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水 系に おけ る高 度不飽和脂肪酸の酸化機構に関 する研究

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Academic year: 2021

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     博 士(水産 科学)小林秀誉 学位論 文題名

水系における高度不飽和脂肪酸の酸化機構に関する研究 学位論文内容の要旨

  高度 不飽 和脂 肪酸(PUFA)にはn―3系 とn―6系 が存 在し、 ドコサヘキ サ エ ン 酸(DHA)や イ コ サ ペ ンタ エ ン 酸(EPA)等 のn―3系は 抗ア レルギ

−、血液凝固防止、記憶カや視カの増進機能を持ち、アラキドン酸(AA)、 口 一リ ノレ ン酸(LN)、 リノ ール 酸(LA)など のn−6系 はエイ コサノイド に 代謝 され て免 疫反応 など に寄 与する 。い ずれ も生 体内で は生合成で き ず、 相互 変換 も出来 ない こと から、 両方 の脂 肪酸 を食品 から適度に 摂 取す るこ とが 必要で ある 。そ の一方 、高 度不 飽和 脂肪酸 は容易に酸 化 され る。 生成 した過 酸化 脂質 は食品 の品 質を 劣化 させ、 また生体内 で は細 胞を 傷害 し、老 化や 疾病 の原因 とな る。 その ため、 脂質過酸化 反 応の 機構 を研 究する こと は重 要であ る。 いく っか 知られ ている酸化 機 構の うち 最も 重要な 自動 酸化 はラジ カル 反応 であ り、ビ スアリル位 の 水素 がラ ジカ ル的に 引き 抜か れるこ とか ら始 まる 連鎖反 応である。

よって、分子内にピスアリル位を多く持つ化合物ほど酸化されやすい、

例 え ばDHAやEPAはLAよ り も酸 化 に 対 し 不 安 定 で あ る こと が予 想され る 。こ の予 想は バルク 系及 び有 機溶媒 溶液 中に おい ては正 しい。しか し 、エ マル ジョ ンやミ セル 、ま たホス ファ チジ ルコ リン(PC)と結合し て り ポ ソ ― ム を 形 成 し た 場合 に はDHAやEPAがLAよ り 安定 とな り、酸 化 安 定 性 が バ ル ク 系 や 有 機溶 媒 溶 液 系 と 逆 転 す る こ とが 知ら れてい る 。っ まり 、周 囲の環 境に よっ て脂質 鎖の 物理 的な 状態が 変わると、

そ の脂 質鎖 の酸 化に対 する 挙動 が変わ る。 しか しな がら、 その原因は 分 かっ てい ない 。細胞 や食 品に おける 一般 的な 脂質 の存在 状態である エ マル ジョ ンは 複雑な 系で ある ため、 本研 究で はま ず細胞 のモデルと し て り ポ ソ ー ム 、 エ マル ジョ ンの モデル とし てミ セル を用い 、DHAな ど が酸 化に 対し て安定 化す る機 構につ いて 、そ の反 応生成 物や物理的 な 状態 に着 目し て検討 した 。さ らに、 実際 の細 胞に ついて も酸化実験 を行い、モデルであるりポソームと比較検討した。

  PUFAの ラ ジ カ ル 酸 化 で は 、LAで2種 、LNで4種 、AAで6種 、EPA で8種 、DHAで10種 の モ ノ ヒ ドロ ペ ル オ キ シ ド(MHP)が 生 成す る こ と が 知ら れて いる が、そ の異 性体 比を定 量的 かつ 正確 に分析 する方法は

(2)

知 ら れ て い な い 。 本 研 究 で は 、 水 素 添 加、 エ ステ ル交 換 、ト リ メチルシリル化してからガスクロマトグラフイーマススペクトロメト リ−(GC−MS)を用いる異性体比分析法をまず確立した。ここで、リポソ

―ムにおける酸化現象を知るため、グリセロールの1位にパルミチン 酸、2位にPUFA (LA,AA,DHA)、3位にホスファチジルコリン(PC)を持つ 物質(PC−PUFA)を2―メチルー2−プロパノール(tBuOH)溶液及び―枚膜リ ポソームに調製、それぞれを酸化させ、上記の方法により分析した。

