1 はじめに
IT 技術や物流システムの急速な発達により,
大企業,中小企業の別を問わず企業活動のグ ローバル化が進んでいる。そのような企業活動 の広範化に伴って資本調達や運用も国際市場で 行われるようになっており,企業の経済的実態 に関する情報ニーズも国を越えて高まってい る。会計はこれまで各国それぞれの会計基準で 運用されてきたが,企業価値の国際間比較を可 能にするために国際的な基準を定め統一する方 向に向かってきた。
国際的に統一された会計基準の策定は 1973 年に設立された国際会計基準委員会(Interna- tional Accounting Standards Committee, IASC,
以下 IASC という)による IAS(International Accounting Standards, IAS,以下 IAS という)
に端を発する。IAS は企業価値の国際間比較を 可能にするために各国により異なっていた会計 基準と統一することを目的としていたが,2005 年に EU が域内上場企業に対して国際財務報告 基 準(International Financial Reporting Stan- dards, IFRS,以下 IFRS という)の適用を義 務づけたことを発端に,現在では 120 ヶ国以上 で IFRS が採用されているため,IAS に IFRS を加えたものが国際会計基準として扱われるよ うになっている。
日本でも会計制度を国際標準に近付けるため に 1990 年から企業会計の大きな改正が行われ てきた。それはその影響の大きさから会計ビッ
退職給付会計国際化における論点の研究 Issue in The Internationalization of Retirement Pay Accounting Standard
加藤 将貴
KATO, Masaki
現在の我が国の退職給付会計は,2001 年にいわゆる会計ビッグバンによって導入された。退 職給付会計が導入される以前の会計処理は,企業会計審議会が 1969 年に公表した退職給与引当 金の設定についての個別意見書に基づいたものであり,退職一時金と企業年金とで会計処理が異 なるものであった。同じ退職給付であるにも関わらず支払い原資を内部積立するのか外部積立す るのかによって会計処理が異なっていたことや,退職給与引当金の設定方法が複数あったことが 企業間比較を困難にしており,加えて年金債務がオフバランスとなっていたことなどが大きな問 題となっていた。
現行の退職給付会計は,1998 年の企業会計審議会から公表された「退職給付会計に関する会 計基準に関する意見書」「退職給付に係る会計基準」が基礎となっており,1999 年公表の日本 公認会計士協会 会計制度委員会報告第 13 号「退職給付に関係する実務指針(中間報告)」が主 な実務指針となっている。IAS 第 19 号や FAS87 号と同じように年金債務をオンバランス化し,
退職給付分野の会計を国際標準へ近づけたという意味では大きな進歩であったが,数理計算上の 差異の償却方法や割引率の決定,重要性基準など国際基準と異なっていた部分もある。
本稿は,退職給付会計の国際化を巡る動きと,このほど導入が決まったイールドカーブによる 割引率設定を中心に検討していく。
キーワード: 退職給付会計(Retirement Pay Accounting),割引率(Discount Rate),退職給付債務
(Post-employment Benefit Obligations),イールドカーブ(Yield Curve)
グバン1)と称され,それまでの取得原価主義 から資産・負債の時価または実質価値を財務諸 表に反映させる時価主義会計の方向で順次導入 されてきた。本論文のテーマである退職給付会 計もこの会計ビッグバンの一環として 2001 年 に日本に導入された。それまで日本の退職給付 に係る会計は 1968 年 1 月に設定された企業会 計審議会個別意見書である「退職給与引当金の 設定について」と,それに対して日本公認会計 士協会が 1969 年に公表した「退職給与引当金 に関する会計処理及び監査上の取扱い」,1974 年の「退職給与引当金に関する監査上の取扱い 等について」,年金資産については 1979 年に日 本公認会計士協会監査第一委員会報告第 33 号 が公表した「適格退職年金制度等に移行した場 合の会計処理及び表示と監査上の取扱い」が拠 り所となっていた。本稿では,退職給付会計の 国際化における論点や,イールドカーブによる 割引率設定と現在企業で採用されている割引率 との乖離について焦点を当てる。
