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自動車運転時のヒヤリ・ハット体験と報酬の遅延価値割引との関連

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交通心理学の領域において,飲酒や疲労,身体機能 の低下,精神的・情緒的要因,経験要因などのヒュー マンファクターが交通事故の要因として指摘されてお り (松永, 2009),特に事故親和性という観点からは, 運転者の心理・性格特性と自動車事故や危険運転との 関連が多くの研究で論じられてきた。その中でも衝動 性は自動車運転に関する研究の中で最も取り上げられ てきた心理・性格要因であり,これまでに危険運転や 自動車事故リスクとの関連が示されてきた (Schwebel et al., 2007)。 自動車事故や危険な運転と衝動性との関連を示した 研究として,例えば Stanford, Greve, Boudreaux, Mathias, & Brumbelow (1996) は,衝動性を測定する心理尺度の 1 つである Barratt Impulsiveness Scale(以下,BIS-11 と する)の得点が高い大学生は低い者に比べてシートベ ルトの装着率が低く,過去 1 年間に 3 回以上の飲酒運 転を経験している率が高いことを報告している。また González-Iglesias, Gómez-Fraguela, Romero, & Sobral (2012) は,20 ─ 73 歳の一般市民を対象に調査を行い,

Eysenck I7 Questionnaire の衝動性得点と運転ルール違 反行動を測定する Drivers Behavior Questionnaire (以 下,DBQ とする) 得点,および過去 5 年間での事故 経験との正の関連を報告している。本邦では藤本・東 (1996) が大学生を対象として自動車の運転態度尺度 を作成しており,その下位尺度である自己顕示・衝動 傾向と 6 種類の違反行為 (スピード制限無視,駐車禁

自動車運転時のヒヤリ・ハット体験と

報酬の遅延価値割引との関連

松本 明生

1 福山大学 

平岡 恭一

 弘前大学

Discounting delayed monetary rewards and near accident experiences during driving among occupational drivers

Akio Matsumoto (Fukuyama University) and Kyoichi Hiraoka (Hirosaki University) Impulsivity has been linked to traffic safety problems in many prior studies. However, it is not clear whether impulsivity, defined by the rate of discounting delayed monetary rewards, relates to drivers’ problematic behavior. We investigated the relationship between the discounting of hypothetical monetary outcomes and near accident (i.e. hiyari-hatto) experiences during driving among occupational drivers. A total of 189 occupational drivers (160 men) completed the delay discounting questionnaire and hiyari-hatto experiences scale. In completing the delay discounting questionnaire, participants were asked to perform the two delay-discounting tasks, in which they chose between ¥100,000 or ¥5,000 available after some delay (from 1 month to 5 years) or a lesser amount of money available immediately. Subjective equivalence points were obtained from participants’ choices on delay discounting questionnaires, from which the areas under the curve (AUC; Myerson et al., 2001) were calculated. The results indicated that the rate of discounting (AUC) was negatively correlated to near accident experiences. We discuss the need for future research on impulsivity, delay discounting, and traffic safety.

Key words: delay discounting, near accident experiences, impulsivity, occupational driver.

The Japanese Journal of Psychology

2017, Vol. 88, No. 3, pp. 288–293

J-STAGE Advanced published date: May 10, 2017, doi.org/10.4992/jjpsy.88.16323

Correspondence concerning this article should be sent to: Akio Matsumoto, Health Care Center, Fukuyama University, Sanzo, Gakuen-cho, Fukuyama 729-0292, Japan. (E-mail: matsumot@fuhc. fukuyama-u.ac.jp) 1 本研究の実施に際して,独立行政法人自動車事故対策機構 (NASVA)の伴野 晋一様に多大なご協力をいただきました。また, 同志社大学心理学部の青山 謙二郎先生には遅延価値割引質問紙 のご提供と実施に関するご教示をいただきました。ここに記し てお礼を申し上げます。

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止無視,信号無視,一時停止無視,飲酒運転,シート ベルト非着用) との正の関連を報告している。 ところで行動分析では,遅延によって生じる報酬の 主観的価値の変化に着目し,即時に得られる小さな報 酬を選択することを衝動性,遅延される大きな報酬を 選択することをセルフ・コントロールとして位置づけ て い る (Ainslie, 1974; Green & Myerson, 1993)。 ま た Mazur (1987) は,遅延による報酬の主観的価値の変 化は V = A / (1 + kD) という双曲線関数で記述できる とした。この式において V は遅延による割引が生じ た後の報酬の主観的価値,A は報酬量,k は経験定数, D は報酬が得られるまでに生じる遅延時間である。こ れまでの研究では大報酬量の遅延時間と即時に得られ る小報酬量の値を系統的に操作し,遅延される大報酬 量と等価な即時小報酬量 (主観的等価点) を算出した 後,k 値が求められてきた (Rachlin, Raineri, & Cross, 1991)。また k 値は遅延による報酬の価値割引の程度 (割引率) を示すものとして扱われ,衝動性の指標と

