ペルオ キ ソバナ ジウム(V)錯体の分解過程 によ り生成す る 活性 酸素種 の検 出 とその酸 化能
研究代表者 理 学部 金 森 寛
序論
現代社会 において、糖尿病 は多 くの人が罹 つてい る病気 であ り、患者 に負担 をかけない治 療法の開発 が強 く望 まれてい る。糖尿病 には、膵臓 でイ ンス リンが全 く作 られ ないイ ンス リ
ン依存性糖尿病 と、イ ンス リンが作 られ るが作用 しないイ ンス リン非依存性糖尿病 がある。
前者 の場合 は、イ ンス リンの投与が不可欠であ り、後者 の場合 で も病状が重い場合 はイ ンス リン投与 に よる治療 がな されてい る。 しか し、イ ンス リンは蛋 白であるため、経 口投与はで きず 、注射 による投与が必要であ り、患者 は苦痛 を強い られてい る。従 って、経 口投与可能 な糖尿病治療薬が開発 されれ ば、糖尿病患者 の負担 を大 き く軽減 で きる。 4価 お よび 5価 バ ナ ジ ウム化合物 はイ ンス リン様作用 を示す こ とが知 られ てい る。 これ らの物質 は消化器 で分 解 され ないため、糖尿病 の経 口投与薬 としての可能性 を持 つてお り、北米では 4価 バナ ジ ウ ム化合物が臨床的に使 われ る段階に近づいてい る。興味深い ことに、 5価 バナ ジ ウムのイ ン ス リン用作用 には、過酸化水素の添加 による相乗効果が見 られ る。 この相乗効果 は、ペルオ キ ソ錯体 の形成 によるもの と考 え られてい る。バナ ジ ウム(V)は、過酸化水素 と反応す ること によ り、様 々なペル オキ ソ錯体 を形成す ることが古 くか ら知 られ てお り、ペルオキ ソバナ ジ ウム(v)錯体 には、新規 な糖尿病治療薬 としての可能性 がある。
一般 に、ペルオキ ソバナジウム錯体の安定性 は、共存配位子に大 きく依存 し、例 えば、キ レー ト配位子 を持たないモ ノペルオキ ソ錯体は これまでに単離 されていないが、キ レー ト配 位子 を共存 させ たモ ノペル オキ ソ錯体が種 々合成 され 、構造決定 されてい る。 キ レー ト配位 子 を共存 させ たモ ノペルオキ ソ錯体で も、その安定性 は共存配位子 の性質 に よつて大 き く変 化す る。例 えば、三脚型 四座配位子である ntaを含むモ ノペルオキ ソ錯体 は、4年 以上 も酸性 溶液 中で安定であるが、 ここでの研 究 に用いた四座配位子 cmhistを含むモ ノペルオキ ソ錯体 は酸性溶液 中で数 日以内に分解す る。糖尿病 に治療薬 としては、適度 の安定性 が必要である。
従 つて、共存配位 子 によつてその安定性 を制御 し、イ ンス リン用作用が よ り高 く、 しか も毒 性 の低いペル オキ ソバナ ジ ウム錯体 を見つ けることは、経 口投与可能 な糖尿病治療薬 として のバナ ジ ウム錯体 の開発 につなが る。
一方、本研究で用いたペルオキソバナジウム錯体は、酸性溶液 中でペルオキソ基 を解離 し、
それ に伴 ってバナ ジ ウムが 4価 に還元 され る。従 つて、 この過程 で、ペルオキシ ドはスーパ ーオキシ ドな どのいわゆる活性酸素種 に変化 していることが示唆 され る。活性酸素は、生物 の寿命や発 ガ ンに関係 してい る と言 われてい る。す なわち、生体 内の活性酸素の生成や消滅 を制御 できれ ば、人類 は今 まで以上の長寿 をまっ とうす るこ とがで きるか も しれ ない。
この よ うにペル オキ ソバナ ジ ウム錯体 は、イ ンス リン用作用だけでな く、活性酸素種 の生 成 と消滅 とい う別 の観 点か らも興味が持 たれ る物質であ り、その性質 を詳 しく調べ ることは 大いに意義 のあることである。
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結果 と考察
1.活 性酸素種の検 出実験
WST‑1還 元法 によるスーパーオ キシ ドアニオ ンの検 出
WST‑1還 元法 とは、WST‑1と スーパーオキシ ドを反応 させ ることによ り、438 nmに吸収 をもつ WST‑l folmazanを生成 させ 、スーパーオキシ ドの生成量 を測定す る方法である。全 ての実験 は、 50 mM sodium phosphate buffer(pH 7.4)中で行 つた。ペルオキ ソバナ ジ ウム錯 体 (dpot錯体 と cmhist錯体)と WST‑1は bufferに溶解 させ た。測定の結果 、dpot錯体では、
錯体の分解 量の 4%相 当分 、cmhist錯体では 7%相 当分 のスーパーオキシ ドが生成 してい ることが分かった。
ESR法 による ヒ ドロキ シラジカルの検 出
ESR法 によるヒ ドロキシラジカル の検 出は、ス ピン トラップ斉Jを用いて ヒ ドロキシラジカ ル とス ピン トラ ップ剤 を反応 させ、反応生成物 に特徴的な ESRス ペ ク トル を検 出す る方法 である。 この方法によ り、dpot錯体 と cmhist錯体 の分解過程 におけるヒ ドロキシラジカル の検 出を行 つた結果、両錯体 とも分解 に伴 って ヒ ドロキシラジカル を生成す ることがわか った。
トリプ トフアンによる一重項酸素の検出
一重項酸素は トリプ トファンと反応す ることにより、N…folmylkynurenineを生成す る。本 実 験 で は 、 錯 体 溶 液 と ト リプ トフ ァ ン 溶 液 を 混 合 し 、 反 応 終 了 後 に 生 成 した N ―f o m y l k y n u r e n i n e をH P L C に よ り確認す る方法 を用いた。実験の結果、一重項酸素の生成 が認 め られ た。
以上の よ うに、ペルオキ ソバナ ジ ウム錯体の分解過程 において、様 々な活性酸素が生成 す ることが分かった。今後 は、これ ら活性酸素種 の生成量の定量 を行 うことが必要である。
2 . プ ロテイ ンカルボニル法 によるベルオキ ソバナ ジウム錯体の蛋 白質酸化能の評価
プ ロテイ ンカル ボニル法 とは、蛋 白質 のア ミノ酸残基の一部が酸化 され ることによ りで きるカル ボニル基 を D N P H と 反応 させ 、生成 した ヒ ドラゾンを L Ⅳ スペ ク トル で測定 し、
^ 定量化す る方法である。蛋 白質 として B S A を 用いて錯体の酸化能 を調べた結果、ペルオキ ソバナジ ウム錯体の蛋 白質酸化能は、他の系 と比べてかな り高い ことが分かった。 (Fig.1) 今後 は、 この酸化能 を有機合成 に活 かす方法等 について も検討す る予定である。
これ らの研究 は、山梨大学の松郷教授 との共 同研究 として行 われた ものである。
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