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~第 4 期中長期計画から未来へ~
国立研究開発法人情報通信研究機構
電磁波研究所
はじめに
国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)は、総務省による中長期目標を受け、2016 年度から 5 年間にわたる第 4 期中長期計画を策定した。この中長期計画で実施する基礎的・基盤的な研究開発は 5 つの分野に整理され、その一つである「センシング基盤分野」は、われわれ電磁波研究所が推進する研 究開発課題で構成される分野である。この分野に含まれる課題には、NICT の前身である組織(郵政省 電波研究所及び郵政省通信総合研究所、独立行政法人通信総合研究所)の時代にプロジェクトが開始 され、30 年以上にわたり引き継がれてきた研究開発テーマも多数あり、また郵政省電波研究所発足時か ら提供し続けてきた 3 種の公的サービスも含まれる。われわれが担ってきた課題は、電磁波を使いこなす ための基盤研究及び電磁波を用いて未知なる現象を解き明かすための基礎研究であり、まさに「継続は 力なり」の諺が示すとおり、国内における他組織の追随を許さない電磁波関連技術に関する高い研究開 発力と技術力が蓄積されてきている。 一方で、昨今の社会の動きを見ると、ビッグデータ、AI(人工知能)、IoT(モノのインターネット)、ロボッ ト、ITS(高度道路交通システム)等の情報通信技術(ICT)が新たな価値を創出し、社会・経済システムの 変革につながる重要な役割を果たすことが期待されている。NICT はこの期待に応えるため、ビッグデー タや AI、IoT 等の研究開発に特に注力するとともに、NICT 内外に有する能力を有機的に連携させイノベ ーションを加速する方針を今中長期計画に掲げている。 このような状況の中、電磁波研究所が第 4 期中長期目標期間の 5 年間において、これまでに培った研 究開発力・技術力を十分に活かしながら、時代に応じた新たな価値の創出にもしっかり応えていくために、 われわれは電磁波研究所のビジョンとミッションをここにまとめる。その目的は、まず今中長期目標を十二 分に達成し、創出した成果によりイノベーションを加速することである。また、このビジョンとミッションを当 研究所内の職員皆で共有することで目的や問題意識の浸透を図るとともに、限られた時間の中で成果の 最大化を図るためでもある。ビジョンとミッションの作成にあたっては、内容が我々の独りよがりにならない よう、2016 年度の外部評価(NICT 外部の有識者による評価)及び内部評価(NICT 経営層による評価) において案を提示し、御意見・御指摘をいただいた。また特に「2.各プロジェクトにおけるビジョンとミッシ ョンの詳細」の記述にあたっては、当該技術における担当研究室長のリーダーシップのもと、学術的背景 や国内外の動向を踏まえつつ各分野の第一線で活躍する研究者達のビジョンが明示されるよう留意し た。 これからの時代、「技術」で新たなイノベーションを起こしていくには、現在有する「専門的な技術」に 「専門外の技術」を融合させるアプローチが必須であり、そのためには、異分野との連携はもちろんのこと、 自らが専門外の異分野を貪欲に取り込むチャレンジが必要であろう。今中長期計画の遂行にあたり、当 研究所の職員がそれぞれの立場でこの視点を忘れずに活動し、今中長期目標期間が終了する 2020 年 度末には、歴史ある NICT の電磁波関連研究に多くの新たな1ページを加えられるよう、研究所一丸とな って努力していきたい。目次
1. 電磁波研究所の概要 ………. 1 2. 各プロジェクトにおけるビジョンとミッションの詳細 ……….. .. 4 2.1. リモートセンシング技術 ……….……….. 5 2.2. 宇宙環境計測技術 ……...……….. 14 2.3. 時空標準技術 ………..……….………. 22 2.4. 電磁環境技術 ………..………..….……….. 30 2.5. 電磁波技術の様々な社会展開 ……….…. 40 3. イノベーション創出に向けた取り組み ……… 43 3.1. 知的財産戦略 ……..……….. 43 3.2. 社会展開の方策 ……..……….. 44 4. 国際展開および標準化 ………. 47 4.1. 電磁環境技術に関する取り組み ………...……… 48 4.2. 時空標準技術に関する取り組み …...……… 50 4.3. 宇宙環境技術に関する取り組み ……...……… 51 4.4. ITU-R に関する取り組み ……..……… 53 5. 広報・アウトリーチへの取り組み ……….… 54 6. 人材育成への取り組み ……….. 551
1. 電磁波研究所の概要
ICT(情報通信技術)を利活用して人類の新たな価値を創造するためには、我々を取り巻く環境から 様々な現象や状況を観測・測定することが重要であり、そのためには、計測の基準を構築し、また必要に 応じ適切な形でデータ化し、サイバー空間上の情報に置き換えていく必要がある。当研究所に与えられ たミッションは、電磁波を用いてこの機能を実現していくことである。すなわち、我々は電磁波研究所全体 のミッションとして、「電磁波の特性を活かした、より正確な計測を実現することにより、社会を守るとともに、 これまで見えなかったことを見ることにより、科学の新たな価値の創造を導く」を掲げ推進していく。その際、 NICT 内はもちろんのこと、産業界やアカデミアとも密に連携することにより、新たな電磁波応用分野の開 拓を目指していく。 上記のミッションを達成するまでの流れを図 1.1 に示す。すなわち、現実の世界である「リアルワールド」 で起こる様々な自然現象や人為現象(人が活動することが原因で生じる現象を指し、ポジティブな側面と ネガティブな側面をもつ。)に対して、我々のコア技術である「電磁波を用いた正確な計測」により情報に 置き換え、NICT 内や産業界・アカデミアと連携してその情報を活用することにより、「社会を守る・生活を 守る」ことや「科学の新たな価値を創造する」ことを実現していくという流れである。 この「電磁波を用いた正確な計測により得られる情報」は、大きく以下の3種類に分類できる。 社会を司る機能の源となるデータ 科学技術や社会の基盤として、計測の基準を定める。例えば、周波数標準値、日本標準時、 人体に対する電波防護の許容値、無線設備が発する電波を計測するための装置の較正値、 などが相当する。 社会における行動や判断の根拠となるデータ 観測・計測したデータが国民の生活を守る。例えば、気象や地球環境の観測値、被災地状 況の観測結果、太陽活動や磁気圏・電離圏の観測値、などが相当する。 新しい価値を導くデータ 従来計測できなかったデータを得ることが新たな価値を生む。例えば、衛星からの地球観測 結果、光周波数標準により実現された周波数値、フェーズドアレイ気象レーダーによる観測結 果、非破壊センシング観測結果、波面印刷技術の応用、などが相当する。 これらのデータがサイバー空間上の情報として蓄積され、未来の社会を作り上げていく。 上述のミッションを達成するために、当研究所では、以下に示す 4 つの技術の研究開発を推進する。ま た、図 1.2 に示す 5 つの研究室体制(リモートセンシング研究室、宇宙環境研究室、時空標準研究室、電 磁環境研究室、電磁波応用総合研究室)でこれらの研究開発を実施する。 リモートセンシング技術2