2 退職給付会計の沿革
(1)旧退職給付に関する会計の諸問題 退職給付会計導入以前の退職給付に関する会 計処理は退職一時金と企業年金とで異なってお り,退職一時金については退職給付に関する費 用の当期発生額が損益計算書(P/L)に計上さ れ,過去に引当計上された額のうちまだ退職金 として支給されていない額が退職給与引当金と して貸借対照表(B/S)に計上され,企業年金 については年金への拠出金が費用計上されてい た。しかし,退職給付会計以前の会計では以下 のような問題を抱えていた。
【費用の二重計上】
退職給与引当金繰入額は,様々な要因から税 法基準を採用している企業が圧倒的に多かっ た。税法基準によって退職給与引当金繰入額が 設定されている場合には,企業年金が一定期間 の勤務後に受給権が発生するようなケースにお いて費用の二重計上が可能となる問題点があっ
た。企業年金は従業員の年金受給権の発生に係 わらず,その拠出額を費用処理した場合には税 法上の損金とすることができる。また,退職給 与引当金の設定において,税法基準の場合には 年金受給権が発生していない従業員の分も含め た形で退職給与引当金繰入額を計上し損金算入 することができる。そうなると企業年金の拠出 額の費用処理部分と年金の受給権が発生してい ない社員の部分とで二重に退職給与引当金が計 上できるという問題があった。
【比較可能性の問題】
退職一時金の会計処理については,損益計 算書(P/L)の費用項目に退職給与引当金繰入 額を計上し,貸借対照表(B/S) の負債項目に 退職給与引当金を計上する方法をとっており,
企業年金については掛金拠出額を損益計算書
(P/L)に費用計上するが,貸借対照表(B/S)
には何も計上はしない。以上のように,退職給 付の支払い原資を内部積立するか外部積立する かによって,会計処理が異なっていた。加え て,退職給与引当金額の算定も「期末要支給額 の 40%を計上」「期末要支給額の 100%を計上」
「現価基準」等,会計上複数の方法が認められ ていたことから,退職給与引当金として貸借対 照表(B/S)に記載する金額も企業がどの方法 を採用するかによって,企業間で大きな差異が 生まれていた。そのために,企業間の比較を困 難にしていたのである。
【年金債務のオフバランス】
企業年金については,年金財源となる掛け金 拠出額が費用計上されるのみで,貸借対照表
(B/S)には退職給付に関する事項は一切計上さ れなかったため,本来企業にとって債務である はずの年金給付の債務が貸借対照表(B/S)に 適正に表示されていないという問題があった。
【運用環境の変化による引当金と積立金不足の 問題】
退職一時金については平均利回り 8%,平均 残存勤務期間 12 年という仮定の下で算定され た「自己都合退職の期末要支給額の 40%」と
いう方法が一般的であったが,そもそも前提で あった平均利回り 8%や平均残存勤務期間 12 年2)という数字は,日本の経済状況からは乖 離しているという問題があり,それ故に退職一 時金に対する引当額は不足していた。
また企業年金についても,現実経済とは乖離 した 5.5%の運用収益を前提に毎期の拠出額が算 定されていたために,将来の退職給付に十分な だけの運用成果を得られず,年金資産の時価が 帳簿価額を下回る膨大な含み損を抱えていた。
日本経済新聞社が 2000 年 3 月期における日 経株価指数 300 採用銘柄のうち,230 社につい て退職給付債務の不足額を調査したところ,全 社の積立不足は約 10 兆円になり,2001 年 3 月 期中に損失処理するのは約 5 兆円であった。ま た償却年数は全体の半分の企業が一括償却を選 択したが,約 40 社は最長の 15 年で償却するこ とを選択した。債務超過になった企業も 12 社 あった。各社によって不足額や処理方針はさま ざまであるが,退職一時金,企業年金共に積立 不足であったことが,多くの企業が巨額の隠れ 債務となり収益圧迫をしていた。
これらの問題を解決するために導入されたの が退職給付会計である。会計基準の中で国際化 が最も遅れていたとされる退職給付に関する会
計は会計ビッグバンにより国際標準に近づいた という意味では一定の意義はあった。しかし,
