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退職給付制度の現代的特質と持続可能性

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退職給付制度の現代的特質と持続可能性

企業年金を中心に

江 淵 剛

■アブストラクト

企業がその従業員に提供するリタイア後の老後所得保障を企図した退職給 付制度及びその代表制度たる企業年金は,転換期を迎えている。

近年,個人別勘定ベースの企業年金(キャッシュバランスプラン,確定拠 出年金)の広まりが確認できる。資産積立を通じての 貯蓄 としての性格 が強い当該制度を実施する意義として,年金資産の外部積立(退職給付制度 におけるリスク分散),企業年金組成によるスケールメリットを通じた制度 運営コストの低廉化,加入者(従業員)への教育機会の提供と金融市場の変 動性が高まるなかでのオプション性を内包する確定給付型の企業年金として の価値の高まり,が挙げられる。

他方,今後の課題として,年金の給付設計における有期化がもたらす長寿 リスクの加入者への転嫁,困難性を増す年金資産運用,制度に対する加入者 の理解・関心の底上げ,を指摘したい。

■キーワード

退職給付制度,企業年金,個人別勘定(アカウント)

1.はじめに

企業がその従業員に対して提供する企業保障,福利厚生制度をめぐる近年

*平成26年11月15日の日本保険学会関西部会報告による。

/平成27年1月13日原稿受領。

(2)

における変容,多様化の動きが顕著である。その背景としては,グローバル な企業競争,事業展開や変動性を増す企業業績といった企業側の要因と雇用 形態,ライフスタイルの多様化,労働市場における流動性の高まりといった 労働者側の要因の2つが考えられる。

本稿では,企業保障のなかでもその従業員のリタイア後の老後所得保障を 企図する退職給付制度を取り上げる。また,具体的な退職給付制度として,

現在,転換期にある企業年金に着目し,その新たな潮流について深掘する。

本稿の構成は次のとおりである。2では,まず厚生労働省が実施する 就 労条件総合調査 にもとづき,わが国企業における退職給付制度の趨勢を概 観する。そこでは,近年における退職給付制度及び企業年金実施企業の割合 の低下が確認される。また,企業年金運営に際して,要請されるリスク管理 の高度化についても付言する。続いて3では,個人別勘定ベースでの企業年 金の広まりを指摘,当該潮流を 今日的企業年金 の広まりとした上で,そ の意義や運営における課題を考察する。4はまとめである。

2.退職給付制度の潮流

⑴ 就労条件総合調査にみる退職給付制度の動向

企業保障において,従業員のリタイア後の生活保障資源として機能する退 職給付制度 は労使双方の観点から重要な福利厚生制度の一つである。以下,

厚生労働省が実施する就労条件総合調査 より近年における動向を概観する。

まず,退職給付制度実施企業の割合を見れば,9割以上の企業が何らかの

1) 退職給付制度は, 退職(一時)金 , 企業年金 の各制度を内包し,企業 年金には厚生年金基金,確定給付企業年金,確定拠出年金(企業型)がある。

2) わが国企業が実施する退職給付制度を対象とする主な調査として,他に 退 職金・年金に関する実施調査 (日本経団連), 民間企業退職給付調査 (人事 院), 中小企業の賃金・退職金事情(東京都) などがある(カッコ内は調査 実施主体)。本節では,調査対象企業が大企業から中小企業まで幅広く,サン プル数が多い,長期的な傾向を摑むことのできる点を重視し,就労条件総合調 査を取り上げることとした。

(3)

退職給付制度を講じていた1978年当時と比べ,直近の実施割合は75%までに 低下,実に4社に1社が何れの退職給付制度も備えていないことが確認でき る。とりわけ2000年代に入って以降の落ち込みが著しい。

国内外の先行研究によれば,会計制度の変更が企業年金運営に影響するこ とが指摘されている 。わが国では,2000年度に退職給付会計基準が導入さ れ,退職給付債務の測定,退職給付引当金の負債計上が求められることとな った。同時期より鮮明化した資産運用環境の変調,低迷も相まって,退職給 付制度実施企業の割合の落ち込みが如実に現れている。

また,定年退職者ベース(大卒)の平均退職給付額の推移を見ても1997年 の2,871万円をピークとして,2013年では1,941万円と落ち込みが激しい。わ が国の退職給付制度の平均的実像について,制度未実施企業の増加と1人当 たり平均退職給付額の趨勢的低下という,今後の動向を見据えるにあたり懸 念を抱かざるをえない概況となっている。

