博 士 ( 歯 学 ) 松 沢 正 宏
学 位 論 文 題 名
顎骨欠損に対するポリリン酸の治癒促進効果 学位論文内容の要旨
緒言
腫 瘍や 嚢胞 を外 科的 に 摘出 した 際に 生じる顎骨欠損は修復・再生に時間を要するだけ でなく、
本来 備わ って いた 形態 へ の復 元が 困難 なこ とが 多く 、口 腔の 機能 や審 美性 に重 大 な影 響を 及ば すこ とが 少な くな い。 そ のた め歯 科・ 口腔 外科 領域 にお いて も、 生体 材料 の埋 入 や分 化誘 導因 子 の 応 用 に よ り 、 骨 組 織 を よ り 効 果 的 に 再 生 さ せ る 方 法 が 試 み ら れ て い る 。 ポ リリ ン酸 は多 数の 正 リン 酸残 基か らな る直 鎖状 のポ リマ ーで 、広 い範 囲で の 生物 の組 織や 細胞 に存 庄す るが 、真 核 細胞 での 機能 は不 明な 点が 多い 。こ れま での 研究 にお い て、 ポリ リン 酸 は 線 維 芽 細 胞 に お い てFGF ‑2を 安 定 化 し 、 組 織 再 生に おい て重 要な 役割 を演 じて いる とい う 報 告 や 、MC3T3E‑1細 胞 に お い て 石 灰 化 を 促 進 す る とい う報 告が ある 。ま た、 同様 の細 胞に お い てpol卯hosp11繊eを 活 性 化 す る こ と に よ っ て 、 ポリ リン 酸自 体が 無機 リン 酸の 供給 源と して 石灰 化に 関与 する 可 能性 が示 唆さ れて いる 。こ れら の報 告か ら、 ポリ リン 酸 の生 体応 用に よ り 、 骨 組 織 の 分 化 、 増 殖 、 あ る い は 再 生 が 促 進 す る 可 能 性 が 考 え ら れ る 。 そ こで 本研 究で はラ ッ トの ヒ顎 骨に 大き な骨 欠損 を形 成し 、欠 損内 にポ リリ ン 酸を 用い た実 験モ デル での 治癒 経過 に つい て検 討し た。
材 料 と 方 法
試 薬 の 調 整 法 : 平 均 鎖 長40の ポ リ リ ン 酸 に 蒸 留 水 と ゼ ラ チ ン を 加 え 、 ポ リ リ ン酸 濃度 が100 mMで 、2% あ る い は4% のゼ ラチ ンを 含ん だポ リリ ン 酸ゲ ル( 以下 それ ぞれ を、2%ゼ ラチ ン・
ポ リ リ ン 酸 ゲ ル 、4% ゼ ラチ ン・ ポリ リン 酸ゲ ルと する )を 調整 した 。ま た、 ポ リリ ン酸 を含 ま な い2% あ る い は4% ゼ ラ チ ン を コ ン ト ロ ー ル ゲ ル( 以下 それ ぞれ を2% ゼラ チン ゲル 、4% ゼ ラ チ ン ゲ ル と す る ) と し て 調 整 し た 。
骨 欠 損 モ デ ル の 作 製 : 96匹 の4週 齢Wistar系 雄 ラ ッ ト を 、 ポ リ リ ン 酸 ゲ ル を 用 い る 実 験 群 と 、 コ ン ト ロ ー ル ゲ ル を 用 い る コ ン ト ロ ー ル 群 の2群 に 分 け た 。
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ラットの右側上顎第ー臼歯を抜歯し、その抜歯窩内に残存する根問中隔と上顎骨の一部を直 径2.5 mmの ラウ ンド バー で骨 削し 、お およ そ長 径4mmx短径2.5 mmx深さ2.5 mmの 骨欠損 を形成した。
