倭女購、第繍5鋼言)
神経細胞,膠細胞および細胞内封入体の Tay−Sachs病患児脳からの分離および
その生化学的研究
東京女子医科大学小児科学教室(主任:福ll.1幸夫教授)
阿部 敏明*・原田 淳子・福山 幸夫
アベ トシアキ ハラダ ジュンコ フクヤマ ユキオ
(受付 昭和51年10月28日)
1soladon and Some Character量zation of Neuronal Ce1置Bodies and Glia fナom Tay−Sachs Brain
Tosbiaki ABE,*M.D., Junko HAR△DA, M.D. and Yukio FuKむYAMA, MD.
Department of Pediatrics(Chiefl Pro£Yukio FUKUYAMA)
Tokyo Women,s Medical College
Neuronal cell bodies and glia were prepared倉om the grcy matter of a brain of a Tay−Sachs child by a procedure of the milder tissue disruption than the method used by many investigators. Isolated neuronal cell bodies or glia contained many cytoplasmic inclusion bodies. The studies of clectron micro.
scopy of these量solated cells revealed that glia contained two typcs of inclusion bodies, one was myelin Iike membranous body and other was amorphous body.
Lipid analysis of these cells showed that both neuronal cell bodies and glia contained Gm2−ganglioside and asialo−Gm2−ganglioside as m句or component of total lipids.
Myelin−1ike membranous cytop】asmlc body isolated食om the grey matter of this patient containcd an activity of only B component ofβ・N−acetylhexosaminidase,
序 言
神経細胞または膠細胞の中枢神経系からの分離 は,白猟,牛,ヒト,豚などの脳を材料として,
ナイロンやステンレススティールの飾を通過させ て組織を破壊し,薦糖やフィコール密度勾配遠心 分離法を用いて行なわれてきた1)吻.分離された 神経細胞や膠細胞についての生化学的分析の仕事 は多くあるが,殆どの研究は,ヒト以外の動物に
ついての研究または,正常なヒトの脳から得られ た細胞についての分析であり5)卿8),未だ病的なヒ ト脳の研究への応用は少ない8)9).われわれは,
Norton&Podusloの方法4)を改良し, Tay−Sachs 病患墨汁からの神経細胞および膠細胞の分離を試 み,それらについて形態学的および脂質生化学的 な検討を試みた.
また,Tay−Sachs病は, Gm2・ガンダリオシド
*現在 東京大学医学部第1生化学教室
*Present address:Department of B旦ochcmistry, Faculty of Medicine, Ulliversity of Tokyo.
が,異常に脳内に蓄積し,Gm2一ガンダリオシド・
β一N一アセチルヘキソサミニダーゼの欠損が知られ ている先天性代謝異常症である.この疾患児の脳 の細胞内には,2種類の細胞内封入体の生成が知 られており,Terryらの詳細な研究により,形態 学的および生化学的な特徴も明らかにされてきた が,特にミエリン様膜構造物は,ライソゾーム由 来であるとの確定は得られていない10)噌14).また,
この膜様構造物の脂質分析の結果からは,Tay−
Sachs病の時に蓄積するGm2一ガソダリオシドか
ら,主として構成されている事が明らかである.私達は,この膜様物がライソゾーム由来ならぽ,
膜様物上.の酵素は,存在するとすれぽ,β・N一アセ チルヘキソサミニダーゼのB要素のみであると考 えて,この膜様物質の分離法を考案し,分離精製
して酵素学的な検討を加えた.
実験方法 材料
Tay−Sachs病患児の剖検例から得た脳は,神奈川こど も医療センター・病理部三杉和章氏より提供された.患 児は,病歴,臨床経過,検査結果(血清および白血球の 酵素診断も含まれる)および病理学的な検討によって,
最終的にTay・Sachs病と診断されている.