してさまざまな研究で用いられてきた。

例えば Bickel, Odum, & Madden (1999) は一般市民 から喫煙者と禁煙者,喫煙歴のない者を選抜し,1,000 ドルから 1 ドルまでの計 27 枚の即時にもらえる金銭 報酬額が書かれたカードと,1 週間から 25 年までの 7 段階の遅延後にもらえる 1,000 ドルと書かれたカード のいずれかを選択させた。研究参加者の選択データか ら k 値を算出したところ,喫煙者の k 値は禁煙した人 や喫煙歴のない人と比べて大きく,喫煙者の遅延され る金銭報酬に対する割引が大きいことが報告されてお り,また仮想のタバコを報酬として提示して選択させ た際には,金銭よりもより大きく割引かれることを報 告している。このように,遅延価値割引研究では仮想 の金銭もしくはタバコや薬物などの依存の対象となっ ている物質を提示して,即時にもらえる選択肢か即時 にもらえる量より多いが一定の遅延後にもらえる選択 肢のいずれかを選択させることで,遅延する報酬の主 観的価値に関する分析が行われてきた。これまでの研 究では主に金銭報酬が指標となっており,ADHD 傾向 (Hurst, Kepley, McCalla, & Livermore, 2011),アルコー ル 依 存 (Vuchinich & Simpson, 1998), 大 学 生 の 成 績 (Kirby, Winston, & Mariana, 2005) などについて,それ らは報酬の遅延価値割引と関連していることが報告さ れている。 このように遅延価値割引研究では,衝動性は遅延す る大きな報酬よりも,即時に手に入る小さな報酬を好 む傾向として測定されているが,こうした観点からの 衝動性も自動車事故や危険運転と関連しているかもし れない。例えば早く車を出して先に行きたいと考えて 安全確認のための簡単な手間を惜しむ,運転前に飲酒 をする,早く目的地に着くためにスピードを出すと いった不安全行動という目先の利益を優先した行動を 選ぶ運転者は,事故を引き起こす可能性が高くなるこ とが予想される。すなわち,ここでの不安全行動とは 即時に得られる利益や報酬を選ぶという衝動的な選択 (Ainslie, 1974; Green & Myerson, 1993) の 1 つであると

考えることが可能だろう。

一方で,上述の自動車事故や危険運転の研究では Eysenck Personality Questionnaire(EPQ) や BIS-11 など の衝動性尺度が用いられている。例えば BIS-11 では, 何も考えずに行動・決断する傾向である「衝動的行動」, 「計画性のなさ」,衝動的にお金を使うなどの「自己制 御の欠如」,集中のなさや飽きっぽさなどを示す「熟 慮の欠如」といった下位尺度が存在している (小橋・ 井田, 2013)。こうした衝動性尺度は,日常生活で経 験する非計画的な行動や運動的な衝動反応という側面 に着目したパーソナリティとしての衝動性を測定する ものであるが,これらの得点と遅延価値割引課題で算 出される割引率は必ずしも高い相関係数を示していな いことから,衝動性尺度で測定される衝動性と遅延価 値割引課題で測定されるそれとは異なる可能性が示唆 さ れ て い る (Reynolds, Penfold, & Patak, 2008; 佐 伯, 2011)。

