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26.ダウン症候群を持つ成人のメタボリックシンドロームと

健康管理に関する研究-在宅と施設の比較

○植田紀美子(大阪府立母子保健総合医療センター 企画調査室) 岡本 伸彦(大阪府立母子保健総合医療センター 遺伝診療科) 平山 哲(旧重症心身障害児施設すくよか 現大阪府立母子保健総合医療センター 発達小児科) 巽 純子(近畿大学 理工学部生命科学科) 〔はじめに〕 ダウン症候群を持つ者の平均寿命は 1950 年代の 9-12 歳から著しく改善し、50-60 歳となっている(2008 Morris)。当然ながら、心身ともに豊かに過ごせるかが重要である。しかし、我が国においては、ダウン症候群 特有の成人期の健康問題の特徴が十分把握されておらず、どのような保健医療供給体制が必要であるかも未整 理のままである。平成 20 年 4 月からメタボリックシンドロームに着目した特定健康診査・特定保健指導が実施 されているが、肥満が問題視されているダウン症候群を持つ成人の健康問題及び健康管理状況を明らかにする ことはハイリスク群へのアプローチという観点からも必要である。諸外国では、ダウン症候群を持つ成人につ いて、診断が遅れた、治療を適切に受けていないなど、適切な健康管理が行われないことにより、二次的な疾 病や障害を持つと報告されている(2007 Henderson)。そのようなことを未然に防ぐためにも、本人・家族が適 切な健康行動ができるように、また、保健医療従事者が適切な支援ができるように、ダウン症候群を持つ成人 の健康問題及び健康管理状況を明らかにすることは急務である。 〔目 的〕 本研究では、ダウン症候群を持つ成人について、合併症の種類・保有割合、健康診断受診等の健康問題及び 健康管理状況を明らかにし、ダウン症候群を持つ成人の健康管理のあり方について考察する。 〔方 法〕 18 歳以上のダウン症候群を持つ者を対象とし、A施設及びB施設に診療録のあるそれぞれ 59 名、61 名につ いて検討した。A施設の対象者の居住場所は施設、B施設の対象者の居住場所は自宅である。A施設の対象者 については、成人 DS 総合外来での診察及び過去の診療録により、B施設の対象者については、診療録により、 臨床所見、保有する疾病、尿・血液検査値、身体計測値、身辺自立の状況(歩行・移動、着脱・入浴、食事、 排泄)、健康管理状況、教育歴・職歴、療育手帳等手帳の保有状況などを調査した。検査値の平均、疾病や症状 等の全体に占める割合を算出し、施設間の比較を行った。統計ソフトは STATA10 を用い、割合の比較にはχ二 乗検定及びフィッシャーの直接確立検定、検査値などの平均値の差の検定にはウェルチの t 検定を実施した。 統計学的な有意水準は両側 p<0.05 とした。なお、A、B両施設設置の倫理委員会の承認を得て、倫理面、個人 情報保護の観点に十分に留意し、調査を実施した。 〔結 果〕 A施設の対象者は、施設で規則正しい生活を送る者であり、1 年に 1 度の定期健康診査とそれに基づく指導 をうけ、カロリー及び栄養の管理された食事をとるなど、健康管理がなされていた。B施設の対象者は、小児 専門病院における成人期のダウン症候群の患者であるため、先天性心疾患や先天性消化器疾患などの経過観察 が必要であったり、肝炎のため継続的治療を受けている者など、何らかの医療が必要である者がほとんどであ った。 表 1 に主要な検査所見を施設別男女別に示した。A施設の対象者は、B施設に比べて有意に年齢が高い集団 であった。体重は、男女とも、B施設の方が有意に重かった。BMI は施設間で有意な差は認めなかったが、男 女ともB施設の方が大きかった。A施設では、施設入所が早い者の方が BMI が低い傾向にあった。男性では、 ALT、尿酸値がB施設の方が有意に高く正常上限、HDL コレステロールは、B施設の方が有意に低く、基準値よ り低かった。女性では、B施設の方が ALT が有意に高く、総コレステロールは有意に低かった。

