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高齢者福祉のための信託の活用と年金式融資について 利用統計を見る

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高齢者福祉のための信託の活用と年金式融資につい

著者

浅野 裕司

著者別名

Y. Asano

雑誌名

東洋法学

28

2

ページ

77-100

発行年

1985-03

URL

http://id.nii.ac.jp/1060/00003593/

Creative Commons : 表示 - 非営利 - 改変禁止 http://creativecommons.org/licenses/by-nc-nd/3.0/deed.ja

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高齢者福祉のための信託の活用と年金式融資について

浅 野

裕 司

はじめに  近時における高齢者世帯の年収は減る傾向にあり、年金依存が強まっているとされる。急速な高齢化社会の到来に 対応、社会のあらゆる仕組みを変えて行かねばならないが、それは容易なことではない。現在、そうした諸施策の中 でも最も立ち遅れていると思われるのが老人福祉の分野であろう。社会保障制度審議会が提言している信託制度や融 資制度の有効な活用、相続の在り方の見直しは、必要なことである。また、民間企業への委託で、福祉サ!どスにも 市場原理を導入、結果として安く適切なサービスが提供されるなら、何も公的機関にこだわることはない。高齢化社 会に向って考えなけれぽならないことは多いが、都市部に介護施設をつくり子や孫との触れ合いを重視し、 ﹁うぽ捨 て山﹂にならないようにすることが大切である。土地信託を活用し、入浴と給食サ⋮ビスの拠点の施設やリハビリテ :ションの訓練施設をつくる努力もしなくてはならない。こうした土地信託を活用すれば、一番問題の寝たぎり老人 施設を街の中につくることも夢ではない。従来から、福祉サービスは公的機関が、しかも無料で、という考えが国民

    東洋法学      七七

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    高齢者福祉のための信託の活用と年金式融資について       七八 の間に根強い。しかし、土地などの資産を持2愚齢者が、公の負担で福祉サービスを受けながら、その老人の死亡の 後、それまで何もしなかった子供などが、何くわぬ顔で遺産相続をする状況に矛盾を感じなかった者はあるまい。そ こで、新しい視点は、費用負担の公平化と民聞企業の活用である。人目の高齢化が進む中で、自宅を持ちながらも生 活費に困っている老齢者を対象に、居住用不動産を信託財産として生活費を一〇年間にわたり支給する﹁老後安心信 託﹂なるものを信託銀行があみだした。また、最終的に担保不動産で返済する高齢者向けの老後の生活費を年金式に 支給していく﹁年金式融資﹂なる新たな融資の取り扱いを信託銀行が始めている。この信託銀行がやり始めた二つの ものが、この小論の題名の通り高齢者福祉のために完全に貢献するものであるかはもちろん多くの疑問がある。しか し、民間で行なうものであるが故に注目もされ、今後に波紋をなげかけている。また、武蔵野市で実施している不動 産担保の老人福祉としての、武蔵野方式についても、その弱点批判を含めて触れていくことにする。わが国で老人と は何歳からか、ということもあるが、平均寿命が世界一となっている現状から七十歳以上と考えている。七五歳以上 を高齢者とする考えもあるが、その前後ということで、平均寿命が延びればその時点で考えればよいと思う。言葉と して、高齢者、老人、老齢者があるが、いずれも同意語である。そこで、信託の発展として、高齢者福祉問題をどう とらえて活用するかを今後とも考えていきたい。 社会福祉と費用負担の基本問題 高齢老本人の負担能力については、年金などの所得だけでなく、住宅など資産も考慮して、費用問題を考える必要

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がある。負担能力に見合った有料化は必ずしも﹁福祉の後退﹂と非難されるべきではなく、その方式が重要である。 そのためにも、各種の信託制度、融資制度など資産の活馬方法の検討と、信託法や関係法令の改正が急がれなけれぽ ならない。福祉国家という言葉から人々が直ちに連想する国といえば、英国やスウェーデンであろう。資本主義の母 国である英国は、福祉につき一六世紀からの紆余曲折に満ちた歴史をもっている。一六〇一年のエリザベス救貧法は 当時の貧民救済立法の集大成であり、以後何と一九四八年の国民扶助法成立によって遂に廃止されるまで約三世紀半 に及ぶ福祉国家への歩みと辿った途がある。英国の社会福祉サービスは、原則として有料である。わが国では、福祉 は無料という観念が強いこと、有料化の議論が財源問題からのみ語られる傾向があることなどから、有料化に対して は強い批判があるが、英国では、あくまでも自助原則を基礎にした公共︵社会福祉︶サービスであることを記憶して おく必要がある。例えば、老人ホームの入居者は、多額の財産・収入があれば、全額支払い、住宅などの資産がある 場合は、売却して入ることになるが、財政部門がその資産を査定して、利用料をスライドベースで決定し徴収する。 住宅がすぐに売れない場合は、自治体が資産として保有しておくということになる。また、ホームヘルプも有料であ り、本人が負担でぎない場合に自治体が負担することになる。いずれにしても、わが国の老人福祉の発想転換が必要 であり、老人だからというだけで、十把ひとからげに管理されてしまう風潮を排し、独立した人格の保障が急務であ る。福祉政策も重要な課題であることはあえて言葉を重ねる必要がないかもしれないが西独における教訓も、これか ら考えていくべきであろう。近時、西独で指摘されることの一つに無気力さがあげられる。その原因の第一は、福祉 政策の行ぎ過ぎをだれもが指摘する。たとえば、定年を過ぎれば、最終賃金の七〇パーセント前後︵職種によって相     東洋法 学       、       七九

