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成年後見制度による権利擁護 : 市民後見人の意義 と役割の確立に向けて

その他のタイトル Advocacy by adult guardianship system :

Establishment of the significance and role of citizen guardians

著者 松下 啓子

発行年 2020‑03‑31

学位授与機関 関西大学

学位授与番号 34416甲第796号

URL http://doi.org/10.32286/00021343

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成年後見制度による権利擁護

―市民後見人の意義と役割の確立に向けて―

関西大学大学院

人間健康研究科 人間健康専攻 16D2503 松下 啓子

2020年 3月期

関西大学審査学位論文

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2020 年 3 月 関西大学審査学位論文

成年後見制度による権利擁護

―市民後見人の意義と役割の確立に向けて―

Advocacy by adult guardianship system:

Establishment of the significance and role of citizen guardians

関西大学大学院

人間健康研究科 人間健康専攻

16D2503 松下 啓子

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成年後見制度による権利擁護

―市民後見人の意義と役割の確立に向けて―

Advocacy by adult guardianship system:

Establishment of the significance and role of citizen guardians

関西大学大学院 人間健康研究科 人間健康専攻

16D2503 松下 啓子

要旨

本論文は権利擁護に取り組む市民後見人に焦点を当て、その役割と活動意義を明らかにし、

市民後見人活動の活性化の方向を示すものである。研究方法として、先行研究のレビューによる 文献研究と質問紙調査及びインタビュー調査による実証研究を用いた。本論文は序章を含めて 全7章で構成される。序章においては現在の権利擁護の現状から問題を提起し、研究の枠 組みについて述べた。

第1章ではわが国における重要な2つの権利擁護制度である成年後見制度と日常生活自 立支援事業の2つについて概観した。また、成年後見制度に関連する国際的動向として障 害者権利条約について述べた。わが国では、後見類型の場合、成年後見人が包括的な代理 権を持つために、障害者権利条約違反となることが予測されている。後見類型と保佐類型 を廃止し、補助類型に一元化することにより、障害者権利条約に沿った意思決定支援とし て成年後見制度を維持できる可能性はある。

第2章は市民後見人と公的後見の関係について論じた。さらにそれが成年後見制度利用 促進法によりどのように変わる可能性があるのか検討した。公的後見とは国や行政が責任 を持って後見人になることを指す。これが狭義の公的後見である。わが国においては狭義 の公的後見は存在しない。しかし、国や行政が成年後見人等の養成や支援をすることも公

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的後見と見ることができる。これを広義の公的後見とする考え方がある。2011年の老人福 祉法32条の2の創設により市町村に市民後見人の養成と支援について努力義務が課せら れた。これまで公的後見については明確な規定はなかったが、市民後見人が登場したこと により、後見人と行政との関わりが見直されるようになり、広義の公的後見へつながった と考えられる。行政が関わることにより、市民後見人のあり方も影響を受けることになろ う。当初、広義の公的後見は市民後見人に限定されていたが、成年後見制度利用促進法の 施行により他の類型の後見人にも拡大していく方向性が見えてきている。

第3章は市民後見人についての先行研究についてレビューを行った。市民後見人が登場 して初期の先行研究は理念を中心に論じたものがいくつかみられた。また、いくつかの活 動事例が出た後の先行研究は文献研究に併せて事例を検討する形式がみられた。直接、市 民後見人にインタビューを行ったものは1件であった。これらの先行研究の記述から市民 後見人を構成する要素を6つ抽出し、さらに3つの要件に整理した。また、これまで有力 とされてきた市民後見人の定義の中で、共通しているのは①一般市民であること。②自治体 や専門組織の講座等で一定の知識・技術・態度を身に付け、その組織の継続した支援があること。

の 2 つである。複数の見解のあった事項は①資格の有無、②裁判所から直接選任されている 市民を市民後見人とするのか、法人後見の中で活動する市民後見支援員を含めるのか、③ 一般市民の活動とは何をさすのか、の3点である。これらを踏まえて新たな市民後見人の 定義づけを試みた。

第4章では実証的な研究として市民後見推進事業を実施した自治体に質問紙調査を行い、

市民後見人の役割と活性化の方向について考察した。また、自由記載から現状における市 民後見人活動が進まない要因について考察した。市民後見人は2011年から家庭裁判所の 統計に登場している。多くの自治体では市民後見推進機関を設置し、市民後見人の養成に 取り組んでいる。養成研修を受ける人は一定数いるが、市民後見人として活動している市 民は極めて少ない。さらに、自由記載を分析した結果、市民後見人が活動する上での阻害 要因として①資源の不足、②マッチングの難しさ、③心理的なハードルの高さの3つが抽 出された。これらの結果を考察し、法人後見を活用することにより、市民後見人活動が活 性化すると結論付けた。

第5章では実証的研究として専門職後見人、法人後見、市民後見人にインタビュー調査 を行い、その結果から市民後見人の意義や役割を考察した。市民後見人の意義や役割を明 らかにするには養成側のみならず、市民後見人や専門職後見人、法人後見に対する研究が

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必要であるが、これまで3つの類型の後見人に直接調査をした研究はみられない。本章の 研究では専門職後見人、市民後見人、法人後見の代表者に対して直接インタビュー調査を 行い、後見人自身が後見人の職務をどのように捉えて実践しているのかを検討した。また、

それぞれの活動実態を7つの視点から比較することにより、市民後見人の役割について論 じた。

第6章の結論ではこれまでの研究成果を総括した。本論文による新しい知見として市民 後見人の役割は頻回の見守りと日常生活支援にあることが明らかとなった。日常生活支援 とは身上監護とは異なる家族や友人のような支援であるが、この支援が被後見人の反応を 引き出し、信頼関係を深め、意思決定支援に役立ち、さらに市民後見人自身のやりがいに もつながることが明らかとなった。また、資格の有無に関わらず、職業ではなく、社会貢 献として地域で活動することが市民後見人としての意義であることが明らかとなった。そ して、今後、市民後見人の活動を活性化するには、法人後見を活用すべき必要があること を明らかにした。

