,FFP
第3節 数値計算の条件
3. 1
初期条件
調査の対象とした圃場は, 1984年麦作の前作が大豆, 1985年麦作の前作が 水稲であるため, それぞれの麦作期の土壌中の初期養分状態が異なる. 表-III
-1に夏イ乍後の作土層の土壌化学性を示す.
表-III-1 夏作後の土壌化学性〈作土〉
1983年11月 1984年11月
pH(H20) T-C(%) T-N(%) 5.6
5.7
1. 54 1.38
0.24 0.18
佐賀県農業試験場の調査(井手ら, 1970)(徳安, 1982)から夏作後の土壌中窒 素はそのほとんどが有機態と考えられ, 特に, 71<稲後圃場の作土層では硝酸態、
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窒素はほとんど確認されない場合が多く, アンモニア態窒素は乾土100g当た り0.2'""0.3mg程度である. また, 次層以下の養分含量は低く, 松尾ら(1974),
三好ら(1985)および池田(1979)の報告などから作土の半分以下と考えられる.
可分解性有機態、窒素と総有機態窒素の比率は , Stanfordら(1972)によれば5
"""40%であることが知られており, 総有機態、窒素含量が0.1%より大きい場合 には10---25%であることが示されている.
これらのことから, 計算の初期条件では作土のアンモニア態窒素を乾土100 g当たり0.25mg とし, 全てを不溶性アンモニア態、窒素とみなし, 硝酸態、窒素 はOmgとする. また, 可分解性有機態窒素と総有機態窒素の比率を20%とし,
さらに可分解性有機態窒素の20%を易分解性有機態窒素, 残りの80%を難分 解性有機態、窒素と仮定する. 鉛直の窒素分布は次層(0.15m 以深)以下の窒素含 量は作土の半分として暗渠深さ(0.6m)までの各態窒素量を 求める. すなわち,
計算の初期条件は表一皿-2 のとおりとする.
表- m-2 計算の初期条件〈単位区画113 .0X13.75m2当たり質量kg)
198.!年麦作1985年麦作 難分解性有機態窒素λriO 223.7 167.8 易分解性有機態窒素λrmO 55.9 42.0 可溶性アンモニア態窒素NmH 5.0 5.0 不溶性アンモニア態窒素NiH 1.4 1.4
硝酸態窒素λrN 。 。
尿素態窒素Nu 5.0 5.0
注)可溶性アンモニア態窒素および尿素態窒素は施肥量とした.
3. 2 パラメータの設定の考え方
1 )作物吸収
作物体窒素量の収束値p∞は 収穫時の作物体窒素量とじて求める. 収穫時の 種子, 茎, 根の窒素含量比をDuttらの報告(T a nj i, 1982 )から[種子:
茎:根J = [4.2 : 1.5 : 2.3Jとすると, 第E章 ・ 表- II -4にもとづき, 調査 範囲の収穫時( t = 192 d ay s)における大麦の窒素量Pl92は15.2 kgとなり,
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である.
P∞= PI9'2
= 15.2 [3.10]
一方, λはまず[3 .2J式のBを 初期作物体内窒素量とんから求め, 大麦の生 長データから推定する. 本論の調査園場では, 約 120kg・ha-1 の大麦が播種さ れてい るが, 発芽率が約50%と推定されることから, 調査単位区画では約9.3 kgの種子に含まれる窒素量が初期作物体内窒素量p。となる. 種子の窒素含有 率をl.62%とすると, 初期作物体内窒素量poは0 .15kgである. すなわち,
B=p∞/ po -1 = 100 . 47 である. 佐賀における大麦の調査結果(古賀ら, 1987)に あてはめると,
λ=0.040 (day.1) [3.11]
である.
2 )土壌窒素の無機化速度定数
土壌窒素の無機化速度は, 本論においては易分解性有機物と難分解性有機物 について設定する必要があるが, Molina ら(1983)のモデルや杉原ら(1986)の 単純並行型無機化モデルにおける易分解と難分解性有機物の概念などとは一致
しない. ここでは調査結果を もとに論理的に無機化速度を 推察する.
