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:深部静脈血栓 症 の病態

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Academic year: 2021

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日本 生 理 学 会 一 日本 病 態 生 理 学 会 連 携 シンポ ジ ウム

:深部静脈血栓 症 の病態

甲臨

上 嶋 繁1'2,松 理2

1近畿大学農 学部食 品栄養 学科

,2近 畿大学 医学部第2生 理学教室

は じ め に

血 栓 が 静 脈 内 に 生 じ る と静 脈 血 栓 症 を 発 症 す る が,そ の ほ とん ど は 下 肢 に 起 こ る 。 特 に 下 肢 筋 膜 下 の 深 部 静 脈 に 血 栓 が 生 じ た 場 合,そ れ を深 部 静 脈 血 栓 症(deepvein

thrombosis:DVT)と 呼 ぶ 。 深 部 静 脈 の 血 栓 が 遊 離 し,血 流 に よ っ て 肺 に 到 達 し て 肺 動 脈 を 閉 塞 す る と肺 血 栓 塞 栓 症(pulmonarythr◎mboembolism:PTE)を 併 発 す る 。PTEの 症 状 は 重 篤 で 致 死 的 で あ る こ と か ら,静 脈 血 栓 塞 栓 症(veRousthromboembolism:VTE)で 臨 床 的 に 問 題 と な る の は,DVTとPTEで あ る と い っ て も過 言 で は な い 。

日本 人 を 含 む ア ジ ア 系 人 種 に お い て は 欧 米 人 に 比 べ てDVTの 発 症 は 少 な い と報 告 さ れ て い た1)。 し か し,DVTに 起 因 す るPTEに よ る 死 亡 者 数 は 年 々 増 加 し て お り,DVT 発 症 率 も 欧 米 と 大 差 の な い こ と が 報 告 さ れ て い る2'3)。

本 稿 で は,DVT発 症 の 特 異 な 病 態 に つ い て 述 べ る と と も に,整 形 外 科 手 術 に お い て 頻 発 す るDVT発 症 の 要 因 に つ い て 言 及 す る。

DVTの 発 症 要 因

血 栓 形 成 に は3つ の 要 因 が 絡 み 合 っ て い る こ と が 知 ら れ て い る 。3つ の 要 因 と は,血 管 壁 の 変 化(changesinthevesselwall),血 流 の 変 化(changesinthebloodflow)お よ び 血 液 性 状 の 変 化(changesiRthebloodc◎mpositi◎n)で あ り(図1),Virchow'sTriadと 呼 ば れ て い る 。 血 管 内 皮 細 胞 は 抗 凝 固 機 能 や 線 溶 機 能 な ど に か か わ る 因 子 を 産 生 し て い る こ と か ら,抗 血 栓 性 を 有 し て い る 。 し か し,手 術 や 外 傷 に よ る 血 管 壁 の 機 械 的 傷 害 は 血 管 内 皮 細 胞 を 傷 害 し て 抗 血 栓 性 を 低 下 さ せ る 。こ の よ う に,血 管 壁 の 変 化 を 引 き 起 こ す 種 々 の 要 因 はDVT発 症 の 引 き 金 と な り 得 る 。

Changes in the blood composition Changes in

the blood flow Changes in

the vessel wall

Pregnancy Estrogen therapy Malignancy

Inherited coagulopathies Dehydration

Polycythemia rubra vera

Immobilization for a long time Obstruction or

compression of the iliac or femoral veins Congestive heart

failure Shock

Varicose veins

Surgery Trauma Indwelling I.V.

catheters Injection of

irritating substances I.V. drug abuse Prior DVT

図1DVT発 症 に か か わ る3つ の 要 因(Virchow'sTriad)