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目次

序章 ... 1

第 1 節 問題の所在 ... 1

第 2 節 論文の構成 ... 2

第 1 章 権利擁護制度の概要 ... 5

第 1 節 成年後見制度 ... 5

第 2 節 市民後見人 ... 7

第 3 節 成年後見制度に関連する法規 ... 9

第 4 節 成年後見制度の施行後に浮かび上がった問題点 ... 10

第 5 節 成年後見制度利用促進法 ... 11

第 6 節 成年後見制度をめぐる国際的動向 ... 12

第7節 日常生活自立支援事業 ... 13

第 8 節 現状における日常生活自立支援事業の問題点 ... 14

第 2 章 成年後見制度における公的後見制度導入の可能性 ... 16

第 1 節 はじめに ... 16

第 2 節 公的後見とはなにか ... 16

第 3 節 成年後見制度が成立した背景 ... 17

第 4 節 成年後見制度の概要 ... 18

第 5 節 後見人類型の整理 ... 20

第 6 節 先行研究のレビュー ... 21

第 7 節 成年後見制度利用促進法による公的後見制度推進の可能性 ... 32

第 8 節 結び ... 36

第 3 章 市民後見人の概念を構成する要素と要件 ―先行研究のレビューから― ... 37

第 1 節 研究の背景 ... 37

第 2 節 研究方法 ... 38

第 3 節 結果 ... 39

第 4 節 考察 ... 45

第 5 節 まとめ ... 53

第 4 章 自治体による市民後見人養成事業の現状と問題点 ... 55

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第 1 節 はじめに ... 55

第 2 節 研究方法 ... 56

第 3 節 結果 ... 57

第 4 節 考察 ... 61

第 5 節 まとめ ... 64

第 5 章 市民後見人の意義と役割を考える ―後見人の類型による活動実態の比較から― ... 66

第 1 節 はじめに ... 66

第 2 節 研究方法 ... 69

第 3 節 結果 ... 71

第 4 節 考察 ... 78

第 5 節 まとめ ... 83

第 6 章 結論 ... 85

第 1 節 本論文のまとめ ... 85

第 2 節 今後の課題 ... 88

文献 ... 93

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1 序章

第1節 問題の所在

どの時代においても判断能力の不十分な人々は存在する。近代国家成立以前の社会にお いては国による統一された保護制度はなく、家族や親族の保護に頼るほかはなかった。明 治以後の近代国家成立により判断能力の不十分な人々を保護する制度として初めて禁治産 制度が成立した。判断能力が不十分な人々に対して、国家が目を向けて全国一定の基準を 持ち、法律を整備したことは画期的なことと言える。しかし、禁治産制度は家の財産を守 ることに重点が置かれており、判断能力が不十分な人々の権利を擁護するという考え方は 希薄であった。この制度は長い間、改正されることはなく、時代の狭間に取り残されたま まであった。戦後、高度経済成長により、福祉政策も発展したが、以前として判断能力の 不十分な人々は保護の対象であり、それらの人々の権利や自己決定は尊重されていなかっ た。1973年に高度経済成長が終焉を迎え、低成長時代に入ったことや、少子高齢化が進み、

高齢夫婦世帯や単身世帯が増加したこと、北欧からノーマライゼーションの思想が入って きたことなどにより、福祉に対する考え方が大きく変化していく。この変化に対応するた め、社会福祉基礎構造改革が行われ、福祉サービスは原則として措置から契約に転換され た。利用者が福祉サービスを選択できるようになったが、現実には判断能力が不十分な人々 は自ら福祉サービスを選択して契約することは困難である。判断能力の不十分な人々が福 祉サービスを利用できるようにするための権利擁護の制度が必要となる。そこで長い間改 正されないままであった禁治産制度を見直し、成年後見制度が新たに整備されることにな った。新たな制度では財産管理とともに身上監護にも配慮することが明文化され、判断能 力の不十分な人々の権利を擁護するという考え方が重視されるようになった。

成年後見制度を整備しても成年後見人等1として適性を備えた人材を確保できなれば判 断能力が不十分な人々の権利を擁護することはできない。成年後見人等の人材確保は極め て重要な課題でありながら制度改正の時点ではあまり議論されてこなかった。成年後見人 等は欠格事由が定められているが、それに該当しなければ誰でも受任することができる。

禁治産制度においては判断能力が不十分な人々を保護する役割を担うのは基本的に家族や 親族であった。1995年の禁治産制度の統計では親族後見人が90%以上を占め、専門職後 見人はわずか 5%弱であった。また、禁治産制度においては配偶者が被後見人になると、

もう一方の配偶者が当然後見人になると規定されていた。実際には高齢夫婦の場合、配偶

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者も高齢で職務を果たせない場合が多いことから成年後見制度では配偶者が当然に後見人 になる規定は廃止され、個々の事案に応じて裁判所が選任することになった。また、禁治 産制度では明確な規定がなかった複数後見人や法人後見が成年後見制度では明文化され、

認められることとなった。このように成年後見制度では後見人の範囲について見なおしが おこなわれた。

成年後見制度が始まった2000年は親族後見人が90%以上(約3,800件)を占め、専門 職後見人は10%(約280件)以下であった。その後、親族後見人は年々減少し、2016年

には30%以下(約9,700件)となり、専門職後見人は60%(約22,000件)を超えた。こ

れは少子高齢化が年々進んだことや、結婚しない単身世帯が増加したことが挙げられる。

これまで親族後見人が減少した分は専門職後見人が担ってきたが、専門職の数には限界が ある。一方で人口高齢化に伴って認知症高齢者が増加し、潜在的な成年後見制度の利用者 が増加することが予測されている。認知症高齢者等の判断能力の不十分な人々の権利を擁 護するために後見人を増やしていくことが課題となっている。一方、国はこれからの地域 福祉について住民の参加を求め、公助だけでなく、行政と住民の共助および住民同士の互 助による地域づくりを目指している。そこで注目されているのが市民後見人2である。こ こで改めて親族後見人や専門職後見人が受任してきた背景を考えてみる。古くから親族や 家族が判断能力が不十分な人々を保護することは当然のように受け止められてきた。確か に家族や親族は判断能力が不十分な人々を身近で見ており、すでに事実上保護しているこ とも多く、後見人の第一候補となりうる。一方、法的な問題解決に当たるなど専門的な知 識を必要とするケースでは、専門職が後見人として活動する意義がある。親族がいない場 合に受任するのは、専門職としての社会的な使命や要請とみることができる。親族や専門 職と異なり、市民後見人が活動する意義と役割はどこにあるのか。本論文の核心はこの点 にある。本論文は市民後見人の意義と役割を明らかにし、市民後見人活動の活性化の方向 性を示すことを目的とする。

第2節 論文の構成

本論文は序章を含めて全7章で構成される。序章においては現在の権利擁護の現状から 市民後見人について問題を提起し、研究の枠組みについて述べる。

第1章ではわが国における重要な2つの権利擁護制度である成年後見制度と日常生活自 立支援事業の2つについて概観する。成年後見制度は民法を中心とした様々な法律の集合

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体である。老人福祉法、障害者総合支援法、知的障害者福祉法、精神保健福祉法などがど のように成年後見制度と関連しているのかについて述べる。また、成年後見制度の利用が 進まないことから、成年後見制度利用促進法が定められた。この経緯についても述べる。

次に成年後見制度施行後に浮かび上がった問題点について述べる。欠格条項や死後事務の 問題は法改正が行われたが、まだ医療同意など大きな問題が残っている。最後に成年後見 制度に関連する国際的動向として障害者権利条約について述べる。わが国では、後見類型 の場合、成年後見人が包括的な代理権を持つために、障害者権利条約違反となることが予 測されている。成年後見制度を維持できる可能性について論じる。

第2章は市民後見人と公的後見の関係について論じる。さらにそれが成年後見制度利用 促進法によりどのように変わる可能性があるのか検討していく。公的後見とは国や行政が 責任を持って後見人になることを指す。これが狭義の公的後見である。わが国においては 狭義の公的後見は存在しない。しかし、国や行政が裁判所と連携して成年後見人等の養成 や支援をすることも公的後見のひとつと見ることができる。これを広義の公的後見とする 考え方がある。2011年の老人福祉法32条の2の創設により市町村に市民後見人の養成と 支援について努力義務が課せられた。これまで公的後見については明確な規定はなかった が、市民後見人が登場したことにより、事実上の広義の公的後見につながる役割を果たし た。一方、成年後見制度利用促進法の基本方針に成年後見制度の利用に関する体制の整備 が規定されており、広義の公的後見を市民後見人だけに限定するのではなく、他の類型の 成年後見人等に広げていく必要性について論じる。

