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理学療法学42-7

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は じ め に  理学療法で用いられる治療的肢位のひとつに,パピー 姿勢1)に代表される「腹臥位からの体幹伸展位」があ る。腹臥位からの体幹伸展位を用いた治療としては,腰 椎椎間板障害に対する運動療法がよく知られている。そ の他にも,胸腰椎可動性の改善のためや体幹筋や肩甲骨 周囲筋のトレーニング,あるいは徒手療法や物理療法の 治療肢位などその用途は多岐にわたる。したがって,臨 床場面において体幹伸展位を用いるにあたり,その運動 学的特性を理解することは非常に重要であると考える。  しかし,腹臥位からの体幹伸展位について,その治療 効果に関する報告は多数みられる2–5)が,運動学的な 分析をしたものは少ない。菅原6)は,腹臥位からの体 幹伸展位における腰椎伸展角度として,第 12 胸椎と第 1 腰椎の棘突起後方と仙骨後方のなす角度を水準器を用 いて測定しているが,各腰椎間の可動域については不明 である。坂光ら7)は,脊椎圧迫骨折患者を対象に,腹 臥位からの体幹伸展動作時の脊椎可動性をスパイナルマ ウスで測定した結果,骨折部位の上下椎体間に可動性の 低下,他椎体間に過剰な可動性があったと報告し骨折部 の影響を明らかにしているが,各椎間別の可動域につい ては示されていない。Gak ら8)は,21 名の健常成人に 対し,腹臥位,パピー姿勢,press-up(腹臥位での腕立 て伏せ)の 3 肢位について,X 線画像を用いて L3/4, L4/5,L5/S1 の椎体間角度を計測しているが,腰椎伸 展運動に関与するであろうその他の部位,すなわち上位 腰椎間あるいは胸腰椎移行部については分析されてい ない。

MRI による腹臥位からの体幹伸展位における脊椎および

仙腸関節の可動域の解析

畠   昌 史

1)2)#

 宇 佐 英 幸

3)

 市 川 和 奈

1)2)

 見 供   翔

2)4)

小 川 大 輔

2)5)#

 松 村 将 司

6)

 妹 尾 淳 史

7)0)

 竹 井   仁

8)0) 要旨 【目的】腹臥位からの体幹伸展位における,脊椎および仙腸関節の矢状面の可動域の特徴を明らかにする こと。【方法】対象は健常女性 13 名,課題は腹臥位・軽度体幹伸展位・パピー姿勢の 3 肢位とした。各肢 位における各椎間関節(Th11/12 ~ L4/5)・腰仙関節(L5/S1)・仙腸関節の矢状面上の動きを磁気共鳴映 像法(MRI)を用いて解析し,腹臥位との差を比較した。【結果】軽度体幹伸展位は Th12/L1 ~ L3/4 が L4/5・L5/S1 より伸展し,パピー姿勢では Th12/L1 ~ L4/5 が L5/S1 より伸展した。またパピー姿勢は 軽度体幹伸展位よりも Th12/L1 ~ L4/5 の伸展の動きが大きかった。一方,仙腸関節の動きは両肢位とも ほとんどなかった。【結論】軽度体幹伸展位では Th12/L1 ~ L3/4 がおもに伸展を担い,パピー姿勢では それに L4/5 が加わり,Th12/L1 ~ L3/4 についてはさらに伸展することが明らかになった。 キーワード 体幹伸展位,可動域,MRI

研究論文(原著)

* MRI Analysis of the Range of Motion of Spinal Segments and the Sacroiliac Joint in the Sagittal Plane in the Prone Position with Trunk Extension 1) 千川篠田整形外科理学療法科 (〒 171–0043 東京都豊島区要町 3–13–8) Masafumi Hata, PT, MS, Kazuna Ichikawa, PT, MS: Department of Physical Therapy, Senkawa-Shinoda Orthopedic Clinic 2) 首都大学東京大学院人間健康科学研究科理学療法科学域博士後期課程 Masafumi Hata, PT, MS, Kazuna Ichikawa, PT, MS, Sho Mitomo, PT, MS, Daisuke Ogawa, PT, MS: Doctoral Course, Deparment of Physical Therapy, Graduate School of Human Health Sciences, Tokyo Metropolitan University 3) 首都大学東京健康福祉学部理学療法学科 Hideyuki Usa, PT, PhD: Division of Physical Therapy, Faculty of Health Sciences, Tokyo Metropolitan University 4) 河北総合病院リハビリテーション科 Sho Mitomo, PT, MS: Department of Physical Therapy, Kawakita General Hospital 5) 目白大学保健医療学部理学療法学科