ポリリン酸ゲルとコントロールゲルは、術直後の填入の際にぼ胃吹損の形態にあわせやすく、
かっその部位に留めやすいことから、4%ゼラチン・ポリリン酸ゲルあるいは4%ゼラチンゲ ルを使用し、翌日から屠殺前日までは骨欠損部へのシリンジによる注入が行いやすいことから、
2%ゼラチン・ポリリン酸ゲルあるいは2%ゼラチンゲルを使用した。これによルポリリン酸 は創部に留まり、確実に効果を及ばしたものと思われた。
病理組織学的検索:両群とも、術後1、3、5、7、10、14日目にそれぞれ3匹ずつ屠殺し、
骨欠損部の組織片を採取した。それらのsampleは骨欠損部の矢状断面で連続切片を作製し、
HE染色を行い、病理組織像を観察した。
再生 組織 での 遺伝 子発 現の 検索:病理組織学的検索と同様の間隔でそれぞれ5匹ずつ屠殺 し、骨欠損部の組織片を採取した。それらのsampleからtotal RNAを抽出し、逆転写酵素を用 いてcDNAを合成した。
希釈したc研乢AをteInpla忙とし、骨関連タンパクであるCOrebinmngfacめr甜phal(Q轟1) と、AI瓜eの遺 伝子 発現 につ いてr甜―dmePCRに より 、そ れぞ れのm恥岨 発現 量を 定量 化 した。
結果
病理組織学的検索結果:術後3日目の実験群では、コントロール群に比べ骨欠損底部の広 範 囲 で 幼 弱 な 肉 芽 組 織 に よ る 置 換 が み ら れ 、 器 質 化 が 進 行 し て い た 。 術後5日目の実験群では、コントロール群に比べ大型で成熟した骨芽細胞が骨欠損底部で密 に増殖し、活発な骨新生像が認められた。
術後7日目の実験群では、コントロール群に比べ器質化が進行し、骨欠損底部から伸展した 新生骨梁はより成熟していた。また、コントロール群の創部表層には、依然として炎症性細胞 が 残 存 し て い た の に 対 し 、 実 験 群 の 創 部 表 層 で は 上 皮 の 伸 展 が 認 め ら れ た 。 術後10日目以降、コントロール群でも骨欠損部の器質化が進行し、骨梁の伸展がみられた が、術後14日目の実験群では、コントロール群に比べその成熟度が高く、修復は促進してい た。
定 量RT‑PCRに よ るmRNA発 現 の 検 索 結 果 :CbfalmRNA発 現 は 術 後3日 目 の 両 群 に お い て発現が亢進し、とくに実験群ではコントロール群に比べ約2倍の発現量を示し、術後5日目 に両群の発現量はピークに到達した。
AIPasemRNA発 現は 実験群で は術後5日 目まで、コ ントロー ル群では 術後7日目 まで発現 量が増加し、とくに術後3、5日目では、実験群の発現量はコントロール群と比べそれぞれ約 1.7倍と1.6倍であり、術後5日目では、有意に多い発現量を示した。術後7日目では、コン ト ロ ー ル 群 の 発 現 量 は 実 験 群 と 比 べ 約2倍 で あ り 、 有 意 に 多 い 発 現 量 を 示 し た 。
考察
Cbfalは間葉系 幹細胞から 骨芽細胞への分化を決定する主要な転写因子であることが知られ ている。これまでにCba1ノックアウトマウス、トランスジェニックマウスの研究によって、