第3章は市民後見人についての先行研究についてレビューを行う。現在、市民後見人に ついて確立した定義はない。現在、市民後見人はどのような概念で捉えられているのか。

先行研究の記述から市民後見人を構成する要素と要件に整理する。そして、この要素と要 件から新たな市民後見人の定義づけを試みる。

第4章では実証的な研究として市民後見推進事業を実施した自治体を対象に質問紙調査 を行う。この章では質問紙調査の結果から、市民後見人養成研修に応募した市民の数と活 動している市民後見人の数および活動形態を明らかにし、市民後見人の活動が進まない要 因を見出すことを目的としている。

第5章では専門職後見人、法人後見、市民後見人にインタビュー調査を行い、その結果 から市民後見人の意義や役割を考察する。市民後見人の意義を明らかにするには養成側の みならず、市民後見人や専門職後見人、法人後見に対する調査が必要である。そのため、

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専門職後見人、市民後見人、法人後見に直接調査を行い、後見人自身が後見人の職務をど のように捉えて実践しているのかを検討する。また、それぞれの活動実態を7つの視点か ら比較することにより、市民後見人の役割について論じる。

第6章の結論ではこれまでの研究成果を総括し、市民後見人の意義と役割を明らかにす る。成年後見制度の時代による変化と市民の地域福祉への参画という2つの流れの中で登 場した市民後見人が、当初どのような理念と期待を持って活動を始めたのか。これまでわ が国になかった公的後見にどのような影響を及ぼしたのか。そして、現状ではどのような 役割を果たしているのか。その意義はどこにあるのかについて論じ、活動の活性化の方向 を示す。

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5 第1章 権利擁護制度の概要

認知症や知的障害、精神障害等により判断能力が不十分な人々は、様々な法律行為や日 常生活をひとりで行うことが困難になる。わが国ではこれらの人々の権利や利益を擁護す る制度が定められている。永田(2017)は狭義の権利擁護として成年後見制度や日常生活 自立支援事業があり、広義の権利擁護として、苦情解決、第三者評価制度等があると述べ ている。本論文では成年後見制度における市民後見人の意義と役割を論じる観点から、成 年後見制度と日常生活自立支援事業の2つを取り上げることとする。

第1節 成年後見制度

2000年より以前は判断能力の不十分な人を保護する制度として民法に禁治産制度、準禁 治産制度が定められていた。しかし、禁治産制度、準禁治産制度は1898年(明治31 年)

に作られたものであり、時代にそぐわない様々な問題点が指摘されていた。禁治産制度で は「財産を治めることを禁ずる」という言葉のとおり、家制度を背景に家の財産を守ると いう点が重視され、本人の自己決定はあまり尊重されることはなかった。また、禁治産ま たは準禁治産宣告を受けると本人ができる法律行為が大きく制限されるため、軽度の認知 症高齢者や軽度知的障害者には使いにくい制度となっていた。本人の意思の尊重やノーマ ライゼーションの理念の浸透により、禁治産制度に代わる新たな権利擁護制度が求められ るようになった。一方、わが国においては少子高齢化が進み、高齢者人口が急増している。

それに伴い、認知症高齢者も増加している。また、家族形態の変化により高齢者夫婦のみ または単身世帯が増加し、家族による介護力は低下している。このような変化に対応する ため2000 年に介護保険法が成立し、介護保険が導入された。介護保険による福祉サービ スを利用するには原則として契約が必要となる。しかし、判断能力の不十分な人々は自ら 契約することが困難であり、これらの人々の権利を擁護するための仕組みが必要であった。

1999年に「民法の一部を改正する法律」、「任意後見契約に関する法律」「民法の一部を改 正する法律の施行に伴う関係法律の整備等に関する法律」および「後見登記等に関する法 律」が成立し、2000 年 4 月から施行された。これらを合わせて成年後見制度と呼んでい る。成年後見制度は任意後見制度と法定後見制度の2つに分けられる。制度を利用する時 に判断能力が十分ある場合は任意後見制度を利用し、不十分な場合は法定後見制度を利用 することになる。

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6 1.任意後見制度

任意後見制度とは現在判断能力はあるが、将来判断能力が低下したときに備えて、本人 が任意後見人を選任できる制度である。任意後見制度を利用するには任意後見契約による。

任意後見契約とは、本人が、任意後見人に対し、精神上の障害により、事理を弁識する能 力が不十分な状況における自己の生活、療養看護及び財産の管理に関する事務の全部又は 一部について代理権を付与する委任契約である。任意後見契約は家庭裁判所が任意後見監 督人を選任したときから効力を生ずる。任意後見契約の方式は公証人の作成する公正証書 によらなければならない。

2.法定後見制度

法定後見制度は判断力の低下の状況に応じて、後見、保佐、補助の3つの類型がある。

成年後見制度を利用するには申立人が家庭裁判所に申し立てを行う。家庭裁判所の裁判官 は職権で審判を行い、成年後見人または保佐人または補助人を選任する。

後見類型の対象者は精神上の障害により、事理を弁識する能力を欠く状況にある者であ る。後見類型の場合、被後見人が行った法律行為はすべて取り消しの対象となる。ただし、

日常生活上の契約行為は取り消すことができない。申立権者は本人、配偶者、4 親等内の 親族、任意後見受任者、任意後見人、任意後見監督人、検察官、保佐人、保佐監督人、補 助人、補助監督人、未成年後見人、未成年後見監督人である。

保佐類型の対象者は「精神上の障害により事理を弁識する能力が著しく不十分な者」で ある。日常生活上の買い物などの法律行為は単独で可能であるが、民法 13 条に定められ ている重要な法律行為は単独でできない者が対象となる。民法 13 条に定められている重 要な法律行為とは借金、訴訟行為、相続の承認や放棄、新築・改築などを指す。これらの 法律行為を行う場合は保佐人の同意を要する。この範囲を拡張する必要がある場合は家庭 裁判所に請求を行い、拡張することができる。保佐人には当然には代理権は付与されない。

代理権が必要な場合は、特定の法律行為について家庭裁判所に請求することができる。申 立権者は本人、配偶者、4親等内の親族、任意後見受任者、任意後見人、任意後見監督人、

検察官、成年後見人、成年後見監督人、補助人、補助監督人、未成年後見人、未成年後見 監督人である。

補助類型の対象者は「精神上の障害により事理を弁識する能力が不十分な者」である。

民法 13 条に定める重要な法律行為について単独でも不可能ではないが、判断力が不十分 であるため、支援が必要とされる者を対象としている。申立権者は本人、配偶者、4 親等

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内の親族、任意後見受任者、任意後見人、任意後見監督人、検察官、成年後見人、成年後 見監督人、保佐人、保佐監督人、未成年後見人、未成年後見監督人である。