Daisuke Ogawa, PT, MS: Department of Physical Therapy, Faculty of Health Sciences, Mejiro University

6) 杏林大学保健学部理学療法学科

Masashi Matsumura, PT, PhD: Department of Physical Therapy, Faculty of Health Sciences, Kyorin University

7) 首都大学東京大学院人間健康科学研究科放射線科学域

Atsushi Senoo, RT, PhD: Deparment of Radiological Sciences, Graduate School of Human Health Sciences, Tokyo Metropolitan University 8) 首都大学東京大学院人間健康科学研究科理学療法科学域 Hitoshi Takei, PT, PhD: Deparment of Physical Therapy, Graduate School of Human Health Sciences, Tokyo Metropolitan University # E-mail: [email protected] (受付日 2014 年 6 月 13 日/受理日 2015 年 7 月 22 日) [J-STAGE での早期公開日 2015 年 12 月 1 日]

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しては,髄核の前方移動・椎間孔の径の縮小・椎間板内 圧の低下・椎間板後方線維輪や後縦靭帯の緊張緩和など が挙げられている。それらは McKenzie Therapy10)に 代表される,腰椎椎間板ヘルニア等の腰部椎間板障害に 対する体幹伸展位を用いたエクササイズの理論的背景と なっているが,すべての腰椎分節に同様の変化が生じる のかは不明である。  また,腰椎の運動には骨盤の協調した動きが伴い,そ の骨盤の動きには仙腸関節も関与する。仙腸関節の矢状 面上の可動性に関しては諸家による報告11)12)があり, Kissling ら13)は立位で体幹後屈した際の仙骨の後方回 転運動は 1.8°であったとしている。しかし,腹臥位から の体幹伸展位についての報告は見あたらず,腹臥位から の体幹伸展位に伴う仙腸関節の動きは明らかになってい ない。つまり腹臥位からの体幹伸展位をとることで,各 胸腰椎椎間関節・腰仙関節あるいは仙腸関節のうち,ど の分節がどの程度動くのか,言い換えると腹臥位からの 体幹伸展位をとるためには,どの分節にどの程度の可動 性が求められるのかは明らかではない。  そこで本研究は,健常女性を対象に腹臥位からの体幹 伸展位における下部胸椎・腰椎椎間関節,腰仙関節,仙 腸関節の動きを解析し,矢状面の可動域変化とその特 徴,ならびに骨盤運動の関与の有無を明らかにすること を目的とした。分析には人体に侵襲がなく,かつ生体内 評価できる MRI(Magnetic Resonance Imaging: 磁気共鳴映像法)を用いた。 対象および方法 1.対象  対象は脊椎・股関節に既往のない健常成人女性 13 名 で,平均年齢は 20.3 歳(19 ~ 23 歳),身長と体重の平 均値(標準偏差)はそれぞれ 156.1(4.3) cm,50.0(5.3) kg であった。 2.実験条件  実験課題は,腹臥位からの体幹伸展位であり,体幹伸 展角度が異なる以下の 3 条件を設定した(図 1 ~ 3)。 1)腹臥位(体幹伸展なし)・2)軽度体幹伸展位(握り こぶしを上下に重ね,その上にあごを乗せることで支え た腹臥位)・3)中等度体幹伸展位としてパピー姿勢(以 下,パピー姿勢)。条件の設定に際し,体型による影響 を最小限にするために,2)軽度体幹伸展位,3)パピー 姿勢とも被験者自身の身体を用いて肢位を規定した。す なわち,軽度体幹伸展位は下顎と床の距離が被験者の握 りこぶし 2 つ分,パピー姿勢は,肩峰と床の距離が被験 者の上腕長となる。  測定時は,MRI 撮像時の禁忌事項である生体でのルー プ形成を防ぐ目的で,被験者の両手に布製の手袋を装着 図 1 腹臥位 図 2 軽度体幹伸展位

