博 士 ( 工 学 ) 奥 野 功 一
学 位 論 文 題 名
天 然 岩 石 を 用 い た コ ン ク リ ー ト 系 及 び 樹 脂 系 中 性 子 遮 蔽 材料に関する研究
(Study on neutron shield concrete and resin based on natural minerals)
学位論文内容の要旨
近年、 J‑PARC に代表される中性子利用や、中性子捕捉療法 (BNCT) に代表される医学 利用が盛んにをってきている。しかし、中性子の遮蔽には分厚いコンクリート壁が必要と をるため、施設の建設に広い敷地が必要とをることや、室内空間も手狭とをる。そこで遮 蔽をコンパクトにし、上記のようを利用施設を狭い敷地にも建設可能とするためには、よ り高性能な遮蔽材料が必要である。そのため、新たを遮蔽材料として、2 つの材料の研究 を行った。 1 っは主に線源周りを局所的に遮蔽する事により、壁厚を薄くする事を目的と した樹脂系中性子遮蔽材料、もうーっは、建屋の壁に構造体として使用できる中性子遮蔽 コ ン ク リ ー ト で あ る 。 両 者 と も 実 用 化 を 主 眼 に 置 い て 研 究 を 行 っ た 。 中性子の遮蔽に効果的を元素のうち、入手が容易で低コストを元素は中性子のエネル ギー昇順にホウ素、水素、鉄である。ただし、鉄については重量が重く、製造・施工コス トが上昇するため遮蔽材料に混合しをい方針で研究を進めた。
局所的な遮蔽においては、高性能であるほど建屋の壁厚が薄くできる。そのため、水素 原子数が多く耐放射線性の高いエポキシ樹脂と、コストの観点から過去に実施例の無いホ ウ素含有岩石であるコレマナイト岩石を使用した。工場生産を鑑み、コレマナイトの含有 量の最適化検討を行った結果、コレマナイト粉体をエポキシ樹脂に対して200wto/o とした 場合に品質上問題無く製造できる事が判った。252Cf 中性子源(平均エネルギー2.3MeV) に対する遮蔽性能実験を行った結果、中性子遮蔽樹脂材の1/10 価層は11.5cm である事が 判り、コンクリートの約3 倍である事が判った。また、当該材料から出る2 次 y 線に起因 する線量は、最大でポリエチレンの1/46.5 、ホウ素10wto/o 入ルポリエチレンの1/3.8 で あり、さらにy 線遮蔽性能は、 60Co の 1.333MeV に対してポリエチレンの約 2 倍である 事が判った。熱中性子による放射性核種生成については、Co 、Cs 、Eu 以外には、放射性 廃棄物のクリアランスに対し問題とをる核種が無い事を放射化実験により確認した。短半 減期核種の生成については、低放射化と言われる石灰岩コンクリートの約1/3 である事が 判った。また、力学的強度や熱的特性では、全ての点においてポリエチレンより性能が富 むことが判った。本研究により、型枠さえあれば、流し込みで常温成形することが出来 る新しいタイプの中性子遮蔽樹脂材を見出せた。本中性子遮蔽材は、既に商品化されてお りJ‑PARC 等で使用実績もある。
次に建屋の壁に構造体として使用できる中性子遮蔽コンクリートの研究を行った。遮蔽 性能の高いコンクリートに関する研究は1950 年代〜1960 年代に多く行われているが、当 時は原子炉向けの小型ブロックの研究に主眼が置かれ、建屋の構造体として使用できる遮 蔽用コンクリートの研究は行われていをかった。本研究では中性子遮蔽性能を高めるた め、コンクリートの粗骨材に水素含有量の多いかんらん岩を、細骨材にかんらん岩とコレ
‑ 1231 ‑
マ ナ イ ト 岩 石 を 用 い た コ ン ク リ ー ト の 研 究 を 行 っ た 。 そ の 結 果 、 コ レ マ ナ イ ト岩 石の 含 有 量 を コ ン ク リ ー ト に 対 し10wt%に 制 限 す る こ と に よ り 、 構 造 体 に も 適 用 で き る 中 性 子 遮 蔽 コ ン ク リ ー ト が 製 造 可 能 で あ る こ と を 見 い だ し た 。 本 コ ン ク リ ー ト に 対 し 、252Cf中 性 子 源 ( 平 均 工 ネ ル ギ ー2.3MeV)を 用 い た 遮 蔽 性 能 実 験 の 結 果 、 普 通 コ ン ク リ ー ト と 比 べ て 約1.7倍 ( 線 量 滅 衰 率1/100で の 値 ) の 遮 蔽 性 能 を 持 つ こ と を 実 験 で 確 認 し た 。