Qぬ1は骨芽細胞の分化過程において早期分化を促進し、後期分化を抑制することが明らかに されており、invi的でCbfa1を強制発現された培養細胞はALP鵠e、osteoponti11、osteocmcm等 の発現を誘導することが知られている。成人では、骨芽細胞系列でのCbfa1の発現は低く保た れて茄り、骨芽細胞分化はゆっくりと生じているが、いったん骨折等の刺激が加わると、Cbfa1 の 発 現 が 強 く 誘 導 さ れ 、 骨 芽 細 胞 が 一 気 に 増 加 す る と 考 え ら れ て い る 。 術後5日目 で認められ た実験群骨欠損底部における密集した大型で成熟した骨芽細胞の出現 と活 発 な骨 新 生 は、 術 後3日目でのCbfalのmRNA高発現 によって 間葉系幹 細胞から 骨芽細 胞への分化が促進された結果と考えられ、顎骨の大きな骨欠損においても、ポリリン酸がCMa1 の発現亢進を介して早期に間葉系幹細胞を骨芽細胞に分化させる機能を発揮したことを示唆す るものと考えられた。
術後5日目 以降も、実 験群ではコントロール群に比べて、活発な骨新生と骨梁の成熟が認め られた。 このような 形態的所見は、実験群における術後5日目でのAI亅P細emRNAの有意な発 現亢進と関連しているものと思われる。AIPaseは細胞膜に存庄する糖タンパクであり、骨型 AI亅P細eの発現は活動的な骨芽細胞において多くみられ、石灰化局所において、有機リン酸エ ステルを分解し、無機リン酸塩濃度を高めることや、ハイドロキシアパタイト結晶の形成を阻 害するピロリン酸を分解することによって、石灰化をうながし、骨形成を促進していると考え られている。また、AI肋seは骨形成過程において石灰化初期の骨芽細胞の分化の指標とされ ており、 実験群でのAIPasemRNAの発現量 が、術後5日目まで の骨再生 の早い段 階でピーク に到達し たことは、inu的での培養細胞系の分化マーカーに関する報告と矛盾せず、このよ うなmRNAの発 現亢進は病 理組織学 的にみら れた骨再 生の促進と関連しているものと考えら れた。
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実験群とコントロール群とにおける創傷治癒と骨再生の違いは術後14日目まで観察され、
ポリ リン 酸が 骨再 生において創傷治癒の時間的短縮に寄与していることが示唆された。
結語
ラットの上顎骨欠損実験モデルを作製し、骨欠損部にポリリン酸を用いることによる創傷治 癒、骨細織再生への効果を検索し以下の結果を得た。
1
.病理組織学的に、ポリリン酸を用いた実験群では顎骨欠損に対して治癒の促進効果がみられた。
2
. 実 験 群 で は 、 術 後 早 期 にCba1
、AukemRNAの 発 現 亢 進 が 認 め られ 、組 織学 的検 索結果と一致していた。
3
.これらの所見は、ポリリン酸は顎骨に生じた大きな欠損に対しても活発な骨新生を誘導し 、 骨 再 生 に と っ て 有 益 な 材 料 と な る 可 能 陸 が あ る こ と を 示 唆 し て い る 。
学位論文審査の要旨
学 位 論 文 題 名
顎骨欠損に対するポリリン酸の治癒促進効果
審査は、 審査員全 員出席の下に、申請者に対して提出論文とそれに関連した学科目につ いて口頭 試問によ り行われ た・
本研究 は、骨欠 損の創傷 治癒なら びに骨組織再生におけるポリリン酸の効果を明らかに する目 的で、ラ ットの上 顎骨に形 成した大きな骨欠損にポリリン酸を填入し、治癒経過を 病理組 織学的に 観察する とともに 、骨関連タンパクの遺伝子発現との関連にっいて検討し たもの である.