神経細胞と膠細胞の分離
凍結(一70℃)と融解(4℃)をくり返した脳より,
灰白質または白質を分離する.分離した部分を,Dounce 製のホモジナイザー(loose pestle)を用いて,0.32M 薦糖溶液中でホモジナイズする,位相差顕微鏡で組織の 破砕程度および,細胞のこわれている程度を調べる.組 織のホモジネートに,2,0M薦糖溶液を加えて,台糖溶 液の濃度を0.9Mに調整する.この.ホモジネートの10
m1を,不連続薦糖膠配(遠心管の底から,7mlず
つ,2.OM,1.5M,および1.4M薦糖溶液を重層す る)に重層し,4,000g,15分間, S輌ng Roterを装備し た遠心器で遠心する.神経細胞は,2.OMとし6Mの中 間層より分離し,膠細胞は,1.3Mと0.9Mの中間層よ り集める.各々の層を,0.32M薦糖溶液で,3−5倍に 希釈した後,4000g,15分間, Swing Roterを用いて遠心し,細胞を集める.沈渣の一一部を取り,位相差顕微鏡お よび,2.596グルタールアルデヒドで固定後,電子顕微 鏡を用いて形態学的な検索をする.
細胞内封入体の分離
凍結した患児脳から灰白質を分離し,0.32M薦糖溶液 に浸し,Dounce型のホモジナイザーでホモジナイズす る.この組織懸濁液17mlを,15mlの0.85mlの薦糖 溶液上に重層し,69,500g,30分間,日立超遠心分離機 40P型, Swing Roter 25 Aを用いて遠心する.遠心後,
0.85Mと0.32Mの中間層を集める.この層を氷冷した再 溜水で希釈し(約10倍),49,000g,15分間遠心し,沈渣 を集め,氷冷した再溜水に再度懸濁し,12,000g,10分 間遠心する.この段階を2回繰り返す.生じた沈渣を,
0.32M蕪糖溶液に懸濁し,その17mlを0.85M薦糖溶液 15m1.しに重層し,69,500g,30分間遠心する.遠心器 は,日立超遠心分離機,40PにSwing Roter 25Aを備え て用いる.0.32Mと0.85Mの中間層を集める.この層 を,氷冷した再溜水で希釈し(約10倍),49,0009,15分 間遠心し,沈渣を集める.沈澄の一部を取り,2.5%グ ルタールアルデヒド溶液で固定し,電子顕微鏡を用いて 形態学的な検討をする.
脂質分析
分離した神経細胞および膠細胞の脂質分析の詳細は既 報の通りである15}.微量の神経細胞や膠細胞の脂質の分 布を検討する際には,抽出した脂質を薄層クロマトグラ
フィーで展開した後に,50%硫酸を噴霧し,1200C,25 分間加熱,各々の脂質を発色する.発色後,薄層クロマ
ト板の写真をとり,ポジフィルムを作製する.このフィ ルムを,Joyce Loebl社:製のMicrodensitometer MK皿 CSを用いて濃度測定をする.各々のピークの下の面積 を三角法で測定する.
セルローズアセテート膜電気泳動
セルローズアセテート膜電気泳動は,既述の方法に従 った16),灰白質または,膜様細胞質内封入体を5倍量の 20mMクエン酸燐酸緩衝液(pH 6.6)でホモジナイズ した後,1,000g,10分間遠心し,上清を得る.1〜5 μ1の上清をセロゲル上に着けた後,泳動する.泳動後 4−mu−gal NACと反応させ,遊離した4−mVを蛍
光で検出する.
結 果
神経細胞と膠細胞の分離
神経細胞画分は,位相差顕微鏡下での細胞数測 定では,約90%純粋である.図1に示すように,
神経細胞は短い軸索を持っており,毛細血管と乏 突起膠細胞の混入がある.膠細胞画分は,神経細
へ コゆサ や
.、/噸レ・
窯
を
図1 分離神経細胞の位相差顕微鏡像(400×).細 胞内封入体(t)が観察される.
鶏1≧1セ
ジ1醜秘繭翻
図2 分離膠細胞の位相差顕微鏡橡(400×).細 胞内封入体(Dおよび繊細な突起が多数認め られる.
胞画分よりも,爽雑物が多く,神経細胞とその突 起,血管の混入がある.この細胞には,多くの三 三な突起が認められる(図2).両方の細胞質内に は,多くの細胞内封入体が認められる.灰白質よ
り得られた膠細胞は,白質より得られた細胞と,
位相差顕微鏡下での観察では殆ど同一である.