ま た,静 脈 内 の 血 流 が 滞 る こ と もDVTの 発 症 に つ な が る 。静 脈,特 に 下 肢 静 脈 内 の 血 液 は 重 力 に 逆 ら っ て 静 脈 弁 と筋 ポ ン プ の 作 用 に よ り心 臓 へ と環 流 す る こ とか ら,長 時 間 同 じ姿 勢(座 位)が 強 い られ る 飛 行 機 の 機 内 な ど で はDVTを 発 症 す る こ と が あ る。 さ ら に,血 液 中 の 血 栓 形 成 に 関 与 す る 因 子 の 変 化 もDVTの 発 症 に か か わ る。 脱 水 な どで 血 液 が 濃 縮 され る と血 栓 形 成 が容 易 とな る。ま た,凝 固 を抑 制 す る プ ロテ イ ンCの 欠 損 症4)や 線

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日本生理学会一 日本病態生 理学会連携 シンポジウム

溶 系 因 子 で あ る プ ラ ス ミノ ゲ ン の 異 常 症5)な どで は 遺 伝 的 な 凝 固 充 進 状 態 が 誘 発 され,DVT の発 症 を 引 き 起 こ す 可 能 性 が あ る。

DVT発 症 に お け る静 脈 弁 ポ ケ ッ トの 関 与

前 述 の よ うに,静 脈 弁 は 血 液 を末 梢 か ら心 臓 へ 環 流 す る た め の 生 理 的 な 機 能 を果 た して い る 。 しか し,一 方 で こ の 弁 ポ ケ ッ ト(valvepocket)は そ の 特 殊 な 環 境 か ら,こ の 部 位 で ・ の血 栓 形 成 を き た しや す い6)。 弁 付 近 の 血 液 が 乱 流 で あ る た め,弁 ポ ケ ッ ト内 部 で 血 液 が

A.静 脈 弁 ポ ケ ッ トB.弁 ポ ケ ッ トか らの 血 栓 形 成

図2静 脈 弁 と 弁 ポ ケ ッ トか ら の 血 栓 形 成 う っ 滞 し や す く,血 流 が 滞 る こ と か ら

体 循 環 で 運 ば れ る マ イ ク ロ パ ー テ ィ ク ル や 血 小 板,白 血 球 な ど が こ の 部 位 に 留 ま りや す い(図2A)。

ま た,弁 ポ ケ ッ ト部 位 で は 血 液 が う っ 滞 す る た め に,ず り応 力 が 低 下 す る と と も に,低 酸 素 状 態 に 陥 る 。 ず り応 力 の 低 下 は,血 管 内 皮 細 胞 に お け るtissuefactorpathwayinhibitor (TFPI)の 発 現 を 抑 制 す る7)。TFPIは 凝 固 系 を 抑 制 す る こ と か ら,ず り応 力 の 低 下 に よ るTFPIの 発 現 抑 制 は 血 栓 形 成 を 誘 発 す る 。 さ ら に,低 酸

素 血 症 は 血 管 内 皮 細 胞 で のplasminogenk人ltVXUct.ノu'KVL/

activatorinhibitor‑1(PAI‑1)発 現 を 促 進 す る と報 告 さ れ て い る8)。PAI‑1は 線 溶 系 を 抑 制 す る こ と か ら,低 酸 素 血 症 に よ るPAI‑1発 現 の 促 進 は 血 栓 形 成 を 誘 発 す る と 考 え ら れ る 。 こ れ ら の 要 因 が 相 ま っ て,弁 ポ ケ ッ ト部 位 か ら血 栓 が 形 成 さ れ る(図2B)。

,整形 外 科 手 術 時 に お け るDVTの 発 症

上 述 の よ うに,外 科 手 術 はDVT発 症 の 引 き 金 と な る。 外 科 手 術 の 中 で も整 形 外 科 手 術, 特 に 下肢 の 人 工膝 関節 置 換 術(total㎞eearthroplasty:TKA)に お け るDVTの 発 症 率 は 約50%

と非 常 に 高 い9)。 そ の た め,TKAで 高 いDVT発 症 率 を き た す 原 因 を 明 らか に す る 目的 で, 近 畿 大 学 医 学 部 付 属 病 院 に て 実 施 され たTKAに つ い て 検 討 が行 わ れ た 。