風、水蒸気、降水等を高時間空間分解能で観測しゲリラ豪雨や竜巻などの突発的大気現象 を早期補足する技術、地球規模で降水・雲・風等の大気環境を観測する衛星搭載型センサー、 地震・火山噴火等の災害発生状況を迅速に把握可能な航空機搭載合成開口レーダー、社会 インフラや文化財の効率的な維持管理に貢献する非破壊・非接触の診断技術などの研究開発 を実施する。 宇宙環境計測技術 電波伝搬や航空機・人工衛星の運用に大きな影響を与える電離圏及び磁気圏・放射線帯 の擾乱の状態をより正確に計測し、高精度で予測するための基盤技術の研究開発を実施する。 また、実社会での利用に貢献するシステムの構築に向けた研究開発を行い、研究開発成果を 電波の伝わり方の観測等の業務に反映する。さらに、太陽電波観測・太陽風シミュレーションに よる高精度早期警報システムの実現に向けた研究開発を行う。 電磁波計測基盤技術(時空標準技術) 正確な周波数と時刻情報は、情報通信社会と最先端の精密計測技術の進展に不可欠な基 盤である。当研究所では、正確で安定な周波数の発生源となる周波数標準器(原子時計)の開 発、その評価と利活用に不可欠となる高精度な周波数・時刻の比較・伝送技術の開発、および 日本標準時を定めて広く供給する業務とともに、その進化のための技術開発に取り組む。 電磁波計測基盤技術(電磁環境技術) 電波利用の拡大や多様化に対する安全・安心を確保するため、①先端 EMC 計測技術、② 生体 EMC 技術の研究開発に取り組む。①先端 EMC 計測技術では、様々な機器から生ずる 不要電波の正確な計測法や、不要電波が通信システムに与える影響の評価法、電波を正確に 計測するための較正技術を開発し、クリーンな電磁環境の実現に貢献する。②生体 EMC 技術 では、人体への電波の曝ばく露量を正確に評価する技術や、無線利用機器が技術基準に適 合しているかを評価する技術の研究開発を通じて、安全な電波利用社会の実現に貢献する。3
図 1.2 電磁波研究所における研究室の構成 時空標準技術 電磁環境技術 リモートセンシング技術 時空標準研究室 標準時及び周波数標準の発生・供給 技術、関連業務 超高精度周波数標準技術(原子標準、 周波数比較) テラヘルツ周波数標準技術 広域時刻同期技術 電磁環境研究室 較正業務 先端EMC計測技術 生体EMC技術 リモートセンシング研究室 地上レーダー技術 航空機搭載合成開レーダー(SAR)技術 衛星搭載レーダー テラヘルツ帯センシング 光計測(ライダー) 宇宙環境計測技術 宇宙環境研究室 宇宙天気予報業務 電離圏観測・シミュレーション 磁気圏観測・シミュレーション 太陽&太陽風観測・シミュレーション 社会を 守る 生活を 守る 科学の新たな価 値を 創造する 電磁波応用総合研究室 非破壊センシング センシングデータの3次元可 視化インタフェース 図 1.1 電磁波研究所のミッション及びそれを達成するまでの流れ4
2. 各プロジェクトにおけるビジョンとミッションの詳細
本章では、1 章で述べた 4 技術(リモートセンシング技術、宇宙環境計測技術、時空標準技術、電磁環 境技術)に対応する4つの基幹プロジェクト、および分野横断的に推進する社会展開プロジェクトについ て紹介する。各プロジェクトはそれぞれ、5 つの研究室(リモートセンシング研究室、宇宙環境研究室、時 空標準研究室、電磁環境研究室、電磁波応用総合研究室)にて推進されている。 基幹プロジェクト(2.1~2.4 節)については、(1)各技術分野の内容および研究・業務活動の必要性を 紹介、(2)国内外における分野の現況と課題を整理、(3)それを踏まえて各プロジェクトが何をすべきか・ その位置づけを確認、(4)今中長期計画の 5 年間(2016-2020 年)における目標と活動計画を整理、(5) さらなる成果展開の方策を検討、という構成で記述した。 社会展開プロジェクト(2.5 節)については、時 宜に応じた課題設定や目標の変更も想定されるため、ここでは現在進みつつある主な課題について紹 介する。また各プロジェクトにおける成果の期待値を、期間内ロードマップとして示す。5
2.1 リモートセンシング技術
2.1.1
分野の内容説明・意義
リモートセンシング技術とは、雨や雲、風、気温、湿度などの気象、オゾンなどの大気成分、あるいは地 表面状態や構造物などを遠方からまんべんなく時間的・空間的に高分解能で計測する技術である。 ゲリラ豪雨、竜巻、台風などの気象災害が我々の社会に与える影響は大きい。時間雨量 50mm を超え る雨が頻発し、大型台風の日本上陸が増えるなど、地球温暖化に伴ってこれらの気象災害が激甚化す るという研究報告もある([1]など)。また、大規模な火山噴火や南海トラフ巨大地震、首都直下地震などの 危険性は常に存在し、これらの災害への対策は日本の最重要課題の一つである。 気象災害については、近年の数値予報の高度化に伴い予報精度は着実に向上しているが、ゲリラ豪 雨などの局所的に急激に発達する現象の予報は現状でも難しい。数値計算の出発点となる気象観測デ ータの時間・空間分解能が十分でなく、また水蒸気などのデータも足りていないことが原因の一つであり、 これを解決できる手段が空間を高時間・高空間分解能で計測できるリモートセンシング技術である。また、 気候変動などのグローバルで且つ地域差が大きい長期的変動の予測に関しても改善の余地が大きく、 グローバルにまんべんなくデータを取得できる衛星からのリモートセンシング技術の向上がここの鍵を握 っている。一方、火山噴火や巨大地震については予測技術の研究開発は進められているものの、現時 点では正確な予報は難しいとされている。これらの災害に関しては、日々の備えと発災後の迅速な対応 が被害を最小限に抑えるために必要であり、ここでも安全で迅速な災害状況把握を可能とするリモートセ ンシング技術への期待は大きい。 NICT におけるリモートセンシング技術の研究開発の歴史は長い。衛星搭載降水レーダーの基礎技術 開発は 1970 年代に始まり、1997 年には日米共同で「熱帯降雨観測衛星(TRMM)」が打ち上げられた。 TRMM はその後 17 年以上にわたって観測を継続し、熱帯地方の詳細な降水分布や熱帯低気圧やエル ニーニョ現象に関する多くの新たな科学的知見が得られた。航空機搭載合成開口レーダーについても 1980 年代に基礎技術開発が始まり、1998 年には偏波機能を備えた X バンド航空機搭載合成開口レー ダー(Pi-SAR)の開発に成功した。Pi-SAR は当時としては世界最高の性能を誇り、2000 年の三宅島噴火 の際には火口が陥没していく様子を明瞭に捉えて、その有効性を実証した。 前回の電磁波計測部門ミッションプラン(2002 年 10 月発行)[2]が発表された当時は、地球温暖化やオ ゾン層破壊に代表される地球環境問題が 21 世紀に人類が直面する最大の課題と考えられ、リモートセン シング技術も、観測による現象の把握などを通した地球環境問題の解決への貢献を最大の目標としてい た。当時の本技術に関連する研究プロジェクトを図 2.1.1 に示す。現在、これらのうちの大半のミッションは その役割を果たしている。サブミリ波放射サウンダや 35GHz 帯降水レーダーは、国際宇宙ステーション日 本実験棟(JEM)搭載超伝導サブミリ波リム放射サウンダ(SMILES)や全球降水観測計画(GPM)主衛星 搭載二周波降水レーダー(DPR)の装置開発を完了し、宇宙ステーションや衛星からの観測を実現した。 また、ミリ波雲レーダーも雲エアロゾル放射ミッション(EarthCARE)衛星搭載雲プロファイリングレーダー (CPR)として 2019 年に打ち上げが予定されている。6
