■白血球系の疾患 1.慢性骨髄性白血病
[1]慢性骨髄性白血病(CML)は,染色体転座 t(9 ; 22)により生じた BCR-ABL 融合遺伝子の形成が病気の本体である。染色体分析,または FISH 法や RT-PCR 法により BCR-ABL 遺伝子再構成を認めることにより診断を確定する。
[2]末梢血中で 5 万~20 万/μR の著明な白血球増多が認められ,貧血は存在し ても軽度,血小板数は増加している場合が多い。骨髄芽球から成熟好中球まで の各分化段階の細胞がみられ,急性白血病のような白血病裂孔はない。
[3]好塩基球の増加は CML にかなり特異的な所見であり,経過の観察中も病勢を 反映することが多い。
[4]CML は骨髄増殖性疾患の一つで,血清中のビタミン B12 は高値となる。他の 骨髄増殖性疾患では好中球アルカリフォスファターゼ(NAP)スコアが高値とな るのに対して,CML では NAP スコアの明らかな低下が 80~90%の症例に認めら れる。骨髄異形成症候群の一つである慢性骨髄単球性白血病(CMMoL)が鑑別診 断に挙がることがあるが,染色体 t(9 ; 22)転座,BCR-ABL 遺伝子再構成の有 無により CML かどうかが確定する。
[5]・・平均約 4 年で急性転化を起こし,急性白血病様の血液像を呈する.慢性 期から急性転化に移る際に多くは移行期を経るが,その病像は,治療への反応 性の低下,脾腫の増大,血小板減少や貧血,原因不明の発熱など多様で,必ず しも診断は容易ではない。
(1)特徴および病態生理
9 番と 22 番染色体の相互転座 t(9 ; 22)により生じた 22q-染色体を Philadelphia(Ph)染色体と呼ぶ。Ph 染色体上で,もともと 9 番染色体長腕上 に存在した ABL 癌遺伝子が 22 番染色体上の BCR 遺伝子の下流に連結されて(遺 伝子再構成),BCR-ABL 融合遺伝子が形成され,CML 細胞に特異的な Bcr-Abl キ メラ蛋白質が作られることが病気の本体である。Bcr-Abl キメラ蛋白質は,強い チロシンキナーゼ活性を有し,恒常的に細胞増殖シグナルを刺激するとともに,
アポトーシス抑制性にも働く。CML における血球細胞の腫瘍化に BCR-ABL 融合遺 伝子が本質的な役割を果たすことが,遺伝子工学,発生工学的な手法により示 されている。臨床的には,骨髄芽球から成熟好中球までの各分化段階の細胞を 含む著しい白血球増多および慢性期から(移行期を経て)急性期への二相性(ま たは三相性)の経過が特徴である。
(2)臨床像
中年以降の男性にやや多いが全年齢層で発症する。全白血病の 20%弱を占め,
年間発症率は 10 万人に対して 1 人である。臨床症状としては,代謝亢進による 微熱・全身倦怠感・体重減少・夜間発汗,巨大な脾腫による腹部膨満感・食欲 不振,骨髄細胞の著増による骨痛・骨叩打痛,好塩基球増加による高ヒスタミ ン血症とこれに続発する胃潰瘍,血球細胞の産生・破壊の著明な亢進による高
尿酸血症・痛風発作などが挙げられる。稀に白血球の著増による血液粘度の上 昇から陰茎持続勃起も認められる。ただし最近では,自覚症状はなく定期健康 診断や他の病気の検査時に偶然発見されることのほうが多い。
(3)検査所見
末梢血中では 5 万~20 万/μR の著明な白血球増多がみられ,時には 100 万/μR を越えることもある。骨髄芽球から成熟好中球までの各分化段階の顆粒球系細 胞が主体で,急性白血病のような白血病裂孔はない。好塩基球,好酸球も絶対 数が増加しているが,特に好塩基球の増加は CML にかなり特異的な所見である。
赤血球は初期にはむしろ増加しているが,病気が進行すると貧血となる。血小 板数は増加している場合が多い。好中球アルカリフォスファターゼ(NAP)スコ アの明らかな低下が 80~90%の症例に認められ診断的価値が高い。好中球はビ タミン B12 結合蛋白質を持つので血清中のビタミン B12 は高値となる。血球細 胞の産生・破壊亢進による血清,尿中の尿酸値の上昇がしばしばみられる。骨 髄は過形成で,各分化段階の顆粒球系細胞が著明に増加しており末梢血中の増 加パターンに類似している。巨核球もしばしば増加している。染色体分析では 95%に Ph 染色体〔上述のように染色体転座 t(9 ; 22)により生成する〕を認 める。最近では蛍光プローブを用いた FISH 法や RT-PCR 法により BCR-ABL 融合 遺伝子を検出することも可能である。Ph 染色体陰性例の中には,これらの検査 で BCR-ABL 遺伝子再構成を認めて CML の診断が確定する症例もある。
