東京都臨床検査技師会 血液検査研究班研修会2017.5.18(木)
これで解決!血液学研修会
血液検査のピットフォール
東京都立多摩総合医療センター SRLブランチ検査室
星野 道明
はじめに
•
血液検査とは
血液の代表的な成分である赤血球、白血球、血小板の形や量を
調べること。
•
ピットフォールとは
ピット(穴)、フォール(落とす)落とし穴。
本日の内容
1. 血球算定項目の基準値及び増減について
2. データから考察及び対応
白血球の基準範囲
(学生用共通基準範囲)項
目
基準範囲
備
考
白血球
白血球数(WBC)
3,500~9,000/μL ・・高齢者は減少傾向
喫煙など生理的変動が大きい
新生児:20,000/μL前後と増加
好中球優位
乳児:リンパ球が70%
7歳前後で成人と同様
分画
好中球(neutro)
2,000~
7,500/μL
分葉核球(seg)
40~70%桿状核球(band)
0~5%リンパ球(lympho)
1,500~4,000/μL20~50%単球(mono)
200~800/μL0~10%好酸球(eosino)
40~400/μL1~5%好塩基球(baso)
20~100/μL0~1%赤血球,血小板の基準範囲
(学生用共通基準範囲)項
目
基準範囲
備
考
赤血球
赤血球数(RBC)
男性400~550万/μL女性350~500万/μL成人男性>成人女性
新生児は高めである
男性は加齢とともに低くなる
MCV:新生児は大きい
[採血]
RBC:臥位<立位(10%)
静脈血<毛細血管(15~20%)
ヘモグロビン(Hb)
男性14~18g/dL女性12~16g/dLヘマトクリット(Ht)
男性40~50%女性35~45%網赤血球(Ret)
0.2~2.0%
平均赤血球容積(MCV)80~100fL
平均赤血球ヘモグロビン量(MCH)30~35pg
平均赤血球ヘモグロビン濃度(MCHC)30~35%(g/dL)
項
目
基準範囲
血小板
血小板数(Plt)
15~35万/μL
好中球の増減
•
白血球増加10,000/μL以上
•
白血球減少3,000 /μL以下
増加の原因 7,500/μL以上 減少の原因 2,000/μL以下好中球
血液疾患 慢性骨髄性白血病 真性多血症 慢性好中球性白血病 再生不良性貧血 巨赤芽球性貧血 骨髄異形成症候群 感染症 特に細菌 特にウィルス膠原病 JIA(若年性特発性関節炎) SLE(全身性エリトマトーデス)Felty症候群 薬剤 副腎皮質ステロイドG-CFS 抗甲状腺薬抗がん薬
リンパ球,単球の増減
増加の原因 4,000/μL以上
減少の原因 1,000/μL以下
リンパ球
血液疾患 慢性リンパ性白血病大顆粒リンパ球(LGL)増多症 Hodgkinリンパ腫 感染症 伝染性単核球症結核 百日咳 AIDS 麻疹 膠原病 SLE関節リウマチ 薬剤 免疫抑制薬抗がん薬 その他 Addison病増加の原因 950/μL以上
減少の原因
単球
血液疾患 単球性白血病 悪性リンパ腫 再生不良性貧血 その他 炎症性腸疾患 重症敗血症好酸球,好塩基球の増減
増加の原因 700/μL以上 減少の原因好酸球
血液疾患 慢性骨髄性白血病 慢性好酸球性白血病(CEL) 好酸球増加症候群(HES) Hodgkinリンパ腫 再生不良性貧血 感染症 寄生虫 腸チフス麻疹 ツツガムシ病 膠原病 PN(結節性多発動脈炎)EGPA(好酸球性多発血管炎性肉芽腫症) 薬剤 薬剤性アレルギー 副腎皮質ステロイド その他 Addison病アレルギー性疾患 Cushing症候群ストレス 増加の原因 150/μL以上 減少の原因好塩基球
血液疾患 慢性骨髄性白血病 その他 潰瘍性大腸炎アレルギー性疾患赤血球の増加
•
RBC 男性600万/μL以上
女性550万/μL以上
•
Hb 男性18.0g/dL以上
女性17.0g/dL以上
•
Ht 男性55%以上
女性50%以上
赤血球増加症の分類
絶対的赤血球増加症
A) 一次性本態性赤血球増加症
1. 真性赤血球増加症
2. 家族性赤血球増加症の一部:Epo受容体遺伝子異常
B) 二次性反応性赤血球増加症
1. 全身的な低酸素状態:高地居住、過度な喫煙、先天性心疾患、慢
性肺疾患
2. 腎血流量の低下:腎動脈狭窄症、嚢胞腎など
