グ リ コ ペ プ チ ド 系 抗 菌 薬 を 投 与 中 に 検 出 さ れ た vancomycin intermediate Staphylococcus aureus の臨床微生物学的解析
1)近畿大学医学部附属病院中央臨床検査部,2)同 安全管理部(現 関西医科大学感染制御部)
3)同 薬剤部,4)同 救命救急センター,5)近畿大学医学部血液・膠原病内科,
6)同 呼吸器・アレルギー内科,7)同 臨床検査医学,
8)近畿大学医学部附属病院 Infection Control Team
戸田 宏文
1)8)山口 逸弘
1)8)宮良 高維
2)8)久斗 章宏
3)8)松島 知秀
4)8)嶋田 高広
5)8)佐野 博幸
6)8)中江 健市
1)上硲 俊法
1)7)(平成 24 年 5 月 9 日受付)
(平成 24 年 8 月 1 日受理)
Key words : vancomycin intermediateStaphylococcus aureus, cell wall thickness
要 旨
Methicillin-resistant Staphylococcus aureus(MRSA)は,病院感染の主要な原因菌の一つであり,その治 療薬である vancomycin(VCM)の低感受性化は MRSA 感染症にとって脅威である.今回われわれは,グ リコペプチド系抗菌薬を投与中の患者から検出された vancomycin intermediate Staphylococcus aureus
(VISA)3 株の臨床微生物学的解析を行った.症例 1 は感染性心内膜炎の血液培養,症例 2 は術後肺炎の吸 引痰培養,症例 3 は化膿性脊椎炎の血液培養から検出され,いずれの症例も長期間のグリコペプチド系抗菌 薬の投与が行われていた.これらの VISA3 株は細胞壁の肥厚が認められ,症例 1 と症例 3 より分離された VISA についてはパルスフィールド電気泳動,ならびに VCM に対するポピュレーション解析により,初回 に検出された MRSA が治療経過に伴い耐性化していた.また,これらの VISA3 株を VCM 不含培地で継代 培養することにより,細胞壁の肥厚に変化は認められなかったものの症例 2 と症例 3 より分離された VISA は MIC の低下が認められた.今後は MRSA の VCM に対する耐性化を抑制する抗菌薬の投与方法の検討も 必要と考える.
〔感染症誌 86:734〜740,2012〕
序 文
JANIS 院内感染対策サーベイランス1)による報告で は,全病原菌の中で methicillin-resistantStaphylococcus aureus(MRSA)の 分 離 率 は 9.1%,罹 患 率 も 4.96‰
と調査対象となっている薬剤耐性菌の中で最も多く,
病院感染の主要な薬剤耐性菌のひとつであることが伺 える.本邦における MRSA に対する抗菌薬療法は,グ リコペプチド系抗菌薬の vancomycin(VCM)が標準 的 な 抗 菌 薬 療 法 の ひ と つ で あ り2),VCM 耐 性 化 は MRSA 感染症にとって脅威である.一方,近年 VCM の MIC creep に関する報告3)が散見されるが,これは
MIC 2μg!mL 以下での耐性側へのシフトであり,MIC 4μg!mL 以上を示す MRSA の検出は稀である.
今回,グリコペプチド系抗菌薬の投与中に検出され た VCM の MIC が 4μg!mL を示した vancomycin in- termediate Staphylococcus aureus(VISA)3 株につい て,臨床微生物学的解析を行ったので報告する.
材料と方法 1.症例ならびに使用菌株(Table 1)
①症例 1 : 66 歳,男性.
現病歴:転落による多発外傷.
VISA 検出までの経緯:入院後 1 カ月半後の平成 22 年 1 月 8 日,吸 引 痰 培 養 と 血 液 培 養 か ら MRSA
(VSSA-1 ; VCM MIC:≦1μg!mL)が検出されたため,
1 月 9 日から VCM 1.0g!day(0.5g×2)が投与された.
