日本医師会平成 27 年度地域包括診療加算・地域包括診療料に係るかかりつけ医研修会
日本医師会
日本医師会
平成 27 年度
地域包括診療加算・地域包括診療料に係る
かかりつけ医研修会
1 脂質異常症 ����������������������������������������3
江草玄士クリニック 院長 江草玄士
2 糖尿病 ������������������������������������������� 21
医療法人社団 弘健会 菅原医院 院長 菅原正弘
3 高血圧症 ����������������������������������������� 51
和歌山県立医科大学 保健看護学部 特任教授 有田幹雄
4 認知症 ������������������������������������������� 73
医療法人 ゆう心と体のクリニック 院長 瀬戸裕司
5 禁煙指導 ����������������������������������������� 89
公益社団法人 日本医師会 常任理事 羽鳥 裕
6 健康相談 ����������������������������������������� 99
医療法人社団 つくし会 理事長 新田國夫
7 在宅医療 ���������������������������������������� 113
医療法人アスムス 理事長 太田秀樹
8 服薬管理 ���������������������������������������� 121
医療法人 白髭内科医院 院長 白髭 豊
9 介護保険 ���������������������������������������� 129
医療法人池慶会 池端病院 理事長/院長 池端幸彦
contents
目次
おことわり ・本資料の文中に記されている医薬品名については、内容の伝わり易さを考慮し、一般名 や商品名での表示が混在している場合がございます。
・本資料では、図表(スライド)の印刷が不鮮明な部分がございます。日本医師会ホーム ページにて資料等を掲載いたします。ご活用ください。
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はじめに
(図表1) 脂質異常症は高LDL-コレステ ロール(C)血症、高トリグリセライド(TG)
血症、低HDL-C血症など血中脂質の異常を きたす生活習慣病であり、動脈硬化の重要な 危険因子である。脂質異常症の頻度は増加傾 向にあり、その管理は日常臨床で重要性を増 している。本講義では、日本動脈硬化学会の 動脈硬化性疾患予防ガイドライン20121)に 準じた、脂質異常症診療の進め方について概 説する。
動脈硬化性疾患の発症機序、
危険因子管理の考え方
(図表2)これは動脈硬化症の発症進展過程 を示したものである。動脈壁にLDL-Cが沈 着し、内膜肥厚性病変すなわちプラークを形 成する。増大したプラークは炎症、酸化スト レスなどの影響で不安定化すると、プラーク 破綻とそれに続く血栓形成が起こる。血栓が 大きいと動脈内腔を閉塞し血流途絶が惹起さ れ、心筋梗塞、脳梗塞などのイベントを発症 する。
動脈硬化の発症・進展経過
脂肪線条 粥状プラーク 不安定プラーク プラーク破綻→血栓
心筋梗塞 脳梗塞
2
図表2
はじめに
脂質異常症は高 LDL- コレステロール (C) 血症、高トリグリセライド血症、低 HDL-C 血症など血中脂質の異常をきた す生活習慣病であり、動脈硬化の重要 な危険因子である。
本講義では、日本動脈硬化学会の動 脈硬化性疾患予防ガイドライン 2012 に準 じた脂質異常症診療の進め方について 概説する。
1
図表1
1. 「脂質異常症」
江草玄士クリニック 院長
江草玄士
(図表3)心筋梗塞や脳梗塞などの動脈硬化 イベントは、すでに述べたごとく、①動脈壁 内膜へのLDL-C沈着によるプラーク形成、
増大、②プラークの破綻、そして③血栓形成 という三つのステップを踏まえて発症する。
それぞれのステップには図表に示すごとくさ まざまな因子が関与する。プラーク形成、増 大にはLDL-C高値、喫煙、高血圧、糖尿病 などが、プラーク破綻にはプラークの線維性 被膜に直接ストレスを与える高血圧、 炎症 が、そして血栓形成には喫煙、糖尿病などが 影響する。したがって動脈硬化性イベント予 防のためには脂質異常症のみならず、 高血 圧、糖尿病、喫煙などの危険因子を総合的に 管理することが重要と考えられる。
(図表4) この図表は高コレステロール血 症、高血圧、喫煙、糖尿病、左室肥大の重な りが冠動脈疾患発症に与える影響を見た、フ ラミンガム研究の成績である。 高コレステ ロール血症単独に比べると、高血圧、喫煙、
糖尿病の3因子が重なった場合、男女ともそ のリスクが約2倍高くなることが示されてい る。日本の研究でも危険因子の重なりが冠動 脈疾患のリスクを相加的に高めることが報告 されている。したがって高LDL-C血症のみ に目を奪われることなく、高血圧、糖尿病、
喫煙などの危険因子を包括的に管理すること が動脈硬化予防には極めて重要である。
脂質異常症の診断基準、管理 目標の考え方
(図表5)次に脂質異常症診断基準について 考えてみる。図表5の我が国の疫学調査にお いて、総C値の上昇、HDL-C値の低下、随 時血清測定TG値の増加が冠動脈疾患のリス ク増大と関連することが欧米同様明確に示さ れた。左側の総Cと冠動脈疾患死亡リスクと の 関 連 で は200mg/dl以 下 に 比 べ て200- 219で1.4倍、220-239で1.6倍、240-259 で約2倍高くなっている。米国のガイドライ ンでは冠動脈疾患リスクが200mg/dlの2倍
動脈硬化イベントに関与する多数の危険因子
加齢 高LDL-C血症 喫煙 高血圧 糖尿病
(炎症)
高血圧、炎症 喫煙 糖尿病 肥満 高TG血症 プラーク形成
プラーク破綻
血栓形成
危険因子
3
図表3
危険因子が多いほど冠動脈疾患の発症率は増加する
(Framingham Study)
:男性(55歳)
:女性(55歳)
