(書女麟65第鱗5趨言)
疑核周辺部の呼吸性ニューロンについて
東京女子医科大学第一生理学教授(主任 渡辺宏助教授)
小 林 義 晴
コ バヤシ ヨシ ハル
(受付 昭和50年12月9日)
Respiratory Neurons漁the V董ciコ五ty of tbe Nucleus Ambiguus
Yosbi山aru KOBAYASHI
Departlnent of Physiology(Director:Pro£K. WATANABE),
Tokyo Women,s Medical College
Respiratory neurons in the region of nucleus ambiguus but lying rostrally to the obex were inves−
tigated in vagotomized and gallamine−paralyzed rabbits. The l㏄ation of the nucleus was determined by recording the antidromic responses to recurrent laryngeal nerve stimulation.
Th e rcgion was hcterogeneous containing both inspira亡ory and exp量ratory neurons who showed various discharge patterns. Seventy five per cent of the respiratory neurons were inspiratory and 25 per ccnt were expiratory, among whom only 3.3 per cent neurons responded antidromically to recurrent laryngeal ncrve stimulation. Bilateral phrenic nerve activity was inhibited by a brief tetan五。 electr量cal stimulation of the nucleus ambiguus but not by that of the other part of medulla oblongata. Such in・
hibition started with a latency ranging食om 4 to g msec and lasted長)r up to 32 msec. A simiIar inhibition was obscrved in the m勾ority of inspiratory neurons lying in the vicinity of contralateral nucleus ambiguus,
where the expiratory neurons reflexly responded at tke same time. There R)und characteristic.expiratory neurons who showed discharges only三n early expiratαy pbase and who responded reflexly to the nucleus stimulation in any phase of the respiratory cycle. It was suggested that these particular expiratory neurons would participate in the inhibition of inspiratory neurons.
L 緒 論
呼吸運動または横隔神経の発射と何らかの位相 関係をもつた活動を示すニューロンを総称して呼 吸性ニーロンと定義されている.したがって橋ま たは延髄で呼吸性ニューロンが見出されたとして も,それは呼吸リズム発生に直接関係しているニ ューロンとはいえず,それぞれ異なった機能をも つたニューロンを含むものと考えなけれぽならな い.Woldring&Dirkenがウサギの脳幹網様体に おける呼吸性ニューロンの分布について報告して
以来,呼吸性ニューロンの局在範囲および活動様 式について多くの報告がみられる.その結果は必 ずしも一致していない.しかし現在までの報告で は,呼吸性ニューロンは橋延髄網様体に散在分布 し,さらに中脳網様体にも少数ではあるが存在す るとされている.
延髄において検出されている呼吸性ニューロン は,ネコで吻側は顔面神経核より尾側は錐体交叉 にわたっており,正中線より2〜4.4㎜外側,背
.側面より2〜4㎜の深さに分布するものが多い.
呼吸性ニューロンの存在位置と延髄の組織学的構 造との関係については不明な点が多く.幾多の問 題が残されているが,従来の報告をとりまとめて みると次の2集団に分けることができる.その1 つは,Baumgartenらの報告による孤束核腹側部 の網様体で,他はArchard&Bucherの報告に 始まる疑核およびその周辺部の網様体である.
Bianchiはこの2集団に相当するものをそれぞれ
dorsal respiratory nucleusとventral repiratory nucleusと呼んでいる.後者についてはMerrillに
よつて調べられ,後疑核(nucleus retroambigualis)
を含み,その吻側では吸息性ニューロンが多く,
尾側では呼息性ニューロンが多く存在するという Harberらとほぼ同じ結果をえている.これらの ニューロンについてはMerrillとBianchiは 頚髄外腹側部または迷走神経刺激による逆行性 応答を調べ,これらに下行路をもつニューロン (bulbo−spinal, vagal motoneuron)ともたないも
の(propriobulbar neuron)とに分類している.後 者の呼吸性ニューロンに関連して興味あるのは,
Bakerらによる呼吸麻痺で死亡した小児麻痺患者 についての病理組織に関する報告である.全死亡 例の病理組織学的病巣の共通した位置は疑核およ び疑核近傍の網様体を含むことである.