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    高齢者福祉のための信託の活爾と年金式融資について       八○ 違︶が、税金負担なしで、基金から入ってくる。失業手当も充実し、うまく利用すれぽ、失業中でも優雅な生活が出 来る。老後の心配もなく社会保障はあまねく行き渡っている。ドイッの福祉の歴史は古く、ビスマルクの時代にまで    ハエレ さかのぽるといわれるが、近況は、まさに福祉漬けである。そして、汗の結晶の所得は大きく課税されて福祉にぽら まかれる。これでは、人々の心の中に怠惰が忍び寄ってくるのは自然のなりゆぎというべきであろう。 ︵1︶ 一八八○年代にビスマルクの創設になる社会保険制度︵≦o匡㌶欝聾鐸齢︶  社会保険制度の一部として導入した。 が存在した。そして、一八八九年に年金制度を  二 高齢者福祉と信託の史的背景  英国では、古くから、公益活動の法的手段として、ひろく信託を用いてきたという歴史的伝統がある。一六世紀頃、 宗教政革やヘンリー八世による膨⋮マ法王との対立から、カトリック教会の力は後退し、多くの修道院や社会福祉施 設が解体された。当時、社会状勢の変化は多くの貧民をつくりだした。そうしたなかで教会の組織にたよらず貧民救 済を図ることの必要から、慈善信託がひろく利用されるようになった。こうして、英国の慈善︵公益︶︵3毘受︶信 託で、救貧目的のものが主流を占めるようになった。一六〇一年、女王エリザベス一世のときに、3銭牌く︵慈善ない し公益︶法制の源流ともいうべきの戴無。90冨葺呂一。9。。 。︵慈善ないし公益信託条令︶が制定されたが、この法律 は、慈善︵公益︶目的を老人・廃疾者・貧民の救済など具体的に明示することによって、慈善︵公益︶信託の濫用を

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       ︵圭︶ 防ぐとともに有益なチャリティを保護・促進することをめざしていた。英国の社会福祉について語るとき必ずエリザ ベス救貧法制度に触れなければならない。エリザベス救貧法は、一五九八年の﹁貧民救済のための法律︵↓ぼ︸。9曾 籔。鱒象亀亀魯⑦ぎ震とをもって始まる。そして、最も重要視される救貧法を皿九世紀の足場の上に編み直した一八 三四年の﹁救貧法改正法﹂を経て一九四八年に至るまで英国の法律として命脈を保った。この年の﹁国民扶助法﹂に とってかわられるまで実に三五〇年救貧法制度は続いた。一五九八年救貧法は、不具者、無能力者、老人、盲人その 他の貧困者で労働することができない者に必要な扶助を与えることなどの目的のために、地方税︵逗霧︶を徴収し、        .︵2﹀ また教区ごとに﹁貧民の世話人︵o︿霧。塞9岳。箸Rとを任命するために制定された諸法を統合し拡張した。一六 〇一年にエリザベス救貧法は、正式に再制定されているが、同年には前記したo 。欝言8亀○訂葺呂一。¢毯が制定され ており、この慈善信託条令と救貧法との両面からの社会福祉への貢献は注目される。また、一九三〇年の救貧法第一 五条は、一九二九年の﹁地方自治法﹂に基づき、一八三四年の制度の下で担当部局の指針として、法の目的の一つと して、﹁不具者・無能力者・老人・盲人その他の貧困者で労働することができない老に必要な扶助を与え﹂としてい る。信託も、一八五三年慈善︵公益︶信託法︵○げ毘欝巨。浮霧$>8、一九六〇年慈善︵公益︶信託法︵○錺導奮 ︵3︶ >8など社会福祉に大きく貢献してぎている。現代の英国における信託の主な利用の仕方に、信託を活用して、退       ︵4︶ 職した従業員とその扶養家族のために年金を準備することもできる。これも老後生活の一つの保障ということもでき よう。 東 洋 法 学 ノ\ 一

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︵ユ︶ ︵2︶ ︵3︶ ︵4︶  高齢者福祉のための信託の活罵と年金式融資について 田中實﹁公益法人と公益信託﹂六三頁。溶8榊8欝浮窪審P司籔ζo留き9≦90げ震置βあ馨 ζ拶猛80 ご毎β↓欝Oo急⇒磯o︷籔o≦・薮30 ゆ襲。添薮⑦輿一〇〇〇 。・ じ溶無器♪ピ謂匹>ω鷺。窃o病○σ簿餌び一。浮霧窃弩駄頴弩鳥薮8ωし竃9 0●切●℃震ぎ村ゆa>.搾ζ色o器︾縛欝竃○審導いo≦o門ギ彊器輩号︵おおy 三 土地信託の活用による高齢者福祉施設の建設 八二  土地信託は、個人や企業の土地を信託銀行が受託し、この土地にビルやマンション、住宅などを建設、収益から経 費や手数料を差し引いて地主に配当を支払う支組みが一般的に考えられる。これは、ビル建設に伴う資金の調達、支 払い、入居者の募集まで一括して信託銀行が請け負うため、地主にとっては、資金がなくても土地を有効活用し、配 当がもらえるというメリットがある。土地信託には、いくつかのタイプが考えられるが、土地信託を使って賃貸事業 をする場合の賃金事業型と土地信託を使って分譲事業をする場合の分譲事業型がある。土地信託の特色は、型式的に は所有権は受託者に移転するが、実質的には土地所有者︵受益者︶に所有権が留まり、信託終了時に当該土地は受益 者に交付される。ただし建物については、借家法の適用を受ける。実質的に土地所有者︵受益者︶自ら事業を行う場 合に等しく、事業利益を全面的に享受できる。土地の開発・運用に伴う事務は信託銀行が行う。信託受益権を相続す ることになるが、この評価は信託財産そのものの評価となり、不動産をそのまま相続する場合と同じである。一般的 には、土地の所有と利用を分離し、供給の促進に資することや受益権の譲渡を通して流動化に資することも期待され