⑵ 企業年金の潮流

わが国企業年金の特色としては,退職(一時)金制度を原資とした企業年 金への段階的移行によって普及してきたことが挙げられ,したがって企業規 模の別を問わず,退職給付制度における退職金制度と企業年金制度の併用,

並存が大勢となっている。しかしながら,企業年金を取り巻く環境変化のた だなかにあって,企業による企業年金実施を巡る動きも変容,複雑化の過程 にある。2000年度の退職給付会計基準導入以降のわが国企業年金の情勢を俯 瞰すれば,資産運用環境の激変,企業年金制度の多様化と企業年金カバー率 の低下に集約されよう。また,上記各々の事象は独立に生じているのではな

3)

Severinson, C.et al

(2012)では,ソルベンシー規制や会計基準が保険会 社や企業年金に与える影響を考察している。企業年金にかんしては,英国の

FRS

17や米国の

SFAS

158といった会計基準の導入により,確定給付型の企 業年金において資産運用リスク低減施策としての株式から債券へのアロケーシ ョンの変更及び資産運用リスクの(加入者への)転嫁としての確定給付型から 確定拠出型への制度変更が進展している。

(4)

く,相互に連関を持って生起している。

さて,わが国企業年金について制度別にみた場合,現在最も普及している 制度は確定給付企業年金であるが,ここに至る過程においては低迷する資産 運用環境の下で進行した厚生年金基金の代行返上と2002年の確定給付企業年 金法施行に伴う税制適格退職年金(以下,適格年金)の廃止(2011年度末)

がある。厚生年金基金と適格年金はおよそ半世紀にわたって,わが国企業年 金の普及に寄与してきたところであるが,両制度の盛衰に併せて企業年金カ バー率が低下していることは看過できない 。最も大きな規模となった確定 給付企業年金においても2012年度の加入者数はおよそ800万人であり,厚生 年金保険の被保険者数の2割程度に留まっている。なお,現在の大・中規模 の確定給付企業年金の出自としては,かつての厚生年金基金が代行返上を経 て残った基金(会社)独自の上乗せ給付部分であるケースが多く,代行返上 を可能ならしめるのは財務に余裕のある大手・中堅企業 が多かった,とさ れる。すなわち,主要企業においては既にその多くが確定給付企業年金を講 じているものと考えられ,あまねく中小の企業に対して企業年金導入に向け た積極的政策支援などがなされないままでは,今後における確定給付企業年 金の加入者数や年金資産両面での一段の拡大余地は自ずと限定的となってこ よう。

⑶ 求められる企業年金運営におけるリスク管理の高度化

今後の退職給付制度運営を考察する上で外すことのできないファクターが 4) 厚生年金保険被保険者数に対する企業年金カバー率(企業年金加入者数/厚 生年金保険被保険者数)は,2000年度の65%から2012年度では48%まで低下し ている。

5) なお,上野(2007)では厚生年金基金を擁する東証1部上場企業を対象とし た実証分析をつうじて,代行返上しなかった企業に比べ代行返上を行った企業 は退職給付に関する費用(勤務費用や未認識数理計算上の差異など)が有意に 高いこと,代行返上後には企業はその翌年度以降,(退職給付にかんする費用 の減少から) 利益を押し上げていることを指摘している。上野 (2007)

pp.72‑

76。

(5)

企業年金を巡るガバンス向上の要請,規制強化である。わが国におけるその 明確な嚆矢となった出来事は,2012年に露呈した

AIJ

社年金資産消失事件

(以下,AIJ事件)とその後の厚生年金基金制度のあり方を巡る議論であっ た。また,会計的側面からも企業年金運営におけるリスク管理及びディスク ローズの向上が要請された。ここでは,今後の企業年金運営動向に大きな影 響を与えうる事象,すなわち企業年金を巡る規制強化とガバンンス向上の要 請を取り上げ小考したい。

①厚生年金基金運営における規制強化

2013年6月,制度誕生50年を数えるわが国厚生年金基金制度の段階的縮小 方針を盛り込んだ改正厚生年金保険法案 が可決,公布となった。これによ り施行日(2014年4月1日)から5年を境として,厚生年金基金制度が大き く変容することとなった。