前回から 15 年を経た現在でも、地球環境問題への貢献は NICT にとって重要な課題である。一方で、 NICT のリモートセンシング技術の研究開発は、より身近で具体的な社会貢献(気象災害の早期探知、災 害状況把握への貢献など)を強く意識したものと変わってきているのも事実である。例えば、衛星搭載降 雨レーダーで培ったフェーズドアレイレーダー技術を応用して地上の降雨を高速で測るフェーズドアレイ 気象レーダーが開発され、ゲリラ豪雨などの予測技術向上のための研究開発が始まっている。 現在進行中の研究プロジェクトは以下の3 つに大別される。これらの区別は観測対象やその観測方式 の違いによるが、電波や光を用いたレーダーやライダー技術であることは共通である。 地上気象センサー 第 3 期中長期計画期間(2011 年度~2015 年度)において開発したフェーズドアレイ気象レ ーダー(降水の観測)に加え、雲、風、水蒸気等を高時間・高空間分解能で地上から観測する 技術の研究開発を行い、これらの融合観測や気象モデル研究との連携により、ゲリラ豪雨・竜 巻に代表される突発的大気現象の早期捕捉・発達メカニズムの解明など、予測技術向上に必 要な研究開発を行う。 衛星センサー グローバルな気候・気象の監視や予測精度向上を目指し、地球規模での降水・雲・風等の 大気環境の観測を実現するための新たな衛星搭載型リモートセンシング技術、及びこれまでに 開発したセンサーで得られたデータを利用した降水・雲等に関する物理量を推定する高度解 析技術の研究開発を行う。 航空機 SAR 地震・火山噴火等の災害発生時の状況把握等に必要な技術として、航空機搭載合成開口 レーダー(航空機 SAR)について、構造物や地表面の変化抽出等の状況を判読するために必 要な技術の研究開発に取り組むとともに、観測データや技術の利活用を促進する。さらに、世 図 2.1.1 2002 年当時のリモートセンシング技術に関する研究プロジェクト 2002年当時のNICTにおけるリモートセンシング技術に関する研究プロジェクト 1.宇宙からの地球観測計測技術の研究開発 1-1 宇宙ステーション搭載用超電導サブミリ波放射サウンダ(SMILES)の開発 1-2 衛星搭載35GHz帯降水レーダーの研究開発(GPM/Ka帯レーダー) 1-3 衛星搭載ミリ波雲レーダーの研究開発 1-4 衛星搭載ドップラーライダーの研究開発 2.高度計測技術・利用技術の実用化に関する研究 2-1 航空機搭載3次元マイクロ波映像レーダー技術開発(Pi-SAR) 2-2 極域中層大気観測のための国際共同研究(アラスカプロジェクト) 2-3 亜熱帯における大気・海洋相互作用観測技術の研究(遠距離海洋レーダー、 沖縄偏波降雨レーダー等)7
界最高水準の画質(空間分解能等)の実現を目指した、レーダー機器の性能向上のための研 究開発を進める。 次節以降で、これらのプロジェクトの現況・課題、位置づけ・意義、目標・計画、成果展開の方策につ いて記載する。2.1.2
活動の現況・課題
(1) 地上気象センサー
降雨を観測する気象レーダーや上空の風を観測するウィンドプロファイラ(WPR)は気象庁の現業観測 にも利用され、日々の天気予報に欠かせない観測手段である。地上気象レーダーには 3 GHz 帯(S 帯)、 6 GHz 帯(C 帯)、9 GHz 帯(X 帯)を用いるものが一般的である。波長が短くなるにつれて降雨減衰の影 響が大きくなるため観測範囲が狭まるが、装置の小型化や高空間分解能化がし易くなる特性があり、用 途に応じて使い分けられる。例えば、国土の広いアメリカでは S 帯の気象レーダーが国土をカバーし、日 本では気象庁が C 帯レーダーで全国をカバーしている。また、集中豪雨による都市災害を警戒する日本 の国土交通省は正確な雨量が計れる X 帯の偏波レーダーを都市域中心に展開している。第 3 期中長期 計画期間に NICT・東芝・大阪大学が協力して開発したフェーズドアレイ気象レーダー(PAWR)は、現業 利用を念頭におきコストを抑えつつ、時間分解能の飛躍的な向上を実現した世界的に見てもユニークな X 帯のレーダーである。またこの PAWR の高速観測手法をベースに、偏波機能を追加したマルチパラメ ータ・フェーズドアレイ気象レーダー(MP-PAWR)の開発が、内閣府の戦略的イノベーションプログラム (SIP)において進められている。降雨量の計測精度に優れた MP-PAWR は、今後国内外での降雨観測 レーダーとしての活躍が期待される。 WPR は日本や欧州で現業観測に使用されているものの、乱気流や積乱雲発達の早期探知に要求さ れる時間・高度分解能やデータ品質において大きな改善の余地がある。NICT で開発を進めている次世 代 WPR は、時間・高度分解能やデータ品質を飛躍的に向上させる技術を実装しており、気象庁の観測 拠点、空港などへの導入を想定している。また、次世代 WPR が将来の風・乱気流計測のデファクトスタン ダードとなることにより、海外展開も視野に入る。 また、当プロジェクトでは、国内外を問わずこれまで計測手法が限られていた地表付近の水蒸気分布 を計測する新しい観測手法として、地デジ放送波を用いた水蒸気量推定技術の開発を進めており、昨年 度基礎技術の確立を完了した。本技術に関しては、今後数年以内に、他機関とも連携して関東域を中心 に多地点展開を進め、より実践的な技術実証を実施する。(2) 衛星センサー
GPM、EarthCARE とも国際連携プログラムであるが、それぞれの中心ミッションである 2 周波降水レー ダー(DPR)と雲プロファイリングレーダー(CPR)の開発を JAXA と NICT が共同で担当している。衛星搭 載の降雨レーダーを開発する技術は、TRMM、GPM の経験により他国の追随を許さない、いわば日本 のお家芸となっている。これまでに TRMM で得られたデータや、現在 GPM で取得しているデータは、 JAXA の地球観測衛星データ提供システム(G-Portal)で公開されており、1 時間ごとの全世界の降雨分 布の準リアルタイム速報(GSMaP)や、数時間後までの全世界の降水予測(GSMaP RIKEN Nowcast)を8
はじめとするグローバルな降水状況把握アプリケーションに貢献している。また、雲レーダーの開発では、 NASA/JPL の Cloudsat が先行して打上げられたが、EarthCARE 搭載の CPR は世界初となるドップラー 計測機能を有している。 高層気象観測点(国際協力による気象ゾンデ観測ネットワーク)の急速な減少により、全球規模で気象 データが取得できる衛星観測の重要性は増している。現在の衛星観測は、風観測に比べて観測が容易 な温度や水蒸気のパッシブセンサーに偏重しており、全球規模で風の高度分布を得ることが出来る衛星 観測システムの開発が世界気象機関(WMO)から望まれている。衛星搭載ドップラー風ライダー(DWL) は WMO の要望を満たせる有望なリモートセンシング技術であり、欧米ともにその実現に向けた開発を進 めている。衛星搭載ライダーの開発において、レーザー技術は最も困難な課題である。NICT は、DWL のコア技術となるライダー用高出力パルスレーザー技術、光デバイス、信号処理技術を自ら研究開発し ており、高出力パルスレーザーの出力において NASA のラングレー研究センターと世界トップを競ってい る。 中層~超高層大気の組成、風、温度等を計測できる衛星搭載サブミリ波サウンダ技術においては、観 測精度を犠牲にしても超小型衛星に搭載が可能な常温型受信機による衛星計画が現在の世界の潮流 であり、欧州(DLR やチャルマス工科大等)や米国(JPL 等)などで衛星計画が進められている。一方、 NICT と日本の研究グループは JEM/SMILES で実証した高い観測精度を持つ超伝導受信機の小型化 を図り、200kg クラスのペイロードを持つ小型衛星での観測実現を狙っている。
(3) 航空機 SAR
災害時の状況把握や社会インフラのモニタ等様々な用途に活用できる航空機 SAR は、欧米や日本な どの主な先進各国で開発がすすめられている。NASA はバイオマスを計測することを目的に P バンド SAR を開発中。国内では、現在、L バンドの SAR を JAXA が開発しており、NICT は X バンドの SAR を 開発している。X バンドを使用した航空機 SAR は高分解能の点で DLR と NICT が世界トップクラスの開 発に成功している。また、NICT は実用的システムとして基本的には常時運用可能なシステムを実現し、 日本の国土特有の災害の状況把握技術の開発を目指している。SAR による観測については衛星搭載も有効である。ドイツでは X バンド SAR を搭載した TerraSAR-X を運用し、商用画像サービスも行っており、日本でも JAXA が L バンド SAR を搭載した ALOS-2 衛星を 運用している。衛星 SAR は軌道が安定していることから、時間をおいて同じ地点を観測し、その干渉デ ータから断層ずれや火山の山体膨張などの微小な地形の変化を検出する干渉 SAR 観測などを得意と する。一方、航空機 SAR は、空間分解能、対象を様々な角度から観測するなどの柔軟性と迅速性でメリ ットがある。衛星 SAR と航空機 SAR は相補的な関係にあり、両者をうまく組み合わせて使うことが、災害 状況把握等には有効と考えられる。
