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ファミリー・グループの臨床心理学的理解のための 基礎的考察

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九州大学学術情報リポジトリ

Kyushu University Institutional Repository

ファミリー・グループの臨床心理学的理解のための 基礎的考察

新村, 信貴

九州大学大学院人間環境学府

https://doi.org/10.15017/4777963

出版情報:九州大学総合臨床心理研究. 13, pp.113-119, 2022-03-22. 九州大学大学院人間環境学府附属 総合臨床心理センター

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権利関係:

(2)

ファミリー・グループの臨床心理学的理解のための基礎的考察

新村信貴

 九州大学大学院人間環境学府 

要約

本稿は日本における子育て期の家族を対象としたパーソンセンタード・アプローチのエンカウンター・グループである,ファミリー・グ ループの理論的特徴を明確にすることで,これを臨床心理学の全体的視野から理解するための基礎的な知見を示すことを目的とした。はじめ に,家族を対象にしたファミリー・グループを,個人が対象であるパーソンセンタード・アプローチのエンカウンター・グループとして, 理 論的にどのように位置づけて理解可能かの検討がなされた。結果,対象・目的・構造・ファシリテーションの観点から,その理解が可能にな ることが示唆された。次に,ファミリー・グループを, 同じく複数の家族を対象とし,異なる理論的背景を持つ,複合家族療法・家族キャン プとの間で比較することで,その理論的特徴の検討がなされた。結果,ファミリー・グループで親に生じる,複数の家族同士で関係が持たれ,

比較が生じることによる,自分の家族内の人間関係への気づきは,他の二つのアプローチにおいても共通することが明らかとなった。更に ファミリー・グループと構造の類似性が高い家族キャンプには共通して,家族内の役割からの解放と,体験を家族内で共有することによる関 係への寄与が生じることが示された。この二つのアプローチとファミリー・グループの間には,家族に生じるダイナミックスの共通性が示唆 されたが,ファミリー・グループがパーソンセンタード・アプローチのファシリテーションを有する点は独自と考えられる。

キーワード:エンカウンター・グループ,家族キャンプ,パーソンセンタード・アプローチ,ファミリー・グループ,複合家族療法

Ⅰ.問題と目的

1.エンカウンター・グループとその家族への適用

公認心理師法施行を契機に,従来,臨床心理学的地域援助と 呼ばれて来た,不適応の予防や健康を増進する介入,グループ やコミュニティでの介入の重要性が改めて指摘されている(野 島,2016)。Yalom(1995/2012)は昨今におけるこれらのアプ ローチに,エンカウンター・グループ(以下,EG)が大きな影 響を与えたと指摘した。EG という言葉は,1960年代の米国に おいて①人間性回復運動,②種々の集中的グループ体験,③ Rogersの創始したベーシック・エンカウンター・グループ(以 下 BEG)の三つの意味で使用された(村山,1977a)。本邦では

①国分康孝の構成的 EG と,②非構成的な Rogers の BEG の意 味で用いられるが(野島,2000a),更に構成か非構成かの二分 法にとらわれないものや(村山,2014),その対象人数が大規模 なものも EG と呼ばれる(伊藤・法眼,2020;三國・野島,

2020)。

これらの EG は個人を参加単位とするグループであるが,

Rogers(1970/1982)は,当時米国で流行した集中的グループ 体験を展望する中で,複数の家族を参加単位とする「家族グ ループ」の存在を挙げ,親子間・夫婦間のコミュニケーション 改善についての有用性とその今後への期待を述べた。同時期に Rogers の元に留学し,EG を国内に導入した畠瀬(1972)も,

当時の米国に「ファミリー・エンカウンター・グループ」が存 在していたことを指摘した。Rogers(1970/1982)及び畠瀬

(1972)の言及には引用が付記されておらず,これらの詳細は不 明であるが,畠瀬は帰国後1977年に日本で「ファミリー・グ ループ(以下 FG)」という実践を創始した。これは毎夏の盆休 みに 3 泊 4 日間,自然豊かな環境下で,ほぼ毎年開催がなされ る家族のための EG である(野田・水野,2015)。FG の方法は 国内の不登校キャンプの一例に援用され(金森,1995), 国内の 人間性心理学の論考において一定の評価を得たが(松本,2017; 

