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:コラボレーション形成モデルと制度化モデルの検討

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1. はじめに

 本稿の目的は、パブリック・プライベート・コラボレーション(Public- PrivateCollaboration:以下、PPCと略記)が、どのようなプロセスを経て 形成されるのかを分析するための枠組みを検討することにある。

 パブリック・プライベートとは、政府セクター(中央政府と地方政府を含 む)と民間セクター(営利組織である企業と非営利組織)の関係を指している。

また、コラボレーション(協働)とは、「問題の異なる側面を見る当事者たちが、

彼らの違いを建設的に探究し、何が可能であるかという彼ら自身の限定的な ビジョンを超えて、解決策を探し出すプロセス」(Gray,1989,p.5)を指す。

パブリック・プライベート・コラボレーションの 形成プロセスの分析枠組み

:コラボレーション形成モデルと制度化モデルの検討

井 上 祐 輔

協同

Cooperation 調整

Coordination 協働

Collaboration 結合

Coadunation

低公式化 高公式化

低度の相互依存 統合 合併

自 律 的 な 集 団 が 互 い の 組 織 的 活 動 を支援するた め に 情 報 を 共有する

自律的な集団 が両立可能な 目標を追求す る た め に 、 諸 活動の連携、

イ ベ ン ト へ の 出 資 、 サ ー ビ スの供給を行

共通の目標に 向 か っ て 、 当 事者たちが共 通の戦略を通 じて集合的に 働く

諸組織の文化 を 統 合 し 、 一 つの統一され た構造に結合 させる

図1 組織間関係の連続性

出所 Rutledge(2011, p.23, Fig.1: A Continuum of Strategic Alliances)

を著者が訳出。

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 Rutledge(2011)は、組織間関係、とりわけ戦略提携の一つとして、コ ラボレーションを図1のように位置づけている。図1から、コラボレーショ ンは、組織間関係の中でも、協同や調整に比べて、戦略と目標の共有度が高 い組織間関係であると理解できる。

 本稿では、このような PPC の形成プロセスを分析するための予備的作業 として、分析枠組みの検討を行う。本稿の構成は以下の通りである。まず、

PPCが論じられるようになった文脈について概観する(第1節)。その上で、

PPCの形成過程を分析する枠組みとして、Lober(1997)の「コラボレーショ ン形成モデル(CollaborationformingModel)」を検討する(第2節)。その際、

コラボレーション形成モデルの源流である、ゴミ箱モデル(Cohen,March andOlsen,1972)と政策の窓モデル(Kingdon,1984)にも検討を加える。

これらの検討により、コラボレーション形成モデルでは、俯瞰的な立場から PPC の形成プロセスが分析されるため、各主体の視点に基づくコラボレー ションの形成過程を説明することが困難であることを指摘する。次に、新制 度派組織論に基づく制度化プロセスモデルを検討した上で、異なる利害をも つ行為者が同一の実践(本研究では PPC)に参加するプロセスを説明する モデルを提示し(第3節)、本稿が提示するモデルとの差異を明確にする(第 4節)。最後に、本研究の理論的展開の可能性と、理論的含意を検討する(第 5節)。

2. パブリック・プライベート・コラボレーション

 PPCは、政府(中央政府、地方政府を含む)と民間企業や、政府と民間非 営利組織、政府と民間企業と民間非営利組織という、複数の組織間のコラボ レーションである。いずれの関係にしても、政府セクターを含むところにそ の特徴がある。したがって、PPCとは、なんらかの公共的価値を含んだサー ビスを供給するための組織間のコラボレーションである。

 日本での公共サービスの供給形態には、政府による独占的供給の形態から、

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中央・地方政府と社会福祉協議会・社会福祉法人・財団法人との間のコラボ レーションや、第三セクターという結合形態、各種特別法に基づく民間組織 形態、加えて、1990 年代後半以降に注目された独立行政法人化、民営化、

民間委託などの形態がある(中村 ,1996; 金谷 ,2005)1。このうち、政府 による公共サービスの直接的な供給と民営化、独立行政法人化、および各種 特別法に基づく民間組織形態などは、個々の独立した組織体による公共サー ビスの供給であることから、組織間関係という位置づけには当てはまらない。

第三セクターは、その出資が政府セクターと民間セクターによるものである ため、図 1 の結合(coadunation)に当てはまる。残りの中央・地方政府と 民間組織の関係が協同(cooperation)からコラボレーション(collaboration)

までの間に当てはまることになる。

 PPCには二つの背景的文脈がある(MarchandOlsen,1989;Perryand Thomson,2004;ThomsonandPerry,2006;金谷,2005)2。一つは、「古 典的自由主義」(PerryandThomson,2004)、あるいは「イギリスに代表 される文脈」(金谷 ,2005,p.2-3)である。この文脈は、「私的利益を強調 するもので、自己の利害に基づいた交渉を通じて自己の選好を集合的選択の 中に集約するプロセス」(PerryandThomson,2004,p.20)を強調する。

したがって、この文脈では、コラボレーションは自己の利害を効率的に実現 する手段として分析される。例えば、政府や納税者の視点から公共サービス の供給に市場メカニズムを導入することで、公共サービスの効率的な供給を 図るために、コラボレートするという見方である(金谷,2005,p.2-3)。

 もう一つは、「共和主義」(PerryandThomson,2004)、あるいは「アメ リカに代表される文脈」(金谷 ,2005)である。これは、「個々人の利害と いうよりも、それよりも大きな何か(たとえば、地域コミュニティや国、社会)

