イヌ腫瘍に対するインターフェロンガンマ併用樹状
細胞治療に関する研究
著者
水戸 凱
内容記述
学位授与大学: Osaka Prefecture University(大阪
府立大学), 学位の種類: 博士(獣医学), 学位記番
号: 論獣第157号, 学位授与年月日: 2011-03-31,
指導教員: 稲葉俊夫.
大阪府立大学博士(獣医学)学位論文
イヌ腫瘍に対するインターフェロンガンマ
併用樹状細胞治療に関する研究
水戸 凱
目 次
緒 言 ・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・1 第 1 章 樹状細胞の成熟および免疫活性化能に対するINFγ の影響 第 1 節 イヌ単球由来樹状細胞の成熟および免疫活性化能に対する INFγ の影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 材料と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・6 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・10 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・11 小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・13 Figure・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・14 第 2 節 イヌ単球由来樹状細胞の抗腫瘍活性に対するINFγ の影響17 材料と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ ・17 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 19 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 21 小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 22 Figure・・・・・・ ・・・・・・・ ・ 23 第2章 樹状細胞のイヌ自然発生腫瘍の治療効果に対するINFγ の 影響・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27 材料と方法・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・27 結果・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・30 考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・36 小括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・40 Figure・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・41総合考察・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・55 総 括・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・58 謝 辞・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・59 本研究に関する文献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・ 60 文 献・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・61
緒 言
現在、腫瘍に対する治療法としては、外科療法・放射線療法・化学療法が主 流となっている。近年、これらに加えて、生体内に本来備わっている腫瘍排除 に関わる免疫を利用して癌免疫治療も試みられるようになってきた。すなわち、 この治療法は、「健康時には遺伝子の変異などで癌になるような細胞は免疫系の 働きで排除されていが、免疫機能が抑制されると癌細胞が成長してくる」とい う考え(Beverly 1996)に基づいている。この「免疫力」という視点から他の治 療法を見ると、手術や放射線治療では、免疫力を維持しながら、局所の癌細胞 を除くことができるが、取り残しや転移で癌が再発することもある。また化学 療法では、全身の癌細胞を除くことはできるが、免疫力も抑制されるために、 癌が再発すると考えられる。現在までに一般的に行われている癌免疫治療は、 腫瘍傷害機能を持つ細胞傷害性 T 細胞(CTL)やナチュラールキラー(NK)細 胞、リンホカイン活性化キラー(LAK)細胞などの T ヘルパータイプ 1(Th1) 免疫系細胞を活性化させることを目的としている(Kammula and Marincola 1999)。 