過敏性肺炎における慢性・線維化病態に関する研究
宮崎泰成
Yasunari Miyazaki
【要旨】
過敏性肺炎は,特異抗原を吸入した際にアレルギー反応を起こす間質性肺炎である.本疾患の40–80%が慢性で,5年生
存率は45%と特発性肺線維症と類似し予後不良であるため,慢性・線維化機序の研究を行った.急性過敏性肺炎では,Th1
ケモカイン・サイトカインにより肉芽腫と胞隔炎を形成する.一方で,慢性におけるTh1/Th2細胞の役割は明らかではな
かったので,臨床検体および動物モデルで検討した.血清およびBALFでは,Th1ケモカインCXCL10は急性で増加し,再
燃症状軽減型,潜在性発症型の順に有意に減少を示し,逆にTh2ケモカインCCL17は急性で減少し,再燃症状軽減型,潜
在性発症型の順に有意に増加していた.潜在性発症型に多いUIPパターンでCCL17/CXCL10陽性細胞比が高く,同様にレ
セプターであるCCR4/CXCR3陽性細胞比も有意に高かった.慢性化・UIPパターンになるに従ってTh1/Th2バランスが
Th2ヘシフトしていることが分かった.慢性過敏性肺炎マウスモデルで,A/Jマウス(Th2優位)とC57BL/6マウス(Th1
優位)において比較したところ,A/JマウスではTh2サイトカインの上昇とともに線維化病変が強く起こった.以上より,
過敏性肺炎ではTh1/Th2の免疫バランスがTh1からTh2にシフトし,慢性・線維化していた.Th2へのシフトを調整する
ような薬剤が慢性・線維化を抑制する可能性が示され,今後の治療戦略に役立つと考えられる.
[日サ会誌 2014; 34: 1]
キーワード:慢性過敏性肺炎,Th1/2バランス,急性増悪,CCL17,CCR4
A Study of Chronicity and Fibrogenesis in Hypersensitivity Pneumonitis
Keywords: chronic hypersensitivity pneumonitis, Th1/2 balance, acute exacerbation, chemokine (C-C motif) ligand 17,
C-C chemokine receptor type 4
東京医科歯科大学保健管理センター 呼吸器内科 著者連絡先:宮崎泰成(みやざき やすなり) Health Administration Center, Respiratory Medicine, Tokyo Medical and Dental Universityはじめに
特 発 性 肺 線 維 症(idiopathic pulmonary fibrosis: IPF)
の臨床経過において,最も頻度の高い死亡原因は,原病の
悪化(39–72%)であり,その次が感染症である(3–14%).
現病の悪化には,慢性・線維化による慢性の呼吸不全と
急性増悪による急性呼吸不全(18–46%)が含まれる
1).
慢 性 過 敏 性 肺 炎(chronic hypersensitivity pneumonitis:
Chronic HP)においても予後を規定する因子は同様である
ことはすでに報告した
2).そこで,Chronic HPにおける慢
性・線維化機序を解明することは本疾患を含めた間質性肺
炎の予後改善につながると考え,「過敏性肺炎における慢
性・線維化病態に関する研究」を行った.
過敏性肺炎(HP)における免疫反応
HPは, 疾患感受性のある個体が, 特定の抗原(鳥な
どの動物由来の蛋白,真菌,細菌や無機物)を繰り返し
吸入することにより感作が成立し,その後再度この抗原
を吸入した時に,肺局所において特異抗体(Ⅲ型アレル
ギー)や感作リンパ球(Ⅳ型アレルギー)がアレルギー
反応を起こす間質性肺炎である
3).発症にいたるまでに
は,吸入する抗原だけでなく,遺伝的要因や喫煙など内
的外的要因により修飾され(Figure 1)
4),実際に発症す
るのは感作個体の10%未満である
5).
原因抗原は,100以上あるが,その代表的なものをTa-ble 1に示す.過敏性肺炎の疾患名は,その発症環境(職
場や住居環境)により命名されており抗原自体を表して
いないので注意が必要である.例えば,農夫肺は酪農や
牧草管理のためにサイロ内で作業することによって発症
するが,その原因抗原はSaccharopolyspora rectivirgulaや
Thermoactinomyces vulgarisなどの細菌とされているが,
フランスではAbsidia,Eurotium,Wallemiaなどの真菌
が原因とされている
6).