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させた。1)腹臥位では,うつ伏せ用枕(加地社製,エ クスジェルフェイスピロー AMK-10-BL)を使用した。 また 3)パピー姿勢については,肢位が崩れないように うつ伏せ用枕とタオルを用いて固定し,撮像中の体動を 防止した。すべての条件において,体幹や股関節周囲の 筋活動が最小限になるよう被験者に指示し確認した。  全被験者に疼痛の出現と不快感の有無を撮像前後に確 認したが,それらを訴えた者はいなかった。 3.MRI 撮像  MRI 撮 像 に は 臨 床 用 MR 装 置(Philips Electronics Japan, Achieva3.0T)を用いた。MRI 信号の受信には Body Coil を用い,T2 強調(撮像視野 470 mm,繰り返 し時間 6,278 msec,エコー時間 90 msec,スライス厚 6 mm,スライス間隙 6 mm,スキャン時間 3 分 25 秒) のシーケンスにより,各条件につき約 50 スライスの矢 状断像を撮像した。なお,矢状断撮像の前に位置決め画 像を撮像し,その画像から右上後腸骨棘・左上後腸骨 棘・胸腰椎棘突起・正中仙骨稜・恥骨結合の骨指標が確 認できるように矢状断面を決定した。各条件の撮像順序 はランダムとした。得られた全画像から DICOM 閲覧 ソフト(IMAGE Information Systems, K-PACS V1.6.0) を用いて,胸腰椎棘突起と正中仙骨稜を含む画像,右上 後腸骨棘,左上後腸骨棘,恥骨結合を含むそれぞれの画 像を抽出した。 4.解析項目  抽出した画像について,画像処理ソフト(National Institutes of Health, Image J 1.42q)を用いて以下の項 目を計測した(図 4)。1)各椎間関節角度:第 11 胸椎 ~第 5 腰椎椎体上面の,それぞれの下位椎体上面に対す る 相 対 的 傾 斜 角( 以 下, そ れ ぞ れ ∠ Th12・ ∠ L1・ ∠ L2・ ∠ L3・ ∠ L4・ ∠ L5・ ∠ S1),2) 腰 仙 角 (Lumbosacral Angle;以下,L 角):第 1 仙椎上面と水 平面とのなす角,3)左右骨盤傾斜角(Pelvic Inclination Angle;以下,PI 角):上後腸骨棘と恥骨結合を結んだ 線と水平面とのなす角。一般的には L 角と PI 角は立位 姿勢で計測されるため水平面は重心線と直交する面とな るが,本研究においては腹臥位で計測したために体幹腹 側の床面を水平面とした。なお PI 角については,上後 腸骨棘を含む矢状断像と恥骨結合を含む矢状断像との合 成画像から計測した。 図 3 パピー姿勢 図 4 解析した MRI 画像の一例と解析項目 a:∠ Th12・∠ L1・∠ L2・∠ L3・∠ L4・∠ L5・∠ S1 b:L 角と PI 角