当時の改正は多額の隠れ債務を抱えている日本 企業への配慮もあったと言われており,未認識 数理計算上の差異がオフバランス化されている など,国際標準と異なる部分も存在している。
(2)現行の退職給付会計
現行の退職給付会計においては,退職給付債 務から年金資産と未認識数理計算上の差異を差 し引いた額を退職給付引当金として貸借対照表
(B/S)に計上している。退職給付債務とは退 職給付見込額のうち,期末までに発生している と認められる額を一定の割引率を用いて割引計 算したものである。具体的な退職給付債務の算 定方法は以下の通りである。
【退職給付債務計算プロセス】
①退職一時金の見積額の算定
退職一時金見積額=現在給与×昇給率×支 給倍率
まず,予想退職時における退職一時金を 現在給与に昇給率と支給倍率を乗じて求め る。
②退職給付見込額の算定
退職給付見込額=退職一時金×退職確率 表 1 主な上場企業の積立不足と処理方針
単位:億円 積立不足 中間期の
特損処理額 信託設定益 償却年数 富 士 通 6,600 4,156 4,603 10 年
JR東日本 5,004 0 なし 10 年
ト ヨ タ 3,733 3,463 2,650 1年
JR西日本 3,090 0 なし 10 年
★ 本 田 技 2,750 0 なし 15 年
★ 三 菱 電 2,480 1,200 724 10 年 N T T 2,089 2,089 なし 1年
日 航 2,000 0 なし 15 年
三 菱 重 1,725 1,725 1,679 1年
※連結ベース,★は米国会計基準のため単独ベース
出所:日本経済新聞朝刊(2000 年 12 月 29 日)より抜粋
(または死亡率)
退職一時金に退職確率(または死亡率)
を乗じ退職給付見込額を算定する。年金制 度を採用している場合には,年金額に年金 現価率を乗じることで年金現価額を計算 し,退職一時金と同じ扱いをする。
③期間配分計算
過去勤務期間に相当する退職給付見込額=
退職給付見込額×過去勤務期間/過去勤務 期間+将来勤務期間
退職給付債務は当期末までに発生してい る債務であることから,退職給付見込額の うち当期末までの期間に相当する金額につ いて,期間配分計算をしなくてはならな い。
期間配分方法については現行の日本基準に おいて,下記の 4 つの方法がある。
・ 期間定額基準(原則) 過去勤務期間/過 去勤務期間+将来勤務期間
・ 給与基準(容認) 入社時から期末時まで の給与総支給額/入社時から退職時までの 給与総支給額
・ ポイント基準(容認) 入社時から期末ま でのポイント累計/入社から退職時までの ポイント累計
・ 支給倍率基準(例外) 入社時から期末時 までの勤続期間に対する支給倍率/入社時 から退職時までの勤続期間に対する支給倍 率
④割引現在価値計算
退職給付債務=過去勤務期間に相当する退 職給付見込額×{ 1 /(1 +割引率)残存勤務年数} 過去勤務期間に相当する退職給付見込額
は予想退職時点の価値であることから,割 引計算を行うことで現在価値に直す必要が ある。
3 退職給付会計国際化を巡る動き
(1)ASBJ における論点整理
ASBJ では,国際標準における退職給付会計
改訂の方向性と整合性を持たせるべく,2009 年 1 月 22 日に「退職給付会計の見直しに関す る論点整理」を公表して広く意見を求めた。論 点整理の内容は大きく分けて 10 の論点に分か れており,それぞれの概要は以下のようになっ ている。
【論点 1】退職給付債務及び勤務費用の会計処理
[論点 1 − 1] 予測単位積増方式による測定 方法等の見直し
[論点 1 − 2] 退職給付債務及び勤務費用の 測定方法
[論点 1 − 3] 小規模企業等における簡便法 の容認
【論点 2】年金資産及び期待運用収益の会計処理
[論点 2 − 1]期待運用収益の取扱い
[論点 2 − 2]退職給付信託の取扱い
【論点 3】 貸借対照表(B/S)で計上する退職給 付に係る負債
[論点 3 − 1] 年金資産と退職給付債務の総 額表示
[論点 3 − 2] 制度の積立状況の貸借対照表
(B/S)での計上
【論点 4】 数理計算上の差異と過去勤務債務の 会計処理
[論点 4 − 1]数理計算上の差異の会計処理
[論点 4 − 2]重要性基準と回廊アプローチ
[論点 4 − 3]過去勤務債務の会計処理
【論点 5】 損益計算書(P/L)における退職給付 費用に係る表示
【論点 6】退職給付(給付建制度)に係る開示