にコミットすることが強調され…(中略)…、コラボレーションを相互理解、

集合的な意思、信頼、共感、選好の共有の実現を達成するための熟慮の基盤 として捉える」(PerryandThomson,2004,p.20)。したがって、この文脈

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では、コラボレーションは問題認識を共有し、その解決のために協調すると いう目的として分析される。例えば、行政による公共サービス供給の独占体 制がサービス供給の硬直化と官僚制化を生み出したことから、行政への市民 参加を推し進め、公益を保護しつつ多様な国民のニーズや要望を満たすため に、コラボレーションが必要であるという見方である(金谷,2005,p.3)。

 これらは、どちらの文脈に依拠するかで後の議論の展開が異なってくるた め、重要である。前者の場合、コラボレーションは手段の一つでしかない。

そのため、分析は、コラボレーションとそれ以外の手段の効率性と有効性を 比較分析すること、また、そのための分析枠組みの検討が課題になる。他方、

後者の場合、コラボレーションは目的であるため、コラボレーションの形成 過程や、形成過程における障害とそれを乗り越える手段を明らかにすること が課題になる。

 しかし、実際の研究では、どちらの文脈を強調するかには、多少の濃淡が ある(ThomsonandPerry,2006)。例えば、Rutledge(2011)の組織間 関係の類型(図1)は、コラボレーションを「共通の目標に向かって、当事 者たちが共通の戦略を通じて集合的に働く」とし、目標や戦略を共有するこ とを強調しているため、後者の文脈でコラボレーションを捉えようとしてい る。先述の Gray(1989,p.5)のコラボレーションの定義は、「彼ら自身の 限定的なビジョンを超えて、解決策を探し出すプロセス」として、目標や戦 略を共有することを強調する一方で、「問題の異なる側面を見る当事者たち」

という行為者の利害関心や問題認識の違いを乗り越える手段としてもコラボ レーションを捉えている。さらに、Huxham(1996,p.17)では、コラボレー ションは「コラボレートしない場合に比べて、コラボレーションが生み出す 組織的パフォーマンスが高く、そのためのコストがより低い場合にのみ、価 値をもつ」と、手段的有効性と効率性を強調する。

 このような研究上の強調点の差異は、実際のコラボレーションを実現しよ うとする行為者間における差異を反映していると考えることができる。そこ

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で、コラボレーションの形成プロセスの分析枠組みには、各行為者がコラボ レーションを特定の問題の解決策として捉える側面と、各行為者がコラボ レーション自体を目的として、つまり、どのような目標や戦略を共有するの かという問題として捉える側面の両面を把握可能な分析枠組みが必要である と考えられる。

3.分析枠組みの検討

3.1 コラボレーション形成モデル

 組織間関係の分析枠組みには、経営学分野では組織間関係の主要理論であ る資源依存理論(PfefferandSalancik,1978)、取引費用論(Williamson, 1975;Ouchi,1980)、 社 会 学 的 新 制 度 派 組 織 論(sociologicalnew institutionalism)(Meyer and Rowan, 1977; DiMaggio and Powell, 1983)などがある(Oliver,1990;Scott,2003)。しかし、Austin(2001,p.70)

が指摘するように、資源依存理論と取引費用論などの理論は、1)コラボレー ションの形成に影響を及ぼす条件や要因、2)コラボレーションを選択する 動機・目的に焦点を当てるため、コラボレーションがどのように形成される のかを説明するには不十分であった。また、事例においても同種のセクター 間(企業と企業、民間非営利組織と民間非営利組織)の関係を分析している ため、非営利組織と行政機関、あるいは多元的行為者間のコラボレーショ ン(“multipartycollaborations”,Gray,1989)がどのように形成されるのか を説明するには不十分であった(Austin,2001,p.70)。

 Austin(2001)の指摘に前後して、多元的なセクター間のコラボレーショ ンに関する様々な理論的・経験的研究が行われており、その代表的な研究の 一つにLober(1997)のコラボレーション形成モデルがある3

 Lober(1997)は、先行研究(とくに、Gray,1985;1989)が提示したコ ラボレーションの形成条件に対し4、これらの条件が相対的に静的な条件を 規定したものであり、組織や政策、問題が作動するダイナミックな環境の下

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での検証が必要であると主張し、その分析枠組みとしてコラボレーション形 成モデルを提示した。

 コラボレーション形成モデルは、政策形成過程におけるアジェンダ設定を 説明するKingdom(1984)の「政策の窓(policywindow)」モデルを修正し、

構築された。その政策の窓モデルは、理論的基盤として、Cohen,March andOlsen(1972)の「ゴミ箱モデル(Garbagecanmodel)」を用いている。

したがって、ここでは、ゴミ箱モデルから遡って、コラボレーション形成モ デルを検討していきたい。

 ゴミ箱モデルは、理念上、合理的に遂行される意思決定過程が、実際の 意思決定過程では偶然性が大きく影響することを説明したモデルである。

Cohen らは、現実の意思決定過程では、①意思決定の参加者の選好・目的 が不明確であり(problematicpreferences)、そのため、②目的や手段、