60 5550 4540 3530 2520 1510 50
冠動脈疾患発症の危険率(10年間)
(%)
コレステロール 0 + + + + +
血 圧 0 0 + + + +
喫 煙 0 0 0 + + +
糖尿病 0 0 0 0 + +
左室肥大(ECG) 0 0 0 0 0 +
コレステロール《0:血清総コレステロール180mg/dl, HDL-C 男性;45mg/dl, 女性;55mg/dl,+:血清総コレステロール250mg/dl, HDL-C 35mg/dl》 血圧《0:収縮期血圧120mmHg, +:収縮期血圧150mmHg》,喫煙《0:非喫煙者, +:喫煙者または過去1年以内の喫煙者》
糖尿病《0:耐糖能正常, +:インスリンまたは経口糖尿病薬で治療を受けている患者、または空腹時血糖140mg/dl以上》
左室肥大(ECG)《0:心電図所見で左室肥大なし,+:心電図所見で左室肥大あり》
Anderson KM et al., Am Heart J,12. 1990より改変
臨床上制圧すべきは:
・高LDL-C血症
・高血圧症
・糖尿病
・喫煙 4
図表4
血清脂質と冠動脈疾患の発症リスク
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012
a)総コレステロール値と冠動脈疾患死亡の 相対危険度(男女)NIPPON DATA80
相対危険度
4 3 2 1
0 159160
179 180 199
200 219
220 239
240 259
260
(mg/dL)
冠動脈疾患合併率
4 3 2 1
0 3435
39 40 44 45 49
60 64 65 69
80
(mg/dL)
相対危険度
4 3 2 1
0
84 85
115 116 164
165
(mg/dL) b)HDLコレステロール値と冠動脈疾患合併率
(%) 5
50 54
70 74 55 59
75 79
c)TG(随時)と
冠動脈疾患発症の相対危険度(男女)
~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~ ~
5
図表5
症率は低い。今後もこの状態を維持する意味 から米国より低い総C 220mg/dl、LDL-C 値では140mg/dlを高LDL-C血症の診断基 準値とした。中央のHDL-Cでは40mg/dl未 満 で リ ス ク が 高 ま る た め、 こ の 値 を 低 HDL-C血症の基準とした。我が国の調査で は空腹時TGが150mg/dl以上で冠動脈疾患 のリスクが高まることが示されているが、右 側のごとく非空腹時では165mg/dl以上で相 対リスクが高まる。 これらを勘案してTG 150mg/dlを高TG血症の診断基準としてい る。
(図表6)これらの診断基準をまとめて図表 に示した。これらは空腹時採血による基準で あること、LDL-Cはフリーデワルド式、す なわちTC-HDL-C-TG/5で求めること に 留 意 す る。 高LDL-C血 症 はLDL-C 140mg/dl以上、 低HDL-C血症はHDL-C 40mg/dl未満、高TG血症はTG 150mg/dl 以上が診断基準である。また今回のガイドラ インではLDL-C 120-139mg/dlを境界域 として新たに設定した。
(図表7)LDL-C 120-139mg/dlの境界域 は、糖尿病、脳梗塞など冠動脈疾患発症リス クの高い、また管理基準のより厳しい病態を 合併した患者の脂質異常症へ早期に介入する ため設定された。スクリーニングでLDL-C がこの域を示すときは、脳梗塞、糖尿病、慢 性腎臓病(CKD)、末梢動脈疾患(PAD)な どの高リスク病態がないか十分検討し、治療 の必要性を考慮する。
(図表8)次にLDL-C管理目標値を個々の 患者別にどのように設定するかについて考え てみる。ガイドライン2012年版ではこれま での相対リスクによる評価から、循環器疾患 基礎調査に基づくNIPPON DATAを用い た絶対リスク、すなわち冠動脈疾患死亡率で の評価へと大きな変更が行われた。すなわち 10年間での冠動脈疾患死亡率が2%以上の者 を高リスク群、0.5%以上2%未満の者を中 リスク群、0.5%未満の者を低リスク群とし、
それぞれカテゴリーⅢ、Ⅱ、Ⅰとした。また 冠動脈疾患の家族歴、低HDL-C血症、耐糖
脂質異常症 : スクリーニングの ための診断基準(空腹時採血)
LDLコレステロール
140mg/dL
以上 高LDLコレステロール血症 139mg/dL120- 境界域高LDLコレステロール血症 HDLコレステロール 40mg/dL
未満 低HDLコレステロール血症 トリグリセライド 150mg/dL
以上 高トリグリセライド血症 LDLコレステロールはFriedewald(TC-HDL-C-TG/5)の式で計算する (TGが400mg/dL未満の場合)。
TGが400mg/dL以上や食後採血の場合にはnon HDL-C(TC-HDL-C)を使用し、
その基準はLDL-C+30mg/dLとする。 (動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012) 6
図表6
境界域設定の意義
○糖尿病、脳梗塞など冠動脈疾患発症リスクの高い 病態を合併した患者では、脂質異常症への早期介入が 必要であり、リスクの高さに応じて判断できる 境界域を設定。
○スクリーニングで境界域高
LDL-C
血症を示したとき は、高リスク病態がないか検討し、治療の必要性を考 慮する。動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012 7
図表7
LDL コレステロール管理目標の考え方
1
) 冠動脈疾患死亡リスクで評価2
)10
年間で:2%
以上の死亡率をカテゴリーⅢ(高リスク)、
0.5%
以上2%
未満の死亡率を カテゴリーⅡ(中リスク)、0.5%
未満の 死亡率をカテゴリーⅠ(低リスク)3
)NIPPON DATA
に な い 家 族 歴 、 低HDL-C
血症や耐糖能異常を追加リスク4