周知のとおり,厚生年金基金は厚生年金の一部を国に代わって運営する仕 組みであり(代行給付 ),厚生年金基金に加入する企業は厚生年金保険料 の一部を 免除保険料 として厚生年金基金に納付,基金は独自の上乗せ給 付部分と代行部分 とを併せて管理,運用している。厚生年金基金は,代行 制度を採ることで,(独自の上乗せ給付部分が少ない場合でも)代行部分と 上乗せ給付部分とを合算して年金資産運用を講じることによるレバレッジ効 果の享受や地域・事業内容に関連を持つ企業同士での帯同による 総合型

6) 公的年金制度の健全性及び信頼性の確保のための厚生年金保険法等の一部 を改正する法律案 。当該法案は,2012年2月の

AIJ事件の発覚後,8回にわ

たる 厚生年金基金等の資産運用・財政運営に関する有識者会議 及び同11月 から7回にわたる 厚生年金基金制度に関する専門委員会 での議論などを受 けて取り纏められた。本稿では以下, 改正法 という。

7) 代行給付に係る負債を 最低責任準備金 という。最低責任準備金は,厚生 年金基金が解散する際に国に返還するべき積立金相当額である。厚生年金基金 が積み立てている年金資産が最低責任準備金を下回っている場合, 代行割れ 状態を示している。

8) 厚生年金基金加入員の加入期間に応じた厚生年金基金独自の上乗せ給付部分 と代行部分とを合算した負債を最低積立基準額という。

(6)

基金の設立を通じたスケールメリットから,これまで広く普及してきた。

しかしながら,今般の改正法により,多くの厚生年金基金が解散,制度の 大幅縮小が取り沙汰されている。すなわち,改正法では厚生年金基金が抱え る 代行部分 の毀損が厚生年金本体に与える影響を重視, 代行割れ を 生まない政策対応に注力することとしている。

まず,改正法施行日後5年を目処に厚生年金基金を 代行割れでない場 合 と 代行割れの場合 とに大別した上で,代行割れでない厚生年金基金 には 存続 , 代行返上 , 解散 を選択させる一方で代行割れ厚生年金基 金には解散が余儀なくされる。代行割れではない厚生年金基金においては,

存続 も残されてはいるが,施行日から5年経過後は 存続要件 の充足 が制度存続の与件となる( 代行割れを未然に防ぐための制度的措置 )。す なわち,存続する厚生年金基金 においては,毎年度ごとに 資産が最低責 任準備金の1.5倍を上回っている もしくは 資産が最低積立基準額を上回 っている ことが求められる。なお,施行日より5年経過後,存続厚生年金 基金が当該基準に抵触した場合には解散命令が発動されることもあるという。

加えて, 存続 を選択した場合,当該厚生年金基金に対する継続的なモニ タリングも強化されることとなった。すなわち,当局への四半期ごとの運用 報告や母体企業の事業概況報告の義務化などである 。改正法を受けての厚 生年金基金制度の動向と他退職給付制度への移行等に関し,注視していく必 要がある。

②企業年金のガバンンス向上

確定給付型の企業年金であれば,規約に則った将来の確実な給付の履行が 当然に求められる。給付履行までには,拠出された掛金の管理とその計画的 運用が伴い,企業年金基金 は事業主,加入者に対して受託者責任を負う

9) 改正法の下で 存続厚生年金基金 となる。

10) この他,政策的資産配分の策定と届出,代議員会や事業主・加入者などへの 事業概況報告義務及び第三者的立場にある年金数理人による年金財政の逐次的 チェックの遂行など多岐にわたる。

11) ここでの企業年金基金としては, 基金型 として母体企業とは別法人にて

(7)

ことになる。受託者責任を果たし,安定的な制度運営を持続するには年金資 産の実在性を担保し,関係方面に対する正確なディスクローズが重要となる。

金融市場における変動性の高まりがみられるなか,資産運用手法の複雑化,

高度化が進む近年にあって,企業年金に関しても会計基準の変更や会計監査 の必要性の高まりなどを背景に一段高いガバナンスが求められている。

企業年金を巡る近年の大きな関心事の一つとして,退職給付会計基準の改 正が挙げられる。そこでの大きな改正点として (退職給付制度における積 立不足の)貸借対照表での即時認識化(以下,即時認識) , 開示項目の拡 充 , 退職給付債務(PBO)測定方法の変更 の3点がよく取り上げられ るところである。このなかでとりわけ, 即時認識 については退職給付制 度における企業の積立状況が直接,貸借対照表に反映されることをつうじて,

