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「地域コミュニティによる見守り活動が孤独死に与える影響について」

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地域コミュニティによる見守り活動が孤独死に与える影響について

<要旨> 単身高齢者世帯などの増加、プライバシー意識の高まりなどによる地域の支え合い機能 の低下に伴い、近年、高齢者が誰にも看取られずに自宅で死亡したり、死亡後何日も周囲 から気付かれずに放置されたりするという、いわゆる孤独死が社会問題化している。そこ で、地域コミュニティによる互助機能の再構築として、定期的な安否確認や声かけが必要 な人に対して、町会・自治会、老人クラブ、NPO、住民ボランティア等などが訪問する など、担当を決めて定期的に行う見守り活動が各地で実施されている。 本稿では、このような地域コミュニティによる見守り活動が孤独死の発生件数及びやむ を得ず孤独死が発生した場合の遺体の発見時間に与える影響を分析した。パネルデータを 用いて変量効果分析を行った結果、地域コミュニティによる見守り活動は、孤独死の発生 件数及び遺体の死後経過時間を減少させる一定の効果があることが示唆された。 これらの結果から、地域コミュニティという貴重な人的リソースをより有効に活用する ために、近年普及しているスマートメーターを用いたライフラインの計測機能と、地域コ ミュニティによる見守り活動とを組み合わせた見守り体制の構築について提言を行った。 2017 年(平成 29 年)2月 政策研究大学院大学 まちづくりプログラム MJU16716 村里 亮

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目次

1 はじめに ... 3 2 孤独死の背景と実態 ... 4 2.1 孤独死の歴史 ... 4 2.2 孤独死の背景と実態 ... 4 2.3 孤独死による社会的損失 ... 5 2.4 孤独死対策 ... 6 2.5 見守り活動の効果 ... 9 3 地域コミュニティによる見守り活動が孤独死に与える影響についての実証分析 ... 10 3.1 分析の説明 ... 10 3.2 使用するデータ... 11 3.3.1 推計式(孤独死割合に及ぼす影響について) ... 13 3.3.2 推計結果 ... 14 3.4.1 推計式(死後4日以上の割合に及ぼす影響について) ... 15 3.4.2 推計結果 ... 15 3.5 考察 ... 16 4 その他の主な孤独死対策の効果の分析 ... 17 4.1 分析の説明 ... 18 4.2 使用するデータ... 18 4.3.1 推計式(孤独死割合に及ぼす影響について) ... 22 4.3.2 推計結果 ... 23 4.4.1 推計式(死後4日以上の割合に及ぼす影響について) ... 23 4.4.2 推計結果 ... 24 4.5 考察 ... 25 5 まとめと政策提言 ... 25 6 今後の課題 ... 30 補論 ... 30 謝辞 ... 31 参考文献 ... 31 附録「地域コミュニティによる高齢者等の見守りに関する質問調査」 ... 33

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1 はじめに

高齢化が急速に進展する中、近年、高齢者が誰にも看取られずに自宅で死亡したり、死亡 後何日も周囲から気付かれずに放置されたりするという、いわゆる孤独死が主に都市部を 中心に社会問題化している。病院や、家庭等で家族に看取られながら死亡する場合と異なり、 孤独死が発生した場合は、警察、消防の出動、医師による死亡の診断、検死、戸籍等役所の 手続きや親族等の捜索、遺体の処理、遺品の整理等経済的かつ人的な負担が発生する1。ま た、隣近所、管理人等にも負担が生じ、特に遺体の腐乱、異臭等は死後発見までの期間が長 期化するほどより深刻になり、公衆衛生上も問題がある。さらに、マンション等の孤独死が 発生した住まいの資産価値が低下するだけではなく、その周囲の住宅の資産価値にも悪影 響を及ぼす2。よって、孤独死へのリスク回避から高齢者への入居を断る「貸し渋り」が増 加する恐れもある3 かつては、「向こう三幹両隣」といった濃密な近隣関係の中で、気遣い合いや気付き合い が行われてきた。しかし、急速な高齢化の中、地域におけるつながりの減少や家族関係の希 薄化が進み、地域の支えあい機能が低下しつつあると言われている。国においても、孤独死 を未然に回避するためには、孤立した生活をしている人に、その地域で何らかの社会関係や 人間関係が築かれ、孤独に陥らないようにしなければならず、そのためには地域の低下した コミュニティ意識を掘り起こし、活性化することが最重要であるとしている4 このような地域で支えあう「互助」の再構築の取り組みとして、現在、定期的な安否確認 や声掛けが必要な人に対して、住民ボランティア、自治会、老人クラブなどが、定期的にそ の自宅を訪問し、安否確認等を行う見守り活動が行われている。 本研究ではその見守り活動に着目する。見守り活動により、孤独死の発生の減少に寄与し ているのか、また、やむを得ず孤独死が発生した場合でも、死亡した後の遺体の早期発見に つながっているのかを実証的に分析する。なお、これまでの高齢者の見守りに関する研究は、 例えば、市田ほか(2012)、斉藤(2009)、前原ほか(2011)、桝田ほか(2009)、舛田ほか(2011) などいくつか存在するが、筆者の把握する限り、見守り活動の効果を実証的に分析した研究 はない。 本研究の構成は次のとおりである。まず、第2章においては、孤独死の背景と実態を明ら かにしたうえで、現在、孤独死対策として行われている地域コミュニティによる見守り活動 について述べる。第3章においては、地域コミュニティによる見守り活動が孤独死に与える 影響を実証分析により明らかにする。第4章においては、見守り活動以外に、各自治体が孤 独死対策として行っている主な事業についての効果を実証分析により明らかにする。そし て第5章では、実証分析を踏まえた政策提言を行う。第6章では、今後の課題を整理する。 1 厚生労働省(2008)「高齢者等が一人でも安心して暮らせるコミュニティづくり推進会議(「孤立死」ゼ ロを目指して)報告書」p5 2 前掲脚注1 p7 3 一般社団法人 日本少額短期保険協会(2016)「孤独死の現状レポート」p14 4 前掲脚注1 p11