3. Epo産生腫瘍(腎腫瘍、肝細胞がん、小脳血管芽細胞腫)
4. 家族性赤血球増加症の一部: チューバッシュ赤血球増加症など
相対的赤血球増加症
A) 血液濃縮:水分摂取不良、嘔吐、下痢、発汗、多尿など
B) ストレス赤血球増加症
赤血球の減少:貧血
•
貧血とは、「末梢血中のヘモグロビン濃度が基準値以下に低下
した状態」である。
•
Hbが最もよい指標である。
[WHOによる基準値]
分類
Hb濃度
成人男性
13g/dL
成人女性
小児(6~14歳)
12g/dL
妊婦
幼児(6か月~6歳)
11g/dL
赤血球分化過程からみた貧血の分類
分化過程
原
因
疾
患
骨髄
造血幹細胞
造血幹細胞の減少
再生不良性貧血
造血幹細胞の遺伝子異常
骨髄異形成症候群
赤芽球系前駆細胞
赤芽球系前駆細胞の障害
赤芽球癆
DNAの合成障害
巨赤芽球性貧血
赤芽球
Hbの合成障害
鉄欠乏性貧血
鉄芽球性貧血
サラセミア
末梢
赤血球
赤血球破壊亢進
溶血性貧血
二次性貧血
•
血液疾患以外の基礎疾患に続発した貧血をいう。
二次性貧血の基礎疾患
貧血機序
慢性感染症 結核亜急性細菌性心内膜炎鉄の利用障害
赤血球造血抑制
赤血球寿命短縮
慢性疾患に
伴う貧血
(ACD)
膠原病 関節リウマチSLE 炎症性腸疾患 潰瘍性大腸炎Crohn病 悪性腫瘍 胃がん大腸がん 悪性リンパ腫 腎疾患 慢性腎不全透析患者 Epo産生低下による赤血球産生低下腎性貧血
肝疾患 肝硬変 慢性肝炎 アルコール性肝障害 溶血 脾機能亢進による赤血球破壊亢進 低栄養による造血障害赤血球指数
•
赤血球指数とは、赤血球の大きさとそこに含まれるヘモグロビン量・濃度
を、ヘモグロビン(Hb)、ヘマトクリット(Ht)、赤血球(RBC)を用いて計算さ
れた値である。
•
貧血の鑑別には、赤血球指数を用いた分類が有用である。
基準値 計算式 表すもの 分 類平均赤血球容積
MCV
Mean Corpuscular Volume
80~100
fL
Ht(%) ×10 RBC(106/μL) 赤血球1個の大きさ <80 小球性 80~100 正球性 100< 大球性 平均赤血球ヘモグロビン濃度 MCHC Mean Corpuscular Hemoglobin Concentration30~35
%
Hb(g/dL) ×100 Ht(%) 単位容積赤血球あたり のヘモグロビン濃度 <30 低色素性 30~35 正色素性 平均赤血球ヘモグロビン濃度 MCHMean Corpuscular Hemoglobin
30~35
pg
Hb(g/dL) ×10 RBC(106/μL) 赤血球1個あたりのヘ モグロビン量赤血球指数による貧血の分類
•
貧血はMCV,MCHCを用いて3つに分類される。
小球性低色素性貧血
正球性正色素性貧血
大球性正色素性貧血
MCV
<80
80~100
100<
MCHC
<30
30~35
30~35
鑑別疾患
•
鉄欠乏性貧血
•
鉄芽球性貧血
•
サラセミア
•
慢性疾患に伴う貧血
(ACD)
•
溶血性貧血
•
出血性貧血
•
腎性貧血
•
巨赤芽球性貧血
•
再生不良性貧血
•
骨髄異形成症候群
赤血球指数の計算例題
例題:
Hb5.1g/dL
,Ht18.0%,RBC335万/μL
MCV
18.0/3.35×10=53.7
MCVは
54fL
であり、
<80である。
MCHC
5.1/18.0×100=28.3
MCHCは
28%
であり、
<30である。
小球性
低色素性
小球性低色素性貧血
Ht(%)
×10RBC(10
6
/μL)
Hb(g/dL)
×100Ht(%)
MCV
からHt算出
•
自動血球分析装置ではMCVを直接計測し赤血球数との積算でHt
を算出している。
•
測定原理となる電気抵抗方式では、抵抗値が血球容積に比例し、
パルス電圧の発生頻度が血球数に相当する。
MCV(fL)×RBC(10
6
/μL)
Ht(%) =
10
小球性貧血の鑑別 MCV<80
•
小球性貧血は、ヘモグロビンを構成するヘムまたはグロビンの
合成異常による。
小球性貧血 (MCV<80) 血清フェリチン 減少 鉄欠乏性貧血 減少なし 血清鉄 減少 慢性疾患に伴う貧血 (ACD) 無トランスフェリン血症 減少なし 環状鉄芽球 あり 鉄芽球性貧血 ヘモグロビン 異常あり サラセミア正球性貧血の鑑別 MCV80~100
