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模擬的円背姿勢が呼吸機能と随意的咳嗽力に与える影響

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Academic year: 2021

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(1)理学療法学 第 20 47 巻第 1 号 20 ∼ 26 頁(2020 年) 理学療法学 第 47 巻第 1 号. 研究論文(原著). 模擬的円背姿勢が呼吸機能と随意的咳嗽力に与える影響* 武 田 広 道 1)2)# 山 科 吉 弘 3) 田 平 一 行 2). 要旨 【目的】円背姿勢が咳嗽力に与える影響を明らかにすること。 【方法】若年男性 16 名を対象とし,非円背,軽 度,中等度,重度円背の 4 条件で咳嗽時最大呼気流量(以下,CPF) ,肺機能,呼吸筋力,胸郭拡張差,最 長発声持続時間(以下,MPT) ,呼吸抵抗(R5,Fres)を測定した。条件間の比較には一元配置分散分析お よび多重比較検定(Bonferroni)を行った。また円背程度による各測定項目の変化率を算出し,ピアソンの 相関分析を行った。 【結果】CPF,肺活量(以下,VC) ,胸郭拡張差(剣状突起部) ,MPT は非円背と比較 し,中等度以上の円背で,呼吸筋力,Fres は重度円背で有意に低値を示した。また,CPF と VC,呼気筋力, 胸郭拡張差(剣状突起部)との間に有意な正の相関を認めた(r=0.27,0.33,0.37,p<0.05) 。 【結論】円背が 中等度以上になると胸郭拡張差,呼吸筋力,VC が低下し,CPF を低下させることが示唆された。 キーワード 円背姿勢,呼吸機能,随意的咳嗽力. 齢者においても CPF が低下していることが報告されて. はじめに. おり,その CPF は肺活量(vital capacity:以下,VC).  国内の肺炎の死亡率は 2011 年には脳血管疾患を抜い 1). と有意な相関があるとされている. 5)6). 。さらに高齢者の 7). て,死因第 3 位となり,現在も増加している 。肺炎の. VC は胸郭拡張差と有意な相関がある. 死亡率の 90% 以上は 65 歳以上の高齢者であり,肺炎の. や胸壁のコンプライアンスおよび,胸郭や脊柱の老化に. 大半は誤嚥性肺炎であるといわれている。誤嚥性肺炎. 伴う形態学的変化の影響を受けているものと考えられる。. は,口腔内の細菌や嘔吐物,さらには逆流した胃液など.  加齢による胸郭や脊柱の形態学的変化でもっとも多い. が気管から肺へと吸引され発症する肺炎であるが,口腔. のは円背であるとされている。Leech ら. 内の清潔に加えて,誤嚥が生じた際に誤嚥物を排出する. 対象とした研究で,胸椎圧迫骨折の数が増える(円背姿. 機能である咳嗽力を保つことが,誤嚥性肺炎の予防に有. 勢が強くなる)ごとに %VC は約 9% 減少すると報告し. 効であると報告されている. 2). 。. ている。また Culham ら.  咳嗽力を反映する客観的な指標としては,咳嗽時最大 3)4). ことから,肺. 8). は高齢女性を. 9). は,円背姿勢の女性は円背で. はない者と比較し,VC,胸郭可動性が有意に低下し,円. が有用と. 背の程度と VC との間に有意な逆相関があると報告して. され,神経筋疾患や呼吸器疾患患者の排痰能力の予測と. いる。これらの報告は,円背姿勢は CPF に関係があると. して臨床上用いられている。日常生活が自立している高. される呼吸機能や胸郭のコンプライアンスに影響を与え. 呼気流量(cough peak flow:以下,CPF). *. Effects of Simulated Postural Kyphosis on Pulmonary Function and Voluntary Cough Strength 1)株式会社リハステージ (〒 556‒0004 大阪府大阪市浪速区日本橋西 2‒7‒3 ファミール松 竹 202) Hiromichi Takeda, PT, MS: Rihastage Co., Ltd. 2)畿央大学大学院健康科学研究科 Hiromichi Takeda, PT, MS, Kazuyuki Tabira, PT, PhD: Graduate School of Health Science, Kio University 3)藍野大学医療保健学部理学療法学科 Yoshihiro Yamashina, PT, PhD: Department of Physical Therapy, Aino University # E-mail: hiromichi.takeda0608@gmail.com (受付日 2019 年 5 月 1 日/受理日 2019 年 10 月 5 日) [J-STAGE での早期公開日 2019 年 12 月 26 日]. ることを示唆しており,円背姿勢になることで咳嗽力が 低下する可能性が考えられる。しかし,円背姿勢や円背 の程度が咳嗽力や呼吸機能に与える影響については明ら かにされていない。そこで,今回は模擬的円背姿勢を設 定することにより,胸郭拡張差,VC,最大呼気口腔内圧 (maximum expiratory pressure:以下,PEmax) ,最大 吸 気 口 腔 内 圧(maximum inspiratory pressure: 以 下, PImax)が低下し,それに伴い CPF の低下を引き起こす のではないかという仮説のもと,円背の程度と咳嗽力の 関係,さらには円背姿勢が肺機能,呼吸筋力など咳嗽に.