原 著
別刷請求先:(〒589―8511)大阪府大阪狭山市大野東 377―2 近畿大学医学部附属病院中央臨床検査部
戸田 宏文
Table 1 Study isolates, susceptibilities, and clinical features
Isolate Infection Isolated
specimen
Glycopeptide therapy
(days) MIC (μg/mL) forb
VCMa TEICa VCMa TEICa
VSSA-1
Endocarditis Blood
34 ― <=1 <=0.5
VISA-1 Blood 4 4
VISA-2 Post operative pneumonia Sputum 11 33 4 8
VSSA-3
Deep abscess Blood
14 11 1 <=0.5
VISA-3 Blood 4 2
aVCM, vancomycin; TEIC, teicoplanin
bVancomycin and teicoplanin MICs were determined by broth microdilution in VITEK2
投与 4 日目のトラフ値は 1.6μg!mL と低値を示し,1 月 14 日から 2.0g!day(1.0g×2)に増量が行われた.
増量後のトラフ値においても 7.3μg!mL と低値であ り,1 月 20 日に再度増量が行われ 3.0g!day(1.0g×3)
の投与となった.再増量後のトラフ値は 18.7μg!mL と上昇が認められたが,当院におけるトラフ目標値上 限の 15.0μg!mL を上回っていたため,同日から 2g!
day(1.0g×2)に減量が行われた.この間血液培養か ら MRSA の検出は認められなかったが,減量後 7 日 目 の 2 月 4 日 の 血 液 培 養 か ら 再 度 MRSA(VCM MIC:2μg!mL)が検出されたため,VCM に arbekacin
(ABK)200mg!day(200mg×1)が追加されたが,血 液培養 の MRSA は 消 失 し な か っ た.VCM は 2 月 6 日,ABK は 2 月 7 日に中止され,2 月 8 日からは line- zolid(LZD)1,200mg!day(600mg×2)が 投 与 さ れ たが,血液培養の MRSA は消失しなかった.2 月 25 日からは VCM 3.0g!day(1.0g×3)が再投与され,VCM 再投与後 6 日目の 3 月 1 日に採取された血液培養から VISA(VISA-1 ; VCM MIC:4μg!mL)が検出された.
VISA 検出後は LZD 1,200mg!day(600mg×2)が再 投与されたが MRSA の陰性化は認められなかった.感 染源精査において大動脈弁に疣贅が認められ,感染性 心内膜炎および大動脈弁閉鎖不全の診断のもと,4 月 13 日に大動脈弁置換術が施行された.術後は血液培 養の MRSA は陰性化し,その後は経過良好で 5 月 17 日退院となった.
②症例 2:78 歳,男性.
現病歴:胸腹部大動脈瘤に対して人工血管置換術後 の術後肺炎症例.
VISA 検出までの経緯:平成 22 年 5 月 18 日,腹部 大動脈に対して人工血管置換し,人工血管脚から胸部 大動脈瘤に対してステントグラフト内挿術を施行し た.術後 13 日目の 5 月 31 日に発熱を認め,VCM 2.0 g!day(1.0g×2),imipenem!clastacin(IPM!CS)1.0 g!day(0.5g×2)が投与された(IPM!CS は,MRSA が起炎菌のため 3 日間で終了).同日の喀出痰培養と
血 液 培 養 か ら は,MRSA(喀 出 痰 か ら 検 出 さ れ た MRSA の VCM MIC:≦0.5μg!mL)が検出された.
VCM のトラフ値は 9.1μg!mL と適正濃度域をわずか に下回っていたため,6 月 5 日には VCM 3.0g!day(1.0 g×3)に増量されたが,血液培養の MRSA は消失し なかった.血液培養の MRSA に加えて吸引痰培養よ り緑膿菌が優位 に 検 出 さ れ た た め,6 月 10 日 に 抗 MRSA 薬を teicoplanin(TEIC)に変更し,初期投与 量 800mg!day(400mg×2),維持量 600mg!day(200 mg×3)で投与が開始され,緑膿菌に対しては 6 月 13 日から IPM!CS 1.5g!day(0.5g×3)が再投与された.