これまでに衝動性尺度と遅延価値割引課題との理論 的関連についての定説や明確な見解は見あたらないも のの,Odum & Baumann (2010) は衝動性は複雑かつ 多次元の概念であるため,衝動性尺度と遅延価値割引 課題との間に相関が得られるとは限らないと述べてい る。また Reynolds, Ortengren, Richards, & de Wit (2006) は,自記式の衝動性尺度への回答はさまざまな文脈で の自己の行動を他者と比較しつつ,それらを正確に知 覚して報告することが求められるため,回答時にバイ アスが生じている可能性があると述べている。一方で 彼らは,遅延価値割引課題を研究場面において参加者 に報酬の選択を求めるという自己知覚バイアスが生じ にくい客観的な行動課題として位置づけており,この ような課題の性質の違いがこの 2 変数間の相関を低く している可能性を指摘している。さらに,遅延価値割 引課題は衝動的な行動と目先の報酬や利益との理論的 関連が想定されている研究パラダイムである一方で, パーソナリティとしての衝動性尺度の項目には必ずし もそうした関連が反映されていないという点も指摘す ることが可能である。 以上のことから,遅延価値割引課題は行動分析とい う観点からの衝動性に関する客観的な行動指標の 1 つ であるといえるだろう。また上述のように,報酬の遅 延価値割引という側面から自動車事故や危険運転との 関連を調べることは,目先の利益を優先した不安全行 動としての危険運転やその結果として発生しうる自動 車事故との関連を示すことに繋がると考えられるが, これまでに報酬の遅延価値割引という観点から衝動性 に着目し,自動車事故との関連を見た研究は見あたら

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ない。そこで本研究では遅延価値割引研究における交 通問題への最初のアプローチとして,遅延による報酬 の価値割引の傾向と自動車運転中のヒヤリ・ハット体 験との関連について検討することとした。ヒヤリ・ハッ トとは文字通り,事故になりかけてヒヤリとしたり ハッとしたりすること (迫田・兵藤・田中, 2011) で ある。本研究で業務運転者を対象としたのは,業務運 転者は業務で自動車を運転していることから,業務で 運転しない一般の人よりも自動車の運転時間は長くな り,自動車事故やヒヤリ・ハット体験をする機会が多 いと考えられたためである。またヒヤリ・ハット体験 を指標としたのは,事故として認知される件数の背景 に事故に至らない多くの失敗やミスがあることはハイ ンリッヒの法則として知られているところであり (小 松原, 2008),交通事故防止の観点からは事故を起こ した者だけでなく,ヒヤリ・ハット体験をした者を研 究対象者とすることにも意義があると考えられたため である。 方  法 研究参加者  東北地方の A 県で開催された独立行政法人自動車 事故対策機構 (NASVA) が実施している運行管理者基 礎講習に参加した業務運転者 238 名を対象に調査への 回答を依頼した。下記に詳述する遅延価値割引質問紙 の 1 つの系列において 2 回以上選好が変化した者や質 問項目に記入漏れのあった者を除いた回答者 189 名, 男性 160 名 (M = 41.98 歳,SD = 10.74),女性 29 名 (M = 40.06 歳,SD = 8.68) を分析の対象とした。研究参 加者が業務で使用している車種の内訳は,トラックが 75 名,バス・ハイヤー・タクシーが 13 名,自家用・ その他として回答した者が 101 名であった。 測 度 フェイス項目 (a) 年齢,(b) 性別,(c) 運転歴と 業務運転歴 (いずれも年単位での回答),(d) 1 日あた りの運転時間 (1 時間単位での回答),(e) 業務で運転 する車種についての質問項目であった。 遅延価値割引質問紙 青山・高木 (2010) で用いら れた,即時にもらえる小報酬額と遅延される大報酬額 のどちらが好みであるかを記入する質問紙を使用し た。質問紙は遅延大報酬の額を 100,000 円条件に続い て 5,000 円条件という順序で配置し,100,000 円条件 と 5,000 円条件では 4 つの遅延期間 (1 ヵ月,6 ヵ月, 1 年,5 年) を遅延期間が短い順に配置した。即時小 報酬の額は 19 段階の選択肢を設定し,100,000 円条件 では 95,000 円から 5,000 円までの 5,000 円きざみに, 5,000 円条件では 4,750 円から 250 円までの 250 円き ざみに配置した。この 19 段階の選択肢は A4 の用紙 に印刷し,用紙の左側に即時小報酬の額,右側に遅延 大報酬の額を並べた。用紙は 1 条件 1 枚で構成し,即 時小報酬の額を上昇系列と下降系列で配置した 2 種類 の質問紙を調査対象者の半数ずつに配布した。 ヒヤリ・ハット体験を測定する質問紙 自動車安全 運転センター (2000) による質問紙であり,過去 3 年 間に経験した運転中のヒヤリ・ハット体験について尋 ねるものである。この質問紙は「信号待ちや駐車中の 車に追突しそうになったこと」,「急停車した車に追突 しそうになったこと」,「飛び出してきた歩行者や自転 車にぶつかりそうになったこと」といった 11 項目で 構成されている。回答はそれぞれの項目について,「1: 経験はない」,「2: 1 回位経験がある」,「3: 2 ─ 3 回位 経験がある」,「4: 4 回以上経験がある」の 4 件法 (得 点レンジは 11 ─ 44) で求めた。 手続き  本研究で使用する調査用紙を調査の実施前に NASVA に提出し,調査内容を説明のうえ,NASVA から調査 内容と調査実施の許諾を得た。調査は講習の教場で実 施し,記入の前に調査目的と調査用紙への記入法につ いて,スクリーンに映写したスライドを用いて研究参 加者に説明を行った。説明内容は以下の 5 つ,(a) 調 査は無記名で行われ,個人の情報が特定されない形で データの分析が行われること, (b) 調査への参加は任 意であり,不参加や中断は自由であること,またそれ らによる不利益はないこと,(c) 調査に関する教示が 終わるまでは調査用紙への記入を始めないこと,(d) 遅延価値割引質問紙は,仮想場面でもらえる好みの額 に○をつけていくこと,(e) 左もしくは右に同じ選択 が続く場合にそれらにまとめて○をつけて良いこと, であった。 結  果 ヒヤリ・ハット体験を測定する質問紙の 11 項目の クロンバックの α 係数を算出したところ,十分な内的 整合性が確認されたことから (α = .90),質問紙の合 計得点をヒヤリ・ハット体験得点として以降の分析で 用いた。Table 1 に各変数の平均値と標準偏差,およ び変数間の相関係数を示した。遅延価値割引の指標に ついては,100,000 円条件と 5,000 円条件のそれぞれ における主観的等価点をもとに算出した曲線下面積 (area under the curve: 以 下,AUC と す る )(Myerson, Green, & Warusawitharana, 2001) を標準化した数値の 平均値を使用した。AUC はその数値が大きいほど, 遅延による報酬の割引が小さい (衝動性が低い) こと を示す指標である。AUC の平均値を使用した理由と しては,報酬量に依存しない研究参加者の一般的な遅 延価値割引傾向とヒヤリ・ハット体験の関連を検討す るためであった。まず,AUC について上昇・下降系