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リックシンドロームの割合を示した。それぞれの基準は一般成人を対象とした値に準じ、脂質代謝異常は、総 コレステロール 220mg/dl 以上、トリグリセリド 150mg/dl 以上、HDL コレステロール 40mg/dl 未満のいずれか を満たすもの、高尿酸血症は、血清尿酸値 7.0mg/dl をこえるもの、高血圧は収縮期血圧 140mmHg 以上または拡 張期血圧 90mmHg 以上である。肥満は、BMI25 以上のもの、肥満症は、腹部CT検査による内臓脂肪型肥満の確 定を実施しなかったが、BMI25 以上で腹囲が男性 85cm 以上、女性 90cm 以上で上半身肥満があったものとした。 メタボリックシンドロームは、腹囲が男性 85cm 以上、女性 90cm 以上で、収縮期血圧 135mmHg 以上または拡張 期血圧 85mmHg 以上、空腹時血糖値 110mg/dl 以上、トリグリセリド 150mg/dl 以上もしくは HDL コレステロール 40mg/dl 未満の2つ以上の条件にあてはまる場合である。脂質代謝異常である者は、男女とも、両施設とも半 数以上であった。高尿酸血症は、男女ともにB施設で有意に多かった。A施設の1割が高血圧であった。肥満、 肥満症ともに、男性ではB施設の方がA施設に比べて有意に多かった。両施設男性及びA施設女性では、肥満 であるものすべてが、肥満症(肥満に起因ないし関連する健康障害を合併するか、その合併が予測され、医学 的に減量を必要とするような、よりハイリスクである病態)であった。A施設男性の 20 人に 1 人、女性の 25 人に 1 人がメタボリックシンドロームであった。 表 4、5 に、メタボリックシンドロームに関連する値に関して、肥満群と非肥満群の比較を施設別男女別に示 した。A施設の男性では、BMI、腹囲、血圧、HDL コレステロールにおいて、群間で有意差を認めた。表 6 に、 表 4、5 と同様の値に関して、A施設におけるメタボリックシンドローム群と非メタボリックシドローム群の比 較を男女別で示した。肥満群と非肥満群との比較と同様に、BMI 以外の腹囲、血圧、HDL コレステロールにおい て、群間に有意差を認めた。 表1.成人期のダウン症候群の主要な検査所見(施設別 男女別) (基準値) p値 (<0.05) p値 (<0.05) 年齢(歳) 48.6 (13.5) 23.3 (5.7) <0.001 54.0 (11.3) 22.4 (3.4) <0.001 身長(cm) 149.3 (5.8) 153.2 (7.0) 0.020 139.6 (6.2) 140.9 (6.4) n.s 体重(kg) 49.9 (8.6) 57.2 (11.2) 0.005 43.8 (6.4) 49.6 (11.7) 0.042 BMI 22.4 (3.6) 24.4 (4.8) n.s 22.5 (3.3) 24.8 (5.0) n.s 腹囲(cm) 82.4 (11.1) - 84.3 (11.0) -収縮期血圧(mmHg) 106.6 (18.0) - 108.8 (18.5) -拡張期血圧(mmHg) 67.2 (16.9) - 64.2 (17.6) -AST(IU/l) (8-38) 25.5 (7.8) 27.6 (12.3) n.s 25.3 (5.3) 23.3 (8.3) n.s ALT(IU/l) (4-43) 21.5 (11.4) 38.4 (30.9) 0.004 17.3 (7.1) 26.6 (19.9) 0.042 血清尿酸値(mg/dl) (3.4-7.8) 6.2 (1.2) 7.3 (1.3) 0.001 5.7 (1.3) 5.9 (1.0) n.s 総コレステロール(mg/dl) (120-220) 179.2 (44.5) 172.7 (37.6) n.s 219.1 (51.4) 164.6 (35.9) 0.0002 トリグリセリド(mg/dl) (45-150) 119.7 (47.3) 160.4 (121.9) n.s 132.2 (90.6) 110.4 (43.3) n.s