図 1 フィラデルフィア染色体
CML ビジュアルガイドから引用
(4)病期分類と予後
CML は,無治療では診断後平均約 4 年で急性転化(急性期)を起こし,急性白血 病様の血液像を呈する。急性転化時の芽球は,約 3/4 が骨髄性,1/4 がリンパ 性の形質を示す。急性転化に至った場合の生存中央値は半年前後である。慢性 期から急性転化に移る際に多くは移行期を経るが,その病像は,治療への反応 性の低下,脾腫,血小板減少や貧血,原因不明の発熱など多様で,必ずしも移 行期の診断は容易ではない。移行期から急性転化時には Ph 染色体に加えて,2 個目の Ph 染色体が出現し,その他の付加的な染色体異常が現われることが多い。
表 1 慢性骨髄性白血病の病期
CML ビジュアルガイドから引用
(5)治 療
慢性期には、最近開発された経口薬のイマチニブ(商品名グリベック)を用い る。80%ぐらいの患者で有効である。遺伝子レベルでも白血病細胞は検出さ れなくなる。しかし、薬を止めると早期に再発するため、ずっと飲み続けるの がいい。
副作用としては、むくみや発疹などがある。ひどいときは中止したのちに少量 から再開するといい。残りの2割の患者では、全く効かないか一旦効いたあと に薬が効かない白血病細胞が増えてくる。このような患者では、もしも若けれ ば造血幹細胞移植を行う。高齢者では、インターフェロンやヒドロキシウレア を用いる。2008 年以降、新規分子標的薬(ダサチニブとニロチニブの二種類)が 使用された。このような治療法を行うことにより、最近ではほとんど救命でき るようになりつつある。一部の症例は完治する可能性がある。
(4) Imatinib 使用における予後因子
Imatinib 不応は分子レベルではABL の突然変異などによるkinase の構造変化 によるものと考えられているが、臨床的な要因についても検討されている。
MDACC からの報告では、慢性期CML で①骨髄中の芽球が5%以上②CML 発症1 年 以上③治療開始時点でPh clone が90%を超える④前治療のIFN-αに対して血液
学的寛解が得られない4 項目中2 項目以上を満たすとMCR が60%以下となる とされている。Hematological relapse や生存に関わる因子として、複数の報 告で共通している点は、①治療前からclonal evolution を起こしている症例 (反応はあっても再発しやすい) ②少なくとも6 ヵ月でMCR を得られていない 症例③血小板数が45 万/μl 以上の症例の場合予後不良と考えられる。
図2 BCR-ABL遺伝子変異とCML発症
CML ビジュアルガイドから引用
図 3 慢性期 CML 生存率の向上
【参考】1) Cortes JE et al. Blood 2003; 101: 3794.
2) O’Dwyer ME et al. Blood 2004; 103: 451.
3) Cervantes F et al. Hematologica 2003; 88: 1117.
図 4 イマチニブ(グリベック)耐性(無効)または不耐用(副作用が強い)の場合
CML ビジュアルガイドから引用
図 5 耐性の原因の変異 ABL 解析結果による方針
CML ビジュアルガイドから引用
図 6 治療後の CML の残存病変の評価
CML ビジュアルガイドから引用
図 7 日本の CML ガイドライン
造血器腫瘍ガイドライン 2013 年版 日本血液学会 金原出版から引用
図 8 ENL 規準 欧米の血液学会のイマチニブ反応別規準
図 9 CML の移植適応
造血幹細胞移植ガイドラインから引用
図 10 アメリカのイマチニブ治療薬の STOP(中止)試験の結果
図 11 日本国内の主な治療薬 STOP 臨床試験 当院では、JYCSG group の臨床試験中です。
2.慢性リンパ性白血病(CLL)
[1]成熟形態を示す小型 B リンパ球が単クローン性に末梢血中(絶対数が持続的 に 5,000/μR 以上)や骨髄中(全有核細胞数の 30%以上)で増多する慢性疾患 で,50 歳以上の中高齢者に多く,臨床症状として微熱,全身倦怠感,リンパ節 腫脹,肝・脾腫等が挙げられる。
[2]病期の進行に伴い正常造血能が抑制されて貧血,血小板減少が認められるが,
これは予後とよく相関し CLL の病期の分類基準にも用いられている。