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ついて,腹臥位の角度との差を求め,それを椎間関節可 動域(以下,それぞれ∠ Th11/12・∠ Th12/L1・∠ L1/2・ ∠ L2/3・∠ L3/4・∠ L4/5・∠ L5/S1)とした。すな わち腹臥位の椎間関節角度を 0°として体幹伸展方向と 同方向への変位量を算出した。L 角と PI 角についても 同様に,腹臥位との差を求め,骨盤前傾方向への変位量 を算出し,それぞれ仙骨前傾量・骨盤前傾量とした。  左右の仙腸関節の動きは,左右の骨盤前傾量と仙骨前 傾量の差から解析した(図 5)。すなわち,骨盤前傾量 を仙骨前傾量が上回った場合には仙骨は骨盤に対して相 対的に前屈運動(うなずき運動:立位姿勢では仙骨の岬 角が前下方に移動し,仙骨尖と尾骨先端が後上方に動く ことで,仙骨全体が骨盤に対して前方に回転する動き) が生じ,反対に骨盤前傾量を仙骨前傾量が下回った場合 は仙骨の後屈運動(起き上がり運動:立位姿勢では仙骨 の岬角が後上方に移動し,仙骨尖と尾骨先端が前下方に き)が生じたことになる 。 5.統計処理  椎間関節可動域について,分節による違いと肢位によ る違いを比較するため,分節 7 水準(Th11/12・Th12/ L1・L1/2・L2/3・L3/4・L4/5・L5/S1) と 肢 位 2 水 準 (軽度体幹伸展位・パピー姿勢)を 2 要因とした反復測 定による分散分析を実施した。検定に先立って,各変数 が正規分布に従うことをシャピロ・ウイルク検定で確認 した。反復測定による分散分析の結果,主効果が認めら れた要因に関して,事後検定として,分節間の比較には 多重比較 Bonferroni 法,肢位間の比較には対応のある t 検定を実施した。  また,骨盤の動き(右骨盤前傾量・左骨盤前傾量・仙 骨前傾量)について,項目間の差と肢位による差を明ら かにするため,部位 3 水準(右骨盤前傾量・左骨盤前傾 量・仙骨前傾量)と肢位 2 水準(軽度体幹伸展位・パ ピー姿勢)を 2 要因とした反復測定による分散分析を実 施した。検定に先立って,各変数が正規分布に従うこと をシャピロ・ウイルク検定で確認した。  すべての検定で統計ソフト PASWstatistics, Ver.18.0 を使用し,有意水準は 5%とした。 6.説明と同意ならびに倫理的配慮  各対象者に本研究の趣旨と目的および MRI 撮像につ いての説明を十分に行い,書面にて研究への参加の同意 を得た。なお本研究は,首都大学東京荒川キャンパス研 究安全倫理審査委員会の承認(受理番号 09049)を受け て実施した。 結   果 1.椎間関節可動域  各椎間関節可動域(∠ Th11/12 ~∠ L5/S1)を表 1 に示す。 図 5 仙腸関節の動きの解析方法 PI 角,L 角は腹臥位での測定値,PI´ 角,L´ 角は課題中の測 定値を示す. PI 角- PI´ 角:骨盤前傾量  L 角- L´ 角:仙骨前傾量 骨盤前傾量<仙骨前傾量の場合は仙骨前屈運動,骨盤前傾量 >仙骨前傾量の場合は仙骨後屈運動が生じたことになる. 上図は,仙骨の前屈運動の例である. 表 1 椎間関節可動域 [°] の平均値(標準偏差)の比較 数値は,平均値(標準偏差)を表す *:p < 0.05 L5/S1 L4/5 L3/4 L2/3 L1/2 Th12/L1 Th11/12 軽度体幹伸展位 –1.1(0.9) –0.2(1.5) 2.1(1.4) 1.9(1.6) 2.1(1.9) 2.1(1.4) 0.3(1.4) パピー姿勢 –0.6(0.8) 2.5(1.2) * 2.9(1.3) * 3.5(1.7) * 4.5(1.8) * 3.7(1.6) * 1.0(1.9) * * * * * * * * * * * * * * * * * * * * *