HDLコレステロール(mg/dl) (49-81) 53.6 (13.6) 47.1 (5.9) 0.048 62.7 (18.8) 54.8 (11.0) n.s 空腹時血糖値(mg/dl) (70-110) 103.6 (50.9) 100.5 (17.7) n.s 100.0 (18.3) 95.2 (9.2) n.s TSH(μIU/ml) (0.41-4.01) 3.0 (1.7) 3.1 (1.7) n.s 2.9 (1.6) 5.5 (13.6) n.s T3(pg/ml) (0.75-1.8) 1.00 (0.22) - 1.04 (0.47) -fT3(pg/ml) (2-4.9) 3.39 (0.85) - 3.13 (0.99) -fT4(ng/ml) (0.82-1.63) 1.12 (0.19) 1.35 (0.95) n.s 1.15 (0.26) 1.26 (0.33) n.s 男性 女性 A施設 36名 B施設 34名 A施設 23名 B施設 27名 - -表2.施設別にみた脂質代謝異常、高尿酸血症、高血圧の割合 A施設 36名 B施設 34名 p値 (<0.05) A施設 23名 B施設 27名 p値 (<0.05) 脂質代謝異常 52.8% 52.9% n.s. 69.6% 59.3% n.s 高尿酸血症 25.0% 73.5% <0.001 17.4% 44.4% 0.041 高血圧 11.1% - - 8.7% - -表3.施設別にみた肥満・肥満症・メタボリックシンドロームの割合 A施設 36名 B施設 34名 p値 (<0.05) A施設 23名 B施設 27名 p値 (<0.05) 肥満 13.9% 40.7% 0.018 17.4% 43.5% n.s 肥満症 13.9% 40.7% 0.009 17.4% 8.7% n.s メタボリックシンドローム 5.5% - - 4.4% - -男性 女性 男性 女性

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表 7 にA施設における年齢別診断名別保有割合を示した。高脂血症は、関連する検査値が高値であっても診 断されていない者は除外した。爪・皮膚白癬は全体の 6 割の者が有し、高齢になるに従い、罹患している者が 表4.肥満群と非肥満群の比較(施設別):男性 p値 (<0.05) p値 (<0.05) 年齢(歳) 45.6 (16.9) 49.3 (13.3) n.s 23.0 (3.6) 22.8 (3.8) n.s BMI 28.6 (3.3) 21.3 (2.3) <0.001 29.6 (4.0) 21.7 (2.4) <0.001 腹囲(cm) 99.7 (9.5) 78.5 (6.8) <0.001 n.s 収縮期血圧(mmHg) 123.2 (23.5) 103.9 (15.8) 0.024 n.s 拡張期血圧(mmHg) 85.6 (11.2) 64.1 (15.8) 0.007 n.s 総コレステロール(mg/dl) 167.8 (64.9) 182.6 (41.3) n.s 176.5 (46.4) 167.2 (31.3) n.s トリグリセリド(mg/dl) 113.0 (43.4) 119.0 (48.6) n.s 205.3 (146.1) 113.5 (59.1) n.s HDLコレステロール(mg/dl) 66.7 (16.4) 51.0 (12.0) 0.017 46.3 (6.7) 48.6 (6.0) n.s 空腹時血糖値(mg/dl) 90.8 (10.5) 107.9 (54.4) n.s 106.7 (18.4) 94.3 (15.6) n.s A施設 B施設 肥満 5名 非肥満 30名 肥満 11名 非肥満 16名 -表5.