さ らに 、 熱 中 性 子 か らDT中 性 子 (14MeV)ま で の 単 色 中 性 子 に 対 す る 中 性 子 遮 蔽 性 能 、2次y線 生 成 量 を シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 解 析 で 求 め た 結 果 、 滅 弱 距 離 はDD中 性 子(2.45MeV)以 上 で は 普 通 コ ン ク リ ー ト と ほ ば 同 様 の 値 で あ る が 、lOOkeV以 下 の 低 エ ネ ル ギ ー 領 域 で は 普 通 コ ン リ ー ト の1/3で あ る 事 が 解 っ た 。2次y線 生 成 量 に つ い て は 、lMeV以 下 で は10cm厚 さ ま で 普 通 コ ン ク リ ー ト よ り 生 成 量 が 多 い が 、 そ れ 以 降 の 厚 さ で は 生 成 量 は 少を くを る 事 が 解 っ た 。 中 性 子 遮 蔽 コ ン ク リ ー ト を 使 用 し た 中 性 子 捕 捉 療 法 施 設 に 対 す る モデ ル解 析 の 結 果 、 普 通 コ ン ク リ ー ト で は140cmの 遮 蔽 壁 が 必 要 で あ る 所 を 、 中 性 子 遮 蔽 コ ン ク リ ー ト を 用 い れ ば90cm厚 で 済 む こ と が 判 っ た 。
さ ら に 、 放 射 化 分 析 に よ る 微 量 元 素 分 析 を 実 施 し 、 そ の 分 析 結 果 を 用 い て 中性 子捕 捉 療 法 施 設 に 対 す る 放 射 化 量 評 価 を 行 っ た 結 果 、 壁 表 面 〜10cm深 さ に お け る 中 性 子 遮 蔽 コ ン ク リ ー ト の 短 半 減 期 核 種 生 成 量 は 、 従 来 か ら 低 放 射 化 と い わ れ る 石 灰 岩 コ ン クリ ート の 約 1/100に 、60Co生 成 量 は 石 灰 岩 コ ン ク リ ー ト の1/5〜1/8と を る 事 が 判 っ た 。 本 研 究 で 開 発 し た 樹 脂 系 中 性 子 遮 蔽 材 料 と 中 性 子 遮 蔽 コ ン ク リ ー ト をJ‑PARCの 物 質 ・ 生 命 科 学 実 験 施 設MLFに あ るBL‑15大 強 度 型 中 性 子 小 角 散 乱 装 置 ( 大 観 ) の 分 光 器 遮 蔽 体 に 適 用 し た 結 果 、 従 来 遮 蔽 材 と し て 内 壁 全 面 に 用 い ら れ て い た ホ ウ 酸 レ ジ ンを 無く し 、 か つ 最 大30%の 遮 蔽 厚 の 低 減 が 実 現 で き た 。 こ の 合 理 化 に よ り 、30%以 上 の 建 設 コ ス ト の 低 滅 が 実 現 で き た 。 ま た 、BL‑09特 殊 環 境 中 性 子 回 折 装 置(SPICA)に も 適 用 し た 結 果 、52mの ビ ー ム ラ イ ン 遮 蔽 体 に 中 性 子 遮 蔽 コ ン ク リ ー ト を 全 面 適 用 す る 事 に よ り 、 従 来 ビ ー ム ラ イ ン 全 域 に 渡 っ て 必 要 で あ っ た20cm厚 の 鉄 を ゼ ロ と す る 事 が 可 能 と を っ た 。 こ れ に よ り 、 建 設 コ ス ト の 大 幅 を コ ス ト ダ ウ ン が 実 現 で き た 。
本 研 究 の 成 果 物 で あ る 本 中 性 子 遮 蔽 コ ン ク リ ー ト と 樹 脂 系 中 性 子 遮 蔽 材 は 、上 に述 べ た BL‑15大 強 度 型 中 性 子 小 角 散 乱 装 置 ( 大 観 ) 、BL―09特 殊 環 境 中 性 子 回 折 装 置(SPICA)以 外 に も 、BL―21高 強 度 全 散 乱 装 置(NOVA)の 分 光 器 遮 蔽 体 、 さ ら に は 理 化 学 研 究 所 小 型 加 速 器 中 性 子 源 の 遮 蔽 壁 に も 採 用 さ れ 、 放 射 線 障 害 防 止 法 に 伴 う 国 の 放 射 線 施設 検査 に 合 格 し て い る 。
中 性 子 遮 蔽 コ ン ク リ ー ト と 樹 脂 系 中 性 子 遮 蔽 材 を 中 性 子 の 遮 蔽 に 適 用 す る こ と に よ っ て 、 従 来 の 遮 蔽 構 造 に 比 べ て 余 分 を コ ス ト を 掛 け る こ と を く 、 遮 蔽 の ス リ ム 化が 実現 可 能 と を る た め 、J−PARCな ど 複 数 の 分 光 器 が 並 ん で 狭 隘 を 場 所 や 、 建 設 ス ベ ー ス の ゆ と り が 欲 し い 小 型 加 速 器 中 性 子 源 施 設 等 に 有 効 を も の と 言 え る 。
