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酵母アッセイを用いたラットp 53 癌抑制遺伝子の      転写スリップの解析

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Academic year: 2021

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     博士 (医学)巴 学 位論 文題 名

酵母アッセイを用いたラットp 53 癌抑制遺伝子の      転写スリップの解析

学位論文内容の要旨

    I.背景と目的

  最近 ,大腸 菌や哺 乳類細 胞で転写 段階で の塩基 配列の 変化( 転写変異)により,鋳型DNAの遺伝情報が修 飾さ れて発 現する現 象が発 見され た,こ の転写 変異の1つのタ イプと して, アデニン(A)またはチミンが多 数 連 続す る 部 位 にお い て 鋳 型DNAに は存 在しな い余分 なAまた はウラシ ルが挿 入され るもの がある .低リ ポ 蛋 白血 症 と 血 友病Aの 患 者 で みい だ さ れ たこ の 現 象 は, 転 写の 伸長反 応時に 鋳型DNA鎖 とRNA鎖間 に生 じる ″ずれ ″すなわ ち転写スリップに起因すると考えられている.これらの患者では責任遺伝子に1塩基欠失 があ ルフレ ームシフ トが生 じるが ,転写 スリッ プによ り一部 のmRNAでは 読み枠 が正常 に回復するため野生 型蛋 白が合 成され症 状が軽 快する ことが 報告されている.このことから,人為的に転写スリップを引き起こ すこ とによ り遺伝性 疾患お よび癌 の治療 に利用できる可能性がある,そのためには、転写スリップがどのよ うな遺伝子で,どのような原因で促進されるかを明らかにする必要がある.しかし哺乳動物においては,転写 スリップ現象がほとんど解析されておらず,この現象の関与が示唆される遺伝性疾患の報告も極めて少なぃ,

これ は,転 写スリッ プがDNA複製に 伴うスリ ップと 区別す ること が困難であったこと,および転写スリップ の血VIVOモデルがなかったことによると考えられる.これらの問題を解決するために,著者はyeast functional assayとよ ばれる 変異検 出法とLEC遺伝性 肝炎ラ ットモ デルを 用いて ,転写 スリップ の標的 となるアデニン が6個 連続し た配列 を翻訳領 域に持 つp53癌 抑制遺伝 子の転 写スリ ップを 解析し た,さ らに,この現象がど のような病理的状況下で促進されるかを調べた.

II.方 法

1)  yeast functional assay:Oラットのp53発現ベクターpLSRP53からp53のコドン68‑345を削除したギャツ   プ ベ ク タ ーを 作 製 す る. @ 組 織 なら び に 培 養細 胞 か ら 全RNAを 抽出しRT‑PCR法に よりp53 cDNAを 増幅   する .これ をp53ギャ ップベ クター ととも にレポ ーター用 酵母yIG397に導入する,◎酵母に導入されたギ   ヤ ッ プ ベ クタ ー とPCR断 片は 酵 母内 で遺伝 子相同組 み換え をおこ し,被 検DNA断片 がベク ターに 組み込   まれ る.O形 質転換 された 酵母を 低アデニ ン添加プレート上で選択培養する.◎この酵母内で野生型p53が 発 現 する と , こ れが 酵 母 染 色体 上 に 組 み込 ん で あ るp53蛋 白認 識配列 に結合 し下流のADE2遺伝 子の転 写   を活 性化す る.こ の結果 ,酵母コ ロニー は白く なる. 一方, 変異型p53が発現するとADE2遺伝子が転写さ   れな いため アデニ ン合成 の中間代 謝産物 が蓄積し酵母コロニーが赤くなる,◎総コロニ一中の赤コロニー   の割合を算定する.これはサンプル中の変異RNAの比率を鋭敏に反映する.

2)    exon 4‑specific yeast assay:  pLSRP53のp53 exon4内のコドン68‑113を削除したギャップベクターを作   製 す る , 次 に 組 織 な ら び に 培 養 細 胞 か ら 抽 出 し た ゲ ノ ムDNAおよ び 全RNAからPCR法 ま たはRT‑PCR   法に よりexon4部 分を増 幅し, これをexon4ギャ ップベク ターと ともにyIG397に導 入する,以下,上記の   yeast functional assayと同様にして赤コロニーの割合を算定した.

