学 位 論 文 題 名
博 士 ( 医 学 ) 小 島 公 一
Experimental Autoimmune Panencephalitis and Uveoretinitis Transferred to the Lewis Rat byTLymphocytes Specifー lcforthe S100pM01ecule,aCalciuInBindingProteinofAstroglia
(アスト ログリア のカル シウム結 合性蛋白であるS100B分子に特異的なTリンパ球によって Lewisラ ッ ト に 移 入 さ れ た 実 験 的 自 己 免 疫 性 全 脳 炎お よ び ぶど う 膜 ・網 膜 炎 )
学 位 論 文 内 容 の 要 旨
実 験 的自 己 免 疫性 脳 脊 髄炎 (EAE) は 脱髄 性 炎 症性 疾 患 で ある 多 発 性硬 化 症 (MS) の 実 験 モ デル と し て、 ミ エリ ン構成蛋 白、特 にミェリ ン塩基 性蛋白(MBP) を標的に し た 細 胞 性 免 疫 を 中 心 に 研 究 さ れ て き た 。 実 際 、EAEはMBP特 異 的T細 胞 (CD4十 ) の 受動移 入により 誘導さ れる。し かしその病変部位は比較的下部脊髄に限局されているこ と 、また ときにMSに 合併す る網膜炎などの眼病変を引き起こさないことなどを考えると、
こ のモデ ルがMSの一 般的な 実験モデルとして適当なのか、それとも特別なケースなのか、
明 らかで ない点が 多い。
我 々 は 、EAEを 誘 導 す る の に必 要 な 中枢 神 経 系 (CNS)蛋 白 の 構造 的 お よび 機 能 的 特 徴 を 明 らか に す るた め に、MBPとは 産生部 位、生化 学的特 徴の異な る非ミ エリン系 蛋 白 で あ るSl00ロ を 用 い 、 そ の 脳 炎 惹 起 性 に つ い て 検 討 し た 。Sl00ロ はCNSか ら 最 初に分 離された カルシ ウ厶結合 性蛋白 で、91個の アミノ 酸からな る可溶性 の酸性 蛋白 で あ る 。91個 の うち 、 ラ `yトとウシ との間 では4個、ラ ットとヒ トとの間 では2個のア ミ ノ酸が 異なるの みであ り、かな り保存的な蛋白である。オリゴデンドロサイトに産生さ れ るMBPと は 異 な り 、Sl00ロ はCNSで は ア ス ト ロ サ イ ト に よ り 、 そ の 他 末 梢 神 経 系 で はSchwann細 胞 や 網 膜 組 織 のMuller細 胞 に よ り 産 生 さ れ る 。 ま た ア ス ト 口 サ イ ト は 活 性 型 の Sl00ロ を 分 泌 し 、 こ れ は 髄 液 中 で も 検 出 さ れ る . 先 ず 、ウ シSl00ロ で免 疫 さ れた ラ ッ トの り ン パ節 細 胞 よ り特 異 的T細 胞 ラ イン を樹 立 し 、 そ のエ ピ ト ープ 特 異性 、表面マ ーカー 、T細 胞受容 体(TCR)Vロ 遺伝子 の使用、
サ イトカ イン産生 、細胞 障害性を 調ペ、 さらには これらT細胞の受動移入による脳炎惹起 性 を 臨 床 的 、 病 理 組 織 学 的 に 、MBP特 異 的T細 胞 に よ るEAEと の 比 較に お い て検 討 し た 。
樹 立 さ れ たSl00ロ 特 異 的T細 胞 ラ イ ン は す ぺ てW3/13十 ( 全T細 胞 、 顆 粒 球 ) 、 W3/ 25十 ( CD4) 、 OX8ー ( CD8) で 、 MBP特 異 的T細 胞 と 全 く 同 じ で あ つ た 。 ま た 使用 さ れ てい るTCRも 同 じa/ ロ であ っ た 。し か しVロ遺 伝 子 の使 用 を 調べる と 、 脳 炎 惹 起 性MBP特 異 的T細 胞 の よ う に 、 あ る 特 定 の 遺 伝 子 (Vロ8.2) を 多 用 す
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るような 傾向はみら れなかった。中には
V
ロ16を多用する細胞ライン(50
〜100%)もいくっかみられたが、この使用程度と脳炎惹起性との間に関連性は認められなかった。
サイトカイン産生の面からみると、これらのT細胞はやはり
MBP
特異的T細胞と同じく、INF‑
ア、IL
―2
を 産 生 する 、 いわ ゆ るTh
ー1
様 の細 胞 で あった。 また興味 あるこ とに、これらのラ`yトT
細胞ラインのほとんどはSl00
ロのエピトーア(アミノ酸残基76
―91
)に 対 し て、RTIB
( 主要 組 織 適合 抗 原MHC
ク ラ ス亜 ) 拘束 性 に 強い 自 己 免疫反応を示した。正常な同 系ラットヘ の
Sl00
ロ特異 的T細胞の 受動移入 により、 病理学的 にはCNS
において広範な強い炎症細胞浸潤が観察されたが、臨床的には神経障害がわずかに見られ るのみで あった。MBP特 異的T
