楽しい 虫音楽 の世界 ― 61 ― 220 画家の安野光雅氏がフランスを訪ねるテレビ番組を観 ていたら,ジャン・アンリ・ファーブル(1823 ∼ 1915) が作曲した<セミ><コオロギ><ヒキガエル>という 題名の曲が流れていた。彼が曲を作っていたことは知っ ていたが,耳にするのは初めてのことである。 専門家でない人が作曲したのはフリードリヒ大王,マ リー・アントワネット,ニーチェなどの例を見ればそれ ほど珍しいことではない。 ファーブルは植物学・数学・物理学などの本も書きノ ーベル文学賞の候補になったほど多才な人だったが,彼 の曲は平凡なものであった。彼自身のことすらフランス では余り知られていないそうで,そのテレビ番組でも 「ファーブルを知っているか?」と何人もの人に訊くシ ーンがあった。日本ではファーブルのことは子供も良く 知っていて『ファーブル昆虫記』のミュージカルが作ら れるほど有名なのに不思議なことである。 その『ファーブル昆虫記』には後世の専門の作曲家が 作った音楽がある。 ファーブルと同じフランス人のアルベール・ルーセル (1869 ∼ 1937)の≪蜘蛛の饗宴≫は『ファーブル昆虫記』 に触発され1912 年に作られたバレエ音楽である。全曲 版は<前奏曲−庭><アリの登場><糞虫の登場−蝶の 踊り><蜘蛛の喜び−蜘蛛の踊り><シンクイムシの登 場><戦闘的な二匹のカマキリ><アリのロンド><カ ゲロウの孵化><カゲロウの踊り><カゲロウの疲れ> <カゲロウの死><カゲロウの葬送>の小曲からできて いる。庭に巣を作る蜘蛛とその になる昆虫たち,蜘蛛 を狙うカマキリ,神秘的なカゲロウの一生が描かれている。 そのものズバリ≪ファーブル昆虫記≫という名の曲も ある。山田栄二(1948 ∼)の 8 本のホルンのための組 曲で<ウスバカマキリ><ツチハンミョウ><オオモン シロチョウ><ムナゲモンシデムシ><バッタ>の5 曲 から構成されている。<ウスバカマキリ>はAllegro <ツチハンミョウ>はAndantino <オオモンシロチョ ウ>はTempo de Valse といった具合に虫にピッタリの 表情記号が付けられ,2002 年に作られたばかりの現代 の曲なのにどの小曲にも親しみやすい虫の表情が見え る。作曲者は虫好きで『ファーブル昆虫記』を読み直し て愛情を持って作曲したそうだ。ルーセルの曲がどちら かと言うと雰囲気を表すオーケストレーションを楽しむ のに対して,山田の曲は具体的に虫の生態を表した曲だ と言えよう。ファーブルが聴いたらきっと喜んだことだ ろう。
楽しい“虫音楽”の世界(その1『ファーブル昆虫記』の音楽)
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