疾患名 発生状況 抗原 鳥関連過敏性肺炎 鳥飼育 鳥排泄物 自宅庭への鳥飛来 鳥排泄物 鶏糞肥料使用 鳥排泄物 剥製 羽毛 (羽毛ふとん肺)羽毛布団使用 羽毛 農夫肺 酪農作業 Saccharopolyspora rectivirgula,
Thermoactinomyces vulgaris, Absidia corymbifera, Eurotium amstelodami, Wallemia sebi
トラクター運転 Rhizopus属
夏型過敏性肺炎 住宅 Trichosporon asahii, T. mucoides
住宅関連過敏性肺炎 住宅 Candida albicans, Aspergillus niger, A.fumigatus Cephalosporium acremonium, Fusarium napiforme Humicola fuscoatra, Peziza domiciliana
Penicillium corylophilum, Cladosporium sp. 加湿器肺 加湿器使用 Aspergillus flavus? Phoma herbarum?
塗装工肺 自動車塗装 イソシアネート
機械工肺 自動車工場 Mycobacterium Immunogenum
(machine operators lung) (metal working fluids) Acinetobactor Iwoffii? Pseudomonas fluorescens?
小麦粉肺 菓子製造 小麦粉
コーヒー作業肺 コーヒー豆を炒る作業 コーヒー豆塵埃 (coffee worker's lung) (coffee roast factory) (coffee-bean dust) 温室栽培者肺 ラン栽培(温室) 不明(木材チップの真菌)
キュウリ栽培(温室) 不明 きのこ栽培者肺 シイタケ栽培 シイタケ胞子
エノキダケ栽培 エノキダケ胞子(?)
コルク肺 コルク製造作業 Penicillium glabrum, A. fumigatus, Chrysonilia sitophila
Hot-tub lung ホットタブ,シャワー,ミスト Cladosporium,
Mycobacterium avium complex
Table 1. 過敏性肺炎の原因抗原(文献3より引用改変) 外的要因 ●喫煙 ●ウイルス感染 ●肺局所の炎症状態 内的要因 ●遺伝的要因(サイトカイ ン /HLA ハプロタイプ) ●加齢による免疫システム の変化 ●性ホルモン 抗原の吸入 ●量 ●期間 ●肺局所での turn-over 個体側の反応 過敏性肺炎の発症 Figure 1. 外来抗原と個体の免疫の反応(文献4より引用)
表現型(急性・慢性)と免疫反応
HPの免疫反応は,抗原の種類・量さらに肺内での除去
速度,内的外的要因により複雑に制御されている.これ
らの免疫反応は,Figure 2のような病型として表現され
る.HPは大きく急性と慢性の病型に分けられるが,表現
型としての急性と慢性に対する個体の免疫反応は,Figure
3のように推定している.
急性(Figure 2①,Figure 3①)では,サルコイドーシ
スと同様に肉芽腫を主体とした免疫反応を起こす.まず,
呼吸細気管支から肺胞領域において水溶性抗原とIgG抗
体による免疫複合体が形成され補体の活性化
7, 8)に引き続
いて補体レセプターやFcレセプターをもつマクロファー
ジが活性化される.これら活性化されたマクロファージ
はサイトカインやケモカインを分泌して,好中球の流入
を促し,その数時間後にT細胞や単球を流入させる
9).ま
た,この免疫複合体の反応(III型アレルギー反応)に引
き続いて,MIP-1α(macrophage inflammatory protein-1
alpha)などのケモカインにより,肺および肺間質に集積
したマクロファージは類上皮細胞と多核巨細胞に分化し,
またIP-10(interferon- inducible protein
10)などのケモカ
インによりリンパ組織からTh1/Th17/Tc1が局所に浸潤
し肉芽腫を形成する(IV型アレルギー反応)
10–12).
一方,慢性における免疫反応については不明な点が多
い.抗原回避後の鳥関連過敏性肺炎患者の体液性および
細胞性免疫は長期にわたって残存することが知られてお
り, 慢性化の病態に関わると考えられる
13). さらに慢
性鳥関連過敏性肺炎のうち,急性に近い再燃症状軽減型
(Figure 2②,Figure 3②)では特異抗体は87%で陽性だ
が,より慢性で線維化の強い潜在性発症型では35%のみ
陽性で抗体価も低かった
14).従って急性症状に関わると
考えられる免疫複合体の関与は慢性化するにつれて低下
し,細胞性免疫がその病態において重要になってくると
推測される.その細胞性免疫で重要なヘルパー T細胞に
関しては,前述の通り,急性型はヘルパー T細胞とくに
Th1およびTh17細胞がその病態に重要な役割をもってい
ることが知られている.慢性期におけるヘルパー T細胞
の役割の解明が必要であると考えられた.