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2 孤独死の背景と実態

2.1 孤独死の歴史 孤独死がメディア等で注目されはじめ、社会的な問題であると認識されたのは 2000 年代 以降の最近のことであると受けとられていることが多いと思われる。しかし、小辻ほか (2011)によると、独居者が誰にも看取られることなく死亡し、死後何日も経ってから発見さ れるという事例は、少ないながら明治時代以降の新聞紙面にも散見され、「孤独死」という 言葉自体が新聞紙面上に登場するのは、実は 1970 年代初頭までさかのぼるという5。1970 年 代初頭といえば、高度経済成長が終焉して安定成長期に入り、社会の歪みとして公害をはじ めとする生活問題が大きく取り上げられていた時期である。また、高齢化率の上昇が議論さ れはじめ、福祉政策においては、一人暮らしの高齢者に関心が寄せられており、特に都市部 においては、一人暮らしの高齢者のみならず「一人暮らし」という状態が問題として認識さ れていった6。その後、1995 年に発生した阪神・淡路大震災により、孤独死が大きくメディ アで取り上げられるようになった。大震災後には多くの被災者が仮設住宅に入居したが、そ こで多くの孤独死が発生した。これまでの孤独死が都会でいわば散発的に起こっていたの に対し、災害により極めて限定的な範囲で発生した多数の孤独死は、都会と地方を問わず地 域のコミュニティの重要性が改めて問い直される契機となった7。さらに、2005 年に放映さ れた、千葉県松戸市の常盤平団地での孤独死問題や地域住民の取り組みについて取り上げ たテレビ番組8などにより、高齢者の孤独死問題に対する社会的な関心はさらに高まってい る9 2.2 孤独死の背景と実態 我が国の総人口は、平成 27(2015)年 10 月1日現在、1億 2,711 万人となっている10 このうち、65 歳以上の高齢者人口は、3,392 万人で、総人口に占める割合(高齢化率)は、 国連が超高齢社会とする 21%を超える 26.7%となっている。昭和 25(1950)年には総人口 の5%に満たなかったが、45(1970)年に7%を超え、さらに、平成6(1994)年には 14% を超えた。高齢化率はその後も上昇を続け、現在の 26.7%に達している11 また、65 歳以上の高齢者のいる世帯は、平成 26(2014)年現在、23,572 千世帯と、全世 帯(50,431 千世帯)の 46.7%を占めている。昭和 55(1980)年では世帯構造の中で三世代 世帯の割合が一番多く、全体の半数を占めていたが、平成 26(2014)年では夫婦のみの世

5 小辻寿規ほか(2011)「孤独死報道の歴史」Core Ethics Vo.7 pp123-125

6 中沢卓実ほか(2012)「孤独死を防ぐ-支援の実際と政策の動向-」p155-が詳しい 7 持丸文雄(2015)「孤独死なんてあたりまえだ」p110 8 NHK スペシャル(2005)「ひとり団地の一室で」 9 前掲脚注6 p159 10 総務省「人口推計(平成 27 年国勢調査人口速報集計による人口を基準とした平成 27 年 10 月1日確定 値)」 11 内閣府(2016)「高齢社会白書」pp2-3

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5 帯が一番多く約3割を占めており、単独世帯と合わせると半数を超える状況である12 65 歳以上の一人暮らし高齢者の増加は男女ともに顕著であり、昭和 55 年(1980)には男 性約 19 万人、女性約 69 万人、高齢者人口に占める割合は男性 4.3%、女性 11.2%であった が、平成 22(2010)年には男性約 139 万人、女性約 341 万人、高齢者人口に占める割合は 男性 11.1%、女性 20.3%となっている13 こうした人口構成及び世帯構成の変化などに伴い、高齢者が誰にも看取られずに自宅で 死亡したり、死亡後何日も周囲から気付かれずに放置されたりするという、いわゆる孤独死 が主に都市部を中心に多く発生している。孤独死について全国の自治体間で明確に統一さ れた定義はまだなく、国や自治体、メディアによって「孤独死」、「孤立死」などと呼び方に も違いが見受けられるが、厚生労働省の老人保健健康増進等事業14により実施されたニッセ イ基礎研究所の調査によると、「全国の 65 歳以上高齢者の孤立死数の推計(死後2日以上15 経過)」は、年間約2万 6,821 人(男性約 1 万 6,616 人、女性約1万 204 人)と公表されて いる。この数は、東京都 23 区における孤独死発生確率を前提として、全国の 65 歳以上の高 齢者の数に当てはめて推計したものである16 一方、その東京都 23 区の孤独死については、東京都福祉保健局 東京都監察医務院による と、東京都 23 区で発生した 65 歳以上の孤独死(単身世帯の者が自宅住居で死亡したこと、 あるいはそのような死亡の態様)は、平成 27 年においては 3,116 人(男性 1,973 人、女性 1,143 人)となっている。平成 15 年の 1,441 人と比べて2倍以上増加しており17、単身高齢 者の増加に伴い、孤独死も増加していることがわかる。 2.3 孤独死による社会的損失 孤独死は個人の死であり、自らの最後をどう迎えるかは、ご本人が決めれば良いこととも いえ、病院のベッドの上で亡くなるより、住み慣れた自宅で、誰にも看取られなくても、気 を使わずに最後を迎えるほうが幸せであり、ご本人にとっては納得のいく最期であるとの 意見もある18 確かに孤独死は個人の死であるが、孤独死が発生した場合には様々な社会的コストが発 生する。厚生労働省の「高齢者等が一人でも安心して暮らせるコミュニティづくり推進会議 (「孤立死」ゼロを目指して)報告書」などでは、主に次のようなコストを挙げている19 12 前掲脚注 11 p13 13 前掲脚注 11 p14 14 高齢者の介護、介護予防、生活支援、老人保健及び健康増進等に関わる先駆的、試行的な事業に対して 補助を行い、老人保健福祉サービスの一層の充実や介護保険制度の基盤の安定化に資することを目的と する補助事業(厚生労働省HPhttp://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/0000083671.html) 15 本報告書では死後1日目までの発見は「孤立」とは言えないとしている。 16 ニッセイ基礎研究所(2011)「セルフ・ネグレクトと孤立死に関する実態把握と地域支援のあり方に関す る調査研究報告書」p22 17 東京都福祉保健局 東京都監察医務院HP「東京都監察医務院で取り扱った自宅住居で亡くなった単身 世帯の者の統計」(http://www.fukushihoken.metro.tokyo.jp/kansatsu/kodokushitoukei/index.html) 18 結城康博(2014)「孤独死のリアル」pp184-185 19 前掲脚注 1 pp5-7