肥満群と非肥満群の比較(施設別):女性 p値 (<0.05) p値 (<0.05) 年齢(歳) 52.8 (10.7) 54.2 (11.7) n.s 21.5 (3.2) 23.6 (3.7) n.s BMI 28.5 (1.9) 21.2 (1.7) <0.001 29.3 (3.7) 21.3 (2.5) <0.001 腹囲(cm) 101.5 (7.9) 80.6 (7.5) <0.001 収縮期血圧(mmHg) 109.8 (15.2) 108.6 (19.5) n.s 拡張期血圧(mmHg) 72.5 (12.3) 62.5 (18.3) n.s 総コレステロール(mg/dl) 252.8 (24.7) 211.6 (53.2) n.s 180.1 (26.6) 152.8 (39.8) n.s トリグリセリド(mg/dl) 88.5 (24.0) 141.9 (97.4) n.s 95.1 (41.9) 130.0 (39.5) n.s HDLコレステロール(mg/dl) 69.7 (11.1) 61.8 (20.1) n.s 58.3 (11.1) 49.4 (9.1) n.s 空腹時血糖値(mg/dl) 83.3 (6.0) 103.5 (18.1) 0.041 100.4 (7.3) 91.1 (8.8) 0.029 A施設 肥満 4名 非肥満 19名 B施設 肥満 10名 非肥満 13名 -表6.A施設におけるメタボリックシンドローム群と非メタボリックシンドローム群の比較 p値 (<0.05) 年齢(歳) 55.5 (3.5) 48.2 (13.8) n.s 58.0 (0.0) 53.8 (11.5) BMI 26.4 (1.9) 22.1 (3.5) n.s 24.1 (0.0) 22.4 (3.4) 腹囲(cm) 103.3 (2.5) 80.7 (9.7) 0.003 95.5 (0.0) 83.8 (11.0) 収縮期血圧(mmHg) 131.5 (26.2) 105.1 (16.9) 0.043 125.0 (0.0) 108.0 (18.6) 拡張期血圧(mmHg) 94.0 (7.1) 65.6 (15.9) 0.018 71.0 (0.0) 63.9 (18.0) 総コレステロール(mg/dl) 194.0 (117.4) 178.3 (40.6) n.s 177.0 (0.0) 221.0 (51.8) トリグリセリド(mg/dl) 155.5 (6.4) 117.5 (47.9) n.s 176.0 (0.0) 130.0 (92.3) HDLコレステロール(mg/dl) 72.8 (8.7) 52.3 (12.9) 0.036 59.7 (0.0) 62.9 (19.3) 空腹時血糖値(mg/dl) 86.0 (7.1) 104.7 (52.2) n.s 120.0 (0.0) 99.1 (18.2) 男性 女性 メタボリックシンドローム 2名 非メタボリックシンドローム 33名 メタボリックシンドローム 1名 非メタボリックシンドローム 22名 表7.A施設における年齢別診断名別保有割合 診断名 爪・皮膚白癬 5 (50.0%) 5 (55.6%) 15 (55.6%) 10 (76.9%) 35 (59.3%) 甲状腺機能低下症 2 (20.0%) 2 (22.2%) 7 (25.9%) 7 (53.8%) 18 (30.5%) 白内障 0 (0.0%) 0 (0.0%) 8 (29.6%) 6 (46.2%) 14 (23.7%) 高脂血症 0 (0.0%) 2 (22.2%) 6 (22.2%) 5 (38.5%) 13 (22.0%) 高尿酸血症 2 (20.0%) 4 (44.4%) 5 (18.5%) 2 (15.4%) 13 (22.0%) 神経因性膀胱 1 (10.0%) 1 (11.1%) 7 (25.9%) 2 (15.4%) 11 (18.6%) 認知症 0 (0.0%) 0 (0.0%) 4 (14.8%) 6 (46.2%) 10 (16.9%) てんかん 0 (0.0%) 1 (11.1%) 3 (11.1%) 6 (46.2%) 10 (16.9%) 末梢循環不全 0 (0.0%) 2 (22.2%) 2 (7.4%) 2 (15.4%) 6 (10.2%) 糖尿病 1 (10.0%) 2 (22.2%) 0 (0.0%) 2 (15.4%) 5 (8.5%) 高血圧 0 (0.0%) 0 (0.0%) 4 (14.8%) 1 (7.7%) 5 (8.5%) 無呼吸発作 0 (0.0%) 0 (0.0%) 0 (0.0%) 2 (15.4%) 2 (3.4%) 睾丸腫瘍 0 (0.0%) 0 (0.0%) 0 (0.0%) 2 (15.4%) 2 (3.4%) 合計 n=59 ~40歳 n=10 40歳代 n=9 50歳代 n=27 60歳代 n=13

