博士学位論文
平成25年度
内容の要旨 及び
審査結果の要旨
(平成 25年9月)
近畿大学大学院
総合理工学研究科
郡 局璃汁
晃田苔侍
氏
生年月日 名
学位論文審査結果の報告書
武田和也
本籍(国籍)
学位の種類
学位記番号
学位授与の条件
(t専士の学位)
論 文題目
@秒平成 43年5月
千葉県
博 士(工学)
工第 199 号 学位規程第5条2項該当
21日
審査委員
レーザーエネルギー伝送技術による 小型飛翔体駆動実用化の検証
(主査) (副主査) (副主査) (副査) (副査)
前田佳伸 中野人志 井田民男 河島信樹
ーフー
郷
⑳
圃
電気自動車ヘのワイヤレス給電方式は,まもなく実用化されようとしているが,遠距離ヘのワイヤレ スエネルギー伝送はこれからの技術で,マイクロ波とレーザーの 2 種類のエネルギー伝送法が考えられ
ている.本論文では,遠距離ヘのワイヤレスレーザーエネルギー伝送技術を小型飛翔体の駆動に応用し,
世界ではじめて災害時等に活用可能であることを検証した実験結果を中心に,宇宙やその他の地上の口 ボットへの活用例も併せて紹介する本論文の第1章では「遠距離ヘのレーザーエネルギー伝送技術とこれまでの動向」と題し,マイクロ
波やレーザーエネルギー伝送ついて説明し,これまでの動向の紹介をする第1節「マイクロ波によるエネルギー伝送技術」では,籬れた場所ヘのエネルギー伝送法のうちマイ クロ波によるエネルギー伝送について述ベる.さらに,いくつかこれまでに行われてきた実験を紹介す
る
第2節「レーザーによるエネルギー伝送技術」では,レーザーエネルギー伝送の原理やシステムにつ いて述ベる.レーザーを太陽電池に照射した時,レーザーの波長と太陽電池の受光感度とがうまく合う 組み合わさることで効率よく発電できる.レーザーは半導体レーザーを利用することで効率よくレーザ ーを発振し,システムを小型化できる.これまでにレーザーを用いて籬れた対象物にエネルギーを送る 実験はいくつか行われている.東工大グループの実験はパルスレーザーによる水のアブレーション時の 反作用で紙飛行機を飛翔させた.米国ではラジコン飛行機ヘのレーザーエネルギー伝送,rughtcraftj
という推進力供給,そして長距離エネルギー伝送実験a48k皿)がハワイで行われた の
第2章では,「レーザーエネルギー伝送の実用化実証実験」と題して,本論文の主題である小型飛行機 (第1節)やへりコプター(第2節)へのレーザーエネルギー伝送が,実際に災害時等での活用が可能 であることを実証した実験を中心に述ベる.さらに,その基盤となった宇宙ヘの応用例や,ロボットヘ の伝送実験についても述ベる
第1節では「小型飛行機(カイトプレーン)へのレーザーエネルギー伝送」と題して述ベる.小型飛 行機の実験では,他の飛行機に比ベ風の中でも安定した飛行をするカイトプレーンを採用した.地上か ら上空を旋回するカイトプレーンの動きに合わせて自動追尾することで,常に電力を供給できる.これ により,24時間昼夜を問わず飛行させることができる.このシステムは原子力発電所事故の現場や洪水, 地震,火山噴火などの自然災害地での通信中継などで,利用を考えたものである
我々はカイトプレーン用太陽電池パネルと自動追尾装置,半導体レーザーシステムを開発した
カイトプレーンは上昇時に 64W,旋回時に約37W消費する.太陽電池パネルは直径30伽で,カイトプレ ーンの下に搭載され,30 枚の Si昭le‑1UnctionGaAS 太陽電池(4C皿X7Cm)が使われている.小さなコー ナーキューブが太陽電池パネルの中央に置かれ,レーザー光の一部を照射装置ヘ反射し,カイトプレー ンの自動追尾に用いられる.追尾装置には反射光受光装置が設置されており,コーナーキューブからの 反射光を追尾システムの受光装置で受ける.受光装置には4分割のフォトダイオードが用いられ,素子 上にある反射光の集光点が4分割のフォトダイオードの中央に来るように追尾が行われる.追尾精度は 実験室段階では 5μrad を実現し,フィールド試験では 200μrad,追尾速度は V5rad/S を実現した.カ イトプレーンはレーザーを 30W 照射されて飛行するが,飛行時には太陽電池パネルに風があたり 60て に空冷され,その時約45W発電が可能であった.太陽電池セルは同じ明るさ同士のセルを直列に接続し, 効率よく発電する工夫をしている
