣している。

このような史的考察ののち,著者は棚卸資産原価の配分理論に関する考察へと進み,

原価配分論の視角からメイとペイトンの棚卸資産会計論を取上げ,初期から最近にい たる彼らの理論の展開を仔細にあとづけている。著者によれば,利益概念との関連に おいて配分方法を理解しようとするのが前者であるのに対し,後者は特定の配分方法 を擁護することなく各方法の得失を認識しようとするものであるという。また,前者 が低価法を動態会計的に理解する考え方に立っているのに反し,後者は低価法をまっ た<否定する考え方に立っているともいう。

すなわち,前者についてほ,その初期の後入先出法鍛が,損益計算書重視の立場に 必ずしも徹底しておらず,貸借対照表の観点からの後入先出法の弱点を認めるもので あったのに対し,最近の後入先出法銀では経済的利益すなわち実質利益の概念を表わ

(4)

96 (300)  清水宗一著「資産原価配分論」(山桝)

すものとしてそれを理解するに至っている反面,貸借対照表の観点からの後入先出法 の欠点にはまった<眼を閉じてしまっている,と批判している。また,前者では,有 用原価 (useful cost)の概念を援用することによって低価法に理論的根拠を与えよう とする試みをもって,近代的動態論的な理論づけである,と評価するとともに,彼が 試みている保守主義的見地からの低価法擁護論について,低価法の適用の結果が損益 計算の見地から真に保守的であるかどうかの考察を怠っている,と論評している。

また後者については,物価騰貴を背景として,彼の先入先出法支持論,後入先出法 反対論の論調が漸次弱まってぎていること,個別法観,平均法観にも微妙な変化が兆 しはじめていることを指摘し,「これらの方法の得失が損益計算噌的見地からばかりで なく,貸借対照表的見地からも,しばしば強調されているのであり,そこからは,損 益計算書重視の思想どころか,資産表示的貸借対照表観すら感得され,アメリカ的動 態論の不徹底な一面をうかがい知ることができる」 (123ページ)と結んでいる。

さらに,第6 8章においては,資産原価配分論のいまひとつの重要な領域である 設備資産原価の配分の問題を取上げ,まず第6章では,減価償却制度の成立過程を歴 史的にあとづけている。すなわち,原価計算の発達,株式会社の成熟,企業合同,所 得税法の制定ならびに戦時高率課税などの刺激的要因が継起したことのために,また 損益計算書の第一次的重要性が認められ,原価の強調を見るようになったことのため に,原価の償却こそを意味するような近代的意味の減価償却制度が第一次大戦の終結 までに成立を見たとする。なお,鉄道および公益企業部門の場合には,種々の要因に よってこの減価償却制度の成立がかなり遅れるに至ったことの経緯をも,詳細に描写 して余すところがない。

このような史的考察ののち,ここでも著者は,設備資産原価配分の観点からメイの 減価償却論とペイトンのそれとを対比させ,前者については,目的を異にすれば種々 の財務諸表がもともと必要であり,異なる作成目的のために同一の会計手続が一様に 適切であるはずがないという事実認識に基づいて,減価償却の目的に応じて配分方法 の選択適用を説く彼の考え方をもって,確かに卓見であると看倣しつつも,実践可能 性や便宜性のゆえに現実においては異なる目的のために異なる会計手続を用いること ができない場合もあるというのは,彼のそのような立論の某礎に,限界が存すること を物語っていると批判している。

(5)

清水宗一著「賓産原価配分論」(山桝) (301)  97  また,後者については,その配分観が原価の配分だけでなく価値の配分をも含むも のであることを指摘する。また,各企業の実情や設備資産の種類に最もよく適合する 配分方法の選択適用ということに留意することにより,各方法の適用可能性の限界を 鋭く衝く,彼の配分方法論をもって,有意義な所論であると看倣しつつも,なお若干 の批判をもそれに加えている。

このように,本書が学説の解釈と批判とを通じて棚卸資産と設備資産との原価配分 方法のそれぞれの特徴を克明に検討していることは,今後の配分方法の研究に,極め て有益な示唆を与えずにはおかないであろう。しかも,さらに著者は,第9 11章に おいて,価格変動と資産原価配分という問題をも取上げ,原価主義を修正し補充する ことや時価主義を採用することが,資産原価配分論の見地からどのように考えられる べきかを論究している。