【論点 7】清算と縮小の会計処理と表示
【論点 8】 キャッシュ・バランス・プランの会 計処理と表示
【論点 9】複数事業主制度の会計処理と開示
【論点 10】その他の退職後給付
(2)割引率
退職給付に係る会計基準注解(注 6)に安全 性の高い長期債権の利回りを基礎として決定す ることとされており,具体的にはリスクフリー
レートである長期国債,政府機関債,複数の格 付け機関からダブル A 相当以上に格付けされ ている社債等の期末時点の利回りを用いる。な お,割引率の設定については国際会計へのコン バージェンスに向けた取り組みとして,2010 年 3 月期の決算から以下の変更があった。
退職給付に係る会計基準注解(注 6)
【変更前】
(注 6)安全性の高い長期債権について 割引率の基礎とする安全性の高い長期債権 の利回りとは,長期の国債,政府機関債及び 優良社債の利回りを言う。なお,割引率は一 定期間の債権の利回りの変動を考慮して決定 することができる。
【変更後】
(注 6)安全性の高い長期の債権について 割引率の基礎とする安全性の高い長期の債 権の利回りとは,期末における長期の国債,
政府機関債及び優良社債の利回りを言う。
変更前までは過去 5 年間の平均利回りを割引 率として用いることができたため,利率の急激 な変化をある程度吸収することができた。しか し,この変更によって期末における利回りを使 用することになったため,利率の変化がこれま でよりも大きく企業財政に影響することになっ た。退職給付会計における割引率は原則として 毎期見直すこととされているが,一方で前期末 に用いた割引率によって算定された退職給付債 務と当期末の割引率によって算定された退職給 付債務の差分が 10%未満である場合には,前 期末の割引率をそのまま用いて退職給付債務を 算定できるという重要性基準は今回の変更で は対象とはならなかった。この重要性基準は IFRS では規定されていないため,退職給付会 計の更なる国際化を前提とした場合には,退職 給付債務の割引率となるリスクフリーレートは 更に影響を強めることとなる。
(3)IFRS と割引率のインパクト 1)IFRS における退職給付の捉え方
現在の退職給付会計においては,退職給付債 務から年金資産と未認識数理計算上の差異を差 し引いた額を退職給付引当金として貸借対照表
(B/S)に計上している。未認識数理計算上の 差異については,貸借対照表(B/S)の注記に 記載されているのみでオフバランスとなってい る。IFRS をアドプションした場合には,未認 識数理計算上の差異は包括利益計算書のその他 包括利益に計上されることになり,財政状態計 算書の所有者持ち分を圧迫することになる。現 行の退職給付会計ではオフバランスであるもの の注記はされているため,その影響は実際のと ころ不明ではあるが,巨額の未認識債務を抱え ている企業も多く,また株主資本比率などの数 値に変化をもたらすことを考えると影響は決し て小さいとはいえない。
2)割引率の差異によるインパクト
退職給付債務の計算は以下の計算方法によっ て計算される(期間定額基準)。
退職給付見込額×期末までの勤務年数 予想勤務年数 ÷ (1 +割引率)X
※ X =期首の残存勤務年数− 1 実際に割引率の設定方法の違いが退職給付債 務にどれだけ影響を与えるかについて同様の条 件下で異なる 3 つの割引率を設定した場合を検 討してみる。
前提:A 社,B 社,C 社の 3 社について,5 年後に退職予定の従業員がおり,退職時の退職 給付見込額は 500,000 円である。なお,割引率 は A 社… 3%,B 社… 5%,C 社… 7%を採用 している。
3 社の退職給付債務はそれぞれ表 2 のように 計算される。割引率 7%となっている C 社と割 引率 5%の B 社の 1 年目の期末退職給付額は約 7%の差分があり,割引率 3%の A 社と比較す ると約 14%の差分が見られる。
3 社は 2%ごとの異なる割引率を適用してい る以外はまったく同じ条件で計算を行っている が,退職給付債務は大きく異なっており,退職 給付会計における割引率の設定が企業ごとに異 なる計算結果をもたらすことを示している。
先行研究の奥田(2005),吉田(2008)のよ うに,退職給付債務の算定には経営者の裁量的 行動があるという研究結果もある3)。つまり,