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III.結果および考案

1)ラットのp53には転写 スリップの標的となる6A部位が3箇所(exon4,exon7,exon8)ある,yeast functional   assayの結 果,7週 令のLECラッ 卜の 肝で は 赤コ ロニ ーが8% で, アデ ニ ンの 挿入 変異 は8クローン中1ク   ローンに認められた. これは全コロニーの1%に相 当した.一方,70週令以上 のLECラッ卜の胆管線維症,

  肝細胞癌,および非癌 部肝組織においてアデニン の挿入変異が全コロニーに占める割合はそれぞれ7.4%,

  7.0% ,9.0% で あ っ た . ま た , こ れ ら の ア デ ニ ン の 挿 入 変 異はexon4の6A部 位 に多 数認 めら れた . 2) この 高頻 度な アデ ニ ン挿 入変 異がp53増幅 過程 に おけ るPCRや 逆転写反応のアー チフんクトでないこと   を 以 下 の 実 験 結 果 か ら 証 明 さ れ た .Oプ ラ ス ミ ド に 組 み 込 ま れ た野 生型p53 cDNAのPCR産 物 のyeast   functional assayを行 った場合,23クローン中に アデニンの挿入はみられなか った,◎野生型p53 cDNAを   SP6 RNA polymeraseを 用 い てin vitroでRNAに転 写 して から ,RT‑PCRに よりp53 cDNAを増 幅 しyeast   functional assayを行 った場合,アデニン挿入変 異の頻度は全体の1.6%であり,70週令以上のLECラッ卜   におけるアデニン挿入変異の頻度と比べると有意に低かった.

3) こ のLECラ ッ 卜 の 高 頻 度 な ア デ ニ ン 挿 入 変 異 が ゲ ノ ムDNAの 変 異か ,mRNAに 生 じた 変異 かを 調べ る   た め,2匹 の72週齢 のLECラ ッ トの 肝に ついてexon 4‑specific assayを行った,赤 コロニーの頻度はDNA   サンプル(1,8‐2.4%)に比べRNAサンプル(7.2‑7.7%)で有意に高かった,アデニンの挿入変異はDNAサン   プ ルか らは ほ とんど検出さ れなかったが,RNAサンプル では変異の60%以上を占め た.以上より,このア   デニン挿入変異が転写スリップにより生じた転写変異であることが証明された.

4)  yeast funcitonal assayの結果,WKAHラットでは加齢に伴い赤コロニーの頻度が増大した,一方,LECラッ   トでは,これに加え肝 炎期に赤コロニーの頻度が 増加する傾向がみられた,こ れらの赤コロニーの増加は   ア デニ ンの 挿 入変 異の 頻度 の 増加 を伴 って いた .LECラ ッ トの 肝炎 期で は赤 コ ロニ ーの 比率と血清GOT   活 性値 の間 に 高い正の相関 関係(r 0.98)が認められ た.しかし,肝の銅ならび に8‑OHdG含有量との間   に は相 関関 係 は認められな かった,以上より,転写ス リップは加齢とともに増加す ること,また,LECラ   ットの肝炎期の増加は 肝細胞内の銅の過剰な蓄積 や活性酸素の増加によるもの ではなく,細胞傷害の程度   に関係した現象であることが示唆された,

5)LECラ ッ トの 肝 細胞 傷害 がp53の 転写 スリ ッ プを 促進 する かど う か確 かめ るた め ,LECおよ びLEAラ ッ   卜 由来 の培 養 肝細胞株93 C13,93A16を0‑500 mMエタノ ールに暴露することにより 細胞障害を韜こさせた   後 ,DNAとRNAを抽 出しexon 4‑specific assayを行っ た.全てのDNAサンプルにお いて赤コロニー比率は   1.9‑2.5%の 範囲であっ た.一方,RNAサンプルの赤 コロニー比率はLECラット由 来の93C13で,100‑500   mMのエタノール負荷に より7.0 ‑ 7.7%となり,93A16の3.8・4.1%に比べ倍近くに増加した.また赤コロニ   ーの7/8がアデニン挿 入変異であった.以上から,LECラットでは細胞障害の結 果転写スリップが増加する   ことが示唆された,

  本研 究で は 酵母 を用 いた 簡便 か っ高感度な手法によ り転写スリップの解析を行 い,細胞障害や加齢に伴 う細胞の 老化が転写機構の忠実度を低 下させる可能性を示した, しかし,転写変異を引き起こ す具体的な機 構につい てはまだ不明な点が多い.転 写スリップの制御による遺 伝子病の治療の可能性に関し ては,トラン ス ジ ェ ニ ッ ク マ ウ ス な ど の 遺 伝 病 の 動 物 モ デ ル を 用 い て 実 験 す る 価 値 は 十 分 あ る と 考 え ら れ る .