この方法は、安全で副作用のない治療法であるが、大きな癌を短期間で縮小さ せることは困難とされていて、他の治療法の補助的な方法となっている(Bellone et al. 2009; Kato et al. 2010)。樹状細胞(DC)は、最も強力な抗原提示細胞であり、種々の抗原を取り込み、 細胞性免疫および体液性免疫を開始させることのできる細胞で、腫瘍免疫にお いても、腫瘍抗原に特異的なナイーブ T 細胞を Th1 や CTL に分化させるのみで なく、エフェクター細胞である CTL や NK 細胞の活性化を促進し、抗腫瘍免疫 反応を著しく増強できる(Mule 2000; Fong and Engelman 2000; Staiman and Dhodapkar 2001; Merad et al. 2002; Couanet et al. 2002)。また、近年 DC を骨髄前 駆細胞あるいは末梢血単球から in vitro で分化誘導することができるようになり (Inaba et al. 1992)、多数の DC を簡便に得ることができるようになった。そこ
で体外で分化誘導した DC に腫瘍抗原を取り込ませて、提示させ、再び体内に戻 すことによって腫瘍を治療する方法が考案され、ヒトにおいて、メラノーマ (Engell-Noerregaard et al. 2009)、骨髄腫(Curti et al. 2007)などの非上皮性悪性腫 瘍や、甲状腺癌(Bachleitner-Hofmann et al. 2009)、肝細胞癌(Palmer et al. 2009)、 腎癌(Kim et al. 2007) 、膵癌(Lepisto et al. 2008)などの上皮性悪性腫瘍に対して 臨床試験が行われてきた。しかしながら、その治療効果は満足のいくものでは なく、治療を受けた患者の半数以上で腫瘍の進行を抑制できないのが現状であ る。この理由として、①免疫刺激のほとんどない生体内における DC の务化 (Romani and Reider 1996; Nelson et al. 1999)、②腫瘍組織中に浸潤した炎症性細 胞あるいは抑制性 T 細胞(Treg)による抑制因子の分泌(Coussens and Werb 2002; de Visser et al. 2006)や腫瘍細胞による免疫抑制作用(Capobianco et al. 2006, Dong et al. 2002; Sallusto and Lanzavecchia 1994)などが報告されている。したがって、 本治療法の改善には、DC を注入した生体内の場(微小環境)において DC の成 熟および活性を亢進させ、加えて Th1 免疫反応を促進することが必要と思われ る。
インターフェロンガンマ(IFNγ)は上に述べた Th1 免疫系を著しく活性化し、 腫瘍に対する免疫反応を増強するサイトカインである(Chen et al. 1986; Djeu et al. 1982)。このサイトカインにより、DC の成熟および活性化を促進できれば、 上記条件を満足させ、DC を IFNγ とともに生体の同一部位に注入することによ って、腫瘍に対する免疫反応を著しく増強し、これまではほとんど不可能であ った免疫反応のみによる癌の退縮、治癒が可能となることが期待できる。 イヌは、乳癌、前立腺癌、リンパ腫などの様々な癌を自然発症する (MacEwen 1990) ため、上記仮説を検証するために最も適したモデルである。そこで本研究 では、はじめ、in vitro においてイヌ末梢血由来 DC の成熟、免疫活性化能およ び抗腫瘍活性に対するIFNγ の影響を明らかにし、そこで得られた知見に基づき、 イヌにおいて自然発症した腫瘍に対して DC を用いた免疫細胞療法の効果を検
第 1 章 樹状細胞の成熟および免疫活性化能に対する IFNγ の
影響
DC とは、多数の突起を有し、リンパ球と相互作用できる細胞である。生体に 侵入した抗原に対する反応という観点から見ると、DC は抗原を取り込み、プロ セシングした後、ヘルパーT 細胞に抗原提示するという役割を担っている(稲葉 ら 2000)。抗原提示を行う細胞(抗原提示細胞)としては、他にマクロファージ や B 細胞も知られているが、DC は抗原提示能力が最も高い細胞である。ヘルパ ーT 細胞への抗原提示は、抗原の無毒化やオプソニン化および抗原に感染した細 胞の破壊などの免疫機能の起動点となる。すなわち、免疫反応において CTL あ るいは NK 細胞といったエフェクター細胞の上流に位置する Th1 細胞、さらに 上流に位置する DC を活性化することは、免疫機能強化の方法として最も効果的 な手段と言える。 