正球性貧血 (MCV80~100) 網赤血球 増加 出血 有 出血 無 溶血(+) Coombs 試験 陽性 自己免疫性溶血性貧血 陰性 赤血球形 態異常 鎌状赤血球 鎌状赤血球症 球状赤血球 遺伝性球状赤血球症 破砕赤血球 血栓性血小板減少性 紫斑病 溶血性尿毒症症候群 砂糖水試験 Ham試験(+) 発作性夜間ヘモグロビン尿症 増加なし 骨髄穿 刺・骨髄 生検 Dry tap, 線維化 骨髄線維症 腫瘍細胞 白血病 多発性骨髄腫 悪性リンパ腫 癌骨髄転移 赤芽球減少 赤芽球癆 脂肪髄 再生不良性貧血 正~過形成 骨髄異形成症候群 など大球性貧血の鑑別 MCV>100
•
巨赤芽球症は赤芽球のDNA合成に異常がある場合に認められる。
大球性貧血 MCV>100 血清ビタミン B12 低下 ビタミンB12欠乏性 巨赤芽球性貧血 低下なし 血清葉酸 低下 葉酸欠乏性 巨赤芽球性貧血 低下なし 骨髄異形成症候群や 溶血性貧血などの 赤芽球造血亢進状態血小板の増加
•
血小板数40万/μL以上をいう。
① 腫瘍性(骨髄増殖性腫瘍)
•
本態性血小板血症
•
慢性骨髄性白血病
② 反応性
•
炎症性疾患
•
鉄欠乏性貧血
•
摘脾後など
血小板減少
•
血小板数10万/μL以下をいう。
•
血小板濃厚液の使用指針
(日本赤十字HPより)
※
血小板数はあくまでも目安であり、すべての症例に合致するものではない。
血小板数
血小板輸血の必要性
5万/μL
一般的に必要となることはない
2~5万/μL 止血困難な場合には必要とする
1~2万/μL 必要となる場合がある
1万/μL
必要となる
血小板減少の成因 ①血小板産生の低下
•
先天性
a. 巨核球の減少によるもの
先天性無巨核球性血小板減少症
Fanconi貧血
b. 血小板産生障害によるもの
1. 巨大血小板を伴う血小板減少症 Bernard-Soulier症候群 May-Hegglin症候群 Fechtner症候群 Epstein症候群 Sebastian症候群 2. 血小板サイズ正常の血小板減少症 家族性血小板減少症 3. 小型血小板を伴う血小板減少症 Wiskott-Aldrich症候群•
後天性
a. 骨髄障害(
再生不良性貧血,白血病,骨髄線
維症,骨髄異形成症候群,がんの浸潤,抗がん薬
治療,放射線障害,ウィルス感染
)
b. 無巨核球性血小板減少症
c. ビタミンB
12
欠乏,葉酸欠乏
d. アルコール
血小板減少の成因
②末梢での破壊亢進,消費亢進
•
免疫学的機序
特発性血小板減少性紫斑病(ITP)
血栓性血小板減少性紫斑病(TTP)
膠原病に伴う血小板減少症
抗リン脂質抗体症候群
周期性血小板減少症
新生児同種免疫性血小板減少症
輸血後血小板減少性紫斑病
ヘパリン惹起血小板減少症
•
非免疫学的機序
溶血性尿毒症症候群(HUS)
播種性血管内凝固症候群(DIC)
妊娠
HELLP症候群
重症火傷
人工弁,人工血管
Kasabach-Merrit症候群
血算補助的項目
•
RDW:赤血球分布幅⇒赤血球の大きさのバラツキ
•
MPV:平均血小板容積⇒血小板の大きさ
血算の検体管理
•
抗凝固剤はEDTA-2Kが勧告されている。
•
速やかに測定が望ましい。
•
室温(20~25℃くらい)では5時間以内に測定する。
•
測定が翌日になる場合は、冷蔵(4℃)保存がよい。
•
(血液像標本は室温で4時間以内に作製する。保存はきかない。)
自動血球分析装置の誤差要因<白血球>
偽高値(増加)
•
有核赤血球の出現
•
巨大血小板
•
クリオグロブリン
•
赤血球溶血不良
偽低値(減少)
•
白血球凝集
•
スマッジ細胞(破損)の出現
•
フィブリン析出
•
凝血
白血球測定時の注意点
•
電気抵抗方式ではヒストグラム、光学的測定方式ではスキャッ
タグラムの正常パターンの理解が必要である。
•
測定原理や測定値に影響があるヒストグラムまたはスキャッタ
グラムの変化を把握する必要がある。
•
変化が軽微な場合は、機器からの警告がないこともある。
スキャッタグラム
スキャッタグラムの各プロット の境界が重なりあわないこと