積立不足がある場合,純資産の減少がもたらされ,企業年金が母体企業財務 に与える影響の増大懸念からかねてより注目度が高い。しかしながら, 開 示項目の拡充 についても直接的に企業財務に影響を及ぼすものでもないも のの,当該企業の退職給付制度,とりわけ企業年金の運営や積立状況につい て仔細なディスクローズが求められる内容であり,丁寧な対応で臨む必要が あろう。

今般の追加開示項目には期中における退職給付債務や年金資産の増減,資 産の主要内訳,企業年金ポートフォリオにて追求する期待運用収益率などが 含まれることとなった。企業年金資産運用管理の要として,政策資産配分の 策定は広く普及しているところであるが ,追加開示に伴い,当該政策資産 配分が足下の金融市場情勢と整合的な内容となっているか,また,期待運用 収益の達成可能性などについて,新たに着目されることとなろう。

設立された厚生年金基金,確定給付企業年金を想定している。なお,確定給付 企業年金には,事業主が信託銀行や生命保険会社といった金融機関と契約を結 ぶことによって講ずる 規約型 もある。

12) 確定給付企業年金の8割以上が政策資産配分を策定している。企業年金連合 会(2014),p.57。

(8)

3.個人別勘定(アカウント)による企業年金の広まり

保険技術的機能として,保険集団の組成を通じたリスクの集積,分散は先 行研究で指摘されるところである 。企業年金の領域では,終身給付が基本 となる厚生年金基金や年金の給付設計として終身給付を選択肢に含む確定給 付企業年金などでは,加入者から企業年金への長寿リスクの転嫁及び加入者 間での長寿リスクの分散機能が備わっているものと考えられよう。

他方で,近時においては企業年金の年金給付設計として 有期 が中心で あるとともに従前に比して個人別勘定(アカウント)の設定や個人別年金資 産残高が明瞭となる企業年金の普及が進んでいる。すなわち,確定給付企業 年金におけるキャッシュバランスプランと確定拠出年金である。当該制度で は,個人別資産残高の積み上がりをつうじて年金資産の形成に務めていくが,

年金の給付期間設計として多くが 有期 であり,加入者からして 長寿リ スク の転嫁,終身給付の享受を可能とするものではない 。近年の退職給 付制度において浸透しつつある,個人別アカウント内に積みあがった年金資 産残高を給付原資とする企業年金制度 を 今日的企業年金 と呼ぶとき,

その意義及び課題としてどのようなことが指摘できるのか。

13) スコット・E.ハリントン他(2005),pp.83‑117など。

14) 長沼(2012)では,個人年金保険を取り上げ, リスク移転の要素 や 保 険性 というべき要素 に乏しく, 貯蓄類似性が際立っている ことを指摘 する。すなわち,個人年金保険をその内実から, 積み上げ過程 と 払い出 し過程 とに区分し,積み立てによる年金原資の形成と保険事故(支給開始年 齢の到達)を契機とする年金原資からの 有期 での年金給付や一時金として の受け取りの多さから, 貯蓄の取り崩し とし,個人年金保険の貯蓄への近 接を述べている(p.1,pp.7‑12)。また,同様の指摘として水島(1996)p.222。

15) 岡村(2004)では,当該企業年金制度における数理計算が 個人計算 か 団体計算 かの別に拠り, 企業年金をめぐる保険性と貯蓄性 に着目してい る。すなわち, 個人計算 では貯蓄性が強い一方, 加入者間で死亡者から生 存者への資金移転(保険的再分配) が見られる団体計算に基づく場合は保険 性が強くなるものと指摘する(pp.164‑165)。

(9)

⑴ キャッシュバランスプランと確定拠出年金

キャッシュバランスプラン(以下,CBP)は,2002年の確定給付企業年 金法の施行によりわが国企業年金の一形態として導入された 。CBPは,

制度としては確定給付型に区分されるが,将来における受給額が必ずしも確 定しているものではないことから,確定拠出年金の特徴も持ち合わせる ハ イブリッド型 ともされる。CBPのハイブリッド性については,以下,当 該制度の概要を見ていくことで確認したい。

