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学位名 博士(保健科学)

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Academic year: 2021

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(1)

精神科病院スタッフの認知症に対する イメージの 抽出と類型化および職種間比較

著者 江口 喜久雄

学位名 博士(保健科学)

学位授与機関 九州保健福祉大学 学位授与年度 2020

学位授与番号 甲第ツ063号

URL http://doi.org/10.15069/00001413

(2)

論文内容の要旨

【緒言】

認知症の人の将来推計について,世界では

2050

年には

1

5200

万人と推計されている.また,日 本では

2025

年には約

700

万人前後と見込まれている.そのため,認知症は大きな社会問題となってお り,さまざまな取り組みがなされている.

認知症のイメージについて,

1970~1980

年代にかけて,精神病院による認知症老人の囲い込みと, 人処理工場的な精神病院のあり方や閉鎖病棟がもつ人を寄せ付けない独特な雰囲気が,認知症に対する マイナスイメージをふくらませる要因となった.その後,200 年,「痴呆症」という用語が侮辱的な表 現であることから「認知症」と変更された.しかし,そのマイナスイメージが払拭されていない現状も ある.そのため,学生や看護,一般市民を対象として,認知症や認知症の人に対してどのようなイメー ジをもっているのか把握する調査がなされている.また,理解度や認知度を把握する観点から,一般市 民を対象とした認知症の知識や社会資源,認知症の人の行動面の理解や早期対応の重要性などの調査も なされている.しかし,認知症の人の入院が増加し,ケアを担っている精神科病院スタッフについては,

イメージや理解度などを明らかにした報告はなかった.

【目的】

本研究の目的は,精神科病院スタッフが認知症の人に対してどのようなイメージを抱いているのか明 らかにする.また,各職種によってどのようなイメージの相違が認められるか明らかにする.さらに,

各職種のイメージの相違が認められた場合,各質問項目を職種間で比較することで,イメージの相違と 同様に職種の相違が認められるのかを明らかにする.

【対象と方法】

1.調査対象と方法

日本精神科病院協会に所属する精神科病院で,病院機能評価を取得し,認知症治療病棟を有する

4

23

施設からランダムに

8

施設を抽出し,本研究への協力を要請した.そのうち

6

施設から承諾が得ら れた.アンケート対象者は,精神科病院スタッフとしたため,職種は問わず無作為に配付してもらった.

アンケートは無記名自記式で行い,回答期間は

1

週間とし,記載後は回収封筒に提出していただくよう に依頼した.

江口 喜久雄 博士の専攻分野の名称 博士(保健科学)

学 位 授 与 の 日 付

2020

年 9

23

学 位 授 与 の 要 件 学位規則第

4

条第

1

項該当

学 位 論 文 題 目 精神科病院スタッフの認知症に対するイメージの抽出と類型化 および職種間比較

主査 教授 鬼塚 信 副査 教授 倉内 紀子 副査 教授 樋口 博之

(3)

2.調査項目と期間

今回はスタッフが抱くイメージの探索的調査を行うため,アンケート用紙に「認知症の人に会ったこ とがありますか?」の項目を挙げた.また,先行研究を基に,認知症の人に対するイメージ,認知症の 知識,社会資源の把握,認知症の人の行動面の理解,認知症の人への早期対応の重要性,認知症の人に 接した際の満足度,認知症の告知の全

32

項目をランダムに表記し,回答には

4

件法を用いた.基本情 報としては,年代,性別,職種の記載を求めた.

調査は 2017 年 8~10 月の間に実施した.

3.解析方法

分析はイメージの抽出には因子分析,スタッフの類型化にはクラスター分析,各質問項目の職種間比 較にはクラスカル=ウォリス検定と多重比較を用いた.

なお,解析ソフトは

Bell Curve

エクセル統計

for windows

を用いた.

4.倫理的配慮

本研究は,病院長に対して文書にて説明し承諾を得た.また,対象者に対しても文書にて説明し,ア ンケートを提出することで同意したこととみなした.なお,本研究は,九州保健福祉大学の倫理審査委 員会で承認を得て実施した(受理番号 16-042).