高松,2020),普及はせず,類を見ない固有のものとしても継続 されている。なお,FG はファミリー・グループ研究会(以下,

FG 研究会)によってパーソンセンタード・アプローチ(以下,

PCA)に基づいて実施される(FG 研究会,2009)。PCA は自 己一致,無条件の肯定的配慮,共感的理解の三つの態度によっ て,パーソナリティや行動の変化が生じるという理論であり,

個人心理療法だけでなく親子関係,教師と生徒など人間の成長 を目標とするあらゆる状況に通用する「存在の様式」と定義さ れる(Rogers, 1986/2001)。

2.ファミリー・グループの概要

FG の参加対象は原則 3 歳〜高校生までの子どもと家族合計 35名までであり,喫緊の問題を抱えた家族も,余暇目的や EG 体験に関心のある家族も参加する(上保ら,1993;畠瀬ら,

1994)。FG の目的は,グループ体験そのものと,その中で家族 が成長していくことの双方とされ(FG 研究会,2009),年に一 度夏の盆休みに,自然環境豊かな宿舎を貸切り, 3 泊 4 日間開 催される(畠瀬,1987)。FG の構成要素は,① PCA のワーク ショップの構造,②自然環境,③家族での参加,の三点に関し て説明され(上保ら,1993),具体的には,参加者間のミーティ ングでスケジュールを話し合い,その希望に応じて小グループ に分かれ,自然体験や遊び,グループ・セッションを体験して いく(畠瀬,1987;畠瀬ら,1993;FG 研究会,2009)。

FG では大家族グループが形成されると共に,親子間にス タッフが介在することで,子どもには自由,親には役割からの 解放が与えられる。家族同士で関係が持たれることで,親に とっては親同士での支え合いや,自家族と他家族の間での比較 が生じ,自身・子ども・家族をとらえ直すと共に,それらへの 関係の持ち方について気づきを得る機会となる。子どもにとっ ては,きょうだい関係や役割関係が拡大する。家族全体にとっ ては家族内の体験共有が日常生活の支えになるとされる,とし てそのダイナミックスが説明される(上保ら,1993)。また FG の先行研究は実践報告(畠瀬,1987;畠瀬ら,1993;上保ら,

1993;野田・水野,2015)の色合いが強いが,経年参加者に面 接調査も行われた(畠瀬ら,1994)。畠瀬(1994)はエピソード の紹介が主であり,それらをふまえた理論化はなされていない が,各エピソードを整理すると,次のような意義があることが 推察される。FG 参加によって親には,①子どもに対する認知・

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関わりの変化,②自身と家族への肯定的態度の高まりが生じる 可能性がある。子どもには,①対人コミュニケーションの成長 や,②内在化されたグループ体験が日常生活で心理的支えを生 じさせる可能性がある。またこれらに加えて,親子に共通する ものとして,①家族内で共有された体験が日常生活に支えを生 み,②経年参加に至れば,毎年自身や自家族の成長への気づき が生じる可能性がある(上保ら,1993)。

3.ファミリー・グループ研究の課題と本研究の目的

このように,FG が有するダイナミックス(上保ら,1993)

や,経年参加者にとっての意義(畠瀬ら,1994;上保ら,1993)

はある程度検討されてきたが,各々の参加者にとって多様な意 味が生じるという点が強調され(畠瀬ら,1994),理論化は不十 分であったといえる。また得られた知見も FG という特殊な実 践の考察の域を出ず,臨床心理学全体に寄与するものとはいえ ない。これが実現されるには,FG を臨床心理学の全体的な視 野から理解することが求められる。そのためには FG を,位置 づいている PCA の EG の理論から理解し,更に,異なる理論的 背景を持つ家族介入のアプローチとの間における異同が説明さ れる必要があろう。FG は PCA による家族のための EG とされ てきたが(野田・水野,2015),本来個人が参加単位となる PCA の EG の一種であるとされる理論的根拠は充分に示されて こなかった。

そこで本研究では,① FG の実際について示しながら,FG を PCA の EG として理論的にどのように位置付けて理解すること が可能であるかを検討する。なお PCA の EG とは,代表例に Rogers の BEG が挙げられる。BEG は 1 〜 2 名程度のファシリ テーターと10名前後のメンバーが一つのグループを形成し,非 構成的なセッションを継続して体験するものだが(野島,