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6 まず、我が国では、死亡するときは、病院、家庭等において家族や医師など誰かに看取ら れながら亡くなるものと一般的に考えられているので、孤独死という事態は例外的な事態 と認識されがちである。そして、このような事態が発生した場合には、警察、消防の出動、 医師による死亡の診断、検死、戸籍等役所の手続き、親族等の捜索、遺体の処理、遺品の処 理等経済的かつ人的な負担が発生する。また、孤独死が発生した場合、隣近所や、マンショ ン等の場合は管理人等にもコストや負担をかけることになる。特に死後発見までの時間が 長期化すればするほどより深刻になり、公衆衛生上問題がある。さらには、マンション等の 集合住宅の場合、その住まいは一定の処理を終えた後、転売や転貸することとなるが、孤独 死が発生した場合は、その住まいの資産価値が低下するだけでなく、その周囲の住宅の資産 価値にも悪影響を及ぼすこととなる。よって、孤独死へのリスク回避から、高齢者への入居 を断る「貸し渋り」が増加する恐れがある20 このように、孤独死が発生すると、各方面に様々な影響を与える。よって、このような孤 独死が発生しないようにするための取り組みが求められていると言うことができる。 2.4 孤独死対策 かつては「向こう三軒両隣」といった濃密な近隣関係の中で、気遣い合いや気付き合いが 行われてきた。しかし、急速な高齢化の中、プライバシー意識の高まり、地域のつながりの 減少や家族関係の希薄化が進み、地域の支え合い機能は低下しつつあると言われている。持 丸(2015)は、孤独死の問題は、戦後に進行した「大家族制度や地域共同体の崩壊と軌を一 つにする。少子高齢化ばかりではなく、価値観の変容とともに砂粒のごとき個人(浮遊する 個)が拡大し、社会的な求心力の衰退と遠心力の増大が同時進行し、社会基盤が弱体化した ことが、その主な要因」としている21 厚生労働省は、今後「孤立生活」が一般的なものとなるとしたうえで、孤独死を回避する ためには、「「孤立生活」をしている人に、その地域で何らかの社会関係や人間関係が築かれ、 「孤独」に陥らないようにしなければならない。そのためには、地域の低下したコミュニテ ィを掘り起こし、活性化することが最重要である」としている22 こうした地域コミュニティによる互助機能の再構築として、近年、定期的な安否確認や声 かけが必要な人に対して、町会・自治会、老人クラブ、NPO、住民ボランティアなどが定 期的にその自宅を訪問し安否確認等を行なうなど、担当を決めて定期的に行う見守り活動 が各地で実施されている。結城(2014)は、孤独死に対する見守り活動の機能を、①「孤独死 させない」ことと、②「早く発見する」ことの2つに分類し、①は「予防的視点」(孤独死 を未然に防ぐ対策)、②は「事後的視点」(やむを得ず孤独死しても、早期に発見する対策) という考え方に立脚していると述べている23。①の「予防的視点」とは、命を救うことが主 20 前掲脚注3 p14 21 前掲脚注7 p5 22 前掲脚注1 p11 23 前掲脚注 18 pp138-139

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7 な目的とされる。この場合、一人暮らし高齢者が急病になった際に、助けを自ら呼べずに自 宅で亡くなってしまうことを防ぐことが重要視される。②の「事後的視点」とは、やむなく 孤独死してしまい、命を救えなかったとしても、可能な限り早く遺体を発見できるようにし ようという考え方である。早く発見されなければ、遺体は腐ってしまい、公衆衛生上の問題 も生じてしまう。亡くなった方や遺体に対して畏敬の念を持ち、早く供用する責務が社会に あるということである。 見守り活動で重要なことは、異変への気付きである。地域の様々な主体が高齢者の異変に 気付き、専門機関へつなぐ(相談・連絡する)。連絡先として、行政の担当窓口や地域包括 支援センター24、民生委員などがあり、緊急時の場合は消防や警察などへ対応を依頼するこ ともある。その見守りを行うにあたっての異変察知の例として、以下が挙げられる。 24 地域住民の心身の健康の保持及び生活の安定のために必要な援助を行うことにより、地域住民の保健医 療の向上及び福祉の増進を包括的に支援することを目的として、包括的支援事業等を地域において一体 的に実施する役割を担う中核的機関として設置されたもの。市町村は責任主体である。詳しくは厚生労 働省HP(http://www.mhlw.go.jp/topics/2007/03/dl/tp0313-1a-01.pdf)

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8 表1:異変察知の例 出典:東京都福祉保健局「高齢者等の見守りガイドブック」 このような地域住民等による見守り活動は様々な地域で行われており、各自治体も、それ らの体制の構築・維持のために一定の公的支出をしている場合が多い。例えば、東京都墨田 区において行われている「地域支えあい事業」は、おおむね 65 歳以上のひとり暮らしの高 齢者及び高齢者世帯を対象に、地域住民からの登録制のボランティアである見守り協力員 が主体的に地域の高齢者の見守りを行っている。また、講演会の開催、公募による見守り協 力員養成研修及びリーフレットの作成・配布などを通じて地域全体で高齢者を見守り、支え ていき、高齢者が地域で孤立することなく、安心して生活できる仕組みづくりの構築を図っ ている。本事業への墨田区の支出は約 8,186,000 円(平成 27 年度歳出決算額)である25 25 墨田区HP「平成 28 年度行政評価」 (https://www.city.sumida.lg.jp/kuseijoho/gyousei_hyouka/gyouseihyouka28.html) ①心身の病気について 以下の状態が見られる場合は、病気であることが疑われる。外見だけでなく、本人と の会話や、行動の変化などからも、心身の病気について気付くことができる。 【心身の状況】 ・元気がない。 ・痩せてきている。 ・体調が悪そうに見える。 ・歩き方がおかしいなど、怪我をしているように見える。 ・家の中を歩く姿があぶなっかしい、いつもよりドアを開けるのに時間がかかる(動 きが遅い感じ、つかまりながら歩くなど)。 ・家事や買い物が辛い、食欲がない、知り合いがなく寂しい等と本人が言っていた。 【行動の変化】 ・家に引きこもりがちである。 ・日頃と反対で、家から出ることがなくなった。 ②自宅で倒れている可能性がある場合 以下のような状態が確認されれば、家の中で倒れていたり、長期間にわたる場合は孤 独死なども疑われる。 【訪問時】 ・訪問したが応答がない(約束した時間に行ったが応答がない、数日間会えないなど)。 ・いつもはドアを開けてくれるのに、今日は開けてくれない(いつもと様子、雰囲気 が違う、など)。 【住まいの状況】 ・家から悪臭、異臭がする。 ・郵便受けに郵便や新聞が溜まっている(数日間、3日以上など)。 ・同じ洗濯物が何日も干してある、夜になっても洗濯物が取り込まれない。 ・鍵がかかり、中の状態が分からない状況が数日続いている。 ・植物への水やりができていない。 ・ごみがたまっている。 ・昼間なのに電気がついたままになっている、夜間に電気がつかない。 ・雨なのに窓が開けっ放しである。 ・昼間晴れているのに雨戸が閉まったままになっている、カーテンが閉まったままに なっている。