TEIC の ト ラ フ 値 は 13.1μg!mL と 適 正 濃 度 域 で は あったが,血液培養から MRSA は消失しなかった.7 月 5 日にはトラフ値 19.6μg!mL と高値を示し,400mg
!day(200mg×2)に減量が行われた.IPM!CS につ いても緑膿菌に対する臨床効果が認められず,7 月 8 日から cefepirom 2.0g!day(1.0g×2)に変更された.
VISA は TEIC 投与開始後 33 日目(減量後 7 日目)の 7 月 12 日の血液培養ならびに吸引痰培養から検出さ れ た MRSA の う ち,吸 引 痰 培 養 の MRSA が VISA
(VISA-2 ; VCM MIC:4μg!mL)を示した.VISA 検 出後は,TEIC と LZD の併用療法や ABK の投与が行 われたが,MRSA の消失は認められず,VISA 検出 から 63 日目に肺炎,及び敗血症にて永眠した.
③症例 3:77 歳,男性.
現病歴:左上顎癌術後の外来経過観察中の発熱.
VISA 検出までの経緯:平成 23 年 2 月 14 日,敗血 症よる多臓器不全の診断のもと,VCM 1.0g!day(0.5 g×2),tazobactam!piperacillin(TAZ!PIPC)13.5g!
day(4.5g×3)が投与され,2 月 17 日には TAZ!PIPC が dripenem(DRPM)1.0g!day(0.5g×2)に変更 さ れ た.2 月 14 日 の 血 液 培 養 に て MRSA(VSSA-3 ; VCM MIC:1μg!mL)が検出されたため,DRPM は 2 月 21 日で中止された.2 月 17 日の VCM のトラフ 値は 5.8μg!mL と低値を示し,1.5g!day(0.5g×3)に 増量が行われた.増量によりトラフ値 13.6μg!mL と
適正濃度域で推移したが,血液培養の MRSA は消失 しなかった.2 月 28 日にはトラフ値 34.7μg!mL と高 値を示し,さらに薬疹の出現,腎機能の悪化が認めら れたため,4 日間の休薬後,3 月 4 日に中止となった.
3 月 5 日からは LZD 1,200mg!day(600mg×2)が投 与されたが,長期使用による骨髄抑制が出現したため に 3 月 22 日で中止となり,続いて 3 月 24 日からは ABK200mg!day(200mg×1,隔日投与)に変更され た.4 月 15 日には炎症所見の増悪,ならびに腎不全 の悪化が認められ,再度抗菌薬の変更が行われ,TEIC が初期投与量 800mg!day(400mg×2),維持量 300mg
!day(150mg×2)で投与された.血液培養の MRSA は,上述した抗 MRSA 薬使用においても消失しなかっ た.VISA(VISA-3 ; VCM MIC:4μg!mL)は TEIC 投与から 11 日目の血液培養から検出された.感染巣 精査において,化膿性脊椎炎が認められたため,VISA 検 出 後 は,TEIC に 加 え て 組 織 移 行 性 の 優 れ た trimethoprim-sulfamethoxazole,fosfomycin および ri- fampicin が順次併用されたが血液培養の MRSA は消 失しなかった.その後,カテーテル関連のカンジダ血 症を併発するなどして全身状態が徐々に悪化し,VISA 検出から 68 日目に永眠された.
検討に用いた菌株は,当院の薬剤感受性検査システ ム VITEK 2(シスメックス)において VCM の MIC が 4μg!mL と判定された症例 1,2 および 3 から得ら れ た VISA の 3 株(各 々 VISA-1,VISA-2 お よ び VISA-3)を使用した.症例 1 と症例 3 については,各 症 例 の 初 回 に 検 出 さ れ た VCM 感 受 性 MRSA 株
(VSSA-1,VSSA-3)についても臨床経過中の比較と して対照菌株に用いた.透過型電子顕微鏡による菌体 細胞壁の計測では,Staphylococcus aureusATCC 29213
(以下 ATCC 29213 株)も対照菌株として用いた.
