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マックス・シェーラーの教育哲学的研究 -「調和と人間形成」の問題を中心に-

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Academic year: 2021

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(1)

マックス・シェーラーの教育哲学的研究 −「調和

と人間形成」の問題を中心に−

著者

盛下 真優子

学位授与機関

Tohoku University

学位授与番号

11301甲第17825号

URL

http://hdl.handle.net/10097/00122829

(2)

博士論文

マックス・シェーラーの教育哲学的研究

―「調和と人間形成」の問題を中心に―

(3)

マ ッ ク ス ・ シ ェ ー ラ ー の 教 育 哲 学 的 研 究 ― 「 調 和 と 人 間 形 成 」 の 問 題 を 中 心 に ― 凡 例 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・(v) 序 章 問 題 の 所 在 と 本 論 文 の 目 的 ・・・・・・・・・・・・・・・・(1) 第 1 節 問 題 の 所 在 と 研 究 の 視 点 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・( 1) 第 2 節 教 育 哲 学 = 人 間 形 成 論 研 究 と し て の シ ェ ー ラ ー 研 究・・・・(4) 第 3 節 本 論 文 の 構 成 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・( 9) 第 1 章 道 徳 的 人 間 形 成 ・・・・・・・・・・・・・・・・ ・・( 13) ― 個 別 的 人 格 と 社 会 的 人 格 に お け る 調 和 ― 第 1 節 シ ェ ー ラ ー の 実 質 的 価 値 倫 理 学 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・( 13) 1- 1 実 質 的 価 値 倫 理 学 と ア プ リ オ リ な 諸 価 値 1- 2 道 徳 的 な 価 値 認 識 作 用 第 2 節 個 別 妥 当 的 善 と 社 会 的 人 格 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・( 20) 2- 1 個 別 妥 当 的 善 の 実 現 2- 2 4 つ の 社 会 形 態 と 連 帯 性 第 3 節 道 徳 的 人 間 形 成 に お け る 個 人 と 共 同 体・・・・・・・・( 28) 3- 1 道 徳 的 人 間 形 成 に お け る 個 別 的 人 格 と 社 会 的 人 格 3- 2 『 倫 理 学 』 か ら 後 期 思 想 へ 第 2 章 人 間 形 成 に お け る 無 限 性 と 有 限 性 ・・・・・・・・・・( 37) ― 精 神 と 生 の 調 和 ― 第 1 節 シ ェ ー ラ ー の 哲 学 的 人 間 学 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・( 38) 1- 1 哲 学 的 人 間 学 の 理 念 1- 2 精 神 と 世 界 開 放 性 第 2 節 精 神 と 生 の 人 間 理 解 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・( 46) 2- 1 否 と い い う る 者 2- 2 精 神 の 役 割 2- 3 シ ェ ー ラ ー の 精 神 観 に お け る 特 殊 性

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第 3 節 人 間 形 成 に お け る 精 神 と 生 の 調 和・・・・・・・・・・・( 51) 3- 1 世 界 開 放 的 ・ 超 越 的 人 間 形 成 3- 2 調 和 思 想 と 有 限 的 に 開 か れ た 人 間 形 成 第 3 章 世 界 過 程 に お け る 神 生 成 と 人 間 生 成 ・・・・・・・・・(61) ― 神 と 人 間 と の 調 和 ― 第 1 節 哲 学 的 人 間 学 と 形 而 上 学 的 思 想 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・( 61) 1- 1 形 而 上 学 的 思 想 の 位 置 づ け 1- 2 前 提 と し て の 人 間 理 解 第 2 節 神 生 成 と 人 間 生 成 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・( 68) 2- 1 神 生 成 と 人 間 生 成 の 関 係 2- 2 哲 学 史 的 位 置 づ け 第 3 節 神 と 人 間 の 調 和 と 調 和 思 想 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・( 76) 3- 1 人 間 形 成 に お け る 神 と 人 間 の 調 和 3- 2 調 和 と 価 値 の 形 而 上 学 第 4 章 人 間 形 成 に お け る 知 ・・・・・・・・・・・・・・・・(87) ― 支 配 知 ・ 教 養 知 ・ 救 済 知 の 調 和 ― 第 1 節 知 識 形 態 と 機 能 化 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・( 88) 1- 1 三 つ の 知 識 形 態 1- 2 機 能 化 の 働 き 第 2 節 知 識 の 機 能 化 に よ る 人 間 形 成 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・( 93) 2- 1 本 質 認 識 の 個 別 性 と 全 体 性 2- 2 知 識 間 の 序 列 性 と 同 時 性 第 3 節 人 間 形 成 に お け る 知 識 の 調 和 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・( 98) 3- 1 知 の 動 的 連 関 3- 2 発 展 と 衰 退 第 5 章 人 間 形 成 に お け る 愛 の 作 用・・・・・・・・・・・・・( 107) ― 道 徳 的 形 成 と 精 神 的 形 成 の 調 和 ― 第 1 節 原 作 用 と し て の 愛 ・・ ・・・・・・・・・・・・・・( 108) 1- 1 情 緒 的 な 価 値 把 握 態 度

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1- 2 愛 の 秩 序 と 人 格 第 2 節 道 徳 的 形 成 と 精 神 的 形 成 の 調 和 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・( 112) 2- 1 道 徳 的 形 成 と 精 神 的 形 成 2- 2 愛 の 作 用 と 衝 動 的 生 第 3 節 他 者 の 人 格 へ の 愛 の 作 用 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・( 116) 3- 1 形 成 可 能 性 と し て の 存 在 肯 定 3- 2 「 汝 が あ る と こ ろ の も の に な れ 」 3- 3 人 間 形 成 的 愛 第 6 章 人 間 形 成 と 典 型 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・( 128) ― 調 和 に お け る 典 型 の 存 在 ― 第 1 節 シ ェ ー ラ ー の 典 型 論・・・・・・・・・・・・・・・・( 129) 1- 1 実 質 的 価 値 倫 理 学 と 典 型 1- 2 典 型 類 型 第 2 節 人 間 形 成 と 典 型 ・・・・・・・・・・・・・・・・・( 134) 2- 1 典 型 と 指 導 者 2- 2 人 間 形 成 に お け る 典 型 と の 関 わ り 第 3 節 調 和 の 時 代 に お け る 全 人 と 典 型 ・・・・・・・・・・( 139) 3- 1 全 人 と 典 型 3- 2 人 間 形 成 に お け る 自 律 性 3- 3 典 型 と 反 型 第 7 章 他 者 と の 共 同 感 情 を 通 じ た 調 和 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・( 150) ― そ の 限 界 と 可 能 性 ― 第 1 節 シ ェ ー ラ ー の 自 他 関 係 論 と 機 能 的 共 感・・・・・・・・・(151) 1- 1 シ ェ ー ラ ー の 自 他 関 係 論 の 位 置 づ け 1- 2 感 情 伝 播 、 一 体 感 、 相 互 感 得 1- 3 機 能 と し て の 共 感 1- 4 価 値 盲 目 性 と 「 誰 で も よ さ 」 第 2 節 真 の 共 同 感 情 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・( 158) 2- 1 愛 と 共 同 感 情 2- 2 真 の 共 同 感 情 の 特 徴 第 3 節 他 者 と の 共 同 感 情 を 通 じ た 調 和 ・・・・・・・・・・( 163) 3- 1 典 型 と の 共 同 感 情

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3- 2 「 わ か ら な さ 」 の 受 容 と い う 調 和 終 章 人 間 形 成 に お け る 調 和 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・(173) 第 1 節 こ れ ま で の 考 察 の ま と め ・・・・・・・・・・・・・( 173) 1- 1 今 日 の 教 育 に お け る 調 和 の 重 視 1- 2 こ れ ま で の 考 察 の ま と め 第 2 節 調 和 思 想 の 特 徴 ・・・・・・・・・・・・・・・・・( 176) 2- 1 個 別 独 自 性 2- 2 世 界 規 模 で の 連 帯 と 共 同 責 任 2- 3 対 立 関 係 の 受 容 第 3 節 調 和 と 絶 対 的 価 値 領 域 の 関 係 ・・・・・・・・・・・( 181) 3- 1 絶 対 的 価 値 領 域 と 価 値 の 形 而 上 学 3- 2 絶 対 的 価 値 領 域 と 調 和 第 4 節 人 間 形 成 に お け る 調 和 ・・・・・・・・・・・・・・( 188) 4- 1 絶 対 的 価 値 領 域 と 人 間 形 成 4- 2 人 間 形 成 に お け る 調 和 の あ り 方 4- 3 「 わ か ら な さ 」 の 積 極 的 受 容 参 考 文 献 一 覧 ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・ ・(208)

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《 凡 例 》

本 研 究 で は シ ェ ー ラ ー か ら の 引 用 は 、 マ ッ ク ス ・ シ ェ ー ラ ー 全 集 (Max Scheler, Gesammelte Werke, Band 1-15, Francke Verlag, Bern u. München 1954-1979, Bouvier Verlag, Bonn 1987-1997)に 依 拠 す る 。本 文 中 に 巻 数 を ロ ー マ 数 字 で 、頁 数 を ア ラ ビ ア 数 字 で 示 し た 。 以 下 、 シ ェ ー ラ ー 全 集 と シ ェ ー ラ ー 著 作 集 の 題 名 と の 対 応 、 お よ び 本 研 究 に お け る 略 記 の 仕 方 を 記 す 。 こ こ に 挙 げ ら れ て い な い 著 作 ・ 論 文 に つ い て は 、 そ の つ ど 指 示 す る こ と と す る 。

I: Frühe Schriften. Bern u. München, 1971

II: Der Formalismus in der Ethik und die materiale Wertethik, 1913-16. Bern u. München, 1954(『 倫 理 学 』 と 略 記 )

III: Vom Umsturz der Werte, 1912. Bern u. München, 1972 IV: Politisch-pädagogische Schriften, Bern u. München, 1982 V: Vom Ewigen im Menschen, 1921. Bern u. München, 1954

VI: Schriften zur Soziologie und Weltanschauungslehre, 1922 . Berun u. München, 1963

VII: Wesen und Formen der Sympathie, 1923. Bern u. München, 1973(『 共 感 』 と 略 記 )

VIII: Die Wissensformen und die Gesellschaft, 1923. Bern u. München, 1960

IX: Späte Schriften. Bern u. München, 1976

X: Schriften aus dem Nachlaß Bd.1. Bern u. München, 1957 XI: Schriften aus dem Nachlaß Bd.2. Bern u. München, 1979 XII: Schriften aus dem Nachlaß Bd.3. Bonn, 1987