このような点から本論文では疑核周辺部の呼吸 性ニューロンの機能を明らかにするために,1)
下喉頭神経刺激による逆行性応答から疑核の分布 を機能的に明らかにするとともに,2)その部位 および周辺部で検出される呼吸性ニューロンの活 動様式について調べ,さらに3)疑核および疑核 周辺部を電気刺激した際の他部呼吸性ニューロン の応答について調べた結果を報告する.
n・実験方法
ウサギ(L5〜2.8㎏)をウレタン麻酔(1〜1.29/
㎏)した後,背位に固定,気管カニューレを挿入し,左 側の下喉頭神経および横隔神経露出切断して,それぞれ の中枢端および末梢端を刺激実験と活動電位の導出に用 いた.さらに両側の頚部迷走神経の切断を施した.
以上の処置を行なった後,脳定位固定装置に宝算に固 定し,後頭骨の一部を除き,延髄背側面を露出した.一
部の実験を除き小脳の除去は行なわめかった.実験に際 して延髄の搏動および呼吸性動揺を減少させるために,
2%寒天リンガー液で延髄周辺部の脳脊液を置換すると ともに,両側の人工気胸を施し,さらにガラミン(2㎎/
㎏)投与による不動化を施して,人工呼吸下で実験を行 なった.人工呼吸の調節は横隔神経発射の群化を観察
しながら努めつた.一部の実験では呼気ガスを赤外線分 析計(ペックマソBLI)を用いて測定しながら終末呼 気が4%になるように人工呼吸器の調節を行なった.延 髄付近の筋に針状型のサーミスターを刺入しておいて,
筋温度が36℃〜380Cになるように赤外線ランプで背側よ り温めた.横隔神経の活動電位の記録は銀塩化銀電極を 用いて双極導出により,下喉頭神経刺激による延髄ニュ ーロンの逆行性応答の記録および呼吸性ニューロンの自 発性発射の記録に際しては,尖端1〜3μのタングステ
ン電極又は3回目CIまたは2Mクエン酸カリをつめた ガラス毛細管電極(抵抗30〜6QMΩ)を使用した.延髄 の刺激実験では尖端3〜20μのタングステン電極を使用
し,単極的に刺激を行なった.
m・実験結果
1.下喉頭神経刺激による逆行性応答の延髄に おける分布
赤沼によると下喉頭神経刺激により延髄におい て最も多く逆行性応答のえられる位置として,閂 より尾側2皿m背側中心溝より局側の外側2.5mmで 背側面より2.5〜3㎜の深さがあげられている.
しかしLawnおよびSzentゑgothaiの逆行性また は順行性変性による組織学的検索によると,疑核 の分布は閂の尾側より吻側にかけて存在すること が報告されている.このような点から本実験では 閂より吻側2.5mmと閂の間で逆行性応答のえられ る位置を詳細に検索した.
その結果図1に示すように,逆行性応答は閂よ り吻側でもえられ,その上限は閂より1.8mmで,
延髄背側面よりの深さは2.6〜3.8mmである.図 の左側に示した点線は赤沼が閂より尾側でえた平 均の深さである。したがって尾側で逆行性応答の えられる平均の深さに比して吻側のそれはより深 いことになる.図2は逆行性応答のえられる位置 を背側面に投影して示したものであるが,逆行性 応答は刺激同側の正中線よりL6〜3.4㎜でえら
4.O
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Disセonce(mm)
図1 逆行性応答のえられる延髄背側面よりの深 さ, 0はpromontorium gliosum の正中線 の吻側前縁の位置を示す.
20
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図2 逆行性応答のえられる電極位置の延髄背側 面への投影
れ,大半は2〜3㎜の間に集まっている。1個体 でみると逆行性応答のえられる幅は0.5m皿以内 で,吻息より尾側にかけてほぼ正中線に平行に分 布していた.
