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青年期における自我同一性と同調的対人態度 : 同調的対人態度尺度の作成と多次元自我同一性尺度との関連性の検討 利用統計を見る

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青年期における自我同一性と同調的対人態度 : 同

調的対人態度尺度の作成と多次元自我同一性尺度と

の関連性の検討

著者

大西 将史

雑誌名

福井大学教育実践研究

45

ページ

123-128

発行年

2021-03-26

URL

http://hdl.handle.net/10098/00028650

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実践報告・資料 1.問題と目的  青年期は,生物的・心理的・社会的という人間の本質 に係わるすべての側面において大きな変化を経験するな かで,それまでの “ 子ども ” から,“ 子どもでも大人で もない存在 ”(Lewin, 1951/1979)へ,さらには “ 大人 ” へと立場が劇的に変化する時期である。特に,青年期後 期においては,子どもとして親の庇護のもとにある立場 から,社会を担う存在として責任と関与が求められる立 場へと社会的役割が大きく変化する。その過程で生活世 界はますます拡大し,結ばれる対人関係も広がりを見せ る。それにともなって多面化する自己表象の間で揺れる ことも生じる。この時期は,それまでの経験を通して築 いてきた様々な自己を束ね,大人社会に通用する形で 再構成していくことが求められる,パーソナリティ発 達上重要な時期といえる(西平 , 1990; 高田・丹野・渡 辺 ,1987)。  Erikson(1959)は,青年期後期におけるパーソナリティ 発達の中心的テーマを,自我同一性の形成としている。 Erikson(1959)の提起した漸成発達理論は,Freud, S のパーソナリティ発達における心理・性的理論を発展・ 拡大して構成されたものであり,“ 自我の社会性 ” を強 調している点に特徴がある。Erikson(1959)は,青年 期において,それまで他者との関係を通して形成されて きた様々な自己表象をまとめ上げ,それらの総和以上の ものとして自我同一性を形成することが心理社会的危機 として立ち現われることを論じている。自我同一性の感 覚とは,“ 内的なまとまりをもった主観的な自分自身が, 周囲からみられている社会的な自分と一致するという感 覚 ” であり(谷 , 2004),自己と他者との相互関係性と いうものが極めて大きな意味をもっている。つまり,自 我同一性の感覚とは,単に自己内で完結するものではな く,社会的現実に積極的に向き合い,他者との絶え間な い関係を経る中で形成されていくことが含意されている のである。  青年は,企業や学校でのインターンシップをはじめと して,アルバイトや部活動,サークル活動,ボランティ ア活動などの様々な社会的活動を通して,現実社会と接 し,その中で自分を試していく。それとともに,自らが 実際に身を置く “ 社会 ” というものを理解していく。こ のような役割実験(Erikson, 1959)を通して青年は自己 を形成していく。  大西(2018)は青年期における自己形成活動の中でも, 最終的な進路を決定する中心的活動として就職活動を取 り上げ,自我同一性との関連性を検討した。大学生が就 職活動でどのような経験をし,何を学んでいるのか,自 身でそれをどのように意味づけているのか,を就職活動 による自己成長感とし,「自己明確化」「自賛・自信」「肯 定的職業意識」の 3 側面からなる就職活動による自己成 長感尺度を作成した。そして,自我同一性との関連性を 検討した結果,全般的に正の相関が見られ,特に対自的 側面,心理社会的側面との相関が相対的に高いことが明 らかになった。  一方,青年期における自己形成活動は,就職活動の他 にもさまざまなものが存在する。溝上・中間・畑野(2016) は,大学生を対象に自己形成活動の具体的内容を収集し, 延べ 412 名分の回答を整理した結果,回答率の高い順番 に,アルバイトに関すること(25.0%),クラブサークル に関すること(16.5%),授業や勉強に関すること(11.4%), 友人や対人関係に関すること(11.2%),日々の生活や行 動に関すること(7.5%)といった内容であることを明ら かにしている。アルバイトやクラブサークルに関するこ とは,役割実験の意味合いが強いため,従来から指摘さ れてきた自己形成活動であるといえる。これに対して, 友人や対人関係に関することは,役割実験的な意味合い