あるいは問題と解決策の因果関係が不明瞭になり(uncleartechnology)、

それゆえ③目的達成や問題解決に適したメンバーを特定できず、参加者の 参加が流動的になる(fluidparticipation)という、「組織化された無秩序

(organizedanarchies)」に特徴づけられると主張する。つまり、実際の意 思決定過程では、参加者による試行錯誤の過程で目的や問題が発見されたり、

解決策(手段)に合わせて問題(目的)が作り出されたり、参加者が時間や エネルギーを最大限割く場合もあれば、そうでない場合もあり、また、参加 者が入れ替わることも多々存在する。したがって、実際の意思決定過程では、

解くべき問題が存在し、その問題を解決するための能力を持った人々を集め、

合理的に解決策を導き出すというよりも、雑多な問題・解決策・参加者が互 いに無関係に独立して存在しており、問題・解決策・参加者の集合が、時間 の経過の中で一つの選択機会というゴミ箱の中に投げ入れられ蓄積され、あ るタイミングで一組の問題・解決・参加者の組合せを取り出され、決定され ていく。

 Kingdon(1984)の政策の窓モデルは、この視点をアメリカの連邦政府

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における政策アジェンダの設定過程の分析に導入したモデルである。Cohen ら(1972)と同様に、意思決定過程を「組織化された無秩序」とみなし、

政策アジェンダの設定過程に適したモデルの修正を試みている。具体的には、

ゴミ箱モデルでは、問題・解・参加者・それらを包含する選択機会によって 意思決定過程が説明されたが、政策の窓モデルでは、問題認識・政策案の形 成と改良・政治の3つの流れ(集合)として整理される5。参加者の中でも 政策企業家(policyentrepreneurs)は、3つの流れとは異なり、それらの 流れの中の特定の問題・解決・参加者を合流させ、一組の問題・解決・参加 者の組合せを作り出す役割があるため、それらの流れと区別されている。特 定の問題・解決・参加者を一つに収斂させることができる政策企業家は、専 門性や発話能力、意思決定の権限のある立場のいずれかに基づく発言機会を もち、政治的結びつきや交渉能力をもち、持続力があるとされる(Kingdon, 2002,p.180-181)。

 ゴミ箱モデルと政策の窓モデルの違いは、「組織化された/無秩序」の強 調点である(Kingdon,2002;p.86)。ゴミ箱モデルは、意思決定過程が合 理的に組織化されているという理念上の仮定に対し、実際の意思決定過程の

「無秩序さ」を強調していた。そのため、意思決定過程における問題・解・

参加者の結びつきは、相互に独立し、それらの要素の連結が偶然の要素で説 明された。とりわけ、参加者の参加の流動性を意思決定過程の構成要素の一 つとしたため、参加者がプロセス全体をコントロールすることが困難であり、

このことが参加者を十分に捉えていないという欠点とされた(小島,2006, p.13)。

 他方、政策の窓モデルは、「組織化された」側面を強調することで、政策 形成過程を制御できる可能性を見出そうとした。そのために、相互に独立す ると仮定される問題認識・政策案の形成と改良・政治の流れの間の窓が開く タイミングで、特定の問題や政策案が偶然合流するのではなく、そこに構造 やパターンを見出すことが目指された。したがって、意図的な合流を生み出

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す行為者として政策企業家が追加的に概念化された。

 Lober(1997)のコラボレーション形成モデルは、政策の窓モデルを行政、

企業、民間非営利組織のセクター間のコラボレーションの形成プロセスに適 用したものである。Lober(1997)も、Kingdon(1984)と同様に、分析 対象に合わせて、その構成要素を変換している。コラボレーション形成モデ ルでは、問題の流れ(problemstream)、解決策の流れ(policystream)、

組織の流れ(organizationalstream)、社会・政治・経済の流れ(Social/

Political/Economicalstream)の4つの流れが収斂(convergence)するこ とにより、コラボレーションが実現する。それぞれの流れは相互に独立して おり、そのため、これらの流れが収斂するためには、各流れの境界となって いる窓(windows)が開かれる必要がある。この窓を開きコラボレーショ ンを促進する役割を果たす行為者として、Lober(1997)は「協働企業家

(CollaborativeEntrepreneur)」と名付けている。

 政策の窓モデルとコラボレーション形成モデルとの違いは、政策の窓モデ ルが政治システムにおけるアジェンダ設定プロセスを明らかにしようとする のに対し、コラボレーション形成モデルはコラボレーション形成プロセスを 明らかにしようとする点である。そのため、Kingdon(1984)では政権の 交代といった政治の流れが、社会・政治・経済の流れとして、より広く概念 化されている。また、ある問題を政策課題として実現するために活動する政 策企業家が、行為者間のコラボレーションを促進し実現するための協働企業 家として概念変更されている。さらに、コラボレーション形成モデルでは、

組織の流れという新たな概念を加えている。これは、事業における特定の問 題解決への意欲を示す企業行動と、産業特定的な流行や、設備投資サイクル と技術開発の変化を含んでいる。組織の流れは、ゴミ箱モデルにおける流動 的な参加者というよりも、コラボレートする行為者の活動とそれを取り巻く 環境条件に焦点を当てている。これらの違いは、意思決定やアジェンダ設定 における争点を作り出すというプロセスと異なり、複数の行為者間の利害調

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整を孕んだ関係性の構築であることに起因する。つまり、コラボレーション が生まれる過程では、他の行為者間のコラボレーションや、業界内の事業内 容に固有な傾向、そして技術開発などが、コラボレーションを結ぶ動機とな りうるからである。

