九州大学学術情報リポジトリ
Kyushu University Institutional Repository
圃場排水にともなう窒素流出に関する数理的研究
白谷, 栄作
https://doi.org/10.11501/3106967
出版情報:Kyushu University, 1995, 博士(農学), 論文博士 バージョン:
権利関係:
第E章 沿岸低平農地の裏作圃場からの負荷流出機構
第1節 序 論
畑地状態、では地下排水促進にともなう農地内の肥料成分の流出が多くなるこ とが想定される. しかし, 冬作についてはほとんどデータの蓄積が図られてい ないため, ここでは佐賀平野クリーク水田地帯において1984年と1985年の水 田裏作の麦作期国場について負荷排出量調査を実施した結果についてまとめ,
麦作期の肥料成分の流出の実態を把握するとともに, 有明海沿岸低平農地の窒 素, リンの流出機構の定性的解析を行う.
農地排水にともなう肥料成分の流出の実態把握, およびそのクリーク水質に 与える影響を把握することを目的とした本調査では, クリーク地帯における肥 料成分の流れを図- rr -1のように考え, また園場レベルの肥料成分の流れを 図- II - 2のとおり想定した.
幹線クリーク
�
農地
図- rr - 1 クリーク地帯における肥料成分の流れ
48
園田・・・・・・・・・・・・・ヘ,..
今、,、戸Aド 向戸、 r、ー
~
入力負荷|同荷
作物吸収
~手 術、 へ本【
図- II -2 麦作期圃場での肥料成分の流れ
麦作期の肥料成分の流出においては, 地表排水, 暗渠排水にともなう流出量 の把握が重要となるため, この調査では入力負荷として降雨と施肥, 出力負荷 として地表流出, 暗渠流出および作物による吸収を取り上げた. また, 肥料成 分の流出はこれらの入力負荷以外に地力としての窒素, リンからも2次負荷と
して生じるものがある. なお, 麦作期では潅j伎は行っていない.
第2節
調査の対象とした圃場と調査方法
2. 1
調査園場の土壌物理特性
調査対象闘場は, 図- II - 3に示す佐賀県三日月町にあり(以下, D園場) ; 標高3.5mの河海性沖積土地帯に位置する. D圃場の土壌は, 細粒灰色低地土 (佐賀統)に分類され, 主要粘土鉱物はモンモリロナイトである. 土性は国際土
49
圃圃圃・・・・・・・・・・・・・・・・・F
...-
壌学会法に よ れ ば作 土層(0.05---0.10m)及び耕盤層(0.15,...,0.20m)が軽埴土, そ れより深いところは重埴土となっている. 各層における土の真比重は そ れぞれ 作土層で2.58, 耕盤で2.63, 心土で2.62であった.
10-9
)E 0.j | 限制 0.3
図- rr - 3 調査圃場の位置図
飽和透水係数 (m.sec-1 )
10-8 10-7 10-6 10-5
• •
• • •
10-4
•
0・4
�
• •• 100cc円筒変水{立法による0.5 •
図- rr -4 圃場の飽和透水係数
50
また, 畑作転換前後の土壌物理特性の変化から, 本圃場では畑作転換により 心土層の乾燥が進み, 土壌の収縮 ・ 亀裂形成が進んだことが考えられる. 飽和 透水係数は図- n-4に示すように, 作土層が10・5---- 10・4m.sec-1, 心土層が10・8 rn.sec-1前後である(安中ら, 1987)-
1970年には圃場整備が実施され, 引き続き深さ0_5----0_7mに本暗渠が13'""1 4m間隔で施工され, また園場の短辺方向には深さ0_3mに数m間隔で弾丸暗 渠が毎年繰り返し施工されている.
作付けは表- n -1に示すように, 従来, 水稲一大麦の二毛作体系であった が, 1982年には畑転換されている. したがって, 1984年の麦作の前作は無施 肥の水回転換大豆作で暗渠排水されており, 1985年の麦作の前作は移植水田 であり, 暗渠は封鎖している.
表- n-1 国場の作付け履歴
1980 1981 1982 1983 1984 1985
夏 作 水稲 7.1<稲 大豆 大豆 大豆 水稲
6� 11月
名 イ乍 大麦 大麦 大麦 大麦 大麦 大麦 12月�6月
なお, 農業用排水路(以下, クリーク)は約2mの水深 を有し, 潅減期には用 水貯留のため, 水位は田面下約0_7mに維持されるが, 非潅減期には田面下1.0 m以下に低下していることが多い.
2. 2 負荷流出の調査方法
1 )採水装置の開発
まず, 肥料成分の圃場内での流れを調査する際, 71<の流れを把握することが 重要であるが, 圃場排水の各濃度は排水が進むにつれて変動が予想される. そ のため, 圃場排水の進行にあわせて排水開始より一定時間間隔で-地表排水およ び暗渠排水を自動的に採水する自動採水装置を開発した.
これは, 地表排水が始まりポット内の水位が上昇するとフロートが上昇し,
51
...--
採水ポンプの電源がONとなって採水を開始する仕組みになっている. 採水は,
地表排水の開始から連続的に各採水容器が満杯となり次第, 逐次, 次の容器に 採水が進む構造である.
タイマ
フロートスイッチ
\
暗渠排水
図- 1I - 5 調査に使用した自動採水装置
暗渠排水の採水は, 暗渠出口に連結した水道メータの下流に図- 1I -5に示 すような地表排水の採水に使用したものと同じフロートスイッチ付きのポット を設置して行った. また, フロートスイッチと直列に) 24時間巻自記電接計 のドラムを使って) 4.5時間間隔でON/OFFを繰り返すタイマーに改造した ものを連結して, 暗渠排水開始後4.5時間間隔での採水が自動的に行うことが できるようにしfこ.
2 )機器の設置と水質分析方法
降水量は, 試験圃場近隣の農家屋根に転倒マス型自記雨量計を設置して測定 した.
調査園場には, 地表排水用の落水口が1カ所あり, 地表排水量の測定はこの 落水口出口に3インチパーシャル ・ フリュームを設置し, 自記測定を行った.
52
-・・・・・・・・・・・・・Eー
...-
盛担 合士
店主Z ユ旦
図- II - 6 測定機器の 設置図
1fT
水道メータ
}'\ーシャル フルーム
暗渠は, 図- II - 6に示すように, 園場内にコルゲートパイプの本暗渠が3 本施工されており, それに直交して弾丸暗渠が毎年, 営農段階で施工されてい る. 調査では, この中央本暗渠の出口に直径40mmの水道メータを連結すると ともに自記電接計を接続して自記させ, 暗渠排水の流量変動の測定を可能とし た. ここでは, 暗渠の支配範囲は, 各本暗渠問の中心線を境界とした内側の1 3.75Xl13.0m2と考える. また, 麦作期間中は隣接圃場開の流入 ・ 流出水はな
いものと考えられる.
降水は, 圃場内にポリバケツを設置して, これに一連続降水を貯留したもの の中から降水終了後, 十分混合させて1リットルの ポリ容器に採水することと
した.