)糖尿病、脳血管障害、PAD
、CKD
はそれ だけで高リスク(カテゴリーⅢ)(動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012) 8
図表8
能障害を追加リスクとした。追加リスクを一 個以上有していればカテゴリーを1段階あげ ることになる。糖尿病、脳梗塞、CKD、末梢 動脈疾患(PAD)合併者は冠動脈疾患を発症 する危険性が高く、単独でも高リスクのカテ ゴリーⅢとする。
(図表9)これはカテゴリー別の脂質管理目 標を示したものである。 低リスクのカテゴ リーⅠはLDL-C 160mg/dl未満、中リスク のカテゴリーⅡはLDL-C 140mg/dl未満、
高リスクのカテゴリーⅢはLDL-C 120mg/
dl未満が目標である。二次予防患者は厳重な 管理が必要であり、LDL-C 100mg/dl未満 が管理目標である。HDL-Cは40mg/dl以 上、TGは150mg/dl未満が目標である。
また新たな脂質コントロール指標として nonHDL-Cが取り入れられた。
(図表10)nonHDL-Cは総CからHDL-C を差し引いたものである。LDL-C以外の動 脈硬化惹起性のあるリポ蛋白をすべて含めた ものであり、欧米のみならず我が国の調査で も、LDL以上に冠動脈疾患発症リスクと関連 することが報告されている。
(図表11)nonHDL-Cの有用な点は、①総 CおよびHDL-Cから簡便に計算でき、空腹 のみならず食後採血でも適用可能である、② メ タ ボ リ ッ ク シ ン ド ロ ー ム の よ う に 低 HDL-C血症や高TG血症が前面に出てくる 脂質異常症の管理に使用できる、③TG 400 以上でフリーデワルド式が適用できない高 TG血症患者にも使用できる、 ④およそ nonHDL-C=LDL-C+30mg/dlの 関 係 が ある、などである。
(図表12) 次にLDL-C管理目標設定の流 れを考えてみる。問診で冠動脈疾患既往があ る患者は、脂質レベルにかかわらず二次予防 のカテゴリーに入る。既往のない一次予防患 者で、糖尿病、慢性腎臓病(CKD)、非心原 性脳梗塞、末梢動脈疾患(PAD)などの合併 がある場合は冠動脈疾患発症リスクが高いの で、カテゴリーⅢで厳しく管理する。それ以
リスク区分別脂質管理目標値
治療方針の原則 管理区分 脂質管理目標値(mg/dL) LDL-C HDL-C TG non HDL-C
一次予防
まず生活習慣の改善を 行った後、薬物療法の 適用を考慮する
カテゴリーⅠ
<160
≧40 <150
<190 カテゴリーⅡ
<140
<170 カテゴリーⅢ<120
<150二次予防
生活習慣の是正ととも に薬物治療を考慮する
冠動脈疾患
の既往
<100
<130動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012 9
図表9
non HDLコレステロールの考え方
non HDL-コレステロール(TC-HDL‐C) Friedwald推定式(TC-HDL-C-TG/5)
TGリッチリポ蛋白
Lp(a), sdLDL, LDL
動脈硬化惹起性リポ蛋白を包括
(
VLDL
)1.006
(IDL
)1.009
(LDL
)1.063
(HDL
)10
図表10
non HDL-C の利点
• TC
お よ びHDL-C
か ら 簡 便 に 計 算 で き 、 食後採血でも使用できる。•
メタボリックシンドローム等低HDL-C
血症、高
TG
血症が前面へ出てくる脂質異常症の 管理には、non HDL-C
が指標として有用。• Friedewald
式が適用できない高TG
血症に も使用できる。•
およそnon HDL-C=LDL-C+30mg/dl
の関係 がある。動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012 11
図表11
LDL-Cがどのカテゴリーに相当するか検討 する。低HDL-C血症、第1度近親者で男性 55歳未満、女性65歳未満の者に早発性冠動 脈疾患の家族歴がある、耐糖能障害がある、
という3因子の1つ以上を有する場合は、カテ ゴリーを1段階高めて厳しくする。このよう な対応で、個々の患者の病態に即した管理を 行うことが可能となる。
(図表13)この図表が冠動脈疾患一次予防 患者の管理目標を決める、リスク評価チャー トである。男女別に喫煙者と非喫煙者に分け られ、下から40歳代、50歳代、60歳代の年 齢区分に分かれている。70歳以上75歳未満 の前期高齢者は、60歳代の表を準用する。こ れらの基準で分けられた12ブロックは血圧 に応じて縦に5分割、 総C値に応じて横に6 分割されている。 すなわち一次予防患者の 性、年齢、喫煙歴、血圧値、コレステロール 値の5つの因子をもとに10年間の冠動脈疾患 死亡確率を評価するというものである。今後 は死亡率ではなく発症率を評価するチャート の策定が必要である。
脂質異常症の管理・治療
(図表14)続いて脂質異常症の管理、治療 について考える。冒頭で示したように動脈硬 化性疾患の危険因子は多岐にわたり、脂質異 常症のみならず、高血圧、糖尿病、喫煙など の危険因子管理を、早期から包括的に行うこ とが極めて重要である。また治療の基本とな るのは食事、運動、禁煙など生活習慣改善で あり、おろそかにしてはならない。薬物治療 導入後も生活習慣改善の指導は繰り返し継続 していくことが大切である。
(図表15)生活習慣改善策のポイントを示 す。 喫煙は冠動脈疾患のみならず脳血管障 害、末梢動脈疾患の重要な危険因子であり、
禁煙を強く指導する。受動喫煙の有害性も明 らかにされており、回避するよう指導する。
メタボリックシンドロームや糖尿病管理予防 の観点からカロリーの適正化、標準体重維持 に努めさせる。また飽和脂肪酸を多く含む脂
LDL
コレステロール管理目標設定のためのフローチャート
脂質異常症のスクリーニング
1)糖尿病 2 )慢性腎臓病(CKD) 3 )非心原性脳梗塞 4 )末梢動脈疾患(PAD)
冠動脈疾患の既往があるか?