【結果】

1.回収率と対象者

6

施設の計

440

名にアンケート用紙を配付したところ,328名から回答(回収率

74.5%)があり,記載

不備があった者,各職種の回答者数が

10

名以下であった者,「認知症の人に会ったことがない,会った だけで話したことがない」と回答した者は,分析対象から除外した結果,計

248

名(有効回答数

59.0%)

を対象とした.内訳は,看護師

72

名,准看護師

62

名,作業療法士(以下,

OT)43

名,精神保健福祉士(以 下,PSW)37 名,看護助手

34

名であった.なお,今回は,看護師,准看護師,看護助手を看護職と定 義する.

2.精神科病院スタッフが抱くイメージの探索的要因抽出

認知症の人へのイメージに関する

22

項目のうち,天井効果,床効果が認められなかった

21

項目に対 して因子分析を実施した結果,第Ⅰ因子は肯定的イメージ(α=0.771),第Ⅱ因子は悲観的イメージ

(α=0.667)が抽出された.

3.精神科病院スタッフの類型化

因子分析で抽出した因子得点をもとにクラスター分析を行った.因子得点は,数値が大きいほど因子 の傾向が強く,マイナスの場合は弱いことを意味する.そのため,数値をもとに精神科病院スタッフを,

肯定的・悲観的イメージがない群,肯定的・悲観的イメージ群,悲観的イメージ群,肯定的イメージ群

4

つに類型化することができた.その中で,肯定的・悲観的イメージがない群では,看護職の割合が 高く,肯定的・悲観的イメージ群では,OT,PSW の割合が高かった.

4.各質問項目における職種間比較

肯定的イメージの項目では,特に

OT, PSW

が肯定的イメージをもち,行動面の理解の項目では,特

OT,PSW

が理解していた.また,社会資源の把握の項目では,特に

PSW

が把握しており,否定的

イメージの項目では,特に

PSW

が否定的イメージをもっていなかった.さらに,早期対応の重要性の 項目では,OTが特に認識していた.

認知症の知識の項目は,准看護師や看護助手よりも,看護師,OT,PSWがより知識を有していた.

(4)

一方,職種により違いが認められなかった項目は,悲観的イメージ,認知症の人に接した際の満足度,

認知症の告知であった.

【考察】

今回,精神科病院スタッフが認知症の人に対してどのようなイメージを抱いているのかを抽出した結 果,肯定的イメージと悲観的イメージが明らかになった.これは,すべての職種において肯定的・悲観 的イメージ共に,「全くそう思わない,そう思わない,そう思う,全くそう思う」の

4

件法の選択肢の うち,「そう思う」と回答した項目の割合が高かったため,因子として抽出されたと考えられる.また,

肯定的イメージの結果は,精神科病院スタッフであっても,学生や看護,一般市民と同様に,認知症の 人と接する機会を通して肯定的イメージをもち得るという今日までの報告と一致していた.一方,相反 する悲観的イメージの結果は,認知症は進行する病であること,根本的治療がないことが影響している 可能性が考えられる.

次に,精神科病院スタッフを類型化した結果,

4

つに類型化できることが明らかになった.その中で,

肯定的・悲観的イメージがない群に看護職の割合が高かった.これは,認知症高齢者看護の教育内容は,

対象の安全を中心にした管理やケアから,認知症高齢者の体験世界を理解することを糸口にしてケアを 模索する教育内容へ変化してきた.しかし,精神科病院の課題として,治療抵抗性の行動・心理症状を 有する認知症患者が多く,薬物忍容性の問題もある.また,急性期病院における看護師の認知症の人の ケアにおいては,リスク管理が優先されることが報告されている.さらに,精神科病床の職員配置は医 療法上の精神科特例のため,一般病床と比較して著しく低いことや,100床当たりの看護師の常勤換算 従事者数は,精神科では一般病院に対して

2.5

倍程度少ない.そのため,病棟での関わりが多い看護職 にとって,イメージというよりも,認知症の症状やそれに伴う日常生活活動障害ならびに疾病管理や転 倒などの二次障害の予防への対応に日々直面している現状があるため,肯定的・悲観的イメージがない 群の割合が高かったのではないかと考えられる.

一方,相反するイメージを同時にもつ肯定的・悲観的イメージ群に,

OT

PSW

の割合が高かった.