地表排水は, 落水口に接続したパーシャル ・ フリュームの出口にポットを設 置して, ポット内にスイッチ用のフロートを取り付けた.
地表排水, 暗渠排水終了後, 採水容器の回収と同時に1リットルのクリーク 水の採水を行った.
水質分析については, 地表排水は一連続排水中に採水した水を各容器から等 量取り出し, 混合したものの分析を行い, 暗渠排水については, 採水時聞が長
53
圃_, ,岡田
...-
時間にわた り , 排水量の時間変化が大きく, かつ窒素, リン濃度が排水時間内 で排水強度や土境条件等によって変動することが予想されるため, 各容器の採 水時刻での排水量の割合でコンポジットしたものを分析検体とすることで, 当 該排水の平均濃度とした. さらに, 一連続排水の中での濃度変化をみるため,
混合しない各時間のサンプルについても水質分析を行った.
分析項目は, pH, ECZ5, 総窒素濃度(T -N), 硝酸態、窒素濃度(N03--N), 総リ ン濃度(T -P), 水溶性リン濃度などである.
第3節 麦作期圃場からの流出負荷調査結果および考察
3. 1
降雨量と排水量
麦作期を12月,-.__,3月と4月,-.__,6月の2期に分け, 降雨量と暗渠排水量, 地表排 水量を表- II - 2にまとめた.
1984年は1985年に比べ, 期聞を通じて降雨量が
少なく, 圃場排水量も少ない. また降雨分布もまばらであったために調査年に おける期間内の総排水率はそれぞれ1984年で21.6%, 1985年で44.5%であった.
表- II -2 麦作期間場の降雨量と排水量 単位: mm, (%)
1984年 1985年
降 雨 暗渠排水 地表排水 降 雨 暗渠排水 地表排水 12月1日-3月31日 190.0 37.0 0.1 357.5 149.4 4.3
(100) (19.5) (0.1) (100) (41.8) (1.2)
4月1日-6月10日 330.0 74.2 0.5 414.5 185.0 5.1
(100) (22.6) (0.2) (100) (44.6) (1.2)
12月1日-6月10日 520.0 111.7 0.6 772.0 334.4 9.4
(100) (21.5) (0.1) (100) (43.3) (1.2)
( )内は期間内降雨量に対する比率
3. 2
降雨負荷
麦作期間の入力負荷としてもっとも大きいものは施肥である. 調査圃場での 肥料は播種期の基肥だけで, その後の追肥は行っていない.
54
...-
2.0
I •1
.8ト子1.4
••
さ1.2 1 . 0 �
住H
ι0.6 0.4
0.2
0.0
12
図-II-7(a)
2.0 1
.81 .6 子1.4
� 1.2 1 .0
題
三主 。8ι0.6
0.4 0.2 0.0
• •
12
•
I I • r 1-. I ・・11 I 圃 E
11
• •
•
•
2 3 4
•
司司 11 1.O
1 1 11 11 1官
• 4
•
•
5 6 (月)
1984年麦作期降雨のT-N濃度
•
•
•
2
• •
•
•
3
G
•
•
•
•
4 5
図- II -7(b) 1985年麦作期降雨のT-N濃度
55
、,、声E
-、E J、、
50 長
酬重量100
",-.._
E E
'-../
�I副
50長
世
100
�
ここで使用された肥料は, クミアイ48で, 両年とも播種期に基肥として400 kg.ha-1 (N=P205=K=64kg・ha-1)施用されている.
入力負荷の一つである降雨については, 図- II -7に麦作期間内の降雨量及 び水質分析結果を示すが, 降雨量の少ない1984年の降雨水質は1985年のもの に比べてT-N濃度が高く, 降雨量加重平均T-N濃度でも約0_88mg.[-1となって いる.
また, 一雨降雨量とT-N濃度との関係を図-II -8に示すが, T-Nは1984年 で0.56--- l.87mg.[-1, 1985年ではo.16 � l.2 4mg.[-1と大きく変動している. 一 般に, 降雨量に対して濃度が負の相関を示す場合が多いことが知られているが,
本調査についても希釈型の濃度分布となっていることがわかる.
2.0 8
�
01 .6
,-、、
r;- 1.4
� 1.2 1 .0
題三乙
F- 0.8 0.6トー
0.4 0.2 0.0
。
。
。
。
•
. き00
•
o �o
•
o 1984年
・1985年
10 。 • •
。
•
•
•
20 40 60 80 1 00
一雨降水量 (mm)
図- II -8 降雨量と降雨水質(T-N)
麦作期間内の降雨によって入力されたT-N負荷量を[2.1]式で求めると, 198 4年で5.28kg・ha-1, 1985年で5.61kg・ha-1の降雨負荷があったことになる.
LR =
102
Ci Ri [2.1]ここで, LR 期間内降雨負荷量(kg・ha-1 ), Ci:降雨水質(mg.[-I) Ri 降雨量(m)
56
...-
なお, 分析結果の ない降雨については, 期間内の単純平均水質を用いた.
期間内の総降雨量は1984年で5 20.0mm, 1985年では77 2.0mm であり, 両 年の降雨量には約1.5倍の差があるにも関わらず, 両年の降雨からの負荷量に ほとんど差がない. これは, 降雨中の T-N濃度が1984年の方が高い傾向にあ るためである.
一方, 雨水中の リン濃度はいずれも分析下限値以下であった.
3. 3 窒素, リンの流出負荷
1 )一連続排水内の各成分の濃度変化
1984年と1985年の 主な暗渠排水はそれぞれ9回及び 16回観測されたが, こ れらのT-N, T-P の 暗渠排水過程の濃度変化は, それぞれの降雨に対しておお よそ図-II -9 (a), 図- II -9(b)に示すような 2つのパターンに分類すること ができる
図-II-9(a)は, 1985年2月8日からの降雨 ・流出及びT-N, T-P濃度の 関係 (パターン1)であるが, T-N濃度は排水初期からほぼ一定もしくは経時的に多 少低下する傾向にあり, T-P濃度は排水を通じでほぼ一定になっている. 図
II -9 (b)は, 同年2月18日からの降雨 ・ 排水の際の もの(ノミターン2)であるが,
ここではT-N濃度は暗渠排水初期に低く, 次第に増加し, その後一定もしく は多少低下しており, 暗渠排水のピークから遅れてT-N濃度のピークが出現
している. T-P濃度はT-N濃度の動きとは逆の 傾向を示し, 排水の 初期に高 く, 排水の継続とともに次第に低下し, 一定になっている.
パターン2は, 海老瀬(1985)の報告した降雨による土壌層から河川へのN03- Nの排出や, 河川における無機イオンの流出特性(海老瀬, 1988)に類似する ものである. つまり, 圃場排水は主に地表排水, 暗渠排水によって行われるが,
暗渠排水は圃場面に降った雨が亀裂を通して迅速に排水される部分と作土層か ら耕盤を通って心土層に浸潤したのち浸透水として排水される部分とで構成さ れる. T-N の流出は主として土層内を浸潤した浸透水によるもの が多いと推察 される. これに対してT-P は, 暗渠排水強度の大きい場合に土壌面に吸着さ れているリン酸が溶出してきたもの と考えられる.