なし
あり
あり カテゴリーⅢ
なし
NIPPON DATA80に よる10年間の冠動脈 疾患による死亡確率
(絶対リスク)
追加リスクの有無 追加リスクなし
以下のうち1つ以上あり
1)低HDL-C血症(HDL-C<40mg/dL) 2)早発性冠動脈疾患家族歴(第1度近親者
かつ男性55歳未満、女性65歳未満)
3)耐糖能異常
0.5%未満 カテゴリーⅠ カテゴリーⅡ 0.5以上2.0%未満 カテゴリーⅡ カテゴリーⅢ 2.0%以上 カテゴリーⅢ カテゴリーⅢ 冠動脈疾患の一次予防のための絶対リスクに基づく管理区分
以下のいずれかがあるか?
二次予防
家族性高コレステロール血症(FH)については本フローチャートを適用しない。
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012 12
図表12
<0.5%未満 0.5以上1 %未満 1以上2%未満 2以上5%未満 5以上10%未満
冠動脈疾患絶対リスク評価チャート
(一次予防)
10年間の冠動脈 疾患死亡率
男性
1
180~199
収縮期血圧
(mmHg)
非喫煙 喫煙
血清コレステロール区分
年齢 60~69 (74歳まで 準用)
*血清コレステロール 区分:TCの場合 1=160~179 2=180~199 3=200~219 4=220~239 5=240~259 6=260~279
(mg/dL)
収縮期血圧
(mmHg)
収縮期血圧
(mmHg)
2 3 4 5 6
160~179 140~159 120~139 100~119
1 2 3 4 5 6
女性
非喫煙 喫煙
血清コレステロール区分 1 2 3 4 5 6 1 2 3 4 5 6
1 2 3 4 5 6 1 2 3 4 5 6 1 2 3 4 5 6 1 2 3 4 5 6
180~199 160~179 140~159 120~139 100~119
180~199 160~179 140~159 120~139 100~119
1 2 3 4 5 6 1 2 3 4 5 6 1 2 3 4 5 6 1 2 3 4 5 6 年齢
50~59 (74歳まで準用)
年齢 40~49 (74歳まで準用)
NIPPON DATA80のリスク評価チャートより高血糖者の部分は割愛した。また糖尿病やCKD
患者などの高リスク状態では、このチャートは用いることはできない。
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012 13
図表13
動脈硬化性疾患予防のための 包括的リスク管理
1. 動脈硬化性疾患の予防には、脂質 異常症・高血圧・糖尿病・喫煙な どの主要危険因子の管理を、早期 から包括的に行うべきである。
2. 食事、運動や禁煙など生活習慣の 改 善 は 、 動 脈 硬 化 性 疾 患 予 防 の 基本であり、薬物療法の導入後も 指導を継続することが重要である。
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012 14
図表14
身、乳製品の過剰摂取を是正し、魚、大豆製 品を推奨する。健常者ではC摂取制限の必要 はないが、高C血症患者では飽和脂肪酸、ト ランス脂肪酸、C摂取制限を指導する。野菜、
海藻類、玄米などの未精製穀類の摂取増加を 指導する。最近の果物は糖含有量が多いので 摂りすぎないよう指導する。日本食が推奨さ れるが塩分過多にならないよう注意する。適 量のアルコールは冠動脈疾患予防効果がある が、過剰摂取は高血圧、高TG血症、高尿酸 血症の原因となり制限が必要である。1日30 分以上の有酸素運動が推奨されるが、患者の 病態に合わせて強度、時間を勘案し指導する。
(図表16)次に薬物療法について述べる。
この図表は我が国で使用されている高脂血症 治療薬の一覧である。LDL-Cをはじめとす る各脂質分画に対する効力の強さを矢印で示 している。LDL-C低下作用の最も強力な薬 剤はスタチンである。LDL-Cの合成を阻害 しLDL受容体活性を高める作用がある。 有 効性に関するエビデンスが確立された薬剤で ある。陰イオン交換樹脂は胆汁酸の再吸収を 阻害しLDL-Cを低下させる。スタチンとの 併用に適している。プロブコールはLDL-C と共にHDL-Cも低下させる。ニコチン酸誘 導体はTG低下作用を示すが、かゆみ、顔面 紅潮、耐糖能悪化に注意がいる。フィブラー ト系薬剤は高TG血症に対する有効性が高 く、HDL-Cも増加させる。稀に重篤な横紋 筋融解症をおこすことがあり、 腎機能障害 者、スタチンと併用時は特に注意が必要であ る。イコサペント酸エチル(EPA)もTG低 下作用があるが、抗血小板作用も示す。エゼ チミブは小腸でコレステロール吸収を抑制す るが、肝臓でのコレステロール合成も高まる ためスタチンとの併用が有用である。
(図表17)薬物療法の進め方をまとめた。
すでに冠動脈疾患を発症した二次予防患者で は、生活習慣指導と共に薬物治療開始を検討 する。図表のごとく一次予防では、まず生活 習慣改善を指導し、脂質レベルや合併危険因
動脈硬化性疾患予防の ための生活習慣の改善
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012
1.
禁煙し、受動喫煙を回避する2.
過食を抑え、標準体重を維持する3.
肉の脂身、乳脂肪、卵黄の摂取を抑え、魚類、大豆製品の摂取を増やす
4.
野菜、果物、未精製穀類、海藻の摂取を 増やす5.
食塩を多く含む食品の摂取を控える6.
アルコールの過剰摂取を控える7.