2000b)この他にも,コミュニティ・グループと呼ばれる30名 から(中田,2005)100名以上(三國・野島,2020)のもの,構 成的なセッションを導入しながら個人尊重の態度を最重要視す る PCA グループ(村山,2014)などの発展がある。そこで本 稿ではこれら,PCA によるものであることが示されている EG の知見を参照し,FG について,対象,目的,グループ構造と ダイナミックス,スタッフの役割とファシリテーションの観点 から検討を行う。②加えて,異なる理論的背景を持つ,複数の 家族を参加対象とするアプローチと FG を比較し,その異同を 明らかにすることを通して FG の理論的特徴を検討する。ここ での比較の対象は,複数の家族を対象に展開される家族療法で ある複合家族療法と,同様の対象に,組織的に目的を持って実 施される家族キャンプ・プログラムとする(以下,家族キャン プ)。ここでは①と同様の観点から比較を行いつつも,対象が家 族であるという点に着目し,家族に生じるダイナミックスを中 心に検討を行う。これらにより,FG の理論的特徴を明確にし,

臨床心理学の全体的視野における FG の理解のための基礎的知 見を示すことを目的とする。

Ⅱ .FG は PCA の EG としてどのように理論的に位置づけて理 解可能か

1.対象設定についての理解

FG には多様な背景を持つ家族が参加するが,子どもについ ては,発達的特性を有するもの,不登校や緘黙,遺糞などの特 別なニーズを有するものと, 特にこれらのエピソードを有さな

い子どもの双方が混在する(畠瀬,1987;畠瀬ら,1994;野 田・水野,2015)。この点に関しては,PCA の EG も,対象者 に対して正常か否かという視点を持たず(畠瀬,1972),社会の 縮図となるよう多様な個人を受け付ける(村山,1977b)。この ように,具体的な対象設定をせずに,多様な家族を受け付ける 点は,PCA の EG の特徴として理解できよう。

2.目的についての理解

FG は当初その目的を,PCA による自由で開放的な新しい家 族づくりとうたいながら,実践経過の中でそれをより具体化し てきた経緯があるが(畠瀬,1987;畠瀬,1994;FG 研究会,

2006,2009),大きな方向性として,それぞれの家族にとって成 長していく場であると同時に,グループ・プロセスの体験その ものも目的と位置づける点がある(FG 研究会,2009)。PCA の EG においても,グループの中の深くて親密な人間関係の体験 自体が目的の一つとされ(野島,2000b),その他のアプローチ と比較した場合に体験そのものにウェイトが置かれる(坂中,

2015)と指摘があり,ここには同様の傾向が推察される。

FG における成長(FG 研究会,2009)は具体的には,家族関 係の改善(畠瀬ら,1994;FG 研究会,2009),より健康な家族 になること(畠瀬ら,1994),子どもの主体性・率直な自己表 現・ 思 い や り の 心・ 社 会 性 が 育 ま れ る こ と(FG 研 究 会,

2006),親が自身・子ども・家族の見方や関わりを見直す機会 となること(FG 研究会,2006)として表される。ここからは 対人関係の変化が中心的狙いであることが分かる。この点につ いて PCA の EG は,「個人の成長,個人間のコミュニケーショ ンおよび対人関係の発展と改善の促進を強調する」(Rogers,  1970/1982)と指摘されており, この二者間では,対象を個人か 家族かの違いはあるものの,同様に対人関係の変化を主な目的 とすることが分かる。特に FG の親(FG 研究会,2006,2009)

と家族(畠瀬ら,1994;FG 研究会,2009)における目的は,家 族内での対人関係の変化を目指していることが分かる。一方,

子どもにおける目的(FG 研究会,2006,2009)は,必ずしも 家族内に限らない広範な対人関係の変化を指していることが分 かる。更に Rogers(1970/1982)が言及した「個人の成長」と は,自己理解と他者理解の深まりとして説明されるが(野島,

2000b;坂中,2012),これは FG の親における目的においても

(FG 研究会,2006,2009),自身・子ども・家族の見方を見直 す機会となるという点で共通する。FG は対象が家族だが,グ ループ体験そのものを目的とする点と,参加者の成長,即ち対 人関係の改善と自己理解と他者理解を目的する点は,PCA の EG の特徴として理解できるであろう。

3.グループ構造とダイナミックスについての理解

FG の構成要素は,① PCA ワークショップの構造,②自然環 境,③家族での参加,この三点に関して説明される(上保ら,

1993)。この点に関して PCA の EG には,自然環境の体験を取 り入れた実践例も存在するが,家族参加は条件ではなく(高松,

2011),上記三点のすべては,PCA の EG の特徴としては説明 が困難であることが分かる。そこで,FG における PCA ワーク ショップの構造について限定し,PCA の EG としての理解を試 みたい。