[3]CLL の進行に伴い低ガンマグロブリン血症が増悪,正常リンパ球は減少し,
易感染性となる。また,Coombs 試験陽性の自己免疫性溶血性貧血などの自己免 疫疾患を合併することがある。
(1)特徴および病態生理
成熟形態を示す小型 B 細胞が単クローン性に末梢血や骨髄で増多する慢性疾患 で,進行するにつれてリンパ節腫脹,肝・脾腫,血球減少を来す。その病因は 不明であるが,体内で緩慢な増殖をする B-CLL 細胞はその大半が細胞周期上で は静止期にあり,アポトーシスの障害によるリンパ球の蓄積が主要な病態と考 えられる。CLL の 90%では,アポトーシスの主要な調節因子である Bcl-2 蛋白 質の過剰発現が認められるが,BCL-2 遺伝子の関与する t(14 ; 18)転座は認 められない。
(2)臨床像
欧米では全白血病の 20%を占めるが,日本では 2~3%であり,50 歳以上の中 高齢者に多く,男女比は 2:1 である。臨床症状としては,代謝亢進による微熱,
全身倦怠感,体重減少,夜間発汗,病期の進行により明らかになる無痛性,可 動性の全身リンパ節腫脹と肝・脾腫が挙げられる。ただし最近では,症状はな く定期健康診断や他の病気の検査時に偶然発見されることも多い。
(3)検査所見
大部分の症例において末梢血中の白血球数は 2 万 /μR を越え,その大部分を 成熟した小型リンパ球が占める。CLL の診断基準では,末梢血中の成熟小型リン パ球の絶対数が持続的に 5,000/μR 以上で,骨髄の全有核細胞数の 30%以上を リンパ球が占めるとされている。CLL 細胞は,細胞表面免疫グロブリン(sIg)
弱陽性,B 細胞抗原 CD19,CD20 陽性であり,さらに T 細胞抗原の CD5 が陽性で ある。病期の進行に伴い正常造血能が抑制されて,正球性の貧血(Hb<10g/dL), 顆粒球減少,血小板減少(Plt<10 万/μR)が認められるが,これは CLL の病 期の分類基準にも用いられている。CLL に特徴的な免疫所見として病期の進行に 伴って増悪する低ガンマグロブリン血症,正常リンパ球減少があり,これによ り易感染性となる。CLL 細胞はポリクローナルな低親和性自己抗体を産生するた めに,しばしば Coombs 試験陽性の自己免疫性溶血性貧血などの自己免疫疾患を 合併することがあり,溶血性貧血の場合には網赤血球増加,間接ビリルビン上 昇,LDH(1,2 型)上昇等が認められる。通常,これらに対してはプレドニゾロ ンを用いる。
図 12 慢性リンパ性白血病(CLL)の診断
血液腫瘍科から引用
(4)病期分類と予後
無治療でも長期生存する症例から比較的急速に進行する症例まで CLL の臨床経
過は多様であるため,初診時に臨床病期を決定する必要がある。代表的なもの に Rai および Binet の病期分類がある(表 1)。これらの分類によれば,病初期 では症状がなくリンパ球増多のみであるが,病期が進むにつれて,リンパ節腫 脹,肝・脾腫,血球減少を伴うようになる。予後は病期と反比例し,血球減少 が認められるようになると生存中央値は 2 年,リンパ球増多のみで他に所見の ないものでは 10 年以上生存する。
最近の研究では、CLL のなかの ZAP-70 陽性群(このような症例では CD30 も陽性 になることが多い)は予後が悪いことが判明してきた。したがって、予後の推 測には、ZAP-70 の有無を調べることが重要である。
表 2 CLL の Rai の病期分類(アメリカ)
血液腫瘍科から引用
表 3 CLL の Binet の病期分類(ヨーロッパ)
血液腫瘍科から引用
図 13 慢性リンパ性白血病(CLL)の病期分類
三輪血液病学から引用
表 4 慢性リンパ性白血病(CLL)の予後因子
血液フロンテイアから引用
活動性 B-CLL で 17p 欠損(P53)時同種移植考慮、ない場合化学療法、抗体療法
(5)治 療
病初期で症状のない CLL では無治療で経過を観察することが多い。病期が進行 し,発熱や体重減少などの全身症状,自己免疫性溶血性貧血の合併,著明なリ ンパ節腫脹や肝・脾腫,血球減少を伴う場合には、フルダラビンを投与する。
近年使用されるようになった代謝拮抗剤のフルダラビンは有効性が高く,今後 CLL に対する第一選択薬となると思われる。
表 5 ESMO ガイドラインによる CLL 活動性病態
造血器腫瘍ガイドライン 2013 年版 日本血液学会 金原出版 表 6 International Workshop on CLL の治療開始規準