 以上で見てきたように、政策の窓モデル、コラボレーション形成モデルは、

基本的にはゴミ箱モデルを踏襲しながらも、①説明しようとする現象に合わ せた概念修正および追加が行われ、②各流れが互いに独立していることを指 摘しながらも、組織化された側面を強調するために、特定の参加者(政策企 業家や協働企業家)のリーダーシップが強調されている。

 本稿の視点からは、コラボレーション形成モデルは次のような課題を抱え ているといえる。第一に、特権的な行為者(協働企業家)の視点から問題、

解決策、組織、社会・政治・経済の流れの中の要素を説明してしまうことで、

他の行為者のそれらに対する認識が不明確になってしまう。これにより、コ ラボレーションの形成過程で生じる行為者間の競争や駆け引きや、特定の行 為者の戦略的行為といった側面を捨象してしまう点である。同様の視点から、

第二に、複数の問題や解決策、組織、社会・政治・経済的要素が、特権的行 為者あるいは観察者である研究者の視点から描かれることによって、ある行 為者から認識される問題が別の行為者からは解決策と認識されることがある 点を捨象してしまう点である。例えば、廃校舎の活用は行政府にとっては問 題であるが、事業活動の拠点を探している NPO にとっては、廃校舎の活用 は解決策になる場合がある。また、コラボレーションにおいては、何が問題 かを必ずしも共有しているわけではなく、互いに異なる問題(目的や利害)

を抱え、解決策(手段)だけが一致する場合や、その逆の場合もありうる。

 したがって、各行為者の視点から問題や解決策、組織や社会・政治・経済 といった流れと、そこに投げ込まれる要素を同定し、それらが組み合わされ るプロセスを説明する枠組みが必要となる。

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3.2 制度化モデル

  社 会 学 的 新 制 度 派 組 織 論 は、 そ の 源 流 の 一 つ で あ る Bergerand Luckmann(1967)が論じるように、所与とされる事物(すなわち制度)

が形成されるプロセス自体を問題として取り上げる。これは、コラボレーショ ン形成モデルが各流れの中を漂う様々な問題や解決策を所与として扱うのに 対し、新制度派組織論が、特定の行為者にとって、ある問題が問題であると 当然視されるようになる過程をも問題として取り上げるということである。

とりわけ、近年の研究(例えば、Beckert,1999,LawrenceandSuddaby, 2006;LevyandScully,2007,BoxenbaumandJonson,2008など)にお いては、制度の創造過程での制度の多面性や、制度の普及過程における同型 化を前提とした脱連結(decoupling)を用いた組織行動や戦略といった実 践の差異化という側面が注目されている。この点において、ある主体にとっ ての「問題」が別の主体にとっては「解決策」となる場合は、主体間の制度 化過程の違いとして説明可能になる。

 新制度派組織論における、制度化プロセスの代表的なモデルには、Berger andLuckman(1967)を基に制度化プロセスをモデル化した Tolbertand Zucker(1996)、BergerandLuckman(1967)と Giddens(1984)の構 造化理論を基に制度化プロセスをモデル化したBarleyandTolbert(1997)、

TolbertandZucker(1996)の制度化モデルを修正し、制度変化と制度の 普及までのプロセスに加えたGreenwood,SuddabyandHinnings(2002)の 制度化プロセスモデルなどがある。

 TolbertandZucker(1996)は、制度化プロセスと、その構成要素を図2 のように示している。TolbertandZucker(1996)は、組織における新し い構造や行動(イノベーション)は、技術的変化や法の制定、市場の諸力によっ て生じ、制度化プロセスとは独立したものと捉えている。この制度化される ことになる構造や行動は、習慣化の段階で、既存の組織にとっての技術的、

経済的な実行可能性、組織内的な政治的配置に影響を受けつつも、同様の問

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題に直面している他組織を模倣することで採用される。客観化の段階では、

同業他社を監視し模倣することに加え、それらの構造や行動が理論化(Strang andMeyer,1993)され、規範的価値をもつことによって普及する6。沈殿 化の段階になると、新しい諸構造を推進/反対する組織内部の対立と、新し い諸構造の望ましい成果をあげるかどうか、新しい諸構造を採用することの コストに影響を受けながら、その規範的価値が所与のものとなり永続する。

 TolbertandZucker(1996)のモデル化をコラボレーション形成の分析 枠組みに適用する場合、当事者が初めて経験するコラボレーションであって も、既存の他組織が実施したコラボレーションが手本となるため、ほとんど のコラボレーションの形成プロセスは、利害集団の支持と抵抗をコントロー ルし、駆け引きを行うポリティカルなプロセスとして描くことになる。しか し、このモデルでは、いったん確立された(客観化された)制度は、一定の 条件が揃えば、どのような行為者にとっても同じように作用する(普及する)

と仮定している点で、現実の行為者間の多様なコラボレーションへの意味づ けを説明するには不十分である7

 これに対し、BarleyandTolbert(1997)は、制度化プロセスを図3のよ 図2 制度化プロセスの構成要素

出所 Tolbert and Zucker(1996, p.182, Fig.1: Component processes of institutionalization)を著者が訳出。

イノベーション

習慣化 客観化 沈殿化

技術変化 法律制定

市場の諸力

組織間の モニタリング

理論化 利害集団の支持

利害集団の抵抗 正の成果

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うに示している。図3は、左から右へと時間の流れを表し、制度と行為とい う社会構造の二層性を上下の矢印で示している。