急性発症 慢性発症 抗原回避成功 改善・多数のハト飼育 ・夏型 進行(肺線維症) ・少数の鳥飼育 ・農夫肺の一部 急性過敏性肺炎 (①) 少量の吸入 持続 吸入持続 無自覚の曝露/間接曝露 不十分な抗原回避 急性症状自体 は軽くなる さらに少量の吸入持続 無自覚の曝露/間接曝露 進行 ・インコ,オウム, 少数のハト飼育 ・農夫肺の一部 ・夏型では稀に ・イソシアネート 慢性過敏性肺炎 (再燃症状軽減型) (②) 慢性過敏性肺炎 (潜在性発症型) (③) Figure 2. 過敏性肺炎の病型抗原曝露
潜在性発症型 Th2 優位 (Th1<Th2) IP−10<TARC Th1 優位+Th17 (Th1>Th2) Th2 優位 (Th1<Th2) IL-10 産生低下=Treg 機能低下? 免疫複合体 ; III 型アレルギー IL-12 産生増加=Th1, IL-17, 22 産生増加 =Th17 細胞性免疫 ; IV 型アレルギー IFN-γ γδ細胞=病変の収束? 再燃症状軽減型 慢性 慢性 急性 ① ② ③ 抗原感作 (生物学的活性) 抗体産生反復曝露
急性発症 非急性期 肉芽種形成 慢性病変感受性個体
L-6, TNF-α増加 TGF-β増加Th1/Th2バランスと肺線維化
そこで,我々はTh1/Th2バランスと肺の線維化の関係
をケモカインとそのレセプターに注目して調査した.
慢性の再燃症状軽減型では,急性発症に引きつづいて
少量の抗原吸入が持続すると症状自体は軽くなるが,慢
性病変が形成され(Figure 2②,Figure 3②),慢性化・
線維化においてTh1/2バランスがTh2へシフトすること
が肝疾患の先行研究で明らかにされ
15),間質性肺炎では
IPFで最初に検討された.IPFではサルコイドーシスな
どの対象疾患群と比較してCXCR3+(IP-10[interferon
gamma-induced protein 10]のレセプター)CD4+(Th1)
細 胞
がCCR4+(TARC[thymus and activation-regulat-ed chemokine] のレセプター)CD4+(Th2) 細胞に対
して相対的に低下し,BALF 中のIP-10(CXCL10)
(Th1
ケモカイン)が低下していることが報告された
16).IPF
ではTh1/Th2ケモカインバランスがTh2へシフトしてい
た.我々のchronic HPの解析でも,急性,再燃症状軽減
型,潜在性進行型の血清及びBALF中のTh1タイプケモ
カインIP-10は急性で上昇し,再燃症状軽減型,潜在性発
症型の順に低下し,逆にTh2タイプケモカインのTARC
(CCL17)は急性で低下,再燃症状軽減型,潜在性発症型
で有意に上昇していた(Figure 4)
17).Th2タイプケモカ
インであるTARC(CCL17)は線維化を促進すると考え
られている
18).
一方,潜在性発症型(Figure 2③,Figure 3③)は,少
量の抗原の吸入により発症し,急性症状を呈さないため
発症から病状の進行を捕らえることが難しい.UIPパター
ンをとった潜在性発症型の病理組織所見では,1例も肉芽
腫を形成していなかったことより,Figure 3③のように
急性反応を起こさずに直接線維化,慢性化に向かうと考
えられる.ケモカインの解析では,潜在発症型に多いUIP
パターンではIP-10よりもTARCの比率が高くなってお
り,Th2のシフトが進んでおり,外科的肺生検標本での
免疫染色で検討したレセプターにおいてもCXCR3よりも
CCR4が有意に増加していた(Figure 5)
17).Barreraも同
様の報告をしており,さらに慢性症例では急性において
炎症を収束させる働きのあるγδT細胞が低下していたこ
とも興味深い
19).
マウスモデルでの検討
Th2優位の状態は,個体の遺伝的素因,抗原量や期間,
抗原の種類によって引き起こされていると考えられる
(Figure 1).そこで我々は,Th1/2バランスにおいて遺
伝的背景の違うマウスでChronic HPモデルを作製し,線
維化病態を検討した.C57BL/6マウス(Th1優位)と比
較しA/Jマウス(Th2優位)では線維化が強く惹起され,
Th2サイトカイン,とくにIL-13が6週と比較し12週A/J
マウスにて有意な上昇をきたしていた.他疾患での報告
と同様に,線維化過程においてIL-13が,IL-4およびTGF-β1より重要な鍵となるmediatorと考えられた(Figure
6)
20).この研究によりChronic HPモデルでもTh2優位の
遺伝的背景が線維化を促進していることが分かった.