2.1.3
プロジェクトの位置づけ・意義
本章 2.1.1 節でも触れたが、かつては地球温暖化やオゾン層破壊に代表される地球環境問題の解決 への貢献が NICT のリモートセンシング技術開発の最大の目標であり、そのための複数の大型の衛星観 測ミッション (TRMM/PR、GPM/DPR、EarthCARE/CPR、JEM/SMILES)が進められた。TRMM/PR、 GPM/DPR、JEM/SMILES についてはセンサー開発を完遂し、衛星での観測にも成功し、衛星搭載降雨9
レーダーを開発する技術や衛星搭載サブミリ波受信機の開発技術については、他国の追随を許さない 状況が続いている。他方、日本の地球観測衛星計画は流動的であるものの、文部科学省・地球観測推 進部会や日本学術会議から出された我が国の地球観測のあり方についての提言では、地球環境問題 への対応の重要性や、国際的な視野に立った科学的意義や社会ニーズと継続性を考慮した課題設定 の必要性が述べられており、NICT もこれを考慮した衛星センサー開発に引き続き取り組んでいくことが 期待されている。これまで NICT の貢献が大きかった降雨の衛星観測については、後継ミッション (Post-GPM)の計画立案のための WG が立ち上がったところであり、今後も計画の具体化に貢献してい く。 第 3 期中長期計画においては、衛星搭載降雨レーダーで培ったフェーズドアレイレーダー技術を地上 気象レーダーに応用して PAWR を開発した。PAWR は日本の気象研究に大きなインパクトを与えており、 今後の気象庁や国交省の気象レーダー観測網に、この技術が取り入れられることはもはや既定路線と思 われる。この PAWR の開発は、NICT のリモートセンシング技術開発の目的にも影響を与えた。つまり、こ れがきっかけとなり、研究開発の目的が、より具体的な社会貢献(気象災害の早期探知、災害状況把握 への貢献)を強く意識したものと変わってきている。しかしながら、NICT のリモートセンシング技術の本質 は、電波や光を用いた最先端センサー開発の技術力にあると言える。今後はこのセンサー開発技術をベ ースとして、地球環境問題の解決に貢献する衛星搭載センサーの立案・開発能力を維持しつつ、突発 的大気現象の早期検出や災害状況の迅速な把握に貢献するセンサー開発と実証研究に注力する。ま た、リモートセンシングデータを用いた気象予測技術や社会的出口を意識したアプリケーション開発にも 貢献する。このアプリケーション開発の鍵となるのが、機械学習などのAI 技術も活用した PAWR データ のクオリティ―コントロール(QC)の高速化・高精度化や、気象モデルなどの計算機技術との連携である。 具体的な技術開発の中身に目を向けると、最先端のセンサー開発においてはこれまでは衛星搭載降 雨レーダーや PAWR などの大規模なレーダー装置の開発を研究室のメインミッションとして進めてきた。 これに対し、次世代 WPR や地デジ放送波を用いた水蒸気量推定などで用いているソフトウェア無線技 術は、柔軟に機能を拡張できる(コンフィギュラブルな)ツールであり、これまでの開発とはコンセプトが異 なる。この技術を用いたデジタル受信システムの開発は、適応信号処理等を活用した地上気象センサー の観測精度向上、センサーの多地点配置(ネットワーク化、IoT 化)、パッシブレーダー、マルチスタティッ クレーダーの実用化による観測領域拡大や観測高密度化など、気象観測の局面を変えるような新たな展 開が期待できる。また、ソフトウェア無線技術の適用先はリモートセンシングに留まらず、超高精度測位な どでも活用が進んでいる。この技術の柔軟性は通信などの他分野技術との融合にとっても有利であり、そ の可能性は大きく広がっている。 また、NICT はアイセーフレーザーによる風などの環境計測用コヒーレントライダーの開発に近年力を 注いできた。光ヘテロダイン検出を用いるコヒーレントライダーは、光通信基盤技術やデジタルコヒーレン ト通信技術の応用技術であり、このような他分野技術との連携が今後の発展の鍵となる。例えば、光集積 回路の発展はナノスケールアンテナと位相遅延導波路による光フェーズドアレイによる面状コヒーレントラ イダーの開発へつながる。また、深紫外 LED の開発は深紫外レーザーダイオードへの発展を予感させ、 雲凝結核として作用する微小粒子の可視化技術などへとつながる可能性がある。 NICT は航空機 SAR に関して国内では比類ない技術をもっており、これまでに蓄積した技術は情報収 集衛星の開発にも活用されている。本プロジェクトは現在、更なる精度の向上を目指した 3 代目の航空機10
SAR(Pi-SAR X3)の開発に着手しており、2018 年度末には試験飛行が開始される予定である。 Pi-SAR X3 が目標としている分解能は 15cm だが、波長約 3cm の X 帯の航空機 SAR の分解能として はこの辺りが限界と考えられ、その意味で Pi-SAR X3 は NICT の航空機 SAR 開発の集大成となる。 NICT の航空機 SAR プロジェクトは情報収集衛星という大きな社会展開の成果を出しているものの、航空 機 SAR そのものの社会展開についてはあと一歩のところにある。これは、航空機を使うという特殊性、観 測やデータ処理にまだ高度な技術を要する点、データの価値がまだ世の中に浸透していないなどといっ た所に原因があると考えられる。本プロジェクトでは、 Pi-SAR X3 の開発と並行して、災害状況把握へ の貢献、社会インフラモニタ技術等のデータ解析手法の開発・高度化、観測データ活用事例の広報など に注力し、航空機 SAR の利活用促進を図る。データ解析手法の高度化において、深層学習などの AI 技術の活用は興味深い試みである。また、データ利活用促進の一つの鍵となるのが、地図情報や自治 体データなどのビックデータとの融合技術である。
2.1.4
プロジェクトの目標・計画
第 4 期中長期計画期間(2016 年度~2020 年度)のリモートセンシング技術に関する目標と計画を以下 に記す。また、同期間の研究開発ロードマップを図 2.1.2 に示す。(1) 地上気象センサー
現業機関が導入可能な”雨量”を測れる MP-PAWR を SIP 連携にて開発し、技術実証を行う。 MP-PAWR はオリンピック・パラリンピックにおける気象予測への活用を目指す。次世代 WPR や地デジ放 送波を用いた水蒸気量推定手法などの新たな計測手法の開発、実証を行う。次世代 WPR については、 現業機関が導入可能なパッケージ化を目指す。