(2) 模擬的円背姿勢が呼吸機能と随意的咳嗽力に与える影響. 21. 重度円背では 22.3 ± 2.5 であったと報告している。円背 程度の設定は,これらの報告を参考に,軽度円背(円背 指数 12.7),中等度円背(円背指数 17.9)の円背ライン をあらかじめ紙にトレースしておき,自在曲線定規を用 いて対象者に設定した円背姿勢をとらせた。重度円背 は,健常者では困難であったため胸腰椎最大屈曲位とし た。円背条件は,姿勢を維持するために高齢者体験スー ツを用いて,大. 前面から腹部および腹部から前胸部の. ベルトを調整して胸腰椎の伸展を制限した(図 1)。各 種検査測定中は被験者が胸腰椎を伸展しようとしても, 高齢者体験スーツのベルトにより胸腰椎の動きは十分に 制限されており,円背条件が維持できる状態で実施し た。対象者全員の円背指数は,非円背 8.1 ± 0.5,軽度 図 1 円背指数と高齢者体験スーツ. 円背 13.3 ± 0.1,中等度円背 18.0 ± 0.2,重度円背 20.3 ± 0.6 であった。加齢による円背姿勢の発生要因は,骨 粗鬆症による脊柱変形,背筋力の低下,体幹伸展可動性. 関連する要因に与える影響を明らかにすることを目的に 本研究を行った。. の制限などが影響するといわれており. 12). ,股関節屈曲. (骨盤前傾)制限が円背姿勢を引き起こす要因になるこ とは少ないと考えられるため,骨盤の肢位は特に設定を. 対象および方法. 行わないこととした。また,胸椎後彎増加の代償として. 1.対象. 頸椎前弯が増加することが考えられるが,高齢者の自然.  対象者は呼吸器疾患,脊椎疾患および胸郭に変形のな. な円背姿勢を再現するため,被験者には目線の高さの. い男性で,健常若年者 16 名とした。対象者には本研究. 3 m 先の印を注視するように指示し,頭頸部の角度を規. の目的や方法などを書面にて十分に説明し,承諾を得. 定することとした。頭頸部の角度に関して,垣内らは頸. た。なお,本研究は畿央大学倫理委員会の承諾(承認番. 部屈曲位での頭部中間位,屈曲位,伸展位の 3 条件間で. 号 H30-03)を得て実施した。. CPF,MPT の値に有意な変化を認めなかったと報告. 13). していることから,頭頸部の角度の影響は小さいと考 2.方法. え,細かな設定は行わなかった。.  対象者に模擬的円背姿勢をとらせ,CPF,肺機能,呼. 2)CPF,肺機能,呼吸筋力の測定. 吸筋力,胸郭拡張差,最長発声持続時間(maximum.  CPF,肺機能はスパイロメーター(Vitalograph 社製,. phonation time:以下,MPT) ,呼吸抵抗を測定した。. Pneumotrac)を使用して測定を行った。肺機能は VC,. 模擬的円背姿勢は,非円背座位,軽度円背座位,中等度. 予備呼気量(expiratory reserve volume:以下,ERV) ,. 円背座位,重度円背座位の 4 条件とした。なお,測定姿. 1 秒率(forced expiratory volume in 1 second/forced vital. 勢,測定項目の順序は繰り返す咳嗽や呼吸による学習効. capacity:以下,FEV1/FVC)を測定した。測定方法は,. 果を避けるため,パーソナルコンピュータ上で乱数を発. 日本呼吸器学会の呼吸機能検査ガイドラインに準拠して. 生させ,その値にしたがいランダムに行った。また,疲. 実施した. 労の影響を考慮して測定間には十分な休憩を入れた。. ピースをくわえ,数回練習を行った後に測定した。測定. 1)模擬的円背姿勢の設定方法. の開始および終了は検者の口頭指示にしたがわせた。呼.  円背姿勢の程度については,Milne ら. 10). が提唱し,. 14). 。対象者はノーズクリップを装着しマウス. 