飛行試験ではカイトプレーンに搭載されているりチウムポリマーバッテリーで上昇し,旋回飛行する 半導体レーザーシステムはレーザーを拡げてカイトプレーンが拡げた光の中に入るのを待ち構える.カ イトプレーンが光の中に入った時,コーナーキューブからの反射光を利用して追尾を開始する.追尾が
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開始すると同時に,拡げていたレーザーを太陽電池パネルと同じ大きさに絞ることでエネルギー伝送を 開始する.飛行実験では天井までの高さが 60皿あり風の心配がない大阪ドームを利用した.実験では 1 時間以上の安定した飛行に成功し,世界で初めて自動でレーザーエネルギー伝送による長時間運用が可 能であるということを実証した
第2節では「災害情報収集用レーザーエネルギー伝送型へりコプターの開発」と題して述ベる.災害 時の情報収集には,低高度で水平距籬が大きいことが要求される.よって,ホバーリングで災害現場に 近づくことが容易であるへりコプターの方が飛行機より便利である.我々はレーザーエネルギー伝送型 小型無人へりコプターを開発し,飛行実験を行った
へりコプターは飛行機のように翼による浮力がなく,ローターによってへりコプターを空中で支える浮 力を生み出す必要がある.そのため,飛行機と比ベ飛行する時に格段に大きなエネルギーが必要で,開 発は飛行機よりはるかに困難であった.この小型無人へりコプターは軽量(約 1.2kg)だが,高出力でレ ーザーを照射しなければならない(5冊剛CW).太陽電池は大変高温になるので,プロペラの風で太陽電 池パネルを冷却(80で)するため,パネル設置位置を本体下部に縦にした.本体操作で太陽電池パネル をレーザーシステム倶Nこ向けることができるように4個の口ーターをもつ様式のへりコプターを採用し た.太陽電池パネルは Single‑Junction GaAS 太陽電池を 34 枚用いて作製し,中央にはカイトプレーン と同様にコーナーキューブを設置した.変換効率を上げるため,太陽電池を隙問なく貼り付け,セルの 接続を工夫した.セル接続は複数の暗い所同士のセルを並列に接続し,明るいセルと直列接続すること で効率アップを試みた.このへりコプターの消費電力は約 14冊であり,高出カレーザー光伍釦WCW)照 射時の変換効率は約25%であった.飛行実験ではへりコプターを飛行させるときは,カイトプレーンと同 様に拡げたレーザー光により追尾を開始する.その後,集光することでエネルギー伝送状態となり,飛 行を開始する.飛翔実験は長時間で安定した飛行を自動追尾レーザーエネルギー伝送で行われた.長時 間運用が可能であることが世界で初めて実証された.
第3節「レーザーエネルギー伝送の宇宙での応用」と第4節「レーザーエネルギー伝送ロボット の開発」は,時系列では,小型飛翔体ヘのレーザーエネルギー伝送より先行して近畿大学で行われ, 第1,2節の成果の基盤となったものである
第3節では「レーザーエネルギー伝送の宇宙での応用」と題し,月の極域の永久影領域にある氷につ いて説明し,氷の存在を示すこれまでの探査について紹介する.これまでの探査では氷の状態について 詳しくわかっていなかった.そこで,レーザーエネルギー伝送を利用した水の氷を探査する月面探査車 の構想について説明する.
我々は長距離レーザーエネルギー伝送実験を行った.1km以上離れた遠隔装置をレーザーのエネルギーだ けで駆動することに世界で初めて成功した取り組みであった.この実験では消費電力2.Nの探査車模型 をレーザー出力 30Wで駆動し,変換効率は約9%であった.
第4節では,「レーザーエネルギー伝送型ロボットの開発」と題し,宇宙開発から地上ヘのスピンオフ として,ロボットへのレーザーエネルギー伝送について提案している
人が近づきにくい災害場所でのロボットの運用を行う構想で,我々はロボットへのレーザーエネルギー 伝送実験に世界で初めて成功した.ロボットは約3Wの消費電力で,レーザー出力 15Wの時,変換効率約 20%であった.さらに人の大きさに近い大型ロボットでもレーザーエネルギー伝送実験を行い,これまで にない追尾機構の新しい追尾装置を開発した.
第3章では,「今後のレーザーエネルギー伝送」と題し,レーザーエネルギー伝送のさらなる発展応用 としてーつのレーザー光によるエネルギーとデータの伝送,原子炉事故建屋ヘのエネルギー伝送,につ いて提案し,そして太陽光発電衛星と宇宙エレベーターについて述ベる.
