5 氏 名 杉本 樹梨
学 位 の 種 類 博士(理学)
報 告 番 号 甲第446
学 位 授 与 年 月 日 2007年3月31日
学 位 授 与 の 要 件 学位規則(昭和28年4月1日文部省令第9号) 第4条第1項該当
学 位 論 文 題 目 Observation of the Long-term Variability of Cygnus X- 1 with MAXI
(MAXI による Cygnus X-1 の長期変動の観測)
審 査 委 員 (主査) 内山 泰伸 北本 俊二 小泉 哲夫
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Ⅰ.論文の内容の要旨
(1)論文の構成
第1章は本論文の導入部分である。第2章ではブラックホール連星、ブラックホール降着 円盤、大質量星の星風といった本論文の主題を理解する上で必要な宇宙物理学における基 礎事項が簡潔にまとめられ、また本論文において観測対象として選ばれた天体であるブラ ックホール連星Cygnus X-1についての過去の観測結果がまとめられている。第3章では本 論文で用いられた宇宙X線観測機器である国際宇宙ステーション搭載のMAXIについて簡 潔に記述されている。第4章は、MAXIによるCygnus X-1 のX線観測の概要について説 明されている。第5章は著者による独自な研究としてMAXIを用いた Cygnus X-1 の長期 時間変動についての観測結果が記述されている。第6章は連星軌道周期と同期した X 線変 動についての解析結果が示されている。第7章で、得られた観測結果についての議論が行わ れ、著者による独自の新しい降着円盤の描像が提案されている。第8章は本論文のまとめで ある。
(2)論文の内容要旨
ブラックホールと通常の恒星の連星系であるブラックホール連星では、恒星からの質量 降着によりブラックホールの周りに降着円盤が形成される。降着円盤の内縁部分は強い X 線放射で輝き、過去のX 線観測によりブラックホール近傍の降着流については多くの研究 が行われてきた。本論文ではこれまで理解が十分に進んでいない降着円盤全体の構造に注 目し、ブラックホール連星Cygnus X-1のMAXIによるX線観測を行った。数時間から数 ヶ月という長い時間スケールでのX 線時間変動を、ソフト状態・ハード状態の2つに大別 される降着円盤の物理状態を区別した上で測定することにはじめて成功した。観測された 長時間変動を説明するために、標準降着円盤の表面全体にコロナが存在することを提案し た。また連星軌道周期(5.6日)に同期したX線変動の解析結果から、星風が非一様な構造を 持つことを示し、それが長期変動を生み出す原因となっている可能性を議論した。円盤の外 側で駆動された長時間変動が大きな移流速度を持つコロナを介して内縁部に伝播すること を提案し、降着円盤の全体構造の新しい描像を提示している。
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Ⅱ.論文審査の結果の要旨
(1)論文の特徴
本論文は、ブラックホールの周りに形成される降着円盤の構造に関する観測的研究であ る。一般に降着円盤からの X 線放射は激しい時間変動を示すが、数時間以上の長時間変動 については、観測の難しさから、これまで研究が十分に進展していない。本論文では、国際 宇宙ステーション搭載 MAXI によって、代表的なブラックホール連星である Cygnus X-1 を観測し、数時間から数ヶ月という時間スケールでの時間変動のパワースペクトルを、降着 円盤の物理状態を区別しながら測定することにはじめて成功した。著者が開発した手法を 利用して、従来観測がなかった時間スケールでの変動測定に成功したことが本論文の主要 成果としてあげられる。
本論文における長時間変動の測定結果から、標準降着円盤の全体にわたって、円盤表面に 光学的に薄いコロナが存在することを著者は提案している。非一様な星風が降着すること で、中心から遠距離の位置に駆動された長時間変動が、速い移流速度のコロナを介して内縁 部に伝播するという新しいモデルを提案している。長期時間変動に着目し、降着円盤の全体 構造について論じている点が独創的であり、本論文の著しい特徴となっている。
(2)論文の評価
本論文の前半は、後半に記述されている独自の研究を理解する上で必要となるブラック ホール降着円盤に関する基本事項が的確に記述されていると高く評価できる。
そして本論文の後半では、ブラックホール降着円盤に関する、今までになかった新しいX 線観測結果が独自の研究として報告され、それをもとに降着円盤の全体構造そして時間変 動に関する新しい説が提唱されている。本論文で直接扱われたブラックホール連星だけで はなく、一般に銀河の中心に存在する大質量ブラックホールにおいても降着円盤は形成さ れ、銀河進化に重要な役割を果たしている。本論文で得られた新しい知見は、宇宙物理学の 幅広い分野に関係し、宇宙物理学に大きく寄与すると高く評価できる。