吸筋力は口腔内圧計(木幡計器製作所社製,IOP-01)を 15). の方法を採. 再現性も明らかにされている円背指数を用いた。円背指. 使用して測定した。本実験では black ら. 数は,対象者に立位を取らせ第 7 頸椎から第 4 腰椎まで. 用し,PEmax,PImax を測定し,それぞれ呼気筋力・. の彎曲に沿って自在曲線定規をあてて,その彎曲を紙に. 吸気筋力とした。測定は 3 回行い,最大値を採用した。. トレースし,第 7 頸椎から第 4 腰椎までの距離(L)と. 3)胸郭拡張差の測定. 彎曲の頂点から L までの距離(H)から算出される[円.  最大吸気時と最大呼気時との腋窩部,剣状突起部,第. 背指数= H/L × 100 (%)] (図 1)。. 10 肋骨部における胸郭周径の差をメジャーにて測定し.  寺垣ら. 11). は座位での観察による脊柱後彎評価(円背. の程度)と円背指数との関係について,正常では 9.2 ± 2.5,軽度円背では 12.7 ± 3.6,中等度円背では 17.9 ± 2.5,. た。測定は同一の理学療法士が行った。各部位 3 回測定 し,最大値を採用した。.

(3) 22. 理学療法学 第 47 巻第 1 号. 4)MPT の測定. わえ,頬部を測定者が用手的に圧迫し,安静呼吸を行う.  最大吸気位から発声をはじめ,途中で止めず最後まで. ように指示した。機器は自動的に安定した 5 呼吸を抽出. 努力を続けるように「できるだけ大きく息を吸って,自. し,上記の項目を測定・算出した. 20)21). 。. 然な話し声でできるだけ一定の強さでアーと可能な限り 長く発声をして下さい」と指示し,ストップウォッチを. 3.解析方法. 使用して MPT を測定した。測定は 3 回行い最大値を採.  CPF,肺機能,呼吸筋力,胸郭拡張差,MPT,呼吸. 用した。先行研究. 16). を基に声門閉鎖機能の指標として. 抵抗の円背姿勢 4 条件間の比較は反復測定分散分析を用. MPT を解析に用いた。. い,多重比較検定(bonferroni)を行った。また,パラ. 5)呼吸抵抗の測定. メータは下記式にしたがって変化率を算出し,その変化.  総合呼吸抵抗測定装置(CHEST 社製,MostGraph-01). 率間の関係はピアソンの相関分析を実施した。統計ソフ. を使用して,5 Hz で測定した呼吸抵抗(respiratory sys-. トは SPSS statistics17 を使用し,有意水準は 5% とした。. tem resistance at 5 Hz:以下,R5)と共振周波数(reso-. 変化率=(軽・中・重度円背座位値−非円背座位値). nant frequency:以下,Fres)を測定した。R5 は気道内. /非円背座位値× 100 (%). 径を反映しており,Fres は肺実質または気道の異常を示 す。また,Fres は間質性肺炎における肺の弾性抵抗増加 の尺度であり,肺の stiffness の指標であるともいわれて いる. 17). 。この指標は Fres=1/(2π √IC) (inertance:I [ 慣. 性 ],compliance:C [ 弾性 ]) の公式で算出され 無視しうる程の低い値である. 18). ,I は. 19). とされていることから,. 結   果  対象者の特徴を表 1 に示す。円背条件を変化させた際 の 各 パ ラ メ ー タ の 変 化 を 表 2 に 示 し た。CPF,VC, ERV,MPT では非円背と比較して中等度円背,重度円 背で有意な低下がみられた(p < 0.05)。胸郭拡張差の. Fres は肺・胸郭のコンプライアンスを示す指標である. 腋窩部,剣状突起部では非円背と比較して軽度,中等度,. と考えられる。測定方法は,端座位でノーズクリップを. 