第1節では「その他のレーザーエネルギー伝送応用」と題し,エネルギーとデータをーつのレーザー
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光で伝送することについて提案した(特許登録済).この方式ではエネルギー伝送用のレーザーを変調す ることで,情報を電力伝送用のレーザーに乗せ,遠距離の装置を制御する.そして遠距籬の装置からの 反射光に情報を載せることで,籬れた場所の情報を取得することもできる
第2節では「原子炉施設緊急時における電源供給システム」として,原子炉事故が起きたときの全電源 喪失に対応するため,建屋の外部からの電力供給方法を提案している(特許出願公開済み).また,原子 炉探査ロボットが立ち往生した時のトラブルシューティング用のエネルギー伝送も提案している
第3節では,「レーザーエネルギー伝送の将来について」と題し,太陽光発電衛星からのレーザーエネル ギー伝送について紹介している.地上でのマイクロ波によるエネルギー伝送実験が行われている.また 衛星軌道からレーザーによる伝送も検討されている.その他宇宙エレベーターへのエネルギー伝送も考
えられている.そして軍事用UAVヘのレーザーエネルギー伝送の実験も行われている 第4章では「まとめ」として全体を総括している
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ワイヤレスエネルギー伝送は,近距離では,非接触での電気自動車ヘの電磁誘導給電としてまもなく 商用化されるレベルまで到達している.しかし,遠距離伝送では,マイクロ波とレーザーを用いたもの があるが,実用化はこれからの技術である.
本論文において学位申請者は,レーザーを用いた遠距離のワイヤレスエネルギー伝送を災害時の情報 収集等に用いられる小型飛翔体ヘのエネルギー伝送が,自動追尾,小型軽量化,飛翔安定性の確保,変 換効率向上,太陽電池冷却の効率化など技術改良を加え,それに基づいてフィールド試験を行うことに より,システムとして実用化が可能であることを世界ではじめて実証した成果を述ベている
論
本学位論文では第 1章においては,遠距離のワイヤレスエネルギー伝送の現状について,マイクロ波 を用いる方式とレーザーを用いる方式について,それぞれの利点,欠点を総括した.マイクロ波は拡が りやすいので受電アンテナが大きくなってしまう欠点があるが,変換効率が良く雲も透過する.レーザ ーは遮蔽物に弱く,屋外の伝搬では大気状態にも影響を受けやすいが,収束性に優れ,半導体レーザー は軽く作ることができる.申請者は,これまで行われた実験研究について述ベているが,特にレーザー エネルギー伝送については,本論文の主題である小型飛翔体ヘのエネルギー伝送の実験が,NASAで先行 して行われているが,その実験は,追尾が手動で行われ,エネルギー伝送の効率化についても特段の配 慮がなく,ただ,レーザーで小型飛翔体が駆動可能であることを示したもので,長時間無人で安定に飛 翔できることを示したものではないことを述ベている
査
の第2章では,本論文の主題である,震災・水害など自然災害の被災地,また原子炉事故や化学テロの 現場において,情報収集に活躍する小型飛翔体やロボットへのレーザーエネルギー伝送に関して,自動 捕捉・自動追尾,小型軽量化,飛翔安定性の確保,変換効率向上,太陽電池冷却の効率化など技術改良 とその結果に基づいて行ったフィールド試験の詳細を記述している.これと併行してこれらの実験に先 行して行われた月面氷探査車ヘのレーザーエネルギー伝送についてもkmオーダーという長距離伝送に成 功しており,これらについて詳細に説明されている.
第 1節において申請者は,小型無人飛行機ヘのエネルギー伝送システムを完成させ,大阪ドームにて 検証実験を行った成果を述ベている
小型無人飛行機として,軽量で飛翔安定性に優れ搭載能力が大きいカイトプレーン(翼長136Cm)を 採用した.カイトプレーンの下部に直径器Cmの太陽電池を下向きに配し,レーザー光を受光する配位を 採用したが,カイトプレーンの飛翔安定性を乱すことなく,受光器としての機能を果たした
太陽電池には高変換効率のSingle‑1Uncti飢GaAS を採用し,飛翔中 15%を超える変換効率を得るこ とができ,小型軽量化を実現した.また,太陽電池の冷却については,飛翔による空冷が十分であるこ とも実証された
NASAの先行実験ではできていなかった自動追尾方式は,太陽電池の中央に配したコーナーキューブか らの反射光を受光検出素子の4分割PD(フォトダイオード)に集光,反射光の4分割即中心からのズレ の符号のみを比較する単純は方式を採用したが,これによって長時間の安定な動作が確保された.4分割 PDを使った追尾方式は特に新しいものではないが,このシンプルな制御方法はビジネスモデルへと研究 を進展させたとき,有利に働くものと考えられる
申請者は,これらの技術改良に基づいて,大阪ドームで50m上空を長時間飛翔する実証実験を行った 上空でのカイトプレーンの捕捉は,当初レーザービームを大きく広げておき,そこにカイトプレーンが
入ってきたときにレーザービームを太陽電池のサイズまで絞る,自動捕捉方式を採用した.追尾精度は,
50m上空で Icm以下,追尾速度は,0.2rad/秒が実現した.航続時間 1時間航続距離 18kmの実証時 間の間に,飛翔安定性飛翔精度等は常に確保され,原理的に無限時間の運用に支障になる問題点は見^
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いだされず,実用化が可能であることが実証された.