2.各種方法での vancomycin ならびに teicoplanin MIC 測定
vancomycin ならびに teicoplanin の MIC 測定は,全 自動細菌検査 装 置 VITEK 2 の 薬 剤 感 受 性 カ ー ド AST-P526(シスメックス)(以下 VITEK 2 法)なら びに薬剤感受性試験用 Etest(同上)(以下 Etest 法)
を用いた.VCM に関しては Clinical Laboratory and Standards Institute(CLSI)標準法による測定も行っ た(以 下 CLSI 法)4).す な わ ち VCM 最 終 濃 度 が 0.063〜64μg!mL の 2 倍希釈系列となるよう調製した 液体培地(Cation-adjusted Mueller Hinton broth)中 に,生菌数が約 5×105cfu!mL となるように試験菌株 を接種し,好気的に 35˚C で 24 時間培養後,生育が認 められていない最小濃度を MIC とした.なお,カテ ゴリーの判定は CLSI M100-S215)に従い行った.
3.vancomycin に対するポピュレーション解析
血液寒天培地(日水製薬)にて前培養した被検菌を 1.0×106cfu!mL に 調 整 し,そ の 菌 液 を 0〜10μg!mL の VCM を 含 有 し た Brain heart infusion agar
(BHIA)にスパイラルプレーターを用いて定量塗抹 し,37℃ 48 時間培養後,生育したコロニー数を計 測した.
4.van 遺伝子解析
VISA の 3 株については,van遺伝子の確認を SRL に 委 託 し た.vanA,vanB,vanC1,お よ びvanC2!3 のプライマーを用いて PCR 法にて確認した.
5.パルスフィールド電気泳動(PFGE)解析 症例 1 と症例 3 の初回検出の MRSA 株(VSSA-1,
VSSA-3)ならびに VISA 株(VISA-1,VISA-3)につ いて PFGE 解析を行った.PFGE 解析は SRL に委託 し,制限酵素はSmaI(Roche)を用い,パルスフィー ルド電気泳動装置は CHEF-DRII(BIO-RAD)を使用 した.得られたバンドパターンは,Fingerprinting II
(BIO RAD)を用いて解析した.
6.透過型電子顕微鏡による菌体細胞壁の計測 透過型電子顕微鏡を用いて菌体細胞壁の厚みを計測 した.計測は被検菌株の細胞標本写真 10 枚について 時計の目盛と同様の間隔で 12 箇所計測し,合計 120 箇所の平均値を被検菌株の細胞壁の厚みとした.
7.継代培養による菌体細胞壁と VCM 感受性の変 化
VISA3 株について BHIA にて 10 日間継代培養後,
透過型電子顕微鏡を用いて菌体細胞壁の厚みを計測し た.VCM 感受性については,VITEK 2(シスメック ス)にて測定した.
結 果
1.各種方法での vancomycin ならびに teicoplanin MIC 測定
VITEK 2 法,Etest 法および CLSI 法による VCM に対する MIC は,VISA-1 はそれぞれ 4μg!mL,8μg
!mL お よ び 4μg!mL,VISA-2 と VISA-3 は,い ず れ も 4μg!mL であった.一方,VITEK 2 法,Etest 法 による teicoplanin(TEIC)に対する MIC は,VISA- 1 はいずれも 4μg!mL,VISA-2 はいずれも 8μg!mL,
VISA-3 はいずれも 2μg!mL であった.