 「諸制度は、行為の状況についての理解と、過去の実践の歴史的な付着物 である」(p.99)。したがって、行為以前に、制度が存在する。矢印aは、制 度が行為者によってエンコードされることにより、スクリプトとしてコード 化されることを示している。スクリプトとは、行動の規則性であり、「ある 特定の状況下での相互作用に特徴的なパターン」(p.98)であり、Goffman

(1983)が「相互行為秩序(interactionorder)」と呼ぶ社会的なロジック をコード化したものである。矢印bは、行為者が意識的、無意識的にスクリ プトを用いて行為することを示している。矢印cは、スクリプトを複製した り、改定したりする、つまり、制度の維持や変化を示している。矢印dは、

行為者がパターン化された行動と相互行為を客観化し、外在化する過程であ る。BarleyandTolbert(1997)は、スクリプトという媒介項を加えること により、制度が行為者によるエンコードによって具現化される一方、具現化 されたスクリプトのイナクトが多様になることも説明可能にしている。さら に、スクリプト概念を媒介項とすることで、T1時点のスクリプトとT2時点

図3 制度化の連続モデル

出所 Barley and Tolbert (1997, p.101, Fig.2: A Sequential Model of Institutionalization)を著者が訳出。

T1時点の

スクリプト T3時点の

スクリプト T2時点の

スクリプト

3 T 1

T T2

a

b

a

b

a

b d

c

d

c

d

c

制度の領域

行為の領域 矢印a=エンコード, b=イナクト, c=複製や改定, d=外在化と客観化

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のスクリプトを比較することにより、制度変化を経験的に把握することが可 能になるとしている。

 BarleyandTolbert(1997)の制度化モデルをコラボレーションの形成の 分析枠組みに適用する場合、行為者がコラボレーションを形成する過程でど のようなスクリプトを形成していくのかを分析することになる。とりわけ、

行為者間でイナクトが異なる可能性(例えば、コラボレーションを手段と捉 えるのか、目的と捉えるのか、また、コラボレーションを問題と捉えるのか、

解決策と捉えるのかなど)も説明可能になる。

 しかし、BarleyandTolbert(1997)のモデルでは、個々の行為者の行為と 制度の関係が示されたことにより、制度化の多様性を説明可能にしたもの の、行為者間の関係については明示的でない。したがって、次節では、制 度と行為の間に媒介項を挿入するというBarleyandTolbert(1997)の発想を 引き継ぎつつも、初期の新制度派組織論(特に、MeyerandRowan,1977;

DiMaggioandPowell,1983;Jepperson,1991;Scott,1995)が、制度化 プロセスをどのように捉えようとしたのかを検討し、コラボレーションの形 成過程における制度と行為をめぐる行為者間の関係を示す分析枠組みを提示 する。

4. 分析枠組みの提示

4.1 コラボレーションの制度化プロセスの検討

 井上(2011)によると、初期の新制度派組織論において、近代官僚制を 説明する Weber の「合理 = 合法的支配」(Weber,1976= 訳書 1960,p.34)

の議論に依拠した「正統性」は最も根本的な概念である(Meyerand Rowan,1977,p.343)。MeyerandRowan(1977,p.342)によると、通 常、組織の公式構造は、目的 ‐ 手段関係の効率的な調整と統制という合理 性理解(例えば、Thompson,1967)に基づき形成されると考えられている。

しかし、実際には公式構造と業務活動が一致しないという事実が一般的に観

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察される(p.342)。とりわけ、この観察事実は、Weber のいう合理的支配 とは反する形で、つまり、組織の公式構造の存在が非効率の源泉であり、実 際の業務活動が目的合理的な調整と統制を担保していると捉えられている。

よって、公式構造が修正されずに保持される理由は、通説とは別の説明を要 するはずである(p.343)。

 こうして、MeyerandRowanは、Weberの合法的支配という正統性理解 を援用し、近代における公式構造の起源が、近代社会の「規範としての合理 性(normsofrationality)」(p.343)という神話=制度、つまり、合理性(効 率性=実質合理性)の合法化(形式合理化)された制度にあると説明する。

近代社会において、組織の公式構造を生み出す神話には2つの鍵となる性質 がある(pp.343-344)。第一に、神話は様々な社会的目的を技術的目的に変 換し、技術的目的を合理的に追求するための適切な手段をルールのような方 法で特定化し、それが制度化され一般化され記述される。第二に、それらは 個人や組織の裁量を超えて高度に制度化される。つまり、制度は記述されな ければならない。

 このことは、MeyerandRowan(1977)において、「制度が定義されな い」(Greenwoodetal.,2008,p.4)にもかかわらず、「制度化されたルー ル」という語は定義されるという点に深く関係する。制度化されたルール とは、BergerandLuckmann(1967,p.54)に依拠した概念であり、「相 互にやり取りされる典型や解釈として社会に根づいている類型」をさす

(MeyerandRowan,1977,p.341)。制度に従うということは、「制度化さ れたルール(institutionalizedrules)」(p.341)、あるいは「制度化された 要素(institutionalizedelements)」(p.343)を組織に注入することを意味 する。制度化されたルールは、「新たに組織化する状況を定義し、既存の組 織的状況を再定義し、各々を合理的に取り扱うための手段を明らかにする」

(p.344)。したがって、制度は制度化されたルールによって記述される。制 度化されたルールを用いることは、制度(例えば、我々が「組織」とよぶも

(15)