XIII: Schriften aus dem Nachlaß Bd.4. Bonn, 1990 XIV: Schriften aus dem Nachlaß Bd.5. Bonn, 1993

な お 、引 用 文 の 翻 訳 は 飯 島 宗 享・小 倉 志 祥・吉 沢 伝 三 郎 編『 シ ェ ー ラ ー 著 作 集 』( 全 15 巻 、白 水 社 、 1976~ 1980 年 )を 参 照 し 、適 宜 変 更 を 加 え て い る 。

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序 章 問 題 の 所 在 と 本 論 文 の 目 的 本 章 で は 、研 究 の 背 景 と な る 今 日 の 教 育 を と り ま く 状 況 を 振 り 返 り 、 そ の 問 題 点 を 指 摘 す る 。 そ の う え で 教 育 哲 学 研 究 の 意 義 、 教 育 の 哲 学 と し て の 人 間 形 成 論 研 究 に お い て 、 シ ェ ー ラ ー 研 究 に 取 り 組 む 意 義 を 述 べ 、 最 後 に 本 論 文 の 構 成 と 展 望 に つ い て ま と め る 。 第 1 節 問 題 の 所 在 と 研 究 の 視 点 本 研 究 の 根 本 的 な 背 景 と し て 、 以 下 の 二 つ の 問 題 意 識 が あ る 。 第 一 に 、 教 育 学 に お け る 教 育 哲 学 研 究 の 存 在 意 義 の 見 直 し 、 第 二 に 教 育 哲 学 研 究 と し て の 人 間 形 成 論 研 究 の 必 要 性 で あ る 。 私 た ち は 一 般 に 、 日 常 生 活 に お い て 物 事 を 根 本 的 に 問 い 直 し た り 、 普 遍 的 な 意 味 を 求 め た り と い う よ う に 、 哲 学 的 に 考 察 す る こ と は し な い 。 目 の 前 に あ る 現 実 を 自 明 の も の と し 、 私 た ち が 営 む 行 為 の 「 不 思 議 」に 気 づ か ず に 、ま た 気 づ い た と し て も 日 々 の 生 活 に そ の「 不 思 議 」 を 埋 も れ さ せ た ま ま 、 毎 日 を 過 ご し て い る 。 こ の よ う な 事 態 は 、 教 育 と い う 行 為 に 対 し て も 同 様 で あ る 。「 そ も そ も 教 育 と は 何 で あ る の か 」 「 人 間 が 成 長 し 一 人 前 の 大 人 に な る と は ど う い う こ と な の か 」「 人 間 形 成 と 教 育 は ど の よ う な 関 係 に あ る の か 」 と い う 根 源 的 問 い は 不 問 に 付 さ れ た ま ま 、 自 明 な も の と し て 日 々 教 育 は 行 わ れ て い る 。 多 忙 を 極 め る 教 育 現 場 に お い て は 、 目 の 前 の 子 ど も た ち へ の 対 応 に 追 わ れ 、 こ の よ う な 根 源 的 問 い が 後 回 し に さ れ る こ と は 、 い た し か た な い こ と で あ ろ う 。 そ の 代 わ り に 、 人 間 が 教 育 と い う 営 み を 始 め て 以 来 、 つ ね に 多 く の 場 面 で 議 論 さ れ て き た の が 、「 教 育 は い か に あ る べ き で あ り 、ま た 教 育 に よ っ て 何 が 目 指 さ れ る べ き で あ る の か 」 と い う 、 教 育 の 理 想 論 や 教 育 の 目 的 論 で あ る 。 特 に 今 日 、教 育 を め ぐ る 動 向 は め ま ぐ る し く 変 化 し 、い じ め や 体 罰 、 不 登 校 、 道 徳 教 育 、 生 き る 力 な ど 、 さ ま ざ ま な 問 題 や 理 念 が 学 校 教 育 を 取 り 巻 い て い る 。 教 育 問 題 の 複 雑 化 、 多 様 化 に 伴 い 、 教 育 の 議 論 は ま す ま す 細 分 化 さ れ 、 議 論 の 終 着 点 が 見 え ぬ ま ま 平 行 線 を た ど る 一 方 で あ る 。 そ も そ も 教 育 は 、 今 日 の 私 た ち の 誰 も が 「 教 育 さ れ る 側 」 と し て の 経 験 が あ る こ と か ら 、 自 ら の 経 験 に 即 し て 理 想 や 目 的 を 語 る こ と が 容 易 な 事 象 で あ る 。 現 場 の 教 師 の み な ら ず 、 保 護 者 や 多 く の 大 人

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た ち 、 さ ら に は 子 ど も た ち 自 身 が 教 育 へ と 強 い 関 心 を 抱 き 、 教 育 を 私. た ち の. . .問 題. .と し て 意 見 を 交 わ す 姿 は 、 誰 も が 積 極 的 に 教 育 へ と 関 わ る こ と が で き る 理 想 的 な 関 係 に も み え る 。 し か し 教 育 的 議 論 の 活 発 化 は 、 そ こ に お い て さ ま ざ ま な 教 育 観 が 提 出 さ れ れ ば さ れ る ほ ど 、 教 育 や 人 間 形 成 と い う 事 象 を ま す ま す 不 明 瞭 な も の に し 、 そ れ が 教 育 の 問 題 を よ り 一 層 複 雑 化 さ せ る と い う 悪 循 環 に 陥 っ て し ま う と い う 側 面 も 伴 っ て い る 。 と い う の も 、 教 育 と は 何 で あ り 、人 間 形 成 と は ど の よ う な も の で あ る の か と い う 、教 育 の 基 礎 的・ 根 本 的 前 提 が 各 人 に よ っ て 異 な る も の で あ る と し た ら 、 そ の 前 提 に 基 づ く 議 論 も 平 行 線 を た ど る か 、 教 育 や 人 間 形 成 の 実 際 と は ま っ た く 的 外 れ な 方 向 に 展 開 さ れ て し ま う 可 能 性 が あ る か ら で あ る 。 例 え ば 、 子 ど も は 本 来 十 分 な 自 律 性 や 学 習 能 力 を 有 し て い る と い う 子 ど も 観 が 存 在 し て い る 。 こ の 子 ど も 観 に 基 づ き 、 教 育 は 大 人 か ら の 押 し つ け に 過 ぎ ず 、 む し ろ 教 育 に よ っ て 子 ど も が 持 っ て い る 能 力 が 妨 げ ら れ て し ま う の で あ る か ら 、 教 育 は 廃 止 さ れ る べ き で あ る と い う 教 育 的 立 場 が 導 き 出 さ れ う る 。 他 方 で 、 子 ど も は 生 物 学 的 観 点 か ら み て も 生 存 の 不 確 実 性 な い し 無 能 さ が 著 し い と い う 子 ど も 観 が 存 在 す る 。 こ の 子 ど も 観 に 基 づ く と 、 子 ど も が 生 き て い く た め に 教 育 は 必 要 で あ る し 、 そ れ ゆ え 大 人 に よ る 介 入 が 欠 か せ な い と い う 教 育 観 が 導 き 出 さ れ う る 。そ し て た い て い の 場 合 、こ れ ら の 立 場 の 根 底 に 存 在 し て い る 、 互 い に 相 容 れ な い 子 ど も 観 、 さ ら に は そ の 前 提 と し て の 人 間 観 は 不 問 と さ れ た ま ま 、 反 教 育 的 立 場 と 教 育 必 要 性 の 立 場 の 衝 突 の み が 顕 在 化 さ れ た か た ち で 、 平 行 線 を た ど っ た ま ま の 議 論 が 繰 り 広 げ ら れ て い る の で あ る 。 し た が っ て 、 こ の 最 も 根 底 に あ る 人 間 観 、 そ れ に 基 づ く 子 ど も 観 、 人 間 形 成 観 、 教 育 観 に こ そ 、 教 育 に 関 す る さ ま ざ ま な 立 場 の あ い だ に 対 立 を 生 み だ す 起 源 が あ る の で あ り 、 こ の 前 提 を 不 問 と す る こ と が 、 教 育 問 題 の さ ら な る 複 雑 化 を も た ら し て い る と い え る だ ろ う 。 こ の よ う な 教 育 の 前 提 へ の 問 い は 、 発 達 の 一 側 面 に つ い て の 考 察 や 授 業 論 を 寄 せ 集 め て も 答 え る こ と の で き な い 種 類 の 問 い で あ る 。 そ し て 教 育 哲 学 こ そ 、 こ の 前 提 へ の 問 い に 真 摯 に 向 き 合 い 、 教 育 を 哲 学 す る 役 割 を 担 っ て い る の で あ る 。 た だ し そ の 際 、 教 育 を 哲 学 す る と い っ て も 、 依 拠 す る 世 界 観 や 人 間 観 が 不 明 瞭 な ま ま で は 、 た だ 個 人 的 な 経 験 や 価 値 観 を 語 る 「 教 育 論 」