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 反復測定による分散分析の結果,分節・肢位の両要因 において主効果が有意(分節:F(6,72)= 23.1,p < 0.05, r = 0.49; 肢 位:F(1,12)= 87.1,p < 0.05,r = 0.94) で交互作用を認めた(F(6,72)= 4.0,p < 0.05,r = 0.23)。 そのため,分節間の比較に多重比較検定(Bonferroni 法),肢位間の比較に対応のある t 検定を実施した。  その結果,軽度体幹伸展位における分節間の比較で は,Th12/L1 ~ L3/4 の各分節の伸展角度が,∠ L4/5 および∠ L5/S1 よりも有意な増加を示した(p < 0.05)。 また,∠ Th12/L1・∠ L1/2・∠ L3/4 は∠ Th11/12 と 比較して有意な伸展角度の増加を示した(p < 0.05)。 パピー姿勢における分節間の比較では,Th12/L1 ~ L4/5 の各分節の伸展角度が∠ L5/S1 に比較して有意な 増加を示した(p < 0.05)。さらに∠ Th11/12 に比較し て Th12/L1 ~ L3/4 が,∠ L4/5 に比較して∠ L1/2 の 伸展角度が,有意な増加を示した(p < 0.05)。  肢位間の比較では,Th12/L1 ~ L4/5 の各分節におい て,軽度体幹伸展位よりパピー姿勢で有意な伸展角度の 増加を示した(p < 0.05)。 2. 骨盤の動き(右骨盤前傾量・左骨盤前傾量・仙骨前 傾量)  右骨盤前傾量・左骨盤前傾量・仙骨前傾量を表 2 に 示す。  両条件における各平均値はいずれも非常に小さかった (最小値:–0.8°,最大値:0.3°)。また,反復測定による 分散分析の結果,部位・肢位の両要因において有意差は なかった(部位:F(2,24)= 0.33,p > 0.05,r = 0.12; 肢位:F(1,12)= 1.09,p > 0.05,r = 0.29)。以上の結 果から,仙腸関節の動きはわずか,あるいはほとんどな かった可能性が高い。 考   察 1.椎間関節可動域について  本研究の結果から,若年健常女性における軽度体幹伸 展位およびパピー姿勢での各椎間関節可動域が明らかに なった。椎間関節可動域を分節間で比較した結果,軽度 体 幹 伸 展 位 で は L4/5・L5/S1 に 比 べ て Th12/L1 ~ L3/4 がより伸展したこと,Th11/12 に比べて Th12/ L1・L1/2・L3/4 がより伸展したこと,また L4/5 の可 動域は –0.2°,L5/S1 は –1.1°,Th11/12 は 0.3°と非常 に小さかったことを加味すると,軽度体幹伸展位でおも に伸展運動を担った分節は Th12/L1 ~ L3/4 であると 捉えることができる。パピー姿勢では,Th11/12 に比 べて Th12/L1 ~ L3/4 がより伸展していたこと,L5/S1 に比べて Th12/L1 ~ L4/5 がより伸展していたこと, また L5/S1 は可動域が –0.6°,Th11/12 は 1.0°と非常に 小さかったことから,おもに Th12/L1 ~ L4/5 が伸展 運動を担ったと捉えることができる。  以上の結果から,軽度体幹伸展位・パピー姿勢それぞ れにおいて,伸展運動が生じる分節と,動きが非常に小 さい分節が示され,腹臥位からの体幹伸展位における胸 腰椎椎間関節,腰仙関節の矢状面の可動域に関する特徴 が明らかになった。  我々が渉猟する限り,腹臥位からの体幹伸展位につい て,本研究と同じ条件で各椎間関節の可動域を測定した 報告は見あたらない。Gak ら8)は,21 名の健常成人を 対象に,腹臥位・パピー姿勢・press-up(腹臥位での腕 立て伏せ)の 3 肢位における L3/4・L4/5・L5/S1 の椎 体間角度を X 線画像を用いて測定し比較している。そ の結果,L3/4 は腹臥位に比べてパピー姿勢・press-up がより大きく伸展し,L4/5 は腹臥位に比べてパピー姿 勢・press-up がより大きく,さらにパピー姿勢より press-up が大きく伸展したが,L5/S1 については肢位間 に差がなかったと報告している。本研究と共通の課題で あるパピー姿勢について結果を比較すると,L3/4・ L4/5 に伸展の動きがみられた点,L5/S1 には動きがみ られなかった点で同様であった。加えて,本研究は MRI による測定であり,Th11/12 ~ L5/S1 までの広範 囲を分析対象とすることを可能にした。その結果,軽度 体幹伸展位・パピー姿勢ともに Th12/L1 ~ L2/3 といっ た胸腰椎移行部ならびに上位腰椎の関与も明らかにでき た。これは腹臥位からの体幹伸展位の大きな特徴である といえる。  腹臥位からの体幹伸展位ではなく,立位での体幹伸展 運 動 の 分 析 に 関 し て は 諸 家 に よ る 報 告 が 散 見 さ れ る17–19)。体幹 45°屈曲位から最大伸展位までの範囲の L2/3 ~ L4/5 の可動域について MRI を用いて分析した Li らの報告17)では,L2/3・L3/4 の可動域が L4/5 より 大きかったとしている。このように,下位腰椎よりも上 位腰椎のほうが大きく動いたという報告がある。その一 方,Kanayama ら18)は X 線シネ撮影装置を用いて,体 表 2 骨盤・仙骨前傾量 [°] の平均値(標準偏差)の比較 左骨盤前傾量 仙骨前傾量 右骨盤前傾量 軽度体幹伸展位 –0.1(2.4) –0.8(2.9) –0.2(2.2) パピー姿勢 0.3(2.5) 0.3(3.4) 0.2(3.0) 数値は,平均値(標準偏差)を表す 無印:有意差なし