重度円背で有意な低下がみられた(p < 0.05) 。PEmax. 装着し,機器のマウスピース部分を漏れのないようにく. は軽度円背と比較して重度円背で,PImax は非円背と 比較して重度円背で有意な低下がみられた(p < 0.05)。 Fres は非円背,軽度円背と比較して,重度円背で有意. 表 1 被験者の基礎情報 年齢(歳). 25.9 ± 5.0. 身長(cm). 173.2 ± 4.7. 体重(kg). 67.9 ± 7.6. BMI(kg/m2). 22.6 ± 1.9. な低下がみられた(p < 0.05) 。FEV1/FVC,胸郭拡張 差の第 10 肋骨部,R5 では測定条件間で有意な変化はみ られなかった。  各パラメータの変化率の相関行列を表 3 に示した。 CPF と VC(r=0.27,p < 0.05) ,PEmax(r=0.33,p <. BMI: body mass index. 0.01) ,胸郭拡張差の剣状突起部(r=0.37,p < 0.01)と. 表 2 円背条件の違いによる各パラメータの比較 非円背 CPF(L/min) VC(L). 691.1 ± 22.6 4.88 ± 0.17. 軽度円背 668.0 ± 16.7 4.9 ± 0.24. 中等度円背 ab. 627.6 ± 18.3. 重度円背 ab. 632.4 ± 22.9. ab. 4.15 ± 0.20. a. 4.47 ± 0.18. ab. ERV(L). 1.98 ± 0.09. 1.82 ± 0.12. 1.69 ± 0.10. 1.54 ± 0.07ab. FEV1/FVC. 85.7 ± 1.5. 86.3 ± 1.5. 88.0 ± 1.5. 88.5 ± 1.6. PEmax(cmH2O). 106.5 ± 9.5. 109.7 ± 8.3. 101.6 ± 8.4. 97.3 ± 7.6b. PImax(cmH2O). 80.4 ± 5.9. 78.9 ± 5.2. 76.1 ± 4.7. 75.0 ± 5.0a. 6.3 ± 0.3. 5.3 ± 0.3a. 胸郭拡張差 [ 剣状突起 ](cm). 6.3 ± 0.4. 5.3 ± 0.3. a. 胸郭拡張差 [ 第 10 肋骨 ](cm). 5.7 ± 0.5. 6.0 ± 0.4. 胸郭拡張差 [ 腋窩 ](cm). 4.7 ± 0.5a ab. 3.5 ± 0.4ab. 4.3 ± 0.4. 3.6 ± 0.5ab. 5.7 ± 0.5. 5.2 ± 0.5 ab. MPT( 秒 ). 25.7 ± 2.1. 25.4 ± 2.3. 22.5 ± 2.4. 21.1 ± 2.6ab. R5(cmH2O/L/s). 2.48 ± 0.19. 2.42 ± 0.17. 2.46 ± 0.23. 2.49 ± 0.22. Fres(Hz). 5.44 ± 0.26. 5.72 ± 0.35. 5.68 ± 0.3. 6.2 ± 0.44. ab. CPF: cough peak flow, VC: vital capacity, ERV: expiratory reserve volume, FEV1/FVC: forced expiratory volume in 1 second/forced vital capacity, PEmax: maximum expiratory pressure, PImax: maximum inspiratory pressure, MPT: maximum phonation time, R5: respiratory system resistance at 5 Hz, Fres: resonant frequency. 平均値±標準誤差 a: p<0.05.VS 非円背,b: p<0.05.VS 軽度円背 ..