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る。また、土地に改良・加工等を加える点で事業執行型の信託であり、この過程で信頼関係に基づく利害調整的機能 が受託者に期待されている。さらに通常、土地信託内で建設費等の調達を要するため、信託財産ないし受益者に対す       ハまレ る信用供与機能も内在するものであることなどである。こうした土地信託の特徴は、土地所有者は、その土地を信託 銀行に信託するだけで賃貸ビル事業等による収益を享受することができ、土地所有者が建設会社や金融機関との折衝、 テナントの募集︵テナントと賃貸契約の締結、賃料改定交渉︶、建物の管理等の煩わしい手間をかける必要がない。 また、土地所有者に資金需要が生じた場合には、その必要な額に応じて信託受益権の一部を譲渡することによって、 必要額の資金手当が可能である。さらに、債務を負った信託であり相続税もしくは生前贈与における贈与税課税対象 額の圧縮効果がある。現状として行われ、また、検討されている土地信託の実際をみてみると、都市再開発に活用す る例では、大阪府高槻市が住友信託銀行に委託して、国鉄高槻駅南側の再開発地区の一角に、ホテルを主体としたビ ルを新築することになった。民間資金を導入して公有地を活用する新しい方策として注目されているが、民間活力導 入の一環として、テクノポリス︵高度技術集積地域︶の建設や国鉄用地の有効利用に土地信託を使うことは当然増え ると考えられる。今回の対象土地は、高槻駅南側の市街地再開発事業区域二七ヘクタールの一角にある二千百平方メ ⋮トルである。また、土地信託方式を導入して高齢者だけの大規模集合住宅﹁ライフヶアビレッジ﹂を横浜市港北ニ ュータウン内に建設する構想について中央信託銀行、中銀マソショソ、フジタ工業の三社が明らかにしている。これ は、ニュ⋮タウン内の土地所有者から土地の信託を受け、住宅三千戸を分譲、賃貸するほか、診療所、リハビリセソ ターなど高齢者のケアサービス施設を建設、土地所有者にはビレッジの管理、運営から出た利益を信託配当として還

    東洋法学      八三

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    高齢者福祉のための信託の活用と年金式融資について       八四 元する。構想によると、高層マンシ滋ンを二千戸、庭付き一戸建て五百戸、タウンハウス五百戸の計三千戸を建設す るほか、ケア施設として総合診療所、リハビリ施設、スポーツ・カルチャi施設、レストラン、ケアハウス︵人工温 泉、CATV︵有線放送︶︶、寝たきり老人の介護施設を整備する。敷地の一〇ー一五ヘクタールは、土地所有老が中 央信託銀行に信託、例えば高層集合住宅の場合、住宅は入居者に分譲するが、土地所有者は、食堂、浴場、体操室な ど入居者の利用する共用部分を所有、その使用料を土地信託の配当金として受け取る。信託業界は、土地信託が軌道 に乗ったのを受けて、信託協会などを通じて大蔵省に対して税制優遇措置を求めている。信託の登記や抹消するとき の登録免許税︵現行は不動産価額の千分の六︶を非課税にする、などで、これが実現すれば、さらに土地信託が利用 されやすくなると期待している。 ︵王︶ 拙稿﹁土地信託の法理と実際﹂東洋二一巻二号二三頁以下。 四 浪費者信託︵9窪警ξ簿齢毎8と保護信託︵ギ08鼠6窺霧轡︶について  老齢者の福祉と信託を考察する上において、米国における浪費者信託︵。 。で窪祭ぼβ霧窃榊︶と英国における保護信託 ︵冥黛。&ぎ嘗霧僧︶およびわが国の特別障害者扶養信託も浪費者信託に類似する点があるので比較検討してみることに する。なお、わが国で。 。唱窪無ぼ簿讐霧肖は一般に浪費者信託と訳されているが、制度的内容を検討すると適切な翻訳 ではない。また、その史的研究は重視する意義は少なく、現代に発展した理論と運用がより重要視されるべぎであろ

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         ︵王︶ う。。 ・℃9島ぼ簿榊毎雪は、受益者たる浪費者の扶助および生計維持を目的とするために、米国において発生し発展し た制度であり、わが国の特別障害者扶養信託に類似するもので、いわゆる財産管理を十分にできない人の保護を目的 とする信託である。この浪費者信託は、当初は単に浪費者保護のためにのみ認められたにすぎなかったようであるが、 しだいに病弱者、老弱者など、この保護は多くの種類の受益者に対しても適用されるようになり、今日では、自己の        ハ レ 財産状態を適切に指図し得ぬと推定されるすべての受益者を補助するために広く利用されている。米国における浪費 者信託とは、信託法リステイトメント︵濁①ω翼Φ簿。艮9魯。欝≦9↓纂器︶第一五二条第二項によれぽ、信託約款 ︵浮。§霧oコぎ賃霧齢︶または法令︵器齢長①︶によって、受益者の権利について任意的または非任意的な権利移転の          ︵3︶ 制限を課した信託をいう。たとえば、甲が乙を受託者として丙のために一千万円を受託し、その収益を丙に交付する 信託において、その信託約款中に丙が受益権を他に処分することができない旨の条項、ならびに、丙の債権者Aがこ        ︵4︶ れに対し差押えをなすことができない旨の条項を付しているような場合である。その法的性質は、信託約款中に、信 託受益権について受益者の任意処分を禁止する旨の条項︵匿霧。黛冥窪邑o疑︶と、受益者の債権者が受益権について       ︵5︶ 差押えをなすことがでぎない旨の条項とを包含する信託である。すなわち、受益権の譲渡・差押えを直接的に禁止す る信託条項について、法的効果を与えることを目的とするということである。換言すれば、受益権の移転性に関する 制限は、受益者の権利の性質そのものに基因するものではなく、委託者の意図を反映した浪費者条項︵。 ・麓&樽ぼ婆 畠窃。︶に基因するということである。巷窪祭導簿賃霧侍︵浪費者信託︶なる名称が最初に用いられたのは、米国裁判        ハ レ 史上、一八七五年にペンシルパニア州裁判所で審理された壽浮貰無.。 。>署。巴事件であるといわれている。浪費者儒