ー1232 ‑
学位論文審査の要旨 主査 特任教授 鬼柳善明 副 査 教 授 古 坂 道 弘 副査 准教授 木野幸一
学 位 論 文 題 名
天 然 岩 石 を 用 い た コ ン ク リ ー ト 系 及 び 樹 脂 系 中 性 子 遮 蔽 材料に関する研究
(Study on neutron shield concrete and resin based on natural minerals)
近年、大強度陽子加速器施設J‑PARC に代表される大型加速器中性子源における物質研 究での中性子利用や、中性子捕捉療法(BNCT) に代表される医学利用が盛んにをってきて いる。しかし、中性子の遮蔽には分厚いコンクリート壁が必要とをるため、施設の建設に 広い敷地が必要とをるうえに室内空間も手狭とをる。そこで遮蔽をコンパクトにし、利用 施設を狭い敷地に建設する、あるいは遮蔽室内面積を広くするためには、より高性能を遮 蔽材料が必要である。本論文は、そのための新たを実用的遮蔽材料として、2 つの材料の 研究を行ったものである。一っは主に線源周りを局所的に遮蔽する事により、壁厚を薄く する事を目的とした樹脂系中性子遮蔽材料、もうーつは、建屋の壁に構造体として使用で きる中性子遮蔽コンクリートである。
中性子の遮蔽に効果的を元素のうち、入手が容易で低コストを元素は中性子のエネル ギーが低い方から順に、ホウ素、水素、鉄である。ただし、鉄については重量が重く、製 造・施工コストが上昇するため遮蔽材料に混合しをい方針で研究を進めた。局所的を遮蔽 においては、高性能であるほど建屋の壁厚を薄くできる。そのため、水素原子数が多く耐 放射線性の高いェポキシ樹脂と、コストの観点から過去に実施例の無いホウ素含有岩石で あるコレマナイト岩石を使用した。工場生産を考慮して、コレマナイトの含有量の最適化 検討を行った結果、コレマナイト粉体をエポキシ樹脂に対して200wto/o とした場合に品質 上間題無く製造できる事が分かった。Cf‑252 中性子源(平均エネルギー2.3MeV) に対す る遮蔽性能実験を行った結果、中性子遮蔽樹脂材の1/10 価層は11.5cm である事が判り、
コンクリートの約 3 倍良いことが分かった。また、当該材料から出る2 次y 線に起因す る線量は、最大でポリエチレンの 1/46.5 、ホウ素10wt% 入ルポリェチレンの1/3.8 であ り、さらに y 線遮蔽性能は、 Co‑60 の 1.333MeV に対してポリエチレンの約2 倍である事 が分かった。熱中性子による放射性核種生成については、Co 、Cs 、Eu 以外には、放射性 廃棄物のクリアランスに対し問題となる核種が無い事を放射化実験により確認した。短半 減期核種の生成については、低放射化と言われる石灰岩コンクリートの約1/3 である事が 分かった。また、力学的強度や熱的特性では、全ての点においてポリェチレンより性能が 良いことが分かった。本研究により、型枠さえあれば、流し込みで常温成形することが出 来る新しいタイプの中性子遮蔽樹脂材を見出せた。本中性子遮蔽材は既に商品化されてお り、J‑PARC 等で使用実績もある。
次に建屋の壁に構造体として使用できる中性子遮蔽コンクリートの研究を行った。遮蔽
一1233―性 能 の 高 い コ ン ク リ ー ト に 関 す る 研 究 は1950年 代 〜1960年 代 に 多 く 行 わ れ て い る が 、 当 時 は 原 子 炉 向 け の 小 型 プ ロ ッ ク の 研 究 に 主 眼 が 置 か れ 、 建 屋 の構 造体 と して 使用 で きる 遮 蔽 用 コ ン ク リ ー ト の 研 究 は 行 わ れ て い を か っ た 。 本 研 究 で は 中 性 子 遮 蔽 性 能 を 高 め る た め 、 コ ン ク リ ー ト の 粗 骨 材 に 水 素 含 有 量 の 多 い か ん ら ん 岩 を 、細 骨材 に かん らん 岩 とコ レ マ ナ イ ト 岩 石 を 用 い た コ ン ク リ ー ト の 研 究 を 行 っ た 。 