第 3 期中長期計画期間において開発した PANDA(降 水・風の観測)にこれらの観測ラインナップと、更には EarthCARE 地上検証用に開発している雲レーダー 等を加えた融合観測や気象モデル研究との連携によりゲリラ豪雨・竜巻に代表される突発的大気現象の 図 2.1.2 第 4 期中長期計画期間のリモートセンシング技術のロードマップ 研究課題 28年度 29年度 30年度 31年度 32年度 目標(32年度末) 地上気象レー ダー技術 の研究開発 衛星センサ技術 の研究開発 航空機SAR技術 の研究開発 現業機関が導入可能な”雨 量”を測れるMP-PAWRの 開発・実証 H32年度までに水蒸気推 定技術の実利用実証 現業機関が導入可能な次 世代WPRの実用化に貢献 MP-PAWRの実証 オリンピック・パラリンピックにおける実証をめざして 多様なリモートセンシング観測融合研究 SAR・衛星搭載センサなど多様なリモセンデータ融合 地デジ放送波を利用した水蒸気量推定技 術の社会実証 次世代WPRの社会実証 データカップリングによ る気象予報/災害予測に 関する新たな知見の開拓 マルチパラメータフェーズドアレイ 気象レーダー(MP-PAWR)の開発 技術実証・製品設計 多点展開・装置小型化 試作・技術実証 装置のハードウェア化 リモートセンシング観測融合研究 レーダー・ライダー融合プロダクト研究・統合ビックデータ技術 実証研究(科研費、CREST等の外部資金を活用し、他部門・他機関との連携により実施) GPMアルゴリズム改良・検証実験 EarthCAREアルゴリズム開発・検証研究 将来の衛星搭載センサー(Post-GPM、SMILES-2、衛星ドップラー風ライダー)に向けた基礎検討・基礎開発 世界トップレベルの衛星搭載レーダ技術を用いて衛星観測計画をリード 気候変動の監視や予測精 度の向上、温暖化・水循 環メカニズム等の解明に 貢献するための ・地球規模の高精度降雨 観測・雲観測の実現 ・風観測・中層~超高層 大気の風・温度・組成 観測技術の基礎開発 EarthCARE検証観測実験・ 解析アルゴリズム改良 打上げ 地上検証用レーダ開発 GPM・EarthCARE地上検証実験 SIP 地デジ放送波を利用した水蒸気量推定技術の開発 次世代ウィンドプロファイラ(WPR)の開発 性能検証 ・評価 地震・火山噴火等の災 害発生時の状況把握、 社会インフラモニタ等 に貢献 次世代航空機SARを開 発し、世界最高水準の 画質(空間分解能等) を実現 次世代航空機SAR(Pi-SAR3-X)の開発 観測技術・情報抽出技術の高度化、災害状況把握への活用、データ利活用促進 Pi-SAR2を用いた研究開発 機器設計・製造 機体改修 Pi-SAR3を用いた研究開発11
早期捕捉や発達メカニズムの解明など、予測技術向上に必要な研究開発を行う(図 2.1.3)。(2) 衛星センサー
気候変動の監視や予測精度の向上、温暖化・水循環メカニズム等の解明に貢献するため、地球規模 の高精度降水観測・雲観測の実現を目指し、EarthCARE/CPR については、JAXA における CPR の完成 に向けた業務への協力、データ処理アルゴリズム開発を実施し、2019 年の衛星打ち上げに備える。また、 地上検証用の雲レーダーの開発・実証を完了させる。GPM については、データ処理アルゴリズムの改良 に貢献し、また Post-GPM に向けた基礎検討を進める。 対流圏の風観測や中層~超高層大気の風・温度・組成観測技術の基礎開発として、衛星搭載ドップ ラー風ライダーに関してはコア技術である高出力パルスレーザーの開発や衛星搭載のための基礎技術 検討を進める。サブミリ波サウンダについては、JEM/SMILES で実証した極めて高い観測精度をもつ超 伝導受信機の多波長化や小型化を進め、200kg クラスのペイロードをもつ小型衛星での観測実現にむけ た技術検討を行う。(3) 航空機 SAR
地震・火山噴火等の災害発生時の状況把握等に必要な技術として、航空機搭載合成開口レーダー (航空機 SAR)について、構造物や地表面の変化抽出等の状況を判読するために必要な技術の研究開 発に取り組むとともに、観測データや技術の利活用を促進する。さらに、世界最高水準の画質(空間分解 能等)の実現を目指した、レーダー機器の性能向上のための研究開発を進める。 なお、全体を通して言える事だが、現状不足している海外への発信(国際学会での発表や論文)につ いては強化を図る必要がある。 図 2.1.3 融合観測による突発的大気現象の早期捕捉やデータ利活用の概念図12
2.1.5
成果展開の方策
NICT の高い技術力をもって、これまでになかった新たなリモートセンシング手法を創出することによっ て、気象予測精度の向上や、気候変動メカニズムの解明、災害状況把握等の社会的課題の解決に貢献 すること、及び、NICT が開発した技術が、民間企業や気象庁などの現業機関に導入され、新たなサービ スの創出に貢献することが、リモートセンシングプロジェクトの成果展開の形である。そのために、各研究 プロジェクトにおいて以下のような方策を立てる。(1) 地上気象センサー
MP-PAWR を開発する SIP(豪雨・竜巻)においては、防災研や鉄道総研などのデータを活用して防災 へとつなげるデータユーザーの機関との連携が図られており、これらの機関とともに新たに開発した技術 の社会実証を行う。地デジ放送波を用いた水蒸気量推定も SIP を含む他機関との連携で多地点展開を 進める。また、次世代 WPR については、現行の WPR メーカーと連携して、新たに開発した高精度計測 技術のハードウェア化を図り、更に最初の想定ユーザーである気象庁と協力して、この技術の天気予報 に与えるインパクト評価などを行う。これにより、この技術の現業機関への導入を促す。 第 3 期中長期計画期間において開発した PANDA(降水・風の観測)に上記の観測ラインナップと、更 には EarthCARE 地上検証用に開発している雲レーダー等を加えた融合観測によりゲリラ豪雨・竜巻に代 表される突発的大気現象の早期捕捉や発達メカニズムの解明などの予測技術向上に必要な研究開発 を行い、これらの技術の成果展開につなげる。また、これに関連して、機械学習なども活用した PAWR の リアルタイム QC 手法の開発や、データ同化、気象モデルなどの計算機技術との連携に取り組む。(2) 衛星センサー
GPM や EarthCARE によって得られる地球規模の高精度降水観測・雲観測データは、気候変動の監 視や予測精度の向上、温暖化・水循環メカニズム等の研究に大きなインパクトを与える。NICT の役割は、 これまでに実施したこれらの観測センサーの基盤技術開発に加え、解析アルゴリズムの開発・改良や地 上観測などによるデータ検証により、観測精度を向上させていくことである。特に 2019 年に打ち上げが予 定されている EarthCARE については、地上検証用雲レーダーやドップラー風ライダーなどを用いた検証 観測を他機関とも連携して重点的に取り組む。 サブミリ波サウンダや衛星搭載ドップラー風ライダーに関しては、現在、基礎技術開発の段階であるが、 着実に技術開発を行い、成果を発信する。また、これにより国際的な研究連携の枠組みを構築していく。(3) 航空機 SAR
構造物や地表面の変化抽出等の状況を判読するために必要な技術の研究開発を他機関と連携して 取り組み、データユーザー拡大を図る。SAR データ解析における深層学習などの AI 技術の活用にも取 り組む。また、観測データの積極的な公開により新たなユーザーを開拓する。 災害時の観測データにより、災害状況把握技術の高度化を図ると同時に、災害対応機関との連携、情 報共有をすすめ、防災・現在により有効に活用するためのデータの解析や発信方法を開発する。その一 環として、航空機 SAR データの WebGIS 化を進め、地図情報や自治体データなどとの融合の効率化を13
図る。また現在、消防庁や内閣府(防災)などと協力し、国内の研究機関が所有する航空機 SAR を災害 発生時に活用するためのマニュアルの整備を進めており、このような活動を通して、航空機 SAR 技術の 浸透を図る。またそれと並行して、次世代航空機 SAR を開発し、世界最高水準の画質(空間分解能等) を実現することにより、この分野での我が国の国際競争力の維持・向上に貢献する。参考文献
[1] Tsuboki, K., M. K. Yoshioka, T. Shinoda, M. Kato, S. Kanada, A. Kitoh (2015), Future increase of supertyphoon intensity associated with climate change, Geophys. Res. Lett., Vol. 42, 646-652, DOI: 10.1002/2014GL061793.