の)を理解可能なものにする。例えば、近代の「組織」は、公式構造(組織 図を含む業務・部署・地位・プログラムのリスト、加えて、専門職、プログ ラム、技術)という制度化されたルールを用いることで、理解可能なものに なる。したがって、組織は、日常の業務活動が公式構造と一致していなくと も、制度化されたルールである公式構造の諸要素を保持しなければならない。

つまり、制度は、制度化されたルールによって可視化されるものの、制度化 されたルール自体は一般的に規定された類型でしかなく、その指示内容は具 体的な活動において充当される。

 このような理解に基づくと、MeyerandRowan(1977)は、制度の内実 をカッコに括った上で、制度化されたルールを用いること(形式合理的であ ること=合法であること)が、実際の活動(実質合理的であること=目的合 理的であること)にどのように反映されるのかを問い、「制度化されたルール」

と具体的な活動の二つの合理性を同時に考慮した概念として、正統性を捉え たと理解できる。

4.2 脱連結と同型化

 組織の公式構造は、組織が業務を遂行し、さまざまな関係性を作り出す中 で、業務活動を調整し統制するための構造を発展させることによって生じる

(MeyerandRowan,1977,p.353)。このとき、組織の公式構造は、制度化 されたルールを用いて記述される。「正統化された語彙によって記述される 組織は集合的に定義され、集合的に要求された目的に志向づけられていると 仮定される」(p.349)。行為者が、この仮定が成立していると見なす限り、

制度化されたルールが、たとえどのような内容であったとしても、誰に対し ても同じように、つまり形式合理的な職務の遂行を可能にする。したがって、

制度化されたルールを採用する組織は、「計算可能性」(Weber,1976)とい う特徴をもつことができる。この特徴は、2つの結果を生み出す。第一に制 度化されたルールが、組織内-間の関係を標準化するインターフェイスのよ

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うな役割を果たし、不確実性を縮減し、個々の組織内-間の調整の必要性を 減じる(MeyerandRowan,1977,p.351)。制度化されたルールが標準と して用いられているのであれば、個々の組織にとって制度化されたルールを 採用すること自体が、相互作用の効率を高める(MeyerandRowan,1977, pp.347-353)。したがって、組織は標準として用いられる制度化されたルー ルに同型化し、制度化されたルールは様々な組織が採用することになる。

 第二に、制度化されたルールへの同型化は、結果的に組織構造と実践の同 質性を高めることにつながるが、他方で、競争的な実践を通じて従来とは 異なった「集合的合理性(collectiverationality)」をうみだす(DiMaggio andPowell,1983,p.147-148)。つまり、制度化されたルールへの同型化は、

実際の活動の同質性を高めるとともに、その異質性を生み出すアンカーに もなる。というのも、「もし、多くの組織が、個々の組織にとって合理的な 戦略を採用するようになれば、それは合理的ではなくなる」(DiMaggioand Powell(1983,p.148)からである。あらゆる行為者が実質合理的に行為す ることが前提とできるのであれば、先発者の行為を模倣することは後発者に とって合理的になる。他方で、あらゆる行為者が制度化されたルールを採用 し、実践の同質性を高めていくのであれば、他者の行為は予測可能となり、

結果、他者が遂行すると予測される行為の裏をかき、差異化(差別化)する 行為が可能となる。

4.3 実践における制度の担体と制度

 新制度派組織論において、制度化されたルールと制度が半ば無自覚的に同 義として扱われてきた。しかし、Jepperson(1991,p150)や、Scott(2008, p.79)は、制度化されたルールに「制度の担体(Institutionalcarriers)」と いう新たな名称を与えることで、両者の位相の違いを明らかにした。Scott

(2008,p.79)は、制度の担体を観念(idea)を運ぶ乗り物(vehicles)と いうメタファーで説明する。具体的には、象徴システム(規則、法律、価値、

(17)

期待、カテゴリ、典型、シェーマ)、関係性システム(政治システム、政治体制、

権威システム、構造的同型化、アイデンティティ)、ルーティン(プロトコル、

標準作業手続き、職業、役割、義務、スクリプト)、人工物(命令仕様に従っ たモノ、慣習や標準を満たすモノ、象徴的な価値をもつモノ)が制度の担体 として説明される。簡潔に言えば、制度の担体それ自体は、単なる記号表現 や物理的対象である。しかし、制度の担体は行為者が実践において行う活動 のなかで制度になる(BergerandLuckmann,1966,p.93)。

 制度の担体と意味や観念、そして両者が結びつくとき生まれる制度の関係 を表したものが、図4である。

 図4では、実践の中で制度の担体と実際の局所的な状況における意味づけ や観念が結びつき、制度が形成されることを示している。結びつき方は、制 度の担体が事前に存在しており、行為者が実践のなかで制度の担体に意味や 観念を充当する(Selznick,1957)場合もあれば、特定の意味づけや観念を 手掛かりに、制度の担体を行為者が見つけ出すという場合もありうる。この 連結過程から、行為者が構築するものが制度である8。しかし、この観念は 制度の担体としてしか表現されえない。したがって、制度は、行為者の反省 の過程の中で、記述され概念化されたり、物象化され具現化されることによっ て、すなわち、制度の担体となって初め具現化される。この過程を示したも のが、図 5 である。図 5 では、上から下へと時間軸が進んでおり、図 4 にお いて制度と示していた箇所が、制度の担体へと変わり具現化されたことによ り、新たに意味や観念が連結することを示している。

