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博士(文学)学位請求論文審査報告要旨 梯 信暁『日本浄土教の形成』

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Academic year: 2022

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博士(文学)学位請求論文審査報告要旨 梯 信暁『日本浄土教の形成』

審査要旨

阿弥陀仏の信仰と、その浄土である極楽浄土への往生を教義として説く浄土教は、イン ドで成立して以来、様々な展開を遂げてきた。特に日本では鎌倉仏教において、浄土宗や 浄土真宗のように浄土の語を持つ宗派が成立したため、それぞれの宗祖である法然や親鸞 を基準として浄土教を論ずることも多い。しかしながら、鎌倉仏教に至るまでにも浄土教 の教義の研究は連綿として継承されているのであり、そこに本論文の着眼点がある。梯氏 が「浄土教教理の形成過程」、或いは、「浄土教教理形成の過程」と言うのもそういった 意味であり、本論文では法然や親鸞は扱われない。但し、「過程」の語にその二人への到 達が意図されるならば、やや問題を残す言い方であるかもしれない。それは、本論文で扱 われる諸学匠にはそれぞれの立場が存し、そのことは十分に認識されているからである。

本論文の特色として、時代性に注目することで、浄土教の教理研究に新たな視点を提供す ることが挙げられ、併せて個々の特徴を描出することに力を注いでいることが言える。

目次を示せば、次の通りである。

序論 第一章 奈良時代の浄土教

第二章 叡山浄土教の興起 第三章 源信『往生要集』の諸問題 第四章 源隆国『安養集』の諸問題 第五章 院政期の浄土教

結語 附録 禅瑜撰『阿弥陀新十疑』訳註 第一章では、奈良時代の浄土教研究者として、智憬・善珠・智光について略説した上で、

特に智光の『無量寿経論釈』(逸文)について分析し、極楽を変易土としていることに注 目する。第二章から平安仏教に入り、貴族社会に着眼した上で、比叡山の仏教を論じてい る。本章では、良源の『九品往生義』、千観の『十願発心記』、禅瑜の『阿弥陀新十疑』

を扱っている。それらの中、良源の『九品往生義』については、思想検討に入る前に、そ れが真撰であることを確認し、第四章で扱う『安養集』に至るまで流布しなかった理由を 考察し、更に同書と天台宗の論義における義科との関わりについて論及している。第三章 では、日本浄土教史上、不滅の業績である源信の『往生要集』に関わる諸問題を扱い、百 尺竿頭一歩を進めるべく、自らの視点による解明を試みる。それは、源信の言う念仏が称 名念仏ではなく観想を重んじたものであるという一般的理解に基づきつつも、その意義を、

『往生要集』の冒頭二章に敷衍するところや、時代の風潮との関わりから見ようとすると ころに表れている。第四章で論究する源隆国の『安養集』は、既に1993年に、本文の 翻刻と研究を著作として出版しているが、本論文では論述の流れとして、前後の章を理解 するためにも必要な章になっている。特に、『往生要集』との関わりは、濃厚な影響を受 けつつも、内容の異なりから、それを補強するための編纂と見ている。そして、その理由 を当時の論義の水準の高さに求める。その結果、『往生要集』に引用されなかった様々な 典籍が蒐集されたところにも、その価値を見出している。第五章では院政期の浄土教を扱 っている。『往生要集』と『安養集』以後の展開という捉え方で概括した上で、永観の『往 生十因』、珍海の『決定往生集』の思想を扱っている。結語では全体を総括する。奈良時

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代と平安時代の違いを述べ、十世紀半ば以降に、貴族社会において具体的になる阿弥陀信 仰に着目して「臨終来迎信仰」であると押さえること、そして、その萌芽から庶民層にま で隆盛となる経過が本論文での骨子であることを述べている。念仏について、源信の『往 生要集』は称名念仏に対する対抗、その前後の立場は称名念仏であるとする。最後に附録 として、第二章で論じた禅瑜の『阿弥陀新十義』の訳註を収める。

以上が全体の構成である。

日本浄土教の研究は、歴史、教理、文学、美術というような様々な分野からの研究者を 輩出し、特に歴史学においては本論文第二章に言及がある井上光貞氏や黒田俊雄氏による 画期をなす研究が出された。しかし、歴史研究は先行研究を進展させるだけでなく、批判 研究により新しい視座を提唱することに重点を置くという様相を呈している。従って、現 在でも諸見解が示されている。一方、教理研究は文献の内容理解を優先するため、歴史研 究と没交渉になりやすいが、教理・教学の研究者は歴史研究の成果にも配意する必要があ る。それは特に浄土教の研究において言えることであり、本論文でも歴史研究の動向に言 及がなされている。とはいえ、本論文が教理研究を基幹とするためか、歴史研究に対する 自身の立場があまり示されていない。自らの意見の表出が要求されるであろう。

本論文で扱われる学匠の研究には、天台宗を中心に三論宗等の教義の研究をすることが 不可欠である。それは直接には阿弥陀仏の仏身や仏土の究明になるとしても、仏身・仏土 論は諸宗において広汎な議論として展開している。更には、修行の階梯である、行位論の 分析も要求される。本論文はそういった点において、教理研究者ならではの検討を行った と評価できる。

今後の課題としては、第五章で院政期の浄土教の特徴を列記する中に、「②観心念仏を 説く文献の出現」「③南都・真言諸学派の浄土教典籍」とあることの検討は、教理研究者 の責務であろう。本論文第五章は、上記の③を扱ったものとしているが、密教関係は論じ られていない。また、②の観心念仏は、本覚思想とも関わり、極めて重要な検討課題であ る。観心法門や本覚思想は天台教学の一側面でもあり、本論文で解明を企図する『往生要 集』の大文第四「正修念仏」に見られる中国天台の教義は本覚思想と直結する。しかしな がら、称名念仏を大きな軸としてまとまりを見せる本論文とは異なった視点も必要である。

本論文は諸領域の先行論文を踏まえ、教理研究を基調としつつも、時代性を読み込み、

全体を大きな流れとして捉えたものであり、博士(文学)の学位を授けるにふさわしい研 究成果であると評価される。

2006年10月10日

主任審査員 早稲田大学教授 博士(文学)早稲田大学 大久保 良峻 早稲田大学教授 文学博士(早稲田大学) 小林 正美 早稲田大学教授 Dr.Phil.(ハンブルク大) 岩田 孝 早稲田大学教授 吉原 浩人

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