(4) 模擬的円背姿勢が呼吸機能と随意的咳嗽力に与える影響. 23. 表 3 各パラメータ変化率の相関 変化率 (%). CPF. VC. VC. 0.27*. ERV. 0.11. 0.48**. ‒0.11. ERV. FEV1/FVC. PEmax. PImax. 胸郭拡張差 (腋窩部). 胸郭拡張差 胸郭拡張差 (剣状突起部) (第 10 肋骨部). ‒0.44**. ‒0.42**. PEmax. 0.33**. 0.31*. 0.04. ‒0.21. PImax. 0.12. 0.27*. 0.16. ‒0.29*. 0.3*. 胸郭拡張差 (腋窩部). 0.23. 0.43**. 0.26*. ‒0.01. 0.13. 0.21. 胸郭拡張差 (剣状突起部). 0.37**. 0.44**. 0.27*. ‒0.19. 0.38**. 0.20. 0.68**. 胸郭拡張差 (第 10 肋骨部). 0.38**. 0.27*. 0.01. 0.14. 0.29*. 0.15. 0.57**. MPT. 0.20. 0.48**. 0.34**. ‒0.37**. 0.24. 0.18. 0.22. 0.18. 0.13. R5. 0.01. 0.17. 0.03. ‒0.05. ‒0.31*. 0.10. 0.12. ‒0.13. ‒0.07. ‒0.11. 0.22. ‒0.07. 0.01. ‒0.12. 0.17. 0.32*. 0.07. FEV1/FVC. Fres. MPT. R5. 0.61**. 0.37**. ‒0.09 0.41**. 0.08. CPF: cough peak flow, VC: vital capacity, ERV: expiratory reserve volume, FEV1/FVC: forced expiratory volume in 1 second/forced vital capacity, PEmax: maximum expiratory pressure, PImax: maximum inspiratory pressure, MPT: maximum phonation time, R5: respiratory system resistance at 5 Hz, Fres: resonant frequency. * p < 0.05  ** p < 0.01. の間に有意な相関がみられた。また,VC と PEmax(r=0.31,. 意な低下を認め,先行研究を支持する結果であった。こ. p < 0.05) ,PImax(r=0.27,p < 0.05) ,胸郭拡張差の腋. れは,円背姿勢では吸気時における肋骨の回転運動が十. 窩部(r=0.43,p < 0.01) ,剣状突起部(r=0.44,p < 0.01) ,. 分に行われず,胸骨周囲の前上方への挙上が困難にな. 第 10 肋骨部(r=0.27,p < 0.05) ,MPT(r=0.48,p < 0.01). る. との間に有意な相関がみられた。. なることで胸郭拡張差が低下したものと考えられる。. 24). とされていることから,本研究においても円背に.  また,本研究において VC は非円背条件と比較し,中. 考   察. 等度・重度円背条件で有意な低下を認め,円背時の VC.  咳嗽のメカニズムは 4 相からなり,第 1 相は咳の誘発,. 変化率と胸郭拡張差(腋窩部・剣状突起部・第 10 肋骨. 第 2 相は深い吸気の後,一瞬声門を閉じる。そして第 3. 部)の変化率に有意な相関を認めている。さらに VC の. 相で胸腔内圧を上げ,第 4 相では , 早い呼気いわゆる爆. 変化率は CPF の変化率と有意な相関を認めている。こ. 22). 。つまり,咳嗽. れらのことから,円背姿勢になると咳嗽の吸気相で胸腰. には吸気機能および呼気機能の両方の機能が必要であ. 椎の伸展制限により,十分に胸郭を拡張できず VC が低. る。なお臨床的に円背は高齢女性が多いとされている. 下し,咳嗽力の低下につながったと考えられる。. 発的呼気流速が生じるとされている. が. 12). ,今回は被験者を健常若年男性のみとした。理由. としては,年齢や性差の影響を除外して,純粋に円背の 影響について検討するためである。本研究では寺垣ら. 11).  さらに,一般的に円背姿勢になると PImax,PEmax ともに低下する. 25). と報告されており,本実験において. も PImax は非円背条件と比較し,重度円背条件で有意. の円背程度の基準を参考にしたが,この実験では円背指. に低値を示し,PEmax は軽度円背条件と比較し,重度. 数計測の検者間,検者内ともに高い信頼性が得られてお. 円背条件で有意に低値を示した。これは,吸気筋力にお. り,円背指数計測と観察による脊柱後弯評価との間で高. いては円背になることで腹部が胸郭に圧迫され横隔膜の. い相関があり妥当性も得られている。. 可動性が阻害されるためと考えられている.  本実験の結果,CPF は非円背条件と比較して中等度. 力については,円背になることで腹筋群の起始と停止が. 円背条件と重度円背条件で有意な低下がみられ,このこ. 近づくことや,深吸気が困難になることによって,十分. とは中等度以上の円背姿勢では,CPF を低下させる因. に呼気筋が伸長されないことから筋の長さ−張力関係よ. 子が存在していることを示唆している。. り収縮効率が低下したことによるものと考えられる。本. 25). 。呼気筋. 23). 研究においては CPF 変化率と PImax 変化率には有意な. 本研究においても胸郭拡張差では腋窩部・剣状突起部で. 相関を認めなかったが,CPF 変化率と PEmax 変化率と. 非円背条件と比較し,軽度・中等度・重度円背条件で有. の間には有意な相関がみられ,さらに PEmax 変化率は.  円背になると胸郭可動性が低下するとされており. ,.