2.逆行性応答の波形
下喉頭神経刺激により上述の部位で潜時4〜8 msecで逆行性応答がえられるが,その細胞内導
出による記録を第3図に示した.スパイク電位の 上行脚に変曲点が明らかに認められるものと,認 められないものとがあるが,aに示したように適 当な間隔の2発刺激を与えると,2回目刺激によ るスパイクにISスパイクとSDスパイクの2要
図3 逆行性応答(10月目の重ね撮り)
素を認めることが可能になる.bは電極刺入後時 間が経過し静止電位が減少した時に記録したもの で,1発刺激ですでにISスパイクが分離してい
る.このような2発刺激によるIS成分は細胞外 電極でもみられ,逆行性応答の確認が可能な例も
あった.
3.逆行性応答の潜時
下喉頭神経刺激による誘発電位の潜時は3〜9 msecにおよび大半は3〜6msecに分布してい
る.しかし20〜26msecのものがえられる. この ような潜時の長いものは,下喉頭神経が運動神経 線維のみを含むとすると,赤沼が指摘したように 軸索側枝を介する順行性応答によるものと考えら れる.潜時の長いものは20〜30cpsの刺激に追従 できなくなること,また1発刺激で2〜3発の繰 返しの応答を示すことがあるが,これらは上述の
ことを支持する事実であるといえる.
このような点から前述のごとく2発刺激により ISスパイクが認められ,逆行性応答であること が確認された例のみの潜時をみると第4に示すよ
うに3〜6msecに分布した.
4.疑核およびその周辺部の呼吸性ニューロン ーヒ述のように逆行性応答のえられる場所より疑
核の位置を機能的に決めることができる.このよ うにして決められた疑核の位置およびその背側 および腹側部に電極を進めると,すでにBatsel,
20
15
誓
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0Q 4 8
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図4 逆行性応答の潜時
12
図5 疑核およびその周辺部の呼吸性ニューロン
Archard&Bucherにより報告されているように,
呼吸性ニューロンがしばしぽ記録される.それら の呼吸性ニューロンの性質をその発射パターンか
らみると図5に示すように,吸息性および呼息性 ニューロンの両者がみられるが,両者のうちいず れかの局在は認められず混在している.吸息性 ニューロンでもaに示すように横隔神経の発射に 120〜10mseC先行して発射を開始し,発射の終 了は横隔神経とほぼ同じもの,呼息性ニューロン でもbに示すように横隔神経の発射の終了とほぼ 一致して発射を開始し,呼息相全相で持続しさら に吸息相の初期に及ぶものが多くみられた.さら に吸息性ニューロンでも。に示した例のように呼 臨書初期においても発射が持続する例もしばしば みられた.吸息詠出は呼癖毛に限定して発射する
(d) (e)に示すような例もみられるが,この場 合は一般に発射頻度が高い(80〜140/sec).これ に対して他相に発射が残るものは発射頻度が小 で(20〜56/sec)あった.このような他山にまた がる発射を示すニューロンは疑核に位置する内喉 頭筋のニューロンに相当する可能性がGreenら の報告からもっとも考えられるが,このような発 射を示す吸息性呼息性ニューロンあわせて242ユ ニット中逆行性応答を示したのはわずか8例で,
しかもすべて吸息性ニューロンのみであった.吸 息性ニューロンと呼心性ニューロンのえられる割 合をみると,吸息性ニューロンは364ユニット中 275ユニット(75%)であり,呼息性ニューロン は89コ口ニット(25%)であった.吸息性ニューロ ンの中宮相にかかる(a)のごとき例は182ユニ ット(66%)で,eのように吸息相に限定される 例は74ユニット(27%)で,さらに(c)のよう な連続性のものは19ユニット(7%)であった.
呼息性ニューロンの他相にかかるものは57ユニッ ト(64%)で,呼息相に限定されるもの28ユニッ ト(32%),連続性のもの4ユニット(5%)であ
った.