これまでに、ヒトおよびマウスの DC は、in vitro で、骨髄あるいは臍帯血中 の未分化な CD34 陽性細胞もしくは、末梢血単球から、顆粒球・マクロファージ コロニー刺激因子(GM-CSF)、インターロイキン-4(IL-4)、腫瘍壊死因子(TNF-α) などの刺激によって分化誘導されることが判明している(Hori et al. 2004; Morse et al. 1997; Inaba et al. 1992; Ibisch et al. 2005; Zhou and Tedder 1996 )。しかしなが ら、ヒトやマウスと異なり、イヌの DC を in vitro で効率的に分化誘導する上で、 必要となるイヌのサイトカインのほとんどが組換え体として得られておらず、 市販品として入手困難である。動物種が異なると、同じサイトカインでも、分 化誘導剤として同程度の効果がみられないという問題があり、また、種によっ て樹状細胞の分化を誘導するサイトカイン濃度が異なる可能性もある。さらに、 それらの相互作用についても不明な部分があることから、イヌの DC を効果的に 分化誘導することは困難となっている。 一方、IFNγ は、Th1 免疫系を著しく活性化し、腫瘍に対する免疫反応を増強するサイトカインとされているが、DC の成熟および活性化に影響を及ぼすか否 かは未だ明らかでない。 いくつかの DC の種類の中でも末梢血単球由来 DC は、Th1 免疫反応を活性化 し、また、材料を容易に採取できることから抗腫瘍免疫治療に最もよく用いら れている。そこで、本章では、in vitro の実験系において、イヌ末梢血単球由来 DC の成熟方法の開発を試みるとともに、腫瘍傷害活性に対する IFNγ の影響を 調べた。
第1節 イヌ単球由来 DC の成熟および免疫活性化能に対する IFNγ
の影響
DC はナイーブ T 細胞(Th0)を Th1 あるいはタイプ 2 ヘルパーT 細胞(Th2) へ分化させ、免疫反応を開始させることのできる唯一の細胞である(稲葉ら 2000)。腫瘍を免疫学的に排除する機構は、Th1 の司る細胞性免疫であると考え られている(岩井 2001)。Th1 細胞と呼ばれる T 細胞は、主に IFNγ などの Th1 サイトカインを産生し、ウイルスや細菌、細胞内抗原の除去や自己免疫疾患、 抗腫瘍免疫などの細胞性免疫を担う細胞である。また、IFNγ は NK 細胞からも分 泌され(Smyth and Kelly 1999)、CTL や NK の活性増強(Chen et al.1986, Djeu et al. 1982)、腫瘍細胞上の主要組織適合抗原複合体(MHC)分子の発現増加(Slos et al. 2001)、血管新生の抑制(Ribatti et al. 2006)などの作用を持ち、腫瘍細胞の排除を 促進する(Saleh et al. 2000. Yamazaki et al. 2002)。一方、本サイトカインは腫瘍患 者の体内においては分泌が抑制されたり、機能が阻害されており、そのため腫 瘍に対する免疫が抑制される一因となっている(Yan et al. 2007)。このように、 IFNγ は、腫瘍の増殖抑制に関わるエフェクター細胞の機能亢進を行うが、免疫反応 において上流に位置する DC に及ぼす影響については未だ明らかになっていない。 もし、DC の機能をも亢進することができれば、腫瘍細胞特異的な Th1 あるいはエフェ クター細胞を腫瘍内にリクルートすることができ、さらに強力な抗腫瘍免疫反応を賦活 させることが期待される。 そこで本節では、イヌ単球由来 DC の成熟および免疫活性化能に対する IFNγ の影響について調べた。材料と方法
1. 供試動物 動物は、大阪府立大学大学院生命環境科学研究科動物実験規定および実施細 則に則って、大阪府立大学動物科学教育センターにて飼育管理を行った。本学 コンベンショナル動物飼育室において飼育している年令 4〜8 歳の正常ビーグル 種雌犬を用いた。給餌はドライタイプのドッグフードを 1 日 1 回与え、飲水は 水道水を自由に摂取させた。また、照明は 12 時間の明期および 12 時間の暗期 下とした。 2. 採血および末梢血単核球の分離 ヘパリン処理を施した注射筒および注射針を用いて、上記動物の橈側皮静 脈より無菌的に末梢血 10 mL を採取した。採取した末梢血に 1/2 容量のデキスト ラン(Dextran2000®;Amershan Biosciences 社製、Piscataway、NJ、USA)を 5%
含む Ca2+ Mg2+不含りん酸緩衝食塩水(PBS(-))を加えて混和し、恒温槽内 で 37 ℃、15 分間静置した。赤血球の沈殿(下相)を確認した後、上相を回収し、 PBS(-)を用いて 4 ℃、760 × g、7 分間の遠心により洗浄を行い、末梢血有核 細胞を回収した。 末梢血有核細胞を PBS(-)10 mL に浮遊させ、リンパ球分離液(比重 1.077 g/mL、ナカライテスク社製、京都)に浮遊液:リンパ球分離液=1:1 の割合で 重層した後、室温(25 ℃)、760 × g、30 分間遠心した。遠心分離後、リンパ球 分離液層上の単核球層を採取し、PBS(-)を用いて 4 ℃、760 × g、7 分間の遠 心により洗浄し、実験に供した。 3. CD14 陽性単球の分離 末梢血単核球からのCD14 陽性単球の分離は、既報(Wijewardana et al. 2006) の通りに行った。すなわち、末梢血単核球 108個を 10 mL のマウス抗ヒト CD14 モノクローナル抗体(ハイブリドーマ株 3C10 の培養上清;American Type