青年期における自我同一性と同調的対人態度

― 同調的対人態度尺度の作成と多次元自我同一性尺度との関連性の検討 ―

福井大学学術研究院 教育・人文社会系部門 大 西 将 史

 本研究では,日本人青年において顕著となると考えられる同調的対人態度を測定する尺度を作成し,自 我同一性との関連性について検討を行った。大学生208名を対象に質問紙調査を行った。同調的対人態度 尺度の候補項目に対して主成分分析を行ったところ想定される1次元構造が得られた。α係数は十分な値 であり,内的整合性という面での信頼性が確認できた。本来感尺度,自己嫌悪感尺度及び思いやり尺度と の間に理論的に想定される相関関係が得られ,尺度の構成概念妥当性が確認された。多次元自我同一性尺 度との間に負の相関が得られ,同調的対人態度によって自我同一性形成が阻害される可能性が示唆された。 キーワード:青年期,大学生,自我同一性,同調的対人態度,尺度作成

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大西 将史 は相対的には薄いが,前述の通り,青年の生活において 極めて重要な自己形成活動といえよう。  青年期における対人関係は,青年を特徴づける重要な 側面として多くの研究が蓄積されている。特に,友人関 係については,現代青年の特徴を示すものとして多くの 研究が行われてきた(レビューとして岡田 , 2007)。ま た,友人関係は自我同一性形成との関連においても重 要なテーマとして研究が蓄積されてきた(宮下・渡辺 , 1991; 宮下 , 1998; 安井・谷 , 2008)。しかし,青年の生 活は友人関係だけに限定されるものではなく,大学生で あれば学部・学科のクラスメイト,クラブやサークルに おける先輩後輩,バイト先での同僚といったように,必 ずしも友人とは限らない関係も含まれる。溝上ら(2016) の見出した大学生の自己形成活動においても,多様な対 人関係が想定される内容となっていた。したがって,友 人関係にのみ限定せず,対人関係一般についても検討す ることが必要であろう。特に,自我同一性形成が問題と なる青年期後期においては,前述の通り,さまざまな現 実社会にかかわり,多様な対人関係における自己をまと め上げていく。したがって,青年期後期において,対人 関係一般について青年がどのような特徴を有しているか を検討しておくことは有益であると思われる。そこで, 本研究では,青年期後期における自我同一性と対人関係 の関連性について検討を行うこととする。  ところで,谷(1997)は,日本人青年における自我 同一性形成について,Markus & Kitayama(1991)によ る文化的自己観の考え方を援用し,文化的視点を考慮し た議論を行っている。Markus & Kitayama(1991)は, ある文化において歴史的に共有されている自己について の暗黙の前提を文化的自己観(Cultural self-construal) として概念化し,西欧において優勢な相互独立的自己観 (Independent view of self)と,日本を含む東洋において 優勢な相互協調的自己観(Interdependent view of self) の 2 種を提出している。相互独立的自己観においては, 自己とは他から独立した存在であり,個人は,自己の独 立が確定した上で人間関係を個人的に選択するものと捉 えられている。これに対して相互協調的自己観において は,自己とは他と根源的に結びついた本質的に関係志向 的な存在であり,他者との相互依存的・協調的な関係を 確立した上で,個人の独立を選択できるのである(北山, 1995)。  