[2] 電磁波計測部門ミッションプラン、独立行政法人通信総合研究所(現 NICT)電磁波計測部門、 2002 年 10 月発行.
14
2.2 宇宙環境計測技術
2.2.1
分野の内容説明・意義
「宇宙天気」とは、主に太陽活動が地球近傍の電磁環境および人類の社会活動に与える影響を指 す。 太陽は 46 億年という長い時を「燃え」続けているが、この熱と光は核融合によって生み出されている。 そのため、太陽の光や熱は地球上の生き物に欠くべからざるものではあるが、それと同時に生命に有害 な X 線や紫外線、高温の電離気体をも放出している。 これに対し、地球は大気と磁場という 2 つの防護壁を持っている。大気は太陽からくる X 線や紫外線な どの電磁波が地上に届くのを防いでいる。これら生命にとって有害な電磁波を防ぐ過程で大気のもっとも 外側の領域は「電離圏」と呼ばれる電気を帯びた領域となっている。また地球の磁場は太陽からくる「太 陽風」と呼ばれる電気を帯びた気体の流れから地球を守っており、「磁気圏」と呼ばれる領域を形成して いる。 しかしながら、後述する太陽面爆発などが起きた時には、地球は防護壁として十分機能しない場合が ある。この時には、まず大気の防護壁の外にある人工衛星や宇宙ステーションなどの運用においで電子 機器の誤作動が生じたり、帯電により回路等が破壊される現象が起こる可能性がある。また宇宙飛行士 などには被ばくの問題も発生する。 更には、この強い太陽風は前述した電離圏の構造を乱し、静穏な時とは大きくその状況を変えてしまう ことがあり、その結果電離圏反射を利用する短波通信・放送や、電離圏を透過する衛星・地上間の電波 利用が影響を受ける。特に最近ではカーナビなどに利用される衛星測位への誤差要因として注目されて いる。また特に高緯度地域では送電網に過電流が流れ停電などの不具合を生じさせる可能性もある。 このような一連の自然現象を「宇宙天気」と呼び、その現況把握及び予測を「宇宙天気予報」と呼ぶ (図 2.2.1)。 歴史に記録されている最大の宇宙天気現象は 1959 年 9 月1日に起きたキャリントン・イベントと言われ ている。この時には当時最先端の通信技術であった有線電信の通信線に過電流が流れ、末端の通信所 が火事になったほか、非常に明るいオーロラが発生し夜でも屋外で新聞を読むことができたという記録が 残されている。近年でも、2012 年 7 月 23 日に起きた太陽フレアがその後の解析でキャリントン級であった と発表され、話題になった(実際には地球とは別の方向に放出されたため地球への影響はなかった)[1]。 現在キャリントン級のイベントが発生した場合の経済損失について計算した例がある。それによると、欧米 など高緯度地域を中心に、3000 億ドルほどの被害が想定され、東日本大震災の経済損失(1000‐2500 億ドル)を上回る[2]。2.2.2
活動の現況・課題
これらの状況より、米国は宇宙天気を地震や津波などの災害と並べ、米国戦略的国家危機評価(US Strategic National Risk Assessment)の一つとして位置付けている。2015 年にはホワイトハウスより National15
Space Weather Strategy および Space Weather Action Plan が発表された[3]。2016 年 4 月には、この Action Plan を受けて米国国務省が極端現象に関する国際協力の枠組みの構築のための研究会である”Space Weather as a Global Challenge”を行うなど、活発な活動が展開されている。
国際機関としては、1962 年より国連国際科学会議(International Council of Science Union: ICSU)のも とで国際宇宙環境サービス(International Space Environment Service: ISES)が活動している。これは定 常的に宇宙天気情報を発信している機関の連合体であり、現在 18 か国および ESA が加盟している。
近年、世界気象機関(World Meteorology Organization: WMO)が宇宙天気を気象の一環として取り扱 うことに意欲を見せている。2010 年には暫定的な組織として ICTSW (Inter-programme Coordination Team on Space Weather)を立ち上げ、WMO 情報システム(WMO Information System: WIS)での宇宙天 気情報の流通等を中心に検討を進めてきた。2016 年には常設の組織として ICTSW の後継である IPT-SWeISS (Inter-Programme Team on Space Weather Information, Systems and Services)が設置され、4 年計画のもとに活動を開始した。
また、国際民間航空機関(International Civil Aviation Organization: ICAO)は、航空運用に用いられる 気象情報として宇宙天気情報を取り入れることを検討している。これは主に、極域航路が増大する中で 宇宙天気現象による短波通信、衛星測位および被ばくのリスクを回避することを目的として検討されてい る。現在、運用コンセプト(Concept of Operation: ConOps)および、航空運用に使用される気象情報を規 定している第 3 付託書(Annex3)の改定に向けて、検討が進められている。本件が承認された際には、我
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が国を含む ICAO 加盟各国の国内法改定を経て、多くの国で宇宙天気情報を航空運用において利用 することが義務化される。2016 年にはこれら航空機間に対して提供するべき情報の種類や、情報提供機 関の要件がほぼ確定し、2017 年よりセンターの具体的な検討が進められている。
国連本体においては、宇宙空間平和利用委員会(Committee on the Peaceful Uses of Outer Space: COPUOS ) に お い て 、 宇 宙 天 気 に つ い て の 議 論 が 進 め ら れ て い る 。 特 に 、 2018 年 に 迎 え る UNISPACE+50 において定められた 7 つのテーマの一つとして宇宙天気が取り上げられていることから、 その内容の検討が現在活発に進められている。 その一方で、宇宙天気の分野は気象学等近隣の研究分野に比べると観測範囲が広く、観測量は未だ 乏しいこともあり、重要なプロセスの多くがいまだ解明されていない。このため、宇宙天気予報精度の向 上のためには、宇宙天気現象に関する基本的な物理現象の解明という基礎研究も不可欠となっている のが現状である。
2.2.3
プロジェクトの位置づけ・意義
宇宙環境研究室の主なプロジェクトは、太陽・太陽風、磁気圏および電離圏の3つからなる。この3つ の領域区分で研究を進めているのは、それぞれの領域で背景となる物理過程が大きく違い、研究アプロ ーチも異なる点が多いためである(図 2.2.2)。 宇宙天気現象の社会インパクトを考えると、大きく「通信・放送・測位等電波を利用する社会基盤への 影響」、「人工衛星への影響」、「電力網への影響」、「宇宙機・航空機における人体への被ばく」に分類 することができる。これらの影響の源を考慮すると、その多くは高度 80-1000km の電気を帯びた大気の領 域である電離圏と、地球の磁場の及ぶ範囲である磁気圏の乱れによって生じる。また、宇宙天気の源で ある太陽の変動予測は、予報のリードタイム(予報発信から現象発生までの時間)を伸ばすために不可 欠である。当研究室では長年にわたり世界データセンター(Wold Data Center:WDC)を運営し、太陽および電離 圏観測について過去 60 年を超えるデータアーカイブを有している。これらのデータの有効利用として、 単なるデータの保存・公開のみならず、宇宙天気予報に資する経験モデルの構築を行ってきた。最近で は機械学習を用いたフレア発生予測や電離圏嵐予測などの開発を進めてきている。現在でもいくつかの