5.疑核周辺部刺激による吸息性ニューロンの 抑制
上述の逆行性応答により決められた疑核および その周辺部の網様体を電気刺激すると,図6にみ
られるような横隔神経の吸息性発射の一過性抑制 がおきる.図6は刺激電極を延髄背側面より,腹 一158一
DePfh mm}
。,剛剛騨嗣關
の
胴闘繭
。.騨願闇篇
薄額■鳳画
図6 横隔神経の一過性抑制(5掃引の重ね撮り)
左側の数字は刺激電極の延髄背側面よりの 距離を示す
奮25
2
=2。
§,5
… 書1。
55
餐
6020
↓oDuro↑ion
●LG†ency
2.5 50
Dep量h {mrn)
三
図7 横隔神経の抑制の潜時,持続時間と刺激電極 の延髄背側面よりの距離との関係.矢印は逆 行性応答のえられる位置を示す
側疑核方向に進めた時の横隔神経の吸息性発射を 5回重ね撮りしたもので,左側の数字は背側面 よりの距離を示している.刺激として,持続時間 0.03msec,電圧2.4Vの矩形波を4msec間隔で 4パルスを用いた.この図にみられるように刺激 電極が一一定範囲の深さに達すると,横隔神経の 吸息性発射は1発目刺激より4〜9msecの潜時 を経た後,完全抑制がみられようになる.完全抑 制の持続時間は最大32msecで,抑制直後は一過 性の軽度の発射増加がみられる.図7は図6と異 なる例について,完全抑制の潜時および持続時間 と刺激電極の延髄背側面よりの深さとの関係を示 したものである.前図と同様な刺激条件である が,刺激電圧として4.6Vを用いた.横軸に示し てある矢印は下喉頭神経刺激により逆行性応答の
えられた深さ,すなわち疑核の深さを示してい る.この図からわかるように,横隔神経の吸息性 発射の一過性抑制は疑核およびそれより腹側部を 刺激した時にみられ,疑核周辺部を刺激した時 に,最も短い潜時と長い持続時間の抑制がえられ た.心中の横軸に平行に示した破線は4発刺激の 持続時間を示したもので,疑核付近の刺激では刺 激終了前に抑制がすでにおこっているが,より腹 側に電極が刺入されると,刺激終了後一定の潜時 をおいて抑制がおきることを示している.このよ
うな疑核周辺部網様体刺激による一過性抑制は,
記録された横隔神経からみて,延髄刺激が腹側で も反側でもほぼ同様におこる,
図8は閂のレベルで,正中線より側方に刺激電
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岩
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碧
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E δ。
IpsiloterqI Con雪rqloferoI
oDuro育ion
● Lotency
xDepth 峯
432101234
Dis曾once(mm}
撫
図8 横隔神経の抑制の潜時,持続時間,最大の抑 制持続時間のえられる刺激電極の閂レベル において左右に移動した時の位置との関係
極を順次に移動し,背側面より腹側面方向に刺入 した時の横隔神経の吸息性発射の完全抑制の最大 持続時問のえられる深さと,その位置での潜時と 持続時間とを示したものである.この図にみられ
るように外側に電極を移動した時に抑制のえられ る範囲は0.5〜0.8㎜で極めて局限されているこ とが注目される.このような点からみると深さの みならず,左右方向からみても刺激電極が疑核又 はその周辺部にあるときのみに完全抑制がえられ ることになる.反側の位置では同心で最も長い抑 制持続時間のえられる位置と対照の位置しか測定
していないが,ほぼ同様な抑制の持続時間と潜時 がえられた.
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Depセh(mm}
図9 横隔神経の抑制の潜時,持続時間と刺激電極 の延髄背側面よりの距離との関係,閂レベル と尾側位置との比較で記号は図8と同じ
図9は刺激電極を閂レベルで同側延髄の左右に 移動して最大の抑制持続時間のえられる位置を決 め,その位置より尾側に正中線と平行に電極を移 動した時の抑制の潜時と持続時間とを背側面より
の深さに対してプロットしたものである.黒くぬ りつぶしたシンボルマークはそれぞれに対応する 潜時を示している.このように閂レベルより尾側 に刺激電極が移動するにつれて,最大の抑制持続 時間または最小の潜時のえられる深さは浅い方向
に移動している.
