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本研究では、見守り活動の孤独死への影響という観点に限定して分析を行った。しかし見 守り活動には、孤独死対策としての側面だけでなく、見守られる側の孤独感や不安を軽減し たり、安心感を与える等の効果もあると考えられる。よって、見守り活動の意義は様々な観 点から述べられるべきであり、本研究により一概にその意義を断定することは筆者の意図 するところではない。

また、本研究では見守り活動の回数のデータを基に、孤独死への影響についての実証分析 を行ったが、見守り活動には、普段の日常生活の中でのさりげない緩やか見守り等、数字と して把握困難なものも多く、本研究を通じて、自治体が全ての見守り活動をデータとして把 握することができているわけではないということがわかった。今回は、孤独死の統計データ の都合上、研究対象が大都市である東京都 23 区にとどまり、さらにその中でも見守り活動 のデータが収集可能であった自治体を基に分析を行った。よって、本研究結果はあくまでも 現時点で成し得る範囲内での分析であることを申し添える。孤独死について全国的に統一 された明確な定義がなく、孤独死の実態について把握していない自治体も多い中41、今後は、

孤独死に関する対策を進めるためにも全国的に統一されたデータの整備を行い、より多く のデータを用いた検証を行なうことが重要であると考える。

提言として挙げたスマートメーターを活用した見守り体制について、費用便益分析を行 うことも今後の課題である。

補論

3.5 において、東京都北区を例に、見守り活動による孤独死発生件数減少の効果を考察し た。本章では、概算ではあるが、北区の「一人ぐらし高齢者定期訪問」の事業42を例に、見 守り活動による孤独死発生件数減少の効果と、おおよその金銭的な費用を比較する43。本事 業は、区内在住の 65 歳以上の一人暮らし高齢者を対象に、区内の民生委員がおおむね週1 回(年間で換算すると約 52 回)の訪問を行うというものである。平成 27 年度に定期訪問を 受けた高齢者は 340 人で、事業費は約 4,834,000 円(決算額)である44

3.5 での考察より、孤独死を1人減らすために必要な年間の訪問回数は約 3,421 回であ

40 経済産業省(2011)「スマートメーター制度検討会報告書」p19

41 福川ほか(2011)「孤独死の発生ならびに予防対策の実施状況に関する全国自治体調査」日本公衛誌第 11 号 p961

野村総合研究所(2013)「「孤立死」の実態把握のあり方に関する調査研究事業報告書」p60

42 北区HP(http://www.city.kita.tokyo.jp/korefukushi/kenko/koresha/shien/sien-04.html)

43 ここで北区を例に用いたのは、金銭的な費用を算出するのに利用可能な公表データがあったためであ る。

44 北区事務事業評価HP

(http://www.city.kita.tokyo.jp/keieikaikaku/kuse/shisaku/hyoka/h28/documents/28kanihyouka.pdf)

31 る。

1回の訪問を行うために必要な金銭的費用は、約 273 円45(4,834,000 円/17,680 回(340 人*52 回))である。

このため、孤独死を追加的に1人減らすために必要な金銭的な費用は約 933,933 円(273 円*3,421 回)である。

また同様に、見守り活動による死後経過時間減少の効果と、おおよその金銭的な費用も比 較する。

3.5 より、発生した孤独死のうち、1人を3日以内に早期発見するための訪問回数は約 855 回である。

このため、区内で発生した孤独死 237 人のうち、1人を3日以内に早期発見するためにか かる費用は、約 233,415 円(273 円*855 回)である。

謝辞

本稿の執筆にあたり、福井秀夫教授(まちづくりプログラムディレクター)、小川博雅助 教授(主査)、鶴田大輔客員教授(副査)、垂水祐二教授(副査)、細江宣裕准教授(副査)

から丁寧かつ熱心なご指導をいただいたほか、三井康壽客員教授、塩澤一洋客員教授、安藤 至大客員准教授など、まちづくりプログラム関係教員の皆様からも示唆に富んだご意見を いただくとともにご指導いただきました。この場を借りて、深く感謝を申し上げます。

さらに、東京都 23 区の各自治体のご担当の皆様におかれましては、ご多忙のなか、アン ケートやヒアリング等に真摯にご協力くださいました。心より感謝を申し上げます。

また、政策研究大学院大学にて研究の機会を与えていただき、研究生活を支えてくださっ た派遣元に深く感謝申し上げます。そして、同じ大学院生として一年間苦楽を共にした 18 名のまちづくりプログラム同期生に厚く感謝いたします。

なお、本稿は筆者の個人的な見解を示すものであり、筆者の所属機関の見解を示すもので はありません。また、本稿における見解及び内容に関する誤り等は、全て筆者の責任にある ことを申し添えます。

参考文献

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45 1回見守りを行うための金銭的な費用は、本来、限界費用で算出するべきであるが、データ上の制約な どにより便宜的に平均費用で算出した。

32 統計調査.東京都監察医務院編,2011

・金涌佳雅,谷藤隆信,阿部伸幸,野崎一郎,森晋二郎,舟山眞人,福永龍繁.東京都23 区における孤独死統計(平成20~23 年):世帯分類別異状死統計調査.東京都監察医務 院編,2012

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