そ の 結 果、 コレ マ ナイ ト岩 石 の含 有 量 を コ ン ク リ ー ト に 対 し10wt%に 制 限 す る こ と に よ り 、 構 造 体 に も 適 用 で き る 中 性 子 遮 蔽 コ ン ク リ ー ト が 製 造 可 能 で あ る こ と を 見 い だ し た 。 本 コ ン ク リ ー ト に 対 し 、Cf‑252中 性 子 源 ( 平 均 エ ネ ル ギ ー2.3MeV)を 用 い た 遮 蔽 性 能 実 験 の 結 果 、 普 通 コ ン ク リ ー ト と比 べ て 約1.7倍 ( 線 量 減 衰 率1/100で の 値 ) の 遮 蔽 性 能 を 持 つ こ と を実 験で 確 認し た。 さ らに 、 熱 中 性 子 か らDT中 性 子(14MeV)ま で の 単 色 中 性 子 に 対 す る 中 性 子 遮 蔽 性 能 、2次y線 生 成 量 を シ ミ ュ レ ー シ ョ ン 解 析 で 求 め た 結 果 、 減 弱 距 離 はDD中 性 子(2.45MeV)以 上 で は 普 通 コ ン ク リ ー ト と ほ ば 同 様 の 値 で あ る が 、lOOkeV以 下 の 低 エ ネ ル ギ ー 領 域 で は 普 通 コ ン リ ー ト の1/3で あ る 事 が 分 か っ た 。2次y線 生 成 量 に つ い て は 、lMeV以 下 で は 厚 さ 10cmま で は 普 通 コ ン ク リ ー ト よ り 生 成 量 が 多 い が 、 そ れ 以 降 の 厚 さ で は 生 成 量 は 少 を く を る 事 が 分 か っ た 。 中 性 子 遮 蔽 コ ン ク リ ー ト を 使 用 し た 中 性 子捕 捉療 法 施設 に対 す るモ デ ル 解 析 の 結 果 、 普 通 コ ン ク リ ー ト で は140cmの 遮 蔽 壁 が 必 要 で あ る 所 を 、 中 性 子 遮 蔽 コ ン ク リ ー ト を 用 い れ ば 厚 さ90cmで 済 む こ と が 分 か っ た 。 さ ら に 、 放 射 化 分 析 に よ る 微 量 元 素 分 析 を 実 施 し 、 そ の 分 析 結 果 を 用 い て 中 性 子 捕 捉 療 法 施 設 に 対 す る 放 射 化 量 評 価 を 行 っ た 結 果 、 壁 表 面 〜10cm深 さ に お け る 中 性 子 遮 蔽 コ ン ク リ ー ト の 短 半 減 期 核 種 生 成 量 は 、 従 来 か ら 低 放 射 化 と い わ れ る 石 灰 岩 コ ン ク リ ー ト の 約1/100に 、Co‑60生 成 量 は 石 灰 岩 コ ン ク リ ー ト の1/5〜1/8と を る 事 が 分 か っ た 。
本 研 究 で 開 発 し た 樹 脂 系 中 性 子 遮 蔽 材 料 と 中 性 子 遮 蔽 コ ン ク リ ー ト をJ‑PARCの 物 質 ・ 生 命 科 学 実 験 施 設MLFに あ る 中 性 子 小 角 散 乱 装 置 ( 大 観 ) の 分 光 器 遮 蔽 体 に 適 用 し た 結 果 、 従 来 遮 蔽 材 と し て 内 壁 全 面 に 用 い ら れ て い た ホ ウ 酸 レ ジ ン を 無 く し 、 か つ 最 大30%の 遮 蔽 厚 の 低 減 が 実 現 で き た 。 こ の 合 理 化 に よ り 、30010以 上 の 建 設 コ ス ト の 低 減 が 実現 で き た 。 本 遮 蔽 はJーPARCの ほ か の2台 の 装 置 、 さ ら に は 理 化 学 研 究 所 小 型 加 速 器 中 性 子 源 の 遮 蔽 壁 に も 採 用 さ れ 、 放 射 線 障 害 防 止 法 に 伴 う 国 の 放 射 線 施設 検査 に も合 格し て いる 。 以 上 述 べ た よ う に 、 本 論 文 は 中 性 子 遮 蔽 材 と し て 、 局 所 用 の樹 脂系 中 性子 遮蔽 材 と構 造 体 用 の 中 性 子 遮 蔽 コ ン ク リ ー ト を 開 発 し た も の で あ り 、 従 来 の遮 蔽構 造 材に 比べ て 余分 を コ ス ト を 掛 け る こ と を く 、 遮 蔽 の ス リ ム 化 が 実 現 で き る 新 し い遮 蔽材 を 実用 化し て おり 、 放 射 線 遮 蔽 工 学 に 対 す る 貢 献 大 な る も の が あ る 。 よ っ て 著 者 は北 海道 大 学博 士( 工 学) の 学 位 を 授 与 さ れ る 資 格 あ る も の と 認 め る 。
―1234 ‑