以上の結果から,延髄刺激により一過性の完全 抑制のえられる位置の分布は,下喉頭神経刺激に
よる逆行性応答がえられる位置,すなわち疑核の
分布とほぼ一致しているもめと推定される.
6.延髄呼吸性:=ユーロンと疑核周辺部網様体 刺激
上述のように延髄疑核またはその周辺部の刺激 により,横隔神経の一過性の抑制が両側性におこ ることが明らかとなったが,そのような抑制が,
横隔神経のみに特異的に作用する抑制であるか,
延髄呼吸性ニューロンにも作用する延髄性抑制で あるかが問題となる.この点を明らかにするため に,閂レベルで疑核またはその周辺部網様体を刺 激し横隔神経の完全抑制のおきることを確めた 後,反側の疑核付近に記録電極を刺入して呼吸性 ニューロンを記録し,刺激のそれに対する影響を
みた.
図10左側は吸息性ニューPンを示し,右側は呼 生性ニューロンを示している。上段a,cは吸息 時,下段b,dは呼息時の記録である.それぞれの 下に横隔神経の発射を示している.吸息性ニュー ロンはaに示すように吸息性発射が横隔神経と同 様に刺激後一過性に抑制をうける.しかしbに示 すように呼息時においては応答はみられない.呼 優性ニューPンは吸息時には。に示すように横隔 神経の発射抑制時期に一致して,発射応答を示す ものがみられる.dに示すように呼息音刺激では 著明な変化はみられない.以上の結果は吸息性ニ ューロンと呼訳無ニューロンとが相反的関係にあ
図10反側疑核周辺部の呼吸性ニェーロン,左側は吸息性ニューロン,右側は呼息性ニュー ロン,a, cは吸息相, b, dは呼息相,それぞれの記録の上側は呼吸性ニューロン,下 側は横隔神経の発射を示す.
図11反側疑核周辺部の呼詠口ニュー・ン,矢印は疑核の刺激開始時点を示す
ることを示しているが,さらに疑核刺激による横 隔神経の抑制は横隔神経のみならず延髄吸息性ニ ューロンにも抑制的に作用していることを示して いる.しかしながら延髄吸息性ニューロンの中に は上述のような抑制が明瞭にみられないもの(12
%)もあり,延髄吸息性ニューロン全般に抑制が 働いていないことも明らかとなった.さらに呼息 性ニューロンの中には横隔神経抑制時の反射応答 がみられないものもあった。
以上の結果から延髄吸息性ニューロンには疑核 またはその周辺部網様体刺激により抑制をうける ニューロン群と,うけ難いニューロン群との2群 にわけられる.
呼息性ニューロンのうち,呼息期の初期のみに 発射を示すもので,疑核刺激により吸息時呼息時 の区別なく刺激により発射応答を示し,それに対 応して横隔神経発射の抑制がみられる例が見いだ された.その細胞内記録の例を図11に示した.上 側は呼乾性ニューロン下側に横隔神経の発射を記 録している.上段のaおよびdは刺激を与えない 時の記録で,左側bおよび。は0.03msecの持続 時間,間隔4msecの4発刺激を与えた時の記 録で,右側eとfは90発刺激を与えた時の記録で ある.刺激開始点は矢印で示してある。この例か らわかるように,疑核刺激により吸息二二二時を とわず刺激によりEPSPをともなった発射を示 す。吸息時に刺激が与えられたときには呼息性ニ
ューロンは発射時に横隔神経の発射が抑制されて いる.このような結果からこの呼幽幽ニューロン
は吸息性ニューロンに対して抑制的に働いている 介在ニューロンと考えられる.疑核刺激による吸 息性ニューロンの抑制は,このような介在ニュー
ロンの刺激による結果と考えられる.