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に 陥 り か ね な い 。 と い う の も 教 育 に 対 す る 哲 学 的 問 い 自 体 が ま た 、 他 の 事 象 に 対 す る 哲 学 的 問 い と 同 様 に 、 人 間 と は ど の よ う な 存 在 で あ る の か と い う 人 間 観 、 こ の 世 界 は ど の よ う に 成 り 立 っ て い る の か と い う 世 界 観 を 前 提 と し て い る か ら で あ る 。そ し て こ れ ら の 人 間 観 、世 界 観 、 さ ら に そ れ ら は ど う あ る べ き か と い う 実 践 的 な 理 論 は 、 古 代 ギ リ シ ア で 哲 学 が 生 ま れ て 以 来 現 在 に 至 る ま で 、 多 く の 哲 学 者 に よ っ て 多 様 に 語 ら れ て き た 。 と す る と 、 そ れ ら を 無 視 し て 教 育 を 語 る な ら ば 、 そ れ は 根 拠 も 論 理 も な い 単 な る 自 己 満 足 に 終 わ っ て し ま う 可 能 性 も あ る だ ろ う 。 し た が っ て 教 育 哲 学 研 究 に お い て 、 ま ず は 人 間 観 、 世 界 観 へ の 深 い 理 解 が 求 め ら れ る の で あ る 。 そ し て そ れ に 基 づ き 、 人 間 形 成 そ の も の へ の ま な ざ し を 深 め て い く 必 要 が あ る と い え る 。 で は な ぜ 、 教 育 で は な く 人 間 形 成 そ の も の へ の ま な ざ し が 重 要 で あ る の か 。そ れ は 人 間 形 成 と 教 育 の 関 係 が 、「 人 間 形 成 の 過 程 の 一 端 を 担 っ て い る 教 育 」と い う よ う な 位 置 づ け と し て 理 解 さ れ う る か ら で あ る 。 こ の よ う な 両 者 の 関 係 理 解 の 背 景 に は 、 教 育 の 哲 学 的 問 い の 最 も 根 源 的 な も の が 「 人 間 が 人 間 に な る こ と 」 へ の 驚 き と 問 い で あ る 、 と い う 事 実 が 存 在 し て い る 。つ ま り 「教 育 の 哲 学 的. . .研 究 の た め に は 、単 に 教 育 と い う 事 象 に と ど ま ら ず 、 こ れ を 広 く 人 間 形 成 と い う 視 点 か ら 見 た 人 間 存 在 様 式 の 本 質 的 解 明 と そ の 構 造 の 分 析 に 広 げ 且 つ 深 め な け れ ば な ら な い 」の で あ る( 1 )。 そ れ ゆ え に 教 育 哲 学 研 究 に お い て は 、 あ ら ゆ る 立 場 の 素 地 と な る 人 間 観 の 哲 学 的 考 察 に 基 づ く 、 人 間 形 成 の 哲 学 が 第 一 に 求 め ら れ る こ と に な る 。 以 上 の こ と か ら 、 本 研 究 で は 教 育 哲 学 研 究 と し て の 人 間 形 成 論 研 究 に 取 り 組 む 。 そ の 際 に 特 に 焦 点 を 当 て る の が 、 人 間 形 成 に お け る 「 調 和 」 と い う 問 題 で あ る 。 と い う の も 調 和 は 、 他 者 や 自 分 と は 異 な る 価 値 観 、 異 な る 世 界 観 と 関 係 す る こ と が 避 け ら れ え な い よ う な 人 間 形 成 に と っ て 、 最 も 基 本 的 で 重 要 な 課 題 で あ る と 考 え ら れ る か ら で あ る 。 と 同 時 に 調 和 は 、 い じ め 問 題 や 緊 迫 し た 国 際 情 勢 に み ら れ る よ う に 、 今 日 の 私 た ち に と っ て は 現 実 的 に 差 し 迫 っ た 課 題 で も あ る 。 し た が っ て 本 研 究 を 通 し て 人 間 形 成 に お け る 調 和 の あ り 方 を 考 察 す る こ と で 、 今 日 の 教 育 的 諸 問 題 に 対 す る 基 盤 と な る よ う な 人 間 形 成 観 を 提 示 し て い き た い 。

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第 2 節 教 育 哲 学 = 人 間 形 成 論 研 究 と し て の シ ェ ー ラ ー 研 究 以 上 の よ う な 視 点 か ら 本 研 究 に お い て 研 究 対 象 と し た の が 、 ド イ ツ の 哲 学 者 マ ッ ク ス ・ シ ェ ー ラ ー (Max Scheler, 1874-1928) の 哲 学 で あ る 。 た だ し シ ェ ー ラ ー 自 身 は 、 教 育 哲 学 研 究 を 直 接 的 に 展 開 す る こ と は し て い な い 。 そ れ で は な ぜ 、 シ ェ ー ラ ー の 哲 学 を 研 究 対 象 と す る の か 。そ の 理 由 は 第 一 に 、「 教 育 」を 論 ず る 際 に 基 盤 と し て 必 須 で あ る 哲 学 的 ‐ 人 間 学 的 な 人 間 理 解 が 提 示 さ れ て お り 、 第 二 に 、 そ の 思 想 の 背 景 に は つ ね に 教 育 が 関 わ る べ き 、 調 和 と 人 間 形 成 の 問 題 が 存 在 し て い た と 考 え ら れ る か ら で あ る 。 シ ェ ー ラ ー は 20 世 紀 初 頭 を 、さ ま ざ ま な 人 間 像 に 溢 れ か え り 、も は や「 人 間 と は 何 か 」が わ か ら な い 最 初 の 時 代 で あ る と 位 置 づ け て い る 。 こ れ ま で 人 間 は 一 面 的 に 、 一 つ の 理 念 に 押 し 込 め ら れ て 理 解 さ れ て き た 。例 え ば「 理 性 的 動 物( ア ニ マ ル・ラ チ オ ナ ー レ )」、「 工 作 人( ホ モ ・ フ ァ ー ベ ル )」、「 叡 智 人 ( ホ モ ・ サ ピ エ ン ス )」、「 デ ィ オ ニ ュ ソ ス 的 人 間 」、「 超 人 」、「 リ ビ ド ー 人 」、「 堕 罪 の ア ダ ム 」 な ど で あ る 。 し か し シ ェ ー ラ ー は 以 下 の よ う な 理 由 で 、 こ れ ま で の 人 間 理 念 が 一 面 的 で 狭 す ぎ る も の で あ る と し て い る 。 人 間 は 恐 る べ き 可 塑 性. . .(Plastizität)を そ な え た 存 在 で あ る と い う こ と は 、今 日 に 至 る ま で の 、周 知 の 、人 間 の 生 成 過 程 が 明 ら か に し て い る と こ ろ で あ る 。そ れ ゆ え 人 間 の 理 念 を 狭 く. .把 え す ぎ て 、そ れ を 不 注 意 に も 単 に 一 つ の. . .自 然 的 な 形 姿 、さ ら に は ま っ た く 歴 史 的 な も の に す ぎ な い よ う な 形 姿 か ら 導 き 出 し た り 、あ る い は 、そ れ を そ の よ う な 狭 い 理 念 の な か に 押 し 込 め て 考 え て み よ う と し た り す る こ と は 、哲 学 的 に も の を 考 え よ う と す る す べ て の 人 び と に と っ て の 最 大 の 危 機 で あ る 。(IX,151) す な わ ち シ ェ ー ラ ー は 、 人 間 の 可 塑 性 を 重 視 し て い る が ゆ え に 、 全 体 的 、 包 括 的 視 点 か ら 人 間 を 理 解 し よ う と 試 み て い る の で あ る 。 そ こ で シ ェ ー ラ ー が 採 っ た 研 究 手 法 が 、哲 学 的 ‐ 人 間 学 的 な 人 間 理 解 で あ る 。 こ れ に よ り シ ェ ー ラ ー は 、 心 理 学 や 生 物 学 な ど 人 間 を 扱 う 自 然 諸 科 学 の 成 果 を 踏 ま え た う え で 、 さ ら に 哲 学 的 視 点 か ら 理 論 構 築 を 行 い 、 人 間 像 の 全 体 的 解 明 を 試 み て い る 。 こ の 試 み に よ り 、 シ ェ ー ラ ー は 最 晩

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年 に 哲 学 的 人 間 学 を 樹 立 す る に 至 っ た 。 学 問 の 細 分 化 が 進 む 今 日 、 先 述 し た よ う に 教 育 学 に お い て も 同 様 に 多 様 な 子 ど も 観 、 人 間 観 が 錯 綜 し た ま ま 教 育 の 議 論 が 行 わ れ て い る 。 シ ェ ー ラ ー の 哲 学 的 ‐ 人 間 学 的 な 人 間 理 解 は 、 こ の よ う な 状 況 に 対 し て 、 新 た な 包 括 的 視 座 を 与 え る も の と し て 重 要 で あ る と い え る だ ろ う 。 そ し て 以 上 の よ う な 手 法 に 基 づ く シ ェ ー ラ ー 哲 学 に お い て 、 人 間 像 の 全 体 的 解 明 の 主 軸 を 成 し て い た の が 、 人 間 形 成 に お け る 調 和 の 問 題 で あ る 。 す な わ ち シ ェ ー ラ ー 哲 学 は 精 神 と 生 、 自 己 と 他 者 、 価 値 と 価 値 が 、 人 間 形 成 の 過 程 に お い て ど の よ う に 調 和 的 に 相 互 に 関 係 し 合 う こ と が で き る の か を 問 う 、 調 和 の 人 間 形 成 論 と し て 理 解 す る こ と が で き る の で あ る 。 シ ェ ー ラ ー は 実 質 的 価 値 倫 理 学 、 哲 学 的 人 間 学 、 知 識 社 会 学 、 他 者 論 な ど 、 多 岐 に わ た る 分 野 で 活 躍 し た 哲 学 者 で あ る 。 そ の 調 和 の 問 題 が 顕 在 化 さ れ た の は 、 第 一 次 世 界 大 戦 後 の 後 期 思 想 に 至 っ て か ら で あ っ た 。 た だ し 、 そ れ 以 前 に も 調 和 と い う 概 念 は シ ェ ー ラ ー 哲 学 の 根 幹 を 成 し て い た と い え る 。 シ ュ テ ー ク ミ ュ ラ ー (1952)が 述 べ て い る よ う に 、 シ ェ ー ラ ー の 哲 学 は 「 相 対 主 義 と 絶 対 主 義 、 受 動 的 に 受 け 入 れ る 理 論 知 と 対 象 を 能 動 的 に 愛 し つ つ 把 握 す る 認 識 、 個 体 主 義 と 統 一 観 、 情 動 的 領 域 と 理 性 的 領 域 」 を い か に 調 和 す る の か 、 つ ま り 「 存 在 の 調 和 と 世 界 の 分 裂 」 を つ ね に 問 題 と し て き た と い え る の で あ る( 2 ) こ こ で 調 和 と い う 言 葉 の 哲 学 史 を 簡 単 に 振 り 返 る と 、 ギ リ シ ア 語 の harmonia ( ド イ ツ 語 で は Harmonie ) に ま で 遡 る こ と が で き る 。 harmonia の 起 源 は 古 く 、「 存 在 は 根 源 的 に 数 理 的 で あ る 」と し た ピ ュ タ ゴ ラ ス 学 派 に よ る 音 響 数 理 的 議 論 か ら 生 ま れ た も の で あ る と さ れ て い る( 3 )。調 和 に は 、個 別 的 事 物 が 互 い に 拮 抗 せ ず バ ラ ン ス よ く 並 立 併 存 し て い る と い う よ う な 状 態 の 意 味 の み な ら ず 、 ピ ュ タ ゴ ラ ス 学 派 に み ら れ る よ う な 、 存 在 の 根 源 的 な 均 整 美 や 完 全 性 を 内 包 す る 原 理 と し て の 意 味 も あ る 。 特 に 古 代 ギ リ シ ア 思 想 で は 、 後 者 の 意 味 で の 調 和 が 浸 透 し て い っ た 。 そ し て そ の よ う な ピ ュ タ ゴ ラ ス 学 派 の 影 響 を 受 け た プ ラ ト ン は harmonia を イ デ ア の 存 在 形 式 と し 、 ま た ラ イ プ ニ ッ ツ は 「 予 定 調 和 説 」の な か に 、世 界 ・宇 宙 調 和 論 と 神 学 的 目 的 論 を 結 び つ け た の で あ る 。 以 上 の よ う に 従 来 西 洋 哲 学 で は 、harmonia と し て の 調 和 が 主 流 を 成 し て き た 。 そ れ ゆ え に 調 和 と い う 言 葉 か ら は 、 並 立 併 存 と し て い る 状 態 や 、 ラ イ プ ニ ッ ツ が 考 え た よ う な 神 に よ る 予 定 調 和 と い う 印 象 が