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    高齢者福祉のための信託の活用と年金式融資について       八六 託という名称とその有効性を決定的なものにしたのは、一八八二年にマサチューセッツ州裁判所で審理された       ︵7︶ Oo8毘≦避2彗o暴湊欝鼻<・>3塞事件であると言えるであろう。当該事件において、竃簿霧主席判事は﹁浪費者信 託は、必ずしも公の秩序に反するものではない﹂と判示したのである。それ以来、若干の州を除いて、カリフォルニ ア州など数多くの州において、判例または立法によって、浪費者信託を容認するようになったのである。浪費老信託        ︵8︶ における受益者の範囲についてみると、当初はたんに浪費者保護のためにのみ認められたにすぎなかったのが、しだ いにこの保護の範囲は浪費者に限らず、未成年者、禁治産者、準禁治産者のような無能力者でも受益者となり得るよ    ハ9︶ うになり、今日では、自己の財産状態を適切に指図しえぬと推定されるすべての受益者を補助するために広く利用さ         ︵鐙︶ れるようになってぎた。このように、かなり広い範囲の受益者を認めているにもかかわらず、浪費者信託︵。 。篤鼠再鐸蕎 轡毎8という名称が用いられたのは、受益者の生活維持困難と同時に窮乏および自衛無能力︵汐8饗。芽 ♂門 ω。騨       ︵獄︶ 冥08鼠象︶を救済するために設定されたもので、とくに浪費者の保護を主たる目的としたためである。英国におい ては、米国で利用されているような浪費老信託は容認されていないが、浪費者信託に類似するものとして、保護信託 ︵嘆o薄牙雲籍εが利用されている。この信託は、実際上、浪費者信託の機能を果すものといえるであろう。ちなみ に、ゆ謁。昌教授は、﹁少なくとも、ある限度内において、保護信託は、英国の裁判所が有効であると考えなかった浪       ︵翅︶ 費老信託の代替物である﹂と述べている。英国では、保護信託は、立法によって︵司毎器。︾9鷲も 。︶、信託約款に権 利喪失条項を詳細に記載しなくとも、単に保護信託であるとするだけで、設定され得ると想定されている。保護信託 は、当初一般の信託と何ら相違するところのない信託として設定されるのであるが、ただ、受益者として指定された

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者が受益権を譲渡した場合、または、債権者が差押えたりした場合、当初の受益者の権利は喪失するが、引き続いて、 当初の受益者の他に、その扶養親族およびその子孫からなる集団のすべての者のために、その利益の給付をなすこと          ︵捻︶ を目的とする信託である。この信託は、前にも触れたように、受益者として指定された者が受益権を譲渡した場合、 または債権者が差押えたりした場合、裁量的になるという仕維である点に特色がある。保護信託は、浪費者信託と同 じように、信託約款によって、受益権の移転を制限するものである。しかし、浪費者信託における受益権の移転制限 は直接的であり、受益者は、受益権を譲渡したり、債権者から差押えられたりしても、なお受益権を享受し続けるの である。これに対し、保護信託においては、譲渡したり、差押えられたりした場合、当初の受益者は排他的な受益者 の地位を失ない、以後、当該受益者およびその扶養家族・子孫のために、受託者の自由な裁量による裁量的信託に変 質するのである。英国においては、米国における浪費者信託のような信託は存在しない。なぜならぽ、浪費者信託に おいては、当該受益権の質入、譲渡の禁止特約および差押え禁止特約を付しているからである。わが国に浪費者信託 を導入した場合、現行法制下においては、その受益権の移転性が問題となるであろう。なぜならば、浪費者信託は、 当該受益権について、譲渡禁止ならびに差押え禁止︵強制執行排除︶の条項を包含するからである。従来、浪費者信 託における受益権の非移転性を容認することは、﹁公序良俗﹂︵民法九〇条︶に違反するとの理由を根拠として、米国        ︵U︶ における浪費者信託のような制度は絶対に有効に成立し得る余地はないと言われてきた。しかしながら、後述する特 定贈与信託においてみられるように、ただ受益権の非移転性のみが問題とされるならば、受益者の態様によっては、 適当な一定の制限のもとに信託受益権の非移転性を容認されてしかるべきではなかろうか。浪費者信託に類似するわ     東 洋法 学      八七