「v・考 察
ネコの疑核の分布について,Szentagothaiは内 喉頭筋支配の運動神経細胞のみについて組織学的 検索を行なった.それによると運動神経細胞は閂 の吻側4㎜よりO.5㎜の範囲に分布し,輪状筋,
背側輪状披裂筋,甲状披裂筋,外側輪状披裂筋,
披裂筋を支配する細胞の順序で吻側より尾側にか けて配列している.Lawnのウサギにおける組織 学的検索では,両側の疑核はそれぞれ約1,500の 細胞からなり,正中線にほぼ平行に4〜5㎜の長
さで分布している.吻側では細胞が集中して存在
(compact formation)しているのに対して,尾 側では核と呼ばれながらも比較的に分散して存在
(d五ffuse formation)している. compact formation は食道,咽頭,輪状甲状筋支配の運動神経細胞を 含み,di飾se format五〇nは輪状甲状筋を除いた内 喉頭筋を支配する細胞を含んでいる.舷wnの報 告では顔面神経核を基準にして検討しているた め,生理学的研究の通常閂を基準にして計測にし ているものとの比較が直接できないのが不便であ る.Furstenbergらはサルの疑核の組織学的検索 を行ないSzent査gothaiとほぼ同じ結果をえてい るが,輪状甲状筋支配の細胞の尾側に声帯開放筋 支配の細胞が,さらに尾側には閉鎖筋支配の細胞 が分布している.疑核分布の尾側端はほぼ閂レベ
ルである図を示している.
著者は輪状甲状筋を除く内喉頭筋支配の下喉頭 神経の逆行性応答により,閂から吻側の疑核の位 置を求めた.その結果閂より1.9mmの吻側まで分 布していることがわかった.著者と同じ実験法で 赤沼は閂より尾側で逆行性応答を記録している.
Porterはネコで迷走神経刺激により,閂より吻 側2.5mm尾側1.5㎜の範囲で疑核から逆行性応答 を検出している.これらの報告から問題となるの は,動物により差異があるとはいえ,Szentゑgothai の姑果からみると,下喉頭神経刺激による逆行 性応答は閂より吻側でのみしかえられないはずで ある.Merrillによるネコにおける実験では,下 喉頭神経刺激による逆行性応答は閂より1〜2mm 吻側でのみえられている.赤沼,Porter, Merrill
の結果とSzentagothaiの組織学的結果の差異は,
恐らく閂より尾側の疑核は正awnのいうdi価se formationに相当し,組織学的にも機能的にも検
出が困難なために,その存在が見落され易いため に生じたものと推測される.著者の実験では赤沼 と異なり,門より吻側における逆行性応答が調べ られたが,それがえられる延髄背側面よりの深さ は,赤沼が尾側でえた位置より深いが,これは Lawnの組織学的結果とほぼ一致している.
ネコの下喉頭神経には求心性線維が含まれるこ とが,H三rose, Sampson&Eizaguirre, Biancon至
&Malinari, Kirchner&Wyke, Suzukiらによっ て報告されている.著者の実験で,下喉頭神経刺 激による延髄での誘発電位に順行性応答と認めら れるものもえられたが,これは上述の求心路(動 き受容器由来)によることが考えられる.赤沼は ウサギ下喉頭神経では求心性インパルスが記録で きないところがら,ウサギでは求心性線維は極め て少ないが,ないためと考え,順行性応答は下喉 頭神経の軸索側枝由来のものと推定した.赤沼は 閂レベルより尾側で下喉頭神経刺激による順行性 応答をえているが,著者は閂より吻側でもえてい る.これの受容器由来のものか,軸索側枝による ものかの決定は,さらに直接的な実験事実を要す るものと考える.
疑核およびその近傍で呼吸性ニューロンが多く 検出されることはArchard&Bucherによりウサ ギで報告されているが,同様な結果がネコでも他 の研究者によってえられている.Merrmはネコ 疑核および後疑核(nucleus retroambigualis)で 呼吸性ニューロンが多く見いだされ,その吻側 では吸息性ニューロンが多く,尾側では呼息性ニ ューロンが多く記録されるとしている.この尾側 での呼息性ニューロンの検出される部位はNgai
&Wang, Harberらが電気刺激または活動電位 の記録から呼息中枢と推定した部位を含むことは 興味あることである.著者は閂レベルとそれより 吻側に位する疑核およびその周辺部の呼吸性ニュ ーロンを調べたが,その結果75%は吸息性ニュー ロンであり,25%は呼無性ニューロンであった.