2.vancomycin に 対 す る ポ ピ ュ レ ー シ ョ ン 解 析
(Fig. 1)
VCM に よ り 増 殖 が 完 全 に 阻 止 さ れ る 濃 度 は,
VSSA-1 は 4μg!mL,VISA-1 は 7μg!mL,VISA-2 は 6μg!mL,VSSA-3 は 2μg!mL,VISA-3 は 6μg!mL で あった.症例 1 ならびに症例 3 の VISA の発育曲線は,
初回検出の VCM 感受性株(VSSA-1,VSSA-3)と比 較して耐性側にシフトしていた.
3.van遺伝子解析
Fig. 1 Population analysis of VISA strains VSSA-1 and VSSA-3.
Fig. 2 Transmission electron micrographs of (a) S. aureus ATCC29213, (b) VSSA-1, (c) VISA-1, (d) VISA-2, (e) VSSA-3, and (f) VISA-3
VISA3 株 は い ず れ もvanA,vanB,vanC1 お よ び
vanC2!3 遺伝子を保有していなかった.
4.PFGE 解析
症 例 1 な ら び に 症 例 3 の そ れ ぞ れ の 初 回 検 出 MRSA と VISA は,同一の泳動パターンを示した.
5.透過型電子顕微鏡による菌体細胞壁の計測(Fig.
2)
VISA-1,VISA-2 および VISA-3 のそれぞれの株の 細胞壁の厚みの平均は,それぞれ 37.5nm,38.6nm お よび 31.9nm であった.対照とした ATCC 29213 株,
ならびに初回検出の VSSA-1,VSSA-3 の細胞壁の厚 みは,それぞれ 20.3nm,21.6nm および 25.4nm であ
り,VISA の 3 株は ATCC 29213 株と比較して厚い 細胞壁を有し,また初回検出株と比較して VISA-1 は 1.7 倍,VISA-3 は 1.3 倍に肥厚していた.
6.継代培養による菌体細胞壁と VCM 感受性の変 化(Table 2)
VISA-1,VISA-2 および VISA-3 の細胞壁の厚みの 平均は,それぞれ 39.7nm,34.0nm および 31.7nm で あ っ た.VCM の MIC は,そ れ ぞ れ 4μg!mL,2μg!
mL および 2μg!mL であった.
考 察
今回,MRSA 感染に対してグリコペプチド系抗菌 薬を投与中に検出された VISA に関して臨床微生物学
Table 2 Comparison of cell wall thickness and MIC for vancomycin after 10 days
Strain cell wall (nm) MIC (μg/mL)b vancomycin
VISA-1 37.5 4
VISA-1 [P10a] 39.7 4
VISA-2 38.6 4
VISA-2 [P10] 34.0 2
VISA-3 31.9 4
VISA-3 [P10] 31.7 2
a [P10], on brain heart infusion agar for 10 days
bVancomycin MICs were determined by broth mi- crodilution in VITEK2
的解 析 を 行 っ た.VISA は,1997 年 に Hiramatsu ら によって VCM の MIC が 8μg!mL の MRSA Mu50 株 として初めて報告されて以降6),現在では世界各地か ら VISA の報告がある7)8).本邦においては 2006 年に CLSI の VCM 中等度耐性のブレイクポイント9)が 8μg
!mL から 4μg!mL に引き下げられたことを受け,1978 年 か ら 2005 年 に 国 内 の 17 医 療 機 関 で 収 集 さ れ た 2,446 株の MRSA を再調査したところ,5 株の VISA が認められたことが報告されている10).
VCM の薬剤感受性検査については,測定法により 1〜2 管程度のバラツキがあることが報告され,特に CLSI 標準法の微量液体希釈法と比較して VITEK 2 は 1 管低めに,Etest は 1 管高めの MIC を示す傾向 があることが報告されている11).筆者らの VISA3 株 については,いずれの測定法においても MIC が 4μg!