細胞 の受動移 入により誘導される重篤なEAE
と比較し てみると 、この結果 は、CNSへのED1十マクロファージの遊走が減少していることに 関 連 し て い る と 思 わ れ た 。 さ ら にinvftro
で はMBP
特 異 的T
細 胞 と 異 な り 、S 10 0B
特異的T
細胞はアスト口サイトに対して細胞障害性を示さなかった。病理組織学 的にも炎症部位の分布において、両者の間に大きな差が認められた。MBPのモデルに比 ぺて、Sl00ロの場合は脊髄ばかりでなく、全脳さらには眼組織の一部であるぷどう膜 や網膜にまで強い炎症が及んでいた。CNSの白質および灰白質全体における広範な病変 の分布を 見ると、従 来のEAEと区sIJするために、この新しいモデルはExperimental Autoimmune Panencephalitis
(EAP)と呼ぷ方が相応しいと思われる。.標的となる自己 抗原の性質は、それにより誘導される自己免疫疾患の臨床的、病理組織学的な特徴に多大 な影響を与えるが、今回の実験は、非ミエリン系のCNS
自己蛋白抗原が自己免疫性T
細 胞反 応 を弓I
き 起 こ すこ と を始めて 示したも のである 。MBP
もSl00
ロもCNS
に広範 に存在する蛋白であることから、このEAPは単に自己抗原の分布の結果として引き起こ されたもので|まなく、CNS
の部位によって特異的自己抗原の処理および提示能カに差が あることを示唆している。一方、このSl00ロ特異的T
細胞によって誘導される疾患モ デルは、多くの点でMSに似ている。例えぱ、その緩徐な臨床経過、また脳や眼組織の病 変などはミエリン蛋白に誘導されるEAEでは見られなかった。以上より、非ミエリン系 の自己抗原もCNS
の炎症性疾患の免疫病理において重要な役割を果たしている可能性が 示唆された。−44‑
学位論文審査の要旨
主 査 教 授 小 林 邦 彦 副 査 教 授 長 嶋 和 郎 剛 査 教 授 田 代 邦 雄
学 位 論 文 題 名
ExperlmentalAutoimmunePanenCephalitiSandUVeoretinitiS TransferredtotheLewisRatbyTLymphocytesSpeciflcforthe S100pM01ecule,aCalciumBindingProteinofAstroglia
( アスト ログリア のカル シウム結合性蛋白であるS100p分子に特異的なTリンパ球によって Lewisラ ッ ト に 移 入 さ れ た 実 験 的 自 己 免疫 性 全 脳炎 お よ びぶ ど う 膜・ 網 膜 炎 )
[緒言]実験的自己免疫性脳脊髄炎(EAE)は脱髄性炎症性疾患である多発性硬化症(MS)の実 験モデルとして、ミエリン構成蛋白、特にミエリン塩基性蛋白(MBP)を標的にした細胞性免 疫を中心に研究されてきた。実際、EAEはMBP特異的T細胞(CD4十)の受動移入により誘導 される。しかしその病変部位は比較的下部脊髄に限局され、ときにMSに合併する網膜炎な どの眼病変を引き起こさないことなどから、このモデルがMSの一般的な実験モデルとして 適当なのか、それとも特別なケースなのか、明らかでない。さらに、ミエリン蛋白だけが 中枢神経系(CNS)の炎症性疾患に関与しているのかも疑問である。そこでEAEを誘導するの に必要 なCNS蛋 白の構 造的およ び機能的特徴を明らかにするために、MBPとは産生部位、
生化学 的特徴の異なる非ミエリン系蛋白であるsioopを用い、その脳炎惹起性について検 討した 。Sl00ロはCNSから最初に分離されたカルシウム結合性蛋白で、91個のアミノ酸か らなる可溶性の酸性蛋白である。91個のうち、ラットとウシとの間では4個、ラットとヒト との間では2個のアミノ酸が異なるのみで、かなり保存的な蛋白である。オリゴデンドロサ イ.ト に産生されるMBPとは異なり、sioopはCNSではアストロサイトにより、末梢神経系 ではSchwann細胞や網膜組織のMuller細胞により産生される。またアストロサイトは活性 型のSl00ロを分泌し、これは髄液中でも検出される。
[方法 ]ウシsioopで免 疫したLewisラッ トのりン パ節細 胞より多数の特異的T細胞ライ ンを樹 立し、モノク口ナール抗体によるFACS解析によりその表面マーカー、T細胞受容体
(TCR)vp遺伝子の使用を調べた。次にいくっかのT細胞ラインの培養上清を用いて、サイ トカイン産生能(【NF・y. IL・2、[L・6およびTNF )を定量的に調べた。主要組織適合抗原
(MHC)拘束性については、抗MHCモノクローナル抗体を用いたブロッキングアッセイによ り検討 した。エピトープ特異性は、ラットsioopのアミノ酸配列に準じて作成された16種 類の合 成ベプタ イドを 用意し、 それに対する各sLoop特異的T細胞ラインの増殖反応の強 さにより評価した。また新生仔Lewisラット脳から得られたアストロサイトをb1Crでラベル し、それを標的細胞にして細胞障害性について調ぺた。最後に正常ラットヘのこれらライ ンT細胞の受動移入による脳炎惹起性について、臨床的、病理免疫組織学的に検討した。