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代に比べて多かった。神経因性膀胱が 50 歳代以上を中心に全体の 2 割の者が罹患していた。認知症と診断され ている者は、50 歳代で 1.5 割、60 歳代では半数にのぼった。てんかんは、全例成人発症で、40 歳代、50 歳代 の1割の者、60 歳代では約半数が罹患していた。高血圧は 50 歳以上で認めた。また、A施設の 30 歳以上のす べてが老人性外観的徴候を示していた。 表 8 にA施設における年齢別身辺自立状況(有効回答のみ)を示した。歩行や移動については、40 歳代では 8 人に 1 人、60 歳代では 2 人に 1 人で移動が困難であった。衣類の着脱や入浴については、40 歳代では 4 人に 1 人、60 歳代では 3 人に 2 人が何らかの介助を要した。食事については、40 歳代では 4 人に 1 人、50・60 歳代 では 3 人に 1 人が何らかの介助を要した。40 歳までは、歩行や移動、衣類の着脱や入浴、食事について、ほぼ 自立していた。 〔考 察〕 施設でくらすダウン症候群を持つ中高年者、在宅でくらすダウン症候群の若者について、特に生活習慣病に 関連した疾病を中心に実態を把握するとともに、施設と在宅との比較を行った。また、施設でくらすダウン症 候群を持つ中高年者については、罹患している疾患や身辺自立状況、外観的老化兆候等を明らかにした。 対象者である在宅でくらすダウン症候群の若者は、小児専門病院受診者という特殊性があり、若年であって も何らかの症状があると考えられる。そのため、本研究において、施設と在宅との比較結果を一般化すること は、困難ではあることに留意すべきであるが、これまでの報告(2000 菅野)と同様に、在宅でくらす対象者の 方が、若年にもかかわらず、肥満、脂質代謝異常、高尿酸血症に罹患している者が多かった。 一般成人でメタボリックシンドロームを診断するのは、きわめて高い動脈硬化性疾患リスク状態であることを 認識して早急に適切な対策を行うためである(2005 松澤)。ダウン症候群を持つ者は、“アテロームフリーモデ ル”とMurdochらが1970年代に初めて指摘したように、これまで動脈性心疾患や高血圧の者が少ないことが指摘 されている。その理由は十分解明されていないが、心筋梗塞発生に関連するPAI-1がダウン症候群を持つ成人は 低いことが報告されている(2000 Hopkins)。染色体異常そのものが心臓の機能、循環器系に影響している可 能性も示唆されている。健康管理のために、ダウン症候群を持つ者に、メタボリックシンドロームや高血圧の 一般成人の基準を使用できるかどうかは、不明である。そのため、それら基準を参照できるかどうかも考察す ることとし、本研究では、一般成人の基準を用い、評価分析した。 ダウン症候群を持つ者は、これまで身体活動が低いことから肥満になりやすいと指摘されている。特に男性 のダウン症候群で、肥満である者の方がそうでない者よりも、腹囲が太く、血圧が高く、HDLコレステロールが 低かった。これらは、メタボリックシンドロームに関連する因子である(表4、6)。人間ドックを受診した成人 男性の調査(2005 高橋)で、肥満症であった者は21%、メタボリックシンドロームであった者は9.3%で、肥満 症でなくともメタボリックシンドロームであった者はメタボリックシンドロームの1/3であったと報告されて いる。本研究では、メタボリックシンドロームであった者すべてが肥満であり、A施設では肥満の者はすべて 肥満症であったことを考えると、前述の表4、6の結果と合わせ、ダウン症候群を持つ成人については、肥満が メタボリックシンドロームの指標となり得る可能性があると示唆される。