mL 以上を示したことから VISA と確定した.VISA が検出される臨床的危険因子については,VCM の曝 露に加えて,基礎疾患として悪性腫瘍,糖尿病,腎不 全および大手術歴があり,更に心内膜炎,深部膿瘍,
および人工関節に対するグリコペプチド系抗菌薬によ る治療失敗例が VISA 検出の危険因子になるとされて いる12).筆者らの 3 症例においても,症例 1 では VCM を合計 34 日間,症 例 2 で は VCM を 11 日 間,TEIC を 33 日間,症例 3 では VCM を 14 日間,TEIC を 11 日間投与され,いずれの症例も長期にわたって投与さ れていた.更に臨床的背景として症例 1 では感染性心 内膜炎,症例 2 では胸部外科手術後の術後肺炎,症例 3 では悪性腫瘍に化膿性脊椎炎を併発しており,VISA 検出のハイリスク群であったと考えられた.我々が検 出したこれらの VISA の 3 株が VCM へ低感受性化し た機序については,vanA,vanB,vanC1 およびvanC2
!C3 遺伝子は陰性であり,van遺伝子の関与は認めら れなかった.Hiramatsu らの Mu50 における VCM の 低感受性化の要因については,細胞壁合成系の亢進に よる細胞壁肥厚の関与が報告されている13)14).すなわ
ちムレインモノマーの主成分である N―アセチルグル コサミンの細胞壁内取り込みの亢進,N―アセチルグ ルコサミンの材料源であるグルコースの細胞壁内取り 込みの亢進,細胞膜におけるムレインモノマー前駆体 の増加,細胞壁合成に必要なペニシリン結合蛋白の増 加,および分裂時に関与する自己融解酵素群の産生量 の増加などが起こり,これらの亢進により,細胞壁内 に多くの D-Ala-D-Ala 分子が存在し,通常なら細胞膜 に到達する VCM がトラップされること,及び VCM が結合する LipidII の過剰産生によって VCM が消費 されることにより,VCM の作用が減弱していること が考えられている15).我々が検出した VISA の 3 株に ついても,各関連因子についての詳細な解析はできて いないが,透過型電子顕微鏡による観察により,細胞 壁の肥厚を認め,細胞壁合成系の亢進が VCM の感受 性低下に関与していると考えられた.臨床経過に伴う VCM の低感受性化については,VCM に対するポピュ レーション解析では,症例 1 と症例 3 の VISA(VISA- 1,VISA-3)は,初回検出 MRSA(VSSA-1,VSSA-3)
と比較して,発育曲線が耐性側にシフトし,さらに PFGE 解析の結果,症例 1 と症例 3 のそれぞれの初回 検出 MRSA と VISA は,100% の一致が認められた.
このことから,初回検出の MRSA がグリコペプチド 系抗菌薬の長期使用により,上述した細胞壁合成系が 亢進した結果,VCM への耐性度が上昇したと考えら れた.継代培養による細胞壁厚と MIC の変化に関し ては,Cui らが VISA 16 株の継代培養を行い,MIC が 4μg!mL を下回るのに 4〜84 日(平均 42.85 日)の 継代培養が必要であり,MIC が低下した株は細胞壁 厚の薄化が認められたことを報告している16).細胞壁 厚と MIC に変化が認められなかった VISA-1 は,細 胞壁厚と MIC の変化には更なる継代培養の延長が必 要であったものと考えられた.一方,Cui らの VISA 16 株の細胞壁厚と VCM の MIC は正の相関があり,
VISA 16 株はすべて 27nm 以上の細胞壁厚を有して いた16).細胞壁厚に変化がなく,MIC が低下した VISA- 2 と VISA-3 については,細胞壁厚が 30nm 以上有し,
形態学的には VISA の範疇に入ると考えられた.MIC が低値を示した理由については,Cui らの VCM 感受 性は基礎培地に BHIA を用いた検討であり,筆者ら の VITEK2 による測定では,上述した測定誤差によ る低値傾向を示した可能性がある.継代培養による MIC の低下に関する検討は,細胞壁厚や MIC の変化 に加えて,細胞壁合成に関連する因子や VCM 耐性に 関連する遺伝子群の変化を比較する必要があると考え る.