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    高齢老福祉のための信託の活用と年金式融資について      八八       ︵焉︶ が国の特別障害者扶養信託は、重度の身障者の生活の安定に資することを目的とするものである。信託法理を活用し た社会福祉を実現する民間べ⋮スの一制度としてこの特定贈与信託があみだされたことの意義は大きい。わが国とし ても、浪費者信託などを導入し、身障老の老後を考慮する必要があり、やはり、目下、作業が進んでいる信託法と信 託業法の改正にむけて形あるものにするため研究をしなくてはならない。ことに、身障老の実態調査︵武蔵野市昭和 五九年一二月二一日調査結果︶では、自分の老後と、介助老がいなくなることの不安、悩みは、いま身障者にとって 一番大きな関心事となっている。若い世代では、身障がなくとも、老齢化すればする程、身障者になる確率は高く、 この点も、高齢者福祉にとって忘れてならない重要な点である。特別障害老扶養信託に関連して信託受益権の移転性 など法的に充実させ、また、課税問題にしても、非課税の対象となる贈与の限度額が三千万円であるが、非課税対象 額は早晩、倍額に引ぎあげるべきであろう。とくに、老後生活の安心のための信託の研究が学界サイドにおいても早 急になされるべきであろう。 ︵1︶ ︵2︶ ︵3︶ ︵4︶ ︵5︶ ︵6︶ >≦あ8欝︾鐸一凝①30糞o構普oい簿≦o鴇縛毎の葺℃泌o oQ 。D 海原文雄﹁英米法講義﹂三〇〇頁。 >≦りの8F︾σ誌ααq・5霧簿9簿①欝≦竃︾ま叶ωも沁o。も 心,ρρ浮鴨詳縛簿。 。β①警⑦創も﹂ミ’ 入江真太郎﹁浪費者信託﹂法曹会雑誌第一七巻第一号六五頁ー六頁。切詣魯もや。欝三蕊参照。 入江真太郎・前掲六五頁。 慧評本象︵一〇 〇ま︶︾暮 蔭。2●O構一ω≦o算ω瀦&昌ぼ洋鐸霧轡ω08象亀ぎ≦びo一⇔黛ぼ℃貰酔8二ぎσ窪o簿o病穿o。 。①aoぴ鎖壁践儀[③≦

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︵7︶ ︵8︶ ︵9︶ ︵鉛︶ ︵U︶ ︵鴛︶ ︵B︶ ︵14︶ ︵15︶ 卿。︿一窪受鼻獣も麩一参照。  蕊q 。ζ霧。 。﹂8︵岡o oo o鱒ご>.≦あ8欝︾ぼ箆磯o簿o誉o㌘ぎゼ”≦oら炉霧樽のもbo o♪ ③﹂信託と証券第二巻第一号一七−八頁参照。  海原文雄・前掲書三〇〇頁、入江真太郎﹁前掲論文﹂六八頁。  入江真太郎﹁前掲論文﹂六八頁。  海原文雄・前掲書三〇〇ー一頁。  沢野二郎﹁前掲論文﹂信託と証券第一巻第六号三四頁。  o ごoα登○詳浮5鼻O静&“℃篇8。  ↓毎無8>〇二〇ま動な ρな 。︾釦品R♪oや鶏●︾℃漏8●  佐藤仁﹁浪費者信託の有効性について﹂信託一二露号八九頁以下。  石井崇﹁特別障害者扶養信託について﹂信託法研究第四号一七頁以下。 沢野三郎﹁米国に於ける浪費者信託に就て 五 民問ベースによる老後の生活資金支給制度と信託  高齢化社会への歩みのなかで、社会的要請から信託法理を活用したいわゆる社会福祉を実現する民間べ;スの一制 度として、 ﹁老後安心信託﹂なるものがあみだされた。これは、信託方式による高齢者向け生活資金支給制度で、昭 和五十九年一〇月から三井信託銀行により、わが国で初めて行なわれたことは注目される。自分の家屋や土地を持ち ながらも、金融資産が十分でなく、暮らしに不安を感じている老齢者は多い。事実上、自宅を持ちながらも生活費に 困っている高齢者を対象に、居住用不動産を信託財産として、生活費を一〇年間にわたって支給する老後のための信 東 洋 法 学 八九

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    高齢者福祉のための信託の活用と年金式融資について      九〇 託である。内容は、後述するが、一番の心配は、現状のまま自宅に住んでいられるか、ということであるが、これは 信託契約の際に、同時に不動産の賃貸借の契約を結んで、ひきつづきそのまま住んでいられることになる。  この信託が利用できるのは、満七〇歳以上の老齢者に限られ、一人住まいの者で相続人全員が連帯保証人となるこ とのほか、相続人の中から身柄引受人一名および第二順位身柄引受人一名をあわせて設けることができる者で、公正 証書遺言により信託銀行を遺言執行者として指定できる者となっている。信託の対象となる財産は、この信託が一〇 年間にわたって生活費を年三百万円から五百万円の範囲で支給する関係上、利用者が現在所有している居住用の不動 産︵土地・建物︶で、土地の売買時価が二億円以上のものを対象とする。なお、マンションは対象とはならない。信 託価額は、土地の売買時価の五〇パーセント以内で、かつ、原則として一億円以内とする。この信託を受託している 三井信託銀行の試算によると、月額二〇万円の生活費を得る場合には、固定資産税や信託報酬、信託登記料、火災保 険料、金利支払い分などを含め、年に約四百万円の資金が必要となる。この場合、金利支払い分を含めると一〇年間 で七千万円に達する。このため、信託期間︵賃貸借期間︶は一〇年以内とする。そして、一〇年後に信託財産を処分 して決済し、差額は委託者に返済する。ただし、委託者が途中︵信託期間中︶で死亡した場合は、その時点で信託契 約は終了することになり、不動産を売却して決済することになっている。受益権証書の作成と交付については、信託 契約を結ぶと、信託価額相当額の受益権証書を作成し交付する。生活資金の受け取り方法であるが、これは、まず、 受益権証書を年一回百万円単位で資金化して、生活費にあてる。そして、受益権証書の資金化にあたっては、信託銀 行が青任を持って年金基金などに譲渡あっ蛭んし、委託者に確実に資金を得させる。なお、資金化する金額について