CultureCollection, Rockville, MA)に浮遊させ、4 ℃で 30 分間インキュベートした。 その後、PBS(-)を用いて洗浄し、0.8 mL の 2%FBS 加 PBS(-)に浮遊させ、 そこに 0.2 mL のヤギ抗マウス IgG マイクロビーズ(Miltenyi Biotec GmbH 社製、 Bergish Gladbach、Germany)を加えて、4 ℃で 30 分間反応させた。その後、PBS (-)を用いて 2 回洗浄し、1 mL の 2 mM EDTA 含有 2%FBS 加 PBS
(PBS-EDTA-FBS)に浮遊させて、氷上に静置した
MACS カラム(LS サイズ:Miltenyi Biotec GmbH 社製)を MACS セパレータ ー(磁石)に装着し、カラム内を冷 PBS-EDTA-FBS で浸漬した。次に、カラム 内にマイクロビーズ処理を行った末梢血単核球を加えて流し、磁気を帯びたカ ラム中の鉄製のマトリックスに CD14 陽性細胞を接着させた後、8 mL の冷 PBS-EDTA-FBS をカラム内に流しカラム内に残っている非接着細胞(CD14 陰性 細胞)を除去した。 その後、カラムを MACS セパレーターからはずして、マトリックスが磁気を 帯びていない環境中で、7 mL の冷 PBS-EDTA-FBS をカラムに流し、カラム内の 細胞(CD14 陽性細胞)を回収した。 4. プラスチック付着法による CD14 陽性細胞の純化 回収した細胞を、1 × 106 /mL の濃度で加温培養液に浮遊させ、直径 10 cm の プラスチックシャーレに加えて、37 ℃、5% CO2の湿環境下で 90 分間インキュ ベートした。その後、プラスチックシャーレを加温培養液を用いて緩やかに洗 浄して非付着細胞を除去し、4 ℃の EDTA 含有 PBS(-)でプラスチックシャー レの底面に付着している細胞(末梢血単球)を浮遊させて回収した。 分離処置の後、分離された細胞を下記7.に示すフローサイトメトリーで測 定すると、98%は CD14 陽性を示した。 5. DC への分化誘導
CD14 陽性単球を 1 × 106/mL の濃度で、10%ウシ胎子血清(Bio-solitionJapan Inc, Osaka, Japan)添加 RPMI1640 を含む培養液中に浮遊させた。イヌ GM-CSF (40 ng/mL)とイヌ IL-4 (33 ng/mL)を加えて、37 ℃、5%CO2の湿環境下で、7 日 間培養して、未成熟 DC への分化を誘導した。培養液は 2 日毎に亣換した。 誘導した未成熟 DC に様々な濃度の IFNγ を加えてさらに 5 日間培養を行った 後、細胞を回収して下記 6.に示す方法によって形態を観察するとともに、下記 7.に示す方法によってフローサイトメトリー法によって細胞表面の分化抗原 (マーカー)を解析した。さらに、培養上清中に含まれる IL-12 を下記の方法に よって測定した。 6. 形態観察
細胞をサイトスピン(Shand on Cytospin 4:Thermo Scientific 社製、横浜)によ りスライドガラスに付着させ、メイグリュンワルドーギムザ染色によって光学 顕微鏡で形態の観察を行った。 7. 細胞表面マーカーの解析 成熟した DC に特徴的な表面マーカー(CD80、CD86、MHC class Ⅱ、CD1a、 CD14)の発現を解析することで、単球から DC への分化と DC の成熟活性化の 程度を評価した。フローサイトメトリーによる解析には以下の抗体を用いた: 抗マウス CD80 抗体(クローン 1G10、ラット IgG2a、Becton Dickinson Biosciences 社製、San Diego、CA)、抗ヒト CD86 抗体(クローン 2331、マウス IgG1、Becton Dickinson Biosciences 社製)、FITC 標識イヌ MHC class Ⅱ抗体(クローン
YKIX334.2、ラット IgG2a、Serotec 社製、Kidlington、Oxford、UK)、FITC 標識 抗ヒト CD1a 抗体(クローン NA1/34-HLK、マウス IgG2a、Serotec 社製)、PE-Cy5 標識抗ヒト CD14 抗体(クローン TÜK4、マウス IgG2a、Serotec 社製)。これら の抗体はいずれもイヌでの亣差性が認められている(Bonnefont-Rebiex et al. 2006,