企業それぞれの事情によって財務諸表の見栄え が良くなるような割引率等を設定することがあ るという。今回の計算では非常に簡略化した前 提を用いているが,国税庁長官官房企画課によ る民間給与実態統計調査によれば,給与所得者 の 2010 年 12 月 31 日現在の平均勤続年数は 11.6 年(男性 13.0 年,女性 9.5 年)4)であり,厚生 労働省による 2008 年就労条件総合調査の概況 によれば,退職給付制度を導入している企業は 85.3%5),退職給付の額は大学卒(管理・事務・
技術職)で 2,335 万円6)であることを考えると,
日本企業が抱える多額の積立不足がオンバラン ス化されれば,企業経営に大きな影響をもたら すことが容易に想像される。
(4)イールドカーブによる割引率の設定 退職給付会計を国際標準に合わせていこうと した場合には,これまでより更に厳密な割引率 の適用が求められると考えられる。
ASBJ は IFRS の強制適用を見据えて,2010 年 3 月に企業会計基準公開草案第 39 号「退職 給付に関する会計基準(案)」および企業会計 基準適用指針公開草案第 35 号「退職給付に関 する会計基準適用指針(案)」を発表した。
先にも述べた通り,退職給付会計の割引率の 設定は安全性の高い長期の債権の利回りを基礎 として用いるとされているが,改正案において は「給付期間ごとに設定された複数のものを使 用することを原則的な考え方とする」とある。
現行の基準では,退職日の退職給付見込額を一 定の割引率で現在価値にすることで退職給付債 務を求めるが,改正案では計算日を基準とし て 1 年間の退職給付債務に関しては 1 年の期間 に相当する金利を用い,1 年から 2 年の退職給 付債務に関しては 2 年の期間に相当する金利を 用いて計算を行うイールドカーブを使った割引 計算を行うことが原則となる。また,イールド カーブを用いた割引計算結果と同程度の退職給 付債務・勤務費用が算定されることが前提であ 表 2 割引率の違いによる退職給付債務への影響
単位:円
年度 1年 2年 3年 4年 5年
期首退職給付債務 0 88,849 183,028 282,779 388,350 勤務費用 88,849 91,514 94,260 97,087 100,000
利息費用 0 2,665 5,491 8,483 11,650
期末退職給付債務 88,849 183,028 282,779 388,350 500,000 期首退職給付債務 0 82,270 172,768 272,109 380,952 勤務費用 82,270 86,384 90,703 95,238 100,000
利息費用 0 4,114 8,638 13,605 19,048
期末退職給付債務 82,270 172,768 272,109 380,952 500,000 期首退職給付債務 0 76,290 163,260 262,032 373,832 勤務費用 76,290 81,630 87,344 93,458 100,000
利息費用 0 5,340 11,428 18,342 26,168
期末退職給付債務 76,290 163,260 262,032 373,832 500,000 B社
割引 率5%
C社 割引 率7%
A社 割引 率3%
出所:著者作成
れば,給付見込期間ごとの退職給付金額を加味 した単一の加重平均割引率を設定することもで きる7)。
イールドカーブを用いた割引率を設定する場 合には,財務省のホームページに掲載されてい る国債の流通市場における実勢価格に基づいて 算出した主要年限ごとの金利情報が参考となる と考えられる。2012 年 4 月 26 日の金利は以下 の通りとなっている。
表 3 国債金利情報
単位:%
40 年… 2.108 30 年… 1.905 25 年… 1.837 20 年… 1.713 15 年… 1.430 10 年… 0.925 出所:財務省ホームページ
2010 年 3 月期における上場企業が採用して いる退職給付債務の割引計算に用いている割 引率の平均値は 2.55%8)となっているが,1 番 高い 40 年国債の金利でさえ 2.108%と平均を下 回っている。退職給付債務を算定する割引計算 では,割引率が上昇すれば退職給付債務は減少 し,割引率が低下すれば退職給付債務は増加す る。つまり,仮に一番金利の高い 40 年国債の 2.108%を適用しても,多くの企業で現状より も退職給付債務は増加する9)。加えてイールド カーブを用いた割引計算では給付期間ごとの割 引率で計算を行うことになるため,割引計算の 大部分を,現在,企業が用いている割引率の平 均値である 2.55%以下で計算することになり,
