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楽しい“虫音楽”の世界(その2)

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Academic year: 2021

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植 物 防 疫  第68 巻 第 6 号 (2014 年) ― 74 ― 373 2010 年 6 月に神奈川県立近代美術館 葉山で開かれて いた「話の話―ロシア・アニメーションの巨匠 ノルシ ュテイン& ヤールブソワ」展を観た。ユーリ・ノルシ ュテインはアニメーションの世界的巨匠で,「話の話」 をはじめとする彼の作品は素晴らしい。LD(現在は DVD)でいったい何十回観ただろうか。その彼の展覧 会を知ったので足を運んだのである。会場ではDVD に はない短い映像「冬の日(狂句 木枯の身は竹斎に似た る哉)」が放映されていて,藪医者の竹斎が紅葉の幹に 小型のラッパのような聴診器を当てて音を聴いている場 面があった。図録にも「幼虫が木をかじるのを聴く竹斎」 というユーモラスなコラージュが載っている。木をかじ っているのはゴマダラカミキリの幼虫ででもあろうか。 オペラ≪フランチェスカ・ダ・リミニ≫で知られるイ タリアのリカルド・ザンドナイ(1883 ∼ 1944)に≪二 匹の木喰い虫≫と言う歌曲がある。ソプラノ歌手佐藤由 子さんのCD を聴く。二匹のキクイムシがいて,一匹は 墓地で偉大な人の頭の中を這いまわりながら生まれる思 考の芽を観察し,もう一匹は彼の書いた書物をかじって いるという内容の歌詞である。まるで一匹がシデムシ, もう一匹はシバンムシかシミのようである。作詞家が小 さなキクイムシに注目するとは考えにくいのでカミキリ ムシの幼虫でも指しているのかと思ったがそうでもなさ そうだ。一体何の虫をイメージしたのだろう。 ある種のシバンムシの成虫は家屋の柱の内部で頭部を 打ち付け「カチ・カチ・カチ」と音により雌雄間の交信 を行っている。英名のdeath-watch beetle はこの音を死 神が持つ死の秒読み時計(death-watch)になぞらえて 付けられたそうだ。したがって和名は「死番虫」よりも 「死時計虫」が適切であるとする説を聞いたことがある。 この音を音楽にしたのがデンマークの作曲家ルーズ・ ランゴー(1893 ∼ 1952)の<シバンムシ>である。ピ アノ曲集≪インセクタリウム≫のなかの一曲で,シバン ムシがカチカチと立てる音をピアノの蓋を叩くことで表 している。 2007 年に初演されたジョナサン・ダヴ(1959 ∼)の 歌劇≪ピノッキオの冒険≫をDVD で観る。体調が悪く なったピノッキオ(ピノキオ)を,カブトムシ,フクロ ウ,カラスの三人?の医者が色々な病名を挙げて診断す る。ピ ノ ッ キ オ が 木 材 で あ る こ と か ら,枝 腐 れ 病twigrot),芽疱瘡(budpox),幹気管支炎(trunkitis) といったようないい加減と思われる病名を挙げ,それと もシバンムシやwoodworm,budworm などの害虫にや られたのかもしれないとユーモラスに歌われる。 独立行政法人森林総合研究所の高梨琢磨博士が珍しい キクイムシのCD を教えて下さった。アメリカのピニョ ンマツ Pinus edulis を加害する甲虫が木の中で立てる音 を録音したアルバムである。キクイムシ科の Ips confus-es が中心で,他の Ips 属,Dendroctonus 属の樹皮加害甲 虫やカミキリムシなどの音が混じっているかもしれない そうだ。ほぼ1 時間に亘るこの音をひたすら聴いている とまるで音楽が奏でられているように聴こえ,自分自身 が木材の中にいるような気がしてきた。初めに書いた竹 斎にもこのような音が聞こえていたのだろうか。

昆虫芸術研究家

エッセイ

楽しい 虫音楽 の世界

(その 2 木喰い虫の音楽)

柏田 雄三

(かしわだ ゆうぞう) ザンドナイ:二匹の木喰い虫 ソプラノ:佐藤由子 Victor NCS-298

参照

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