57
園田・・・・・・・・・・・・・・・・F'
(7一・曽OMm持仏lト(-ー一・苫)凶鰐Zl』
23酬ν室内干酬怪
...-
時間雨量暗渠排水量 地表排水量 暗渠排水T-N 暗渠排水T-P
ひベ〉
ム�
ふも-ls-も
Ol/1 1.;/i
T-P濃度 (日時)
園場排水量とT-N,
16
24 8
2月10日
1985年2月8日からの降雨量,
16
24 8
2月9日 16
2月8日
(7一回5Mm明t
dコ叫計-
(-ー一・同信)Mm純子』刊初(匡) 九件 酬差早 川 ベU
図 E 酬 医
8 (日時) 24
2月20日 24 8 16
2月19日
。
10 16 2月18日
T-P濃度 圃場排水量とT-N,
1985年2月18日からの降雨量,
図- n
-
9(b)58
パターン1の2月8日の排水は, 降雨量が少なく, 降雨量に対する排水率も18.
6%とパターン2の2月18日の排水(排水率= 38.2%)より小さいため, 暗渠排水の ほとんどが亀裂排水となり, T-Nの供給源である土層内を浸透した排水が少な かったものと考えられる. 両年の調査期間内の 一連続排水のうち , 濃度変化 ノミ ターンが確認できるものが6回あるが, そのうち5回がノミターン2に分類さ れた.
また, パターン 確認が困難な流出については, T-N濃度が低濃度であったもの と排水時間が短時間であったものであるが, いずれのパターンも T-N の濃度 変化はEC25の変化と同様の傾向を示すこと か ら, EC25による排水のパターン 分類が可能であると考えられる
井上ら(1985, 1988)は粘土質圃場における暗渠排水機構について議論し , 亀裂の圃場排水に果たす役割を明らかにしているが, 暗渠排水における水質変 動の傾向をより詳細に調査, 分析を行い土層内の物質挙動を総合的に解析する ことにより, 園場排水に伴う負荷流出の制御も可能となろう.
しかしながら, 一連続排水中の濃度変化は大きく, 図- n - 9(b)に示した2 月18日の排水では一連続排水中でT-N濃度で1.2 倍 , T-P濃度では4.5倍もの濃 度変動がある. このように水質の変動が大きい場合には少ない頻度の測定では 正確な負荷流出量の把握は困難となるため, 測定頻度を上げて流量重みつき平 均水質を計算するか, または流量比例コンポジットによって検体を作成するこ
とが必要となろう.
2 )暗渠排水における各成分の濃度変化と流出特性
暗渠排水中のT-N, T-P濃度の期別変動を , 図- II -10に示す.
198 4 年の暗渠排水のT-N濃度は, 3月中旬をピークに以後急激に濃度が低下 している. 1985年についても同様の傾向が認められるが, ピークは2月中旬に なっている. また , 図-II-11に示したT-N, T-Pの流出量累積曲線をみると 1984年では3月中旬までは暗渠排水にともない窒素流出量は増加しているが,
4月にはいると暗渠排水があっても窒素流出量の増加はほとんどない. 1985年 では, 3月上旬まで窒素流出量の増大は見られるが, そ れ以降では窒素流出は ほとんどない.
59
U戸 -
100
(EE)酬υ主再燃坦
ハHV ハ川〉
ハHV ハHU ハHV 7' PO にlv A斗・
「J
20 10 90 80
...-
A Å A
•
• Å
•
•
•
•
T-N濃度Å
T-P濃度0.7
0.6
ヂヘ,-._ 0.5
bD -
E
h(,も8 0.4
; 制0.3
L黙 也�
0....言 ム 0.2
A A
O.
1
0
(月)
。 6
T-P濃度の期別変動(1984年)
4 5 3
暗渠排水量とT-N,
12 2
図- II -
10(a)
100 90 80 70
ËE
10
•
T-N濃度Å
T-P濃度0.7 0.6
50 型 40震 30宮 60
20
•
,
•
ヂヘ,-._ 0.5
bD - E
h(,も8 0.4
H髄0.3
�黙
包�きロー言ι0.2
O.
1
0
。
(月)6
T-P濃度の期別変動(1985年)
Fhu 4
3
暗渠排水量とT-N,
60 12 2
図- II -
10(b)
ー・・・・・・・・・・・・ ?
...-
50 0.6
r--- 40 0.5
/戸、、
4f て二3 -fc て3
)よ b乙o 30 一一T-N負荷 0.4 二bζb
一一T-P負荷
E 事4栂
B
1f
岡KE
200.3
理
0.2
器
�三Z 0...
ι10 トー
O. 1
。 j I 0
12 2 3 4 5 6 (月)
図- n -
11
(a)窒素, リンの累積負荷量曲線(1984年)
50 0.6
r--- 40 0.5
/ー、、
←
4fて'0 4f て二3
)二 bzoz 30
一一T-N負荷 0.4
J2
一一T-P負荷
定
�I制
0.3理
41断K悪
f 20頃惚
Z0.2時
三三 0...
ι10 トー
O. 1
。 。
12 2 3 4 5 6 (月)
図- n -
11(b) 窒素, リンの累積負荷量曲線(1985年)
61
四割・・・・・・・・・・・・・・・,..
これらの傾向を暗渠排水量との関係で考察すると, 両年ともに施肥後, 暗渠 排水の積算量が闇値(1984年では60mm, 1985年では100mm)に達すれば, 急 激にT-N濃度は低下し, その後の窒素流出はほとんどなくなっている.
T-Nのうち99,-...., 100%が硝酸態窒素であったことと暗渠排水のT-N濃度の時 期的変化から, 圃場内の窒素の挙動について次のことが推察される.
土層中の硝酸態、窒素量は, 12月の施肥直後から3月までは硝化反応によって 徐々に増大し, その結果暗渠排水の T-N 濃度が上昇し, 生成された硝酸態窒 素は降雨時の暗渠排水とともに高濃度で流出する. この期間は, 土層内の微生 物や植物による有機化速度よりむしろ硝化速度の方が優っていることが示唆さ れる. 一方, 3月以降は暗渠排水のT-N濃度が急速に低下するが, これは土層 内の温度上昇とともに有機化が促進され, 有機化速度が硝化速度を上回る結果,
土層内の硝酸態窒素量が減少するためと考えられる. そして, 作期終盤では暗 渠排水から流出する窒素は施肥起源のものは少なく, 多くは降雨からの負荷と 有機態窒素の無機化, 硝化を起源とする負荷(2次負荷)であると推察される.
もし4月以降でも施肥窒素が無機態窒素として残存しているならば暗渠排水 の硝酸態窒素濃度は硝化菌の活動が活発となる15 oc以上の土層環境の時期,
つまり4月以降でも上昇がみられるはずである. この結果を総合して, 地温の 低い冬季でも十分に硝化が進んでいることと考察した. 以上により, 施肥窒素 の土壌中における硝化反応, 土壌微生物の増殖にともなう有機化反応は1次反 応式を用いて簡単に,
空互
= -k1 NHー叫んdt . ..