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列間での平均値に差がないことを t 検定で確認した後 ( 上 昇 : M = 0.62 (SD = 0.27); 下 降 : M = 0.58 (SD = 0.27); t (187) = 0.95, ns),変数間の相関係数を算出し た。その結果,年齢と運転年数,年齢と業務運転年数 および運転年数と業務運転年数の間に有意な正の相 関,そして業務運転年数と 1 日あたりの運転時間との 間に有意な正の相関が認められた。またヒヤリ・ハッ ト体験と有意な正の相関を示したのは 1 日あたりの運 転時間,有意な負の相関を示したのは AUC であった。 次にヒヤリ・ハット体験得点に影響する変数を検 討する目的で,年齢と 1 日あたりの運転時間,AUC を説明変数とし,ヒヤリ・ハット体験得点を目的変 数とした階層的重回帰分析を行った。なお多重共線 性を考慮して,年齢との間で大きな相関係数を示し ている運転年数と業務運転年数は説明変数から除外 したため,step 1 で年齢,step 2 では 1 日あたりの運 転時間,step 3 では AUC を説明変数としてそれらを 順に投入した (Table 2)。その結果,step 1 では年齢 の標準偏回帰係数も決定係数も有意ではなかった。 しかし step 2 では1日あたりの運転時間,step 3 では AUC の標準偏回帰係数が有意であり,また step 2 と step 3 における決定係数と決定係数の増加量も有意で あった。 考  察 階層的重回帰分析の結果,1日あたりの運転時間と ヒヤリ・ハット体験との関連が認められた。この結果 は,業務運転者の 1 日の運転時間が長いほどヒヤリ・ ハット体験をする機会が多くなることを示すものであ る。また金銭報酬の遅延価値割引については,その影 響は大きいとは言えないものの,AUC の決定係数 (R2 は有意であった。この結果は,金銭報酬に対する遅延 価値割引が大きいほど運転時のヒヤリ・ハット体験が 多くなることを示す結果であろう。本研究では事故経 験の有無については変数として検討していないが,ハ インリッヒの法則が示すように 1 つの事故の背景には 多くのヒヤリ・ハット体験があること,そして,遅延 価値割引とヒヤリ・ハット体験の関連があることから 考えるならば,事故を起こした者はそうでない者より も多くのヒヤリ・ハットを体験しており,また遅延さ れる報酬の価値もより大きく割り引いている可能性が ある。今後,事故経験の有無と報酬の遅延価値割引と の関連の検討も課題となるだろう。 しかしながら本来,遅延価値割引傾向とヒヤリ・ハッ Table 1