Galkowska et al. 1996)。CD80 抗体はビオチン化した後、PE-Cy5 結合ストレプト アビジン(Becton Dickinson Biosciences 社製)で標識、抗ヒト CD86 抗体は 680-R-phycoerythrin 標識抗マウス IgG ヤギ抗体(Molecular Probes,Inc.社製、Willow Creek Road Eugene OR)で標識した後、蛍光抗体法による免疫染色に用いた。
蛍光免疫染色では、PBS2%FBS 中で細胞に標識抗体を氷上で 30 分間反応させ た。染色後の反応性をフローサイトメトリー(FACSCalibur™:Becton Dickinson 社製、Rancho Cucamonga、CA)を用いて測定した。 その後、付属のソフトウェア(Cell Quest)を用いて表面マーカーの発現強度 を求めた。 8. IL-12 の測定 IL-12 は細胞障害性(CTL)T 細胞に作用し、CTL の活性化、IFNγ の分泌増な どの腫瘍免疫に重要とされている作用をもつサイトカイン(Sad et al. 1995)で、 活性化された DC からも産生される。そこで、IFNγ による DC の活性化を分泌 された IL-12 の量を測定することにより評価した。IL-2 の測定は、DuoSet®
Canine IL-12(R&D Systems 社製)を用いた ELISA によって行った。
9. 統計処理
全ての測定値は平均値±標準誤差で示し、StatView®(Hulinks Inc.社製、東京)
を用いて ANOVA および Fisher's PLSD 法により差の検定を行った。p<0.05 の場 合に有意差があるとした。
結果
末梢血単球(Fig. 1-1A)は、GM-CSF および IL-4 添加培地で 7 日間培養する ことにより、細胞の数には変化を示さなかったが、著しく大きくなり、そのほ とんどが、円形で、丸い核と細胞質内に顆粒を持つようになった(Fig. 1-1B)。 これらの細胞は、細胞表面にベール状の構造物を表面に持っており、未成熟 DC の特徴を示した。この未成熟 DC に IFNγ を加えてさらに 5 日間培養を継続した ところ、成熟 DC の特徴である二つの核と長い突起を持った細胞が出現してきた (Fig. 1-1D)。対照として、未成熟 DC をサイトカイン非存在下で 5 日間培養し た場合は、細胞の大きさは増加したが、ベール状の構造物は退化消失した(Fig. 1-1C)。 2. 樹状細胞表面発現する抗原分子および免疫刺激分子の変化 DC の成熟度をみるために、抗原提示分子である主要組織適合抗原クラスⅡ (MHC II)および CD1a を、免疫活性化能をみるために免疫活性化能をみるた めに、免疫刺激分子である CD80 および CD86 の発現量を測定した。 その結果、 Fig. 1-2 に示したように、上記全ての分子の発現量は、GM-CSF と IL-4 によって 分化誘導した未成熟 DC では単球と比較して有意に高まったが(p<0.01)、その 後、サイトカイン非存在下で 5 日間培養すると、これらの分子の発現量は低下 を示した。 しかし、100 U/mL 以上の IFNγ で 5 日間培養した細胞では、未成熟 DC に比べて有意にこれら全ての分子の発現が高まった(p<0.01)。 3. IL-12 の発現量 Th1 免疫系を特異的に活性化するサイトカインである IL-12 の産生量は、未成 熟 DC を IFNγ と 5 日間培養することによって、Fig. 1-3 で示したように IFNγ の 添加濃度依存性に、添加していないものと比較して有意に増加した(p<0.05)。
考察
本節では、DC の成熟および免疫活性化能に対する IFNγ の影響をあきらかに した。末梢血単球から未成熟 DC までの分化誘導には、これまでの報告(Ibisch et al. 2005)に基づき、イヌ GM-CSF および IL-4 を用いて7日間培養することによ って行った。その結果得られた細胞は、単球の2~3倍の大きさを示す円形細 胞で、その表面にベール状の構造物を持つ vailed cell(VC)と呼ばれる未成熟 DC(稲葉ら 2000)の形態となった。この VC を IFNγ とともにさらに 5 日間培 養すると、2つの核と長く進展した突起をもつ成熟 DC に特徴的な形態へと変化 した。DC は、分化成熟の過程で、抗原貪食能を喪失するが、抗原提示能および T 細胞活性化能を獲得する(Banchereau and Steinman 1998)。抗原提示能は、外 来抗原提示分子である MHC class II や内因性脂質抗原の提示分子である CD1a の 細胞表面における発現量に相関し、同様に T 細胞活性化能は、免疫共刺激分子 である CD80 および CD86 の発現量に相関する。また、ミエロイド系 DC の分泌 する IL-12 は、Th1 免疫系細胞の活性を促進することができる。