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鍵となる宇宙天気メカニズムが未解明である現状で、経験モデルの位置づけは重要な意味がある。特に 今後、データ処理・画像処理の専門家と連携することにより更なるデータの利活用を進めることは大きな 意義がある。 また、当研究室は機構法第 14 条第 1 項第 4 号の業務(以下、「4号業務」)を担う。これは電波の伝わり 方の観測、予報及び異常に関する警報の送信、並びにその他の通報は、短波帯通信の途絶や衛星測 位の誤差増大等の影響を生じさせる太陽活動や電離圏の乱れ、宇宙放射線の変動に関する観測や予 警報(いわゆる宇宙天気予報)を行うものであり、安定した電波利用に不可欠な業務を規定したものであ る。2.2.4
プロジェクトの目標・計画
プロジェクトを推進するにあたっての基本的なコンセプトを図 2.2.3 に挙げる。研究推進の手法としては、 「観測」、「モデル・シミュレーションコード構築」、および「アプリケーション開発」の 3 つに分類する。宇宙 環境研究の基礎となるのは現象を観測することである。当研究室は 4 号業務との連携のもとに国内定常 観測を行い外部機関へ提供するとともに、自らの研究に用いて基礎研究を進める。また観測機器の開発 を行う。観測は、その結果のモデル・シミュレーションコードへのインプットおよびそれらの検証という位置 づけでもある。 現況を把握するために観測は必須であるが、宇宙天気予報を行うためには「モデル・シミュレーション コード構築」が必要となる。当研究室ではそれぞれの領域分野において世界トップクラスのモデル開発の 実績があり、研究テーマの中核をなす。宇宙天気予報モデルの最終的な理想形は気象予報と同様デー タ同化による数値予報である。その一方で、未知のプロセスを有する宇宙天気の予報を現状精度よく行う ためには、経験モデルの開発も不可欠である。AI の専門家との連携も含め、当研究室ではこの 2 つのモ デル開発を並行して行う戦略をとる。 「観測」「モデル・シミュレーションコード構築」と並び重要なものが「アプリケーション開発」である。これ は利用者が宇宙天気情報をより有効・正確に使うためのツール開発である。このために、ユーザーとの密 接なコミュニケーションのもと、実装と要望のフィードバックを繰り返すことで使いやすいコンテンツ開発を 進めていく。 図 2.2.3 宇宙天気研究のコンセプト18
これら 3 つの手法の成果が宇宙天気予報業務に反映されることで、国民の安心・安全な電波利用に資 する。 各領域における具体的な目標・計画は以下のとおりである。研究開発ロードマップを図 2.2.7 に示す。(1) 電離圏
電波伝搬に大きな影響を与える電離圏等の擾乱の状態をより正確に把握する宇宙環境計測及び高 精度予測のための基盤技術の研究開発を行うとともに、航空機の運用等での電波インフラの安定利用に 貢献するシステムの構築に向けた研究開発を行い、研究開発成果を電波の伝わり方の観測等の業務に 反映する。 【観測】 前中期計画で新規導入した国内イオノゾンデ VIPIR2 による電離圏鉛直構造の自動導出技術 を開発する。国内外 GPS 受信機網および赤道越え電波伝搬を利用し電離圏観測のリアルタイム化・広 域化を促進する。これにより、モデルによる数値予報に必要な電離圏の現状把握体制を整備していく。 海外における電離圏観測については、東南アジアの国々の経済発展に伴い各国での宇宙天気情報の 必要性も増していることから、NICT がイニシャティブをとりつつ観測の主体を徐々に各国に移す方向で 進める。 【モデル・シミュレーションコード構築】 AI による国内電離圏擾乱予想等を用い、現在可能な電離圏予 測情報を提供する。また観測で得られた電離圏の現状把握データを入力とした、全球大気圏‐電離圏モ デルをベースとしたデータ同化のプロトタイプシステムを構築、数値予測の基盤技術を開発する。また、 アジア-オセアニア域の詳細電離圏情報を生成するため、全球モデルと領域電離圏モデルの連携手法 を開発する(図 2.2.4)。 【アプリケーション開発】 電波伝搬シミュレータを用いた電波利用状況の現況把握や予報のアプリケー ションを開発し、現在どの領域で電波利用が宇宙天気の影響を受けているかなど、衛星測位情報や電 波伝搬情報などニーズ指向の分り易い情報配信を行う。 図 2.2.4 電離圏数値モデル19
(2) 磁気圏
人工衛星に不具合をもたらす可能性のある宇宙環境変動の把握および予測に貢献するため、太陽風 データを利用可能とする高性能磁気圏シミュレータの研究開発を進めるとともに、データ同化型の放射 線帯予測モデルの研究開発を行う(図 2.2.5)。 【観測】 磁気圏領域の観測については、磁力計や極域 HF レーダー等を用いた地上観測を進めてい る。また、JAXA や気象庁等の国内関係機関との連携により、ひまわり衛星、ERG(あらせ)衛星等による 宇宙環境リアルアイム観測値の収集を進めている。これらのデータを放射線帯モデルの入力および磁気 圏シミュレーションの検証に活用し、モデルおよびシミュレーションの精度向上につなげる。 【モデル・シミュレーションコード構築】 地上および衛星で観測される様々な電磁場および粒子変動を 用いたリアルタイムで入力可能な放射線帯 予測モデルの開発、及び予測情報の提供 を継続し、現在の利用者へのニーズを満た す。磁気圏数値シミュレーションの精度評 価および改良を進め、将来の数値予報に 繋げる。 【アプリケーション開発】 利用者がより使 いやすい情報を提供するために、静止軌 道宇宙環境の可視化システムを構築する。 また、衛星帯電モデルの入力として活用す ることにより現状どの衛星のどの部分に注 意を払う必要があるかなどの情報を提供可 能にする、テーラーメイド宇宙天気システム の開発に貢献する。(3) 太陽・太陽風
太陽電波観測・太陽風シミュレーションによる高精度早期警報システムの実現に向けて、太陽風の擾 乱の到来を予測するために必要な太陽活動モニタリングのための電波観測システムを開発する。また地 球に影響する時刻を正確に予報するために不可欠な、衛星観測データを活用した太陽風伝搬モデルの 技術の研究開発を行う。太陽嵐に伴う地球への影響は、その太陽風が持つ速度および磁場の向きで大 きく変わる。現在はその予測は、太陽と地球の間に浮かぶ探査機 DSCOVR の観測データが得られるま で正確には求められておらず、現象が実際に発生するまで 1 時間の猶予しかないのが現状である。これ を、太陽風のシミュレーションを正確に行うことにより、予測期間を、1 日~数日前に伸ばし、地磁気嵐等 の発生の早期警戒システムを構築するための研究開発を行う(図 2.2.6)。 【観測】 太陽電波観測による太陽嵐発生を検出しシミュレーションへの入力を行うことで、地球に影響 する時刻およびその影響の規模を正確に予測する体制を構築する。我が国の地上観測のみならず、国 際連携を進め太陽の地上および衛星観測体制の構築に寄与していく。 図 2.2.5 磁気圏研究の構造20