第E章の表- n-4 において, 入力窒素に対して出力窒素が多く, これらは 土壌窒素からの無機化によって供給されたものと 考え られる. 本論では土壌有 機態窒素の無機化を1次反応式で表現し たが, 斉藤(1988)によれば実用上, 零 次反応式で与えてもよい. この考えに立てば, 1984年麦作と1985年麦作で は調査単位区画においてそれぞれ0.041kg.day-1, 0.054kg.day-1 の無機化が あったことになる.
作期内の土壌有機物量が大きく変動せず, 杉原ら(1986)が土壌窒素の無機化 速度に単純並行型速度式を当てはめた場合の反応速度定数を参考に, 易分解性 有機態窒素の無機化比速度は難分解性のものに対して約30倍と考えて, この
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値を1次反応式にあてはめれば, 易分解性有機態窒素について それぞれ0.73
x 10・3 day'l , 1.29 x 10・3 day'l , 難分解性有機態、窒素はその1/30で ある. 脱
窒(Mahran らの解析から推定すると比速度 0.4day.l程度) , 有機イヒ(比速度 O.15day.l程度〉を考慮、するとβJ =0.1 x 10・2---0.3X10・2day'1 程度の値になる.
さらに, 250Cに換算してβJ' =0.2 X 10・2---0.1X 10・lday'lと推察される.
3 )窒素の溶脱に関する定数
モデルでは, 土層中の硝酸態窒素量と 暗渠排水のT-N 濃度との聞に線形関 係を仮定している ため, [3.12]式 が成 り立つ .
CN -CN' =αNN -aNN'
= aiJN N [3.12]
ここで , CNおよびCN'はそれぞれし t + 1ステップのT-N濃度(mg.r1)
麦作期後半の降水量の多い場合に暗渠排水の窒素水質の急速 な低下が数回観 測されており, こ れらの調査データを[3.5]および[3.12]式によって分析した結 果, 平均的に,
程度と なる.
ε= 0.012 m -.3
4 )その他の反応速度定数
[3.13]
土壌中のアンモニア態窒素について , 現在提案されている種々のモデルでは 表- m-3 に示すように, およそ3タイプの取り扱いがなされており, それぞ れの状態量の概念も統一されていない.
Frissel & van Veenの提案した土壌中の窒素循環モデル(Tanji,1982)では,
アンモニア態窒素の不溶化は土壌への吸着と 土壌有機物への移行を意味してお り(Smith,1982) , 土壌 吸着 アンモニア態窒素の可溶化過程は無視された構成と なっている. すなわち, 土壌に吸着 されたアンモニア態窒素の可溶化速度は土
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壌吸着 速度に比べて常に小さいと仮定したことによる Cameronら(1976)は,
土壌中のアンモニア態窒素には吸着された窒素, 交換態、(exchangable)窒素と 溶存態(soluble)窒素が存在し, それぞれの聞の移行過程をモデル化しているが,
そこでは土壌吸着窒素から交換態窒素への移行速度を非線形のFreundlich平 衡関係で定式化している. また, Mehran ら(1974)は アンモニア態窒素の土壌 吸着反応は考慮、しないで, 交換態窒素と溶存態、窒素との移行過程のみをモデル に組み込んでいる. そこでは, 交換態窒素の概念は作物吸収や硝化反応に関与 しないアンモニア態窒素であり, 土壌吸着窒素を含んでいる.
表- m-3 土壌中のアンモニア態窒素のモデルでの取り扱い
土壌吸着窒素 ← アンモニウム Frissel & van Veen(1978) 土壌吸着窒素 ← 交換態窒素特溶存態窒素 Cameron & Kowalenko(1976)
交換態、窒素 特溶存態、窒素 Mehran & Tanji(1974)
本論文で提案するモデルでは, アンモニア態窒素を不溶性と可溶性の2つの 概念に分けており, Mehran & Tanjiのモデルに考え方が近い. したがって,
Mehranら(1974)の使用したパラメータを参考とする.
尿素の分解速度は土壌の pH との関係についての研究が多く見られる. Xie ら(1993)は, リグノスルフォン酸塩添加による尿素の加水分解速度を検討して いるが, 無添加土壌のpHが本論における調査圃場の値と類似しているため,
Xieらの求めた加水分解比速度のうちリグノスルフォン酸塩を添加しない場合 のものを参考とする.