谷(1997)によると,Erikson の自我同一性形成に関 する議論には,内的斉一性を持つ「個」としての自己と 「関係」の中での自己の統合という視点がある。相互独 立的自己観が優勢な欧米文化においては,自我同一性形 成に必要な「個」への志向性が文化的自己観に合致する ために社会文化的に奨励される。これに対して,相互協 調的自己観が優勢な日本文化においては,自我同一性危 機の際に,相互協調的自己観を内在化させたために優勢 になっている「関係」の中での自己の側面と,同一性形 成に必要な「個」への志向性との間のずれによって「個」 と「関係」の葛藤を生じる。そのため,日本文化におけ る自我同一性形成においては,「個」としての自己と「関 係」の中での自己を統合することに困難がともなうので ある。谷(1997)は,この「個」と「関係」における 葛藤を測定する「個」―「関係」葛藤尺度を作成した。 この尺度は,「個」と「関係」が対立する状況を記述し た項目に対して,現実水準(現在の自分に当てはまると 思う程度)と理想水準(本当はそうありたいと思う程度) について評定を求める形式をとっている。そして,現実 水準と理想水準の差得点の絶対値を以って「個」と「関 係」の葛藤の指標とする。「個」と「関係」の葛藤の指 標と Rasmussen(1964)による自我同一性尺度(宮下 , 1987)との関連性を検討した結果,有意な負の相関を 示し,日本文化における自我同一性形成に「個」と「関 係」の葛藤が関与していることが示唆された。  ただし,谷(1997)において自我同一性の尺度とし て用いられた Rasmussen(1964)の自我同一性尺度の日 本語版(宮下 , 1987)には,問題があることが指摘され ている(谷 , 2001)。谷(2001)によると,Erikson の 自我同一性の概念は多側面から構成される複雑な概念で あり,それに対応した多次元から構成される尺度を用い ることが適切であると考えられるが,Rasmussen の尺度 は単一次元の尺度となっている点で構成概念妥当性に問 題があるという。また,α係数の値が低く内的整合性の 面での信頼性に問題がある。例えば,宮下(1987)に おいては,α係数の値は .682,谷(2001)においては .676 であり,12 項目からなる尺度としては低い値であった。 さらに,「個」―「関係」の葛藤尺度についても,20 項 目について現実水準と理想水準の 2 回の評定を求め,そ の差の絶対値を算出する必要がある点で,項目数の多さ と測定の煩雑さに難点があるといえる。自我同一性の尺 度については,Erikson の自我同一性概念に対応し信頼 性・妥当性ともに優れた尺度を用いる必要があり,「個」 ―「関係」の葛藤については,より簡便な測定尺度を開 発することで様々な研究に利用可能であると考えられ る。  以上から,本研究では,青年期後期における自我同一 性と対人関係の関連性について実証的に検討を行うが, 対人関係の中でも,特に「個」と「関係」の葛藤を背後 に含んだ関連概念として同調を取り上げる。  同調(conformity)とは,同調行動(conforming behavior) としてアッシュ(Asch, 1951)による実験以来,社会心 理学の領域において伝統的に研究されてきた概念であ る。他方で,同調行動は青年期の友人関係を特徴づける ものとして多くの研究で取り上げられ,その個人差を測 定する尺度を用いた研究も行われている。代表的な研究 として,上野・上瀬・松井・福富(1994)や,上野ら(1994) を発展させた石本・久川・齊藤・上長・則定・日潟・森 口(2009)の研究があり,石本ら(2009)においては「友