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強 く な っ て し ま っ た よ う に も 思 わ れ る 。 で は シ ェ ー ラ ー の 思 想 に お け る 調 和 も 、 こ の harmonia と し て の 調 和 を 意 味 す る の で あ ろ う か 。 こ の 重 要 な 問 い に こ た え る に あ た っ て 注 目 し た い の が 、 シ ェ ー ラ ー が 調 和 を 表 現 す る 際 に 、Ausgleich と い う ド イ ツ 語 を 用 い て い る 点 で あ る 。 こ の Ausgleich と い う ド イ ツ 語 は 、aus と gleich か ら 成 り 立 っ て い る 。aus は 「 ~ か ら 」 と 訳 さ れ 、 中 か ら 外 へ の 方 向 で あ っ た り 、 起 源 や 根 拠 を 意 味 す る 。 ま た gleich は「 同 一 の 、等 し い 」な ど を 意 味 し て い る 。 こ の よ う な 語 の 分 析 的 意 味 を 踏 ま え る と 、Ausgleich は 「 あ る 地 点 か ら (aus) 見 て 、 同 一 で あ る こ と 、 等 し い こ と ( gleich)」 を 意 味 し て い る と 考 え ら れ る 。 つ ま り シ ェ ー ラ ー が い う Ausgleich と し て の 調 和 と は 、 何 か と 何 か の 融 合 に よ っ て 成 り 立 つ の で は な く 、 そ の 背 景 に あ る 立 場 、 す な わ ち 価 値 の 形 而 上 学 と い う 視 点 か ら み た 調 和 な の で あ る 。 そ し て harmonia と は 異 な る Ausgleich と し て の 調 和 が 重 視 さ れ て い る が ゆ え に 、 そ こ で は 予 定 調 和 と は 異 な る 調 和 が 考 え ら れ て い る と 予 想 さ れ る 。 本 論 文 で は 、 こ の よ う な 特 殊 性 を 持 つ シ ェ ー ラ ー の 調 和 思 想 を 人 間 形 成 論 と し て 再 構 成 す る こ と で 、 シ ェ ー ラ ー 哲 学 の 全 体 像 を 明 ら か に す る と と も に 、 人 間 形 成 に お け る 調 和 の あ り 方 を 検 討 し て い き た い 。 ま ず 、 シ ェ ー ラ ー の 思 想 の 概 略 と 先 行 研 究 に つ い て 確 認 す る 。 シ ェ ー ラ ー の 思 想 は 3 つ の 時 期 に 区 分 さ れ う る( 4 )。第 一 期 は 1912 年 ま で の 前 現 象 学 期 で あ る 。 こ の 時 期 の シ ェ ー ラ ー は ル ド ル フ ・ オ イ ケ ン (Rudolf Eucken, 1846-1926) の 哲 学 思 想 を 通 じ て カ ン ト 哲 学 の 影 響 を 強 く 受 け て お り 、 主 に カ ン ト 、 オ イ ケ ン 、 デ ィ ル タ イ の 研 究 に 従 事 し て い る 。 主 要 著 作 は 『 ル サ ン チ マ ン と 道 徳 的 価 値 判 断 に つ い て 』 (Über Ressentiment und moralisches Werturteil, 1912)、『 生 の 哲 学 の 試 み 』(Versuche einer Philosophie des Lebens, 1913)、『 徳 の 再 建 に つ い て 』(Zur Rehabilitierung der Tugend, 1913) な ど で あ る 。 阿 内 (1995) が 指 摘 す る よ う に 、こ の 時 期 に は す で に「 シ ェ ー ラ ー の 生 涯 を 通 じ て 一 貫 し た 主 張 、 す な わ ち 道 徳 的 領 域 を 理 性 的 原 理 に 還 元 す る こ と に 対 す る 批 判 」 が 明 確 に 現 れ て い る( 5 ) 第 二 期 は 1921 年 ま で の 現 象 学 期 、 カ ト リ ッ ク 期 と 呼 ば れ る 時 期 で あ る 。 こ の 時 期 の シ ェ ー ラ ー は 、 現 象 学 的 価 値 倫 理 学 、 宗 教 哲 学 お よ び 現 象 学 的 な 他 者 論 や 、 愛 の 理 論 な ど に 取 り 組 ん で い る 。 主 要 著 作 は 『 倫 理 学 に お け る 形 式 主 義 と 実 質 的 価 値 倫 理 学 』(Der Formalismus in der Ethik und die materiale Wertethik, 1913-1916)、『 人 間 に お け

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る 永 遠 な る も の 』(Vom Ewigen im Menschen, 1921) 、『 共 感 の 本 質 と 諸 形 式 』(Wesen und Formen der Sympathie, 1923) な ど で あ る 。 こ の 時 期 の シ ェ ー ラ ー は 基 本 的 に カ ト リ ッ ク 的 立 場 に 立 っ て い る も の の 、 カ ト リ ッ ク の 枠 組 み を 越 え 出 て 、 事 象 そ の も の を 現 象 学 的 に 考 察 す る 試 み も 多 く み ら れ る 。 こ の 時 期 の 思 想 的 な 分 離 と 同 時 に 、 ス キ ャ ン ダ ラ ス な プ ラ イ ベ ー ト の 事 情 も 相 ま っ て 、 シ ェ ー ラ ー は 1921 年 に カ ト リ ッ ク 教 会 か ら 離 反 す る こ と に な る 。 第 三 期 は 1928 年 の シ ェ ー ラ ー の 死 ま で で あ り 、 汎 神 論 期 と 呼 ば れ て い る 。 シ ェ ー ラ ー は カ ト リ ッ ク 教 会 を 離 反 し て 以 降 、 カ ト リ ッ ク 的 立 場 を 越 え 出 て 人 間 や 世 界 、 神 に 関 し て よ り 自 由 な 、 そ し て 動 的 な 思 想 を 展 開 し て い く 。 こ の 時 期 の 主 な 著 作 は 、 哲 学 的 人 間 学 の 著 作 で あ る『 宇 宙 に お け る 人 間 の 地 位 』(Die Stellung des Menschen im Kosmos, 1928)や 知 識 社 会 学 の 著 作『 知 識 形 態 と 社 会 』(Die Wissensformen und die Gesellschaft, 1923) で あ る 。 こ の 時 期 に な っ て 初 め て 、 シ ェ ー ラ ー は 調 和 を 主 題 的 に 扱 う こ と に な る 。 そ の 論 文 が 『 調 和 の 時 代 に お け る 人 間 』(Der Mensch im Weltalter des Ausgleichs, 1927 以 下『 調 和 』) で あ る 。『 調 和 』で は 女 性 と 男 性 、社 会 形 態 、哲 学 的 立 場 な ど 具 体 的 な 視 点 か ら 調 和 が 論 じ ら れ て い る 。 し か し シ ェ ー ラ ー が 後 期 思 想 を 形 而 上 学 の 構 想 の 一 部 を 担 う も の と し て 位 置 づ け て い る こ と か ら 、 調 和 も ま た 形 而 上 学 と い う 視 点 か ら と ら え 直 す 必 要 が あ る だ ろ う ( こ の 点 に つ い て は 第 3 章 お よ び 終 章 を 参 照 )。こ の 点 に 関 し て シ ェ ー ラ ー は 、さ ら に 大 き な 著 作 で あ る『 哲 学 的 人 間 学 』や『 形 而 上 学 』を 著 す こ と を 、 い た る と こ ろ で 予 告 し て い る が 、 急 逝 の た め に そ の 構 想 は 未 完 に 終 わ っ て し ま っ て い る 。 以 上 の よ う に 、 シ ェ ー ラ ー は 多 く の 学 問 分 野 で 活 躍 し た 哲 学 者 で あ る 。 そ の 情 熱 の あ ま り 、 な か に は 執 筆 の 途 中 で 未 完 の ま ま 終 わ っ て い る 著 作 も 少 な く な い 。 そ れ ゆ え に シ ェ ー ラ ー の 思 想 は 一 貫 性 を 欠 い て い る と 評 さ れ る こ と も あ る 。 し か し シ ェ ー ラ ー 自 身 は 、 哲 学 的 意 識 が 初 め て 目 覚 め て 以 来 、 ほ か の ど の よ う な 哲 学 的 問 題 に も ま し て い っ そ う 本 質 的・中 心 的 に 、「 人 間 と は 何 か 、存 在 の う ち に 占 め る 人 間 の 地 位 は ど の よ う な も の か 」と い う 問 題 に た ず さ わ っ て き た(IX,9)、と 自 ら の 哲 学 的 姿 勢 を 表 明 し て い る 。し た が っ て シ ェ ー ラ ー 哲 学 の 一 貫 性 は 、 「 人 間 と は 何 か 」 と い う 問 い に あ る の で あ り 、 さ ら に こ の 問 い に シ ェ ー ラ ー は 調 和 と い う 視 点 か ら 取 り 組 ん で い る と 考 え ら れ る の で あ る 。 ま た 、 シ ェ ー ラ ー の 哲 学 思 想 は 多 く の 哲 学 者 に 影 響 を 与 え て い る の