表-皿-4 窒素循環に係わる反応比速度の参考値
反応比速度 参考値(day'l) 文献等 α1, 0.15 Mehran et aJ.(1974)
α、' 0.15 Mehran et a1.(1974)
αJ 0.20"-'1.0 Mehran et aJ.(1974)
βl F
0.002"-'0.01 調査結果からの推定値β2F βl' /30
調査結果からの推定値β3F
1.00 Mehran et aJ.(1974)ム'
0.42�0.46 Xie et aJ.(1993)80
また, 無機態、窒素の有機化に関するパラメータについても, 窒素循環の概念 がMehran & Tanjiモデルと類似しているため参考とする.
以上のことから, 基準温度で基準水分状態における各反応比速度αl'~α3'お よびßI
I
""ふ'の参考値を表-III-4に示す.5 )温度に関する係数
土壌中の生物反応に係わる活性化エネルギーEaは表-III-5に示すように,
2,400'"'"'5,700 J.mol-1囲内にあり, 酵素反応の活性化エネルギー*(1,200�6,0 00 J.mol-1)に相当している(金野, 1980). このことから, θの値は5,000""12,
000 Kの範囲であると考えられる.
表-III-5 土壌中の生物反応に係わる活性化エネルギー測定例
(金野, 1980に加筆 ・ 修正)
B7 (K.mol-1)・ 5.700
川一川一山 川市一山
4,300'"'"' 5,600 2,500'"'"' 3,400 4,700'"'"' 5,500 5,500
4,400 3,800 4,400
k(250C ,day ・1)
0.028
0.04----0.06 0 003 5 0.8 mgC02
1.1 5mgC02
1 30mg C02 0.00407 0.0228 0.011 0.0082
0.0024----0.0099 0.0837----0.178 0 0037----0.0055 0.0029
0.0033 0.0041 0.0037
内 容
CDU窒素無機
土 壌
褐色火山灰土, 畑 化
土壌窒素無機化 水田土嬢 吉野ら 堆肥の分解 畑土壌 速水ら 炭酸発生 褐色火山灰土 中島田
黒色火山灰土 沖積土, 畑
土壌窒素無機化 11種類の畑土壌平均Stanford, et al.
土接窒素無機化 褐色火山灰土, 畑 金野ら
ワラの分解 畑土壌 速水ら
水田土壌
土壌窒素無機化 湿潤土壌, 人工圃場杉原ら(1982) 風乾土, 易分解窒素
風乾土, 難分解窒素
土壌窒素無機化 腐植質黒ポク土 斉藤(1990)
11 多湿黒ポク土, 畑 多湿黒ポク土, 畑 強粘強グライ土
11
11
'参考文献で、は, 活性化エネルギーの単位をcallmolで示しであるが, 本論文では国際単位系(SI)に統ーしたため,
cal=4.18605.]で換算した
81
3. 3 外部条件
土層内の窒素循環には地温が影響を与えるが, 特に, 窒素含有量の大きい作 土層の地温は重要な因子と考えられる.
土層内の地温は, 通常, 非定常の熱伝導方程式の境界値問題として解析する 方法や単純に気温とある深さの地温の関係を2次曲線で近似する方法によって 与えられる. しかし, 前者で必要な境界条件は複雑で植生の繁茂の程度, 日射 量, 土壌水分条件など十分に解明できない問題が多い.
大場ら(1990)は, 宮崎県佐土原町の大麦園場について2月から5月の日平均 気温と作土層(O.lm深さ)の日平均地温との関係を2次曲線にあてはめた[3.14]
に示す推定式を提案している.
九=ー0.01だ+ 1叫+3.12
(R:!
=0吋
ここで, 乙:日平均地温("c ) 乙:日平均気温(OC)
30 25
'-ノ
ρ20 頭15
回目z
E10
5 0
o
50 1 00 150 200 250
施肥後の経過日数 (日)
図-III-3 麦作期園場の日平均地温CO.1m深さ〉
82
[3.14]
さらに, [3.14]式は本論における調査固場と土性の類似した重粘土地帯の福 岡県筑後市のデータに適用され, 実演iJ値とよく一致することが確かめられてい る.
ここでは, 日平均気温は, 1984年麦作期と1985 年麦作期に佐賀市で観測 したものを使用して, 図- rn -3 に示すように[3.14]式で推定した日平均地温 を窒素循環モデルの温度条件として与える.