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の可動域を測定した結果,L3/4,L4/5 の動きは小さく, L5/S1 の 動 き が 大 き か っ た と 報 告 し て い る。 ま た, Pearcy ら19)は,健常者を対象に 3 次元 X 線分析を用 いて,最大屈曲位から最大伸展位までの動きを測定した 結果,L1/2 ~ L5/S1 の可動域はそれぞれ 13°,14°,13°, 16°,14°であったとしており,立位での伸展可動域につ いては一定の見解は得られていない。  このように体幹伸展位の運動学的解析に関する研究報 告では,本研究も含めて様々な結果がみられている。す なわち,体幹伸展位という課題は遂行する条件により 様々な運動パターンを示すといえる。その運動パターン に影響を与える要素が 2 つあると考える。まず 1 つ目は 腹臥位と立位といった肢位の違いである。立位からの体 幹伸展運動は,腰椎の伸展・腰仙関節の伸展・ならびに 骨盤帯の前方移動を伴う股関節伸展が関与する20)。し かし腹臥位からの体幹伸展位では,骨盤帯の腹側への空 間的位置変化が床面によって制限される。そのため骨盤 帯の傾斜がわずかで,腰椎に対する尾側すなわち骨盤帯 からの影響は小さく,挙上された頭部から胸部,つまり 頭側からの影響をより強く受けたと考える。  そして 2 つ目は,運動範囲による違いである。今回測 定したのは,腹臥位すなわち体幹中間位からパピー姿勢 までの可動域である。最終肢位は最大伸展位ではなく, 屈曲位から伸展位までの最大可動域でもない。前述した 立位での先行研究17–19)も,分析対象としている運動範 囲がそれぞれ異なっている。腰椎固有の可動域につい て,一般的に屈曲─伸展可動域は,尾側椎間に向かって 漸増する9)とされており,Kapandji21)も下位腰椎が 上位腰椎よりも可動性が大きいとしている。脊椎の運動 において常に同じ分節が大きな可動域を担うのではな く,肢位や運動パターンによって可動域を担う分節が異 なるという点は,臨床上重要な知見であると考える。し たがって,実際に治療で用いるそれぞれの体幹伸展位や 体幹伸展運動についての特徴を明らかにする必要があ り,本研究によって腹臥位からの軽度体幹伸展位および パピー姿勢における椎間関節の動きが示されたことは, 意義があると考える。  また,宇佐ら22)は腹臥位での股関節伸展運動に伴う 股関節・腰椎椎間関節・腰仙関節・仙腸関節の動きを MRI により解析し,股関節伸展時に下位腰椎には伸展 の動きがみられたが上位腰椎には運動が生じなかったと 報告している。腹臥位での股関節伸展位と,今回の条件 である体幹伸展位は,身体的アライメントという点にお いては類似している。しかし得られた結果は,股関節伸 展位の場合は腰仙関節ならびに下位腰椎が,今回の体幹 伸展位では上位腰椎が伸展したという異なるものだっ た。単純比較はできないが,腰椎より尾側を伸展方向に いう運動パターンの違いでも,腰椎の動きが異なる可能 性が示された。  次に軽度体幹伸展位とパピー姿勢の差について考察す る。各分節の可動域を比較した結果,Th12/L1 ~ L4/5 に差がみられた。これは体幹伸展程度の違いによる影響 を表しており,パピー姿勢では Th12/L1 ~ L4/5 にお ける伸展方向への動きが軽度体幹伸展位よりも大きくな ることを意味している。軽度体幹伸展位では Th12/L1 ~ L3/4 がおもに伸展運動を担い,パピー姿勢ではおも に Th12/L1 ~ L4/5 が伸展運動を担ったという結果と 合わせて考えると,軽度体幹伸展位をとることで伸展し た Th12/L1 ~ L3/4 は,パピー姿勢になることでさら に伸展角度が増し,加えて軽度体幹伸展位では動きがほ ぼ生じなかった L4/5 へも伸展方向の動きが伝播したと いえる。すなわち,体幹伸展角度が増すにつれて,上位 の椎間が最大伸展位に達してから下位の椎間に伸展作用 が伝播するのではなく,各腰椎と胸腰椎移行部が協調的 に伸展する機構が確認できた。このメカニズムは体幹伸 展運動の際に腰椎にかかる伸展ストレスを分散させるこ とに役立っていると推測できる。Gak ら8)は,腰椎の 伸展が増加すると,その運動軸は尾側に動くと述べてお り今回の結果と一致している。一方,大久保ら23)は X 線シネ撮影装置を用いて,立位からの最大伸展時におけ る L1/2 ~ L4/5 間の位相差について検討し,各椎間に 位相差はみられずほぼ同時に椎間挙動が開始していたと 報告しているが,この研究もまた,分析対象は立位での 体幹伸展運動であり,本研究とは運動を遂行する肢位と 運動範囲が異なるために違う結果となったと考える。今 回みられた頭側から尾側への伸展運動の伝播は,腹臥位 からの体幹伸展位の運動学的特性であるといえる。 2.仙腸関節について  仙腸関節の可動性は,寛骨と仙骨の相対的な動きの差 を意味する。仙腸関節がもつ可動性は非常に小さい24) が,仙骨前屈は,背臥位からの起き上がりや立位体幹前 屈初期に生じ,仙骨後屈は,背臥位姿勢や立位体幹前屈 終了時に起こる25)とされている。今回は,軽度体幹伸 展位・パピー姿勢の両肢位とも,寛骨と仙骨の動きが非 常に小さく,差が認められなかったことから,仙腸関節 の動きはわずか,あるいはほとんどなかった可能性が高 い。ただし,サンプルサイズが小さく,効果量も小さい ため,差の検定結果に関しては慎重に解釈する必要があ る。寛骨については,体幹伸展位をとることにより腰椎 が伸展すれば,前傾方向への動きが生じると考えられる が,腰仙関節の動きが非常に小さかったことからもわか るように腰椎から骨盤に伝達された力はごく軽微であっ たこと,かつ骨盤前面から下肢前面までが床面に接地し