OT

は,実際に生活する場面を念頭に置きつつ自立へと導く.また,PSWは社会復帰への相談に応じ,

本人・家族を含めた適切な退院を進めている.しかし,OT

PSW

は,進行する認知症の症状・障害 への対応,地域でのフォローの難しさに直面するという現実とのギャップとその葛藤の中で支援してい るため,相反するイメージを同時にもつ結果が認められたのではないかと考えられる.

さらに,各職種でイメージの相違が認められたため,各質問項目を比較した結果,肯定的イメージの 項目では,OT,PSWが特に肯定的イメージをもっており,行動面の理解の項目では,OT,PSWが特 に理解していた.また,社会資源の把握の項目では,PSW が特に把握しており,否定的イメージの項 目では,

PSW

が特に否定的イメージをもっていなかった.これらは,OTがリハの専門職としてポジテ ィブな捉え方や残存能力の重要性を意識したアプローチを行っており,PSW が家族調整や,地域支援 を重視した職種であるという専門性が反映されたためではないかと考えられる.また,早期対応の重要 性の項目では,OT が特に認識していた.これは,OT が薬物療法や精神療法とともに行われる治療の 一つであり,早期から活動・参加の肯定的側面に焦点を当てたリハを実施する職種であるためではない かと考えられる.

これらクラスター分析や職種間比較の結果には,看護職と

OT, PSW

という専門性の違いが反映して いる可能性が示唆される.

一方,認知症の知識の項目は,准看護師や看護助手よりも,看護師,OT,PSWがより知識を有して

(5)

いた結果から,教育課程の違いが影響している可能性が考えられる.

【結論】

精神科病院スタッフの認知症の人に対するイメージは,肯定的イメージと悲観的イメージを抱いてい ることが明らかとなり,職種によるイメージや各質問項目に対する回答の相違は,専門性や教育課程の 違いが影響している可能性が示唆される.

公表論文:

江口喜久雄,園田 徹,小川敬之,中山広宣.精神科病院スタッフの認知症に対するイメージの抽 出と 類型化および職種間比較.日本職業・災害医学会会誌 2020;68:291-300

(6)

論文審査結果の要旨

1.総論

本研究は、精神科病院スタッフが認知症の患者に対して、どのようなイメージを持っているか、そして、

各種医療スタッフの専門職間での認知症に対するイメージに相違があるのかを明らかにすることであ った。その背景には、少子高齢化に伴い、認知症患者が増加傾向にある中、ケアを担っている精神科病 院スタッフ間でのイメージや理解度を明らかにした報告は無かった為とのことである。研究対象は、精 神科病院をランダムに6施設抽出し、アンケートを送付、回収し、統計学的手法で解析している。結果 は、認知症に対する肯定的なイメージは、作業療法士や社会福祉士が有し、認知症に対する否定的なイ メージは、看護師が有するといった、職種間における認知症に対するイメージに相違があることが示さ れている。結論として、精神科病院スタッフが認知症の患者に対して、肯定的イメージと、悲観的イメ ージの両方を持ち、精神科病院スタッフ間でも、職種間で、イメージが異なることが示された。一方、

作業療法士や社会福祉士は、認知症患者の残存能力や、コミュニケーション力を引き出すことで、

QOL

の向上やリハビリテーションを向上させ、自立を助けるかという、患者とのアプローチの違いが出てい る可能性が考察されている点も実に興味深い点である。

2.論文評価

筆頭著者として、査読付き原著論文に公開されているので、博士論文としては、問題は無く、博士号授 与に十分に値する。

公開論文:

江口喜久雄、園田 徹、小川敬之、中山広宣. 精神科病院スタッフの認知症に対するイメージの抽出と 類型化および職種間比較. 日本職業・災害医学会雑誌

3.口頭発表ならびに質疑応答の評価

発表は、規定時間内に終了し、質疑応答にも明確な返答がなされていた。

4.審査結果

本審査発表後の審査投票結果、合格14票、不合格、棄権、各2票で、規定上、合格と審査された。

精神科病院スタッフの入院患者に対する心理を調査した研究は無く、着眼点はすばらしく、新規性 に富むとともに、これから非常に重要な分野であるとの意見があった。

一方、本研究の、弱点として、目的の明確さが足りない点がある。すなわち、本研究をすることの 意義、例えば、認知症患者への虐待や暴行が減る、或は症状改善や、社会復帰が促進される等、何 故本研究を施行し、これにより何が改善されるのかという点の明確さが不足しているとの意見があ った。

参照

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