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9 一方で、地域コミュニティの見守り活動の支障になっていると言われているのが、2005 年 の個人情報保護法の全面施行である。自治体が、地域のマンパワーに見守り対象者となる高 齢者についての情報提供を控えるような風潮が広まったからである26。例えば、自治会や民 生委員の見守り活動のためだからと、それまでは高齢者の安全を優先して暗黙のうちに行 われていた個人情報の提供が、法制化により一切できなくなってしまったのである27。これ により自治会の役員や民生委員らは、高齢者が一人暮らしかどうかといった情報の名簿な どを、独自に作成しなければならなくなった。しかし、近年のプライバシー意識の高まりな どもあり、本人が情報提供を拒む場合も多く、見守り活動が難しくなっているのが現状であ る28 そこで、自治体によっては個人情報の活用に関して柔軟性をもたせる意味で、条例等を制 定し、個人情報の提供を可能としているところもある。例えば東京都足立区の「足立区孤立 ゼロプロジェクト推進に関する条例」(平成 25 年1月1日施行)は、高齢者の孤立や孤独死 を防止するため、自治会などに対して、区が持つ高齢者情報の提供を可能とするものである 29。具体的には「70 歳以上の単身世帯と 75 歳以上の高齢者のみの世帯」の高齢者について は、本人同意を必要とせずに、住民基本台帳をもとに、町会・自治会の役員や民生委員など に対して、住所、氏名、年齢、性別といった情報を提供することができるとしている。この 条例より、見守り活動の担い手となる自治会役員や民生委員などは、「どこに、どのような 高齢者がいるのか」ということを知ることができ、地域の見守り活動をスムーズにできるよ うになると思われる。 2.5 見守り活動の効果 2.4 においては、孤独死対策としての見守り活動について述べてきたが、本節では、地域 コミュニティによる見守り活動が孤独死の発生件数の減少及びやむを得ず孤独死が発生し た場合にも遺体の早期発見につながることに関する考察を行う。 見守り活動を通じて、高齢者の異変を察知し、必要なサービスにつなげる。例えば、以前 より痩せてきている、体調が悪そうに見える、怪我をしているように見える、などのように、 病気であることが疑われたり、外見だけでなく、本人との会話や行動の変化などから、心身 の病気に気付くことで、病院や介護保険サービスなどにつなげ、結果的に孤独死を未然に防 ぐことができる。また、訪問したが応答がない、郵便受けの新聞等がそのままである、昼間 なのに電気がついたままになっている、夜間に電気がついていない等の場合は自宅で倒れ ている可能性が高い。そのような状況に気付き、そのまま亡くなる前に早期に発見し、孤独 死を防ぐことができる。実際に、見守り活動で体調を崩した高齢者を見つけ、地域包括支援 26 前掲脚注6 p22 27 前掲脚注18 pp175-176 28 前掲脚注6 p22 29 足立区HP(https://www.city.adachi.tokyo.jp/chiiki/korituzero.html)が詳しい

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10 センターに連絡して命が助かったケースもあるという30 以上述べたのは 2.4 で言及した「予防的視点」である。「事後的視点」については、予防 的視点とやや共通する部分もあるが、見守り活動により、例えば、同じ洗濯物が何日も干し てある、夜になっても洗濯物が取り込まれない、植物への水やりができていない、ごみがた まっている、雨なのに窓が開けっ放しである、家から悪臭、異臭がする(この場合は死後比 較的期間が経過している場合が多い)等の異変に早期に気付き、遺体を早期に発見すること ができる。 また、個人情報保護法の特例を設けて、高齢者の情報を見守り活動の担い手へ提供するこ とについても、見守り活動の担い手にとって、提供される高齢者の情報が多いほど、地域に 住む高齢者を把握する網の目が細かくなる。これにより見守り活動がスムーズになり、高齢 者の孤立を防ぐことができるため、見守り活動の効果がより現われると考えられる。 このように、地域コミュニティによる見守り活動は、高齢者が地域から孤立することを防 止し、孤独死の予防及びやむを得ず孤独死が発生した場合でも遺体の早期発見につながる と考えられる。次章以降において、これらを実証分析により明らかにする。

3 地域コミュニティによる見守り活動が孤独死に与える影響についての実証

分析

本章では、地域コミュニティによる見守り活動が、孤独死の発生件数、やむを得ず孤独死 が発生した場合の遺体の死後経過時間に及ぼす影響に関する実証分析を行う。 なお、本実証分析で用いる用語の定義は以下のとおりである。 ・孤独死 自宅で死亡発見された単身者の死亡(東京都福祉保健局監察医務院の定義に依拠) ・地域コミュニティ 町会・自治会、老人クラブ、NPO、その他ボランティア団体・個人などで、見守り協 力員や見守りサポーター等として見守り活動に従事している者で各自治体が把握して いる者 ・見守り活動 定期的な安否確認や声かけが必要な人に対して、上記の者がボランティアなどとして 自宅を訪問し安否確認等を行なうなど、担当を決めて定期的に行う活動 3.1 分析の説明 前述のとおり、地域コミュニティによる見守り活動が孤独死に与える影響を推計するた めに、パネルデータを用いたモデルを採用する(推計式は後述する)。個別効果と説明変数 との相関に関する検定が必要なため、固定効果モデル(Fixed effect model)、変量効果モ

30 東京都福祉保健局(2011)「東京都における高齢者見守り活動・事業事例集~高齢者を地域で見守る 50

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デル(Random effect model)により推計しハウスマンテストを行った結果、変量効果モデ ルを採用することとする。 3.2 使用するデータ 本研究の分析に使用するデータは、見守り活動の実態等を把握するために、筆者が東京都 23 区各区に対して行ったアンケート調査の結果と、東京都監察医務院資料「東京都監察医 務院で取り扱った自宅住居で亡くなった単身世帯の者の統計」の「各区別の世帯分類別異状 死数」及び「各区別の死後経過時間・世帯分類別異状死数」等を用いる。なお、アンケート 調査の概要については表2のとおりである。 表2:アンケート調査の概要 使用するデータの一覧を表3に示す。なお、本データ中の「死後4日以上の割合(%)」で 「死後4日以上」としているのは、結城(2014)の、孤独死を防ぐことが最優先としつつ、仮 に発生した場合に「その遺体が遅くとも2~3日以内で発見されるような社会にしていく ことが(中略)ミッションだと筆者は考えている」という見解を参考にしたものである31 また、65 歳以上に限らず全ての単身者を対象としているのは、データ上では年齢別の死後 経過時間が不明であったためである。 31 前掲脚注 18 p17 ○調査期間:平成28 年 11 月 24 日~平成 29 年1月 16 日 ○調査対象:東京都23 区 ○回 答 数:23 自治体 ○回 答 率:100% ○調査内容:全9問(平成18(2006)年度~平成 27(2015)年度実績) ・問1 見守り活動の担い手について ・問2 見守り対象者について ・問3 見守り活動の実績について ・問4 見守り活動に関する補助金について ・問5 民間事業者等との連携・協定等について ・問6 安否確認を兼ねた定期的な電話連絡について ・問7 配食サービス及び緊急通報システムについて ・問8 民生委員の数について ・問9 町会・自治会について ※アンケート様式は巻末に示す。