LAで は2種の異性体 がいずれの条 件でも等量生成した。AA,DHAでは tBuOH溶液では生成し得るすべての異性体がほぼ等量ずつ生成するの に対し、リポソ―ムでは異性体組成に偏りが見られ、AAでは11位、8 位、5位 に、DHAでは20位 、16位 、10位、8位 、4位にヒドロペ ルオ キシド基が付加した化合物が多く生成した。なお、いずれの場合もMHP 以外の酸化物は少量しか生成しなかった。今までのりポソームに関す る研究結果 により、DHA鎖やAA鎖 からなるPCによる りポソ―ムは フ レキシブルかつ透水性が高いことが知られていることを考えあわせ、

これらのりポソームでは脂質鎖の反応部位近傍に水分子が多く存在す ることで反応部位間の距離が遠くなり、その結果として連鎖反応の速 度が 遅く な り、 ま た異 性 体組 成 が偏ると いうことが考 えられる。

  次に、PUFAエチルエステルをク口口ホルム中に溶かし、またエマル ジョンにしてそれぞれをラジカル酸化させ、先に確立した方法を用い てMHPの異性体組成を分析した。LA,LNではク口口ホルム溶液とエマ ルジョンとで 異性体組成に違 いは見られなかったが、AA、EPA、DHA では違いがあった。ク口口ホルム溶液の場合、生成し得るMHPのうち ヒドロペルオキシド基が最もメチル基に近い位置及び最もカルボキシ ル基に近い位置に結合した化合物が多く見られたが、それはこの2者 以外では1,3―環化反応が起こることによりMHPが生成しにくいためと 考えられる。エマルジョンでもその傾向は見られたが、AAでは11位、

EPAで は14位、DHAでは16位 と10位 にヒドロペ ルオキシド基が 結合 した酸化物も多く見られた。酸化生成物に違いが生じる原因を検討す るため、エマルジョンのモデルとしてミセルを調製し、1H‑NMRの緩和 時間を用い て検討した。 その結果、DHAやAAのミ セルはLAミセル と 比較し、メチル基近傍がよルフレキシブルであることを示唆する結果 が得られた。っまり、ミセルにおいてもDHAやAAではミセルにおい疎 水性の高い部位がよルル―ズに集合していると考えられ、透水性も高 いことが予想された。以上のことより、ミセルにおいてもりポソ―ム の場合と同じく、脂質鎖の反応部位近傍に水分子が多く存在すること で反応部位問の距離が遠くなり、連鎖反応の速度が遅くなると共に酸 化部位に選択性が現れると考えられた。

(3)

  続いて、培養細胞とりポソ―ムにおける脂質酸化を比較した。まず PUFAを添加した培地で細胞を培養すると、細胞中の脂肪酸組成におい て添加 したPUFAが増加する ことが確認さ れた。LA,AA及びDHAを添 加した培地で細胞を培養し、酸化ス卜レスをかけた後にMHP存在比を 測定したところ、いずれでもLA由来のMHPが最も多く検出されたこと から、 細胞において はLAがDHAやAAよりも酸化 されやすい可能性が ある。AA由来MHPはAA添加培地で 培養した細胞 から比較的多く見ら れ、DHA由来MHPはDHA添加培地で培養した細胞からしか検出されず、

いずれもりポソームを酸化した場合とは異なる異性体組成を示した。

AA由来MHPについて、ぱ―トコフェロール添加リポソームでほとんど 生成しない5−MHPが多く生成し、細胞に取り込まれたPUFAの酸化がり ポソームに抗酸化物質を添加したものとも異なることが明らかとなっ た。ただし、この結果は酸化生成物を測定しているため、酸化反応部 位に偏りがあるのか、或いは一部のMHPが比較的早く分解、代謝され るのかについては今後の検討を要する。

  以上より、GC―MSやNMRを用いた本研究の検討により、食品中や生 体内といった複雑系におけるAAやDHAのような機能性脂肪酸の酸化挙 動が始めて明らかにされた。こうした結果は今後のこの分野の研究に 大きく寄与するものと考えられる。

(4)