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ているため寛骨の動きが制限されたことで動きは生じな かったと考える。 3.理学療法学研究としての意義  本研究により,若年健常女性における軽度体幹伸展位 およびパピー姿勢での各椎間関節可動域が示された。こ れは,体幹伸展運動を理解するための理学療法研究を推 進していくうえでひとつの知見になると考える。また, 今回の結果から,軽度体幹伸展位やパピー姿勢は仙腸関 節や腰仙関節の動きを抑制し,軽度体幹伸展位では Th12/L1 ~ L3/4,パピー姿勢では Th12/L1 ~ L4/5 の 動きを選択的に獲得させるための方法として応用できる 可能性が示された。 4.本研究の限界と今後の課題  本研究の限界としては,今回は静的な姿勢変化に注目 しており,かつ矢状面の変化のみの分析である点が挙げ られる。したがって動的な評価ではなく,また回旋要素 や側屈要素については加味されていない。また,MRI 装置の Body Coil 内のスペース上,パピー姿勢よりも大 きな体幹伸展角度の肢位を設定できず検討ができなかっ た。そのため,あくまで腹臥位からパピー姿勢までの範 囲の検討であり,それ以上の体幹伸展位に関しては言及 することができない。  また対象者について,今回は若年健常女性を対象とし たが,個人によるばらつきが大きかった。サンプルサイ ズが小さいことからも,性別や年齢の違いによってさら に個人差がでることが予想され,知見の一般化には慎重 に適応する必要がある。今後,男性や高齢者,さらには 腰部疾患患者についても検証する必要がある。 結   論  健常女性を対象に,腹臥位からの体幹伸展位における 下部胸椎・腰椎椎間関節,腰仙関節,仙腸関節の動きを 解析し,矢状面の可動域とその特徴が明らかになった。 軽度体幹伸展位ではおもに Th12/L1 ~ L3/4 までが伸 展し,パピー姿勢まで体幹伸展程度が増加するとおもに Th12/L1 ~ L4/5 において伸展の動きが認められた。ま た,パピー姿勢では軽度体幹伸展位よりも Th12/L1 ~ L4/5 の伸展の動きが大きくなった。 文  献 1) 齋藤 宏,松村 秩,他:姿勢と動作─ ADL その基礎か ら応用─.メヂカルフレンド社,東京,2000,p. 54. 2) Clare HA, Adams R, et al.: A systematic review of