まず第9章では,原価主義が実践のなかにあまりにも深く根をおろしてしまってい るところから,変動会計の研究もさして大きな影響を実務に与えてはいないことを,

貨幣価値変動会計の動向を回顧することにより論証している。そして,そのような動 向に関する検討をふまえつつ,現在一般に認められている慣行を尊重することと矛盾 しない形でもって変更を受入れることができるかどうかという角度から,貨幣価値変 動会計の理論に検討を加えているわけである。

著者によれば,歴史的原価を一般物価指数でもって修正するという方法であれば,

原価の配分や期間利益の計算に貨幣価値の変動を反映させるだけであって,原価主義 に立つ原価配分自体は拒否されることになり得ないとし,その意味において原価主義 修正論的減価償却論や統一ドル会計報告論でありさえすれば,著者としても支持でき るとする。またペイトンが示している妥協法についても,著者は,この方法が原価に 基づく減価償却を存続させつつ時価償却を取入れるわけであるから,原価主義を離脱 して時価主義に転換することに対する非難を免がれることができるとして,賛意を表 している。著者のこのような考え方は,現実の貨幣価値変動会計制度の動向について の省察に根ざすかのようであり,このところ急速に台頭を見つつある時価論に対して,

逆に反省を促しているものとも言えよう。

(6)

98 (302)  清水宗一著「資産原価配分論」(山桝)

VI 

以上,同書の内容を,多少の私見をまじえながら要約してきたわけであるが,本書 の貢献の第一ii,資産原価配分論の構成のうちに,会計学における動的理論の内容的 な検討を企てようとしている点にある。会計をもって評価の過程ではなくて原価なら ぴに収益の期間配分の過程であるとする米国的な思考が,会計理論の発展に大きな影 響を与えてきていることほ,周知のところであるが》にもかかわらず原価配分の立場 から本書ほど徹頭徹尾これをあとづけた著作は,当の米国にあっても見受けられない。

その意味で,資産原価配分の見地から会計学上の基本的な諸問題を統一的・一元的に 考察し,それらを理論的に解明しようとしている本書の意義ほ,甚だ大きい。

本書の貢献の第二は,資産原価配分という主題の解明にあたり,直観的にその解答 を提示するという安易な途をとることなく,研究の中心点を代表的学説に求め,それ らの精緻な比較検討を通して客銀的な解答を抽出しようとしている点にある。おそら くは,かのエドワーズ=サルモンソンの共同編述になる『フォア・アカウンティング

・パイオニィアースーーコーラー, リトルトン, メイ,ペイトン一』 (1961)の存 在が,著者の脳裏に去来していたのであろう。著者は,この4名のなかの3名,わけ てもあとの2名を選抜のうえ姐上にのぼせ,それぞれの学説を文献史的に考察すると ともに,独自の解釈と批判とを精細に展開している。学説研究の対象が限定されてい るにしても,米国会計学説に関するこれほど地道な研究は,これまでのところ現われ ていない。脚注も極めて忠実・丹念に添えられており,本書ほ会計学説史の領域にお ける真摯な研究書としても,またじゅうぶんに存在意義をもっ。

しかし,このように優れた内容の本書にも,欠点が全然ないというわけではない。

つまり,本書というのほ,資産原価配分に関する制度的・歴史的考察と学説的研究と がその主な内容をなしているわけであるが,それだけにまたそれらをふまえたうえで のこのテーマ自体に関する著者の総合的な考え方を打出した論文こそを,ぜひとも期 待したいものである。もちろん本書の各章に盛られている論述のなかから,ある程度 までは著者自身の見解を読みとることも可能ではあろう。しかし,著者の包攘する積 極的な主張を,いま少し大胆に表明することにより,意図や論旨がいっそう明確にな るはずである。本書が,「価格変動と資産原価配分」の部をもって終ってしまっており,

「総括と展望」の一章を欠いているのは,本書が稀に見る力作であるだけに,かえす がえすも残念なことである。清水教授の精進に対して重ねて深甚の敬意を表するとと

(7)

清水宗一著「資産原価配分論」(山桝)

もに,なお追補の機会を鶴首したいと思う。

(.303)  99 

(A 5判・24Sペ ー ジ 昭 和421月 森 山 書 店 1,000

参照

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