(5) 24. 理学療法学 第 47 巻第 1 号. 胸郭拡張差(剣状突起部・第 10 肋骨部)との間に有意. は気道内径が減少し,気道抵抗が上昇するとされてい. な相関を認めている。よって,上述の通り,円背になる. る。しかし,FRC レベルで気道閉塞を起こすのは高齢. ことで胸郭可動性が低下し,深吸気が行えないことによ. 者であり,若年者では非常に小さい肺気量のみで生じる. り,十分に吸気時に呼気筋が伸張されず,呼気筋の収縮. とされている. 効率が低下したものと考えられる。PEmax は咳嗽の第. 条件でも R5 に変化が起こる程の影響はなかったと考え. 3 ∼ 4 相である主に呼気相に影響を与えるため,円背の. られる。また,本研究においては,頭頸部はスニッフィ. 場合,第 2 ∼ 3 相で肺内に取り込んだ空気を圧縮させた. ングポジション(頸部屈曲,頭部伸展位)をとっていた. 後の爆発的な呼気が十分に得られないことが CPF に影. ため,解剖学的にも気道抵抗が低下する肢位であったと. 響を与えていると考えられる。. 考えられる.  声門閉鎖機能の指標とされる MPT は,非円背条件と. 抗の増加と頭部伸展による気道抵抗の低下が相殺して総. 比較し,中等度・重度円背条件で有意な低下を認めた。. 呼吸抵抗の指標である R5 は円背姿勢の影響を受けな. 前述の通り,咳嗽の圧縮相において声門を閉鎖し腹筋群. かったという可能性も考えられた。. を活動させることで胸腔内圧を上昇させる必要がある.  本研究は若年健常者を対象とした模擬的円背姿勢での. が,中等度以上の円背条件では MPT が有意に低値を示. 結果ではあるが,円背姿勢になることで胸郭可動性が低. していることから,咳嗽の第 2 相における声門閉鎖機能. 下するだけではなく,咳嗽力や呼吸機能が低下すること. が不十分となり,咳嗽の第 3 相での胸腔内圧を高めるこ. を明らかにした。日本では現在円背の発生率は高齢者で. とが十分にできなかった可能性が考えられた。しかし,. 50%前後と報告されているが. MPT には頸部の角度や VC が影響する可能性がある。. 齢化が進むことが明らかであるため,円背発生率も上昇. まず頸部の角度に関して,本研究ではすべての条件で顔. し,二次的な呼吸機能の低下も予想される。よって,円. 面は正面を向くように設定した。つまり円背姿勢では,. 背の予防およびその進行を遅らせることは,呼吸機能・. 頸部屈曲,頭部伸展位となる。垣内ら. 13). は頭部中間位,. 28). 。今回の対象者は若年者であり,円背. 13). 。したがって,FRC の低下による気道抵. 29)30). ,今後はさらに超高. 咳嗽機能を維持し,誤嚥性肺炎の予防につながる可能性. 屈曲位,伸展位の間で MPT に有意な差はなかったと報. が示唆された。. 告している。このことから,本研究での頭頸部の位置関.  研究の限界として,被験者数が 16 名と少ないこと,. 係 が MPT に 影 響 を 与 え た と は 考 え に く い。 一 方 で. 男性のみを対象としていること,健常若年者を対象に高. MPT 変化率と VC 変化率には有意な相関を認めている。. 齢者体験スーツを使用して脊柱の運動を制限した模擬的. MPT は最大吸気位からの発声時間であり,円背姿勢で. 円背姿勢であり,徐々に変形してきた高齢者の円背姿勢. は胸郭拡張差や VC の低下を認めるため,不十分な吸気. と異なっていることが挙げられる。今後は性差や加齢に. 量が MPT に関係したと考えられる。よって今回の結果. よる影響も検討していくために,女性も含めた円背高齢. からは,円背姿勢が声門閉鎖機能に影響したかは明らか. 者のデータを収集する必要があると考える。. でない。  呼吸抵抗において,Fres は非円背・軽度円背条件と. 結   論. 比較し,重度円背条件で有意に高値を示した。このパラ.  今回,健常者における模擬的円背姿勢が咳嗽力および. メータの解釈は前述の通り様々で,慢性閉塞性肺疾患や. 胸郭可動性,呼吸機能,声帯機能へ与える影響について. 気管支喘息で,一秒量と有意な相関があり,気道閉塞を. 検討した。. 表すともいわれている. 26)27). 。しかし,今回の対象は健.  本研究の結果,円背が中等度・重度になると胸郭可動. 常若年者であること,Fres と FEV1/FVC で有意な相関. 性低下,呼吸筋力低下,肺活量低下を引き起こし,咳嗽. がみられていないこと,一方で胸郭拡張差(腋窩部・第. 力を低下させるということが示唆された。このことから. 10 肋骨部)とは有意な相関がみられていることから,. 円背が重症化しないように予防することは,呼吸機能・. 胸郭のコンプライアンスを反映していると考える。Fres. 咳嗽機能を維持し,誤嚥性肺炎の予防にもつながる可能. = 1/(2π √IC) の公式からコンプライアンス(C)が低下. 性が示唆された。. すると Fres は高値となる。このことから非円背・軽度 円背条件と比較し,重度円背条件で有意に胸郭のコンプ ライアンスが低下したという解釈ができると考えた。  一方で R5 は各条件間で有意な変化はみられなかった。 非円背条件と比較し円背条件では ERV が有意な低値を 示しており,残気量がどの条件でも一定であるとすると 機能的残気量(functional residual capacity:以下,FRC) が低下している状態であると考えられる。FRC の低下. 利益相反  本研究に関連して,開示すべき利益相反はない。 文  献 1)厚生労働省ホームページ:平成 29 年人口動態統計月報年 計(概数)の概況.https://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/ hw/jinkou/geppo/nengai17/index.html(2019 年 4 月 2 日引 用).