有酸素運動を1
日30
分以上行う15
図表15
高脂血症治療薬の薬効による分類
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012
分類 LDL-C TG HDL-C non HDL-C 主な一般名
スタチン
プラバスタチン、シンバスタチン、
フルバスタチン、アトルバスタチン、
ピタバスタチン、ロスバスタチン 陰イオン
交換樹脂 - コレスチラミン、コレスチミド
プロブコール - プロブコール
ニコチン酸 誘導体
ニコチン酸トコフェノール、
ニコモール、ニセリトロール フィブラート
系
クロフィブラート、クリノフィブ ラート、ベザフィブラート、フェノ フィブラート
EPA - - - イコサペント酸エチル
エゼチミブ エゼチミブ
16
図表16
脂質異常症の薬物療法の進め方
(一次予防)
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012
• 一次予防において、生活習慣の改善を十分に行ったにもかか
わらず、LDL-C管理目標値が達成できない場合には、リスク
の重みに応じて薬物治療を考慮する。
• カテゴリーⅠにおいても、LDL-Cが180mg/dL以上を持続 する場合は、薬物療法を考慮する。
• 高LDL-C血症に対する治療薬としてスタチンが推奨される。
• 高リスクの高LDL-C血症においては、スタチンに加えて、
エゼチミブの投与を考慮する。
• 高リスクの高LDL-C血症においては、スタチン投与に加えて イコサペント酸エチル(EPA)の投与を考慮する。
• 低HDL-C血症を伴う高TG血症に対しては、リスクの重みに 応じてフィブラート系薬剤やニコチン酸誘導体などの薬物
17
図表17
C180mg/dl以上が続くときは家族性高C血 症の可能性があり、薬物療法を早期に考慮す る。高LDL-C血症に対する第一選択薬はエ ビデンスの確立したスタチンである。患者の 病態に応じてスタチンに加えて、 エゼチミ ブ、EPAの併用を考慮する。また低HDL-C 血症を伴う高TG血症に対してはフィブラー ト系薬剤やニコチン酸誘導体などの投与を考 慮する。
(図表18) これはスタチンによるLDL-C 低下療法の有効性を検討した多数の大規模臨 床試験24研究、対象数13万人のメタ解析結 果である2)。日本の研究結果も含まれている。
LDL-Cがプラセボ群に比べ平均41mg/dl低 下し、主要な心血管イベントの相対リスクは 0.78、すなわち22%のリスク低下が認めら れている。この結果、LDL-Cが39mg/dl低 下するごとに心血管疾患発症リスクが21%
低下することが明らかにされている。
(図表19)また心血管疾患イベントの内容 を見ると、冠動脈疾患の相対リスクは0.74、
すなわち26%低下、脳梗塞は0.69、すなわ ち31%低下となっており、冠動脈疾患のみな らず動脈硬化に起因する脳血管障害への有効 性も明らかとなった。一方有意ではないが脳 出血のリスクが増加している。これまでの研 究の結果、脳出血既往者やコントロール不良 の高血圧患者へのスタチン投与は脳出血の危 険性があるので慎重を期すべきことが報告さ れている。
(図表20)薬物療法を進めるうえで副作用 の発現には細心の注意が必要である。図表は 脂質異常症治療薬の主な副作用を示してい る。汎用されるスタチンは横紋筋融解症に注 意が必要であり、特に腎機能障害者でフィブ ラート系薬剤との併用時には細心の注意を払 う必要がある。陰イオン交換樹脂では胃腸障 害、コレステロール吸収阻害剤エゼチミブで は胃腸障害、肝機能障害、フィブラート系薬 剤では単独またはスタチン併用時の横紋筋融 解症、プロブコールでは心電図でQT延長、
EPAなどの多価不飽和脂肪酸では胃腸障害、
出血傾向などに注意する。
スタチンによる LDL コレステロール低下療法 の主要心血管イベントに及ぼす影響:
(24研究、13万人のメタ解析. LDL-C平均41mg/dl低下)
スタチン群
イベント発症数/対象数
コントロール群
イベント発症数/対象数 相対リスク低下率
7,136/64,744
(2.8%)
8,934/64,782
(3.6%)
0.78(0.76-0.81)
(p<0.0001)
CTT Collaboration, Lancit 13, 2010より改変
(LDL-C 39mg/dl低下ごとに心血管イベントリスク21%低下)
18
図表18
LDL-C 低下によるイベント抑制効果
(CTT Collaboration.Lancet 376,2010.より改変)
LDL-C 39mg/dl あたりのリスク低下 冠動脈イベント 0.74 ( 0.65-0.85 ) 脳出血 1.39 ( 0.57-3.39 ) 脳梗塞 0.69 ( 0.50-0.95 )
19
図表19
脂質異常症治療薬の主な副作用
スタチン 横紋筋融解症、ミオパチー症状 耐糖能低下
陰イオン交換 胃腸障害 樹脂
エゼチミブ 胃腸障害、肝障害、
CPK
上昇 フィブラート系 横紋筋融解症、肝障害、腎機能障害 プロブコール
QT
延長、胃腸障害 多価不飽和脂肪酸 胃腸障害、出血傾向20
図表20
(図表21)薬物療法中の注意点として、薬 物治療開始後3か月間は毎月肝機能、腎機能、
クレアチニンホスホキナーゼ(CPK)などを 検査し、また十分な問診を行って副作用の早 期発見に努める。異常がなければその後は数 か月間隔で検査を行っていく。脂質値を検査 し有効性を確認することも必要である。スタ チンと他の薬剤併用時も注意がいる。フルバ スタチンはアンジオテンシン受容体拮抗薬
(ARB)、ワルファリンと同じ肝代謝経路で代 謝され、シンバスタチン、アトロバスタチン はカルシュウム拮抗薬、ワルファリン、抗真 菌薬、サイクロスポリン、オメプラゾールな どと同じ経路で代謝される。併用時には併用 薬やスタチンの血中濃度が上昇する可能性が ある。特にフルバスタチン、ロスバスタチン、
シンバスタチン、フィブラート系薬剤との併 用でワルファリンの作用が増強し、陰イオン 交換樹脂との併用ではワルファリンの作用が 減弱することがあるので注意する。
(図表22)スタチンの副作用として懸念さ れている重要なものに癌がある。
