(財)滋賀県産業支援プラザ主催、コラボしが 21 で、平成 19 年 10 月 23 日に開催された「平成 19 年度滋賀県産学 官ニーズ・シーズプラザ」における研究発表会について説明する。
1. まえがき
1-1. 研究の背景 近年、より軽量で高強度特性を持つ各種構造部材が市場でますます要求されつつある。このため金属材料に代 わって、ガラス繊維あるいは炭素繊維強化複合材料に代表される粒子によってプラスチックスを強化した材料が多 くの分野で使われるようになった。更に、最近ではナノ粒子を強化材としたナノコンポジットの有用性も認識されて いる。強化材がマクロ、マイクロあるいはナノのいずれにしても、複合材料が高機能性を発揮するためには強化材 である粒子の配向と分布を用途に応じて制御できることが不可欠である。成形中における粒子の配向と分布は、 流動の影響を大きく受けるため、粒子の流動誘起構造を解析することが高機能性材料創出の基礎となる。また、 成形中の流れ状態も粒子の構造に依存する。この研究では、粒子の流動誘起構造を明らかにするとともに、その 結果を複合材料の成形技術へ応用することを目指している。 この研究で対象にしている複合材料のマトリックスはプラスチックスである。即ち、高分子液体(粘弾性流体)であ る。現在、高分子と粒子の相互干渉に関する確立された理論がないため、数値解析によってこの問題を解くことは 困難である。従って、この分野の研究は、主に実験により行われている。 1-2. 研究成果 上記の問題が解決されていないため、今の所、プラスチックに比べてはるかに単純なニュートン流体をマトリック スとして数値解析を行っている。即ち、ニュートン流体に粒子を分散した粒子懸濁液を対象として、 (1) 繊維懸濁液の流動と繊維の配向を連立して解き,流れ状態と繊維の流動誘起構造を明らかにした。 (2) 実際の繊維の長さは複合材料中で分布しているので、長さ分布が流動と繊維の流動誘起構造に及ぼす 影響を調べた。更に、 (3) シート状複合材料の成形に関連して、偏平な粒子(タルク粒子)の配向を数値解析と実験の両面から明ら かにした。 1-3. 研究課題の新規性 粒子を分散すると希薄な場合でも、流れは大きく変わることが流れの可視化実験から明らかになっている。また、 粒子の配向は流動の影響を受けることも確認されている。従って、この研究の新規性としては、 (1) 粒子懸濁液の流れの問題を、流れと粒子の配向を連立して解いていること。 (2) 数値解析を行っているので、実験では困難な流速分布、応力分布や詳細な粒子の配向分布を明らかに できること。 滋賀大学 産業共同研究センター 副センター長 教育学部 教授 千葉 訓司(4) 数値解析と実験の両面から研究を行っているので、数値解析結果の定性的・定量的な妥当性が確認で きること。 (5) 上記の研究から明らかになった流動誘起構造を、高機能性複合材料の成形技術の開発に生かすことが できること。 1-4. 事業化に向けて 企業がこの研究成果を事業化するときの問題点として、以下の項目が挙げられる。 (1) 現状では、マトリックスはニュートン流体であるので、高分子液体をマトリックスとした研究を進める必要が ある。 (2) 数値解析ならびに実験は希薄な懸濁液を対象として行っている。実際の複合材料に適用するためには、 粒子の相互干渉を考慮することが必要である。 (3) 複合材料の高機能性としては、機械的特性が良く知られている。しかし、そのほかの機能性、例えば、熱的・ 電気的遮蔽性能の優れた製品の成形技術を確立するためには、実際の成形品の特性を測定すること が必要である。 問題点を着実に解決し、この研究で明らかになった成果を高機能性複合材料の成形技術に応用展開するため、 高分子材料の成形あるいは複合材料の成形技術を有する企業、または関連企業との連携を図り、高機能性複合 材料の精密成形の事業化を進めたい。
2. 研究発表の内容
スライド 2 に示す目次の通り 4 項目について説明を行った。初めの 2 項目(2-1、2-2 節)は一般的な内容である。 2-1. モデル化とシミュレーション simulation とは「まねをすること」という意味で、理論を駆使して、実在する現象を如何に上手にまねするかで、シ ミュレーションの成否が決まる。シミュレーションを行うためには、実在する現象を理論的に数式を用いて表現する ことが必要である。ところが、実在する現象はとにかく複雑であるため、各種の近似を用いたりモデル化を行わない と数式(微分方程式)で表現できない。微分方程式が求まると、数値スキームにより書き直された代数方程式をコ ンピュータを使って解けば(数値解析)答えが得られる。この一連の過程には、実在する現象を忠実に表現すること を妨害する手順(近似やモデル化など)が含まれているために、得られた数値計算結果が実在する現象を正しく表 しているとは限らない。従って、最後に実験結果や測定結果と比較してシミュレーションの妥当性を検討しなければ ならない(スライド 3、4)。 2-2. 流れ中における基本的な繊維の配向2-3. 複合材料の成形中における粒子懸濁液の流れと粒子の流動誘起構造(スライド 12) 粒子の配向と流れ状態を連立して解くために必要な支配方程式と研究の目的・課題をスライド 13~15 に示す。 2-3-1. 繊維懸濁液の流れと 3 次元繊維配向の数値解析:アスペクト比が連続的に分布している場合(スライド 16) 成形中に繊維は折れるため、繊維強化複合材料中で繊維の長さは連続的に分布している(スライド 17)。従って、 繊維長分布が繊維懸濁液の流動状態に及ぼす影響を明らかにすることが必要である。シミュレーションを行う際 の仮定、支配方程式、配向楕円の計算方法と数値計算条件をスライド 18~21 に示す。ここで、アスペクト比は長 さ/直径で定義される。 以下、スライド 22~26 がその結果で、アスペクト比が小さい場合、極めて大きい場合、分布している場合につ いて、流れ模様(流線)、配向楕円の変化と応力分布を比較して示している。結論としては,アスペクト比の大きい 繊維の含有率が増加すると、複合材料の機械的・物理的特性が改良される(スライド 27)。 2-3-2. スリット流路内の流れ中におけるマイクロ円板状粒子のマイグレーションと配向(スライド 28) タルクや雲母に代表されるような偏平な円板状粒子による薄板の複合材料の成形を対象とした研究で、スリット 流路内の流れ中での円板状粒子の配向を数値解析と実験の両面から調べたものである(スライド 29)。支配方程 式(スライド 30)及び数値計算結果をスライド 31~33 に示す。また、実験装置の概要(スライド 34)と実験結果をスラ イド 35、36 に示す。 結論としては、偏平なマイクロ粒子は、シート面に平行に配列することとシート面の厚さ方向、幅方向にマイグレ ーションは生じないことが明らかとなった(スライド 37)。