Descriptive statistics and correlations (N = 189)

variables 1 2 3 4 5 Mean SD

1. age – 41.68 10.42

2. driving career .96 ** – 22.60 10.51

3. professional–driving career .60 ** .63 ** – 12.52 11.82

4. driving time per day .02 .04 .16 * – 4.15 3.51

5. near accident experiences –.12 –.08 –.03 .16 * – 19.25 6.51

6. AUC –.10 –.13 –.13 –.12 –.15 * 0.60 0.26

** p<.01, * p<.05

Table 2

Stepwise multiple regression predicting the scores of near accident experiences

Predictor β R2 ΔR2

step 1

age –.10 .01

step 2

age –.11

driving time per day .17 * .04 * .03*

step 3

age –.12

driving time per day .15 *

AUC –.15 * .06 * .02*

(5)

ト体験との関連はシンプルな因果関係にはなく,割引 率で定義される衝動性は不安全行動としての運転を引 き起こした結果として,ヒヤリ・ハット体験と関連し ていると考えられる。本研究で得られた遅延価値割引 の割引率とヒヤリ・ハット体験との関連を示す数値の 小ささは,このような間接的な関連が反映されている ことに起因していることも十分に考えられるだろう。 その他,運転者の運転技術も割引率やヒヤリ・ハット 体験に影響していることも想定できる。今後の研究で はこれらの点を踏まえ,ヒヤリ・ハット体験が発生す るまでのメカニズムに関するこれらの考察を確かなも のとするために,DBQ や実際の運転行動,運転スキ ルなどを指標とした分析も必要となる。 ところで本研究のように,遅延価値割引課題におけ る割引率を個人の衝動性の得点として捉える際,割 引率が長期間安定しているかについても考慮する必 要があるだろう。この点について Ohmura, Takahashi, Kitamura, & Wehr (2006) は大学生を対象として遅延価 値割引課題を実施し,3 ヵ月後の再テスト結果との相 関係数は k 値を指標とした際には .61,本研究で指標 としている AUC では .75 であったことを報告してい る。また Kirby (2009) も同じく大学生を対象とした 実験を行っており,k 値を指標とした際に 1 年後の再 テストとの相関係数が .71 であったと報告している。 このように指標の安定性については研究間で若干の相 違があるものの,遅延価値割引課題は比較的長期間に おいても一定の安定性はあると考えて差し支えないだ ろう。 また,これまでの交通心理学の研究で使用されてき た衝動性尺度には,非計画的な行動傾向や運動的衝動 性といった因子が複数存在している。序論でも述べた ように,遅延価値割引課題で測定される衝動性は衝動 性尺度で測定されるものとは異なる可能性が示されて おり,今後,遅延価値割引課題での割引率が衝動性尺 度の得点と比較して,ヒヤリ・ハット体験にどの程度 の影響を及ぼしているかについても検討しなければな らないだろう。これらについては,BIS-11 などのパー ソナリティとしての衝動性を測定する心理検査指標も 同時に測定することで,多面的に衝動性とヒヤリ・ハッ ト体験との関連について検討することが課題となる。 最後に,遅延価値割引研究における本研究の位置づ けについて考察しておきたい。これまでに行われてき た応用的な遅延価値割引研究は,主に臨床や教育に関 する研究テーマが設定されてきており (佐伯・高橋 , 2009),交通場面における安全と遅延価値割引との関 連について取り扱った研究は本研究が初めてである。 これまで述べてきたように,遅延価値割引と運転に関 する不安全行動との関連についてはより精緻な分析が 課題として指摘されるものの,今後の研究展開として は遅延価値割引課題と交通場面以外の安全もしくは不 安全行動との関連についても分析可能である。例えば 医療・産業場面でのヒヤリ・ハット体験や事故につい ても,安全確認という些細な手間を惜しむ,早く仕事 を終わらせるといった即時の報酬を選ぶ傾向が遅延価 値割引と関連していることは十分に考えられる。今後, さまざまな場面の安全もしくは不安全行動についての 遅延価値割引の観点からの検討も期待できるだろう。 引 用 文 献

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参照

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