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人への同調性尺度」が作成されている。  しかしながら,青年期の友人関係に限らず,対人関係 全般における同調を捉えることができ,信頼性及び妥当 性が確認されている尺度は現在のところみられないた め,新たに作成する必要がある。谷(1997)の議論か ら,自我同一性形成において,「関係」を否定すること のない「個」を志向することが要請されるが,逆に,「個」 を否定し「関係」に埋没することが自我同一性形成を阻 害してしまう可能性があることが示唆される。よって, 「個」を否定した「関係」への志向性を,他者への同調 という観点から「同調的対人態度」と概念化し,他者と の関係を過剰に気にするあまり,「個」としての自己を 主張することができず,本当の自分を押し殺して周囲に あわせる傾向と定義する。同調的対人態度は,他者に同 調することで自己の主体性を放棄してしまう。一次的に はそのような行動によって周囲と調和するように感じら れても,あくまで本来の自己を偽っていることになるた め,他者に見せている自己と,本来の自己,あるいは本 当はそのようでありたいと願う自己との間に矛盾を抱え てしまう。そのため,自我同一性形成を阻害すると考え られる。  以上から,本研究では,青年期後期にあたる大学生を 対象に質問紙調査を行い,同調的対人態度尺度を新たに 作成し,自我同一性との関連性について実証的に検討す ることを目的とする。なお,同調的対人態度尺度の妥当 性の検討には,本来感尺度(伊藤・児玉 , 2005)および 自己嫌悪感尺度(水間 , 1996),思いやり尺度(内田・ 北山 , 2001)を用いる。本来感とは,“ 自分自身に感じ る自分の中核的な本当らしさの感覚の程度 ”(伊藤・児玉 , 2005, p.75)と定義され,心理的 well-being や主観的幸 福感を規定する概念である。自己嫌悪感は,青年期にお いて顕著となる自分のことが嫌いであるという生活感情 である(水間 , 1996)。思いやりは,“他者の気持ちを察し, その人の立場に立って考えること,その気持ちや状態に 共感もしくは同情すること,向社会的行動の動機づけと なる ” といった 3 側面からなる心理傾向である(内田・ 北山 , 2001)。同調的対人態度は,本当の自分を押し殺 して周囲に同調してしまう傾向であるため,本来感が欠 如し,それによって自己嫌悪感がともなうことが予想さ れる。また,同調的対人態度は,他者のことを思いやっ て他者に合わせることとは異なるために,思いやりとは 関連しないことが予想される。 2.方法 (1)調査協力者  近畿地方の大学生 208 名(男 91 名,女 117 名)に調 査を行った。平均年齢は 19.61(18 〜 22 歳,標準偏差 は 1.04)であった。 (2)測定尺度 ①同調的対人態度尺度の候補項目  同調的対人態度尺度の候補項目を収集するに当たり, 対人関係,友人関係および対人態度に関する先行研究 (榎本,1999,2000;長沼・落合,1998;岡田,1995, 1999a, b, 2002;上野ら,1994)を概観した。そして, これらの先行研究を参考に,「本当の自分を押し殺して 周囲に同調してしまう傾向」という定義に合致する項目 を収集した。収集した項目を,心理学を専門とする大学 教員 1 名および心理学を専攻する大学院生 2 名に項目 の内容的妥当性,表現の適切性について検討してもらい, 問題があるものについては修正を行った。最終的に 12 項目を収集した。回答は,「全くあてはまらない」から「非 常にあてはまる」までの 7 段階(1 〜 7 点)で評定を求 めた。 ②本来感尺度  本来感の測定には伊藤・児玉(2005)によって作成 された本来感尺度を用いた。この尺度は,本来感を 1 次 元構造の構成概念として捉えるもので,7 項目から構成 される。同調的対人態度尺度の妥当性検討のために用い た。回答は,「あてはまらない」から「あてはまる」ま での 5 段階(1 〜 5 点)で評定を求めた。 ③自己嫌悪感尺度  自己嫌悪感の測定には水間(1996)による自己嫌悪 感尺度を用いた。この尺度も,自己嫌悪感を 1 次元構造 の構成概念として捉えるもので,21 項目から構成され る。同調的対人態度尺度の妥当性検討のために用いた。 回答は,「あてはまらない」から「あてはまる」までの 5段階(1 〜 5 点)で評定を求めた。 ④思いやり尺度  思いやりの測定には,内田・北山(2001)の思いや り尺度を用いた。この尺度は,前述した思いやりの 3 側 面を含んだ 1 次元構造の構成概念として捉えるもので, 22項目から構成される。同調的対人態度尺度の妥当性 検討のために用いた。回答は,「あてはまらない」から「あ てはまる」までの 5 段階(1 〜 5 点)で評定を求めた。 ⑤多次元自我同一性尺度(Multidimensional Ego Identity