上記に述べた申立権者の他に市区町村長は 65 歳以上の者または知的障害者・精神障害 者について、その福祉を図るため特に必要があると認めるときは法定後見の申立てをする ことができる。(老人福祉法32条、知的障害者福祉法27条の3、精神保健福祉法51条の

11の2)身寄りがない判断能力が不十分な者、家族から虐待を受けている者などは家族か

らの申立てを期待できない。このような人々が成年後見制度を利用して保護されるように 定められたものである。

3.成年後見人の要件

成年後見人等には次の5つの欠格事由が定められている。①未成年者、②家庭裁判所で 免ぜられた法定代理人、保佐人または補助人、(法定代理人には親権者と後見人を含む。)

③破産者、④被後見人、被保佐人、被補助人に対して訴訟し、又はした者及びその配偶者 並びに直系血族、⑤行方の知れない者、である。また、家庭裁判所が成年後見人等を選任 する場合には、成年被後見人の心身の状態並びに生活及び財産の状況、成年後見人等とな る者の職業及び経歴並びに成年後見人等との利害関係の有無、成年被後見人の意見、その 他一切の事情を考慮しなければならない。禁治産制度では後見人を1人に制限する旧民法 第843条の解釈について専門家の見解が分かれていた。制度改正にあたり、未成年後見人 は1 人とし3、成年後見人等は複数後見人が認められることとなった。また、禁治産制度 では法人後見について明確に規定されていなかったが、成年後見制度では明文化され、認 められることとなった。(民法843条4項括弧書き。補助と保佐にも準用される。)法人後 見は知的障害者のように後見活動が長期に及ぶ場合や1人では対応困難な複雑な問題を抱 える事例などに必要と考えられる。注意すべき点として本人と法人の間に利害関係がない ことが重要である。例として本人が入所していたり、通所している施設が法人後見を受任 することは利益相反になり、不適当と考えられる。このように禁治産制度ではあいまいだ った複数後見人や法人後見が明確になり、成年後見人等の範囲が拡大され、被後見人の多 様なニーズに対して対応できるようになった。

第2節 市民後見人

市民後見人については5章でも述べているが、ここでまとめておく。旧禁治産制度から 成年後見制度への見直しの中で、複数後見人や法人後見については議論され、明文化され

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ることとなった。しかし、要綱試案の中では、市民後見人の記述はなく、親族や専門職で はない一般市民が後見人になることは想定されていなかったと考えられる。制度が始まっ た 2000 年から次第に親族後見人が減少し、その部分は専門職がカバーしてきた。一方、

人口高齢化が進み、2025年には人口の約30%が65歳以上と予測されている。それに合わ せて認知症高齢者も増加し、2025 年には約700 万人になることが予測されている。しか し、専門職後見人は数に限りがあり、後見人不足が懸念されるようになった。成年後見制 度が始まって数年で、親族や専門職以外の新たな後見人の担い手が検討されるようになっ たのである。また、岩間は市民後見人の台頭は市民・住民の「参加」および「参画」と深 く関係していると述べている。そして「これからの地域福祉のあり方に関する研究会報告 書」(厚生労働省、2008)の中で地域福祉について住民の参加を求め、住民と行政の協働 によって地域における共助を確立しようとしていると指摘している。地域福祉の担い手と して市民後見人が期待されているのである。

全国で先駆的に市民後見人の養成を始めたのは品川区、世田谷区と大阪市である。品川 区と世田谷区では2006年に、続いて2007年に大阪市で養成研修が始まった。市民後見人 はそれぞれの地域の実情に合わせて試行錯誤で養成・活動をしてきたため、その活動形態 は多様である。市民後見人が活動を始めて12年経過しているが(銭、2015:99)、現在に おいても市民後見人の定義は確立していない。現在、いくつかの有力な考え方は存在して いる。日本成年後見法学会(2006)によれば「弁護士や司法書士などの資格は持たないも のの社会貢献の意欲や倫理観の高い一般市民の中から、成年後見に関する一定の知識や技 術を身に付けた良質の第三者後見人等の候補者」とされている。最高裁判所統計(最高裁 判所事務総局家庭局、2017)によれば「市民後見人とは弁護士、司法書士、社会福祉士、

税理士、行政書士、および精神保健福祉士以外の自然人のうち、本人と親族関係および交 友関係がなく、社会貢献のため、地方自治体等が行う後見人養成講座などにより、成年後 見制度に関する一定の知識や技術・態度を身に着けた上、他人の成年後見人等になること を希望しているものを選任した場合をいう」とされている。岩間(2012)によれば「市民 後見人とは家庭裁判所から成年後見人として選任された一般市民のことであり、専門組織 による養成と活動支援を受けながら、市民としての特性を活かした後見活動を地域におけ る第三者後見人の立場で展開する権利擁護の担い手」であるという。

これら有力な考え方に共通しているのは①社会貢献の意欲や倫理観の高い一般市民であ ること、②行政や行政が委託した機関またはそれに準ずる機関の養成研修により後見活動

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に必要な知識を身に着けていることの2つである。もうひとつ、市民後見人の活動形態と して個人受任と法人後見の支援員の2つがあることに留意しておく必要がある。厳密に言 えば裁判所から直接選任された市民が市民後見人であるが、実務上、法人後見の支援員と して活動する市民も市民後見人と呼んでいる。本論文においてもどちらも市民後見人に含 めるものとする。

第3節 成年後見制度に関連する法規

成年後見制度は様々な法律の集合体により構成されている。成年後見制度を構成するの は「民法の一部を改正する法律」、「民法の一部を改正する法律の施行に伴う関係法律の整 備等に関する法律」、「任意後見契約に関する法律」、「後見登記等に関する法律」の4つで ある。それ以外に成年後見制度に関連する法律について述べる。

1.老人福祉法

市町村長申立てについて 65 歳以上の高齢者についてその福祉を図るために特に必要 があると認めるときは市町村長は後見開始の審判等の請求ができると規定されている。(老 人福祉法 32 条)「その福祉を図るために特に必要があると認めるとき」の解釈であるが、

本人の意思能力や身寄りの有無、生活状況、資産等から判断して、特に申立ての必要性が ある場合に市町村長の申立権を認めたと解される。身寄りがなく、適切な保護が受けられ ない状態であることや、虐待を受けているときは申立ての必要性があると考えられる。

また、2011年に老人福祉法32条の2が創設され、市町村が後見等の業務を適正に行う ことができる人材の育成や活用を図るための体制整備を図るよう、努力義務が定められた。

そして、この法律を促進する施策として「市民後見推進事業」が実施された。この法律の 直接の目的は市民後見の適切な運用であるが、その内容はこれまで欠けていた家庭裁判所 と市町村との連携を規定したものであり、画期的と言える(上山、2012)。

2.知的障害者福祉法、精神保健福祉法

障害者についても高齢者と同様にその福祉を図るために特に必要があると認めるときは 市町村長が後見開始の審判等の請求ができると規定されている。(知的障害者福祉法第28 条、精神保健福祉法第51 条の11 の2)

3.障害者虐待防止法

この法律は障害者の虐待防止、早期発見、保護、自立支援を目的としている。虐待を受 けた障害者の保護、自立支援、財産上の被害の救済を図るために成年後見制度の利用促進

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10 が規定されている。(障害者虐待防止法第44条)