学 位論文審査の要旨 主査

副査 副査 副査

教 授  宮 教 授  板 教 授  高 助教授  細

下 和 夫 橋   豊 橋 是太 郎 川 雅 史

学 位 論 文 題 名

水 系に おけ る高 度不飽和脂肪酸の酸化機構に関 する研究

  ドコサヘキサエン酸(DHA)、アラキドン酸(AA)、リノール酸(LA)などの高 度不飽和脂肪酸(PUFA)は様々な生体機能を有する。しかし、一方でこれら のPUFAは分子内に多数の二重結合を有するために、非常に酸化されやす い。生成した過酸化脂質は食品の品質を劣化させ、また生体内では細胞に傷 害を与え、老化や疾病の原因となる。そのため、これらのPUFAの過酸化反 応の機構を研究することはその利用を図る上で重要である。一般に、各 PUFAの酸化安定性は不飽和度の高いものほど低下するが、エマルジョン 中、ミセル中、リポソーム中といった水系では上述とはまったく逆に、不飽 和度の高いものほど安定となることが知られている。しかし、水系における 酸化反応生成物の特徴や酸化機構の詳細にっいては不明を点が多い。水系で の各PUFAの酸化反応を知ることは、食品や生体といった脂質が水と共存し て複雑に存在している場合の脂質酸化を理解する上で有益な知見を与えるも のである。そこで、本研究では水系での各PUFAの酸化生成物の構造、異性 体粗組成の特徴や、酸化反応の特徴を明らかにすることを目的として検討を 行った。

1.各PUFAの過酸化で生ずる初期酸化生成物としてのモノヒドロペルオキ シド(MHP)の異性体組成比を、GC‑MSを用いて定量的かつ正確に分析する方 法を開発した。

2.食 品に おける 一般 的な 脂質の 存在 状態 であ るエマ ルジ ョン中での各 PUFAの酸化の特徴にっいて明らかにするため、ミセル(エマルジョンのモ デル)中での各PUFAの反応生成物や物理的な状態にっいてクロロホルム中 と比較した。その結果、LA、LNではクロロホルム中とミセル中とでMHPの 異性体組成に違いは見られなかったが、AA、EPA、DHAでは顕著な相違が 観察された。

3.ミセル中とクロロホルム中で酸化生成物に違いが生じる原因を検討する

(5)

ため、1H‑NMRの緩和時間を用いてミセル中での各PUFAの物理的状態につ いて検討した。その結果、DHAやAAのミセルはLAミセルと比較し、メチル 基近傍がよルフレキシブルであることを示唆する結果が得られた。っまり、

AAやDHAからなるミセルにおいては、脂質鎖の反応部位近傍に水分子が多 く存在することで反応部位間の距離が遠くなり、連鎖反応の速度が遅くなる と共、に酸化部位に選択性が現れることが示された。

3.生体膜モデルであるりポソームにおける酸化の詳細を知るため、グリセ ロールの1位にパルミチン酸、2位にPUFA(LA,AA,DHA)、3位にホスファチジ ルコリン(PC)を持つ物質(PC‑PUFA)を有機溶媒中及び一枚膜リポソーム中に 分散させ酸化反応を行った。LAでは2種の異性体がいずれの条件(有機溶媒 中とりポソーム中)でも等量生成した。AA、DHAではtBuOH溶液中では生 成し得るすべての異性体がほぼ等量ずつ生成したのに対し、リポソーム中で は異性体組成に偏りが見られ、AAでは11位、8位、5位に、DHAでは20位、

16位、10位、8位、4位にヒドロベルオキシド基が付加した化合物が多く生成 した。

4.培養細胞においてもLAがDHAやAAよりも酸化されやすい可能性が示唆 された。また、培養細胞中では、AAとDHAの酸化で生成するMHP異性体に 偏りが見られ、その傾向はりポソームの場合と一致した。ただし、その偏り はりポソームの場合よりも顕著であり、細胞中ではDHAやAAは非常に特徴 的かつ特異的な酸化反応を受けること、そのため、その分子構造から予想さ れるよりも酸化安定性が高くなること、また、その原因はこれらPUFAの立 体構造や物理的化学的な特徴に起因することなどが初めて明らかにされた。

  以上より、GC‑MSやNNn<を用いた本研究の検討により、食品中や生体内 といった複雑系におけるAAやDHAのような機能性脂肪酸の酸化挙動が始め て明らかにされた。DHAは水産物に特徴的に多く含まれるPUFAであり、そ の高い生理作用のゆえに、現在、機能性食品、薬品などの様々な分野にその 応用が図られている。しかし、一方で、DHAはその酸化安定性が化学構造的 に低いことが予想されるため、食品・薬品への利用についての問題点や、摂 取後の生体内脂質過酸化の亢進などの問題が指摘されていた。本研究で得ら れた成果はこうした点にっいて明確な解答を与えるものであり、DHAなど の高度不飽和脂質を積極的に活用する上で有益詮知見を与えるものと高く評 価される。よって審査員一同は本研究の申請者が博士(水産科学)の学位を 授与される資格のあるものと判定した。

参照

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