[結果 および考 察]樹 立されたsiou声特異的T細胞ラインはすべてW3/13十(全T細胞、
穎粒球)W3/25十(CD4)、OX8―(CD8)で、MBP特異的T細胞の表面マーカーと全く同じ゛
であっ た。また 使用さ れているTCR定常部も同じ /pであった。しかしVp遺伝子の使凧 を調べ ると、脳 炎惹起 性MBP特 異的T細胞のように、ある特定の遺伝子(Vp8,2)を多用 するような傾向はみられなかった。中にはV p16を多用する(50 ‑10()%)細胞ラインも
一45‑
いくっかみられたが、この 使用程度と脳炎惹起性との間に関連性は認められなかったー サ イト カイ ン産生の面からみると、これらのT細胞はやはりMBP特異的T細胞 と同じく、
INF,y、【L 2を産生する、いわゆるTh,1様の細胞であった。これらのラットT細胞ライ ン の 多 く はラ ットsioopのC末端 エ ピト ープ (ア ミノ 酸残 基76―91)に 対し て、RTIB
(MHCクラスn:【,A分子)拘束性に強い自己免疫反応を示した。しかしこのエピトープに 対する各ライン細胞の反応には差があり、全く反応しないラインもあった。そして興味深 いことにこの反応の強さは脳炎惹起性とほぽ正の相関を示した。
正常な同系ラットヘのsioop特異的T細胞の受動移入により、臨床的には体重減少とわ ずかな神経障害(尾部の緊張低下)が見られるのみであったが、病理学的にはCNSにおいて 広範な強い炎症細胞浸潤が 観察された。これはMBPのモデルに比べると、かなり際立った 特徴であり、炎症部位は脊髄ばかりでなく、全脳さら・には眼組織の一部であるぷどう膜や 網膜にまでが及んでいた。CNSの白質および灰自質全体における広範な病変の分布を見ると、
従来のEAEと区別するために、この新しいモデルはExperimental Autoimmune Panenceph・ alitis(EPA)と呼ぶ方が相応しいと思われた。免疫組織学的にみると、MBP特異的T細胞の 受 動移 入に より誘導される重篤なEAEと比較して、このモデルではCNSへのED1十活性化 マクロファージの遊走が減 少していた。さらにin vitroではMBP特異的T細胞と異なり、
Sl00ロ特異的T細胞はアストロサイトに対して細胞障害性を示さなかった。軽症な神経障 害はこうした病理学的特徴 を反映しているのかも知れない。一方、MBPのモデル同様、T 細胞の受動移入のみでは脱髄所見は観察されなかったが、さらにその後、ミエリンのー成 分であるミエリン/オルゴデンドロサイト糖蛋白(MOG)に対する抗体を静注すると、四肢 麻痺を引き起こし、病理学的には広範な脱髄巣が観察された。このことはMSの病態像が細 胞 性 免 疫 の み で は 説 明 し き れ ず 、 液 性 免 疫 も 関 与 し て い る こ と を示 唆し てい る。
標的となる自己抗原の性質は、それにより誘導される自己免疫疾患の臨床的、病理組織 学的な特徴に多大な影響を与えるが、今回の実験は、非ミエリン系のCNS自己蛋白抗原が自 己 免疫 性T細胞 反応 を引 き 起こ すこ とを始めて 示したものである。MBPもsioopもCNSに 広範に存在する蛋白であろ ことから、このEAPは単に自己抗原の分布の結果として引き起 こされたものではなく、CNSの部位によって特異的自己抗原の処理および提示能カに差があ ることを示している。以上より、非ミエリン系の自己抗原もCNSの炎症性疾患の免疫病理に おいて重要な役割を果たしている可能性が示唆された。
本研究では非ミエリン蛋 白であるsioop蛋白に対する 特異的T細胞ラインを樹立し、そ のラインの細胞特性を検討し、ミエリン蛋白のMBPに特異的T細胞とほぽ同様の性格である ことを明らかにし、またそのT細胞が認識するエピトープも同定し、キの反応はMHC拘束性 である事を見出した。またこのT細胞を正常ラットに移入することで、臨床的には軽い神経 障害を見るのみであるが、病理組織学的には強い細胞浸潤が脳全体ならびに眼組織に及ん で おり 、明 らかにMBP特異T細胞で起こるEAEとは異なることから、このモデ ルを新しく Experimental Autoimmune Panencephalitis(EAP) と 命 名 す る 事 を 提 唱 し た 。 非ミエリン系の自己蛋白で、自己反応性T細胞由来の中枢神経系疾患モデルを作製した本 研究はMSを始めとする一連の中枢神経系自己免疫疾患の研究に新たな手段を提供した意味 で高く評価され、博士(医学)に値すると判定しました。
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