第4節 成年後見制度の施行後に浮かび上がった問題点

禁治産制度の問題点を改めて制定された成年後見制度であったが、実際に利用されるよ うになると新たな問題点が浮かび上がってきた。ひとつ目は選挙権の問題である。2000 年に成年後見制度が施行された時点では、被後見人になると選挙権を失うとされていた。

被後見人になったことにより、選挙権を失ったダウン症の女性が訴訟を起こし、2013年東 京地方裁判所は違憲で無効という判決を出した。この判決により同年、公職選挙法が改正 され、成年後見制度を利用して被後見人になっても選挙権を失うことはなくなった。ふた つ目は欠格条項の問題である。被後見人や被保佐人は多くの欠格条項に該当するため、成 年後見制度を利用すると仕事を失うという問題が生じていた。例えば自治体に採用され、

公務員として清掃業務に従事する知的障害者は多くいるが、被後見人になると公務員の欠 格条項に該当し、失職していたのである。この点については判断能力が同じ程度であるに もかかわらず、制度を利用する人としない人で差が生じてしまうことや、権利擁護の制度 が逆に権利を剥奪する制度になっていることから、制度の利用者や専門家から強く改正が 求められていた。2016年に成年後見制度の利用の促進に関する法律において速やかに欠格 条項を見直すことと定められ、これを受けて2019年6月に「成年被後見人等の権利の制 限に係る措置の適正化等 を図るための関係法律の整備に関する法律」が可決成立し、欠格 条項は削除された。法改正により、被後見人になっても一律に資格等を失うことはなくな り、資格等に相応しい能力の有無については個別的・実質的に審査判断する仕組みに改め られることになった。たとえ、判断能力が不十分であっても、被後見人が選挙権を行使で きるようにし、社会の中で活動することを支えていくのが真の権利擁護と言えるだろう。

3 つ目は死後事務の問題である。被後見人が死亡すると後見は終了する。そのため、被 後見人の死後の事務は成年後見人等として行うことができなかった。しかし、そもそも被 後見人に相続人がいなかったり、相続人と疎遠で相続に時間がかかる場合も多い。元成年 後見人等が被後見人の死後も医療費の支払い、家賃の支払い、火葬などを行わざるを得な いケースが多く、明確な根拠が求められていた。2016年まで民法には明確な規定はなく、

応急処分、管理計算、事務管理を根拠として行うほかなかった。2016年10月に「成年後 見の事務の円滑化を図るための民法及び家事事件手続法の一部を改正する法律」(以下円滑 化法)が施行され、これを根拠に成年後見人等は死後事務が行えるようになった。成年後

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見人等が行うことができる死後事務は①個々の相続財産の保存に必要な行為、②弁済期が 到来した債務の弁済、③その死体の火葬又は埋葬に関する契約の締結、その他相続財産全 体の保存に必要な行為(①、②に当たる行為を除く。)の 3 種類である。また、円滑化法 により、成年後見人等が家庭裁判所の審判を得て成年被後見人宛郵便物の転送を受けるこ とができるようになった。これら3つの問題については法改正によりおおむね問題は解消 したが、依然として大きな問題も残っている。中でも市民後見人の活動に影響があると考 えられるのが医療同意の問題である。立法担当官は診療契約に関する法定代理権は成年後 見人等の職務として認めるが、医的侵襲に関する同意権は認めないという立場を明確にし ている(小林・原、2002:268-269)。これに対して成年後見人等に医療同意権を認める学 説もある。上山(2006:46)は利用者が同意能力を欠く状況にあることを前提としたうえ で、病的症状の医学的解明に必要な最小限の医的侵襲行為(触診、レントゲン検査、血液 検査等)と「当該診療契約から当然予測される、危険性の少ない軽微な身体的侵襲(熱さ ましの注射、一般的な投薬、骨折の治療、傷の縫合等)に関しては成年後見人の医療同意 権を肯定してよい」と述べている。能見(2005:56)は治療・手術の意味について「本人 に判断能力がない場合は…(成年後見人の負う身上配慮義務に対応する権限として)手術 などについての意思決定もできると考えるべきである」とする。本論文では成年後見人等 に医療同意権を認める立場を支持する。理由は上山が述べている通り、インフォームド・

チョイスの機会を失うためである。成年後見人等に医療同意見がなく、医療従事者に判断 を委ねた場合、保存的治療を選択することが多い。被後見人等が骨折した場合、手術をす れば再び歩行できる可能性が高くても、手術しなければ一生車いす生活となってしまう。

また、このような問題が存在することは市民後見人が活動する上で大きな心理的負担とな り、活動を躊躇する理由ともなりうるからである。できるだけ早い制度改正が求められる。

第5節 成年後見制度利用促進法

前述したとおり成年後見制度は施行後、様々な問題が指摘されるようになっていた。そ れらの問題を含めて総合的に改善し、成年後見制度を本来の理念に沿って、利用を促進す るため2016年成年後見制度利用促進法が施行された。成年後見制度利用促進法では3つ の基本理念①成年後見制度の理念の尊重、②地域の需要に対応した成年後見制度の利用と 促進、③成年後見制度の利用に関する体制の整備、が定められた。そして、3 つの基本理 念ごとに基本方針が定められている。①成年後見制度の理念の尊重の基本方針では次の 5

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つが示された。(ア)保佐・補助類型の利用を促進する方策の検討、(イ)成年後見制度を 利用することによる欠格事由の見直し、(ウ)成年被後見人等の医療等に係る意思決定支援 が困難な者への支援等の検討(成年後見人等の医療同意権)(エ)成年被後見人等の死亡後 における成年後見人等の事務の範囲の見直し(死後事務)、(オ)任意後見制度の積極的な 活用。このうち、(イ)と(エ)については前述したとおり、すでに法改正が行われ、おお むね解決している。②地域の需要に対応した成年後見制度の利用の促進の基本方針では(ア)

住民の利用に応じた利用の促進、(イ)地域において成年後見人等になる人材の確保(ウ)

成年後見実施機関の活動に対する支援の 3 つが示された。(イ)は市民後見人の養成が中 心となっているが、市民後見人だけでなく専門職後見人や法人後見も確保していく必要が ある。③成年後見制度の利用に関する体制の整備の基本方針では(ア)関係機関等におけ る体制の整備、(イ)関係機関等の相互の緊密な連携の確保の2つが示された。(イ)は成 年後見制度全体で司法と行政の緊密な連携を確保することを定めており、注目すべき規定 である。2011年に老人福祉法32条の2の創設により初めて司法と行政の連携が定められ たが、この時点では市民後見人に限定されたものであった。成年後見制度利用促進法によ り公的後見をさらに発展させ、整備しようとしていることがうかがえる。成年後見制度利 用促進法と公的後見の関係については第3章で詳述する。

成年後見制度施行後も法改正を繰り返し、本人の意思の尊重、人権の尊重を重視し、本 人の保護と調和させながら、改正発展してきたと言える。成年後見人等は法律や福祉の知 識だけではなく、意思決定支援を理解し、実践することが求められているのである。