これはMerrillの報告とほぼ一致した結果といえ る.赤沼が閂より尾側の疑核で呼吸性ニューロン を検索した結果では,吸呼息両ニューロンには差 が認められない.これは尾側では呼吸性ニューロ ンが多く検出されるというMerrillの結果と異な
る.
内喉頭筋は種々な位相で呼吸と関係ある活動を 示すことがGreen&Nai1, Nakamuraら, Suzuki
&Kirchnerにより報告されている.さらにこの 運動神経である下喉頭神経で呼吸性発射が記録さ れることが,Eizaguirre&Taylor, Suzukiら,
赤沼によって確められている.この運動神経細 胞は疑核を形成しているから,疑核で記録される 呼吸性ニューロンの中には下喉頭神経刺激による 逆行性応答を示すものが多いと予想される.著者 の実験でえられた呼吸性ニューロン242ユニット 中,逆行性応答を示したものはわずか8ユニット
(3.3%)であった.この結果は疑核周辺部には 内喉頭筋支配の細胞以外の呼吸性ニューロンが多 く存在していることを示している.さらに一般に 呼吸性発射が他相まで存続し,発射頻度の少ない ものは内喉頭等支配の運動神経と考えられている が,このような発射パターンを示すユニットでも 逆行性応答を示さないものが多い.このように疑 核およびその周辺部という局限された場所で見い
だされる呼吸性ニューロンも発射パターンからみ ると種々なものを含むことは,種々な機能をもつ た呼吸性ニューロンから混成されていることを示 している.さらに発射パターンから機能を推定す る試みの困難なことを示す結果ともいえる.
著者はこれらの呼吸性ニューロンのえられる部 位を電気刺激することにより次の結果をえた.1)
横隔膜神経吸息性発射の一過性抑制が両側性にみ られる.2)反側疑核周辺部吸息性ニューロンの 横隔神経の抑制時相に一致した一過性抑制がえら れ,呼息性ニューロンは吸息性ニューロン抑制時 に相当した反射応答を示した.しかし吸息性ニ
ューロン中には抑制を明瞭に示さないものもあっ た.3) このような刺激効果を示す部位は疑核近 傍に局限されている.このような延髄刺激による 吸息性ニューロンの抑制はFallertにより報告さ れているが,そのような効果を示す刺激点が外側 網様体に広く分布していることが著者の実験結果 と異なる.Fallertの用いた刺激は持続時間0.5 msecの矩形波,100〜150/sec,刺激持続時間 120msecであるが,著者の実験では持続時間 0.03msecの矩形波,4msec間隔の4発の刺激 を用いているゆえ,刺激持続時間は12msecであ る.このような刺激方法の差異が有効刺激点の分 布に相違が生じたものと考えられる.Fallertは このような吸息性ニューロンの抑制は迷走神経 刺激時の抑制に類似していることから,Her量ng−
Breuerの反射のexpiratory compomentまたはそ れに関係した介在ニューロンの刺激結果と考えて いれる。さらに彼は抑制後のreboundの起る現 象を見ているが,著者の結果でもみられ,現象が 極めて類似している.しかし有効刺激点が疑核近 傍に局限されている点が異なる.