1  )参加者間のミーティングでのスケジュールの話し合いと希 望に応じた小グループ化

FG には,参加者全員での共有体験を可能にするための最低 九州大学総合臨床心理研究 第13巻 2021

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限の構造はあるものの(上保ら,1993),家族ごとに自由に使え る個室が与えられ(e.g., FG 研究会,2009) ,親子の間にスタッ フが介在するため,親子それぞれが自由となる(上保ら,

1993)。概ねのスケジュールは初日の「はじめの会」,毎朝の「朝 の会」で話し合い決定する(e.g., FG 研究会,2009)。体験内容 は親グループ(主に EG 的セッション),子どもグループ(野 外・室内遊び)の小グループと,親子合同の小・大グループ

(登山・野外料理・肝試しなど)から成る(e.g., 畠瀬ら,1993,

1994)。 PCA の EG の伝統的な代表例である BEG は,10人前 後の同一のメンバーが非構成的なグループ・セッションを継続 して体験するものであり(野島,2000b;坂中,2017),これか らは FG の構造は説明がつかない。しかし,PCA の30名から

(中田,2005)100名以上(三國・野島,2020)の大型の EG は,

コミュニティ・グループと呼ばれ,ここではグループ全体をコ ミュニティと見なし,全員でこれを運営するための「コミュニ ティ・ミーティング」が継続的に持たれる場合があり,そこで は,それぞれの意向に応じ,スケジュールの検討や小グループ 化が行われる(e.g., 畠瀬,2008)。ここから,FG のミーティン グと小グループ化の構造は,PCA の大型の EG であるコミュニ ティ・グループの方法が採用されていると理解可能である。

2  )セッション構造を有する小グループと自然発生するイン フォーマルな小グループ

FG 内で生じる各小グループ体験は,明確なセッション構造を もつ場合とそうでない場合が双方ある(e.g., 畠瀬,1987;畠瀬 ら,1993)。親グループは,部屋を閉ざし終了時刻を定め,スタッ フがファシリテーターを務める場合もあれば,出入り自由の交 流スペースとなっているスタッフルームに親が自由に集い語ら うインフォーマルなものもある(e.g.,  畠瀬,1987;畠瀬ら,

1993)。子どもグループも同様,安全管理上,野外遊びなど誰が 参加するかを明確にするものも(e.g., FG 研究会,2006),宿舎で 自由に遊び語らう中で発生するものもある(e.g., 畠瀬ら,1993)。

インフォーマルな小グループは頻繁に自然発生する(e.g., 畠瀬,

1987;畠瀬ら,1993)。このように,FG ではグループ・セッショ ンとそうでない時間の境が曖昧であるといえる。こうした特徴 を有する PCA の EG には,PCA グループ(村山,2014)が挙げ られる。PCA グループは,主に高等教育機関で宿泊を伴い,ク ラス単位での実践が多くなされており,小グループ化を伴いな がら,構造化されたセッションを体験していくが,その特徴の一 つに,セッション外の時間も含めてワークショップの場と時間全 体をコミュニティと認識する視座が挙げられており(村山,

2014),この立場は FG と共通するものといえるであろう。

3  )親と子には自由が与えられそれぞれのペースで小グループ に参加

FG では各家族に個室が与えられ(FG 研究会,2009),各グ ループ体験への参加は自由である(畠瀬,1987;畠瀬ら,

1993)。親が登山に行き,一方で子どもが川遊びに行くなど,別 のグループに分かれて行動した場合は親子分離が生じるが,宿 舎で過ごす多くの時間は明確な分離は生じない(e.g., FG 研究 会,2009)。親グループ・子どもグループ間の境界も緩やかで,

他の家族の親と子同士の交流も生じる(野田・水野,2015)。

夜,子どもには,親の個室とは別の大部屋で,スタッフと共に 就寝する機会を提案するが,臨めばいつでも親元に帰ることが でき,低年齢児の不安を最低にしながら,独立的体験ができる

よう配慮する(畠瀬,1994)。このように FG では,参加者が各 自のペースでグループに参加できることを重要視している。こ うしたその個人なりのグループ体験の仕方を尊重する立場は,