CBP

においては,まず当該企業年金の加入者ごとに勘定(アカウント)

が設定されたように制度運営される 。事業主(若しくは加入者からも)は 定期的に仮想個人勘定に掛金拠出 をしていくイメージであるが,当該持 分付与額を元本として,資産運用による指標利回り に基づく利息付与額 が付与されていく。将来における年金原資としての最終的な給付額は仮想個 人勘定に積み上がった 持分付与額の累計と利息付与額の累計の合計 とな り ,最終財産額は事後確定的となっている。CBP運営にあたっては,確 定給付型の制度として退職給付債務の認識が求められる一方で再評価率が可 変的であり,退職時における最終資産額が事後確定的となっていることから 確定給付型と確定拠出型とのハイブリッド性が指摘される。CBP運営者に とっては,運用環境変化との平仄を合わせた再評価率の可変性により運用リ 16) 日本経団連の調査(2013)によれば, 退職年金制度 を持つ企業のうち,

その制度種別として約4割が

CBP

であった。

17) 仮想個人勘定残高として管理される。

18) 持分付与額。規定に則して, 定額 または 給与の一定割合 などにもと づく掛金を従業員ごとの仮想個人勘定残高に拠出(付与)していく。

19) 再評価率や付与利率といわれる。指標としては,長期国債利回りの過去平均 に基づく場合が多い。なお,2014年4月より

CBPの給付設計の弾力化がなさ

れ,従前は,単年度ごとに 0% 以上の再評価率の設定が求められていたと ころ,これが加入期間通算で 0% 以上へと緩和された(持分付与額は毀損 してはならない)。これにより,単年度ごとでは0%以下になりうる株式指数

(TOPIXなど) をはじめ 基金の運用実績 を指標とすることも可能となった (積立金の運用実績に連動した給付)。

20) 日本年金数理人協会(2003),pp.158‑159。

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スクの調整余地を持ち得ることから,制度の持続可能性の確保が図られる 。 なお,再評価率の可変性をつうじて制度の安定運営を志向する

CBP

は,わ が国企業年金のほか,米国でも確定給付型の企業年金として近年,採用が進 んでいる 。

確定拠出年金についても退職給付債務としての負債認識が会計上,企業に は求められず資産運用リスクから企業が解放されることや加入者側からも,

転退職後のポータビリティ性(年金資産移管)の高さもあいまって,年々,

加入者の増加が確認できる 。

⑵ 今日的企業年金運営の意義

前項で見た

CBP,確定拠出年金は企業年金のなかでも個人別勘定に基づ

く制度設計であり,資産積立をつうじた 貯蓄 としての性格が色濃い。企 業にとって,このような制度を企業年金として備え,従業員に提供すること にはどのような含意が見出されるのか。

第一に指摘できることとして,掛金の外部拠出を通じた外部積立,受給権 の確立である。企業年金においては,社内積立による退職一時金とは異なり,

年金資産は外部の年金基金(基金型の厚生年金基金,確定給付企業年金)や 金融機関(規約型の確定給付企業年金,確定拠出年金)に拠出,積み立てが

21) 例えば,再評価率の指標として国債利回りを用いる場合,国債利回りの低下 と合わせて再評価率も低下することとなり,年金負債評価の増大も抑制される。

また,再評価率に上限・下限を設けることで,債務の変動をより抑えることも 可能となる。日本年金数理人協会,前掲注20),pp.160‑161。

22) 米国における

CBPの採用状況として,2012年末時点で確定給付型の企業年

金の25%を占めるに至っているが,2001年時点の2.9%から年々,CBPの浸透 が進んでいることが確認できる。なお,米国の

CBPでの再評価率としてポピ

ュラーな指標は米30年債利回りであり,当該指標の過去10年の平均値は 4‑5%

であった。KRAVITZ(2014)p.4,p.10

.