今後,MRSA の VCM への耐性化防止の方策とし ては,グリコペプチド系抗菌薬の投与方法の検討が必
要であるが,VCM の乱用を避けるとともに,Thera- peutic drug monitoring と MIC を組み合わせたパラ メータによる投与設計と VISA 発生のリスク評価を行 うことが必要と考えられた.
利益相反自己申告:申告すべきものなし
謝辞:本論文において透過型電子顕微鏡撮影を実施して いただいた近畿大学ライフサイエンス研究所 堀内喜高先 生,ならびに本症例の感染制御にご尽力いただいた Infec- tion Control Team(竹山宜典先生,西坂文章先生,吉田 理香看護長,田中加津美看護長)の各先生方に深謝申し上 げます.
なお,本論文の要旨は第 26 回日本環境感染学会総会(横 浜市)において発表した.
文 献
1)院内感染対策サーベイランス JANIS.http:!!w ww.nih-janis.jp!.
2)抗菌化学療法認定薬剤師認定委員会 TDM 標準
化ワーキンググルー プ:Vancomycin の Thera- peutic drug monitoring(TDM)実施に関する 抗菌化学療法認定薬剤師制度認定委員会ならび に抗菌薬 TDM 標準化ワーキングの見解.日化 療会誌 2010;58:18―9.
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aureus(MRSA)blood isolates from 2001-05. J.
Antimicrob. Chemother 2007;60:788―94.
4)Clinical and Laboratory Standards Institute:
Methods for Dilution Abtimicrobial Susceptibil- ity Tests for Bacteria That Grow Aero- bically ; Approved-Eighth Edition, M 07-A 8. CLSI, Wayne, Pennsylvania, 2009.
5)Clinical and Laboratory Standards Institute:
Performance Standards for Antimicrobial Sus- ceptibility. Testing ; Twenty-First Informational Supplement. CLSI document M100-S21. CLSI, Wayne, Pennsylvania, 2011.
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9)Clinical and Laboratory Standards Institute:
Performance standards for antimicrobial suscep- tibility testing ; Sixteenth informational supple- ment M100- S16. CLSI, Wayne, Pennsylvania, 2006;.
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Clinical Microbiological Investigation of Vancomycin IntermediateStaphylococcus aureusDuring Glycopeptide Therapy
Hirofumi TODA1)8), Toshihiro YAMAGUCHI1)8), Takayuki MIYARA2)8),
Akihiro HISATO3)8), Tomohide MATSUSHIMA4)8), Takahiro SHIMADA5)8), Hiroyuki SANO6)8), Kenichi NAKAE1)& Toshinori KAMISAKO1)7)
1)Department of Clinical Laboratory,2)Department of Medical Safety Administration ,3)Department of Pharmacy and4)Critical care Medical Center, Kinki University Hospital,
5)Division of Hematology and Rheumatology, Department of Internal Medicine ,6)Department of Respiratory Medicine and Allergology
and7)Department of Clinical Laboratory Medicine, Kinki University Faculty of Medicine,
8)Infection Control Team, Kinki University Hospital
We isolated three strains of vancomycin intermediateStaphylococcus aureus(VISA)from a blood sample of a patient with infective endocarditis(VISA-1),postoperative pneumonia sputum(VISA-2),and pyogenic spondylitis blood sample(VISA-3). These VISA strains did not carry vanA, vanB, vanC1, or vanC2!C3 genes. Cell wall thickening was observed. VISA-1 and VISA-3 PFGE patterns showed the completely same pattern compared to the PFGE pattern of methicillin-resistant Staphylococcus aureus first isolated from pa- tients 1 and 3. After 10 days on brain heart infusion agar, wall thickening in all three type of VISA was un- changed, but VISA-2 and VISA-3 reversed vancomycin susceptibility. The most suitable use of vancomycin in patients with MRSA infection thus appears to be in reducing the opportunity for cell wall thickening.