図 2.2.6 太陽・太陽風研究の構造 図 2.2.7 第 4 期中長期計画期間の宇宙環境計測技術のロードマップ 研究課題 28年度 29年度 30年度 31年度 32年度 目標(32年度末) 電離圏観測・シ ミュレーション に関する研究開 発 電離圏鉛直プロファ イルを自動で導出す る技術を確立する。 またニューラルネッ トによる予測システ ムにより、電波イン フラの安定利用に寄 与する。 磁気圏観測・シ ミュレーション に関する研究開 発 2025年までに経験モ デルによるテーラー メイド宇宙天気情報 システムを構築し、 衛星運用に寄与する。 また、2030年までに 数値シミュレーショ ンによるリアルタイ ムシステムを構築す る。 太陽・太陽風観 測・シミュレー ションに関する の研究開発 電波観測および太陽 風シミュレーション による高精度早期警 報を実現する。 リアルタイム電離圏観測態勢整備 AIモデルシステム開発 GAIA検証と改良 領域モデル開発 領域モデル開発および拡張 リアルタイム電離圏観測グローバル化 AIモデルシステム機能向上 磁気圏シミュレータの検証と改良 放射線帯モデル開発 テーラーメイド宇宙天気情報システム開発 テーラーメイド宇宙天気情報システム実利用検証 観測データを有機的に取り込んだ磁気圏モデルのプロトタイプの開発 太陽電波観測 システム開発 太陽電波観測による早期警報システムの開発 定常太陽風シミュレーションの研究開発 AIを用いた太陽フレア発生確率予測の研究開発 CME伝搬シミュレーションの研究開発 他観測データとの連携による早期警報 システムの高精度化 観測データを入力とするフレア・ CMEシミュレーション検討 GAIAデータ同化プロトタイプの開発21
【モデル・シミュレーションコード構築】 太陽フレアの発生前にその発生を予測し、リードタイムを延伸す るために、AI の専門家との連携による太陽面磁場観測データ解析を行い、大規模太陽嵐発生確率を推 定する技術開発を行う。また太陽風シミュレーションを高速化し精度の評価を行う。 【アプリケーション開発】 太陽嵐の発生に起因する電離圏嵐等に対して適切に対策を講じるため、太 陽嵐の発生確率を推定し情報提供を行うための研究開発をおこなう。2.2.5
成果展開の方策
宇宙天気研究には未解明の重要プロセスが山積しており、その解明に向けて学術的な活動を行うこと は研究機関としての本務である。その一方で、成果の社会展開の可能性も大きく広がってきている。 近年、特に衛星測位技術の利用が普及するにつれて、電離圏擾乱の情報の必要性が社会に認識さ れつつある。例えば準天頂衛星の利用について東南アジアをはじめとする海外に広める際にも、プラズ マバブルを始めとする電離圏情報を併せて検討しなければ、高精度測位の優位性を発揮することは困 難である。このような状況にある中で、商品価値のある電離圏情報をどのように社会展開するかを慎重に 検討する必要がある。 また、今後商業的有人宇宙利用が加速する場合には、宇宙天気情報は地上の気象予報と同様に重 要かつ身近な存在となっていくと考えられる。そのような場合の考えうる進め方を今から用意しておくこと は意味がある。参考文献
[1] ”Fierce 2012 magnetic storm just missed us: Earth dodged huge magnetic bullet from the sun”, Science Daily, March 18, 2014.
[2] SWISS Re, “Space Weather Impacts --a Risk to Society?--”, Space Weather Workshop 2014, April 8-11, 2014, Boulder US.
http://www.swpc.noaa.gov/sww/SWW_Agenda_w_attached_presentations.pdf
[3] https://www.whitehouse.gov/sites/default/files/microsites/ostp/final_nationalspaceweatherstrategy_20151028.pd f
22
2.3 時空標準技術
2.3.1
分野の内容説明・意義
「時空標準技術」は、現代社会の基盤となる、正確な時刻・時間(周波数)の基準をつくり、測り、供給 するための技術である。また、GPS に代表される全地球航法衛星システム GNSS(Global Navigation Satellite System)では正確な時刻・時間が不可欠であり、本技術は空間の基準を決めるためにも欠かせ ない。 最も直接的な時空標準技術の一つは、標準時の構築と供給である。現在、世界の標準時である協定 世界時 UTC(Coordinated Universal Time)は、フランスのパリ近郊に本部を置く国際度量衡局(BIPM)に おいて、世界中の原子時計の合成により作られ周知されている。だが UTC は 1 ヶ月遅れで計算される計 算機の中だけの時刻であるため、各国の標準機関がその国の標準時を作り、国内に供給している。NICT は、日本における時刻と周波数の標準機関として、この役目を果たしてきた。半世紀近くにわた り原子時計群を運用し、その合成から「日本標準時 JST (Japan Standard Time)」を構築し、9 時間の時差 で UTC に同期する標準時として、リアルタイムな時刻信号を各種の方法で広く供給している。また、世界 中の原子時計がリンクして作られる標準時の維持には、定常的な国際時刻比較が必須である。NICT は、 測位衛星や通信衛星を仲介とする国際時刻比較網に参加し、1 千万分の 1 秒以下の精度で UTC に同 期する JST を維持するとともに、NICT のもつ原子時計群のデータを BIPM に提供することで、UTC 自身 の構築にも大きく貢献している。
世界中の原子時計 400 台以上の加重平均で得られる平均原子時はその卓越したロバスト性を特徴と するが、長期的にみてこの平均が刻む 1 秒の長さが変化しないという保証はない。そこで、BIPM は国家 標準機関が報告するセシウム(Cs)一次周波数標準による歩度評価を参考にして、平均原子時が刻む 1 秒の長さを計算機上で調整して国際原子時 TAI(International Atomic Time)としている。よって研究室内 でこの本来の 1 秒を自らより高精度に得ることが出来れば、ここから継続して時刻信号を得ることで、各国 標準時は頻繁に UTC との間で比較・修正せずとも良い同期を得られる。国家標準時をどれだけ自律的 に生成出来るかは、いかに高精度な周波数標準を持ち、かついかにその性能をノンストップで刻み続け る標準時に活かせるかにかかっている。 また、忘れてはならないことは、周波数(=時間)標準は数ある物理量の中で実現に伴う不確かさが圧倒 的に小さく、最高確度の Cs原子泉型周波数標準は 10-16台の確度で秒の定義を実現できることである。こ れは 1 億年経っても 1 秒しかずれないという精度である。より不確かさの小さい周波数(=時間)を生成する 技術について、前世紀はもっぱらマイクロ波周波数域での振動現象を利用してきた。現在でも 1 秒の定 義は Cs 原子の超微細構造遷移によって定義され、最高確度の Cs 原子泉型周波数標準は 1.1×10-16 の確度で秒の定義を実現出来ている。 一方、光とマイクロ波は同じ電磁波で周波数が違うだけであるが、前世紀ではそれらをコヒーレントに 接続するツールがなく、また非常に高速な光の位相の変化が本質的な役割をしめす現象は干渉等限定 的であった。しかし前世紀末に発明された光周波数コムは光とマイクロ波をスムーズに接続し、光の位相 で周波数を表現することが現実的となり、光周波数標準の開発を強くドライブすることになった。現在、高