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は、委託者の必要とされる生活費、國定資産税、利息などの費用や年金、恩給などの収入を個別に相談の上、決定す る。信託元本の返済については、信託の元本は、信託契約が終了した時、もしくは委託者の死亡した時に、信託財産 である不動産の売却代金をもって一括して返済する。利息の返済については、利息は、毎年二回︵三月・九月︶、委 託者の普通預金隣座から自動引落しによって支払うことになる。信託法では、受託者︵簿霧露︶は、信託の設定者 ︵。。終算︶が信託︵稗柄援︶を設定した際の意思表示にしたがい、もっぽら受益者︵σ窪。導母く︶の利益を図る義務を負 う。わが国の信託法では、聾ぎ♪謄毎。。馨は委託者という言葉を用いている。したがって、この老後安心信託を利用 したいと思う人が委託者︵の象算閣毎弩穫︶となり、それを受託する信託銀行が受託者︵簿霧樽8︶となる。この信託の 受益者は勿論、委託者自身ということになる。英米法では、信託については、受託者︵鐸霧露︶は高度の忠実義務を 課せられる関係を段琴再実邑讐o漢窯℃︵信認関係ないし信頼関係︶と表現しており、わが国でも信託銀行は、信託 法および信託業法により、その忠実義務は厳しく規定されている。英米では、信託のほかにも、遺言執行者︵窪9亭 響︶または遺産管理人︵匙鐵旨樽舅段︶と相続人との関係、弁護士と依頼者との関係などが臣蓉讐く邑呂象隆℃に あたるとされている。信託は、委託者の意思表示︵遺言を含む︶で設定されるのが本来である。この意思表示は、信 託条項︵韓導。 。9賃霧併︶となる。英米では受託者は、この§霧9鐙器一および信託法規の準則にしたがって、信託財 産を管理・運用しなければならない。わが国の信託法第一条は、信託とは、財産権の移転その他の処分をなし、他人 をして一定の目的にしたがい、財産の管理または処分をなさしむることであると定めている。この定義によれば、信 託とは、ある人︵委託者︶が財産権を、ほかの人︵受託者︶に引き渡し、他人︵受益者︶のために、ある目的︵信託

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    高齢者福祉のための信託の活馬と年金式融資について       九二 目的︶にそって、その財産︵信託財産︶を管理したり、処分してもらうという制度と一応定義することがでぎるが、 信託の定義の見直しも改正法作業の素案としてでている。これによると、財産の移転を受ける人︵受託者︶、つまり 財産の名義人に着目して、この名義人︵受託老︶の側から信託を定義しようという試みがなされている。受託者には 財産の管理処分の権限が与えられることになるが、これは他人のためにもちいられなくてはならない。信託の種類の なかには証券投資信託のように、そのつど委託老の指示を受けて財産の管理処分を行なうものもあるが、たいていの 場合は、受託者が、信託の目的にしたがって、積極的に信託財産を管理処分する権能と義務とを負っている。信託は、 財産の名義そのものが受託老に移って、受託老が名義人になって管理処分を行なうのであるから、管理処分は、受託 者のためではなく、信託の目的にしたがって他人︵受益者︶のために行なわなければならない。この場合の受託者の 信託目的にしたがう忠実義務は重要な責務のひとつである。受託者は、信託する人︵委託者︶が指示した信託の目的 に拘東され、この信託目的の拘束のもとに管理・運用をする義務を負うから、この信託の目的は、受託者が信託義務 を遂行できる程度に行動の指針として示されていることが必要であり、これを信託目的の確定性という。信託の目的 とは、自分の財産を公益のために寄付するとか、老後保障の年金の支給を得るために年金信託の契約を結ぶなど信託 の目的は様々なものが考えられる。しかし、脱法目的や債権老を詐害するために信託を利用することは禁じられてい る。受益者については、脱法目的の信託に該当しない限り、どんな老齢者、身障者、幼児でも受益者になれ、これか ら生まれてくる子供など現存しない人を受益者に指定することもできる。また、ここで触れる﹁老後安心信託﹂のよ うに委託者が自分自身を受益者に指定することもでぎる。このように財産の運用を頼んで自分がその利益を受けとる

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という自益信託が多い。なお受託者は、信託財産を管理する義務を負う者であるから、原則として受益者になること はできない。ただし、受託者が何人かの共同の受益者の一人になっている場合は、例外としてその信託の利益を受け とることは差し支えないことになっている。前述したように信託された財産は、受託者の名義に変えられるが、信託 目的にしたがって受益者のために管理する財産であるから、他人の財産を扱うような慎重さで管理しなけれぽならず、 分別管理の原則により受託者自身の財産とも区別して管理しなければならない。不動産などの信託を引き受けて、こ れを賃貸したり、売却したりすると金銭収入があるが、この金銭も信託財産として信託法の保護を受ける。火災で家 屋が焼失し、火災保険金を受け取った場合など、信託財産が損じたり、消滅したりした場合に、受託者が受け取った 損害保険金や賠償金なども信託財産として取り扱われ、受託者が忠実に管理しなければならない。民法上、土地の地 上権を有する者が、その土地の所有権を併有するようになった場合は、地上権など所有権以外の権利は消滅すること になるが、地上権の信託を引き受けて、後に、受託者がその土地の所有権を取得する場合は、信託財産の独立性から、 信託法では地上権は消滅しないと定めている。なお受託者が委託者との契約を守らずして勝手に信託財産を処分した り、信託財産の管理が不適当なために、信託財産に損害を与えたような場合には、受益者は受託者に対して損害賠償 などの請求がでぎる。︵信託法については、水島廣雄﹁わが法制における信託の観念﹂参照︶。 六 不動産担保による年金式融資 居住用不動産を抵当に入れて生活費を融資する年金式融資は、    東 洋 法 学 昭和五九年春に安田信託銀行が開発したもので、       九三 米