Scale,以下,MEIS と略記)  自我同一性の測定には谷(2001)による MEIS を用い た。「自己斉一性・連続性(5 項目)」,「対自的同一性(5 項目)」,「対他的同一性(5 項目)」,「心理社会的同一性 (5 項目)」,4つの下位尺度から構成され,合計 20 項目 からなる。回答は,「全くあてはまらない」,から「非常 にあてはまる」までの 7 段階(1 〜 7 点)で評定を求めた。 (3)調査手続き  質問紙は,講義時間に配布し,集団的に実施した。調 査協力は任意であり,質問紙に回答しないことによって 不利益を被ることがないことを説明した。 3.結果 1.各尺度の基礎統計量と信頼性  各尺度の基礎統計量とα係数を Table 1 に示した。い

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大西 将史 ずれの尺度においても,α係数は十分な値を示しており, この後の分析に使用可能であると判断した。 Table 1 各尺度の基礎統計量とα係数 M(SD) α係数 本来感 自己嫌悪感 思いやり MEIS全体  自己斉一性・連続性  対自的同一性  対他的同一性  心理社会的同一性 20.12(4.49) 66.95(15.69) 75.03(12.98) 85.07(17.97) 24.52(6.61) 20.12(5.73) 19.83(5.62) 20.61(4.77) .76 .93 .87 .91 .88 .82 .84 .80 2.同調的対人態度尺度の構成 (1)主成分分析  同調的対人態度が 1 次元構造であることを確認するた め,同調的対人態度尺度の候補項目 12 項目に対して主 成分分析を行った。第 3 主成分までについての分析結果 を Table 2 に示す。第 1 主成分から第 3 主成分までの固 有値はそれぞれ順に 4.654,1.322,1.139 であった。第 1主成分と第 2 主成分の間で固有値の落ち込みが大きい ことから,同調的対人態度尺度の候補項目は 1 次元構 造であると判断できる。また,第 1 主成分の寄与率は 38.786%と満足できる値であった。これらの結果から, 同調的対人態度尺度の候補項目は,1 次元構造であるこ とが確認された。ただし,項目 8 〜項目 12 の 5 項目に ついては第 2,第 3 主成分への負荷量が .4 を上回って いることから,これらを除く上位 7 項目を採用すること とした。 (2)内的整合性の検討  α係数は .832 という値を示し,内的整合性という面 で十分な信頼性を備えていることが確認された。した がって,これら 7 項目をもって同調的対人態度尺度とし た。尺度得点の平均値(SD)は,29.40(6.93)であった。 (3)妥当性の検討  同調的対人態度尺度の妥当性を確認するため,本来感 尺度,自己嫌悪感尺度および思いやり尺度との相関を検 討した(Table 3)。その結果,同調的対人態度尺度は, 本来感尺度とは比較的高い負の相関(r =-.585),自己 嫌悪感尺度とは中程度の有意な正の相関(r =.405),思 いやり尺度とはほぼ無相関(r =-.091)であり,いずれ も予想通りの相関関係が得られた。よって,同調的対人 態度尺度の構成概念妥当性が確認された。これらの結果 から,同調的対人態度は,自己の本心とは裏腹に他者に 対して同調してしまうために本来感が欠如し,そのため 自己嫌悪感がともなうということが示唆された。また, このような同調性は,必ずしも他者への思いやりによる ものではないことも示唆された。 Table 3 同調的対人態度尺度と各尺度の相関 同調的対人態度 本来感 自己嫌悪感 思いやり MEIS全体  自己斉一性・連続性  対自的同一性  対他的同一性  心理社会的同一性 -.59 *** .41 *** -.09 -.57 *** -.44 *** -.45 *** -.47 *** -.45 *** *** p <.001 (4)同調的対人態度尺度と MEIS の相関  同調的対人態度尺度と MEIS の全体尺度及び各下位尺 度の相関を Table 3 に示した。  同調的対人態度尺度と MEIS の全体尺度とは比較的高 い負の相関(r =-.569)を示し関連が高いことが示唆さ れた。MEIS の各下位尺度とも全般的に比較的高い負の 相関(相関の絶対値は .439 〜 .470)が得られた。  この結果から,同調的対人態度は,自我同一性のいずれ の側面とも同程度の負の関連性を示すことが示唆された。 Table 2 同調的対人態度尺度候補項目の主成分分析結果 第1主成分 第2主成分 第3主成分 1 本心と違うことでも,周りの人にあわせて同意してしまうことがよくある 2 たとえ納得できなくても,しかたなく周りに合わせてしまうことが多い 3 しばしば人に合わせて自分の意見を変えることがある 4 自分の主張を押し通して場を乱すくらいなら,何も言わないほうが気が楽だ 5 相手によって自分の態度や意見をすぐに変えるほうだ 6 人と意見がぶつかった時はたいてい相手に譲る 7 みんなの中でなかなか自分が出せないと思うことがある .81 .80 .72 .64 .64 .61 .60 .06 .00 .21 -.17 .30 -.13 .15 -.22 -.02 -.22 .37 -.33 .03 .31 8 場を乱さないように,いろいろと我慢していることが多い 9 いつも場の雰囲気を壊さないように周りの様子を伺っているほうだ 10 周りがどうであろうと,自分の考えを押し通すほうだ(R) 11 集団で話し合ったり何かしたりするときは,率先して自分の意見を言うほうだ(R) 12 何か決断するときはたいてい他の人と同じようにする .58 .57 .34 .52 .49 -.64 -.61 .43 .25 .30 .07 -.15 .33 .57 -.50 (R)は逆転項目