神経細胞,白質および灰白質からの膠細胞の収 量は,各々,6×106,4×lo6,および10×106個1g 湿重量である.電子顕微鏡による分離細胞の観察 では,神経細胞および膠細胞共に,その細胞質内 にミエリン様細胞内封入体が認められた.膠細胞 膜は肥厚し,ダリアのフィラメントは40〜60Aで あって,肥厚はしていないと思われるが,数は増 加している(図3,4).
図3 分離膠細胞の細胞質の電子顕微鏡像(24,000 ×).グリナフイラメントやミエリン様封入体が 多数認められる.
図4 分離膠細胞内のダリオフィラメントの強拡 写像(45,000×),ダリオフィラメントの幅は40−
60Aである.
神経細胞および膠細胞の脂質の分布
神経細胞と膠細胞(白質および灰白質より得た もの)の主な脂質は,コレステロールエステル・
コレステロール,Gm2・ガンダリオシド,アシア ローGm2一ガンダリオシドであった.これらの各 分画中での分布を表1に示す.コレステロールを
100とした時の各々の脂質の分布から判るよう に,灰白質の脂質構成に似た構成を示す細胞画塾 は,灰白質より得た膠細胞画分である,神経細胞 分画にもコレステロールエステルが存在する事よ
り神経細胞体もコレステロールをエステル化する 酵素系をもつている事が推察される.
一70一
表1The Distribution of various Lipids from Neuronal Cell Bodies and Glia from the Brain of a Patient
Grey matter NeumnaI ce睦bcdies Glia from gIey matter Glia from white matter *CE:cholesterol
CE* CEE** lAG.、・*・ G蘭2***宰
100 25 42 49v『 一 一 一 一
@ 22
1oo 174 15
100 91 48 34
100 108 10 29
**CEE:cholesterol ester 宰**AG鱒2:asialo G罵2・ganglioside
**紳G賜2:G闘2・ganghosidc
弾婚鉱
、奨〆轟漏縞
触.
織霧
撃
◎
図5 分離したミエリン様細胞内封入体の電子顕 微鏡像である.Samuelsらの報告(13)と同様で ある.
ミエリン様細胞内封入体のヘキソサミニダーゼ 分離されたミエリン様細胞内封入体の電チ顕微 鏡写真を図5に示す.灰白質より分離したので,
ミエリンと似た密度を持つこの封入体へのミェリ ンの混入は少ない事が推定される.また園児脳の ミェリン染色では,ミエリンが染め出されないの で,強度の脱髄の存在が確かめられている事から もミエリンの混入は少ないと思われる.また,正 常に存在するライソゾームの密度は,1.6M薦糖 溶液を穿通する重さなので,0.85M野業溶液層に は存在しないと考えられる.
以上の様な性質をもつたミエリン骨膜構造と患 児灰白質より得られたβ・N一アセチルヘキソサミ ニダーゼを,セルロースアセテート膜上で電気泳 動した図が図6である.β・N一アセチルヘキソサミ ニダーゼ活性のうちで,B要素の欠損が, Tay−
Sachs病患児の灰白質及びミエリン様細胞内封入
A B C
図6 β・N・アセチルヘキソサミダーゼ活性.セルロ ースアセテート膜によるβ一N一アセチルヘキソサ ミダーゼ活性を示す.酵素源は,A:正常小児灰 白質,B:Tay・Sachs患児灰白質, C:灰白質よ り得たミエリン様封入体.
体からの酵素には認められる.また,灰白質から のミエリン様細胞内封入体の収量は,約11%(脳 乾燥重量当りの重量%)てあった.