さらに、DC の 成熟過程におけるこれら分子の発現の有意な増加がヒト(Pedersen et al. 2005)、 マウス(Kim et al. 2009)およびイヌ(Wang et al. 2007)において報告されてい る。本実験において、未成熟 DC を IFNγ とともに培養することによって、MHC class II、DC1a、CD80 および CD86 の細胞表面での発現、および IL-12 の産生量 が著しく増加した。したがって、先の形態的変化と合わせ、これら関連分子発 現の結果から、IFNγ は単球由来の未成熟 DC を成熟 DC へと成熟誘導できるこ とが判明した。これまでにも、IFNγ によって、ヒト末梢血中の DC 前駆細胞(Ito et a. 2001)やマウスの DC 前駆細胞株(He et al. 2007)を成熟誘導できることが 報告されている。本実験結果によって、IFNγ は、それら内因性の DC 前駆細胞 だけでなく、in vitro で分化誘導した未成熟 DC にも働き、成熟誘導できること が明らかになった。また、本実験において、未成熟 DC をサイトカインのほとんどない環境で培養 すると、細胞表面のベール状構造は変性、消失し、上記関連分子の発現も著し く低下した。この結果は、免疫刺激のほとんどない生体内における未成熟 DC の 活性低下(Romani et al. 1996; Nelson et al. 1999)というこれまでの DC 治療の不 成功の原因を表していると思われ、さらに、IFNγ によってその不成功をレスキ ューできる可能性を示唆するものである。
小括
IFNγ は細胞障害性(CTL)T 細胞などの Th1 免疫系のエフェクターを活性化 するのみでなく、その上流に位置する DC にも働き、その成熟を促進し、免疫刺 激能を著しく増強することが明らかとなった。第2節 イヌ単球由来樹状細胞の抗腫瘍活性に対する IFNγ の影響
最近、ヒト単球由来樹状細胞(DC)は、Th1 免疫系を活性化するのみならず、 「キラーDC」として、直接的に腫瘍細胞を傷害することが明らかとなった (Chapoval et al. 2000)。
IFN-γ は CTL、NK 細胞などの直接腫瘍細胞に傷害性を持つ細胞を活性化 (Nathan and Hibbs 1991; Maraskovsky et al. 1989)するサイトカインであり、キラ ーDC の腫瘍抑制効果を増強し(Griffith et al. 1999; Larmonie et al. 2009)、腫瘍細 胞に直接働きかけてアポトーシスを引き起こす(Oba et al. 2008)。また、IFN-γ は腫瘍細胞による IL-10 などの免疫抑制因子や VGEF などの腫瘍増殖促進因子の 分泌抑制効果も持つ(Horton et al. 1999)ため、腫瘍周囲で長期的に分泌させる ことで免疫の活性化および腫瘍の増殖抑制が期待できる。さらに、このサイト カインは、実際ヒト(Rivoltini et al. 1990; Klapper et al. 2008)やマウス(Black et al. 1993; Overwijk et al. 2000)において腫瘍抑制効果が認められ、その実用性も 指摘されている。 そこで、本節では、イヌ単球由来 DC について、そのキラーDC 活性に対する IFNγ の影響を検討するとともにその機序について調べた。
材料と方法
1. DC の準備 前節と同じの方法で、イヌ末梢血から CD14 陽性単球を分離し、未成熟 DC へ 分化誘導した。 2. 腫瘍細胞株イヌ甲状腺癌の細胞株である CTAC 細胞およびイヌ骨肉腫の細胞株である D-17 細胞を用いた。CTAC 細胞および D-17 細胞は、いずれも European Cell Collection and Cell Culture 標準株で、DS ファーマバイオメディカル社(吹田)に よって輸入されたものを購入し、Kasza(1994)および Riggs ら(1974)の報告 に従って維持した。 3. 腫瘍細胞増殖抑制効果の検討 DC による腫瘍増殖抑制の評価は、Chapoval ら(2000)の報告に従っておこな った。すなわち、96 ウェルプレートを用いて、そのウェル中に CTAC あるいは D-17 細胞(104個)を DC(5 × 104個)と共に様々な濃度のイヌIFNγ を含んだ 培養液200μL 中で 37℃、5%CO2の湿環境下で、48 時間培養した。その後、1.85