図4 制度の担体・意味や観念・制度との関係(著者作成)

制度

制度の担体 意味や観念

(18)

 行為者は制度を制度の担体として具現化し、意味や観念と結び付け、制度 を読み解き、再びそれを制度の担体として具現化し、意味や観念と結び付け

…というように、行為を遂行していく。行為者の活動が終わらない限り、永 続的にこの制度化プロセスは続く。したがって、「もし諸制度が、単に語の 記号表示の中で、そして、物理的な対象のなかで表象されるだけなら、諸制 度は『死』んだものとなる」(BergerandLuckmann,1967,p.93)のである。

この意味で、「制度とは、実践において、制度の担体と実際の活動の連結を 指し示す観念であり、常に指し示すものを先送りする実存的な虚構として定 義できる。制度は、行為者の実践において制度の担体となったとき、初めて 観察者の前に現前する」(井上,2011,p.85)。しかし、そのときは既に、制 度ではなくなっている。

 図5を、行為者ごとに描くことにより、コラボレーションの形成へと向か う個々の行為者のプロセスとその多様性が説明可能になる。しかし、図5の モデルだけでは、行為者間でのコラボレーションが生じる共時的なプロセス が描くことができない。そのため、個々の行為者の実践がコラボレーション に結実する分析枠組みも構築する必要がある。

4.4 制度の担体を用いたコラボレーションの形成プロセス

 制度は、制度の担体を通してのみ現前する。したがって、複数行為者間の 図5 制度の形成プロセス(著者作成)

制度の担体 意味や観念

制度

制度の担体 意味や観念

(19)

協働を描くためには、協働しながらも、行為者間の多様な利害を描くことが 可能なモデルが必要になる。それを図示したものが、図6である。

 図6は、二人の行為者の異なる活動が制度の担体によって連結されている ことを示している。二人の行為者は、各人が異なる実践の中で同一の制度の 担体を用い、それぞれの活動を行っている。行為者Xは、制度の担体を用い、

実践Xを行う。行為者Yは、制度の担体を用い、実践Yを行う。したがって、

二人の行為者間で、制度の担体の意味づけが異なっていても、共通の制度の 担体を参照することにより、不確実性と調整コストを削減しつつも、各々の 目的を満たしたり、問題解決に貢献することを説明する。さらに、各行為者 間の意味づけが互いに脱連結されながらも、共通の制度の担体を参照するこ とによって、他方の行為者の実践を計算可能にする。

 PPCの形成にこの枠組みを適用することを考えた場合、次のような例示が 可能である。行為者XはPPC(制度の担体)に、市民参加の象徴的意味を充 当し、他方、行為者YはPPCに事業活動の効率的遂行を充当する。行為者Y にとって、行為者Xが読み解く制度が制度の担体として現れていれば、行為 者 Y は、行為者 X が PPC に関する要求(例えば、市民へのアピール)、PPC に関する制約条件(例えば、不適切な事業内容)を推測することができる。

また、実際に契約され実行されたPPCの契約を制度の担体として捉えれば、

図6 異なる利害をもつ行為者間の制度の担体の相互参照(著者作成)

制度の担体 意味や観念

行為者X

意味や観念

行為者Y

(20)

公式化された契約書によって、他方の行為者が何をしているかを常時監視せ ずとも、あるいは相手方に確認せずとも理解することが可能になる。

5.結論

 本稿では、PPCの形成プロセスを分析するための枠組みを新制度派組織論 に依拠し、提示した。ここでは、コラボレーション形成モデルとの違いと利 点を改めて検討しておく。本稿で焦点を当てたコラボレーション形成モデル の特徴は、問題や解決策、組織、社会・政治・経済の流れが事例に先立ち存 在し、協働企業家もしくは研究者が、俯瞰的な立場から、特権的に各要素を それらの流れに振り分けていくという点であった。そのため、コラボレート する行為者間での認識の相違は問題化されず、一般化された問題や解決策、

組織、社会・政治・経済的要素が扱われることになる。本稿のモデルとの違 いは、一般化された視点からではなく、各行為者の視点からコラボレーショ ンの形成を説明可能にするモデルであるという点である。

 加えて、本稿のモデルは、コラボレーションが一般化されるプロセスをも 射程に含めることができる。このプロセスは次のように説明できる。個々の 行為者は、特定の実践の中で、特定の制度の担体を用い活動する。だが、他 者との相互作用の中で、個々の行為者は、他者が用いる制度の担体の同質性

(例えば、目的や問題の同質性であったり、他者にとっての問題と自らにとっ ての解決策の同質性である)を認知し、制度の担体を理論化することによっ て、制度の担体は個々の個別具体的な実践から切り離され、標準化される。

これは他業界で使用されている方法を、自らの業界に移植するような場合を 想定すればよい。

 例えば、Cole(1985)によれば、QC活動は日本では当初自動車業界で普 及したが、それが生産性を向上させるため、他業界でも導入が進んだ。その 過程で、QC活動に含まれる内容や道具は個別の業界・企業ごとに差異を含 みつつも、QC活動という一般化された概念で同種のものと認識されるよう

(21)

になった。しかし、このように一般化されたQC活動という概念も、日本で はQC活動は生産性向上の方策として採用されるが、スウェーデンでは、職 場の民主化(workflowdemocracy)の手段として労働組合によって支持さ れた。さらに、アメリカでは、政治的、組織的に孤立していた財団やコンサ ルタント、アカデミックアナリストによって支持されていた。