考 案
中枢神経系からの細胞の分離法の最も重要な段 階は,組織のこわし方,または細胞のときほぐし 方である.この段階のために,従来からは①ナイ
ロンやステンレススチールの簾を通す方法,②ト リプシンやコラゲナーゼ等の酵素処理法,③組織 を37℃で一定時間加温する方法などがある.また
④ホモジナィザーで組織を直接くずす方法などが あったが,各々に利点と欠点がある17),②と③は 細胞の収量は良いが,酵素処理中に細胞表面の蛋 白質に変化を起す可能性があるとされる.②と③ も①を併用する事が多いが,①のみを用いる研究 者達もあるが,分離された細胞の形態は,殆ども との形を保ってはいないものが多いとされる.④ も①のみの方法と同じである,私達は凍結融解を くり返す事により,組織間の結合をゆるめて,① の方法を併用する事を考案した18).収量は,②と
③に①を加えた方法よりも,やや劣るが,②と③ に考えられる好ましからぬ影響は除く事ができる ものと思われる.
分離した細胞を用いた生化学的な研究をする場 合には,目的とする分画に混入してくる爽雑物に
よる影響を考える必要がある.そのためには,分 離した分画の精製度について十分の考慮が必要で あるが,爽雑物を完全に除く方法は,現在は未だ 確立していない.神経細胞分画は,中枢神経系に 存在する種々の構成分のうちで,1.6M庶糖溶液 を4,000gで通り抜けて,2.OMの上に留る構成 分で,その大部分は神経細胞,血管および乏突起 膠細胞である.灰白質より出発していれぽ,歯突 起膠細胞の混入は,最小限度に押える事ができ る.脳から分離された毛細血管には,ミエリン様 膜構造は認められないし,Gm2一ガンダリオシドの 含量:も少ないので,神経細胞分画に存在する脂質 は,神経細胞を反映しているとしてよい.膠細胞 分画の純度は,神経細胞画分よりも低く,神経細 胞の突起,毛細1血管,ミエリン等の混入の可能性 がある.しかし,白質および灰白質より得られた 膠細胞間で脂質の分布に近似性が認められる事か ら,脂質の分布は恐らく膠細胞を反映しているも のと思われる.
一般に,脱髄疾患の時に生じるコレステロール エステルは,蕨紅鶴度勾配遠心分離法では,0.3 gMの上層に集るが,神経細胞分画に認められた
コレステロールエステルは,遊離したコレステロ ールエステルではなく,神経細胞内に存在するコ レステロールエステルである事が予想される.こ
の事から,神経細胞内にはコレステローールェステ ル合成系が存在していると思われる.形態学的な
観察のみからは,コレステロールエステル等の
Sudan皿陽性物質は,膠細胞に多い事が知られて いるので,コレステロールエステルは,膠細胞の みで合成されると予想されていたが,この実験か らは,神経細胞も,コレステロールエステルを合 成する力をもつている事が予想される.この事を 確かめるには,神経細胞を分離して,コレステロ ールエステルの前駆体を投与し,コレステロール エステルの生合成を,in vitroで検討する事も考 えられるが,コレステロールエステルが,生体内 では特異な状態(例えば脱髄や変性疾患の時)で生じる事を考えると,正常の神経細胞を分離し
て,上記の実験をしても,意味ないかも知れな
い.
細胞内封入体は,電子顕微鏡による観察による と,大体3種類に分類されるが,ミェリン童画構 造は種々の疾患の時に細胞質内に出現する事が知
られており,ライソゾームまたはゴルジ由来と言 われている.Tay−Sachs病の時に出現する神経細 胞内のミェリン様構造は,Terryらによると,正 常に存在する細胞内小器管との連りはないとされ ている13).私達の分離した膜様封入体の収量は,
Terryらの報告とほぼ同一である.膜様構造が,
ライソゾーム由来ならぽ,ヘキソサミニダーゼの
中のB要素がこの膜の中に存在すると思われる
が,私達の結果では,この事を証明し得た.しか し,分離の方法より考えられるように,低浸透圧 ショックでは膜から遊離しないが,電気泳動の操 作で膜から遊離する性質を,このβ一N・アセチル ヘキソサミニダーゼはもっている事:がわかり,こ の酵素の膜面上での存在状態に関しての興味ある 事実であると思われる.結 論
Tay−Sachs病患二品より神経細胞および膠細胞 を,従来用いられていた方法を改良した方法によ
り分離し,形態学的および生化学的な検討を試み た.分離された神経細胞並びに膠細胞内には多く の細胞内封入体が,位相差顕微鏡および電子顕微
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