(6) 模擬的円背姿勢が呼吸機能と随意的咳嗽力に与える影響. 2)須藤英一:誤嚥性肺炎のリハビリテーション:Monthly Special 特集―誤嚥性肺炎をどう防ぐか.J Clin Rehabil. 2011; 20: 840‒849. 3)Bach JR, Saporito LR: Criteria for extubation and tracheostomy tube removal for patients with ventilator failure. A different approach to weaning. Chest. 1996; 110: 1566‒1571. 4)Bach JR: The prevention of ventilatory failure due to inadequate pump function. Respiratory Care. 1997; 42(4): 403‒413. 5)増田 崇,田平一行,他:開腹手術前後の咳嗽時最大呼気 流速の変化.理学療法学.2008; 35: 308‒312. 6)Gauld LM, Boynton A: Relationship between peak cough flow and spirometry in Duchenne muscular dystrophy. Pediatr Pulmonol. 2005; 39: 457‒460. 7)鈴木克昌,高橋仁美,他:肺機能予測としての胸郭拡張差 測定の有用性の検討.日本呼吸ケア・リハビリテーション 学会誌.2007; 17(2): 148‒152. 8)Leech JA, Dulberg C, et al.: Relationship of lung function to severity of osteoporosis in women. Am Rev Respir Dis. 1990; 141: 68‒71. 9)Culham EG, Jimenez HA, et al.: Thoracic kyphosis, rib mobility, and lung volumes in normal women and women with osteoporosis. Spine. 1994; 19: 1250‒1255. 10)Milne JS, Lauder IJ: Age effects in kyphosis and lordosis in adult. Ann Hum Biol. 1974; 1(3): 327‒337. 11)寺垣康裕,新谷和文,他:脊柱後彎評価を目的とした座 位円背指数計測の信頼性と妥当性.理学療法科学.2004; 19(2): 137‒140. 12)髙井逸史,宮野道雄,他:加齢による姿勢変化と姿勢制御. 日本生理人類学会誌.2001; 6(2): 11‒16. 13)垣内優芳,森 明子:頸部屈曲時における頭部角度の違い が随意的咳嗽力に及ぼす影響.理学療法科学.2013; 28(4): 539‒542. 14)日本呼吸器学会肺生理専門委員会(編) :呼吸機能検査ガイ ドライン.メディカルレビュー社,東京,2004,pp. 12‒16. 15)Black LF, Hyatt RE: Thoracic kyphosis, rib mobility, and lung volumes in normal women and women with. 25. osteoporosis. Am Rev Respir Dis. 1969; 99(5): 696‒702. 16)平野 実,斎藤成司,他:発声機能検査施行上,ガイドラ インについて.音声言語医.1982; 23: 164‒167. 17)Shirai T, Kurosawa H: Clinical Application of the Forced Oscillation Technique. Intern Med. 2016; 55(6): 559‒566. 18)佐藤一郎:図解でまなぶ電気の基礎(第 5 版).日本理工 出版会,東京,2016,pp. 216‒220. 19)重田 誠,森川昭廣:気道抵抗と呼吸抵抗の基礎と臨床. 日本小児呼吸器疾患学会雑誌.1995; 6(2): 120‒125. 20)高井大哉:呼吸機能検査の新展開.日内会誌.2013; 102: 3167‒3173. 21)柴崎 篤,黒沢 一,他:モストグラフとスパイロメト リーによる気道狭窄の評価─可逆性試験を用いた検討─. アレルギー.2013; 62(5): 566‒573. 22)Craig LS: Bronchial Hygiene Therapy: Fundamentals of respiratory care (7th ed). Mosby, St.Louis. 1998, pp. 791‒ 816. 23)草 苅 佳 子, 佐 々 木 誠: 円 背 姿 勢 が 呼 吸 循 環 反 応 な ら び に運動耐容能に及ぼす影響.理学療法科学.2003; 18(4): 187‒191. 24)仲保 徹,山本澄子:脊柱後彎位が胸郭運動に与える影響 ─ Slump Sitting と Straight Sitting の比較から─.理学療 法科学.2009; 24(5): 697‒701. 25)伊藤弥生,山田拓実,他:円背姿勢高齢者の呼吸機能及び 呼吸パターンの検討.理学療法科学.2007; 22(3): 353‒358. 