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に も か か わ ら ず 、 今 日 で も な お 広 く 知 れ 渡 っ て い る と は 言 い 難 い 状 況 に あ る 。 ガ ー ダ マ ー (1977) は シ ェ ー ラ ー に つ い て 、以 下 の よ う に 述 べ て い る 。「 ほ と ん ど 信 じ ら れ な い こ と で あ る が 、今 日 哲 学 に 関 心 の あ る 若 者 あ る い は 年 長 の 人 に 対 し て 質 問 し て も 、 彼 ら は シ ェ ー ラ ー が ど の よ う な 人 物 で あ る の か を ほ と ん ど 知 ら な い 」( 6 )。 し か し 実 際 シ ェ ー ラ ー は 現 象 学 的 価 値 倫 理 学 の 祖 で あ り 、 知 識 社 会 学 の 先 駆 者 で あ り 、 哲 学 的 人 間 学 の 創 始 者 と し て 位 置 づ け る こ と が で き る の で あ り( 7 )、必 ず し も 言 明 さ れ て は い な い も の の ハ イ デ ガ ー や メ ル ロ = ポ ン テ ィ 、N. ハ ル ト マ ン な ど の 多 く の 哲 学 者 が 、 シ ェ ー ラ ー か ら 示 唆 と 刺 激 を 受 け て い る と い え る 。 こ の よ う に シ ェ ー ラ ー の 知 名 度 が 低 い こ と に 伴 っ て 、 シ ェ ー ラ ー 哲 学 に 関 す る 先 行 研 究 も ま た 数 が 少 な い だ け で な く 、 個 々 の 学 問 分 野 に お け る 概 説 的 紹 介 に 留 ま る も の が 多 い 。 日 本 の み な ら ず シ ェ ー ラ ー が 活 躍 し た 地 で あ る ド イ ツ で さ え そ の よ う な 研 究 が 多 く 、 い ま だ シ ェ ー ラ ー 研 究 が 開 拓 段 階 に あ る こ と が う か が え る 。 そ れ は シ ェ ー ラ ー 自 身 が 自 ら の 諸 思 想 の 関 連 性 を 明 確 に し な い ま ま 、 多 様 な テ ー マ を 扱 っ て い た こ と に も 原 因 が あ る と い え る だ ろ う 。 こ の よ う な 状 況 は 人 間 形 成 論 研 究 に お い て も 同 様 で あ る た め 、 そ の 先 行 研 究 は 未 だ 数 が 少 な い 。代 表 的 な も の と し て は H.M.Elzer( 1950) “Der Bildungsbegriff bei Max Scheler”、H.Bokelmann( 1958)“Die Pädagogik Max Schelers ”、 T.Rutt( 1978 )“ Bildungstheoretische Beiträge in den Werken Max Schelers”、K.Windheuser( 1990)“ Die Idee der allgemeinen Bildung bei Max Scheler ”が 挙 げ ら れ る だ ろ う 。 国 内 に お け る シ ェ ー ラ ー の 人 間 形 成 論 研 究 と し て 先 駆 け で あ る 研 究 は 、 紺 野 祐(1995)『 マ ッ ク ス・シ ェ ー ラ ー の 人 間 形 成 論 』( 博 士 学 位 論 文 ) が あ る 。 ま た 国 内 の 教 育 学 の 分 野 に お い て は 、 シ ェ ー ラ ー の 受 容 が い く ら か み ら れ る 。例 を 挙 げ る と 、三 輪 健 司(1966)『 道 徳 教 育 の 原 理 』 や 、 小 島 新 平 (2001)『 子 ど も の 人 間 学 』 で あ る 。 こ れ ら の 研 究 に お い て は 、 シ ェ ー ラ ー の 思 想 に 基 づ き 「 典 型 と し て の 教 師 像 」 や 「 教 育 必 要 性 」 の 理 念 が 導 き 出 さ れ て い る 。 し か し こ れ ら の 先 行 研 究 で は 、人 間 形 成 に お け る 調 和 と い う 問 題 は 、 と り 立 て て 取 り 組 ま れ る こ と が な か っ た 。 先 ほ ど 先 行 研 究 と し て 挙 げ た ボ ー ケ ル マ ン (1958) が 、 シ ェ ー ラ ー の 人 間 形 成 論 を 道 徳 的 形 成 、 精 神 的 形 成 、 社 会 的 形 成 の 三 つ に 分 け 、 道 徳 的 形 成 と 精 神 的 形 成 の 統 合 に つ い て 論 じ て い る も の の 、 そ こ に お い て も 調 和 は 問 題 と さ れ て い

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な い 。 つ ま り シ ェ ー ラ ー の 人 間 形 成 論 研 究 と し て 特 徴 的 で あ る の は 、 思 想 ご と に 人 間 形 成 論 と し て の 見 地 は ま と め ら れ て い る も の の 、 そ れ ら を 包 括 す る 視 点 が 欠 如 し て い る 点 に あ る と い え る の で あ る 。 こ の よ う な 問 題 意 識 の も と 、 本 研 究 を 通 し て シ ェ ー ラ ー の 思 想 を 調 和 の 人 間 形 成 論 と し て 再 構 成 す る こ と に よ っ て こ そ 、 そ の 多 彩 な 思 想 が 相 互 に 体 系 的 に 関 連 づ け ら れ う る と 考 え ら れ る 。さ ら に そ れ に よ り 、 シ ェ ー ラ ー の 思 想 の 背 後 に 存 在 し て い る 価 値 の 形 而 上 学 が 顕 在 化 さ れ る だ ろ う 。 こ の よ う な 本 研 究 の 試 み は 、 今 日 に お け る シ ェ ー ラ ー 研 究 に 大 き な イ ン パ ク ト を 与 え る と と も に 、 人 間 形 成 に お い て 他 者 と 調 和 的 に 生 き る あ り 方 を 示 す も の と し て 、大 き な 意 義 が あ る と 考 え ら れ る 。 第 3 節 本 論 文 の 構 成 以 上 の こ と か ら 本 論 文 で は 、 シ ェ ー ラ ー が 展 開 し た 倫 理 学 、 哲 学 的 人 間 学 、 形 而 上 学 、 知 識 社 会 学 、 自 他 関 係 論 を 人 間 形 成 論 と し て 再 構 成 し 、 そ れ ら の 成 果 を 踏 ま え て 人 間 形 成 に お け る 調 和 の あ り 方 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と し て い る 。 本 論 文 の 構 成 は 以 下 の 通 り で あ る 。 第 1 章「 道 徳 的 人 間 形 成 ― 個 別 的 人 格 と 社 会 的 人 格 に お け る 調 和 ― 」 で は 、 シ ェ ー ラ ー が 中 期 思 想 に お い て 展 開 し た 倫 理 学 思 想 を 中 心 と し て 、 道 徳 的 人 間 形 成 の あ り 方 を 検 討 す る 。 こ こ で 問 題 と な る の は 諸 価 値 間 の 調 和 で あ り 、 さ ら に 個 人 が 属 す る 共 同 体 と の 関 係 で あ る 。 こ の 時 期 カ ト リ ッ ク 的 視 点 か ら 展 開 さ れ た 道 徳 的 人 間 形 成 論 は 、 シ ェ ー ラ ー の 人 間 形 成 論 の 中 核 を 成 し て い る も の と し て 理 解 す る こ と が で き る 。 特 に 調 和 思 想 の キ ー ワ ー ド と な る 、「 個 別 妥 当 的 善 」や「 時 の 要 求 」な ど の 概 念 の 人 間 形 成 的 意 義 を 踏 ま え つ つ 、 価 値 と 人 間 形 成 の 基 礎 的 関 係 を 考 察 す る 。 第 2 章 「 人 間 形 成 に お け る 無 限 性 と 有 限 性 ― 精 神 と 生 の 調 和 ― 」 で は 、 シ ェ ー ラ ー が 後 期 思 想 で 展 開 し た 哲 学 的 人 間 学 を 取 り 上 げ 、 人 間 形 成 に お け る 精 神 と 生 の 調 和 の 問 題 に 取 り 組 む 。 ま ず 、 哲 学 的 人 間 学 に お け る シ ェ ー ラ ー の 位 置 づ け を 明 ら か に す る 。 さ ら に 人 間 と 他 の 動 物 と の 比 較 を 通 じ て 、 人 間 の 特 殊 性 を 示 す と と も に 、 シ ェ ー ラ ー 哲 学 に み ら れ る 精 神 と 生 の 特 殊 な 関 係 を 検 討 す る 。 そ し て そ こ か ら 、 人 間 は 世 界 開 放 的 に 生 き な が ら も 、〈 今 = こ こ に = こ の よ う に 存 在 す る 〉と い う 生 命 的 現 実 に 縛 ら れ て い る と い う 、 有 限 性 を 踏 ま え た 人 間 形 成 観

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を 明 ら か に し て い き た い 。 第 3 章「 世 界 過 程 に お け る 神 生 成 と 人 間 生 成 ― 神 と 人 間 と の 調 和 ― 」 で は 人 間 、 神 、 世 界 と の 調 和 的 関 係 に 焦 点 を 当 て 、 神 生 成 と 人 間 生 成 の 関 係 を 考 察 す る 。シ ェ ー ラ ー の 哲 学 的 人 間 学 か ら 導 き 出 さ れ る の は 、 自 ら の 存 在 根 拠 と し て 神 を 必 然 的 に 必 要 と す る 人 間 の 存 在 で あ る 。 こ の 神 と 人 間 の 関 係 を 、 シ ェ ー ラ ー は 相 互 依 存 生 成 的 関 係 に あ る も の と し て 理 解 し て い る 。両 者 の こ の よ う な 関 係 に 注 目 し 、神 の 共 同 形 成 者 、 共 同 設 立 者 、共 同 遂 行 者 と し て の 人 間 に 基 づ く 人 間 形 成 観 を 示 し た い 。 第 4 章 「 人 間 形 成 に お け る 知 ― 支 配 知 ・ 教 養 知 ・ 救 済 知 の 調 和 ― 」 で は シ ェ ー ラ ー の 知 識 社 会 学 に お け る 支 配 知 、 教 養 知 = 本 質 知 、 救 済 知 と い う 三 つ の 知 識 形 態 に 焦 点 を 当 て 、 こ れ ら の 知 識 が 人 間 形 成 の 過 程 で い か な る 関 係 に あ る の か を 考 察 す る 。 人 間 形 成 お い て 重 要 な 役 割 を 果 た す の が 、三 つ の 知 識 の「 機 能 化 」で あ る 。〈 い ま ‐ こ こ 〉に お け る 支 配 知 、 本 質 領 域 に お け る 教 養 知 と し て の 本 質 知 、 自 ら の 使 命 の 実 現 と い う 救 済 知 が 、 人 間 形 成 に お い て 機 能 化 さ れ 、 調 和 的 に 関 連 し 合 う 過 程 を 明 ら か に す る 。 第 1 章 で は 道 徳 的 形 成 に つ い て 、 第 2 章 か ら 第 4 章 ま で は 主 に 精 神 的 形 成 に つ い て 論 ず る の に 対 し 、 第 5 章 「 人 間 形 成 に お け る 愛 の 作 用 ― 道 徳 的 形 成 と 精 神 的 形 成 の 調 和 ― 」 で は 、 こ の 道 徳 的 形 成 と 精 神 的 形 成 を 統 合 す る 作 用 と し て 、 愛 の 作 用 の 人 間 形 成 的 意 義 を 考 察 す る 。 し た が っ て こ こ で 問 題 と な る の は 、 精 神 的 形 成 と 道 徳 的 形 成 の 調 和 で あ る 。 そ の 際 、 衝 動 的 生 と そ れ ら の 関 係 も 検 討 す る こ と で 、 人 間 形 成 の 過 程 を 精 神 と 生 の 関 係 か ら も 考 察 し て い き た い 。 さ ら に 個 人 に お け る 「 愛 の 秩 序 」 の 形 成 の ほ か に 、 他 者 に 対 し て 向 け ら れ る 人 格 愛 の 作 用 に も 注 目 し 、 人 間 形 成 に お け る 他 者 と の 関 係 も 検 討 す る 。 第 1 章 か ら 第 5 章 ま で は 、 主 に 自 己 形 成 に お け る 調 和 の あ り 方 の 考 察 に 取 り 組 ん で い る 。 第 6 章 お よ び 第 7 章 で は 、 各 人 の 人 間 形 成 に 対 し て 他 者 が 与 え う る 影 響 と 、 そ の 限 界 に つ い て 考 察 す る 。 ま ず 第 6 章 「 人 間 形 成 と 典 型 ― 調 和 に お け る 典 型 の 存 在 ― 」 で は 、 シ ェ ー ラ ー の 典 型 論 を 取 り 上 げ る 。 そ れ に よ り 、 各 人 が 典 型 と ど の よ う に 関 わ っ て 自 律 的 に 自 己 を 形 成 す る の か 、 ま た 典 型 は 他 者 に 対 し て ど の よ う な 人 間 形 成 的 影 響 を 与 え う る の か を 検 討 す る 。 そ の 際 に シ ェ ー ラ ー が 、 あ る 価 値 に 対 立 す る 価 値 を 象 徴 す る 「 反 型 」 の 存 在 も ま た 、 人 間 形 成 に 大 き な 影 響 を 与 え る と 考 え て い る 点 に 留 意 し た い 。 さ ら に 典 型 に よ る 人 格 愛 と 教 育 的 態 度 と の 相 違 に も 言 及 し つ つ 、 典 型 存 在 の 人 間 形 成 的