疑核は食道,咽頭,内喉頭筋支配の運動神経細 胞から成るゆえ,これらの細胞の刺激によりこの
ような抑制が起るとは考えられず,その周辺部に ある特殊ニューロンの刺激によって起る現象と考 えられる.疑核付近のニューロンで機能的に知ら れているものに心臓神経の抑制枝を出すニューロ ンがある.Thomas&Calaresuは疑核近傍刺激
により徐脈の起ること,洞神経刺激により孤束核 および疑核で誘発電位のえられることから,圧受 容器および化学受容器からの一次求心路は孤束核 に終り,介在ニューロンを介して疑核にある心臓 抑制ニューロンに至ると結論している。Biscoe&
Sampsonは洞神経,舌咽神経,大動脈神経,上喉 頭神経のいずれかを刺激すると横隔神経発射の一 過性抑制の起ること,同刺激で延髄呼吸性ニュー
ロンの抑制の生ずることを報告している.Gabriel
&Sellerは頚動脈洞圧受容器または三叉神経求 心性線維の刺激により疑核付近(閂より2〜3mm 尾側)で見いだされる呼息性ニューロンの発射が 増加することから,これらの求心路と疑核周辺 部呼息性ニューロンとの機能的関係を推定してい
る.これらの報告からみると,疑核周辺部刺激に よる吸息性ニューロンの抑制は,頚動脈洞圧受容 器および化学受容器の求心路,さらに舌咽神経,
大動脈神経,三叉神経の求心路の到達するニュー ロンまでの介在ニューロンの刺激による結果とも 解釈できよう.
疑核付近の刺激による横隔神経吸息性発射の両 側性抑制は,横隔神経細胞のみに至る抑制性ニュ ーロンの刺激効果ではない.これは反側疑核付近 の吸息性ニューロンの多くが同時に抑制されるこ とから明らかである.さらにこの抑制が呼吸リズ ム発生機序のどの段階に関与しているかが問題と なるが,これだけの実験結果からは容易に断定す ることは危険である。しかし福原のいう出力系呼 吸性ニューロンに作用する抑制ではなくて,より リズム発生機序に関係した呼吸性ニューロンに作 用した結果であるといえる.何故ならば,草地ら は疑核刺激により吸息相の短縮と刺激の与えられ た吸息相に続く呼息相のみの短縮が起ることを報 告しているからである。吸息相および呼息子の長 さは一次式の関係にあることがClark&Eulerに よって報告されている.このような抑制機序に 密接な関係をもつものと思われる呼息性ニューロ
ンが著者の実験で見いだされた.それは呼息相の 極めて初期にのみ発射を示すニューロンで,疑核 刺激により吸呼離塁を問わず反射応答を示すニュ
一ロンである.このような発射パターンを示すニ ューロンは従来の報告に見られず,Nesland&
Plumによる発射パターンによる呼吸性ニューロ ンの分類の何れにも属さない.しかし強いてその 分類にあてはめるとE−early型の変形といえよう.
このような発射パターンを示す呼吸性ニューロン は吸息相から呼将相への切換えに重要な役割をな しているものと推定される.疑核付近の刺激によ.
る吸息性ニューロンの一過性抑制はこの呼息性ニ ューロンの刺激による結果と推定することも可能 であろう.
V・要 約
ウレタン麻酔,ガラミンで不動化したウサギを 用い,閂より吻側の疑核の分布を,下喉頭神経刺 激による逆行性応答により決め,疑核およびその 周辺部で記録される呼吸性ニューロンの諸性質に ついて調べた.これらの呼吸性ニューロンで下喉 頭神経刺激による逆行性応答を示したものは3.3
%であった.呼吸性ニューロンの75%は吸息性 で,25%は呼良性であった.疑核の刺激(4msec 間隔,4パルス列刺激)は横隔神経の吸息性発射 の一過性抑制を両側性に起した.この抑制の潜時 は4〜9msecで抑制の最大持続時間は321nsecで あった.この抑制は疑核の刺激のみでえられ,そ れより離れた1他部網様体刺激.ではえられなかっ た.反側疑核周辺部の呼吸性ニューロンについて みると,吸息性ニューロンは横隔神経と同様に抑 制され,呼息性ニューロンは吸息性ニューロンの 抑制時に反射応答を示した.吸息期の初期にのみ 発射を示す呼息性ニューロンは吸息相のいずれの 相でも反射応答を示し,吸息相での応答は吸息性 ニューロンの抑制時に一致した.疑核刺激による 吸息性ニューロンの抑制はこの呼耐性ニューロン が関与しているものと推定される.
稿を終るにあたり,ご校閲いただいた渡辺宏助教授お よび実験のご指導をいただいた草地良作教授に深謝致 します.さらに実験中ご援助いただきました第一生理学 教室員各位に感謝致します.
文 献
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