造血器腫瘍ガイドライン 2013 年版 日本血液学会 金原出版から引用
図 14 CLL の治療ガイドライン
造血器腫瘍ガイドライン 2013 年版 日本血液学会 金原出版から引用
図 15 ZAP-70 の報告
4.その他の慢性白血病類縁疾患
(1)前リンパ球性白血病(PLL)
B-PLL は CLL 類縁疾患の約 1%ときわめてまれな疾患である。65 歳以上に多い。
成熟しているが核小体が顕著な大型リンパ球の増殖が主体で,脾腫は著明であ るが,リンパ節腫大は目立たない。染色体異常は約 50%が del(17p)に認め、
同部位に存在する P53 の異常と関連し、複雑核型多く、治療抵抗性の原因と示 唆される。13q24 異常が 27%と多い。
T-PLL は胸腺細胞由来の表面形質を有するリンパ球の増殖を認めるまれな疾患 ある。生存期間中央値は 7.5 カ月と非常に予後不良である。浸潤臓器としては、
末梢血、リンパ節、脾臓、肝臓、皮膚などである。
(2) 脾原発成熟 B 細胞型リンパ腫(Hairy cell 白血病含む)
Hairy cell 白血病は、細胞の周囲全体に細い多数の棘状突起を有する Hairy cell が末梢血,骨髄等に出現することが最大の特徴である。骨髄の線維化,汎 血球減少,脾腫などがよくみられる。
脾原発成熟 B 細胞型リンパ腫の診断基準
①脾腫
②骨髄または末梢血クローナル小 B リンパ球
③肺門以外のリンパ節腫大無
図 16 脾原発 B 細胞リンパ腫の内訳
表 7 脾原発成熟 B 細胞型リンパ腫瘍の特徴
(3)悪性リンパ腫の白血化
白血化したリンパ腫細胞は,しばしば核のくびれが著明である。
(4) 顆粒リンパ球症(LGL)
末梢血中の顆粒リンパ球が2000/μ1以上に増えている疾患を顆粒リンパ球増多症 (GLPD)と呼ぶ.ただしウイルス感染による一過性の増加を除く,GLPDは, T細慢性に 著変なく経過する。T細胞が増えるT-GLPDと,NK細胞が増えるNK-GLPDに分けられ る. T-GLPDが多い. GLPDは,無治療で観察する.貧血や好中球減少による症状が強 い場合には治療が必要になる。 T-GLPDでは赤芽球瘺による強い貧血が合併する ことがあるが,シクロホスファミドが著効を示す。NK-GLPDには,急性に経過し腫瘍死 する予後不良の亜型もある.。
(5)特発性好酸球増加症候群(HES) 1 概念
末梢血好酸球数が1,500/mm3以上と高度な増加が持続して認められる場合を、好 酸球増多症としている。そのなかで、既知の原因疾患または基礎疾患がなく、心、肺 などの臓器障害を伴う場合を、特発性好酸球増多症候群と呼ぶ。
2 主要症状
(1) 全身症状( 発熱、全身倦怠感、体重減少など)
(2) 心血管症状( 心雑音、不整脈、心不全、狭心症、血栓症など)
(3) 呼吸器症状( 咳嗽、呼吸困難など)
(4) 皮膚症状( 紅斑などの皮疹、血管性浮腫など)
(5) 消化器症状( 下痢、吸収不良)
(6) 精神神経症状( 幻覚、錯乱、片麻痺、四肢末梢の知覚鈍麻など)
(7) 腎症状( 蛋白尿、血尿、膿尿など)
(8) 肝腫、脾腫、リンパ節腫 (9) 筋痛、筋力低下、関節痛など 3 検査所見
(1) 末梢血好酸球増多(1,500/mm3以上、または白血球数10,000/ mm3以上且つ 好酸球15% 以上)
(2) 白血球増多
(3) 血沈値亢進、血清CRP陽性、IgE値上昇 (4) その他各臓器障害を示す所見
4 組織所見
全身に皮膚、筋肉、肺、心、肝、脾、腎、リンパ節、間接滑膜に間質炎として浸出性 変化並びにリンパ球、形質細胞及び組織球を混ずる。好酸球主体の細胞浸潤、結合 織増
生、肉芽腫性変化、細小血管変化を認める。
5 除外疾患
(1) アレルギー性疾患( 気管支喘息、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、薬物ア レルギーなど)
(2) 感染症( 寄生虫、原虫、細菌( 猩紅熱など)、真菌、クラミジアなど)
(3) 皮膚疾患( 湿疹、乾癬、Sezary症候群など)
(4) 膠原病( 結節性動脈周囲炎、Wegener肉芽腫症、好酸球性筋膜炎など)
(5) 悪性腫瘍(ホジキン病、悪性リンパ腫、急性リンパ性白血病、慢性骨髄性白血 病、
赤血球、癌の全身転移など)
(6) 免疫不全症( Wiskott-Aldrich症候群など)
(7) その他( 血液透析後、アジソン病など)
図17 慢性好酸球性白血病の診断
造血器腫瘍ガイドライン 2013 年版 日本血液学会 金原出版から引用