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表3:使用するデータの一覧

次に各変数の基本統計量を以下に示す(なお、アンケートの回答のうち、有効回答であっ たもののみを抽出しサンプリングした)。

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13 表4:基本統計量 3.3.1 推計式(孤独死割合に及ぼす影響について) 推計式は、次式のとおりである。 [推計式1] Y(孤独死割合)it =β0(定数項)+β1(一人あたりの年間訪問回数)it+β2(高齢化率)it+ β3(第1号要介護認定者の割合)it+β4(年間死者数)it+ β5(生活保護被保護者の割合)it+β6(地域ダミー:個人都民税額上位区)it+ β7(地域ダミー:個人都民税額下位区)it+ β8~β15(2015 年度ダミー~2008 年度ダミー)it+δ(固定効果)i+ε(誤差項)it [推計式2]※高齢者の個人情報を見守り活動の担い手に提供した場合

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14 Y(孤独死割合)it =β0(定数項)+β1(一人あたりの年間訪問回数)it+ β2(一人あたりの年間訪問回数×個人情報提供割合)it+β3(高齢化率)it+ β4(第1号要介護認定者の割合)it+β5(年間死者数)it+ β6(生活保護被保護者の割合)it+β7(地域ダミー:個人都民税額上位区)it+ β8(地域ダミー:個人都民税額下位区)it+ β9~β16(2015 年度ダミー~2008 年度ダミー)it+δ(固定効果)i+ε(誤差項)it 3.3.2 推計結果 [推計式1]及び[推計式2]の推計結果を表5に示す。 [推計式1]において、見守り対象者一人あたりの年間訪問回数が1回増えると、65 歳以 上の高齢者のうち、孤独死で亡くなる割合が約 0.0009%減少することが、5%の水準で統 計的に有意に示された。 [推計式2]においては、個人情報提供(1%)を所与とし、対象者一人あたりの年間訪問 回数を1回増やしても、孤独死割合に対して統計的に有意な効果は現われなかった。 表5:[推計式1]、[推計式2]の推計結果 ※***、**、* はそれぞれ1%、5%、10%の水準で統計的に有意であることを示す。 ※年次ダミーは省略している。

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15 3.4.1 推計式(死後4日以上の割合に及ぼす影響について) 次に、見守り活動が、やむを得ず孤独死が発生した場合の死後発見時間に影響を及ぼすの かについての効果を推計する。推計式は、次式のとおりである。 [推計式3] Y(死後4日以上の割合)it =β0(定数項)+β1(一人あたりの年間訪問回数)it+β2(高齢化率)it+ β3(第1号要介護認定者の割合)it+β4(年間死者数)it+β5(孤独死割合)it+ β6(生活保護被保護者の割合)it+β7(地域ダミー:個人都民税額上位区)it+ β8(地域ダミー:個人都民税額下位区)it+ β9~β16(2015 年度ダミー~2008 年度ダミー)it+δ(固定効果)i+ε(誤差項)it [推計式4]※高齢者の個人情報を見守り活動の担い手に提供した場合 Y(死後4日以上の割合)it =β0(定数項)+β1(一人あたりの年間訪問回数)it+ β2(一人あたりの年間訪問回数×個人情報提供割合)it+β3(高齢化率)it+ β4(第1号要介護認定者の割合)it+β5(年間死者数)it+β6(孤独死割合)it+ β7(生活保護被保護者の割合)it+β8(地域ダミー:個人都民税額上位区)it+ β9(地域ダミー:個人都民税額下位区)it+ β10~β17(2015 年度ダミー~2008 年度ダミー)it+δ(固定効果)i+ε(誤差項)it 3.4.2 推計結果 [推計式3]及び[推計式4]の推計結果を表6に示す。 [推計式3]について、見守り対象者一人あたりの年間訪問回数が1回増えても、発生した 孤独死のうち死後4日以上の孤独死の割合に対して統計的に有意な効果は現われなかった。 [推計式4]については、個人情報提供(1%)を所与とし、対象者1人あたりの年間訪問 回数が1回増えると、発生した孤独死のうち死後4日以上の孤独死の割合が約 1.7%減少す る(約 1.7%分3日以内に早期発見される)ことが5%の水準で統計的に有意に示された。

(16)

16 表6:[推計式3]、[推計式4]の推計結果 ※**、* はそれぞれ5%、10%の水準で統計的に有意であることを示す。 ※年次ダミーは省略している。 3.5 考察 3.3.2 の推計結果から、地域コミュニティの見守り活動は孤独死の未然防止に関して一定 の効果があることが示唆された。一方で、個人情報を提供した場合について有意な効果がで なかったのは、個人情報を提供された高齢者の属性によるものと考えられる。個人情報を提 供されて初めて、見守り活動の担い手が把握することができるような高齢者の方は、近隣と の関わりを持とうとしない方が比較的多い傾向にあるのではないかと思われる。例えば、見 守りを行っても、非協力的な態度を示される場合などである。その結果、統計上は見守り活 動の有意な結果が出なかったと考えられる。 ここで、東京都北区を例に、見守り活動による孤独死発生件数減少の効果を考察する32 北区における平成 27 年の 65 歳以上の高齢者人口は 85,885 人33である。 32 ここで北区を例に用いたのは、後述する金銭的な費用の算出のための利用可能な公表データがあったた めである。 33 東京都「住民基本台帳による東京都の世帯と人口(平成 27 年)」