TKAで は 術 中 の 手 術 野 を確 保 す る た め に タ ー ニ ケ ッ トが 使 用 され る。 しか し,手 術 中 に タ ー ニ ケ ッ トを使 用 した 症 例 で はPTEの 発 症 に結 び つ く可 能 性 の あ る近 位 血 栓 の 形 成 が タ ー ニ ケ ッ ト非 使 用 群 に比 べ て 多 い こ と が 下 肢 末 梢 静 脈 エ コー に よ る調 査 で 示 され た ゆ

。 そ こでTKA術 中 タ ー ニ ケ ッ トの 使 用 が 凝 固 線 溶 能 に及 ぼ す 影 響 に つ い て 調 査 した 。 イ ン フ ォ ー ム ドコ ン セ ン トが 得 られ たTKA連 続50症 例 を 対 象 と し

,こ れ ら を無 作 為 に 術 中 タ ー ニ ケ ッ ト使 用 群(25例)と タ ー ニ ケ ッ ト非 使 用 群(25例)に 分 け た 。 タ ー ニ ケ ッ ト使 用 群 に お い て は,TKA術 中 の コ ン ポ ー ネ ン ト トラ イ ア ル お よ び セ メ ンテ ィ ン グ に 際 し,約45分 間, 大 腿 部 の タ ー ニ ケ ッ トを 作 動 させ て 血 流 を 止 め た。TKA前,タ ー ニ ケ ッ トの 使 用 前 後,TKA 直 後,TKA後1日 目お よび10日 目に採 血 を 実 施 して,周 術 期 の 凝 固 ・線 溶 系 マ ー カ ー の 変 化 を タ ー ニ ケ ッ ト使 用 群 と タ ー ニ ケ ッ ト非 使 用 群 で 比 較 し た 。 そ の 結 果,タ ー ニ ケ ッ ト使 用 群 に お い てTATは 手 術 直 後 か ら手 術 翌 日 に か け て,D‑dimer,PICお よびTPAICは タ ー ニ ケ ッ ト使 用 後 か ら手 術 直 後 に か け て,タ ー ニ ケ ッ ト非 使 用 群 よ り も有 意 な 増 加 を 示 し たIl) (図3)。TATとD‑dimerは 凝 固 活 性 の 充 進 を反 映 す る こ とか ら,タ ー ニ ケ ッ トの使 用 に よ り凝 固活 性 が 促 進 され,血 栓 が 形 成 され た 可 能 性 が 示 唆 され た 。 ま た,線 溶 系 活 性 の 充 進 を反 映 す るPICお よびTPAICの 有 意 な 上 昇 が タ ー ニ ケ ッ ト使 用 群 で 認 め られ た が,こ れ は, 形 成 され た 血 栓 を溶 解 して 取 り除 くた め の 生 理 的 反 応 の 結 果 と考 え られ た 。 さ ら に,タ ー ニ ケ ッ ト使 用 群 で はTKA直 後 に25例 中10例(40%)に 膝 窩 静 脈 よ り近 位 でPTEの 発 症 を き た しや す い 近 位 血 栓 が 認 め られ た 。 一 方 タ ー ニ ケ ッ ト非 使 用 群 で は 近 位 血 栓 の 形 成 は TKAの20%に 認 め られ ター ニ ケ ッ ト使 用 群 の 半 数 に 減 少 し て い た。 さ らに タ ー ニ ケ ッ ト使 用 群 で は 呼 吸 困難 や 動 脈 血 酸 素 分 圧 の 低 下 な ど,PTE発 症 の 可 能 性 を疑 う所 見 が 認 め られ

た が,タ ー ニ ケ ッ ト非 使 用 群 で は これ らの 所 見 は 認 め られ な か っ た 。

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こ の骨 髄 操 作 に よ っ て 血 液 中 に 日本生理 学会一 漏本病態生理学会連携 シンポジウム

TKAで は 人 工 関 節 を 装 着 す る 際 に 骨 髄 操 作 が 行 わ れ る 。

流 入 す る 骨 髄 液 の 血 栓 形 成 に お よぼ す 影 響 が 検 討 され た。

TKA中 に骨 髄 液 を採 取 し,骨 髄 液 中 の 線 溶 系 活 性 とtissue factor(TF)抗 原 量 をTKA後 の血 栓 存 在 群 と血 栓 非 存 在 群 で 比 較 した 。