26)Mori K, Shirai T, et al.: Colored 3-dimensional analyses of respiratory resistance and reactance in COPD and asthma. COPD. 2011; 8: 456‒463. 27)粒来崇博,鈴木俊介,他:治療により安定した成人気管支 喘息患者における強制オッシレーション法を用いた気流制 限の評価.アレルギー.2012; 61(2): 184‒193. 28)West JB:ウエスト呼吸生理学入門 正常肺編  (第 2 版). メディカル・サイエンス・インターナショナル,2017, pp. 127‒129. 29)安藤正明:農村部における高齢者の腰痛と姿勢.別冊整形 外科.1987; 12: 14‒17. 30)Milne JS, Williamson J: A longitudinal study of kyphosis in older people. Age Ageing. 1983; 12: 225‒233..

(7) 26. 理学療法学 第 47 巻第 1 号. 〈Abstract〉. Effects of Simulated Postural Kyphosis on Pulmonary Function and Voluntary Cough Strength. Hiromichi TAKEDA, PT, MS Rihastage Co., Ltd. Hiromichi TAKEDA, PT, MS, Kazuyuki TABIRA, PT, PhD Graduate School of Health Science, Kio University Yoshihiro YAMASHINA, PT, PhD Department of Physical Therapy, Aino University. Purpose: The purpose of this study was to investigate the influence of postural kyphosis on voluntary cough strength. Methods: Sixteen healthy males participated in this study. Cough peak flow, respiratory function, respiratory muscle strength, chest expansion, maximum phonation time, and respiratory impedance indices (respiratory system resistance at 5 Hz, R5; resonant frequency, Fres) were evaluated under four conditions: non-kyphosis, mild kyphosis, moderate kyphosis, and severe kyphosis. One-way analysis of variance and multiple comparison tests (using the Bonferroni method) were performed to compare the four conditions. Correlations between the change rate of each measured variable by the degree of kyphosis were analyzed using Spearman’s correlation coefficients. Results: Cough peak flow, vital capacity, chest expansion, and maximum phonation time were significantly decreased in moderate kyphosis and severe kyphosis compared with those in non-kyphosis. Respiratory muscle strength and Fres were significantly decreased in severe kyphosis compared with those in non-kyphosis. Moreover, there were significant positive correlations between cough peak flow and vital capacity, expiratory muscle strength, and chest expansion at the xiphoid process (r = 0.27, 0.33, 0.37, respectively, p <0.05). Conclusions: Our data suggest that cough peak flow is reduced due to decreased lower chest expansion, respiratory muscle strength, and vital capacity at moderate or higher kyphosis. Key Words: Postural kyphosis, Respiratory function, Voluntary cough strength.

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参照

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