第6節 成年後見制度をめぐる国際的動向

成年後見制度に関連する国際的動向で最も注目される出来事は障害者の権利条約 12 条 の解釈をめぐる議論であろう。障害者の権利に関する条約とはすべての障害者のあらゆる 人権を確保することと障害者の固有の尊厳の尊重と促進を目的とした国際条約である。

2006 年に国連総会で採択され、日本は2014 年に批准した。12 条1項で障害者が全ての 場所において法律の前に人として認められる権利、2 項で障害者が生活のあらゆる側面に おいて他の者との平等を基礎として法的能力を享有すること、3 項で障害者がその法的能 力の行使に当たって必要とする支援を利用する機会を提供するための適当な措置をとるこ とが認められているとされている。3項では法的能力の行使に当たって代行決定ではなく、

意思決定支援によるべきことを明確にしている。12条の解釈について締約国は厳格な基準

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の代行決定を認めるという立場をとってきた。しかし、国連の権利委員会は一般的意見 1 号を採択し、代行決定禁止説を取ったのである。これは第3者による代行決定を全面否定 しており、締約国と真正面から対立するものとなっている。現実には遷延性障害の人や最 重度の知的障害者のように、努力しても意思決定支援が困難な事例が存在する。厳格な基 準の代行決定を認めるとしても成年後見制度の後見類型は包括的な代理権を有することか ら、条約違反とされる可能性は高い。2018 年の最高裁判所統計では成年後見制度の 3 類 型のうち、後見類型が 75%、保佐類型 16%、補助類型 4%という割合になっており、必 要以上に被後見人の能力を制限していることは否定できない。3 類型のうち、後見類型と 保佐類型を廃止し、補助類型に一元化すれば、本人の持っている行為能力に合わせて同意 権を付与することができ、過剰な能力制限は避けられる。成年後見制度を維持したまま、

障害者の権利条約に沿った運用ができる可能性はある。ただ、ここまでなぜ後見類型に偏 ってしまったのか、その理由についての検証は必要である。

第7節 日常生活自立支援事業

判断能力の不十分な人々の権利擁護制度として成年後見制度は重要であるが、申立ての 手続きが煩雑で、家庭裁判所が関与する仕組みとなっている。判断能力の不十分な人を保 護するために成年後見制度を利用すると、逆に権利を制限せざるを得ない場合が出てくる。

そのために厳格な手続きが求められるのである。もう一つ、障害の程度が軽度の人々が成 年後見制度よりも簡便に利用できる権利擁護の制度として日常生活自立支援事業がある。

日常生活自立支援事業の対象者は契約能力はあるが、日常生活上の金銭管理や福祉サービ ス契約に支援が必要な人である。契約能力は「契約締結判定ガイドライン」による確認お よび契約締結審査会による審査により判定される。支援計画の策定や契約締結に関する業 務は専門員が行い、利用者に対する支援は日常生活支援員が行う。基本的に日常生活支援 員に代理権はなく、本人が行う契約を支援する。

1.日常生活自立支援事業の法的根拠

日常生活自立支援事業は法律上の名称ではなく、国庫補助要綱上の事業名である。法律 上の根拠は社会福祉法にあり、福祉サービス利用援助事業として、第二種社会福祉事業に 位置付けられている。福祉サービス利用援助事業とは「精神上の理由により日常生活を営 むことに支障がある人に対して、無料または低額な料金で、福祉サービスの利用に関する 相談や助言を行い、サービスを利用するための手続きや利用に必要な費用の支払いの援助

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等を一体的に行う事業」をいう。福祉サービスが措置から契約に転換したとき、全国どこ に居住していても平等に支援を受けられるようにする必要があった。そのため、全国に組 織がある都道府県社会福祉協議会が実施主体となって福祉サービス利用援助事業を実施す ることになり、1999年に国は地域福祉権利擁護事業として補助事業を開始した。その後、

2007年に補助事業名が変更され、日常生活自立支援事業となった。

2.専門員と生活支援員の役割

日常生活自立支援事業の援助は専門員と生活支援員によって行われる。専門員の役割は 利用者をアセスメントし、支援計画を立て、生活支援員を指導することである。国の通知 によれば専門員は原則として高齢者や障害者等への援助経験のある社会福祉士、精神福祉 士等であって一定の研修を受けたものと定められている。専門員は原則として社会福祉協 議会の常勤職員である。生活支援員の役割は実際の援助を行うことであり、具体的には定 期的に訪問し、日常生活費等の金銭管理を行う。生活支援員は地域福祉に関心があり、権 利擁護を理解している人が一定の研修を受けた上で時間給で雇用されていることが多い。

生活支援員の職務と市民後見人の職務は近似しており、権利擁護を担う人材として共通の 部分がある。市民後見人の養成研修を修了した後、市民後見人として活動するまでの間に 生活支援員として活動している事例もあり、貴重な人材を活かすようにする必要がある。

生活支援員と市民後見人の違いについてみると生活支援員と専門員には指示関係があるが、

市民後見人は支援機関から支援を受けても指示関係ではない。また、生活支援員は基本的 に代理権を持たない。生活支援員が代理権を持つ場合でも、福祉サービスの利用手続きや 本人が指定した金融機関口座の払い戻しに限られる。市民後見人は後見類型を受任したと きに代理権を持つ。保佐類型や補助類型を受任したときは、ケースにより代理権を持つ場 合がある。

第8節 現状における日常生活自立支援事業の問題点

全国社会福祉協議会がまとめた「日常生活自立支援事業の今後の展開にむけて~地域で の暮らしを支える意思決定支援と権利擁護 平成 30 年度日常生活自立支援事業実態調査 報告書」によれば、事業開始以来、相談・問い合わせ件数および契約件数は増加しつづけ ており、平成29年度では年間の相談・問い合わせ件数が2,010,154件、新規契約件数は

11,768件となっている。一方、1年間の契約件数は近年減少傾向にあり、利用者の伸びは

鈍化している。その要因として専門員の体制が不十分であることや待機者が多くなってい

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15

ることが挙げられている。また、事業収支面では74.8%が赤字と回答しており、市区町村 の補助・助成や社会福祉協議会の他の事業収入から補填している状況である。

利用者のニーズは増加しているにもかかわらず、新規契約者数が鈍化している要因は事 業収支が赤字になっていることが大きく影響していると考えられる。事業予算が不足して いるため、専門員を増やすことができず、他の職務と兼務の専門員が多い。そのため専門 員が多忙となり、待機者が増えるという悪循環になっているとみられる。判断力は少し低 下しているが、契約はできるという人に対する支援は高度な専門性を必要とする。客観的 にみて、制度の利用が必要と判断される人であっても、本人の気持ちに揺らぎがある場合 などは、契約しないまま数カ月にわたって支援を続けることもある。さらに専門員の職務 には生活支援員の指導も含まれる。このような専門員の職務を適正に評価していく必要が ある。

ここまで権利擁護制度について概観してきた。わが国においては任意後見制度、日常生 活自立支援事業、成年後見制度というように本人の判断能力に応じて3つの制度が整備さ れている。本論文においてはこれらの権利擁護制度のうち、成年後見制度の中で活動する 市民後見人に焦点を当て、論じていくこととする。