この図表はスタチンを用いた大規模臨床試 験27研究、17万5000人の癌に関するメタ解 析の結果である。癌の発症率はスタチン群と プラセボ群で差がなく、相対危険度も1.0と スタチンにより癌発症が高まる危険性はない ものと考えられた。また癌の死亡率もスタチ ン投与群とプラセボ群で差は見られなかっ た。図表には示していないが、癌の種類別検 討でも、スタチンの危険性は認められなかっ た。
脂質異常症治療薬の効果が 出にくいとき考慮すること
(図表23)日本人は欧米人より少ないスタ チン投与量で、LDL-C低下効果やイベント 抑制効果が得られやすい民族と考えられてい る。常用量のスタチンで脂質改善効果が不十 分である時は2点考慮する必要がある。第1点 は図表に示したごとく患者が別の疾患に起因
脂質異常症薬物療法中、および 併用療法中の注意点
治療開始後3か月は毎月肝、腎機能、CPKなどの検査、十分 な問診を行い副作用早期発見に努める。その後は数か月間隔 で検査を行う。
肝臓での代謝経路を共有するため、フルバスタチンとARB、 ワルファリンの併用時、シンバスタチン、アトロバスタチン とCa拮抗薬、ワルファリン、抗真菌薬、サイクロスポリンな どの併用時には両者の血中濃度が高くなる可能性がある。
ワルファリンとフルバスタチン、ロスバスタチン、シンバス タチン、フィブラート系薬剤併用時にワルファリン効力の増 強、陰イオン交換樹脂との併用時作用減弱がみられることが ある。
21
図表21
スタチンによるLDL-C低下療法:
癌との関連
癌発症率
スタチン群 コントロール群 相対危険度
5221(87087) 5210(87062) 1.00(0.96-1.04)
癌死亡率
スタチン群 コントロール群 相対危険度
1812(86411) 1839(86387) 0.98(0.92-1.05)
27研究、17万5000人のメタ解析
(CTT Collaboration. PLoS ONE 7,2012より改変)22
図表22
主な続発性(二次性)高脂血症
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012
•
甲状腺機能低下症•
ネフローゼ症候群•
腎不全・尿毒症•
原発性胆汁性肝硬変•
閉塞性黄疸•
糖尿病•
クッシング症候群•
肥満•
アルコール•
自己免疫疾患(SLE
など)•
薬剤性(利尿薬、β
遮断薬、ステロイド、エストロゲン、
レチノイン酸、サイクロス ポリンなど)
•
妊娠23
図表23
群は頻度の高い、難治性高LDL-C血症を来 す病態である。 甲状腺機能低下症ではLDL 受容体活性が低下するため、ネフローゼ症候 群では低たんぱく血症のため肝でのコレステ ロール合成が亢進することが主な原因であ る。治療に抵抗する高LDL-C血症患者では、
その他図表に示す疾患、病態合併の可能性を 含め、続発性高脂血症の可能性を再検討する 必要がある。
(図表24)スタチンの効果が表れにくい第 2の病態は、家族性ヘテロ接合性高コレステ ロール血症患者の可能性である。診断基準は 最 近 簡 便 化 さ れ、 未 治 療 時 のLDL-C 180mg/dl以上、アキレス腱肥厚などの腱黄 色腫、家族性高コレステロール血症または早 発性冠動脈疾患の家族歴の3つの特徴のう ち、2項目が当てはまれば家族性高コレステ ロール血症と診断できる。 ヘテロ接合性は 500人に1人の割合で存在し、極めて冠動脈 疾患を発症しやすい病態であるため見落とさ ないようにする必要がある。
(図表25)家族性高コレステロール血症に みられるアキレス腱肥厚を示している。外観 上肥厚しているのがわかるが、触診するとし ばしば数珠状の凹凸不整がある。またアキレ ス腱ゼログラフィーでは9mm以上の肥厚が 診断基準である。
(図表26)最近米国のガイドラインが改訂 された3)。エビデンスに立脚し、スタチン治 療が有益と考えられる4群を同定し、使用す べきスタチンを効力別に推奨した。また管理 目標の撤廃、スタチン以外の薬剤の併用を推 奨しないなど、これまでとは大きく異なる形 となった。これに対し日本動脈硬化学会では エビデンス重視の姿勢は評価するものの、我 が国の脂質異常症診療の実情に合わないとし て、今後も学会のガイドラインを参考にする ことを推奨している。
成人( 15 歳以上) FH ヘテロ接合体 診断基準
動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012
1.
高LDL-C
血症(未治療時のLDL-C 180mg/dL
以上)2.
腱黄色腫(手背、肘、膝などの腱黄色腫あるいは アキレス腱肥厚)あるいは皮膚結節性黄色腫3. FH
あるいは早発性冠動脈疾患の家族歴(
2
親等以内の血族)•続発性高脂血症を除外した上で診断する。
•2項目が当てはまる場合、FHと診断する。
•皮膚結節性黄色腫に眼瞼黄色腫は含まない。
•アキレス腱肥厚は軟線撮影により9mm以上にて診断する。
• LDL-Cが250mg/dL以上の場合、FHを強く疑う。
•すでに薬物治療中の場合、治療のきっかけとなった脂質値を参考とする。
•早発性冠動脈疾患は男性55歳未満、女性65歳未満と定義する。
• FHと診断した場合、家族についても調べることが望ましい。
500人に一人の割合 患者数は多いので注意!
24
図表24
FH におけるアキレス腱肥厚
FH 健常者
国立循環器病研究センター 斯波真理子先生より 動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012 25
図表25
2013 ACC/AHA
ガイドラインによる脂質治療の進め方21歳以上でスタチン治療の必要性が考えられる患者 (心不全、透析患者を除く)
心血管疾患危険因子のスクリーニング LDL-C測定
動脈硬化性心血管疾患
(ASCVD)
高効力スタチン治療
非糖尿病 40-75歳 LDL-C 70-189mg/dl 糖尿病(1型or 2型)
40-75歳 LDL -C 70-189mg/dl
LDL-C≧190mg/dl
高効力スタチン治療 ASCVD 10年リスク検討 ASCVD10年リスク検討
リスク<7.5%:中効力 スタチン治療 リスク≧7.5%:高効力
スタチン治療
リスク≧7.5%:
中~高効力スタチン 治療
(Keaney JF Jr:N Engl J Med,370,2014より改変引用) 高効力スタチン
LDL-C約50%以上低下 中効力スタチン
LDL-C約30-49%低下
*管理目標は撤廃!