kBq の[3H]-チミジン (92.5 kBq/mL; Perkin-Elmer Life and Analytical Sciences 社 製, Bston, MA)を添加してさらに 6 時間培養し、PHDTM cell harvester(Cambridge Technology 社製、Cambridge、MA、USA)を用いて、培養細胞をガラス繊維濾 紙(アドバンテック東洋社製、東京)に付着させ、TRI-CARB® 2200CA 型シンチ レーションカウンター(PACKARD 社製、Canberra、Australlia)によって細胞 DNA へ取り込まれた[3H]-thymidine の放射能(cpm)を測定した。コントロール として、腫瘍細胞を DC 非存在下で同じ濃度の IFNγ と一緒に培養した。結果は 抑制率(% inhibition)で表し、次の式によって計算した:[ % ihibition= 1- test cpm / control cpm ]。また、いくつかの実験で、DC と腫瘍細胞との接触を阻止するた めに 1.0 μm の有孔培養皿を用いた。これらの実験では、24 ウェルプレートのウ ェル内にその培養皿を置き、1mL の培養液に浮遊させた腫瘍細胞(105個)をウ ェル中に加え、0 あるいは 103 U/mL の IFNγ を含む 1 mL の培養液に浮遊させた DC(5 × 105個)を有孔培養皿中に加えた。48 時間の培養の後、有孔培養皿を取 り除き、腫瘍細胞の増殖を上述と同様な方法で評価した。 DC による腫瘍細胞のアポトーシス誘導の評価にあたっては、24 ウェルプレー
トと有孔培養皿を用いて上記と同様に 48 時間の培養を行った後、腫瘍細胞を 30 分間室温で 2 μg /mL の Hoechst 33342(EMD Chemicals, Darmstadt, Germany)で 染色し、腫瘍細胞 1,000 個中にアポトーシスをおこした細胞を数え、その割合を 算出した。また、有孔培養皿中の DC を回収し、アポトーシスを誘導するサイト カインであるTNFα および TNF 関連アポトーシス誘導因子(TRAIL)の mRNA の発現を以下のプライマーを用いて RT-PCR 法によって測定した。 TNFα sense, 5′-TCAGCCTCTTCTCCTTCCTC-3′; TNFα antisense, 5′-ACATGAGCTACTGGCTTGTC-3′; TRAIL sense, 5′-TGAAGAGAGTATGAACAACC-3′; TRAIL antisense,5′-GAATTGGAAACATGCTTCTC-3′
コントロールとして、ハウスキーピング遺伝子である glyceraldehyde-3-phoshate hydrase(G3PDH)の発現を調べた。
4. 統計処理
全ての測定値は平均値±標準誤差で示し、StatView®(Hulinks Inc.社製)を用い
て ANOVA および Fisher's PLSD 法により差の検定を行った。p<0.05 の場合に有 意差があるとした。
結果
1. 接触共培養下における DC の腫瘍細胞増殖抑制 イヌ単球由来 DC のキラーDC 活性に及ぼす INFγ の影響を調べた。イヌ癌細 胞株と DC とが直接触れる状態で混合培養した結果、Fig. 1-4 で示したように、 CTAC 細胞において添加した INFγ の濃度依存性に [3H]-thymidine の取り込み量 が有意に抑えられ(p<0.005)、DC による腫瘍細胞の増殖抑制が増強された。同様に D-17 細胞においても、DC による腫瘍細胞の増殖抑制が IFNγ の濃度依 存性に有意に増強された(p<0.005)。また、DC 単独では、CTAC 細胞(約 30%) に比べて、D-17 細胞(約 60%)の方が強く増殖抑制を受けていた。
2. 非接触共培養下における DC の腫瘍細胞増殖抑制
イヌ癌細胞株と DC とが直接触れないように混合培養した結果、Fig. 1-5 で示 したように、CTAC 細胞において、INFγ 1,000 U/mL 添加群は、無添加群に比べ て、 [3
H]-thymidine の取り込み量が有意に抑えられ(p<0.005)、DC による腫瘍 細胞の増殖抑制が増強された。また、INFγ 非添加群における腫瘍細胞株と DC とが直接触れない場合(約 15%)では、直接触れる場合(約 30%)に比べて DC による腫瘍細胞の増殖抑制はほぼ半減した(Fig. 1-5, 6)。一方、INFγ 1,000 U/mL 添加群においても、腫瘍細胞株と DC とが直接触れない場合(約 40%)では、 直接触れる場合(約 80%)に比べて DC による腫瘍細胞の増殖抑制はほぼ半減 した(Fig. 1-5, 6)。 同様に D-17 細胞においても、DC による腫瘍細胞の増殖抑制が IFNγ の添加で 有意に増強されたが(p<0.005)、腫瘍細胞株と DC とが直接触れない場合では、 直接触れる場合に比べて DC による腫瘍細胞の増殖抑制はほぼ半減した(Fig. 1-5, 6)。 3. DC によるアポトーシス誘導 イヌ単球由来 DC のアポトーシス誘導に及ぼす INFγ の影響を調べた。IFNγ を D-17 細胞に単独添加あるいは DC との共培養に加えて培養した結果、Fig. 1-6A で示したように、IFNγ 単独添加群ではアポトーシスをおこした腫瘍細胞は観察 されなかったが、一方、DC との共培養に IFNγ を添加した群では、アポトーシ スを起こした腫瘍細胞が多く観察された。 また、CTAC 細胞および D-17 細胞のいずれの腫瘍細胞においても、アポトー