一方、ダウン症候群を持つ者の集団 における肥満や肥満症、メタボリックシンドロームの構成比が一般成人とは異なっていることは、肥満とメタ ボリックシンドロームとの関連が一般成人とは異なる機序である可能性も示唆される。動脈性硬化性疾患や高 血圧の者が少ないというこれまでの疫学的調査報告もあわせて考えると、ダウン症候群を持つ成人の健康管理 には、メタボリックシンドロームというよりもむしろ肥満に着目し、肥満に起因ないし関連するような疾患(脂 質代謝異常、肝機能障害、高尿酸血症、整形外科的疾患、睡眠時無呼吸発作など)予防の観点から、健康管理 に必要な肥満に関する独自の基準を検討すべきであるとも考えられる。ダウン症候群を持つ成人が、腹囲計測 や血液検査、腹部CT撮影に協力を得られない場合があることを考えると、身長と体重の計測から算出できる 表8.A施設における年齢別身辺自立状況 身辺自立状況 歩行や移動 自力で歩くことには問題ない 9 (100.0%) 7 (87.5%) 18 (69.2%) 5 (45.5%) 39 (66.1%) 介助があると歩くことができる 0 (0.0%) 0 (0.0%) 2 (7.7%) 0 (0.0%) 2 (3.4%) 移動は困難である 0 (0.0%) 1 (12.5%) 6 (23.1%) 6 (54.5%) 13 (22.0%) 衣類の着脱や入浴 自立/ゆっくりではあるがほぼ自立 9 (100.0%) 6 (75.0%) 17 (65.4%) 3 (27.3%) 35 (59.3%) 部分介助が必要である 0 (0.0%) 1 (12.5%) 5 (19.2%) 2 (18.2%) 8 (13.6%) 全面介助が必要である 0 (0.0%) 1 (12.5%) 4 (15.4%) 6 (54.5%) 11 (18.6%) 食事 自立/配膳が整うとほぼ自立 9 (100.0%) 6 (75.0%) 17 (65.4%) 4 (36.4%) 36 (61.0%) 部分介助が必要である 0 (0.0%) 1 (12.5%) 4 (15.4%) 1 (9.1%) 6 (10.2%) 全面介助が必要である 0 (0.0%) 1 (12.5%) 4 (15.4%) 1 (9.1%) 9 (15.3%) 口から摂食できない 0 (0.0%) 0 (0.0%) 1 (3.8%) 2 (18.2%) 3 (5.1%) ~40歳 n=9 40歳代 n=8 50歳代 n=26 60歳代 n=11 合計 n=54

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BMIは簡単に得られる身近な情報であり、今後、ダウン症候群を持つ者のライフステージにおける健康管理や疾 病予防に活用されることを期待したい。また、肥満が多いとされるダウン症候群を持つ成人の健康管理のため には、まずは、動脈硬化性疾患や後天性心疾患の罹患率なども含む肥満関連疾患の長期的なデータの蓄積が必 要である。 高尿酸血症(無症候性含む)は、成人男性の約 20%、女性は閉経後は約 5%、閉経前はそれ以下と言われてお り、これらに比して、両施設の女性、及びB施設の男性は非常に多かった。高尿酸血症は、無症候性に進むこ とが多く発見されにくいが、痛風以外にも腎機能障害や尿路結石などを生じる原因となることから、定期的な 血液検査で早期発見し、対応していく必要がある。 肥満に関連する疾患である高血圧は、年齢とともに増加する傾向にあり、我が国では、30 歳以上の約 40%が 高血圧といわれている。本研究では、高血圧の者はA施設において約 1 割であり、ダウン症候群でない成人の 集団よりも少なかった。これまでのダウン症候群を持つ成人の高血圧に関する報告でも同様な報告(2001 山縣) があり、その中で、対象者が若年であったため年齢を拡大した実態把握の必要性を指摘していたが、本研究に より、施設入所者という限定ではあるが、中高年でも同様な結果を得た。ダウン症候群を持つ成人の血圧が一 般成人よりも低めであり、ダウン症候群を持つ者の健康管理のためには、健康障害を与えうる高血圧の基準自 体を一般成人とは別に検討していく必要があると考えられる。 