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    高齢者福祉のための信託の活月と年金式融資について      九四 国の﹁リバ⋮ス・モーゲージ・ローン﹂や武蔵野市の﹁福祉資金貸付制度﹂に類似しているとも考えられる。社会清 勢の変化を背景に、老齢者の中には、現状では不動産を処分したくないが、不動産を担保に年金として受け取りたい という要望が多い。この年金式融資は、こうした要望にこたえたもので、当面、七〇歳以上の独居老人を融資対象に している。自己所有の土地・建物の担保評価額を基準に、生活資金や医療費として、三ヵ月ごとに年四回、一〇年間 にわたって一定額を融資する。利率は、融資時点の残高に対して、長期プライムレート︵現行七・八パーセソト︶を 適用する。返済は、担保不動産の処分により精算する。たとえば、三ヵ月ごとに五〇万円︵年二百万円︶を一〇年間 借りた場合、現行の長期プライムで計算すると、一〇年後の元利合計は約三千万円︵内、元本二千万円︶となる。こ の融資方法は、単に、返済は借手の収入からという従来の銀行の常識を覆しただけではなく、これまで、融資の対象 から外れていた収入のほとんどない老人に焦点を当てた点でもそれは十分注目に値する。ただし、全てにおいて優れ たものかというと実際上、非常に問題がある。まずその融資条件は、目下のところ非常に厳しい。年齢は七〇歳以上、 原則として都内二三区に住む一人暮しの老人で担保の土地は当面評価額一億円以上としている。そして、マンション 居住老は、この融資の対象になっていない。その理由は、マンションの担保価値は、いまや年に七バーセソトずつ下 落しているといわれている。また、夫婦の場合が除外されているのも問題である。信託銀行側は、夫婦の場合、本人 が死亡したから同居の配偶者に退居を要求するのもしにくいとし、そうしたトラブルも回避したいとする。年齢を制 限したのも、この型の融資では利息元利が早期に増加するためとする。現在、月々の融資額は、一応、二〇万円を目 安にしているが、金利を一般・∼ンより安い八・五パーセントの長期プライムレ⋮トを採用しても、融資期間を平均

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寿命の八二歳までと見立てると、終了時の元利合計は四千九百万円になる。担保評価が一億円以上というのは、さら に長生きされて契約を継続される場合、障害にならないようにという配慮からとしている。この融資式の決定的問題 点も指摘しておかなければならない。それは、契約者が寝たきり老人となってしまった場合どうなるかは、一番関心 のあるところであるが、信託銀行側は電話連絡は密にとるが原則として訪問はしないとする。融資の形式も三ヵ月ご との銀行振込みとし、介護に関しては、すべて本人任せでいっさい関与しないのが建前とする。これでは福祉にほど 遠く、将来の展望がどれほどあるか疑問である。一般の老齢者にとって、担保評価一億円以上という制限をどうとる かも問題である。将来この制限をどこまで下げられるのかということも課題である。都内とはいえ一億円以上の土地 を所有している勤労者はそういない。大体において三千万円から五千万円どまりである。郊外にマイホームを建てた 人々にとって、一億円の評価額などは夢といえよう。果してそういう人々が恩恵にあずかれるか可能性はなきに等し い。勿論、借入金額を低くすれば別であるが、それでは意味がない。低い評価額で借りられる可能性は、高年齢に達 してからであり、概算すると三千万円から五千万円程度の土地の所有者は、八○歳を超えなけれぽこの制度を利用す るのは無理と推測される。金融機関としては、元本が増え続け利息も入ってこなく、契約時に相続人の同意をとりつ けて、かつ遺言書に死亡後の速やかな担保処分を閉記してもらっていたとしても、絶対に紛争が起きないとはいいき れない心配もある。ましてや契約時点で同居人がいなくても後に入ってぎたらどうなるかという問題もある。契約違 反としてみたところで現実には解決にかなりの時間を要することは推測できる。銀行側ではイメージアップという重 要問題もあると思われるが、それだけに融資の条件は今後一層厳しくなりこそすれ緩むことはないと考えられる。

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    高齢者福祉のための信託の活用と年金式融資について      九六  この種の融資方式は、米国などではかなり一般化している。ただし、その借り方は、わが国とはいささか差がある。 米国の貯蓄貸付組合が取り扱っているρiンの一種であるリバ⋮ス・モ⋮ゲージ・ρ;ンは、自己所有の家屋のある 退職者に対し、一定期間︵おおむね五年︶、この不動産を担保に毎月一定額を期限まで融資する。期限がきた時、不 動産を処分して精算する。したがって、借りる期間も終生というわけではない。その間、彼らはその金で海外旅行を したり、実に裕福で充実した人生を送り、通常は、五年たつと担保にしていた不動産を売却し、返済分の残りで有料 老人ホームに入る。彼らには一生懸命働いて残ったものは自分の資産とし、子供に残すより、自分の次なるライフス テ;ジのために有効利用する、そういう意識が強い。わが国の自治体で年金式融資を実施しているのは武蔵野市があ る。これが武蔵野方式とよばれているものである。昭和五六年四月、同市の外部団体として設立された福祉公社を母        ︵圭︶ 体として、武蔵野市民のみを対象に実施している。この融資額は月額約八万円である。利用の条件は、原則的に六五 歳以上の高齢者ないし身障老で、担保として不動産を提供できる者となっている。現在二八世帯が利用しているが、 武蔵野方式の特色は、公社の有料福祉サービスとドッキングしていることである。この方式の発想は、福祉とは弱者 対策とするが、資産があっても定収入がなく、在宅のまま、十分な介護を受けられないでいる老人もいる。こういう 人達をどうするか、であった。そこで、とりあえず武蔵野市内で老人が暮すには月に一人一五万円から二〇万円かか る。うち公的な年金で一〇万から一五万円はまかなえる。八万円というのはそれを補う生活費として算出した額とし ている。武蔵野市では、したがって、担保となる土地の評価額もほぼ三千万円以上ならば充足する。同市では、老人 が寝たきりになって以降の介護費として約百万円を別途に融資したりもするが、それらに利子を加えると、ほぼ一〇