 つまり、異なる人々が同一の制度の担体を利用しても(制度的同型化が生 じても)異なる理論化が生じる一方で、QC活動という同じラベルの活動を 様々な組織が採用したといえるのである。すなわち、同じ制度の担体であっ ても、実践においては異なる意味や観念が充当され、それらが多種多様な行 為者に採用されることで一般化していくと説明できるのである。

 さらに、このことは、本稿のモデルが制度の担体の同型化と普及に対して 含意をもつことを意味する。つまり、本稿の視点からは、制度の普及とは、

共通の制度の担体を異なる行為者が採用することによって生じ、個々の行為 者が自らの活動に適応するように、制度の担体に観念を充当していく絶えざ る理論化のプロセスと捉えることができる。したがって、同型化とはミクロ な行為者の視点から異なる論理の下での制度担体の採用を見たものであり、

他方、普及とはマクロな観察者の視点から制度の担体の拡散を見た概念化の 違いであると考えられる。したがって、同型化は普及のドライバーであると 捉えることができる(BoxenbaumandJonson,2008)一方で、同型化が 進むことにより、実践が差異化され普及が阻害されることもありうると考え ることができる。

 PPC のケースで考えた場合、個別具体的な PPC の形成とその形成プロセ スにおいては、俯瞰的にコラボレーションの形成を捉えた場合、ゴミ箱モデ ルであれば、偶然性を強調することになり、政策の窓モデルでは協働企業家 のリーダーシップを強調することになる。しかし、本稿で提示した制度化モ デルであれば、当事者間の意味付けを強調することにより、PPC成立後の行 為者間で異なる行動の展開(例えば、展開過程での組織間の分業や、利益の

(22)

配分、活動の評価、PPC からの離脱や PPC の拡大、別の事業での PPC の活 用など)を捉えることも可能にする。

 最後に、本稿の課題を整理したい。本稿は分析枠組みを検討することを目 的としていた。したがって、事例に適用して分析を行っていない。そのため、

事例に適用した検討が課題となる。その際、特に、コラボレーション形成モ デルと比較し、実践的な含意にどのような差異が存在するのかを明らかにす ることが、本稿で提示した制度化モデルの利点を提示する上で重要になる。

      

1 「第三セクター」とは、行政と民間企業の共同出資による半官半民の組織で、株 式会社組織もあれば、公社や財団の形をとるものがある(中村 ,1996)。

2 PerryandThomson(2004)は、アメリカにおける PPC のルーツを、金谷(2005)

は日本における PPC の背景を論じており、古典的な自由主義の位置づけに関し て議論に齟齬がある。他方、MarchandOlsen(1989)は、政治学における国 民主権制度を契約的視点から分析する集計的政治過程学派と、共同体的視点から 分析する統合的政治過程学派の対比として説明しており、特定の国の特徴として は説明していない。しかし、本論ではこれらの位置づけよりも、2 つの文脈があ ることが重要であることから、位置づけに関する議論は扱わない。

3 日本では、小島・平本(2011)、後藤(2013)が、コラボレーション形成モデル に修正を加え分析している。

4 Gray(1985,1999)が提示した、コラボレーションが形成される条件とは、① 危機が知覚されること、②解決のためには多元的な行為者を巻き込む必要がある 複雑な問題であること、③問題解決のための(コラボレーション以外の)アプロー チに欠点があること、④政治的、社会的、経済的環境において不確実性を高まっ ていることである。

5 Kingdon(1984)による意思決定過程の構成要素の変換は、Cohen ら(1972)

が組織内の意思決定を対象としていたのに対し、Kingdon(1984)は連邦政府 のアジェンダ設定を描こうとしたからである。つまり、政府組織の場合、問題や 解だけでなく、政権交代や政権与党と野党とのパワーバランス、国民のムードも アジェンダ設定に大きく影響を与えるからである。したがって、意思決定・政策

(23)

決定がどこで行われるのかによって、その構成要素に差異があると考えられるが、

構成要素間の違いが論理の違いを示すものではない(Kingdon,2002,p.86)。

6  理論化とは、「抽象的なカテゴリを自覚的に展開し、特定することであり、因 果連鎖のようなパターン化された関係を公式化すること」(StrangandMeyer, 1993,p.492)である。

7 TolbertandZucker(1996)は、その条件として、制度を採用した行為者の肯 定的な結果や、制度に対する利害集団の支持を、また、Greenwood,Suddaby andHinnings(2002) は、「Theorization(理論化)」(StrangandMeyer,1993)

と「moraland/orpragmaticlegitimacy( 道 徳 的 正 統 性 と 実 践 的 正 統 性 )」

(Suchman,1995)の獲得をあげている。

8 制度と制度の担体との関係は、「青い海」に関する二者間のやり取りを想定すると、

分かりやすい。自分にとっての青い海のイメージは「深い緑色」であるが、他者 にとっては「薄い青色」であったり、「深い青色」かもしれない。海の青さを表 現するために、ここでは「深い緑色」という言葉で表現したが、この深い緑色の イメージも、「黒に近い緑」なのか、「青に近い緑」なのか、人によってイメージ されるものは異なっている。どれほど詳細に概念を精緻化しても、イメージは表 現しきれない。しかし、そのイメージが二者間で共有されなくても、現実の行為 では各行為者の目的を果たすことさえできれば、イメージが共有できたかどうか は問題化されない。

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