甲状腺機能低下症は、成人期のダウン症候群を持つ者に多く合併すると言われているが、本研究においても A施設の約3割に認めた。同時期に認める退行現象やうつ病、アルツハイマー認知症と臨床像が似ていること から鑑別が重要である疾患で、甲状腺機能低下症に対しては治療が確立していることから定期的な血液検査が 重要である。 認知症と診断されている者の割合は、海外の報告(2006 Coppus)と比べると本研究におけるA施設での 40 歳代、50 歳代の割合は少ない。対象者が知的障害をともない認知機能の評価が困難であること、画像診断の機 会が少ないことから診断に至るのは、実際の症例よりも少ないと考えられる。将来、ダウン症候群を持つ中高 年の QOL の向上のため、ダウン症候群のアルツハイマー型認知症に対する塩酸 donepezil の安定的な使用が期 待されているが(2010 近藤)、そのためには、正確な診断及び客観的な臨床症状の評価指標がまず確立されて いくことが必要である。 ダウン症候群を持つ者のてんかんは、乳幼児期の点頭てんかん、及び成人期に発症するてんかんが多いとい われているが、本研究においては、全例が成人発症であった。てんかん、神経因性膀胱、無呼吸発作など、成 人期からみられる疾患もあり、健康管理上、注意が必要である。 歩行や移動、衣類の着脱や入浴は、50 歳代、60 歳代に介助が必要となる者が多くいることが分かった。年齢 に応じて生活環境をどのように整えていくかを考える上で参考となる結果であるが、本研究での年齢別身辺自 立状況の把握は横断的であるため、年齢の推移とともにどのように変化していくかは、今後、縦断的に検討し ていく必要がある。また、退行やアルツハイマー認知症を診断していく上でも有益な情報である。 成人期のダウン症候群を持つ者は、小児期から継続して管理が必要な疾患とともに、成人期から問題となる 疾患があり、かつ、内科的疾患、精神心理面の問題、耳鼻科眼科疾患、整形外科的疾患、泌尿器科的疾患と幅 広い疾患群を考慮する必要があり、総合的な健康管理が重要になってくる。そのためには、成人期の健康管理 ガイドライン(2003 Roizen, 1999 Cohen, 2001 Smith, 2006 McGuire)の日本版の整備、成人期のダウン症候 群を持つ者の臨床的特徴やその対応策の保健医療関係者及び本人・家族への周知、ダウン症候群を持つ者が受 診しやすい保健医療提供体制の整備が重要である。 本研究において、対象者数が少ない上、施設の特殊性があり、比較的健康な若者、在宅でくらす中高年者が 本研究対象に含まれなかった。ダウン症候群を持つ成人の健康管理のあり方についてより深めていくためには、 今後、対象者数を拡大した研究分析、健康意識や行動に関する本人や家族への調査などが必要である。 研究を実施する貴重な機会を頂戴し、大同生命厚生事業団及び関係者各位に心から感謝申し上げます。 〔経費使途明細〕 報償費 (医師調査員@14,100 円×4 日,技術調査員@2,000 円×23 時間、デ ータチェック・入力調査員@1,000 円×110 時間) データベースソフト(ファイルメーカープロ)・HD 参考図書購入費 調査協力謝礼 通信運搬費 212,000円 88,441円 142,121円 49,770円 11,400円 合計 504,732円

表 7 にA施設における年齢別診断名別保有割合を示した。高脂血症は、関連する検査値が高値であっても診 断されていない者は除外した。爪・皮膚白癬は全体の 6 割の者が有し、高齢になるに従い、罹患している者が表4.肥満群と非肥満群の比較(施設別):男性p値(&lt;0.05)p値(&lt;0.05)年齢(歳)45.6 (16.9)49.3 (13.3)n.s23.0 (3.6)22.8 (3.8)n.sBMI28.6 (3.3)21.3 (2.3)&lt;0.00129.6 (4.0)21.7 (2.4)&lt

参照

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