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年後の返済金は千五百万円になる。信託銀行の年金式融資のケ⋮スと同様に担保の掛率を五割とみれぽ、それで十分 であるとみている。しかし、武蔵野方式もその展望は必ずしも明るくないのが実情のようである。借手が抵当価格以 上に長生きしたらどうするか、その辺がまったく解決されないま濠実施されている。現在、武蔵野市はこの制度のた めに年間四千万円余りの特別予算を組んでいる。これは担保が処分されれぽ戻る金であるから無駄な出費ではないと いうが、果してそうであろうか。歳月が経過すればするほど、自治体の負担が増す危険性は大いにある。一般に老齢 者が寝たぎりになる期間は、亡くなる前の半年以内が圧倒的に多いとされている。しかし、そのようになると付添婦 の費用だけで一日約一万円はかかる、それに食費など諸経費を加えると百万円ではとても足りない。ではどうしたら よいか、担保に余裕があれば借り増しも可能であろうが、結局、平常からその日のために少しずつでも貯金をしてい かなければならないことになる。なけなしの土地を差し出したにしては、気分的には楽園という具合にはいかないと 考えられる。武蔵野方式も、マンションは形式上担保になり得るが、評価は低く、実際は担保になりにくいという実 状もある。また今後、武蔵野方式の適用を受けたくて、武蔵野市に移住する人々と武蔵野市で生れ育ち、長い間、市 民税と固定資産税を納めてきた人々との感情的な問題も当然、出てくるものと考えられる。一方、信託銀行の年金式 融資の契約が親子にどのような心理的影響を与えるかという問題もある。子供にしてみれば、親は自分たちを信用し ていないから、そういうことをするのだと思えるし、逆に親の側は、こんなことをしたら子供の立場や心証を害する のではないかと心配もする。結局、老人の人生観によるわけであるが、何十年もかけてやっとpーンを払い終り、続 いてそれを担保に老後を楽しむお金を借り、ついには自らの死と共に一切が消滅する、という思考が現実問題として     東洋法学       九七

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     高齢考福祉のための儒託の活用と年金式融資について      九八 どうか、日本人の精神構造からすると考えさせられるところもある。また、税制との問題もないとはいえない。もし、 この年金式融資を相続税対策に利用したら問題もでてくる。年金式融資は、要するに借入金であるから所得税はかか らない。申告の必要もなく、この形式で月額二〇万円の融資を受けると、受給金を全部相続人に渡しても分らない。 普通、贈与については六〇万円まで税金は免除であるが、それ以上になると課税対象となる。それがこの年金式融資 の形式にのっとれば、露見しない限り、限度額の三倍以上の額を毎年、相続人に無税で贈り続けることも可能である。 それを一〇年、二〇年と続けた場合どうなるかは承知のところであろう。最後は土地を失っても、まともに相続して 多額の税金を取られるよりはと考える資産家もないとはいえない。非常に余裕のある人たちがこの方式を利用すると したら、本来の意味を失うことになりかねない。 ︵1︶ 対象者は、市内在住の高齢者か三級程度以上の障害者で、まず福祉公社に申込書を出し﹁家事援助等給付契約﹂を結ぶ。   契約後は、月額一万円の基本サービス料を払う。この基本料の範囲で受けられるサ⋮ビスは、①ソーシャルワ⋮カ⋮によ   る相談、話合い、②公的サ;ビスや給付についての手続き、③財産問題、法律問題についての相談と専門家の紹介、④看   護婦による療養上の世話についての技術的援助、利用者の健康の維持、増進活動に対する協力、⑤緊急時通報システムの   受信と対応︵装置の取付は実費︶、⑥繕常生活に必要な事務処理、⑦緊急事態発生時の措置︵通院、入院の手配等︶などで   ある。

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おわりに  信託は、その当初、遺産を教会に寄進し、その宗教心の熱き願いを神に託すことにもあった。そして、教会や修道 院がこれを慈善活動に使うことにより貧民救済や社会福祉に貢献したのである。現在、信託はまさしく花が咲き始め た感がある。様々な高齢者福祉対策が考慮されることを願っているが、早急に民間ベースでやれるものは信託方式で ある。前述した諸施設の建設資金はもとより、管理費、維持費も公益信託をもってすれば解決できる。豊かなる老後 生活こそ、われわれの願いであり理想ではなかろうか。決して﹁うぽ捨て山﹂的な社会にしてはならない。親孝行は 最高の道徳であることは異論はあるまい。わが国の現代の豊かさは、実に老齢者が血と汗と涙で築ぎ上げてぎたもの にほかならない。老齢者の施設ほど華かな都会の都心部に建設し、窓から若老や幼児が遊ぶ閉るい姿が見えるように しなければならない。また、従来、警告されてきたように人気とりの﹁ばらまぎ福祉﹂は是正される必要があり、福 祉も富んでいる者は有料、あるいは、若き世代に努力した者は老後還元という考え方も検討すべきである。買う福祉 として当初から注目を浴びた武蔵野方式も、いずれは信託方式でやらなければならない時がくるであろう。福祉の見 直しは、当然、関係法令の改正が必須条件となる。地方自治法、税法、信託法、信託業法の改正は、福祉の面からの 要望として、万人がこぞってわきあげていかなければならない。この小論を書くに当り、諸先生の御著書、御論文を 参照させていただいたが引用文献としてすべて掲載することが紙数の関係から出来なかった。いずれ、書き進めた段 階であらためて掲載させていただくことをお許しいただきたい。     東 洋法 学      九九

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    高齢者福祉のための信託の活用と年金式融資について      一〇〇

 わが国、信託法の権威でいらっしゃる水島廣雄博士︵東洋大学名誉教授・理事︶の御研究が、現代社会で益々有用

され、信託の百花練乱期を迎えつつある。人々を豊かにさせる法律の研究を小生達門弟に御指導下さっている水島博

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