*非スタチン製剤併用 は推奨せず! 26
図表26
女性の脂質異常症への対応
(図表27)次に臨床上遭遇することの多い 女性の脂質異常症への対応について考えてみ る。
(図表28)これは総Cの年齢による変化を 見た、我が国の成績である。30歳代から40歳 代にかけて、男性の総C値は女性より明らか に高い。しかし女性が50歳代になり閉経する と、急速に総Cが上昇し、以後80歳代まで男 性より20mg/dl以上高値を保っている。 閉 経後はエストロゲンによるLDL-C低下作用 が消失するため、女性のコレステロール値は 男性より高くなる。したがって閉経前の女性 の冠動脈疾患発症の危険性は極めて低く、閉 経前女性の脂質異常症は非薬物治療が中心と なる。また臨床上問題となるのは閉経後女性 の脂質異常症であることも明らかである。
(図表29)日本人の急性心筋梗塞および脳 梗塞の発症率を、男女別、年齢別に検討した、
滋賀県の高島研究の成績を示す4,5)。心筋梗 塞、脳梗塞とも加齢とともに発症率が高くな り、動脈硬化イベントのリスクとして加齢が 重要であることがわかる。心筋梗塞の発症率 は女性においても加齢とともに増加するが、
どの年齢層でも女性は男性の2分の1以下で ある。脳梗塞の発症率も同じ傾向を示してい るが、心筋梗塞に比べ閉経後の女性の発症率 が高く、男女差も心筋梗塞より小さい。
女性の脂質異常症への 対応
27
図表27
西暦2000年日本人の血清脂質調査におけ る年齢別、男女別総コレステロール値
160 200
180 220
30~ 39 40~
49 (歳)
(mg/dl)
60~ 69 70~
79 80~ 50~ 89
59
総コレステロール
年 齢
男性 女性
(Arai H et al. J Atheroscler Thromb,12.2005.より改変引用) 28
図表28
急性心筋梗塞および脳梗塞の発症率
(年間人口
10
万人当り,
性・年齢別)(Takashima Registry/1991~2001調査)
(Rumana N et al. Am J Epidemiol 167, 2008 及びKita Y et al. Int J Stroke 4, 2009より改変引用) 0
200 400 600 800 1000 1200
35-44 45-54 55-64 65-74 75-84≧85(歳)
(人) 急性心筋梗塞
:男性
:女性
0 200 400 600 800 1000 1200
35-44 45-54 55-64 65-74 75-84≧85(歳)
(人) 脳梗塞
:男性
:女性 29
図表29
(図表30)心血管疾患イベントリスクが男 性より低い女性にスタチンを投与しても、有 意なイベント抑制効果がみられない可能性が ある。しかし26研究、17万人のメタ解析結果 では、男性の相対リスク0.77よりやや高い ものの、女性においても心血管イベントの相 対リスクは0.83と27%の有意な低下が認め られている2)。したがって閉経後女性の脂質 異常症に対しては、生活習慣改善が必須であ るが、危険因子の状態によっては薬物療法を 行う意義はあると考えられる。
(図表31)これは我が国で行われたスタチ ンによる心血管疾患一次予防効果を検討した MEGAの女性を対象とした解析結果である6)。 上段の冠動脈疾患発症に対しては食事療法単 独群に比べ、スタチン併用群のリスク抑制効 果は有意ではない。しかし下段の冠動脈疾患 と脳梗塞を合わせた、心血管疾患イベント発 症リスクは、スタチン併用群で55歳以上から ハザード比0.63と37%の有意なリスク低下 を示している。
(図表32)さらにこの図表のごとく、脳卒 中も55歳以上からスタチン併用群でハザー ド比0.47とリスクが半減し、さらに総死亡 のリスク低下もスタチン併用群で50歳以上 からハザード比0.59と有意に低下していた。
以上より欧米人に比べて動脈硬化性疾患の頻 度が低い日本人閉経後女性においても、危険 因子の状況から冠動脈疾患の危険性が高いと 判断された女性に対してスタチンを投与する ことの有効性が示されたといえる。
LDL-C低下による心血管イベント抑制効果
:男女別
(LDL-C 39mg/dl低下あたりのリスク低下)
男性 0.77(0.74-0.80) 女性 0.83(0.76-0.90)
26
研究、17
万人のメタ解析(CTT Collaboration. Lancet 13,2010より改変)
30
図表30
0 0.5 1 1.5
0 0.5 1 1.5
女性に対するスタチンの動脈硬化予防効果
(1)
≥60yrs
≥55yrs
≥50yrs ALL
0.55 (0.30-1.02) 0.65 (0.38-1.10) 0.72 (0.43-1.20) 0.74 (0.45-1.23)
0.06 0.11 0.20 0.27 冠動脈疾患
0.51 (0.31-0.83) 0.63 (0.41-0.97) 0.70 (0.46-1.06) 0.73 (0.49-1.10)
0.007 0.04 0.09 0.15 冠動脈疾患+脳梗塞
valueP- HR (95%CI) 食事+スタチン有効 食事有効
食事TX 食事+スタチン No (1000 person-years)
≥60yrs
≥55yrs
≥50yrs ALL
47/1425 (7.38) 23/1380 (3.70) 54/2126 (5.63) 33/2039 (3.60) 56/2602 (4.76) 38/2493 (3.41) 56/2718 (4.55) 40/2638 (3.39)
HR
HR 30/1425 (4.68) 16/1380 (2.57)
35/2126 (3.63) 22/2039 (2.40) 36/2602 (3.05) 25/2493 (2.24) 36/2718 (2.91) 26/2638 (2.20)
(Mizuno K et al. Circulation,117. 2008より改変)
31
図表31
女性に対するスタチンの動脈硬化予防効果
(2)
0 0.5 1 1.5
≥60yrs
≥55yrs
≥50yrs ALL