PCA グループと親和性が見られる。PCA グループでは,同様 に個人の心理的安全感や所属感を尊重する(村山,2014)。

このように,FG の中に小グループが自然発生することで,グ ループ全体が参加者同士の交流の生まれるコミュニティとなる 点,及び,グループへの参加の仕方について個人のペースを尊 重する立場は,PCA グループとの共通性が示唆されるであろ う。なお,FG で家族に生じるダイナミックス(上保ら,1993)

は 1 章 2 節に示したが,PCA の EG は個人を参加単位とするた め,このダイナミックスは説明がつかないと考えられる。

4.スタッフの役割とファシリテーション

1 )個人を尊重する雰囲気や文化の中に参加者を包含

FG は PCA の理念的背景の上に成立する「緩やかな凝集性を もったコミュニティ」(FG 研究会,2006)として,「『一人ひと りの存在が生かされる体験になるように』そして『全体として は思い思いの行動が自由にとれて,集団にしばられずに,それ でいて集団を大切にしている動きのあるグループをめざす』

(畠瀬,1987)としてその方針が説明される。存在するほぼ唯一 のルールは「個々の存在が他者からきちんと尊重されること」

であるとされる。そのためにスタッフはこのルールを共有し,

そこに生まれる雰囲気や文化の中に,参加者を包含する。参加 者はその中で自分の存在が受け入れられ,尊重されることの実 感をもってこのルールを体験し,内面化していくことができる とされる (FG 研究会,2006)。これと同様に,PCA の EG の ファシリテーションは,ファシリテーターがメンバーに PCA の態度(無条件の肯定的配慮,共感的理解,自己一致)を向け ることで,やがてメンバーもお互いにこれらの態度を向け合う ようになるということが指摘されている(坂中,2017)。FG に おいて,スタッフが個人を尊重する文化や雰囲気の中に参加者 を包含するというファシリテーションの在り様は,PCA のそ れと同様の背景をもつものといえるであろう。

2  )子どもに自由と親に役割からの解放が生じるよう親子間に 介在

また同時に FG のスタッフは親子間に介在する。子どもに自 由と,親に役割からの解放が生じるよう(上保ら,1993),それ ぞれの希望が実現されるよう(FG 研究会,2019),親に代わり 子どもの関わりを担い,子どもの欲求の実現に知恵や時間を提 供する(FG 研究会,2006)。子どもへの関わりは PCA のプレ イセラピーの原理に基づく(畠瀬ら,1993)。この点については PCA の EG は参加単位が個人であるために,親子関係の間に ファシリテーターが介入することはないが,メンバー各々がど の様にグループの時間を使いたいかといったそれぞれの意向を 尊重することが挙げられる(野島,2000b;坂中,2015)。よっ て,親子間への介入は PCA の EG としては説明がつかないが,

各参加者が思い思いの時間を過ごせるようにサポートを行う点 は PCA の EG の特徴といえるであろう。

以上のことから,FG の対象,目的,グループ構造とダイナ ミックス,スタッフの役割とファシリテーションは,家族に生 じるダイナミックスと親子間に介在するスタッフの役割を除け ば,PCA の EG としての理論的特徴を有していることが示唆さ れたといえる。

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Ⅲ .FG と異なる理論的背景を持つ複数の家族を対象にするア プローチとの比較

次に FG と家族キャンプ,複合家族療法との比較を行う。対 象,目的,グループ構造,家族に生じるダイナミックス,スタッ フ役割とファシリテーション,理論的背景についてそれぞれ表 1 に示した。組織的な家族キャンプは古くは米国で1950年代に 報告され(Regnier & Lynch, 1959/1961),2000年代以降より,

家族機能を高める実践としての理論化が試みられている

(Agate & Covey, 2007 ; Taylor et al., 2006)。複合家族療法は 精神科医のLaqueurによって統合失調症の患者と家族を対象に 1951年に創始され(後藤,2004),現在では多様な対象に実践が なされ(Steinglass et al., 2019),欧米では一般的な家族介入と される(後藤,2004)。

1.家族に生じるダイナミックスについての三者の共通性 FG で親に生じる, 複数の家族同士で関係が持たれ,自家族 と他家族の比較が生じることによって,自分・子ども・家族を とらえ直し,それらへの関係の持ち方について気づきを得ると

いう指摘(上保ら,1993)は,複合家族療法において,家族内 のコミュニケーションパターンが他家族との交流によって意識 化されるとして(後藤,2004),家族キャンプでは,家族同士の 観察,比較,フィードバックによって気づきが促進され,対人 関係の問題の見直しや新しい交流方法が模索されるとして