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第2章 成年後見制度における公的後見制度導入の可能性

第1節 はじめに

判断力の不十分な人々を保護する制度として 2000 年より、新しい成年後見制度が始ま った。年々増加していた申立件数はやや鈍化傾向になったものの、2016 年の申立件数は

34,249件となっている(最高裁判所事務総局家庭局、2017)。このように成年後見制度は

判断能力の不十分な人々の権利擁護の仕組みとして重要な役割を果たしてきた。その一方 で多くの問題点が指摘されている。その一つが公的後見制度の不在という問題である。判 断力の不十分な人々を保護する制度であるにも関わらず身寄りや支援者がなく、資力もな い人は制度を利用することが極めて困難である。そのような判断力が不十分な人々が発見 され支援者の援助を得て申立をしても、親族後見人の候補者はなく、また資力もないため、

専門職後見人に報酬を支払うことができない。現状の成年後見制度ではこのような判断力 の不十分な人々の権利が十分保護されていない。このような判断能力の不十分な人々の権 利を擁護するために国または行政が責任を持つ公的後見制度の導入が必要と考えられる。

現在の法律上、公的後見という文言は明示されていないがその運用実態から論じていく。

第2節 公的後見とはなにか

公的後見について確立した概念や定義はない。成年後見制度が始まって以来、成年後見 制度が必要であるにもかかわらず低資力で申立そのものができないか困難事例であるため に後見人が見つからない人々が存在している。成年後見制度の運用の中でそのような人々 に対して国や行政が責任を持つ仕組みが求められてきた。日本においては、まだ国や行政 が直接後見人になる狭義の公的後見制度は存在していない。しかし、市民後見人の登場が 広義の公的後見につながる変化をもたらすことになった。近年の大きな変化として 2011 年の老人福祉法32条の2(後見に係る体制の整備)の創設がある。これによって、市町村 に対して市民後見人養成の努力義務が課されることになった。この法改正で注目すべき点 はこれまで不足していた行政と司法の連携が強化されたところにある。上山(2012)によ ればわが国に狭義の公的後見は存在しないが、このように市町村等の行政組織が市民後見 人候補者の養成や活動支援のような側面的な運用支援を担うスタイルを広義の公的後見と みることができると述べている。市民後見人は老人福祉法の改正により広義の公的後見の 役割の一部も担うことになったと言える。市民後見人は広義の公的後見が実現する糸口と

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なったわけであるが、老人福祉法を根拠とすれば担い手は市民後見人に限定される。広義 の公的後見を育てるにはこれを他の類型の後見人に広げていく必要がある。その後、2016 年に成年後見制度利用促進法が施行され、成年後見制度利用促進基本計画が閣議決定され た。成年後見制度利用促進基本計画では地域連携ネットワークという新たな概念が提示さ れた。本章ではこの新たな概念を活用して今後、広義の公的後見をどのように広げ発展さ せていくのか、その課題について提言を行う。

第3節 成年後見制度が成立した背景

戦後、高度経済成長を背景に社会福祉政策は発展・拡充してきたが利用者の権利はあま り尊重されることはなく、あくまでも措置という考え方であった。福祉予算の拡大は続き 1973年には高齢者医療費無料化が実現し、政府は「福祉元年」と宣言した。この頃から福 祉に対する考え方が徐々に変化していく。変化の要因は3つ考えられる。1つ目は同年の 第1次オイルショックを機に高度経済成長が終わったことである。これにより福祉予算は 抑制の方向へと向かうことになった。2 つ目は家族形態の変化である。3 世代同居が減少 し、家族による介護力は低下した。日本においては急速に少子高齢化が進行し、一人暮ら しの高齢者や高齢の夫婦のみの世帯が増加し、認知症高齢者は2025年に700万人を超え ると予測されている(二宮、2015)。3 つ目は北欧からノーマライゼーションの理念が入 ってきたことである。ノーマライゼーションとは知的障害や精神障害、認知症があっても 健常者と同じように地域でノーマルな生活を送るという理念をいう(ニィリエ、1969)。 地域で判断力が不十分な人々が生活をするにはそれらの人々の権利を擁護する仕組みが必 要となる。これらのことから福祉制度全体を見直す機運が高まり、社会福祉基礎構造改革 が行われた。この社会福祉基礎構造改革により、福祉サービスは「措置から契約へ」パラ ダイム変換されたのである。福祉サービスを利用する人は自らサービスを選択し、契約に より利用することとなった。

立法担当官は法改正に至った背景として次の4つを挙げている(小林・原、2002:3-4)。

①我が国においては急速な高齢化により認知症高齢者および一人暮らしまたは夫婦のみの 高齢者が増加する中で高齢社会への対応が急務となっていること。特に介護保険制度の導 入に伴い、要介護状態に至った者が介護保険を利用するには介護保険の申請や介護サービ スの契約をすることが必要になる。だが、判断力の不十分な者は出来ない場合があるので、

これらの行為をするために法的な支援の仕組みが必要となること。②ノーマライゼーショ

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ンの理念が各種の施策の中で推進されており、障害者福祉の充実は政府の重要な施策とし て位置づけられていること。③近年、諸外国においても、成年後見制度に関する法改正が 相次いでいること。柔軟かつ弾力的な利用しやすい成年後見制度を構築することが国際的 な流れであること。④英米法系の諸国においては、近年、継続的代理権制度を法制化する 特別法が相次いでいたこと。自己決定の尊重の理念に即して、本人が契約により自らの後 見のあり方を決める方法を法制化するのは国際的な流れであること(任意後見制度の創設)。 立法担当官によれば今回の法改正は本人の意思尊重、自己決定の尊重、ノーマライゼーシ ョン等の現代的な理念にも配慮し、これらの現代的な理念と本人保護との調和を図りなが ら、出来る限り利用しやすい制度を実現することをめざして行われたと述べている。

第4節 成年後見制度の概要

日本においては明治以来、判断力が不十分な人々を保護する制度として、民法の中で禁 治産制度が定められていた。しかし、権利を制限することにより財産を守るという側面が 強く、身上監護についてはあまり考慮されていなかった。また、禁治産・準禁治産の2つ の制度しかないために禁治産者や準禁治産者は権利制限を受けることが多く、軽度の認知 症や軽度の知的障害、精神障害者にとって使いにくい点が指摘されていた。しかも、禁治 産・準禁治産は戸籍に記載されるために戸籍が汚れるとして利用をためらう人が多かった。

このような時代にそぐわない点を見直し、平成11年(1999年)12月1日に「民法の一部 を改正する法律」「任意後見契約に関する法律」、「民法の一部を改正する法律の施行に伴う 関係法律の整備に関する法律」及び「後見登記に関する法律」が成立した。

成年後見制度は任意後見と法定後見に分けられる。任意後見は将来判断力が不十分にな ったときに備えて成年後見人等を定めておくものであり、法定後見は現在判断力が不十分 な場合に利用できる。法定後見の対象者は精神上の障害のあるものでその程度により後見、

保佐、補助の3類型の制度となった。後見は旧禁治産に相当し、保佐は旧準禁治産に相当 する。法改正により軽度の障害者が利用しやすいように補助が新設された

1.民法上の申立権者

制度改正時に職権開始の制度を設けるか検討されたが、今回は採用されなかった。これ は私的自治の尊重の観点から、本人の行為能力等に一定の制限を加えることとなる手続き を中立的な判断機関である裁判所が職権で開始するのは問題があること及び司法機関とし ての性質上、判断力の不十分な者に関する積極的な情報の収集探知といったことは裁判所