26/1425 (4.06) 9/1380 (1.44) 31/2126 (3.22) 14/2039 (1.52) 33/2602 (2.79) 19/2493 (1.70) 33/2718 (2.67) 20/2638 (1.69)
0.36 (0.17-0.77) 0.47 (0.25-0.89) 0.60 (0.34-1.06) 0.63 (0.36-1.09)
0.008 0.02 0.08 0.10
0.52 (0.28-0.97) 0.52 (0.30-0.92) 0.59 (0.35-1.00) 0.59 (0.35-1.00)
0.04 0.03 0.051 0.046 総死亡
valueP- HR (95%CI)
0 0.5 1 1.5
食事+スタチン有効 食事有効 食事TX 食事+スタチン
No (1000 person-years)
≥60yrs
≥
≥ 55yrs 50yrs ALL
30/1425 (4.57) 15/1380 (2.38) 36/2126 (3.66) 18/2039 (1.93) 39/2602 (3.24) 22/2493 (1.94) 39/2718 (3.10) 22/2638 (1.83)
HR
HR
脳卒中 32
図表32
(図表33)以上述べた女性への対応をまと めた。閉経前の女性は冠動脈疾患の頻度が低 いので、生活習慣改善が治療の主体である。
しかし家族性高コレステロール血症、あるい は二次予防患者では薬物療法が必要な場合も ある。閉経後の女性の脂質異常症患者は多い が、治療は生活習慣改善を十分指導すること が重要である。危険因子を勘案してリスクが 高いと主治医が判断した時は薬物療法を考慮 する必要がある。
高齢者への対応
(図表34)次に高齢者の取り扱いについて 考えてみる。
(図表35) この図表はLDL-C 140mg/dl 以上、TG150mg/dl以上の高脂血症患者の 割合を年齢別に見た、我が国の調査結果であ る。加齢とともに高LDL-C血症の頻度は増 加し、50歳代以降は男性より女性の頻度が高 くなる。高齢者では男性の20-25%、女性の 35%が高LDL-C血症を呈する。高TG血症 の頻度は女性では加齢とともに上昇し、一方 男性では50歳代以降減少に転じるが、高齢者 のおよそ20-25%が高TG血症である。 脂 質異常症は高齢者においても重要な危険因子 である。
女性への対応
1.
閉経前の女性における脂質異常症に対しては、生活習慣改善による非薬物療法が中心となる。
2.
閉経前であっても家族性高コレステロ-ル 血症や、冠動脈疾患二次予防、ならびに一次 予防のリスクの高い患者には、薬物療法も 考慮する。3.
閉 経 後 の 女 性 の 脂 質 異 常 症 に お い て は 、 生活習慣の改善が優先されるが、危険因子を 十分勘案して、薬物療法も考慮する。動脈硬化性疾患予防ガイドライン2012 33
図表33
高齢者への対応
34
図表34
「西暦2000年日本人の血清脂質調査」における各年 代別、男女別の高LDL-C血症、高TG血症の頻度
0 25
5 15 35
10~19
(%) 男
20 10 30 40 50 45
20~29 30~39 40~49 50~59 60~69 70~79(歳) 女
LDL-C (140mg/dl≦)
0 25
5 15 35
10~19 (%)
男
20 10 30 40 50 45
20~29 30~39 40~49 50~59 60~69 70~79(歳) 女
トリグリセリド(150mg/dl≦)
(Arai H et al. J Atheroscler Thromb,12. 2005より改変) 35
図表35
(図表36)急性心筋梗塞、脳梗塞の発症頻 度をみた高島研究の結果でも、高齢者におけ る脂質異常症の頻度増加を反映して、性差は あるものの、高齢者でのイベント発症が高率 であることが報告されている4,5)。高齢者人 口は増加し続けており、高齢者の脂質異常症 管理は重要性を増している。
(図表37) 高LDL-C血症患者にスタチン を投与すると、心血管疾患イベントリスクが 低下することはすでに述べたが、この効果は 高齢者でも同様であろうか?この図表はスタ チンのLDL-C低下作用とイベントリスクを 検討した大規模臨床試験(26研究、17万人を 対象)のメタ解析の結果である。65歳以上75 歳未満の前期高齢者においても相対リスク 0.78と、65歳未満の成人と同等のリスク低 下が認められた。また75歳以上の後期高齢者 でも0.84と有意なリスク低下が認められる ことが報告された2)。
(図表38)これはスタチンによる心血管疾 患一次予防及び二次予防効果を検討した研究 において、 スタチンの脳卒中予防効果を性 別、年齢別に見たものである。62歳未満に比 べて62歳以上の高齢群で、また女性より男性 において有意に脳卒中のリスク低下が認めら れるという結果であった。少なくとも前期高 齢者ではスタチンによる脳卒中、特に脳梗塞 の予防効果が期待できると考えられる。
急性心筋梗塞および脳梗塞の発症率
(年間人口
10
万人当り,
性・年齢別)(Takashima Registry/1991~2001調査)
(Rumana N et al. Am J Epidemiol 167, 2008 及びKita Y et al. Int J Stroke 4, 2009より改変引用) 0
200 400 600 800 1000 1200
35-44 45-54 55-64 65-74 75-84≧85(歳)
(人) 急性心筋梗塞
:男性
:女性
0 200 400 600 800 1000 1200
35-44 45-54 55-64 65-74 75-84≧85(歳)
(人) 脳梗塞
:男性
:女性 36
図表36
図表37
スタチンによる脳卒中予防効果
( PPP Project )
(Byington RP et al., Circulation 103, 2001より改変) スタチン;n=9895, プラセボ;n=9873, 5年間追跡 0.25 0.50 0.75 1.00 1.25 1.50 年齢 62歳以上
62歳未満
性別 女性 男性 38
図表38