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and histopathologic findings on the mobility of the sacroiliac joint. Spine. 1991; 16: 1111–1117.

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MRI Analysis of the Range of Motion of Spinal Segments and the Sacroiliac Joint in the Sagittal Plane in the Prone Position with Trunk Extension

Masafumi HATA, PT, MS, Kazuna ICHIKAWA, PT, MS

Department of Physical Therapy, Senkawa-Shinoda Orthopedic Clinic

Masafumi HATA, PT, MS, Kazuna ICHIKAWA, PT, MS, Sho MITOMO, PT, MS, Daisuke OGAWA, PT, MS Doctoral Course, Deparment of Physical Therapy, Graduate School of Human Health Sciences, Tokyo Metropolitan University

Hideyuki USA, PT, PhD

Division of Physical Therapy, Faculty of Health Sciences, Tokyo Metropolitan University Sho MITOMO, PT, MS

Department of Physical Therapy, Kawakita General Hospital Daisuke OGAWA, PT, MS

Department of Physical Therapy, Faculty of Health Sciences, Mejiro University Masashi MATSUMURA, PT, PhD

Department of Physical Therapy, Faculty of Health Sciences, Kyorin University Atsushi SENOO, RT, PhD

Deparment of Radiological Sciences, Graduate School of Human Health Sciences, Tokyo Metropolitan University

Hitoshi TAKEI, PT, PhD

Deparment of Physical Therapy, Graduate School of Human Health Sciences, Tokyo Metropolitan University

Purpose: The purpose of this study was to analyze the range of motion of spinal segments and the sacroiliac joint in the sagittal plane when the trunk moves from the prone to the extension position. Methods: Thirteen asymptomatic female volunteers participated in this study. The prone position with no trunk extension (prone), slight trunk extension, and moderate trunk extension (referred to as the puppy position) were analyzed using magnetic resonance imaging (MRI). The range of motion of the lower thoracic and lumbar zygapophysial joints (from Th11/12 to L4/5), the lumbosacral joint (L5/ S1), and the sacroiliac joint was investigated.

Results: In the slight trunk extension position, Th12/L1 to L3/4 showed more extension than did L4/5 and L5/S1. In the puppy position, Th12/L1 to L4/5 showed more extension than did L5/ S1. Moreover, a larger angle was measured from Th12/L1 to L4/5 in the puppy position than was measured in the slight trunk extension position. There was almost no movement of the sacroiliac joint in either position. Conclusions: This study showed that the primary segments showing extension in the slight trunk extension position were Th12/L1 to L3/4, while those that showed extension in the puppy position were Th12/L1 to L4/5. In addition, Th12/L1 to L4/5 was more extended in the puppy position than in the slight trunk extension position. The sacroiliac joint showed almost no movement in either position. Key Words: Trunk extension position, Range of motion, Magnetic resonance imaging

参照

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