骨 髄 液 中 に は 約1000pg/m1 のTFが 認 め られ,血 栓 存 在 群

(10例)のTF抗 原 量 は 血 栓 非 存 在 群(10例)よ りも 高 い 傾 向 に あ っ た が,有 意 差 は認 め な か っ た 。

骨 髄 液 中 プ ラ ス ミ ノ ゲ ン ア クチ ベ ー タ 活 性 を フ ィ ブ リン エ ンザ イ モ グ ラ フ ィ ー に て 検 討 した と こ ろ,u。PAとt‑PAに 相 当す る 活 性 バ ン ドが 認 め ら た 。 しか し,血 栓 存 在 群 と血 栓 非 存 在 群 との 間 に 有 意 差 は 認 め られ な か っ た 。

以 上 の 結 果 よ り,骨 髄 液 中 に は 凝 固 活 性 を充 進 す るTFが 存 在 す る こ とが 判 明 した 。 TKAに 限 らず 骨 髄 操 作 に よっ

て 血 液 中 に 流 入 す る 骨 髄 液 が 局 所 で の 凝 固 活 性 を 充 進 させ

て,そ の 部 位 で 血 栓 形 成 に 関 与 す る と考 え られ た 。

D‑dlmer TAT

6000

露 耀 鐸が 瞭 露 解 黙罫審

★pく0 .05,"pくO.OG

PICTPAIC

V

ノ轟離轡 ノ轟緯綴

★pくO.05,ttpくO.el

図3TKA周 術 期 に お け る凝 固 ・線 溶 系 マ ー カ ー の 変 化

お わ り に

近 年,PTEの 死 亡 数 が 増 加 し て い る こ と か ら,肺 血 栓 塞 栓 症/深 部 静 脈 血 栓 症(静 脈 血 栓 塞 栓 症)予 防 ガ イ ド ラ イ ン が 提 言 さ れ,DVTやPTEの 発 症 を 予 防 す る 方 策 が 全 国 的 に 行 わ れ る よ う に な っ た 。 近 畿 大 学 医 学 附 属 病 院 で は リ ス ク マ ネ ー ジ メ ン ト は も ち ろ ん の こ と, DVTの 病 態 や 発 症 要 因 を 科 学 的 に 検 証 す る こ と に よ っ て,そ れ ま で 年 間 十 数 件 あ っ たPTE

の 発 症 数 を2003年 の 下 期 よ り 年 間5件 以 内 と 改 善 さ せ,2006年10月 か ら2007年9月 の1 年 間 に は"PTEの 発 症 な し"に ま で 至 っ て い る12)。 今 後 も,病 態 に 即 し た 予 防 ・治 療 が 必

要 と 思 わ れ る 。 参 考 文 献

1)KlatskyALetal.AmJCardio185(11):1334‑1337,2000.

2)GeertsWHetal.Chest126:338S‑400S,2004.3)SakonMetal.JThrombHaemost4(3):581‑6, 2006.

4)E㎜erichJetal.JThrombHaemost3(7):1428‑1431,2005.

5)KawasakiTeta1。IntAngiol14(1):65‑68,1995.

6)AirdWCJThrombHaemost5(Suppl1):283‑291,20e7.

7)WestmuckettADeta1.ArteriosclerThrombVascBiol20(11):2474‑2482,2000.

8)UchiyamaTetal.ArteriesclerThrorr}bVascBiol20(4):1155‑1161,2000.

g)FujitaSetal.ClinOrthepRelatRes375:168‑74,2000.10)森 成 志 膝29:85‑89,2004.

U)森 成 志 他,高 嘉 弘 編 集 血 栓 塞 栓 症 研 究 の 新 展 開28‑31,2007.

12)保 知 生 第8回TTMフ ォ ー ラ ム プ ロ グ ラ ム ・講 演 抄 録 集48‑49,2008.

参照

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