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4.考察  本研究では,日本人青年に顕著になると想定される同 調的対人態度についての尺度を作成し,自我同一性との 関連性を検討した。作成された同調的対人態度尺度は, 7項目からなる 1 次元尺度であり,内的整合性という面 での信頼性が確認できた。また,本来感尺度とは負の相 関,自己嫌悪感尺度とは正の相関,思いやり尺度とはほ ぼ無相関であり,理論的に予測される相関関係が得られ たことから同調的対人態度尺度の構成概念妥当性が確認 できた。最後に,Erikson の理論に基づいて自我同一性 の程度を 4 側面から測定できる MEIS との相関を検討し た結果,いずれの下位尺度とも同程度の負の相関を示し た。  同調的対人態度は,妥当性検討のための尺度との相関 結果から,自己の本心とは裏腹に他者に対して同調して しまうために本来感が欠如し,そのため自己嫌悪感がと もなうという特徴がある。しかも,このような同調性は, 必ずしも他者への思いやりによるものではない。そのた め,表面的には他者との関係を保つことに寄与するが, 他者と本心からの関係を結ぶことを回避しているため に,自己の内面的な発達を逆に阻害してしまう可能性が ある。そのため,青年期の自己形成において重要な自我 同一性形成と負の関連を示したと考えられる。Erikson (1959)の提起した自我同一性の感覚とは,“ 内的なま とまりを持った主観的な自分自身が,周りから見られ ている社会的な自分と一致しているという感覚である ” (谷,2004)。そこには,自己の内部で完結する一貫性 だけでなく,それが他者との社会的な関係の中において も一致したものとして得られることが含意されている。 しかし,同調的対人態度は,他者との関係を気にするあ まり,自分の本心を押し殺して他者との表面的な一致を 目指すものである。それによって得られた一致の感覚も また表面的なものにすぎずないため,自己の内的一貫性 の感覚も得られないと考えられる。  自身が新たに作成した友人関係に関する尺度と MEIS の関連性を検討した安井・谷(2008)においても,友 人関係尺度の下位尺度の一つに密着・同調志向因子が見 出され,MEIS の各下位尺度との間に全般的に負の相関 がみられた。しかし,相関係数の値は .15 〜 .35 であり, 本研究の結果と比較すると低かった。このような相関係 数の大きさにおける差異は,測定内容が対人関係と友人 関係という差異によるものなのかもしれない。あるいは, 安井・谷(2008)の下位尺度は,「密着」となっている ように,「友達が自分以外の人と親しげに話をしている のを見ると嫌な気持ちになる」「友達がどんなことをし ているか,できるだけ知っていたい」など,積極的に友 人と密着しようする傾向を表現した内容が含まれていた からかもしれない。いずれにせよ,本研究においては対 人関係一般における同調性のみを測定しており,友人関 係における同調性は測定していないため,両概念の異動 については改めて両尺度を用いて分析する必要がある。  本研究においては,自我同一性形成を念頭に置いて検 討したために,青年期後期に位置する大学生を対象とし たが,同調的対人態度は青年期後期のみにおいて顕著と なるとは想定されず,より幅広い年代の人々において, また様々な場面においてみられる対人態度であると考え られる。例えば,いじめの場面や,集団における意思決 定場面において,特定の行動に人々を動機づける個人特 性と考えることが可能であろう。よって,これらの場面 において同調的対人態度がどのように機能しているかを 検討することも今後の課題である。 5.引用文献

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Masafumi OHNISHI

参照

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