平均鎖 長40のポリ リン酸に 蒸留水と ゼラチンを 加え、ポ リリン酸濃度が100 mMで、2% およぴ4%のゼラ チンを含 んだポリ リン酸ゲル を調整し た.また 、コントロールとして、
ポ リリ ン 酸 を含 ま ない2% お よ ぴ4% ゼラ チンゲル を調整し た.4週齢Wistar系雄ラッ ト 96匹 を 、ポリ リン酸ゲ ルを用いる 実験群と 、コント ロールゲ ルを用い るコント ロール群 の2群に 分けた. ラットの 右側上顎 第一臼歯を 抜歯し、 抜歯窩周 囲の骨をラウンドバーで 骨 削し 、 長 径4 mmX短 径2.5mmX深 さ2.5 mmの骨 欠 損 を形 成 した , 術直後は 、骨欠損 内 に4% ポリリ ン酸ゲル ないし4%ゼ ラチンゲ ルを填入 し、翌日 から屠殺 前日まで はシリン ジを用 いて2%ポ リリン酸 ゲルない し2%ゼラチンゲルを填入した.術後1、3、5、7、10、 14日 目 に それ ぞ れ3匹ず つ 屠 殺し 、 骨欠損 部の組織 片を採取 した.そ れらは骨 欠損部の 矢 状断 面で 連続切片 を作製し、HE染色を行 い、病理 組織像を 観察した .同様の 間隔でそ れ ぞれ5匹 ず つ屠 殺 し 、骨 欠 損 部の 組 織片 を 採 取し た .そ れ ら のsampleか らtotal RNA を 抽出 し 、 逆転 写 酵素 を 用 いてcDNAを 合成 し た .希 釈 したcDNAをtemplateとし、骨 関 連 タン パ ク であ るCore binding factor alphal(Cbfal) と 、ALPaseの遺 伝子発現 にっ い てreal−time PCR法 を用 い て 検索 し 、ま た そ れぞ れ のmRNA発 現 量を定量 化して解 析 した.
実 験群 で は、 術 後3日目に 、骨欠損 底部の広 い範囲で 幼弱な肉芽 組織によ る置換が み ら れ、器質 化が進行 していた .術後5日目 には、大型で成熟した骨芽細胞が骨欠損底部で 密 に増殖し 、活発な 骨新生像 が認められ 、術後7日目では、器質化が進行し、骨欠損底部 か ら伸展し た新生骨梁の成熟がみられた.また、創部表層では上皮の伸展が認められた.
則 信
政
靖 正
善
塚 藤
川
戸 進
北
授 授
授
教 教
教
査 査
査
主 副
副
術 後10日目 以降 は、 コン トロ ール 群で も、 骨欠損 部の器質化が進行し、骨梁の伸展がみ られたが、実験群では、その成熟度が高く、修復が促進していた, Cbfal mRNA発現は、
術 後3日目 にお いて両 群で 発現 が亢 進し 、と くに 実験群ではコントロール群の約2倍の発 現 量を 示し た. また 、両群で術後5日目に発現量がピークに到達した. ALPase mRNA発現 は 、実 験群 では 術後
5
日日 まで 、コ ント ロー ル群 では術後7日目まで発現量が増加し、術 後3日目と5日目では、実験群の発現量はコントロール群に比べてそれぞれ約1.7倍と1.6 倍 と高 く、 術後5
日目 では 、有 意に 多い 発現 量を 示した,逆に、術後7日目では、コント ロ ー ル 群 の 発 現 量 が 実 験 群 の 約2
倍 と 、 有 意 に 多 い 発 現 量 を 示 し た .術後5日目に大型で成熟した骨芽細胞が密集して出現し活発な骨新生がみられたことは、
術 後
3
日 目 で のCbfal
のmRNA
高 発現 によ って 間葉 系幹細 胞か ら骨 芽細 胞へ の分 化が 促進 さ れた 結果 と考 えら れ、顎骨の大きな骨欠損においても、ポリリン酸がCbfalの発現亢進 を介して早期に間葉系幹細胞を骨芽細胞に分化させることを示唆するものと考えられた,その後も、実験群ではコントロール群に比べて、活発な骨新生と骨梁の成熟が認められた.
こ のよ うな 形態 的所 見は 、実 験群 にお ける 術後5日目 での 儿PasemRNAの 有意な 発現亢進 と 関連 して いる もの と思 われ る.