空
三= k.,Nηdt - -
dNN dNH dNo
dt dt dt
ここで, NH アンモニア態窒素量[MM.l]
No 有機態窒素量[MM-l]
NN 硝酸態窒素量[MM-l]
62
[2.2]
k1 硝化比速度[T-l]
ん :有機化比速度[T-l]
r 有機化のアンモニア態、窒素と硝酸態、窒素の比率[ -]
と表現できる k1, k2, rが定係数の場合, [2 _ 2]式の解は,
kヲ 「寸
NH =NH'閃
(
一k1t)
+k1 -←k2 '- "'2,- rNo'-l
L 叫•(
\ 一k 1t.)
I 一 切•(
\ k2-t)
IJ1
[2_3]No = No'叫
(
k2t)
[2 _4]NN = NH'+No'+NN'-
(
NH + No)
[2.5]ここで, NH' アンモニア態窒素の初期量 No' 有機態窒素の初期量,
λfN F:硝酸態、窒素の初期量.
恒例叶一円~出村一Jhh前酬桝側 有機化速度
NH:-N 硝化速度ーー一一一一一一一 Or g.-N
/ /
ノ / -, γ
//// 1\.N03・-N
、ぐ/ \.\
\〈/
12 2 3 4 5 6 (月)
図- II - 12 麦作圃場における窒素の形態変化の概念図
そこで, 硝化速度および有機化速度は,
63
k1k2 ..r ,r / , .\ /, .\1
k1NH =k1NH'仰
(
一k1t)
十 rNo'l
叫(
一k1t)
一 閃(
kzt)l
[2.6]k1 + kz し」
kzNo =k:.No'叫
(
k2t)
[2.7]である. 施肥直後の状態( t = 0)において, 硝化速度が有機化速度に優るならば,
t>> 0で有機化速度が硝化速度を越える時間t'が存在する.
実際にはアンモニア態窒素の硝化とアンモニア態窒素および硝酸態窒素の有 機化は土壌の水分状態と温度の影響を受け, また調査結果については土壊有機 物の無機化による硝化速度の加速, 作物吸収による減速および脱窒による硝酸 態窒素の減少などが加味されるが, 調査期間内の土層中の反応はおおよそ図
II -12のように考えられる.
また, 麦作期間内の総流出窒素は, 1984年で21.8 kg・ha-1, 1985年では37.5 kg.ha-1と大きく差があるがpこの大きな原因はイ乍期前半の降雨に伴う暗渠流出 水量の差によるもので, 作期前半に降雨が多い場合には施肥窒素が作物または 藻類などによって園場内に固定される前に流出することが主な原因であろう.
0.25
,-..
0.20
5015
議0.10
0....
ト0.05
ム
0.00 0.0
ム
ム
ム
20.0 40.0 60.0
一連続暗渠排水量 (mm)
ム
図- n -13 暗渠排水量とT-P濃度
64
80.0
T-P濃度の期別変動は, 図- n -10に示すとおりとなっている. 1984年と1 985年ではその時期的変動は異なっており, リン流出については窒素のように 施肥による影響は認められないが, 暗渠排水強度と密接な関係がある. つまり,
図- n -13に示すように暗渠排水強度とリン濃度とは正の相関関係がみられ,
一連続排水量の増加とともに排水中のT-P 濃度が高くなる傾向がある. これ は土壌表面に吸着されたリン酸の洗浄効果による結果と考えられる. したがっ て, 暗渠排水にともなうリンの流出負荷は, 窒素とは違って施肥の影響は受け ず作期を通じて発生するため, 暗渠排水の累積量に左右されることになる.
3 )地表排水における各成分の濃度変化と流出特性
地表排水は, 表- n -3に示すように1984年で4回, 1985年で7回観測され たが, 採水装置の故障のため, 採水できたのは1985年の2回の排水についての みであったので, 十分な流出特性の把握はできなかった.
表- n-3 地表排水の水質分析結果
地表排水量(mm) pH EC25(μs・cm-1) T-N(mg・1・1) T司P(mg.l・1) 1984年3月19日 O. 05
4月 4日 O. 12 4月 5日 O. 35 4月19日 O. 05
1985年2月19日 2. 53 5. 4 678 40. 48 O. 56 3月 8日 O. 68
3月11日 O. 52
3月17日 O. 61 6. 7 176 8. 43 O. 37 5月13日 O. 75
5月19日 2. 71 5月28日 1. 62
地表排水の場合, 地表に達した降雨が土粒子と接触する時間も少なく, 急速 に排水されるものが多いと考えられる. 2回の水質分析結果を見る限りでは,
地表排水のT-N濃度は同じ時期の暗渠排水濃度と同程度となっているが, 流 出窒素の成分内容は暗渠流出に比べてケルダール態の窒素成分が多かった.
地表排水のT-P濃度については同時点の暗渠排水濃度に比べて2.7---2.8倍の
濃度となっているが, 地表排水では土壌流亡をともなうことが多く, リンが土 粧子表面に吸着されて流出すること, また-g水溶したリン酸が土壌と反応す ることなく急速に流出することが考えられ, その分だけ地表排水は暗渠排水よ り高濃度となったものと推察される.
4 )圃場の窒素収支
窒素について, 調査データをもとに降雨, 施肥(基肥)を入力負荷, 作物の 茎・ 葉 ・ 実への吸収, 暗渠流出, 地表流出を出力負荷としてD画場の窒素養 分収支を計算すると表- II -4のようになる.
表- II -4 麦作期圃場の窒素収支(12月1日'"""'6月10日)
入力窒素(kg.ha-1) 施 肥 降 雨 計 1984年 64.0 5.3 69.3 1985年 64.0 5.6 69.6
出 力窒素(kg' h a -1)
作物吸収 暗渠流出 地表流出 計 69.8
66.0
21.8 37.5
0.1 91.7 1.4 104.9
ただし, 地表からの窒素流出量については, 同時期の暗渠排水の水質を用い て算出した値であり, 作物吸収については当該作の坪刈りの結果を基に茎, 穂、
の窒素含有率をそれぞれ0.21%, 1.62%として算出した値である(小田, 1976).
出力窒素に対して入力窒素の不足分は, 1984年麦作と1985年麦作でそれぞ れ22.5kg・ha-1, 35.3kg・ha-1であり, これは入力窒素として考慮、しなかった地 力窒素の無機化による供給である. つまり, 地力維持のためには夏作期間の地 力蓄積と窒素ガスの固定が大きく寄与していると考えられる.
ここで, 圃場排水による窒素流出量の投入肥料に対する割合を計算すると,
1984年で34.2%, 1985年では60.8%にも達する. そして, そのうちの暗渠排水 による窒素流出は) 1984年で99.5%, 1985年で96.4%となる. つまり, 麦作期 においては窒素流出量は年ごとに大きな差があり, 施肥量に対してその3割~
6割の窒素が圃場排水とともに流出し, 地表排水量が少ないためそのほとんど は暗渠からの流出であるということができる.
66
...--
第4節 結 日
佐賀平野のクリークの水質環境に大きな影響を及ぼす農地からの肥料成分の 流出として, 麦作圃場を対象に調査を行い, 以下のことを明らかにした.