23) 従業員からも確定拠出年金への掛金拠出が可能となった(マッチング拠出の 解除)2012年以降,確定拠出加入者数の伸長は確定給付年金のそれを上回って いる。

(11)

なされ,社外での積立資産となる。従業員にとり,年金資産の外部積立は退 職給付制度資産における リスク分散 として機能する 。一方で企業年金 制度の運営主体には,年金資産の実在性を担保することが重要となり,制度 運営のガバナンス強化が求められるところとなる 。

第二に,企業年金組成によるスケールメリットである。すわわち,年金資 産規模の増大をつうじて,主として運用報酬水準の低減を可能ならしめ,低 廉なコストに基づく制度運営が実現できる。企業年金連合会(2014)によれ ば,確定給付型の企業年金において,年金資産規模が増大するほど集団運用 による運用報酬料率の低減効果が確認できる 。

第三に,とりわけ確定拠出年金においてであるが,資産形成やライフプラ ンを巡る従業員への教育機会の提供の実現である。資産運用リスクにつき,

従業員(加入者)が負う確定拠出年金にあっては,運用の巧拙がそのまま将 来の年金受給額として反映される。このことから,制度提供主体たる事業主 には加入者に対する投資教育の実施が義務付けられている 。足下で,この

24) もっとも,確定給付型の企業年金制度の場合においても積立不足が多額に上 り,母体企業の著しい業績不振や企業年金財政の回復を企図する特別掛金の拠 出が難しいケースでは,企業年金が解散するなどした帰結として,給付額が減 額されることも無いわけではない。

25) 日本公認会計士協会(2012)pp.2‑6。

26) 企業年金連合会の調査によれば,資産規模25億円未満の企業年金が負担する 運用報酬料率は年間で当該企業年金資産の0.51%相当であるが,資産規模100 億円〜250億円では0.38%,資産規模500億円〜750億円では0.31%となるなど,

資産規模増大に応じた運用報酬料率の低減が確認できる。(企業年金連合会

(2014)p.76)。なお,個人の主な資産運用ツールである投資信託にかかる運用 報酬として,国内においては2013年末でおよそ1.5%とされる(朝倉(2014)

pp.41‑42)。小規模な企業年金でも 機関投資家 としてのコスト低減効果が

確認できる。

27) 2011年8月施行の 国民年金及び企業年金等による高齢期における所得の確 保を支援するための国民年金法等の一部を改正する法律 において,確定拠出 年金を実施する事業主に対する加入者への投資教育の実施義務が明文化された。

また,2013年3月には法令解釈通知が改正され,投資教育においては老後資金 の形成に関して 老後までに時間がある若年層には比較的リスクが取りやすく,

(12)

投資教育の実施状況はようやく過半を達成したところであるが,年々,実施 企業の割合は増えつつある 。なお,2013年4月に公表された 金融経済教 育研究会 の最終報告には,社会人に対する金融経済教育の旗印として,確 定拠出年金における投資教育が期待されている 。広く社会的な金融経済教 育,関心の醸成においても確定拠出年金が有力視されている。

さいごに企業年金,とりわけ確定給付型制度の実施意義について,企業年 金におけるオプション性の内包とその価値(プレミアム)の高まりが指摘で きよう。CBPを含む確定給付型の制度において,資産運用リスクは企業が 負っており,制度に積立不足が生じた場合には特別掛金の拠出をつうじた年 金財政,積立比率の回復が企業側に求められている。加入者からしてみれば,

(制度の積立比率にかかわららず)受給権の確定に基づく確定的な給付履行 は,企業から(従業員へ)のプットオプション付与としての機能を享受して いるとも捉えることができよう 。オプションプレミアムは,オプションの 原資産の価格変動(ボラティリティ)の増加関数であるが,近年の数次にわ たる金融危機と大規模な各国中央銀行による金融緩和政策は広く金融市場の 変動性を高めることとなった(図表1)。

市場変調のなかにあって,確定給付型の企業年金の持続可能性保持が重要 なイシューとなっているが,持続する低金利環境と市場変動性の高まりのな かで確定給付型の企業年金運営,維持は従業員にとっても大きな関心事であ るものと考える 。

老後を間近に控える高年層には,リスクを抑えるといった投資の基本的な考え 方を意識付けることが望ましい というようにライフステージに応じた投資リ スクの調整にかかわる具体的内容も含まれることとなった。

28) 企業年金連合会(2013)によれば,継続投資教育の実施状況は55.2%とされ るが,これは2010年比で11ポイントの上昇である。

29) 金融庁(2013)。

30) 玉之内(2008),pp.95‑98。

31) なお,オプション性にかんするより頑強な考察としては企業年金ポートフォ リオの年度別などでのリスク水準推移を算出,当該リスク値の増減を通じた検 討などが考えられる。

(13)