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学位論文審査の要旨 主査    教 授    守内哲也 副査   教授   細川真澄男 副査    教 授    葛巻    暹

学 位 論 文 題 名

酵母アッセイを用いたラットp 53 癌抑制遺伝子の      .   転写スリップの解析

   肝炎 ・ 肝癌 自 然 発症 モデル である LEC ラ ッ卜にお いて、 p53 癌 抑制遺伝 子に変異 を持つ 微 小 な 細 胞 集 団 の 有 無 を 検 索 し た。 従 来 の方 法 では 組 織 内に 存 在す る 少 数の 変 異p53 mRNA を 検出 す る こと が 困難 で あ るた め 、 最近 開 発さ れた ラット p53 酵 母アッセ イ法を解 析手 段として用 いた。こ の方法で は、 p53 mRNA に変 異があれぱ酵母コ口ニーが赤くなり、

し かも こ の 赤コ ロ ニ ーの比 率 I ま変異 p53 mRNA の比率と 極めて高 い正の相 関を示す 。 LEC ラ ット の 肝 癌期 の 肝 臓から RNA を抽出し て酵母ア ッセイを 行ったと ころ、約 8 %の赤コロ ニ ーが 出 現 した 。 解 析の結 果、 p53 変異 の多くが 第 4 エキソ ンで生じ ておりし かもァデニ ン が6 個連 続 す る箇 所 に余分 なアデニ ンが1 個挿 入される 変異であ ることが 明らかにな っ た 。 こ の ア デ ニ ン の 挿 入 変 異 は ゲノ ム DNA 上に は 見い 出 さ れず 、 cDNA 上で の み 見い 出 さ れ た 。 こ の 現 象 が RT‑PCR の 過 程 で 人 工 的 に 作 ら れ た 変 異 で な ぃ こ と は 、 SP6 RNA polymerase を用 いたin vitroRNA transcription によっ て証明さ れた。以 上からこ のアデ ニン 挿入変異が 転写スリ ップによ り生じた 転写レベ ルでの変異であることが明らかになっ た 。さ ら に 、 1 )こ の 転写 ス リ ップ に よ る p53 変 異は 急性 肝炎期に 約 20% にまで 急増する こ と、 2 ) 赤 コ ロニ ー の比率 と血清 GOT 活 性値の間 に高い正 の相関関 係( r  ̄ 0 . 98 )が存 在 する こ と 、お よ び 3 )銅の 蓄積量や 酸化的 DNA 損 傷の程度 とは相関 しなぃこ と等から、

肝細 胞傷害がp53 の 転写スリ ップを促 進するこ とが示さ れた。こ の他に、老 化によっても 転写 スリップに よる p53 変異 が増加す ることが 証明され た。本研 究では酵母 を用いた簡便 かつ 高感度な手 法を用い て転写ス リップの 解析を行 い、細胞障害や細胞の老化が転写機構 の 忠実 度 を 低下 さ せ ること を示唆す る結果を 得た。し かし、転 写変異を 引き起こす 具体 的な 機構につい ては今後 の課題で あると考 えられた 。

   公 開 発 表 は お よ そ 13 名 の 聴衆 の 前 で行 わ れ、 葛 巻 教授 よ り 、p53 の 転写 ス リ ップ と

LEC ラッ ト肝癌の発 生との関 係、炎症 の関与、 エタノー ル投与に よる転写ス リップ亢進の

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機序等について質問があった。次いで、細川教授より、LEC ラット以外のラットでも転写 スリップが起こるのか、転写スリップの生物学的意義等について質問があった。最後に守 内教授より、転写スリップという現象が遺伝性疾患において有利に働く場合と不利に働く 場合について質問があった。これらの質問に対して申請者は、豊富な実験データと文献的 知識に基づぃて明解に回答した。これらの質問の中で最も重要な問題は、急性肝炎期にお ける転写スリップの亢進がLEC ラットの肝癌発生とどのように関わるのかという点であっ た。申請者はこの質問に対し、急性肝炎期に約20% のp53 mRNA に変異が挿入されること によってp53 の機能が相対的に低下し、銅の過剰蓄積に伴う酸素ラジカルのDNA 損傷の修 復が阻害される可能性を述べた。

   この論文は、野性型遺伝子に転写スリップが生じていることを初めて証明した論文とし て高く評価され、転写スリップを人為的に誘発することにより遺伝性疾患のフレームシフ ト変異をmRNA レベルで正常復帰させうる可能性を示唆した。

   審査員一同は、これらの成果を高く評価し、大学院課程における研鑽や取得単位なども

併せ申請者が博士(医学)の学位を受けるのに充分な資格を有するものと判定した。

参照

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