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17 3.3.2 の推計結果より、見守り対象者一人あたりの年間訪問回数を1回増やすと、区内在 住の高齢者のうち、孤独死に至る割合が約 0.0009%減少する。つまり、対象者1人あたり の訪問回数を1回増やすことで、約 0.7 人(85,885 人*0.000009)の孤独死を防ぐことが できる。 よって、孤独死を1人減らすために必要な年間の訪問回数は約 3,421 回(2,39534回/0.7 人)である。 また、3.4.2 の推計結果より、見守り活動が、死後経過時間に対して統計上有意な効果を 示さなかった一方で、個人情報を提供した場合に一定の効果が示された。これは、個人情報 提供により、前述した属性の高齢者の方を把握することができ、見守り活動を行うことによ り、やむを得ず孤独死を防ぐことはできなかったが、普段から見守っていることにより比較 的早期に異変に気付き、遺体を発見することができるということが、統計上示唆されたもの だと考えられる。 ここで、孤独死の発生件数減少の場合と同様に、北区を例に、見守り活動による死後経過 時間減少の効果を考察する。 3.4.2 の推計結果より、個人情報提供(1%)を所与とし、区内の見守り対象者一人あた りの年間訪問回数を1回増やすと、発生した孤独死のうち、死後4日以上の孤独死が約 1.7%減少する(約 1.7%分3日以内に早期発見される)。表4の基本統計量より、個人情報 提供割合を平均値の約 0.7%であると仮定し、見守り対象者一人あたりの年間訪問回数を1 回増やすと、発生した孤独死のうち、死後4日以上の孤独死が約 1.19%(1.7*0.7)減少 する。 平成 27 年の北区における孤独死は 238 人35である。つまり、区内の見守り対象者一人あ たりの年間訪問回数を1回増やすと、発生した孤独死 238 人のうち、約 2.8 人(238 人* 1.19/100)を3日以内に発見することができる。 よって、発生した孤独死のうち、1人を3日以内に早期発見するための訪問回数は約 855 回(2,395 回/2.8 人)である。

4 その他の主な孤独死対策の効果の分析

前章までは、地域コミュニティによる見守り活動が孤独死に与える影響について分析し た。本章では、自治体が他に孤独死対策として主に実施している、配食サービス、電話訪問 (福祉電話)、緊急通報システムが、孤独死発生件数及びやむを得ず孤独死が発生した場合 の死後経過時間に与える影響に関する実証分析について述べる。なお、各サービスの概要は 以下のとおりである。 ・配食サービス 安否確認を兼ねて、食事(昼、夕)を高齢者の自宅まで届けるサービス 34 本実証分析における各区の見守り対象者の平均値 35 前掲脚注17

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18 ・電話訪問(福祉電話) 安否確認を兼ねて、高齢者に定期的に電話連絡を行うサービス ・緊急通報システム 緊急時に押しボタンやペンダント等を押すと、電話回線等を通じて自動的に通報され る機器 4.1 分析の説明 パネルデータを用いたモデルを採用する(推計式は後述する)。個別効果と説明変数との 相関に関する検定が必要なため、固定効果モデル(Fixed effect model)、変量効果モデル (Random effect model)により推計しハウスマンテストを行った結果、変量効果モデルを 採用することとする。

4.2 使用するデータ

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19

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20

次に各変数の基本統計量を以下に示す(なお、アンケートの回答のうち、有効回答であ ったもののみを抽出しサンプリングした)。

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21

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22 表 10:基本統計量(緊急通報システム) 4.3.1 推計式(孤独死割合に及ぼす影響について) 推計式は、次式のとおりである。 [推計式5] Y(孤独死割合)it =β0(定数項)+ β1(配食サービス利用者の割合 or 一人あたりの年間電話回数 or 緊急通報システム 利用者の割合)it+β2(高齢化率)it+β3(第1号要介護認定者の割合)it+ β4(年間死者数)it+β5(生活保護被保護者の割合)it+

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23 β6(地域ダミー:個人都民税額上位区)it+ β7(地域ダミー:個人都民税額中位区)it+ β8(地域ダミー:個人都民税額下位区)it+ β9~β16(2015 年度ダミー~2008 年度ダミー)it+δ(固定効果)i+ε(誤差項)it 4.3.2 推計結果 [推計式5]の各サービスが孤独死割合に与える影響に関する推計結果を以下に示す。い ずれのサービスについても、孤独死割合に対して統計的に有意な効果は示さなかった。 表 11:[推計式5]の推計結果 ※***、** はそれぞれ1%、5%の水準で統計的に有意であることを示す。 ※年次ダミーは省略している。 4.4.1 推計式(死後4日以上の割合に及ぼす影響について) 次に、やむを得ず孤独死が発生した場合の死後経過時間へ及ぼす影響に関する推計を行 う。推計式は、次式のとおりである。

(24)

24 [推計式6] Y(死後4日以上の割合)it =β0(定数項)+ β1(配食サービス利用者の割合 or 一人あたりの年間電話回数 or 緊急通報システム 利用者の割合)it+β2(高齢化率)it+β3(第1号要介護認定者の割合)it+ β4(年間死者数)it+β5(孤独死割合)it+β6(生活保護被保護者の割合)it+ β7(地域ダミー:個人都民税額上位区)it+ β8(地域ダミー:個人都民税額中位区)it+ β9(地域ダミー:個人都民税額下位区)it+ β10~β17(2015 年度ダミー~2008 年度ダミー)it+δ(固定効果)i+ε(誤差項)it 4.4.2 推計結果 [推計式6]の推計結果を以下に示す。いずれのサービスについても、死後4日以上の割合 に対して統計的に有意な効果は示さなかった。 表 12:[推計式6]の推計結果

(25)

25 ※***、**、* はそれぞれ1%、5%、10%の水準で統計的に有意であることを示す。 ※年次ダミーは省略している。 4.5 考察 今回は各区の事業として行われている上記3つのサービスの利用者数のデータをもとに 実証を行った。しかし、民間でも類似のサービスがあり、本来であれば、①各区の事業とし てサービスの利用率、②民間で行われている類似サービスの利用率、③利用なし の3つを 把握したうえで推計を行うべきであるが、②のデータが収集できなかったため、各サービス の効果が統計上薄まってしまったためであると考えられる。