Th2ケモカインと急性増悪
我々の施設の症例を検討したところ,chronic HPでは
経過中に急性増悪を発症し,予後不良因子となっている
ことがわかった.また,UIPパターンを呈する患者の2年
発症率は11.5%であり,これまでのIPFの急性増悪の発症
率と同等であった
21).
さらに前述の通り,Th2は線維化の重要な因子である
ことが分かっていたので,外科的肺生検陽性および吸入
誘発試験陽性のchronic HPが確定診断できた56例の検討
を行った.診断時の血清TARC(CCL17)値が上昇して
いた群では,上昇していなかった群と比較して有意に急
性増悪の1年発症率が高いことが分かり(14.3% vs. 0.0%),
急性増悪発症においてもTh2ケモカインの関与する可能
性があることが示された(Figure 7,Table 2)
22).
8 * * * 7 6 5 4 3 2 1 0 潜在性発症型 (35) *: <0.05 血清 TARC/IP-10 比 再燃症状軽減型 (12) (11)急性 健常人(6) 症例数 Figure 4. 過敏性肺炎の各病型の血清 TARC/IP-10比(文献17より引用)27 24 =0.0194 =0.00007 =0.0060 =0.0951 =0.0006 =0.0035 =0.0338 21 18 15 12 血清 TARC/IP-10 CCR4+/CXCR3+ 9 6 3 0 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 0.6
UIP fNSIP cNSIP
+OP 急性 control (18) (症例数) UIP (17) fNSIP (11) cNSIP +OP (6) (症例数) (8) (6) (13) (7) Figure 5. 組織別Th1/Th2ケモカインおよびケモカインレセプター(文献17より引用). UIP; usual interstitial pneumonia, NSIP; nonspecific interstitial pneumonia, fNSIP; fibrotic NSIP, cNSIP; cellular NSIP, OP; organiz-ing pneumonia 50 40 30 20 10 0 BL BA 6w 12w AJ * ** BL BA AJ IL-4/GAPDH 3 2.5 2 1.5 1 0.5 0 BL BA 6w Ashcroft score 12w AJ ** ** ** BL BA AJ Control PDE n=5 Mean±S. D. * :<0.05 ** :<0.01 BL;C57BL/6 BA;BALB/c AJ;A/J score 50 40 30 20 10 0 BL BA 6w 12w AJ ** ** ** BL BA AJ IL-3/GAPDHH Figure 6. 慢性鳥関連過敏性肺炎モデル Th2優位のA/Jマウスで線維化が強く,Th2サイトカインが上昇していた(文献20より引用). 2,000 100 80 60 40 20 0 0 20 40 Specificity(%) ROC curve AUC=0.77 60 80 100 100 80 60 40 20 0 0 50 100 Time(months) Log rank test: =0.0006 2 年発症率: Incidence(%) 150 200 1,500 1,000 serum CCL17(pg/mL) Sensitivity(%) 500285 0 AE NAE Cut off 285 pg/mL HV
Hazard Ratio 95%CI p value CCL17 (binary) 72.00 5.03 1030.23 0.002** CXCL10 0.98 0.95 1.00 0.059 IL-4 1.05 0.98 1.12 0.150 IL-13 0.99 0.99 1.00 0.024* TGF-β 1.00 1.00 1.00 0.760 Age, yr 1.00 0.89 1.13 0.980 Gender(male=1) 0.08 0.00 1.89 0.120 Negative smoking histroy 0.04 0.00 3.21 0.150 VC, % predicted 0.95 0.90 1.01 0.078 Table 2. CCL17濃度は急性増悪発症の独立した予測因子(文献22より引用改変) Multivariate Cox proportional hazard model evaluating the incidence of acute ex-acerbation
まとめ
今回の一連の研究結果により, 以下のことが分かっ
た.過敏性肺炎において,線維化は予後不良の因子であ
り,その際Th1/2バランスのTh2へのシフトが線維化を
促進していた.予後不良因子である急性増悪の発症にお
いてもTh2ケモカインは独立した予測因子であり,その
病態に関与している可能性が示された.今後,Th1/Th2
バランスの改善が抗線維化治療のターゲットの一つとな
ると考えられる.IPD, 抗CCR4抗体, 抗IL-13抗体, 抗
CCL17抗体といったTh2を調整する薬剤が治療薬として
期待される.
謝辞:今回の千葉保之・本間日臣記念賞の受賞に関して
は,東京医科歯科大学呼吸器内科の皆様,稲瀬直彦教授,
人体病理学江石義信教授,日本赤十字社センター病理部
武村民子先生,特に東京医科歯科大学呼吸器内科前教授
(現大学学長)吉澤靖之先生のご指導に深謝致します.
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