①雨水の水質は, 窒素については希釈型の濃度分布になっており, リンは雨 水中にはほとんど含まれていなかった.
②暗渠排水の一連続排水中のT-N, T-P濃度は主に2つのパターンで変動し,
1回の排水についてl点での測定では誤差が大きくなる.
③暗渠排水中の窒素形態のほとんどは硝酸態窒素で, その流出は施肥後ある 一定の排水量になるまで続くが, その後は硝酸態窒素の有機化と作物吸収 による減少速度が生成速度を卓越し, 流出はほとんど見られなくなった.
④暗渠排水中の T-P濃度は排水強度の増大にともない上昇する傾向を示し fこ.
⑤麦作画場の窒素収支から, 施肥と降雨からの入力負荷に対して闘場排水と 作物吸収による出力負荷が大きく, その差は地力窒素からの供給である.
また, 地力維持には夏作期間の地力蓄積と窒素ガス固定が寄与していると 考えられた.
67
,FFP
第E章 圃場の窒素流出評価モデル
第l節 序 論
第E章では, 麦作園場のT-N, T-Pの流出特性を暗渠排水機構から定性的に 分析を行った. しかしながら圃場から流出する負荷の管理を考える場合には負 荷の流出特性を定量的に把握することが重要である.
土層内の窒素, リンの反応に関するモデル化については, 作土, 耕盤, 心土 のそれぞれの土層における物質反応および土壌との吸着 ・脱着反応機構に基づ くモデル構築が必要である. 土層内の物質反応は生物反応と化学反応で構成さ れるが, これらの反応による生成物質の定量化が難しいことや, 地温や水分,
酸素条件などの影響を受け複雑な反応が生じていることなどから土層内の物質 挙動は定量的に十分な解明がなされていない.
例えば, 土壌中における有機態、窒素の無機化速度の定量化問題は, 吉野ら( 1 977)や杉原ら(1986)によって研究がなされているが, い ずれも実測される無機 態窒素の生成量で評価されており, 有機態、窒素と無機態、窒素の相互反応の実現 量, すなわち有機態窒素から無機態窒素の生成速度と無機態、窒素の有機化速度 の差としての「見掛けの無機化速度」を示しているに過ぎない. この場合には 少なくとも有機態 ・ 無機態窒素の存在割合によって当然評価は異なったものに なるはずである. これはおそらく有機態窒素の無機化能レベルに応じた組成を 求め, それぞれの成分間の移行を定量化することが困難なことが一つの原因と 考えられる.
また, Tanji(1982)は土壌内の窒素循環を有機態窒素, 交換性アンモニア態、
窒素, 溶存性アンモニア態窒素, 亜硝酸態、窒素, 硝酸態、窒素, 窒素ガスの相互 反応で‘モデル化しているが, ここでも有機物の構成内容には立ち入っていない.
一方, 土壌中の窒素挙動をトータル的に取り扱った窒素循環モデルや窒素溶 脱モデルは, 種々提案されているが, 園場レベルを対象としたものは極めて少 ない これも, 非定常な影響因子が多数存在し, 現場計測技術の問題と園場の 不均一性のため, 様々の状態変量の絶対的な量的把握が困難なことが大きな原
因であろう.
68
そのため, 本論ではモデル構築に当たり, 過去の知見を参考にして主要な反 応プロセスを中心に土層内の窒素循環を概念化し, 数理モデルのパラメータは 調査結果から推定できるもの, 文献値が参考となるものを極力多く採用するよ
う心がけた.
また, 土層状態、は作土, 耕盤, 心土と土壌物理性は異なるが, 各層毎に窒素 循環をモデル化することは, 実用的なモデル構築を念頭においた場合, 現在の 計測技術と状態変数, パラメータ数の増大とのギャップがさらに大きくなり,
モデルの性格が不明確になる恐れがある. このため, 対象画場の表層から暗渠 深さまでを1ボックスと考えて, 土層内の物質移動を考慮、しないで窒素循環に 関わる生物 ・ 化学反応のみをモデル化する
なお, 数理モデルにおける状態、変数は調査単位圃場(113.0 x 13.75m2)の表層 から本暗渠までの土層(113.0 x 13.75 x 0 . 6m3)に存在する絶対量で表現する.
第2節 モデル構築
2. 1
土壌中の窒素循環の概念構成
土壌中の窒素は, 有機態窒素, アンモニア態窒素, 硝酸態、窒素の形態で賦存 し, 土壌中の微生物作用によって硝イヒ, 脱窒, 有機イヒ, 無機化反応を繰り返し ながら循環している. Hebertは, 施肥された窒素は, 有機化, 無機化の反復 によって益々無機化の困難な形態、に移行していくと要約している. しかし, 1 作だけの期間を対象とした場合には土壌有機物中の一部が可分解性有機態窒素
として土壌中の窒素循環にかかわると考えてよい. したがって, 1作を対象と した土壌中の窒素循環の速度論的検討の際には土壌有機態窒素について可分解 性有機態窒素に関する反応が重要であることが考えられる.
また, 可分解性有機態、窒素でも分解の速い易分解性有機態窒素と分解の遅い 難分解性有機態窒素に分けられる.
そこで, これらの概念を考慮すると, 園場の窒素循環フローは図-III-1の ように構築される. また, 調査園場内の窒素循環と収支は図-III-1にもとづ いて定式化すると[3. 1 ]式のようになる. なお, 施肥は初期条件として与える
69
ため, [3.1]式では省略されている.
作物吸収
v
溶脱
ここで,
図-III-1 麦作期土層内の窒素循環の概念
キ
=UmH +UN -Mmo-5 空三 =5-M;ndt ._
空竺竺=Mmo十MiO + EiH + H -U mH -EmH -X一九
dt
笠と=xーの-D一九-L
守
dt = E/1lH - E1H一一一=-HdNu dt
Nmo 易分解性有機態窒素量(kg) NiO 難分解性有機態、窒素量(kg) NmH 可溶性アンモニア態窒素量(kg) NN 硝酸態、窒素量(kg)
70
脱窒
[3.1]
N1H 不溶性アンモニア態窒素量(kg) Nu 尿素態、窒素量(kg)
UmH 可溶性アンモニア態、窒素の有機化速度(kg.day-l) UN 硝酸態窒素の有機化速度(kg.day-l)
Mmo 易分解性有機態、窒素の無機化速度(kg.day-l) MiO 難分解性有機態、窒素の無機化速度(kg.day-l)
S :易分解性有機態窒素の難分解性有機態窒素への移行速度(kg.day-l) EmH :可溶性アンモニア態、窒素の不溶化速度(kg.day-l)
EiH 不溶性アンモニア態窒素の可溶化速度(kg.day-l)
H :尿素態窒素のアンモニア態窒素への移行速度(kg.day-l)
X :可溶性アンモニア態窒素の硝化速度(kg.day-l)
D :硝酸態、窒素の脱窒速度(kg.day-l)
PH 作物の可溶性アンモニア態窒素の吸収速度(kg.day-l)
�v 作物の硝酸態窒素の吸収速度(kg.day-l)
L :硝酸態窒素の溶脱速度(kg.day-l)
2. 2 反応速度式
1 )作物吸収速度
作物の生長は, 土壌中の生物反応と同様に1次反応式またはロジスティック 曲線で表現される場合が多い. イネやムギの場合, 栄養塩吸収は作期前半から 出穏期の段階では急速であるが, その後は低下する. したがって, ここでは作 物生長にロジスティック曲線をあてはめ, 成長速度を土壌中の窒素吸収速度に 換算する.