5 まとめと政策提言

これまで、地域のコミュニティ意識の活性化が叫ばれ、住民同士で支え合う互助の取り組 みとして見守り活動が行われてきた。今回の実証分析により、大都市である東京都 23 区の ような地域において、地域コミュニティによる見守り活動は、当該地域の孤独死の発生の防 止及びやむを得ず孤独死が発生した場合の遺体の早期発見に一定程度寄与していることが 示唆された。 一方で、地域コミュニティによる見守り活動でも、その体制の構築・維持などに一定の費 用がかかること、また、定期的に訪問することから多くの見守り回数が必要となり、多くの 人的リソースが必要であることということも、同時に示唆された。 このため、孤独死を減らすことと、やむを得ず孤独死が発生した場合でも遺体を早期に発 見するという目的に立った場合、これらの地域コミュニティという貴重なリソースをいか に有効に活用するかという視点が必要である。 そこで、将来的には、地域コミュニティによる見守り活動と、今後ユニバーサル化される スマートメーターによる電力計測を組み合わせた見守り体制を構築することを提言したい。 スマートメーターとは、電気使用量検針業務の自動化や電気使用状況の見える化を可能 にする電力量計のことである36政府のエネルギー基本計画(平成 26 年4月 11 日閣議決定) において、「2020 年代の早期に、スマートメーターを全世帯・全事業所に導入する37」とさ れており、国策としてユニバーサル化が進められている。東京電力管内では 2020 年度末ま での全数設置を目標に計画が進められている38。スマートメーターの主な機能39として、① 使用量を 30 分ごとに計測することができること、②通信機能を搭載していることが挙げら れる。①については、従来は月1回の検針により1か月間の総使用量を計測していたが、ス マートメーターは日々30 分ごとに電気の使用量を計測することが可能となる。②について は、従来は検針員による目視検針が必要であり、現地の状況によっては利用者の立ち会いが 36 東京電力エナジーパートナーズHP (http://www.tepco.co.jp/ep/private/smartlife/smartmeter.html) 37 資源エネルギー庁(2014)「エネルギー基本計画」p36 38 東京電力パワーグリッドHP(http://www.tepco.co.jp/pg/technology/smartmeterpj.html) 39 以下前掲脚注 36 参照

(26)

26 必要であったが、スマートメーターの設置により遠隔での検針が可能となる。 表 13:スマートメーターイメージ図 スマートメーターを見守り活動に導入し、見守り対象者を定期的に訪問して安否確認等 をするのではなく、電力使用量が普段と異なるなどと感知された場合に地域のボランティ アなどが訪問し様子を見に行く。そうすることで、対象者の中でも比較的元気な方に対する 見守りを減らし、より危ないと予想される方に対する見守りに特化することができると考 えられる。以下は具体的な体制のスキームである。 出典:東京電力エナジーパートナーズHP http://www.tepco.co.jp/ep/private/smartlife/smartmeter.html

(27)

27 表 14:体制のスキーム このような電力使用量から普段の生活リズムを推定し、それが異なる場合にメールにて 通知が来る仕組みは、現在電力会社でもサービスとして実施しており、中には無料で実施し ている電力会社もある。よって、これらを自治体の見守り体制に応用することは可能である と考える。 電力使用量により異変を検知する仕組みは、例えば以下のようなイメージである。これは、 九州電力が提供している見守りサービスにおける電力使用量検知の仕組みである。 出典:関西電力「はぴe まもるくん」 (http://www.tepco.co.jp/pg/technology/smartmeterpj.html)を参考に筆者作成

(28)

28 表 15:検知の仕組み 出典:九州電力「見守りサポート」HP (https://www.kireilife.net/contents/mimamori/) この仕組みについて、先述の「予防的視点」と「事後的視点」の観点から述べると、本来 望ましいのは「予防的視点」を重視し、孤独死自体を発生させないことである。この場合は、 少しの異変でも自治体側にメール通知が来るようにプログラムを設定することが可能であ るならば、孤独死を未然に防ぐことができる可能性が高まると考えられる(ただしその分、 ボランティアなどの方の出動回数が増え、負担が増えることにもなる)。この点は、今後の 先進技術や医学的な視点を取り入れたうえで、より詳細な検討をするべきである。 このような見守り体制を構築するまでの流れは以下のとおりである。自治体と電力会社 が協定や契約を締結し、お互いに対象となる高齢者の方の同意を得たうえで見守りを開始 する。自治体側は、電力会社へ対象者の氏名や電気契約番号を伝えることや、緊急時に鍵が かかっていてボランティア等が中に入れない場合に備えて自治体が合鍵を預かり、場合に よっては中に入ることもあり得ることに関する同意をもらう。電力会社側は、自治体へ電力 使用量に関する通知をすることに関する同意をもらう。 普段の電気の使用状況

(29)

29 表 16:実施までの流れのイメージ この仕組みのメリットとして、異変時に特化した効率的な見守りが期待できること、将来 的にユニバーサル化されるメーターを用いるため新たな機器などの設置が不要であること、 異変時に自動でメールが届くためモニタリングコストがかからないこと、等を挙げること ができる。 一方で課題もある。電力の使用量変化時にすぐ様子を見に行く対応可能な近隣のボラン ティア等の方がいない場合である。この場合は自治体や地域包括支援センターの職員が様 子を見に行くことで対応するしかない。また、通知メールを自治体職員等が見逃す場合もあ る。この点は、メールの通知先を自治体内部で複数設定することで、このような事態は極力 防ぐことができると考える。また、今回は電力のスマートメーターを例に提言を行ったが、 水道など電力以外のライフラインについても、生活リズムを把握する上で重要なものであ ると考えられる。ただし、現状スマートメーターについては、電力が先行して導入が進んで いることもあり、今回は電力を例に挙げた。一方で、経済産業省は、スマートメーターにつ いて「ガス使用量等の電力以外の情報と合わせて、エネルギーの使用情報として一元的に把 握・管理することで、エネルギーの種別にとらわれない総合的な(中略)サービスの提供が

(30)

30 期待される40」としており、今回挙げた電力による見守り体制の仕組みを応用する形で、将 来的には水道等と合わせた総合的な見守り体制を築くことが可能であると考える。

6 今後の課題

本研究では、見守り活動の孤独死への影響という観点に限定して分析を行った。しかし見 守り活動には、孤独死対策としての側面だけでなく、見守られる側の孤独感や不安を軽減し たり、安心感を与える等の効果もあると考えられる。よって、見守り活動の意義は様々な観 点から述べられるべきであり、本研究により一概にその意義を断定することは筆者の意図 するところではない。 また、本研究では見守り活動の回数のデータを基に、孤独死への影響についての実証分析 を行ったが、見守り活動には、普段の日常生活の中でのさりげない緩やか見守り等、数字と して把握困難なものも多く、本研究を通じて、自治体が全ての見守り活動をデータとして把 握することができているわけではないということがわかった。今回は、孤独死の統計データ の都合上、研究対象が大都市である東京都 23 区にとどまり、さらにその中でも見守り活動 のデータが収集可能であった自治体を基に分析を行った。よって、本研究結果はあくまでも 現時点で成し得る範囲内での分析であることを申し添える。孤独死について全国的に統一 された明確な定義がなく、孤独死の実態について把握していない自治体も多い中41、今後は、 孤独死に関する対策を進めるためにも全国的に統一されたデータの整備を行い、より多く のデータを用いた検証を行なうことが重要であると考える。 提言として挙げたスマートメーターを活用した見守り体制について、費用便益分析を行 うことも今後の課題である。

