― 76 ―
植 物 防 疫 第
71
巻 第4
号 (2017年)288
昆虫芸術研究家
柏田 雄三
(かしわだ ゆうぞう)エッセイ
楽しい “虫音楽” の世界
(その 19 愉快な蛙の音楽たち)蛙が大好きな髙﨑麻紀さんによると,蛙はヨーロッパ では多くの卵を産むことから多産や豊穣を,変態するこ とから復活や魔術を,水と縁が深いことから浄化や豊か さのイメージを持たれるそうだ。そんな蛙にどのような 音楽があるのだろうか。
グリム童話やマザー・グースに出てくるように,蛙は 人間と近い位置に置かれることがある。ジャン=フィリ ップ・ラモー(1683〜
1764)のオペラ《プラテ》が作
曲者の没後250
年を記念して東京都北区の「北とぴあ」で上演された。蛙の鳴き声が満載で,人間にモテている と勘違いする蛙の滑稽さ,悲しさが巧みに盛り込まれた ユニークな曲だった。ノーベル文学賞受賞のボブ・ディ ランやパウル・ヒンデミット(1895〜
1963)の《蛙の
求婚》という曲でも蛙は人間と同じ世界にいる。モーリス・ラヴェル(1875〜
1937)のオペラ《子供
と魔法》では昆虫,雨蛙,ひき蛙が大合唱,ベンジャミ ン・ブリテン(1913〜76)のバレエ音楽《パゴダの王子》
はインドネシアのガムラン音楽を取り入れた曲で,羽根 のある
4
匹の蛙たちがお姫様を渡海させる。シャンソン《蛙》でもブロンド娘に早変わりする。イギリスのジョ ン・ダウランド(1563〜
1626)の《蛙のガイヤルド》
は彼の代表的なリュート曲だが,曲名の由来はよくわか らないようだ。
何といっても蛙は鳴き声だ。バロック時代のハインリ ッヒ・ビーバー(1644〜
1704)の《描写的なヴァイオ
リン・ソナタ》は〈夜鴬〉〈カッコウ〉〈猫〉などからな る描写的な曲集で,〈蛙〉でも鳴き声を描写している。ゲオルク・フィリップ・テレマン(1681〜
1767)のヴ
ァイオリン協奏曲《蛙》は始まってすぐに蛙の合唱だ。《アルスター序曲》の〈蛙とカラスの合奏〉でも蛙が鳴く。
ヨーゼフ・ハイドン(1732〜
1809)の弦楽四重奏曲第 49
番《蛙》にも鳴き声のように聞こえる部分がある。蛙の鳴き声を表現するのによくバリオラージュ奏法が 使われる。ヴァイオリンなどの開放弦(指で弦を押さえ ていない状態)と同じ高さの音になるように隣の弦を押 さえ,二つの弦を交互に急速に弾く奏法のことで,キュ
ルキュルと蛙の声のような不思議な効果が表れる。
ラテン音楽の《蛙のルンバ》
,
ボサノバの《アハン》(ポ ルトガル語で蛙)も蛙の鳴き声,セミクラシックのルド ルフ・ハンフの《愉快な蛙》はガーガーガーと男性の歌 声が入るユーモラスなマーチだ。大急ぎで日本の曲に触れる。蛙となれば「蛙の詩人」
として知られる草野心平の名前を忘れるわけにはいかな い。そんな彼の詩を歌詞にした曲がいくつも作られてい る。多田武彦作曲の合唱組曲《誕生祭》
,高嶋みどり作
曲の《蛙ばあさんミミの挨拶》,湯山昭作曲の《河童と
蛙》,堀悦子作曲の《蛙の歌》 ,南弘明作曲の《蛙の歌》
等賑やかである。
彼の歌詞ではないが童謡《蛙の笛》
,野口雨情作詞,
中山晋平作曲の《蛙の夜回り》
,
《赤とんぼ》と同じ三木 露風,山田耕筰コンビによる《青蛙》,北原白秋作詞,
山田耕筰作曲の《かえろかえろと》等もある。
我が家の近くではアマガエルはいても,トノサマガエ ルを見ることは少なくなった。世界ではカエルツボカビ 症で両生類の減少が懸念されているとも聞く。田圃に水 が入ると眠れないほど鳴いていた蛙の声をまた聴いてみ たいものだ。
テレマン ヴァイオリン協奏曲「蛙」