一般によく使われるロジスティック曲線は[3_2]式で表される(巌佐, 1990)・
p = - ___E∞ わ
1 + B e-A[
ここで, p :作物体内窒素量(kg)
P∞:作物体内窒素量の収束値(kg)
71
[3_2]
B :定数で, pの初期値poから求めることができ,
B=p∞/ po -1
λ :生長速度定数(day-l)
作物吸収速度 Pは, [3 _ 3]式のロジスティ ック方程式で表される.
P=
3
=4
1-去)
[3.3]また, 作物吸収におけるアンモニアと硝酸の選択性は, 吸収窒素中のアンモ ニア態、窒素と硝酸態窒素の比率rで表現し, 土壌中の両態、窒素の存在比率によ ると仮定すると,
である.
PH =rP
�v =
(
1 - r)
PλrmH
r=
NmH +λrN
2
)窒素溶脱速度
[3.4]
窒素流出速度は流量と水質の積であるが, ー圃場を対象としているため溶脱 速度Lと等しい. 土壌からの排水の窒素水質は土壌中の硝酸態窒素量に規定さ れると考え, [3.5]式で表す.
L=C.Q
=εNN.Q
ここで, ε :定数(m-3)
Q:暗渠流量(m3.day-l) C : T-N濃度(mg.[-l)
72
[3.5]
3 )その他の反応
Mehran ら(1974)やTanji(1982)は, バッチ試験の結果から土壌中での窒素 に関する硝イヒ, 脱窒, 無機化, 有機化などの生物的反応は, すべて非定常1次 反応式で記述し, 反応定数を各種土壌, 温度条件について与えることで, 土壌 中の窒素動態、をシミュレーションできることを示している(以下rMehran &
Tanjiモデル」とよぶ) •
また, 施肥として与えられる尿素の加水分解についても, Rachhpal-Si ngh ら(1984)やCabrera ら(1991)がl次反応式で記述できることを示している.
本モデルでもこれらの考え方を踏襲し, 易分解性有機態窒素の難分解性有機態、
窒素への移行と無機化についても同様の取り扱いができると考え, 各態の窒素 反応過程を1次反応式で記述する.
一方, Mehran & Tanjiモデルでは, 土壌中の微生物活性は時間的に変化し ないと仮定して計算を行っているが, 現場圃場では土壌中の生物反応は温度と 水分状態、に依存することを考慮する必要がある. 反応速度の温度, 水分量依存 は, Cameron(1976)ら, Campbellら(1984)やWatts ら(1978)などによっても モデル化されているが, いずれも式形の異なる非線形の経験式であるため, 直 接パラメータを適用することは難しい. そこで, 本モデルでは, 杉原ら(1986) や斉藤(1990)などが土壌有機物の無機化速度に関して, 温度と無機化比速度の 関係をArrhenius員Ijに基づいて提案した無機化比速度の温度換算法の考え方 を他の生物反応にも適用する.
Arrheniusの式は[3.6]式で表される.
k = AexDI
- 到
. \ RTJ
ここで, k :反応比速度(day-l) A :定数(day-l)
Ea :見掛けの活性化エネルギー(J.mol-1) R :気体定数(0.475 J.K-l ・mol-1)
T :絶対温度(K)
73
[3.6]
基準温度アにおける反応比速度をk'とすると,
..,...-
[3.7]
=叶会(手)]
反応比速度の温度変化はArrhenius則を用いて[3.8]
と書き直すことができ,
式のようになる.
[3.8]
作耕心 土盤土
k�k'exp[守山)]
ここで,
4.5 4 3.5 3 2.5
2 1.5
0.5
(LQ)〔hMロ令長脳部刊
体 積 ム己 水mv 率 vm 100
。
。
調査圃場のpFー水分曲線 図- m-2
74
一方, 反応速度の水分量依存については, Stanfordら(1974)やPilotら(197 2)は窒素の無機化速度と土壌水分量との関係について比例関係、があることを示
しており, Wattsら(1978)はそれを硝化速度まで適用している. 本論における 調査園場の土層内のpF一水分曲線は図-III-2 のとおりで , いずれの土層で も通常の体積含水率は50�55%にあると考えられる. このことから, 土層内 空隙中の水分はほぼ75�80%と考えて良いため, 反応速度の水分量依存は考 慮しないこととする.
4
)全体方程式
結局, [3.1]式について, 作物吸収速度Pおよび窒素溶脱速度Lを[3.4]�[3.
5]式で書き換えるとともに, 各反応がl次反応式に従うと仮定し, 反応比速度 に対して温度依存に Arrhenius則に基づく[3.8]式を適用すると, 次のとおり である.
今今干三じ=サ叫イ引α仏紅山山!Jj,、e 令守三じ~斗=イ叩イyれ打川lJF
今竿竺 =イイβA介lJ ,、W州川'exp(83 以叫州州州X勾刷w洲p(仰似(伊似θ仇3 刷一 'exp川,exp(8 以叫州叫州X却叫w洲p(抑桝(伊似θa収州仰州 よ川州Kめ印恥)川夙 s 5 N 凡iO + 山川NiH+ ß4' exp(州Nu
一イ[
α仏l, 叫 (伊θ lKめ)+
α向3,
仰(伊θ8よ川Kめ)+
yれ21叫 (伊θ'9 K川Kめ) l Nルm州H 一 N
F庁州?」 λr
mH +λfN � \ p�)
2舎守5とI れκ山山,、'ex伐州X
NN ゆ ペr. 11 - �ー
JJ\ 1 - ENN・0 NmH+NN .L\ p ∞ /
会主 =山仰)NmH -山仰)N1H
2 」-AFex仰)Nu
[3.9]
」こで, αl'~αγ, βlF ~β4Fおよびyl'~Y3'は基準温度T'(25 oC)における反応 比速度で,
75
αl F:可溶性アンモニア態窒素の易分解性有機物への 移行比速度(day-l)
α2':硝酸態窒素の易分解性有機物への移行比速度(day-l) α3':可溶性アンモニア態、窒素の不溶性アンモニア態、窒素への
移行比速度(day-l)
βl F:易分解性有機物の無機化比速度(day-l) β2F:難分解性有機物の無機化比速度(day-l)
β3':不溶性アンモニア態窒素の可溶性アンモニア態、窒素への 移行比速度(day-l)
AF:尿素態、窒素のアンモニア態窒素への移行比速度(day-l) rl' 易分解性有機物の難分解性有機物への移行比速度(day-l) r2 ' 硝化比速度(day-l)
r/ 脱窒比速度(day-l)
ei :各反応速度に関する活性エネルギーと気体定数の比(
=E,σ/R)
第3節 数値計算の条件
3. 1
初期条件
調査の対象とした圃場は, 1984年麦作の前作が大豆, 1985年麦作の前作が 水稲であるため, それぞれの麦作期の土壌中の初期養分状態が異なる. 表-III
-1に夏イ乍後の作土層の土壌化学性を示す.