企業財政へのインパクトは非常に大きい。ま た,今回の改正では給付帰属期間についても改 正案があり,運用においては前期の割引率を用 いて算定された退職給付債務と当期の割引率を 用いて算定した退職給付債務の差分が 10%未 満の場合には,前期の割引率を用いることがで きる重要性基準も絡んでくることから,今後の 退職給付会計の動向は企業だけでなく,そこで 働く従業員にとっても大きな意味を持つ。
(5)IAS19 改正
IASB は 2011 年 6 月 16 日に IAS19 について 以下の改訂を公表した。
・数理計算上の差異の遅延認識を廃止し,退職 給付債務の積立不足又は債務超過は即時認識 する。
・数理計算上の差異について,発生時にその他 包括利益で認識する。
・社債の利回りに基づき制度資産の運用収益を 求め,それを純損益として認識する。
・中長期の給付制度は,年金と同様の方法で認 識し,測定される。ただし,見積りの変更は 純損益に計上される。
・退職給付制度の改訂により発生する過去勤務 費用についても即時認識が求められる。
・解雇給付は従来よりも遅い期間に認識される 可能性がある。
上記の中で最もインパクトがあると考えられ るのが,数理計算上の差異の遅延認識を廃止し て,退職給付債務の積立不足または債務超過 を即時認識するという点であろう。これまで IAS19 では,即時認識か回廊アプローチのどち らかを選択することができたが,比較可能性の 確保という観点から改正に至った。
4 おわりに
会計基準の中で国際化が最も遅れていたと言 われてきた退職給付に関する会計は,会計ビッ グバンにより国際標準に近づけたことは大きな 意義があった。しかし,当時の改正は多額の隠 れ債務を抱えている日本企業への配慮もあった と言われており,未認識数理計算上の差異がオ フバランス化されているなど,国際標準と異な る部分も存在している。
IFRS の 2015 年 3 月強制適用は延期となっ たが,国際的潮流から企業の経済的実態をより 厳密に測定し開示することが求められる時代と なっていることには変わりはない。退職給付会 計の国際化が進むと,日本企業の退職給付債務 は現状よりも膨らむ可能性が高く,多額の積立
不足が白日の下にさらされる。企業規模によっ ては兆単位の退職給付債務を抱える企業もある と言われる。
企業財政の中でも占める割合が大きく,長期 にわたる退職給付は企業の重要な経営課題のひ とつであることから,企業は自社の年金資産に ついてその運用方法を再度検討し,場合によっ ては退職給付制度の変更をするなどの対策を早 期に実施していく必要がある。
【注】
1) 1999 年度移行,連結会計,税効果会計,金融商 品時価会計,退職給付会計等の分野で順次導入。
2) 割引率,平均残存勤務期間共に 1980 年(昭和 55 年)当時の統計に基づく数値。
3) 奥村雅史(2005)「退職給付債務に関する裁量的 情報開示」『早稲田商学』第 404 号,27-49.吉 田和生(2008)「退職給付会計における期待運用 収益率の分析」『名古屋市立大学経済学会ディ スカッション・ペーパー・シリーズ』No.488,
1-11.
4) 給与所得者の平成 22 年 12 月 31 日現在における 勤続年数(1 年未満の端数は切り捨て)の総計 を給与所得者数で除したもの。
5) 1989 年… 88.9%,1993 年… 92.0%,1997 年 88.9%,
2003 年 85.3%となっている。
6) 勤続 35 年以上の定年退職者の学歴職種別退職 金。他に高校卒(管理・事務・技術職)2,001 万 円,高校卒(現業職)1,693 万円,中学卒(現業 職)1,479 万円となっている。
7) イールドカーブを用いて複数の割引率を設定す るか,金額加重平均期間による単一の割引率を 用いるかいずれかを選択する。
8) 日経メディアマーケティング(株)「退職給付関 連データ」より。上場企業 3,129 社で割引率が 収録されている企業の退職給付債務加重平均値。
9) 割引率を設定する場合には平均残存勤務期間を 用いることから,実際には更に低い割引率が用 いられる可能性が高い。
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