補論

3.5 において、東京都北区を例に、見守り活動による孤独死発生件数減少の効果を考察し た。本章では、概算ではあるが、北区の「一人ぐらし高齢者定期訪問」の事業42を例に、見 守り活動による孤独死発生件数減少の効果と、おおよその金銭的な費用を比較する43。本事 業は、区内在住の 65 歳以上の一人暮らし高齢者を対象に、区内の民生委員がおおむね週1 回(年間で換算すると約 52 回)の訪問を行うというものである。平成 27 年度に定期訪問を 受けた高齢者は 340 人で、事業費は約 4,834,000 円(決算額)である44 3.5 での考察より、孤独死を1人減らすために必要な年間の訪問回数は約 3,421 回であ 40 経済産業省(2011)「スマートメーター制度検討会報告書」p19 41 福川ほか(2011)「孤独死の発生ならびに予防対策の実施状況に関する全国自治体調査」日本公衛誌第 11 号 p961 野村総合研究所(2013)「「孤立死」の実態把握のあり方に関する調査研究事業報告書」p60 42 北区 HP(http://www.city.kita.tokyo.jp/korefukushi/kenko/koresha/shien/sien-04.html) 43 ここで北区を例に用いたのは、金銭的な費用を算出するのに利用可能な公表データがあったためであ る。 44 北区事務事業評価 HP (http://www.city.kita.tokyo.jp/keieikaikaku/kuse/shisaku/hyoka/h28/documents/28kanihyouka.pdf)

(31)

31 る。 1回の訪問を行うために必要な金銭的費用は、約 273 円45(4,834,000 円/17,680 回(340 人*52 回))である。 このため、孤独死を追加的に1人減らすために必要な金銭的な費用は約 933,933 円(273 円*3,421 回)である。 また同様に、見守り活動による死後経過時間減少の効果と、おおよその金銭的な費用も比 較する。 3.5 より、発生した孤独死のうち、1人を3日以内に早期発見するための訪問回数は約 855 回である。 このため、区内で発生した孤独死 237 人のうち、1人を3日以内に早期発見するためにか かる費用は、約 233,415 円(273 円*855 回)である。

謝辞

本稿の執筆にあたり、福井秀夫教授(まちづくりプログラムディレクター)、小川博雅助 教授(主査)、鶴田大輔客員教授(副査)、垂水祐二教授(副査)、細江宣裕准教授(副査) から丁寧かつ熱心なご指導をいただいたほか、三井康壽客員教授、塩澤一洋客員教授、安藤 至大客員准教授など、まちづくりプログラム関係教員の皆様からも示唆に富んだご意見を いただくとともにご指導いただきました。この場を借りて、深く感謝を申し上げます。 さらに、東京都 23 区の各自治体のご担当の皆様におかれましては、ご多忙のなか、アン ケートやヒアリング等に真摯にご協力くださいました。心より感謝を申し上げます。 また、政策研究大学院大学にて研究の機会を与えていただき、研究生活を支えてくださっ た派遣元に深く感謝申し上げます。そして、同じ大学院生として一年間苦楽を共にした 18 名のまちづくりプログラム同期生に厚く感謝いたします。 なお、本稿は筆者の個人的な見解を示すものであり、筆者の所属機関の見解を示すもので はありません。また、本稿における見解及び内容に関する誤り等は、全て筆者の責任にある ことを申し添えます。

参考文献

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32 統計調査.東京都監察医務院編,2011 ・金涌佳雅,谷藤隆信,阿部伸幸,野崎一郎,森晋二郎,舟山眞人,福永龍繁.東京都 23 区における孤独死統計(平成 20~23 年):世帯分類別異状死統計調査.東京都監察医務 院編,2012 ・経済産業省(2011)「スマートメーター制度検討会報告書」 ・厚生労働省(2008)「高齢者等が一人でも安心して暮らせるコミュニティづくり推進会議 (「孤立死」ゼロを目指して)報告書」

・小辻寿規・小林宗之(2011)「孤独死報道の歴史」Core Ethics Vol.7 pp121-130

・斉藤千鶴(2009)「高齢者を「支え合う」地域見守り活動の課題」関西福祉科学大学紀要 第13 号 pp175-188 ・資源エネルギー庁(2014)「エネルギー基本計画」 ・東京都福祉保健局(2011)「東京都における高齢者見守り活動・事業事例集~高齢者を地 域で見守る 50 のヒント~」 ・東京都福祉保健局(2016)「高齢者等の見守りガイドブック」 ・内閣府(2016)「高齢社会白書」 ・中沢卓実・結城康博(2012)「孤独死を防ぐ-支援の実際と政策の動向-」ミネルヴァ書房 ・ニッセイ基礎研究所(2011)「セルフ・ネグレクトと孤立死に関する実態把握と地域支援 のあり方に関する調査研究報告書」 ・野村総合研究所(2013)「「孤立死」の実態把握のあり方に関する調査研究事業報告書」 ・福川康之・川口和美(2011)「孤独死の発生ならびに予防対策の実施状況に関する全国自 治体調査」第58 巻 日本公衛誌 第 11 号 pp956-966 ・前原なおみ・津村智恵子・金谷志子(2011)「高齢者見守り組織構築における専門職の役 割」甲南女子大学研究紀要第5号 看護学・リハビリテーション学編 pp173-178 ・桝田聖子・大井美紀・川井太加子・臼井キミカ・津村智恵子(2009)「A市における地域 住民を主体とした地域見守りネットワーク活動の現状」甲南女子大学研究紀要第3号 看 護学・リハビリテーション学編pp111-120 ・舛田ゆずり・田髙悦子・臺有桂・糸井和佳・田口理恵・河原智江(2011)「住民組織から みた都市部の孤立死予防に向けた見守り活動におけるジレンマと方略に関する記述的研 究」第58 巻 日本公衛誌 第 12 号 pp1040-1048 ・持丸文雄(2015)「孤独死なんてあたりまえだ」文芸社 ・結城康博(2014)「孤独死のリアル」講談社現代新書

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