災害時の情報収集に用いる小型飛翔体としては,水平距離をとることができて,低高度でホバーリン グ機能をもつへりコプターが有利である
第2節では,小型無人へりコプターへのレーザーエネルギー伝送を行っている.へりコプターはホバ
ーリングして対象物に近づくことが可能なため,申請者は被災地の探索などに利用する事を想定してい る.しかしへりコプターは消費電力が大きいため,申請者は太陽電池パネルに以下の工夫をして,得ら れる電力の向上を図っている.まず第一に太陽電池セルをパネル上に高密度に配置する.次にセルによ つてレーザー光強度に違いがあるので,暗いセル同士を並列にし,明るいセルと直列に接続することで, 暗いセルが抵抗にならないようにしている.このパネル構造に対する工夫の他に,温度対策も行ってい る.へりコプターが飛翔するために必要な電力は飛行機よりも大きいため,飛行機よりも高出力のレー ザーが照射される.このとき太陽電池パネルは高温になり変換効率が低下してしまうという問題がある申請者はこの温度の問題を解決するため,へりコプター自身が作り出す風によってパネルを冷却するこ とを老え,へりコプター本体の底部に縦に配置することで,飛翔の邪魔にならないように冷却するとい う工夫をしている.これらの工夫により56岬のレーザーを照射し,変換効率30%に近い電力を実現,ヘ リコプターを長時間飛行させることに成功し,へりコプターでも長時間運用することが可能であること を示した
第3節では月の極域のクレーター底部にあるとされている氷を直接探査するための月面氷探査車へレ
ーザーエネルギー伝送するという野心的な構想について,モデルを製作し,伝送距籬を延ばして実験し
ている.最終的には世界で初めて 1.2k皿の長距離伝送実験に成功している第4節では,共同開発した小型・大型ロボットへのレーザーエネルギー伝送について説明している このロボットへのレーザーエネルギー伝送も世界で初めて行われた実験である.大型ロボットではこれ
までに行われていない,反射光の変調による新しい追尾方法について試験されている.この方式は小型 飛翔体の追尾方式と違い,伝送距離に依存しないというこれまでにない新規性がある.第3章では,申請者がこれまでに実現してきたレーザーエネルギー伝送技術をどのように発展させ, 応用する分野があるのかということを検討している.この中で第 1節で述ベられているレーザーによる
電力と情報の伝送についての申請者の新技術は特許登録を達成している.この特許の発想元となったのは前出の大型ロボットへのエネルギー伝送と追尾方法と見ることができる.大型ロボットではレーザー
でエネルギーを送り,反射光に位置情報であるレーザー光のずれ情報を載せている第2節では原子炉事故が起きた時の建屋全電源喪失を防ぐ方法として,レーザーエネルギー伝送 が使えるのではないかという提案である.この方式も特許出願されている.この特許出願では原子
炉探査ロボットのトラブル時の脱出用のエネルギー伝送も提案している第3節では,さらにレーザーエネルギー伝送の将来像をいくつかの例をあげて的確に示している.
学位申請者はこれまで本格的に行われてこなかったレーザーエネルギー伝送の分野において果敢に挑 戦し,自動追尾,小型軽量化,飛翔安定性の確保,変換効率向上,太陽電池冷却の効率化など技術改良 を加え,それに基づいてフィールド試験を行うことにより,システムとして実用化が可能であることを 世界ではじめて実証し,大規模自然災害時の情報収集などに活用しうることを示した.このことは独創
性と今後この分野での活用ヘの道の指標となる結果を出したものであり,先駆的な研究内容であること は明らかである.よって本論文は優れた研究業績として認められ,博士学位論文として十分な価値があ るものと認められる.申請者には博士の学位を授与することが相当と考えられる12 ‑