(Clark & Kempler,1973),指摘されており,ここには共通性 があるといえよう。複合家族療法および家族キャンプの理論を 用いて,FG のダイナミックスを理解することも可能であるこ とが示唆される。また複合家族療法で起こるダイナミックスの 指摘は,この他にも,観察,学習,問題解決行動の試行錯誤な ど多岐に渡っている(後藤,2004)。これらは FG の言及(上保 ら,1993)に見られないものだが,こうしたダイナミックスが FG においても生じている可能性も考えられる。

2 .FG と家族キャンプで家族に生じるダイナミックスの共通 性と異質性

FG の構成要素には自然環境があり(上保ら,1993),この点 について類似するのが,家族キャンプである。家族キャンプで

表1 FGと異なる理論的背景を持つ複数の家族を対象にするアプローチとの比較

ファミリー・グループ 家族キャンプ・プログラム 複合家族療法

原則 3 〜18歳までの子どもとその家族が対象で, 

(FG 研究会,2009),多様な背景の家族が参加する

(畠瀬,1987;畠瀬ら,1994;野田・水野,2015)。

家族・子どもの特別なニーズや,子どもの年齢層 の同一性に基づいた対象設定がなされる(e.g., 国 立青少年教育振興機構,2021;American camp  association, 2021)。

同一の精神疾患,身体疾患,その他のニーズを有 す る 患 者・ 当 事 者 と そ の 家 族 が 対 象 と な る

(Steinglass et al., 2019)。

・ グループ体験そのものと,参加者の成長(FG 研 究会,2009)。

・ 成長とは,子どもにおいては,主体性・率直な 自己表現・思いやりの心・社会性などが育まれ ること(FG 研究会,2006,2009),親において は,自分自身・自分の子ども・家族の見方や関 わりが見直されること(FG 研究会,2006),家 族全体にとっては,家族がより健康になったり,

関係が改善されること(畠瀬ら,1994;FG 研 究,2009)が主には想定されている。

・ 家 族 内 の 人 間 関 係 へ の 寄 与(e.g., American  camp association,発行年不明 a; 国立青少年教 育振興機構,2021)。

・ 複数の家族間・保護者間の交流(e.g., 国立青少 年教育振興機構,2021)。

家族内及び,他家族同士のコミュニケーションを 良くすること。患者の家族が,他の家族のグルー プメンバーとの関わりの中から,患者をより良く 理解できるようになること。これらを通じて家族 同士の問題解決を援助する(後藤,2004)。

・ 自然環境を有する施設の中で宿泊が伴い,非構 造的で,希望に応じて小グループ化を伴う。誰 がどの小グループに参加し,何をするかは自由 である(畠瀬,1987;畠瀬ら,1993;FG 研究 会,2009)。

・ しかし,同時に参加者間の緩やかな凝集性を意 識し,それぞれが生かされる体験となるよう,

一つのコミュニティを作っていくファシリテー ションが位置付けられている(畠瀬,1987;FG 研究会;2006)

・ 自然環境を有する施設の中で宿泊が伴い,国内 のものはプログラムが主催者によって既に決定 され,構造化されている(e.g., 国立青少年教育 振興機構,2021)。

・ 米国では,特別なニーズに応じた実践では構造 化の度合いが高いものの,一般的なものでは構 造が弱く(Agate & Covey,2007),何をするか は 参 加 者 が 決 め る こ と が 出 来 る (American  camp association,発行年不明 b;Rosenberg,