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意 義 を 明 ら か に す る 。 第 7 章 「 他 者 と の 共 同 感 情 を 通 じ た 調 和 ― そ の 限 界 と 可 能 性 ― 」 で は 、 典 型 に 限 定 さ れ な い 他 者 と 調 和 的 に 生 き る 手 が か り を 、 共 同 感 情 論 か ら 考 察 す る 。 シ ェ ー ラ ー は 共 同 感 情 論 に お い て 、 単 な る 機 能 的 な 共 感 と 真 の 共 同 感 情 を 区 別 し て い る 。 そ し て 後 者 で は 、 他 者 と と も に 歓 ぶ こ と 、 他 者 と も に 悲 し む こ と は 、 同 時 に 他 者 の 「 わ か ら な さ 」 を 顕 在 化 さ せ る こ と で あ る と し て い る 。 以 上 の よ う な 自 他 関 係 を 踏 ま え て 、 他 者 と 調 和 的 関 係 を 築 く こ と の 限 界 と 可 能 性 を 検 討 し た い 。 終 章 「 人 間 形 成 に お け る 調 和 」 で は 、 こ れ ま で の 各 章 で 明 ら か に な っ た 調 和 の 特 徴 を 踏 ま え 、人 間 形 成 に お け る 調 和 の あ り 方 を 考 察 す る 。 特 に 終 章 で 取 り 組 み た い の は 、 シ ェ ー ラ ー の 説 く 調 和 が 成 立 す る 前 提 と な っ て い る 、「 絶 対 的 価 値 領 域 」の 問 題 で あ る 。こ の 絶 対 的 価 値 領 域 の も と で の 人 間 形 成 の あ り 方 を 検 討 す る こ と で 、 調 和 に お い て 避 け ら れ え な い 悲 劇 的 な 現 象 と し て の 他 者 と の 対 立 が 明 ら か に な る だ ろ う 。 こ の よ う な 調 和 思 想 を 踏 ま え て 、 そ れ で も な お 、 他 者 と と も に 生 き て い か な け れ ば な ら な い 私 た ち は 、 他 者 と ど の よ う に 調 和 的 に 関 係 し う る 道 が 残 さ れ て い る の か を 考 察 し て い き た い 。 本 論 文 は 、 ま と ま り が な い と も 評 さ れ る シ ェ ー ラ ー の 思 想 を 、 調 和 の 人 間 形 成 論 と し て 再 構 成 す る こ と で 、 シ ェ ー ラ ー 哲 学 を 新 た な 視 点 か ら 包 括 的 に 理 解 し 、 そ の 人 間 形 成 論 的 側 面 を 顕 在 化 す る 点 に 特 色 が あ る 。 さ ら に 教 育 哲 学 研 究 と し て は 、 シ ェ ー ラ ー の 調 和 思 想 か ら 単 な る 予 定 調 和 の よ う な 楽 観 的 な 人 間 形 成 観 と は 異 な る 、 人 間 形 成 に お け る 調 和 の あ り 方 を 提 示 す る こ と が で き る だ ろ う 。 そ れ は す な わ ち 、 他 者 が あ る 人 間 の 形 成 へ と 関 与 し う る こ と の 限 界 や 、 他 者 へ の 「 わ か ら な さ 」 を 積 極 的 に 受 容 し た う え で 、 そ れ で も な お 、 と も に 生 き る た め の 道 で あ る 。 シ ェ ー ラ ー が 説 く 調 和 を 人 間 形 成 論 的 に 考 察 す る こ と に よ っ て 、 今 日 の 混 沌 と し た 世 界 に 生 き る 私 た ち に と っ て 指 針 と な る よ う な 調 和 観 を 明 ら か に し て い き た い 。 【 註 】 (1)細 谷 恒 夫( 1962)『 教 育 の 哲 学 ― 人 間 形 成 の 基 礎 理 論 ― 』創 文 社 3 頁 。 (2) W. Stegmüller; 中 埜 肇 ・ 竹 尾 治 一 郎 監 修 ( 1952/ 1978)『 ブ レ

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ン タ ー ノ, フ ッ サ ー ル , シ ェ ー ラ ー , ハ イ デ ガ ー , ヤ ス パ ー ス , ハ ル ト マ ン 』( り ぶ ら り あ 選 書 現 代 哲 学 の 主 潮 流 1) 法 政 大 学 出 版 局 162 頁 。 (3)廣 松 渉 ほ か 編( 1998)『 岩 波 哲 学 ・思 想 事 典 』岩 波 書 店「 ハ ー モ ニ ー 」1284 頁 。 (4)シ ェ ー ラ ー の 思 想 区 分 の 詳 細 な 年 数 は 研 究 者 に よ っ て 多 少 違 い は あ る が 、こ こ で は シ ェ ー ラ ー 全 集 の 編 集 者 で あ る フ リ ン グ ス の 時 代 区 分 に 従 っ た 。M.S.Frings; 深 谷 昭 三 ・ 高 見 保 則 訳 ( 1965/ 1988)『 マ ッ ク ス ・ シ ェ ー ラ ー の 倫 理 思 想 』 以 文 社 20-21 頁 。 (5)阿 内 正 弘( 1995)『 マ ッ ク ス・シ ェ ー ラ ー の 時 代 と 思 想 』春 秋 社 73 頁 。

( 6 ) H.G.Gadamer ( 1977 ) Philosophische Lehrjahre : eine Rückschau, Frankfurt am Main : V. Klostermann, S.69.

(7) 野 家 啓 一 編 ( 2008)『 哲 学 の 歴 史 第 10 巻 危 機 の 時 代 の 哲 学 : 現 象 学 と 社 会 批 判 』 中 央 公 論 新 社 186 頁 。

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第 1 章 道 徳 的 人 間 形 成 ― 個 別 的 人 格 と 社 会 的 人 格 に お け る 調 和 ― シ ェ ー ラ ー 哲 学 の 主 軸 は 、 中 期 に 展 開 さ れ た 倫 理 学 思 想 に あ る 。 こ の 時 期 の シ ェ ー ラ ー は カ ト リ ッ ク 的 立 場 に 依 拠 し て お り 、 価 値 位 階 秩 序 の も と で の 諸 価 値 間 の 調 和 や 、 個 別 的 人 格 と 社 会 的 人 格 の 調 和 を 説 い て い る 。 後 期 思 想 に 至 る と 、 シ ェ ー ラ ー は カ ト リ ッ ク 的 立 場 か ら 離 れ 、生 成 的 汎 神 論 の 立 場 へ と 傾 注 し て い く( 第 3 章 参 照 )。た だ し 、中 期 の 倫 理 学 思 想 に お い て す で に 、 の ち に 顕 在 化 す る こ と と な る 調 和 思 想 の キ ー ワ ー ド と な る 概 念 が 多 く み ら れ る 。 し た が っ て 本 章 で は 、 シ ェ ー ラ ー の 中 期 の 倫 理 学 思 想 を 道 徳 的 な 人 間 形 成 と い う 視 点 か ら 考 察 し 、 そ の 特 徴 と 調 和 思 想 の 素 地 を 明 ら か に す る こ と を 目 的 と す る 。 特 に そ の 際 、 個 別 的 人 格 と 社 会 的 人 格 の 調 和 と い う 問 題 に 焦 点 を 当 て た い 。 ま ず 第 1 節 で は 、 シ ェ ー ラ ー の 実 質 的 価 値 倫 理 学 の 特 徴 で あ る ア プ リ オ リ な 価 値 位 階 と 、 そ れ ら を 認 識 す る 道 徳 的 作 用 に つ い て 論 ず る 。 第 2 節 で は 、「 個 別 妥 当 的 善 」と い う 各 人 の 個 別 独 自 性 が 重 視 さ れ て い る 点 に 注 目 す る と 同 時 に 、 社 会 的 人 格 が 構 成 す る 社 会 形 態 に つ い て 取 り 上 げ 、 個 別 的 人 格 と 社 会 的 人 格 の 両 側 面 か ら 人 格 を 理 解 す る 。 第 3 節 で は こ れ ま で の 内 容 を 踏 ま え 、 道 徳 的 人 間 形 成 に お け る 個 別 的 人 格 と 社 会 的 人 格 の 調 和 の あ り 方 を 検 討 す る 。 そ し て 最 後 に 、 中 期 の 倫 理 学 思 想 が 後 期 の 調 和 思 想 へ と 、 ど の よ う に 変 更 さ れ 保 持 さ れ て い っ た の か を 論 ず る 。 第 1 節 シ ェ ー ラ ー の 実 質 的 価 値 倫 理 学 1- 1 実 質 的 価 値 倫 理 学 と ア プ リ オ リ な 諸 価 値 ま ず 、シ ェ ー ラ ー が『 倫 理 学 に お け る 形 式 主 義 と 実 質 的 価 値 倫 理 学 』 (Der Formalismus in der Ethik und die materiale Wertethik, 1913-1916) の 執 筆 へ と 至 る ま で の 経 緯 に つ い て 、 簡 単 に み て い き た い 。 シ ェ ー ラ ー は 1874 年 に ユ ダ ヤ 系 の 母 と プ ロ テ ス タ ン ト の 父 の も と に 生 ま れ た 。 シ ェ ー ラ ー 自 身 は そ の 後 キ リ ス ト 教 の 精 神 に つ い て 学

