博 士 ( 理 学 ) 中 島 謙 一
学 位 論 文 題 名
出芽酵母カルモジュリンのCa2 十結合と 高次構造変化に関する研究
学位論文内容の要旨
カ ルモ ジュ リン (C aM)は 真核 生物 に存 在す るCa2゛結 合蛋白質であり、外部 か らの 刺激に応じた細胞内Ca2゛濃度の上昇に伴ってCa2゛を結合し、さまざまな標 的 酵素 の活性を調節している 。そのアミノ酸配列は多くの生物種間で90%以上の高 い 相同 性を 示す が、 出 芽酵 母のCaMは脊椎動物と比べて60%の相同性しかないュ特 に最もC末端側のCa2゛結合部位に当たる領域に相違が多く見られ、そこにはCa2ーが 結 合し ない。また、他の領域 にも違いが見られ、脊椎動物由来の標的酵素を活性化 す る能 カが 劣っ てい る 。本 研究 の第一部では、出芽酵母CaMの標的酵素に対する低 い 活性 化能 カが いか な る理 由に よるかを調べた。第二部 では出芽酵母のCaMの構造 と 機能 の特 異性 を調 べ 、第 三部 では 出芽 酵母 のCaMのCa2゛ 結合と構造変化につい て詳しく検 討したュ
第 一 部 :CaMは 球 状 のNド メ イ ン 、Cド ヌ イ ン が 中 央 の り ン カ ーで っな がっ た亜鈴型の立体構造をとってぃゝる 。各々のドヌインに2っずつの、1分子あたりでは 計4個 のCa2 を結合すると、多種多様な標的酵素と結合し、活性を調 節する。出芽 酵母 のCaMは、 脊椎 動物CaMに 対す る相 同性 が低 いゝ ので 、脊 椎動物 由来の標的酵 素を 活性 化す る能カが低い。この理由を調べれば、活性化のヌカニズ ムを知ること がで きる 。そ こで、あるCa2゛結合部位も しくはりンカーよりも、N末 端側に出芽酵 母 、C末 端 側に 鶏のCaMに 相当 する 配列 を持 っキ ヌラ 分 子を7種 、遺 伝子 工学 的に 作製 した 。そ れらについて、標的酵素を活性化する能カを調ぺたとこ ろ、鶏の配列 が多 くな れば 、より高い活性化能を獲得した。活性化能の低いキヌラ 分子と高い分 子と を比 較す ることで、標的酵素を活性化するために必要な領域が決 定できた,ホ ス ホ ジ エ ス テ ラ ー ゼ はCaMが 結 合 レ さ えす れば 高い 活 性を 示し たが 、CaMが 結合 するためにはそのCドヌインの寄与が大きいことカミ分かった。 カルシニューリンに CaMが 結合 し、 活性 化さ れる ため には 、最 もC末 端側 の第4Ca2一結合 部位(サイト IV) にCaz‐が 結合 する こと と、Nドヌイ ンが鶏型のCa2゛結合特性を 示すことが必 要 で あ っ た 。ま た基 質と して タン バク 質を 認識 する た めに は、Ala88−Ala128の 領域 も必 要で あ った 。骨 格筋 、及 び平滑 筋ミオシン軽鎖ルン酸化酵素にCaMが結合 する ため には 、 サイ トIVにCa2 が結 合レ 、 さら にAla88ーAlal98の 領域が鶏由来 の配列である必要があった。また活 性化には骨格筋のものに対してはCドメインが、
平滑 筋の もの に 対し てはNド メイ ンが 大きく関与していることが示さ れた。以上の 結果 から 、CaMは分 子内 の異 なる 領域 を用いて、それぞれの酵素をす ることが示さ れ、CaMが多種多様な標的に対し、異なった認識機構を持ってい ることが示された。
第 二 部 :CaMの 中 央 リ ン カ 一 部 分 は 柔 軟 な 構 造 で あ り 、2つ の ド ヌ イ ン は Ca2+を結 合す る 上で 独立 レて 機能 する こと が知 られ てい る。 しかし 、分子Imol当
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た り3molし かCa2゛を 結合 しな い出 芽酵 母CaMは、協同的にすべてのCa2゛を結合す る こと から 、 ドヌイン間相互作用の存在が示されている 。その性質について調べる た め 、N末 端 及 びC末 端 半 分 の 断 片 を 用 い て 、単 独で 存 在す る各 々の ドメ イン の Ca2゛結合特性を調ベ、全長の配列 を持つ分子と比較レた。ドメインが独立して機能 し てい る一 般 のCaM分 子全 長のCa2゛ 結合 曲線 は、 それ ぞれ のド メイ ンだけを持っ た 断片 の結 合 曲線 の和 と、 完全 に一 致す る。