2006)。

・ 自然環境を交えた実践例もあるが主流ではない

(Swank&Daire,2010)。

・ 通常は 4 〜 5 組の家族で,治療者も複数名で チームを組み,複合家族集団を形成(後藤,

2004)。プロトコルに従うもの,出入り自由な オープンエンドのもの, 1 日で終わるもの,参 加者を固定し 6 〜 8 セッションで終わるもの,

一 年 以 上 継 続 さ れ る も の な ど, 形 態 は 様 々

(Steinglass et al.,2019)。親と子が別グループ に分かれる場合もある(Fristad et al., 2003)。

・ 大家族グループが形成されると共に,親子間に スタッフが介在することで,子どもに自由と,

親に役割からの解放が与えられる。

・ 家族同士で関係が持たれ,親には親同士での支 え合いや自家族と他家族の比較が生じ,自身・

子ども・家族をとらえ直すと共に,それらへの 関係の持ち方について気づきを得る機会とな る。

・ 子どもは,きょうだい関係や役割関係が拡大す る。

・ 家族全体にとっては家族内の体験共有が日常生 活の支えになるとされる(上保ら,1993)。

・ 家族療法的視点に基づく非構造的な家族キャン プの研究では次のような指摘がある。

① 家族に日常の責任からの解放,家族内の関係性 や相互作用の中断が生じ,新たな行動が試みら れる。

② 家族同士の遊び,食事,話し合いの中で,観察 や比較,フィードバックが起こる。その結果,家 族には,成長に必要な気づきが促進され,対人 関係の問題の見直しや,新しい交流方法が模索 される。

③ 更に家族が共に食事し,歌い,遊ぶ体験が家族 の親密さや希望の再生につながる(Clark & Kempler,1973)。

・ 余暇と家族機能の研究でも同様に,家族キャン プでの家族役割からの解放と,同時にその結束 を高める機能が指摘される(Orthner, 1975)。

・ 個々の家族が集団のサブシステムとして置き直 されることで,以下の 7 点が生じる。

① 他家族の類似する問題や関係を観察し,学習す る。

② 治療者からの解釈が複数家族に間接的になされ ることで,受け入れられやすい。

③ 治療者の問題解決例や他家族の方法を観察し,

学習する。

④ 親は親,子は子への同一視が生じ,共感・支持・

学習が起こる。

⑤ 同じ問題を抱える故,凝集性が高まり問題解決 が試行錯誤される。

⑥ 家族内のコミュニケーションパターンが,他家 族との交流によって意識化される。

⑦ 治療者からのメンバーへの非難的発言が他メン バーによって緩和され,またメンバーからの助 言の方が,抵抗が少ない,(後藤,2004)。

九州大学総合臨床心理研究 第13巻 2021

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起こるダイナミックスは,日常の役割と責任からの解放や家族 内の関係性や相互作用の中断,及び,体験を家族内で共有する ことによる家族の親密さや結束,希望へのつながりが指摘され る(Clark & Kempler, 1973 ; Orthner, 1975)。FG においても,

子どもには自由,親には役割からの解放が与えられ,家族の体 験共有が日常の支えとなると指摘されており(上保ら,1993),

ここには共通性が推察される。

次に二者の異質性に目を向けたい。FG において子どもに自 由と親に役割からの解放をもたらされる背景には,スタッフの 介在があるが(上保,1993;FG 研究会,2006),家族キャンプ でも FG と同様に親子が別行動をとり,親子間にスタッフが介 在する場合がある (e.g., American camp association, 発行年不 明 b;Rosenberg, 2006)。しかし FG のスタッフは子どもに PCA のプレイセラピーの原理に基づいて関わる点が異なる

(FG 研究会,2006)。更に FG のスタッフは PCA に基づき,参 加者に自由がありながら緩やかな凝集性を持ったコミュニティ を目指すファシリテーションを担う(FG 研究会,2006)。米国 の家族キャンプ・ディレクターの原則についての調査では,家 族にリラックスする機会を与え,その選択を尊重するという項 目が挙げられたが(Taylor et al., 2006),こうした緩やかな家 族間交流は家族キャンプの実践の原則には含まれない。このよ うに,FG は家族キャンプと類似性を持ち,理論的に共通する 部分があるが,FG には PCA に基づくファシリテーションが存 在するという点が独自といえよう。

Ⅳ.まとめ

以上より,FG はその対象,目的,グループ構造,ファシリ テーションの観点からPCAのEGとして理論的に位置づけて理 解することが可能であると考えられた。なお,FG で家族に生 じるダイナミックスは,家族キャンプと複合家族療法に共通性 があると共に,それらの理論から理解できる可能性があるこ と,一方でそこに PCA のグループ・ファシリテーションが介 在する点は FG の独自性であることが示唆された。今後もより 系統的な文献のレビューと,臨床心理学の全体的視野からの FG の理解に基づく,臨床心理学全体に寄与し得る FG 研究の蓄

積が求められよう。

〈付記〉

いつも大変親身のご指導をくださいます金子周平先生,この 度,大変丁寧なご指導をくださいました査読の御担当の先生 に,心より感謝を申し上げます。

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・ 「個々の存在が他者からきちんと尊重される」と いうルールを共有し,その雰囲気や文化の中に,