表-III-1 夏作後の土壌化学性〈作土〉
1983年11月 1984年11月
pH(H20) T-C(%) T-N(%) 5.6
5.7
1. 54 1.38
0.24 0.18
佐賀県農業試験場の調査(井手ら, 1970)(徳安, 1982)から夏作後の土壌中窒 素はそのほとんどが有機態と考えられ, 特に, 71<稲後圃場の作土層では硝酸態、
76
窒素はほとんど確認されない場合が多く, アンモニア態窒素は乾土100g当た り0.2'""0.3mg程度である. また, 次層以下の養分含量は低く, 松尾ら(1974),
三好ら(1985)および池田(1979)の報告などから作土の半分以下と考えられる.
可分解性有機態、窒素と総有機態窒素の比率は , Stanfordら(1972)によれば5
"""40%であることが知られており, 総有機態、窒素含量が0.1%より大きい場合 には10---25%であることが示されている.
これらのことから, 計算の初期条件では作土のアンモニア態窒素を乾土100 g当たり0.25mg とし, 全てを不溶性アンモニア態、窒素とみなし, 硝酸態、窒素 はOmgとする. また, 可分解性有機態窒素と総有機態窒素の比率を20%とし,
さらに可分解性有機態窒素の20%を易分解性有機態窒素, 残りの80%を難分 解性有機態、窒素と仮定する. 鉛直の窒素分布は次層(0.15m 以深)以下の窒素含 量は作土の半分として暗渠深さ(0.6m)までの各態窒素量を 求める. すなわち,
計算の初期条件は表一皿-2 のとおりとする.
表- m-2 計算の初期条件〈単位区画113 .0X13.75m2当たり質量kg)
198.!年麦作1985年麦作 難分解性有機態窒素λriO 223.7 167.8 易分解性有機態窒素λrmO 55.9 42.0 可溶性アンモニア態窒素NmH 5.0 5.0 不溶性アンモニア態窒素NiH 1.4 1.4
硝酸態窒素λrN 。 。
尿素態窒素Nu 5.0 5.0
注)可溶性アンモニア態窒素および尿素態窒素は施肥量とした.
3. 2 パラメータの設定の考え方
1 )作物吸収
作物体窒素量の収束値p∞は 収穫時の作物体窒素量とじて求める. 収穫時の 種子, 茎, 根の窒素含量比をDuttらの報告(T a nj i, 1982 )から[種子:
茎:根J = [4.2 : 1.5 : 2.3Jとすると, 第E章 ・ 表- II -4にもとづき, 調査 範囲の収穫時( t = 192 d ay s)における大麦の窒素量Pl92は15.2 kgとなり,
77
である.
P∞= PI9'2
= 15.2 [3.10]
一方, λはまず[3 .2J式のBを 初期作物体内窒素量とんから求め, 大麦の生 長データから推定する. 本論の調査園場では, 約 120kg・ha-1 の大麦が播種さ れてい るが, 発芽率が約50%と推定されることから, 調査単位区画では約9.3 kgの種子に含まれる窒素量が初期作物体内窒素量p。となる. 種子の窒素含有 率をl.62%とすると, 初期作物体内窒素量poは0 .15kgである. すなわち,
B=p∞/ po -1 = 100 . 47 である. 佐賀における大麦の調査結果(古賀ら, 1987)に あてはめると,
λ=0.040 (day.1) [3.11]
である.
2 )土壌窒素の無機化速度定数
土壌窒素の無機化速度は, 本論においては易分解性有機物と難分解性有機物 について設定する必要があるが, Molina ら(1983)のモデルや杉原ら(1986)の 単純並行型無機化モデルにおける易分解と難分解性有機物の概念などとは一致
しない. ここでは調査結果を もとに論理的に無機化速度を 推察する.
第E章の表- n-4 において, 入力窒素に対して出力窒素が多く, これらは 土壌窒素からの無機化によって供給されたものと 考え られる. 本論では土壌有 機態窒素の無機化を1次反応式で表現し たが, 斉藤(1988)によれば実用上, 零 次反応式で与えてもよい. この考えに立てば, 1984年麦作と1985年麦作で は調査単位区画においてそれぞれ0.041kg.day-1, 0.054kg.day-1 の無機化が あったことになる.
作期内の土壌有機物量が大きく変動せず, 杉原ら(1986)が土壌窒素の無機化 速度に単純並行型速度式を当てはめた場合の反応速度定数を参考に, 易分解性 有機態窒素の無機化比速度は難分解性のものに対して約30倍と考えて, この
78
値を1次反応式にあてはめれば, 易分解性有機態窒素について それぞれ0.73
x 10・3 day'l , 1.29 x 10・3 day'l , 難分解性有機態、窒素はその1/30で ある. 脱
窒(Mahran らの解析から推定すると比速度 0.4day.l程度) , 有機イヒ(比速度 O.15day.l程度〉を考慮、するとβJ =0.1 x 10・2---0.3X10・2day'1 程度の値になる.
さらに, 250Cに換算してβJ' =0.2 X 10・2---0.1X 10・lday'lと推察される.
3 )窒素の溶脱に関する定数
モデルでは, 土層中の硝酸態窒素量と 暗渠排水のT-N 濃度との聞に線形関 係を仮定している ため, [3.12]式 が成 り立つ .
CN -CN' =αNN -aNN'
= aiJN N [3.12]
ここで , CNおよびCN'はそれぞれし t + 1ステップのT-N濃度(mg.r1)
麦作期後半の降水量の多い場合に暗渠排水の窒素水質の急速 な低下が数回観 測されており, こ れらの調査データを[3.5]および[3.12]式によって分析した結 果, 平均的に,
程度と なる.
ε= 0.012 m -.3
4 )その他の反応速度定数
[3.13]
土壌中のアンモニア態窒素について , 現在提案されている種々のモデルでは 表- m-3 に示すように, およそ3タイプの取り扱いがなされており, それぞ れの状態量の概念も統一されていない.
Frissel & van Veenの提案した土壌中の窒素循環モデル(Tanji,1982)では,
アンモニア態窒素の不溶化は土壌への吸着と 土壌有機物への移行を意味してお り(Smith,1982) , 土壌 吸着 アンモニア態窒素の可溶化過程は無視された構成と なっている. すなわち, 土壌に吸着 されたアンモニア態窒素の可溶化速度は土
79
壌吸着 速度に比べて常に小さいと仮定したことによる Cameronら(1976)は,
土壌中のアンモニア態窒素には吸着された窒素, 交換態、(exchangable)窒素と 溶存態(soluble)窒素が存在し, それぞれの聞の移行過程をモデル化しているが,
そこでは土壌吸着窒素から交換態窒素への移行速度を非線形のFreundlich平 衡関係で定式化している. また, Mehran ら(1974)は アンモニア態窒素の土壌 吸着反応は考慮、しないで, 交換態窒素と溶存態、窒素との移行過程のみをモデル に組み込んでいる. そこでは, 交換態窒素の概念は作物吸収や硝化反応に関与 しないアンモニア態窒素であり, 土壌吸着窒素を含んでいる.