⑶ 今日的企業年金の課題

今日的企業年金について,その課題もいくつか指摘できる。まず,第一に 年金給付期間の有期性である。前述のとおり,わが国企業年金は退職一時金 制度からの移行を 出自 としており,年金の給付期間として有期である制 度設計が多く,終身給付を設定しているプランは少数派となっている 。

さて,近年では年金制度を巡るテーマとして,長寿化の下での終身給付の あり方が広く取り上げられている。Clark, G.L. et al(2006)では,確定 給付型の企業年金制度運営において見過ごされている回避(ヘッジ)困難な コスト増要因として,長寿リスク,インフレリスク,コストリスクを取り上 げている。IMF(2012)も長寿リスクが及ぼす公的・私的年金財政へのイ ンパクトについて留意を促す 。

(出所)Bloombergより作成。なお,株式ボラティリティは3年ローリング (移動)にて算出。

(図表1)株式指数ボラティリティ・国内長期金利 推移

32) 格付投資情報センター(2010)の調査によれば,わが国の確定給付企業年金 の給付設計について,9割が 有期 としている。

33) 各国政府に,①長寿リスク(longevity risk)の認識,②公的,私的(職域

(14)

諸外国における企業年金の終身給付,長寿リスク を巡る情勢に鑑みる とき,年金の給付期間として有期であるプランが太宗を占めるわが国におい て,今後,終身給付が広がる余地は極めて限定的であろう。企業年金をつう じて終身にわたる所得保障の享受が難しいことから,当該領域における保障 準備は自助努力に委ねられることとなる 。

第二の課題としては,困難性を増す年金資産運用である。近時においては,

暫く低迷を続けてきた年金資産運用環境にも好転の兆しが窺えるようになっ てきたものの,前述のとおり金融市場の変動性が高まりつつあるなかにあっ て,現下の比較的堅調な運用実績を所与とした年金資産運用の持続は難しい ものと考えざるを得ない。すなわち,直近3年度間における企業年金の平均 収益率は約7.2%(年率)である一方で,さらに遡った3年度間(08年度〜

10年度)の平均収益率はマイナス2.2%(年率)となるなど浮沈が激しい 。 加えて,中長期的な運用管理が志向される年金運営においても,企業会計の 変更や年金財政基準の厳格化は単年度ごとの年金資産運用実績を厳しく問う。

まさに,企業年金運営にあたっては,堅調な単年度ごとの運用実績が積み重

及び自助)領域にわたる年金システムにおけるより望ましいリスクシェアを巡 る手立て,③長寿リスクやリタイアメントプランにかかる情報提供や教育の推 進,といった取り組みを求めている。Oppers, S.E et al.(2012)

.

この他,

Feldstein, M

(2014)では,米国の事例として,社会保障法が成立した1930年 代以降,65歳時点での平均余命が10年毎に1歳ずつ延びており,公的年金財政 を厳しくしていることを指摘する。会計の点からも国際会計基準(IAS第19 号)にて死亡率の将来変化(≒改善)を織り込んだ退職給付債務の測定が求め られている。三井住友信託銀行(2014),pp.16‑19。

34) 松林(2004)では, この100年は驚異的な地球人口増加の世紀であるととも に,人間の平均寿命が飛躍的に延びた世紀としても注目に値する とし,平均 寿命の上昇の要因について遺伝的変化ではなく, 社会環境の変化という非遺 伝的要因 と指摘する。

35) 平均寿命の上昇は,老後準備の必要性を増幅させる。長寿リスクが個人に転 嫁されるなかにあって, 日々の生活と将来の生活とを結びつけていく こと の重要性が指摘されている。藤田(2014),pp.29‑40。

36) 企業年金連合会(2014),前掲注12),p.4にもとづき算出。

(15)

ねられた上で中長期にわたる健全な年金財政の堅持,慎重な運用管理が求め られている。

最後に指摘できる課題としては,加入者(従業員)における企業年金や資 産運用に対する理解,関心の底上げである。

近年,国内外を問わず金融経済教育の重要性と必要性が広く取り上げられ ている。国内では,前述の金融経済教育研究会報告の取り纏めのほか,国外 でもパブロ(2013)のように金融リテラシー醸成の必要性が報告されている。