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び 、 カ ト リ ッ ク へ と 改 宗 し て い る 。 こ の カ ト リ ッ ク 的 立 場 は 、 後 の シ ェ ー ラ ー の 思 想 に 色 濃 く 反 映 さ れ て い く こ と と な る 。1893 年 に ミ ュ ン ヒ ェ ン 大 学 医 学 部 に 入 学 、 翌 年 ベ ル リ ン 大 学 に 移 り 、 そ こ で 哲 学 と 社 会 学 を 学 ん だ 。1895 年 に は イ エ ナ 大 学 に 入 学 し 、そ こ で シ ェ ー ラ ー に 大 き な 影 響 を 与 え た の が 、 オ イ ケ ン の 思 想 で あ っ た 。 オ イ ケ ン の も と で 学 ぶ う ち に シ ェ ー ラ ー は 、「 精 神 的 生 (Geistesleben)」 と い う 考 え 方 を 、 自 ら の 哲 学 に 取 り 入 れ る よ う に な る 。 の ち に シ ェ ー ラ ー は 『 論 理 的 原 理 と 倫 理 的 原 理 と の 関 係 を 確 定 す る た め に 』(Beiträge zur Feststellung der Beziehungen zwischen den logischen und ethischen Prinzipien)と い う 学 位 論 文 を 提 出 す る の で あ る が 、そ こ で は す で に『 倫 理 学 』で み ら れ る よ う な 、「 心 情(Gesinnung)な く し て 、 い っ さ い の 倫 理 性(Sittlichkei)と 非 倫 理 性( Unsittlichkeit)は 不 可 能 で あ り 、 か く て 倫 理 的 現 象 は 総 じ て 不 可 能 で あ る 」 と い う 基 本 的 な 考 え 方 が 確 立 さ れ て い る (I,114;95)。つ ま り そ の 初 期 の 哲 学 に お い て す で に 、 シ ェ ー ラ ー は 情 緒 的 な も の の 倫 理 学 的 意 義 を 見 出 し て い た の で あ る( 1 ) シ ェ ー ラ ー の 倫 理 学 思 想 の 特 徴 を 一 言 で 表 す と 、「 現 象 学 的 価 値 論 と 情 緒 的 で 直 観 的 な 価 値 把 握 に 基 づ く 倫 理 学 」で あ る と い え る( 2 )。す な わ ち そ こ で は 応 用 現 象 学 的 手 法 に 基 づ く 、 情 緒 的 な 倫 理 学 思 想 が 展 開 さ れ て い る の で あ る 。 そ れ ら の 成 果 は 、1913 か ら 1916 年 に わ た っ て 著 さ れ た 『 倫 理 学 』 に お い て ま と め ら れ て い る 。 シ ェ ー ラ ー は 『 倫 理 学 』 を 自 ら の 哲 学 の 中 心 的 著 作 と 位 置 づ け て お り (II,13-14)、情 緒 的 な も の の 重 視 や ア プ リ オ リ な 価 値 の 存 在 を 前 提 と す る 基 本 的 立 場 は 、 そ の 最 晩 年 の 思 想 に 至 る ま で 変 わ る こ と な く 根 底 に あ り 続 け た 。 こ の よ う な『 倫 理 学 』の 目 標 は 、カ ン ト(Immanuel Kant, 1724-1804)以 来 伝 統 的 に 認 め ら れ て い た 倫 理 学 的 に 先 験 的 な ア プ リ オ リ な も の の 範 囲 を 越 え て 、 そ れ を 拡 張 さ せ る こ と に あ る (II,85)。つ ま り 、「 情 緒 的 な も の の ア プ リ オ リ 主 義 (Apriorismus des Emotionalen)」 の 成 立 が 目 指 さ れ て い る の で あ る 。 以 下 、 シ ェ ー ラ ー が 説 く 実 質 的 価 値 倫 理 学 の 内 容 を み て い き た い 。 ま ず シ ェ ー ラ ー は カ ン ト と 同 様 に 、 物 に 依 存 し て そ の 価 値 の 有 無 が 相 対 的 、 経 験 的 に 決 ま る と す る 財 倫 理 学 と 、 目 的 に 対 す る 手 段 と し て 把 握 さ れ る か 否 か に よ っ て 価 値 が 決 ま る と す る 目 的 倫 理 学 を 退 け る 。 そ し て そ の 代 わ り に 、 価 値 が 事 物 . . . . . や 財 の 前 提 と し て す で に 与 え ら れ て . . . . . . . . . . . . . . . .

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い る. .と す る 。 つ ま り シ ェ ー ラ ー の 倫 理 学 で は 、 財 世 界 の 現 存 や 歴 史 的 変 化 、 経 験 か ら 全 く 独 立 的 で 経 験 に 対 し て ア プ リ オ リ で あ る よ う な 諸 価 値 が 前 提 と さ れ て い る の で あ る(II, 37-38)。た だ し 、そ の「 す で に 与 え ら れ て い る 価 値 」 は 財 に お い て 初 め て 「 現 実 的 」 と な る 。 ア プ リ オ リ な 価 値 領 域 と 現 実 的 次 元 に お け る 財 の 領 域 は 、 相 互 依 存 的 関 係 と し て 理 解 さ れ て い る ( 終 章 参 照 )。 し た が っ て シ ェ ー ラ ー に あ っ て は 、 ま ず 初 め に 価 値 が す で に 与 え ら れ て お り 、 そ こ か ら 意 欲 や 目 的 、 努 力 の 内 容 さ え も 規 定 さ れ る と 考 え ら れ て い る の で あ る 。 こ の よ う に シ ェ ー ラ ー が 財 倫 理 学 と 目 的 倫 理 学 を 退 け て い る 点 で は 、 カ ン ト の 倫 理 学 と 共 通 し て い る と い え る 。 し か し シ ェ ー ラ ー は カ ン ト と の 相 違 を 、「 財.や 目 的. .の み な ら ず 、実 質 的 な 本 性 を 持 つ 一 切 の 価 値. .も ま た … … 拒 否 さ れ る べ き だ と 立 証 し た と 思 い 込 ん で い る 」 点 に あ る と 指 摘 す る(II,34)。シ ェ ー ラ ー が 念 頭 に お い て い る の は 、カ ン ト( 1788) の 以 下 の よ う な 文 章 で あ る( 3 ) 欲 求 能 力 の あ る 客 観. .( 実 質 ) を 意 志 の 規 定 根 拠 と し て 前 提 す る よ う な 実 践 的 原 理 は 、 す べ て 経 験 的 原 理 で あ っ て 、 実 践 的 法 則 に は な り 得 な い 。… … こ こ で 欲 求 能 力 の 実 質 と い う の は 、 そ の も の の 実 現 が 欲 求 さ れ る よ う な 対 象 の こ と で あ る 。 こ こ か ら 、 欲 求 能 力 を 規 定 し て 対 象 の 実 現 に 仕 向 け る よ う な 関 係 は 経 験 的 な も の に な ら ざ る を え な い の で あ る か ら 、 合 法 則 的 な 形 式 の 支 配 下 に 置 か れ な け れ ば な ら な い と い う こ と が 導 き 出 さ れ る 。 シ ェ ー ラ ー は こ の 考 え 方 の 背 景 に は 、「 人 間 は 合 理 的・形 式 的 道 徳 法 則 か ら 離 れ て し ま う と 絶 対 的 利 己 主 義 者 で あ り 、 感 性 的 快 を 求 め る 絶 対 的 快 楽 主 義 者 で あ る 」 と い う よ う な 人 間 観 が 存 在 し て い る と す る (II,256)。 こ の よ う な カ ン ト の 立 場 に 対 し て 、 シ ェ ー ラ ー は ア プ リ オ リ な 価 値 領 域 に 、 快 ・ 不 快 の 価 値 、 生 命 的 価 値 も ま た 含 ま れ る も の と 理 解 し て い る 。 そ し て さ ら に は 、 そ れ ら の ア プ リ オ リ な 諸 価 値 を 認 識 す る 道 徳 的 作 用 と し て 、 情 緒 的 な も の が 果 た す 役 割 を 重 視 す る の で あ る 。 人 間 の 精 神 は「 理 性 」と「 感 性 」の 対 立 に よ っ て と に か く 汲 み. . つ く さ れ て. . . . .い る と い う 、あ る い は 一 切 は そ の 一 方 も し く は. . . .他 方 に 所 属 さ せ ら れ う る の で な く て は な ら な い と い う 、古 い 先 入 見