表- m-3 土壌中のアンモニア態窒素のモデルでの取り扱い
土壌吸着窒素 ← アンモニウム Frissel & van Veen(1978) 土壌吸着窒素 ← 交換態窒素特溶存態窒素 Cameron & Kowalenko(1976)
交換態、窒素 特溶存態、窒素 Mehran & Tanji(1974)
本論文で提案するモデルでは, アンモニア態窒素を不溶性と可溶性の2つの 概念に分けており, Mehran & Tanjiのモデルに考え方が近い. したがって,
Mehranら(1974)の使用したパラメータを参考とする.
尿素の分解速度は土壌の pH との関係についての研究が多く見られる. Xie ら(1993)は, リグノスルフォン酸塩添加による尿素の加水分解速度を検討して いるが, 無添加土壌のpHが本論における調査圃場の値と類似しているため,
Xieらの求めた加水分解比速度のうちリグノスルフォン酸塩を添加しない場合 のものを参考とする.
表-皿-4 窒素循環に係わる反応比速度の参考値
反応比速度 参考値(day'l) 文献等 α1, 0.15 Mehran et aJ.(1974)
α、' 0.15 Mehran et a1.(1974)
αJ 0.20"-'1.0 Mehran et aJ.(1974)
βl F
0.002"-'0.01 調査結果からの推定値β2F βl' /30
調査結果からの推定値β3F
1.00 Mehran et aJ.(1974)ム'
0.42�0.46 Xie et aJ.(1993)80
また, 無機態、窒素の有機化に関するパラメータについても, 窒素循環の概念 がMehran & Tanjiモデルと類似しているため参考とする.
以上のことから, 基準温度で基準水分状態における各反応比速度αl'~α3'お よびßI
I
""ふ'の参考値を表-III-4に示す.5 )温度に関する係数
土壌中の生物反応に係わる活性化エネルギーEaは表-III-5に示すように,
2,400'"'"'5,700 J.mol-1囲内にあり, 酵素反応の活性化エネルギー*(1,200�6,0 00 J.mol-1)に相当している(金野, 1980). このことから, θの値は5,000""12,
000 Kの範囲であると考えられる.
表-III-5 土壌中の生物反応に係わる活性化エネルギー測定例
(金野, 1980に加筆 ・ 修正)
B7 (K.mol-1)・ 5.700
川一川一山 川市一山
4,300'"'"' 5,600 2,500'"'"' 3,400 4,700'"'"' 5,500 5,500
4,400 3,800 4,400
k(250C ,day ・1)
0.028
0.04----0.06 0 003 5 0.8 mgC02
1.1 5mgC02
1 30mg C02 0.00407 0.0228 0.011 0.0082
0.0024----0.0099 0.0837----0.178 0 0037----0.0055 0.0029
0.0033 0.0041 0.0037
内 容
CDU窒素無機
土 壌
褐色火山灰土, 畑 化
土壌窒素無機化 水田土嬢 吉野ら 堆肥の分解 畑土壌 速水ら 炭酸発生 褐色火山灰土 中島田
黒色火山灰土 沖積土, 畑
土壌窒素無機化 11種類の畑土壌平均Stanford, et al.
土接窒素無機化 褐色火山灰土, 畑 金野ら
ワラの分解 畑土壌 速水ら
水田土壌
土壌窒素無機化 湿潤土壌, 人工圃場杉原ら(1982) 風乾土, 易分解窒素
風乾土, 難分解窒素
土壌窒素無機化 腐植質黒ポク土 斉藤(1990)
11 多湿黒ポク土, 畑 多湿黒ポク土, 畑 強粘強グライ土
11
11
'参考文献で、は, 活性化エネルギーの単位をcallmolで示しであるが, 本論文では国際単位系(SI)に統ーしたため,
cal=4.18605.]で換算した
81
3. 3 外部条件
土層内の窒素循環には地温が影響を与えるが, 特に, 窒素含有量の大きい作 土層の地温は重要な因子と考えられる.
土層内の地温は, 通常, 非定常の熱伝導方程式の境界値問題として解析する 方法や単純に気温とある深さの地温の関係を2次曲線で近似する方法によって 与えられる. しかし, 前者で必要な境界条件は複雑で植生の繁茂の程度, 日射 量, 土壌水分条件など十分に解明できない問題が多い.
大場ら(1990)は, 宮崎県佐土原町の大麦園場について2月から5月の日平均 気温と作土層(O.lm深さ)の日平均地温との関係を2次曲線にあてはめた[3.14]
に示す推定式を提案している.
九=ー0.01だ+ 1叫+3.12
(R:!
=0吋
ここで, 乙:日平均地温("c ) 乙:日平均気温(OC)
30 25
'-ノ
ρ20 頭15
回目z
E10
5 0
o
50 1 00 150 200 250
施肥後の経過日数 (日)
図-III-3 麦作期園場の日平均地温CO.1m深さ〉
82
[3.14]
さらに, [3.14]式は本論における調査固場と土性の類似した重粘土地帯の福 岡県筑後市のデータに適用され, 実演iJ値とよく一致することが確かめられてい る.
ここでは, 日平均気温は, 1984年麦作期と1985 年麦作期に佐賀市で観測 したものを使用して, 図- rn -3 に示すように[3.14]式で推定した日平均地温 を窒素循環モデルの温度条件として与える.
第4節 モデル解析
4. 1
パラメータの同定
数値積分は[3.9 ]式をEuler法で差分化したうえで, 時間間隔を0 .05 日とし て行う.
反応速度に関するパラメータは表-皿-4を参考にしてその平均的値を使用 する. 温度換算に関するパラメータは各反応についての測定例が極めて少ない ため, 表- m-4の範囲内で最適値を 遺伝的アルゴリズム(GeneticAlgorithm,
GAと略記)によって推定する. また, 易分解性有機態窒素の難分解性有機態、窒 素への移行比速度については, O'"""'O.Olday-l, 硝化および脱窒については0'"""' 1.0day-l の範囲で推定する.
1
)遺伝的アルゴリズム(GA)によるパラメータの同定
GAは, ある範囲内で定義されている変数xの関数j
(
x)
の最大値あるいは最小値を与えるxの値を高速に求めるための最適化 ・ 探索アルゴリズムの一種で ある(安居院ら, 1993 ). GAでは問題を人工的な遺伝子列(染色体)に表現し,
交叉, 突然変異, 淘汰 ・ 増殖という生存競争に基づく探索原理により最適化問 題の解を効率的に探索することが可能である(平松ら, 1994).
本論では, 1 つのパラメータについて遺伝子列を8ビットの対立遺伝子で表 現し, 生物個体数を100個, 交叉率を50%, 突然変異率を5%とした. 最適化 戦略は, 適応度をAIC情報量で評価し, 適応度比例戦略とエリート保存戦略 のもとで一様交叉および突然変異によって増殖させる.
83