出芽酵母CaM分子全長のCa2・r結合曲 線 は、 ニつ の 断片の曲線の和と重ならず、各々のドヌイ ンが独立していないことが 示 さ れ た 。 ま た 、出 芽酵 母CaMのサ イ卜IV付 近の アミ ノ 酸配 列は 、一 般の もの と は 特に 異な っ てい る。 その 領域 の機 能を 検討するために、C末端17残基を欠損した 変 異体 につ い てCa2゛ 結合 能を 調べ たと ころ、Ca2゛に対する親和性はCaM分子より も 高い こと が 分か った 。こ の17残基 中にNドヌインと相 互作用する部位が含まれる た め、 すべ て の部 位へ のCa2゛ 結合 能が 影響されたと考 えられる。しかし、Hisl07 由 来の1H―NMRシ グナ ルに つい て、Ca2゛ 濃度 依存 性を 調べ ると 、こ の変異体でも 出 芽酵 母CaMと同 様に 二相 性の 変化 を示 し た。Ca2゛が1っし か結 合しないCドヌイ ン に存 在す る 残基由来のシグナルが、二相性の変化を示 すのは、NドヌインヘCa2+ が 結合 する とCド メイ ンの 構造 が変 化す る ため であ ると 考え られ 、C末端17残基以 外 に も 両 ド ヌ イ ン の 相 互 作 用 に 関 係 し て い る 領 域 が あ る こ と が 示 唆 さ れ た , 第 三 部 : 出 芽 酵 母CaMのNま た はCド ヌ イ ン が 他 の ド ヌ イ ン のCa2゛ 結 合 に 及ぽす 影響を調べるため、一方のドヌインにしかCa2゛が結合しない変異体を作製し、
Ca2゛結 合能 を測 定し た。 出芽 酵母CaM分 子全長と比較すると、N末端側半分の断片 はCa2゛に低い親和性を示したが、NドメインにしかCa2゛が結合しない変異体は、同 程 度の 親和 性 を示 した 。Cドヌ イン にし かCa2゛が 結合 しな い変 異体 は、出芽酵母 CaMのCa2゛ 結 合曲 線と 、Nドメ イン にし かCa2゛が 結合 レな い変 異体 の曲線との差 よ りも 、Ca2゛に低い親和性 を示した。Ca2゛非結合状態 (アポ状態)で、これらの 変 異体 は出 芽 酵母CaMと類 似の 構造 をし て いる こと を考 慮す ると 、アポ状態でNド メ イン はCド ヌインから影響 を受け、Ca2゛の親和性が高 い状態になっていると考え ら れる 。ま ず 、NドヌインにCa2゛が結合すると、Ca2゛型のNドメインの影響を受け てCド メ イ ン は 高 親 和 性 に 変 化 し 、 最 後 のCa2゛ を 結 合 す る こ と が 示 さ れ た 。 次 にC末 端 側 か ら 、1、2、3、6、9残 基 欠損 して い る変 異体 を作 製し 、測 定 し た。 順に1、2、3残 基と 欠損 させ ると 、初めの2つのCa2゛がより協同的に結合す る よう にな り 、さらに欠損させてもそれ以上変わらなか った。Ca2゛はまずN末端に 2つ 結合 する こと を考 慮す ると 、ア ポ状 態でC末端の3残 基がNドメインのCa2゛結合 に影響 を与えることが示された。また、C末端の2残基はCa2゛結合状態においても、
分 子 全 体 の 構 造 形成 に関 与 して おり 、そ の2残基 の欠 損 によ り、 出芽 酵母 由来 の CaM依存 性夕 ンパ ク質 リン 酸化 酵素 を活 性化する能カが 低下した。標的酵素活性化 因 子と して 機 能するためにも、C末端の2残基を含むドヌ イン間の相互作用が必要で あるこ とが分かった。
出 芽 酵 母CaMを 用 い て 、 高 等 生 物 由 来 の 標 的 酵 素 の 活 性 化 機構 を調 べる こ と は非 常に 有 効な 方法 であ る。 さらに出芽酵母CaM自体の構造や性質の理解を深め れ ば、 多く の 情報 が得 られ ると 考え られ る。 本研 究に より 、出芽酵母CaMにCa2÷ が 結合 する と き、 一般 のCaMと は全く異なった構造 変化を起こしていることが示さ れ た。 生物進化の過程で、出芽酵母と他の生物が分 化したときから今までに、多く の もの はEFハンドの対を形成することで、また出芽 酵母の場合は相互に影響しあっ たドメ インを持つことで細胞内Ca2゛濃度変化に敏感に反応できる仕組みになったの で は な い か と 考 え ら れ る 。 ま た 分 子Imol当 た り、4molのCa2゛ を結 合で き るCaM を 持 つ 生物 種が 非 常に 多い のに 対し 、3molし か結 合で きな いCaMを持 つ生 物は 非 常 に少 ない 。 この こと は、 前者 におけるCaMの柔軟 な分子認識機構が生物の進化に 深く結 びっいている可能性を示した。