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を 決 定 的 に 破 棄 す る こ と に よ っ て の み 、ア プ リ オ リ に 実 質 的 な. . . . . . . . . . 倫 理 学. . .の 構 築 は 可 能 に な る 。(III,84-85) 理 性 と 感 性 の 二 元 論 は 、 作 用 諸 領 域 の 全 体 の 特 性 を 見 逃 し 、 あ る い は 誤 解 す る こ と を 余 儀 な く さ せ る 。そ れ ゆ え シ ェ ー ラ ー は こ の 二 元 論 を 、 あ ら ゆ る 点 で 哲 学 か ら 追 放 す る と の 目 的 か ら 、 快 ・ 不 快 の 価 値 、 生 命 的 価 値 も ア プ リ オ リ な 諸 価 値 に 含 め 、 ま た 情 緒 的 な 価 値 認 識 作 用 を 中 心 と し た 倫 理 学 を 展 開 し た の で あ る 。 で は 、 そ の ア プ リ オ リ な 諸 価 値 と は 何 で あ る の か 。 シ ェ ー ラ ー は ア プ リ オ リ な 諸 価 値 と し て 、4 つ の 価 値 様 態 を 措 定 し て い る 。 す な わ ち ① 快 ・ 不 快 の 価 値 、 ② 生 命 的 価 値 、 ③ 精 神 的 価 値 、 ④ 人 格 価 値 の 4 つ の 価 値 で あ る 。 こ れ ら の ア プ リ オ リ な 諸 価 値 は 、 人 格 価 値 を 頂 点 と し た 価 値 位 階. . . .の 関 係 と し て 理 解 さ れ て い る 。 す な わ ち 「 一 切 の 諸 価 値 は 本 質 的 に あ る 位 階 を 成 し 、 し た が っ て 相 互 の 関 係 に お い て よ り 高 い 、 ま た は よ り 低 い も の 」 で あ る と 考 え ら れ て い る の で あ る (III,109)。 こ の 価 値 位 階 を 根 拠 づ け る も の と し て 、 よ り 高 い 価 値 が 具 え て い る 5 つ の 原 理 が あ る 。 第 一 に 、 価 値 は よ り 持 続 的 で あ れ ば あ る ほ ど 、 よ り 高 い 。 第 二 に 、 価 値 は 広 が り と 分 割 可 能 性 と に 関 与 す る 度 合 い が 少 な い ほ ど 、よ り 高 い 。第 三 に 、価 値 は ほ か の 諸 価 値 を「 基 づ け て い る 」 ほ ど 、 よ り 高 い 。 第 四 に 、 価 値 は 諸 価 値 の 感 得 と 結 び つ い て い る 「 満 足 」 が よ り 深 い ほ ど 、 よ り 高 い 。 シ ェ ー ラ ー は 最 後 に 、 最 も 深 い と こ ろ に 位 置 す る 原 理 と し て 、 よ り 高 い 価 値 は よ り 少 な く 相 対 的 な 価 値 で あ り 、 最 高 の 価 値 は 絶 対 的 な 価 値 で あ る と い う 原 理 を 挙 げ て い る (II,117)。な お 、頂 点 に 位 置 づ け ら れ て い る 人 格 価 値 は 聖 価 値 と も 言 い 換 え ら れ て お り 、 こ こ か ら も シ ェ ー ラ ー が カ ト リ ッ ク 的 立 場 か ら 価 値 を 理 解 し て い る こ と が う か が え る 。 1- 2 道 徳 的 な 価 値 認 識 作 用 で は 道 徳 的 な 価 値 認 識 作 用 と こ れ ら の ア プ リ オ リ な 諸 価 値 は 、 ど の よ う に 関 係 し て い る の か 。 シ ェ ー ラ ー は 一 切 の 価 値 ア プ リ オ リ の 本 来 の 所 在 は 、 感 得 や 先 取 に 、 結 局 は 愛 憎 に 基 づ く 価 値 認 識. . . .な い し は 価 値. . 看 取. .、な ら び に 諸 価 値 の 連 関 や 諸 価 値 の「 高 」「 低 」の 序 列 の 認 識 、す

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な わ ち 「 道 徳 的 認 識. . . . .」 に あ る と す る (III,88)。 つ ま り 感 得 作 用 、 先 取 作 用 、 愛 憎 の 作 用 な ど の 道 徳 的 価 値 認 識 作 用 は 、 ア プ リ オ リ な 諸 価 値 の 世 界 へ の 唯 一 の 可 能 な 通 路. .な の で あ る 。 世 界. .( そ れ が 心 的 で あ れ 、物 的 で あ れ 、そ の ほ か ど う で あ れ ) と の 感 得 的 な 生 き 生 き と し た 交 渉 の う ち に. . . .、 先 取 と 後 置 の う. . ち に. .、 愛 憎 そ の も の の う ち に. . . .、 す な わ ち そ う い う 志 向 的 な 機 能 や 作 用 の 遂 行. .裡 に 、諸 価 値 と そ の 秩 序 は ひ ら め く ! そ し て 、 そ の よ う に し て 与 え ら れ た も の に は ま た ア プ リ オ リ な 内 実 も 含 ま れ て い る 。(III,88-89) ア プ リ オ リ な 価 値 は 、 道 徳 的 認 識 作 用 の う ち に そ れ 自 体 と し て 与 え ら れ る 。 し た が っ て 感 得 す る こ と の う ち に. . .、 先 取 す る こ と の う ち に. . .、 愛 す る こ と や 憎 む こ と の う ち に. . .、 世 界 と 世 界 の 価 値 内 実 が 私 た ち に 開 示 さ れ る こ と に な る の で あ る 。 た だ し ア プ リ オ リ な 諸 価 値 は 道 徳 的 認 識 作 用 の う ち に の み 現 れ る が 、 こ の こ と は 価 値 の 存 在 が 機 能 や 作 用 に 依 存 し て い る と い う こ と を 意 味 し て い る の で は な い 。 ア プ リ オ リ な 価 値 は 、 認 識 作 用 の 有 無 に 依 存 せ ず に 、 独 立 し て 存 在 し て い る の で あ る (II,259)( 4 ) こ の 道 徳 的 認 識 作 用 と し て の 情 緒 的 な も の は 、 感 性 的 な 感 情 状 態 と は 厳 密 に 区 別 さ れ て い る 。 シ ェ ー ラ ー に よ る と 、 自 然 的 態 度 に お い て 私 た ち に 第 一 に 「 与 え ら れ て い る 」 も の は 財 で あ る 。 そ し て 第 二 番 目 に 初 め て 、 私 た ち が 財 に お い て 感 得 す る 価 値 と 、 情 緒 的 な 価 値 感 得 作. . . . . 用.そ の も の が 与 え ら れ る 。 そ し て そ れ と は ま っ た く 独 立 的 に 、 第 三 番 目 に 初 め て 、 快 ・ 不 快 と い う 感 情 状 態 が 与 え ら れ る 。 さ ら に 最 後 に 、 こ の 状 態 に 織 り 込 ま れ た も の と し て 、 感 性 特 有 の 感 情 の 状 態. . . . . . . . . .が 与 え ら れ る こ と に な る 。こ の 後 者 の 感 情 状 態 は 、「 財 の 世 界 に お け る. . . .、ま た そ う い う 世 界 に 即 し た. . .私 た ち の 生 活 に 、 な い し は そ う い う 領 域 に お け る 私 た ち の 活 動 や 行 動 に 、 私 た ち の 身 体 に 即 し た 全 く 二 次 的. . .な 付 随 現 象 と し て 溶 け 込 ん で い る 」感 情 で あ る(III,80-81)。し た が っ て 価 値 を 感 得 す る 情 緒 的 諸 作 用 は 、 感 情 状 態 よ り も よ り 根 源 的 な 作 用 で あ る と い え る の で あ る 。

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こ の よ う に し て シ ェ ー ラ ー は 、 従 来 の 理 性 に 限 定 さ れ た ア プ リ オ リ 概 念 を 情 緒 的 な 諸 作 用 に ま で 拡 大 し よ う と す る 。「 感 得 、先 取 、愛 、憎 な ど 精 神 の 情 緒 的 な も の. . . . . .、お よ び 意 欲. .も 、『 思 考 』か ら 借 り 受 け ら れ る の で は な い よ う な 、 そ し て 倫 理 学 が 論 理 学 か ら 全 く 独 立 的 に 提 示 す べ き 、あ る 根 源 的 に し て ア プ リ オ リ な 内 実 を 有 す る. . . . . . . . . . . . . . . . . .」の で あ る(II,84)。 そ の 際 シ ェ ー ラ ー は 、「 心 情 の 秩 序(ordre du cœur)」あ る い は「 心 情 の 論 理 (logique du cœur )」 を 説 い た パ ス カ ル ( Blaise Pascal, 1623-1662) こ そ が 、 自 ら の 立 場 の 先 駆 け で あ る と し て い る( 5 ) 次 に 、 以 上 の よ う に ア プ リ オ リ な 価 値 を 愛 し 、 先 取 ・ 後 置 し 、 感 得 す る 道 徳 的 認 識 作 用 の 働 き に つ い て み て い き た い 。 あ ら ゆ る 道 徳 的 認 識 作 用 の 最 も 根 源 的 な 作 用 は 、愛(Liebe)の 作 用 で あ る 。シ ェ ー ラ ー に よ る と 、 愛 は 状 態 的 で 盲 目 的 な も の で は な く 、 む し ろ そ の よ う な 性 質 か ら 最 も 遠 く 隔 た っ て い る 。 そ う で は な く て 愛 の 作 用 は 、 よ り 低 き 価 値 か ら よ り 高 き 価 値 へ と 向 う 「 運 動 」 で あ る 。 そ し て 愛 の 作 用 に お い て は 、 す で に 現 存 し 与 え ら れ て は い る け れ ど も 、 積 極 的 性 質 と し て は い ま だ 与 え ら れ て い な い. . .可 能 的 な 「 よ り 高 い. . . .」 価 値. .が 目 指 さ れ る こ と に な る (VII,156)。 愛 の 作 用 に お い て は 、感 得 さ れ た 価 値 の あ と か ら. . . .、あ る い は 先 取 さ れ た 価 値 の あ と か ら. . . .、こ の 価 値 へ「 応 答 し つ つ 」お の れ を 向 け る と い う こ と が 本 質 的 な の で は な く 、こ の 作 用 は む し ろ 私 た ち の 価 値 把 握 の う ち で 本 来 的 に 発 見 的. . .役 割 を 演 じ 、― し か も 愛 の 作 用 の み が そ れ を 演 じ る ― い わ ば 一 つ の 運 動. .を 表 す の で あ っ て 、 こ の 運 動 の 経 過. .の う ち に そ の つ ど 新 し く. . .そ し て よ り 高 い. . . .、す な わ ち 当 の 存 在 者 に と っ て い ま だ 完 全 に 未 知 で あ っ た 価 値 が 照 り 輝 く 。(II,275) 運 動 と し て の 愛 の 作 用 に お い て 、 価 値 は 発 見 さ れ る 。 愛 は 、 そ の つ ど よ り 高 い 価 値 を そ の 運 動 の 経 過 の う ち に 浮 か び 上 が ら せ る. . . . . . . . . . . . . . . . . . .の で あ る 。 た だ し 、 こ の 愛 の 作 用 は 愛 す る 努 力 に よ っ て 価 値 を 浮 か び 上 が ら せ る の で は な い 。そ れ は「 お の ず か ら 」あ ふ れ 出 て く る か の よ う に(VII,160)、 価 値 を 顕 に す る の で あ る ( 愛 の 作 用 の 人 間 形 成 的 意 義 に つ い て は 第 5 章 を 参 照 )。

参照

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