参加者を包含。参加者は自分の存在が受け入れ られ,尊重されることの実感をもってこのルー ルを体験し,内面化する(FG 研究会,2006)。

・ スタッフは,親子間に介在する。子どもに自由 と,親に役割からの解放が生じるよう(上保ら,

1993),それぞれの希望が実現されるよう(FG 研究会,2019),親に代わり子どもの関わりを担 い,子どもの欲求の実現に知恵や時間を提供す る(FG 研究会,2006)。子どもへの関わりは PCA のプレイセラピーの原理に基づく(畠瀬 ら,1993)。

・ 日本の家族キャンプにおけるファシリテーショ ンは,キャンプをグループ・アプローチとして 論じた伊藤(2010)の実践報告においても,十 分な言及が見られず,国立青少年教育振興機構

(2021)の報告でも,事業運営上の留意点は挙げ られるが,グループ・ファシリテーションにつ いての記載はない。

・ 米国で家族キャンプ・ディレクターの原則を調 査した Taylor et al., (2006)では,家族を強める こと,家族リラックスする機会を与えること,

家族の選択を尊重すること,といった共通性が 見出された。米国の家族キャンプでは,スタッ フはキャンプ場に供えられた各種の体験活動の 担当に加え,食事やスケジュール調整を担当す る。スタッフが親子間に介在し,親子が分かれ てそれぞれが別の体験をすることも,分かれず に同じ体験をすることもできる(e.g., American  camp association,  発 行 年 不 明 b;Rosenberg,  2006)。

・ 家族同士での問題解決を基本とする方法である ため,家族の病理に焦点を当てず, 家族は必要 な状況に置かれれば相互に援助できる,という 立場で,家族の本来持っている力をより高めて いくためのファシリテーションが求められる

(後藤,2004)。実際,治療者の役割は触媒となっ て,家族同士の交相互作用を促進することであ り,実際の治療的体験は家族同士でなされる部 分が大きい(Asen, 2002)。

・ なお,こうした相互作用の促進だけではなく,

精神疾患における介入の中では,心理教育が導 入され,疾患についての情報の提供がなされ,

問題解決を参加者同士で考えていくための構造 的なセッションが行われる(後藤,2004)が,こ うしたアプローチの中でも,複合家族療法の一 番の有効成分はやはり,非難のない雰囲気の中 で行われる家族同士の体験の共有であり,心理 教育で提供される情報自体の有効性はその次に 位置すると指摘される(Steinglass et al, 2019)。

パーソンセンタード・アプローチのエンカウン ター・グループとプレイセラピー (畠瀬,1987;

畠瀬ら,1993, 1994,FG 研究会,2006, 2009;野 田・水野,2015)。

日本の家族キャンプは理論が確認されず,米国で は家族システム理論と,家族レジャー機能のコア バランスモデルが引用される。後者は家族余暇の パターンが,家族機能に貢献することを示唆する 

(Freeman & Zabbriskie, 2003)ものである。

集団心理療法,家族システム理論,家族療法 (構 造的家族療法,戦略的家族療法),社会学習理論,

社 会 的 グ ル ー プ ワ ー ク 理 論 が 挙 げ ら れ る

(Dennison, 2005)。

(7)

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(8)

Basic considerations for clinical psychological understanding of family groups

Nobutaka NIIMURA

Graduate School of Human-Environment Studies, Kyushu University

The purpose of this paper is to clarify the theoretical characteristics of the family groups, which is an encounter groups of the person-centered approach targeting families in the child-rearing period in Japan, and to present basic findings for understanding this from the overall perspective of clinical psychology. First, it was examined how the family groups, which targets families, can be theoretically positioned and understood as an encounter groups in the person-centered approach, which targets individuals. As a result, it was suggested that it is possible to understand the family groups from the viewpoint of object, purpose, structure, and facilitation. Next, the theoretical characteristics of family groups were examined by comparing them with multiple family group therapy and family camps, which also target multiple families and have different theoretical backgrounds.

As a result, it was found that parents’ awareness of their own family relationships, which is caused by the relationships and comparisons among multiple family members in the family groups, is common in the other two approaches. Furthermore, it was shown that family camps with a high degree of structural similarity to family groups have in common the liberation from family roles and the contribution to relationships through the sharing of experiences within the family. Although these two approaches and family groups suggest similarities in the dynamics that occur in families, family groups are unique in that they have the facilitation of the person-centered approach.

Keywords: encounter groups, family camps, family groups, multiple family group therapy, person-centered approach

参照

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