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学位論文審査の要旨
主 査 教 授 矢 澤 道 生
副査 教 授 谷口和彌 副査 教 授 田村 守 副査 教 授 引地邦男
学 位 論 文 題 名
出芽酵母カルモジュリンの Ca2 十結合と 高次構造変化に関する研究
カルモ ジュリン(CaM)は、真核細胞のCa2+受容タンパク質であり細胞外からの刺激に応 じた細胞内Ca2+濃度の上昇にともなってCa2+を結合して、様々な標的酵素を活性化する。
細胞の 刺激に 対する応答はその結果として起きる現象である。CaMの標的酵素活性化の分 子機構 の概要 は、CaMにCa2+が結合することで分子内の疎水性アミノ酸残基が分子表面に 露出し、この疎水性領域が標的酵素分子を認識して結合し活性化にっながるというもので ある。出芽酵母(SacchalODユyces cerevisiae)のCaM (yCaM)は、高等生物CaMに比ベアミノ 酸配列の相同性は低く、分子内に4っあるEF―handとよばれるCa2十結合サイトのうち最も C末端のものは機能しない。このために高等生物由来の標的酵素を活性化する能カがきわめ て低い。本研究では、yCaMの性質を詳細に調べることで標的酵素活性化の分子機構を解明 することを目的の行われた。
本論文 は、3部からなり、第1部では、CaMの酵素活性化の分子機構を明らかにする目的 でyCaMと、 ニワト リCaM(cCaM)のキ メラタンパク質を7種類構築し、その性質を解析し た結果 にっい て述べている。yCaMの機能ドメインをC末端から順にcCaMのものに交換し、
それぞれについて種々の標的酵素活性化能を調べたところ、キメラタンパク質中のcCaMの 機能ドメインが多いほど標的酵素活性化能が上昇すること、活性化に必要な機能ドメイン は標的酵素ごとに異なることが明らかになった。また、標的酵素の認識に必要な領域と活性 化に必 要な領 域が異なることも示され、CaMは異なる標的酵素に対して多様な認識機構を もち、酵素の活性化は2段階で生じることを明らかにした。
第2部では、yCaMのN末端,およびC末端側1/2に相当する分子を構築し、それぞれの機能 を解析 するこ とでyCaM分子 のNドメインとCドメインの間の相互作用(ドメイン間相互作 用)に っいて 検討した 結果が述 べられ ている。Ca2十結合およびNMRの測定結果からyCaM には、C末端17残基を介したもの、およびそれ以外の領域を介したものの計2種類のドメイ ン間相互作用が存在することを明らかにした。
第3部では 、yCaMのドメイン間相互作用の機能的な意義を検討した結果が述べられてい る。EF‐hand型Ca2十結合ル ープの12番目に位置するGlu残基をGh残基に置換することで Ca2十 結合能 を欠如させる手法を用い、yCaMのNドメインにのみCa2十を結合できる変異タ ンパク 質と、Cドメ インにの みCa2十を結合できる変異体を構築し、その機能をyCaMと比 較した。その結果、yCaMの両ドメインは互いに相互作用しあって、それぞれのCa2十結合を
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強め合っていることが明らかになった。また、C末端から順に1残基ずつ欠如させた変異タ ンパ ク質を 構築し、C末端領域の機能を検討した。その結果、C末端3残基を介したドメイ ン間相互作用により、NドメインのCa2+結合の協同性が強められることが明らかになった。
同様 に、C末端の2残基 はyCaMの内 在性標的酵素活性化構造の形成に必須であることを明 らかにした。
以上の結果から、著者は、ドメイン間相互作用のない高等動物由来のCaMは、分子表面の アミノ酸残基をフルに活用して、30種類に及ぶ酵素を認識し活性化する多様性を備えてい るの に対し て、yCaMは、Ca2十 を3モ ルしか結合できないけれども、複雑なドメイン間相 互作用によって、数少ない内在性の標的酵素の活性化をになっているという見解を明らかに した。以上の結果は、タンパク質工学的手法と、タンパク質化学的手法を駆使して得られた ものであり、著者は、北海道大学博士(理学)の学位を授与される資格あるものと認める。
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