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の事務になじまないという理由による。その代り市町村長が申立権を有することとされ、

実質的には職権開始と同等の手当がなされたと考えられるとしている(小林・原、2002:

58)。

2.複数後見人と法人後見

認知症高齢者、知的障害者、精神障害者の多様なニーズに対応できるように複数後見人 と法人後見が認められることが明文化された。複数後見人については財産管理と身上監護 に分掌するケースや遠隔地に分散している財産を分掌するケース、あるいは知的障害者の 両親が共に成年後見人等となるケースなどが想定される。法人後見については個人で対応 できない困難ケースや若年の障害者のケースなどが想定される。

3.身上監護をめぐる議論

要綱試案の段階では旧民法858条を維持し、新たに身上監護に関する一般的な規定を創 設することとなっていた。しかし、旧民法858条の療養看護の内容に事実行為が含まれる と解釈できる余地があることからこのまま旧民法858条を維持すると成年後見人等に事実 上の監護を義務付けたものとして解釈され、過重な負担を強いることになるおそれがある として反対する意見が多かった。そこで旧858条は削除され、新しく民法858条として身 上配慮義務と本人意思尊重義務に関する一般的な規定が創設されることとなった。立法担 当官によれば身上配慮義務の規定は後見事務全般について成年被後見人の心身の状態及び 生活の状況への配慮を成年後見人の責務とするものであるとしている。また、成年後見人 が行う後見事務は法律行為を指すものであるので「療養看護」に関する事務の内容が法律 行為に純化され、事実行為を含まないとしている。立法担当官は身上監護の具体的内容と して①医療に関する事項②住居の確保に関する事項③施設の入退所、処遇の監視・異議申 立て等に関する事項④介護・生活維持に関する事項⑤教育・リハビリに関する事項⑥異議 申立て等の公法上の行為⑦アドヴォカシーの7つを提示している。適用対象にならない事 務としては①身体の強制を伴う事項②一身専属的な事項③事実上の介護の3つが考えられ る(小林・原、2002:256‐260)。立法担当官が当初から身上監護の内容を具体的に幅広 く提示したことにより、成年後見人の職務として広く認識されるようになったと言える。

しかし、この解釈によれば医療に関する事項つまり医療機関で医療契約を結ぶことは成年 後見人の職務に含まれるが、一身専属的な事項とされる医療同意権が認められないことに なり、実務上の混乱をきたすことになった。

(28)

20 第5節 後見人類型の整理

法律上の分類ではないが本論文で使用する後見人の類型の概念について整理しておく。

後見人の類型は親族後見人、専門職後見人、市民後見人、個人後見人、法人後見に分けら れる。親族後見人とは原則として民法上の親族をいう。筆者は内縁関係や事実上の養子は この範疇にいれてよいと考える。

専門職後見人とは弁護士、司法書士、社会福祉士のように国家資格を有し、専門的な知 識を持って職業として後見人を受任している者をいう。当初この3士業が多くの後見人を 受任していたが、最近では税理士、行政書士、精神保健福祉士など様々な専門職が成年後 見人等として活動している。後見人類型は後見人の活動形態と考えることもできる。

市民後見人については確定した定義はまだないが有力な考え方は存在する。岩間(2012)

によれば家庭裁判所から成年後見人等として選任された一般市民のことであり、専門組織 による養成と活動支援を受けながら、市民としての特性を活かした後見活動を地域におけ る第三者後見人の立場で展開する権利擁護の担い手のことである(岩間、2012:12)と定 義している。裁判所の統計上の分類によれば市民後見人とは、弁護士、司法書士、社会福 祉士、税理士、行政書士及び精神保健福祉士以外の自然人のうち、本人の親族関係、及び 交友関係がなく、社会貢献のため、地方自治体等が行う後見人養成講座などにより成年後 見制度に関する一定の知識や技術・態度を身に着けた上、他人の成年後見人等になること を希望している者を選任した場合をいうとしている(最高裁判所事務総局家庭局、2016:

10)。日本成年後見法学会によれば弁護士や司法書士などの資格はもたないものの社会貢 献への意欲や倫理観が高い一般市民の中から、成年後見に関する一定の知識や技術・態度 を身につけた良質の第三者後見人等の候補者としている(日本成年後見法学会、2007:11)。

これらの定義に共通しているのは専門職を除外していること、市民後見人としての資質を 備えていることである。そしてその資質を担保するために後見推進機関のような組織から 支援や監督を受けていることが必要と考えられる。

個人後見人とは自然人が後見人を受任する場合をいう。法人後見とは民法その他の法律 により成立する法人が後見人を受任する場合をいう(民法33条1項)。法人は法令の規定 に従い、定款その他の基本約款で定められた目的の範囲においてのみ権利・義務を有する

(民法34条)。したがって、民法上は、成年後見人等となることのできる法人の資格が制 限されていないとしても、他の法令で成年後見人等になることが禁止されておらず、なお かつ各法人の定款等の基本約款において成年後見人等になることが法人の業務として規定

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21

されていなければ、現実には法人が成年後見人等になることはできない(池田・富永・小 嶋ほか、2015)。実務上は社会福祉協議会や当事者団体、専門職団体が法人後見となって いる事例が多い。

親族後見人、専門職後見人、市民後見人、法人後見を並列している文献もあるが、実態 を見るとこれらの概念は並列する概念ではない(図2-1)。後見人はまず、個人後見人と 法人後見に分けられる。その下位に親族後見人、専門職後見人、個人受任の市民後見人が 存在する。市民後見人の活動形態は2 つある。個人受任の市民後見人と法人後見の中で活 動する市民に分けられる。厳密に言えば法人後見の中で活動する市民は個人として成年後 見人等を受任していないので成年後見人等ではない。正確には市民後見支援員というべき であるが、現状においてはどちらも市民後見人と呼んでいる場合が多い。

6節 先行研究のレビュー

公的後見についての先行研究は極めて少ない。CiNii で「公的後見」をキーワードとし て検索したところ8件がヒットした。次に「公的成年後見」をキーワードとして検索する と2件がヒットした4)。この10件の中のうち過去10年以内のものを選択し、さらに内容 がテーマと一致しないものを除外すると3件であった。公的後見の定義が確立していない ことから、「公的後見」や「公的成年後見」をキーワードに含まない先行研究もあると考え られる。そのため、「公的後見」または「公的成年後見」でヒットした 3 つの先行研究の 参考文献を調べたところ、「公的成年後見」に加えて「権利擁護・公的責任」や「公的支援」

を表題に含む先行研究が9件あった。確認のため、CiNiiで「権利擁護・公的責任」をキ

※いずれの後見人類型でも複数後見は可能である。

親族後見人

専門職後見人

市民後見人(個人受任の市民後見人)

専門職(職員のみで活動)

専門職(職員)と専門職のもとで 市民後見人(市民後見支援員)が活動 個人後見人

法人後見 成年後見人

図2-1 成年後見人等の類型(活動形態)

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