また,Cappelletti et al(2013)では,イタリア での調査,実証研究をつ うじて,老後の貧困を防ぐ手立てとして基礎的な金融教育のみならず,長寿 化に対応した老後所得保障準備や年金に特化した金融経済教育,生活設計が 施されることの必要性を指摘する 。

わが国において,確定拠出年金実施企業による加入者への投資教育の義務 化がなされ,実施企業の割合の高まりが見られるものの,未実施企業の割合 は依然として4割を超える。今後における確定拠出年金の実施をつうじた老 後所得保障準備や投資教育への注目が高まっていくことを期待したい 。

4.むすびにかえて

近年,諸外国では個人の老後所得保障充実に向けた動きが活発化している。

英国における2012年の国家雇用貯蓄信託(NEST)の導入や米国において

37) 同国においては,これまで公的年金の所得代替率が高めであったことから,

個人の老後所得保障に対する備えとその重要性についてあまり意識されてこな かったものと思われる。しかしながら,2010年頃より同国の財政不安の顕在化 を端緒として,財政健全化,緊縮財政が求められるところとなり,社会保障や 財政支出の絞込み,国民経済への影響が注視されている。

38)

Cappelletti, G.et al

(2013)

.

39) なお,金融経済教育は,経済や投資のみならず,キャリア開発や自己責任な ど幅広いテーマを内包するものであることから,確定拠出年金における 投資 教育をもって代替できる内容ではなく,むしろ,投資教育もその一部を構成す る項目の一つに過ぎないことを理解しておく必要がある。 との指摘にも留意 すべきである。佐藤(2012)p.123。

(16)

は,2014年初にオバマ大統領が低・中所得層の企業従業員加入を企図する

myRA

の導入を提示している 。また,OECD(2013)によれば,加盟34 カ国中13カ国で私的保障領域にある企業年金が強制加入の位置付けにあると いう。こうした主要先進国における企業年金,老後所得保障充実に対する強 いコミットメントもあって,世界の年金資産残高は堅調に増長している。す なわち,世界13カ国における年金資産残高は2013年末において31.9兆ドルに 上るが,これは調査対象となった国の

GDP

合計の83.4%に相当するとい う 。こうした世界の老後所得保障準備を巡る情勢にあって,わが国はどう いう立ち位置にあるのか。

2で見たとおり,企業が提供する老後所得保障としての退職給付制度は,

年々,採用企業の割合(カバー率)や保障内容(金額)が低減している。

他方で諸外国の老後所得保障準備の潮流に鑑みたとき,職域を通じた保障 の獲得が見出される。公的年金機能が細る蓋然性が高いなか,今後,わが国 においても諸外国と同様の展開を辿るものと考えるが,こうした情勢の下で は 職域への参加 が先ずもって重要となろう。それには,個人の労働市場 への参加を高める 積極的労働施策 の充実も求められる。宮本(2013)が 指摘するとおり,わが国の社会保障は 就労 と距離の離れた高齢者に対し て手厚く,家族政策や労働政策を企図するタイプの社会保障システムは脆弱

40) 老後所得保障準備を始めるきっかけ,アクセス拡充の用途として(Starter

Savings Account

),より簡易的かつ,資産運用における安定性,加入対象者

 

(補足率の高さ)の幅広さを念頭に置いた制度として提起されている。具体的 には,米国債券への投資を通じた確定拠出型による個人型の退職所得勘定とし て想定されているが,資産残高が一定に達すれば,既存制度の

IRA(個人退

職勘定)に移管される。米国では,全労働者のおよそ半数,7,800万人が雇用 主より何れの老後所得保障も受けていないとされる。White House(2014)

.

41)

Towers Watson

(2014)p.3

, p.6 .

なお,近年の年金資産残高の増長には,

世界の株式市場の底堅い展開も寄与しているだろう。すなわち,金融危機以降,

2009年―2013年の世界株式市場のベンチマーク(MSCI‑

All‑ country world

ドルベース)は,年率15%と高いリターンとなっている。

脚注が入らないため、アキを作成します

(17)

である 。積極的労働施策をつうじて,労働市場への参加を高めることは私 的保障領域にある職域保障のみならず,社会保障の持続可能性にも資する。

転換期を迎えたなかにあって,職域をつうじた代表的な老後所得保障とし ての企業年金について,改めてその意義が再認識されるとともに今後とも広 くその保障提供機能が発揮されていくことを期待したい。

(筆者は日生協企業年金基金勤務)

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