シスに陥った細胞数は、Fig. 1-6B で示したように、IFNγ 単独添加群に比べて、 DC との共培養群では有意に増加した(p<0.005)。さらに、DC との共培養に IFNγ を添加した群では、アポトーシスをおこした細胞数は、IFNγ 非添加群に比べて さらに著しく増加した(p<0.005)(Fig. 1-6B)。 4. 腫瘍細胞アポトーシス誘導因子 DC における TNFα および TRAILmRNA の発現を Fig. 1-7 に示した。いずれの 腫瘍細胞アポトーシス誘導因子の発現も、DC に IFNγ を添加することにより、 有意に増加した(p<0.05)。
考察
Chapoval ら(2000)は、ヒト単球由来 DC によってヒト腫瘍細胞株の増殖が 抑制され、その抑制効果がIFNγ によって増強されることを報告している。しか し、彼らは、その抑制機序について明らかにしていない。一方、Janjic ら(2002) は、ヒト単球由来 DC がヒト腫瘍細胞に対しアポトーシスを誘導することを明ら かにした。そこで本研究では、イヌ単球由来未成熟 DC も同様にイヌの腫瘍細胞 の増殖を抑制することを確かめ、その抑制効果に対するIFNγ の影響を調べ、ま た、その機序の解明を試みた。 イヌ単球由来 DC はイヌ腫瘍細胞株の増殖を抑制し、IFNγ はそれを著しく増 強した。また、その抑制効果は、DC と腫瘍細胞の直接的な接触を阻止した場合 でもみられ、同様にIFNγ によって増強した。このことにより、DC による腫瘍 増殖抑制には、DC から産生される液性因子が関与し、その産生は、IFNγ によ って促進されることが考えられた。さらに、この液性因子は、腫瘍細胞のアポ トーシスを誘導することがわかり、その結果と一致して、アポトーシス誘導因子であるTNFα や TRAIL の DC での発現が IFNγ によって著しく亢進することが 判明した。これらの結果から、イヌ単球由来 DC は、TNFα や TRAIL などのア ポトーシス誘導因子の分泌を含めた機序により、腫瘍細胞のアポトーシスを誘 導することによって腫瘍細胞の増殖を抑制できることが明らかになり、その効 果は、IFNγ によって増強されることが判明した。 Janjic ら(2002)は、ヒト未成熟 DC の成熟に伴いアポトーシス誘導能が減弱 すると報告している。本研究でも未成熟 DC の段階で実験を行い、腫瘍増殖抑制 能を認めた。未成熟 DC は、成熟 DC に比べ抗原提示能や T 細胞活性化能は低い が、まだ貪食能を失っていない。したがって、未成熟 DC を腫瘍組織内に直接 注入すれば、自らの機能で腫瘍細胞のアポトーシスを引き起こし、それを貪食 することによって効率的に腫瘍抗原を提示でき、それによって、in vitro の分化 誘導の過程で腫瘍抗原を取り込ませなくても効果的に免疫反応を賦活させるこ とができると考えられる。さらに、IFNγ を未成熟 DC とともに腫瘍内に注入す れば、さらに強力な抗腫瘍免疫反応を引き起こすことができると思われる。 以上の実験結果に基づき、イヌに自然発症した腫瘍内に自己の単球由来未成 熟 DC と IFNγ を注入してその治療効果を検討した。その結果を次章に記述する。
小括
イヌ単球由来 DC は液性因子を含むアポトーシス誘導の機序によって腫瘍細 胞を傷害し、IFNγ は DC の腫瘍細胞の増殖抑制作用を著しく増強することが明 らかとなった。第 2 章 樹状細胞の腫瘍治療効果に対する IFNγ の影響
腫瘍罹患者は、免疫機能が低下している状態と考えられ、本来免疫機能によ って捕捉、排除されるべき腫瘍が免疫から逃れている。そこで、患者の免疫機 能を高めることによって免疫細胞が腫瘍を認識し、排除する方向へ誘導するこ とが、免疫学的腫瘍治療である。緒言で述べたように、最近、生体外で分化誘 導した DC に腫瘍抗原を認識させ、腫瘍罹患者の体内にもどし、腫瘍への免疫能 を獲得させる、腫瘍の免疫学的治療が試みられている(Engell-Noerregaard et al. 2009; Curti et al.2007; Bachleitner-Hofmann et al. 2009; Palmer et al. 2009; Kim et al. 2007; Lepisto et al. 2008)。免疫学的治療法は、腫瘍罹患者のもつ細胞を利用し、 その機能を高めることによって治療するため、後遺症や副作用が尐ない、画期 的な治療法である。現在、ヒトでは腫瘍抗原を認識させた DC によるフェーズⅠ の臨床研究が行われている(Geiger et al. 2001; Lotem et al. 2006)。しかし、樹状 細胞のみでの治療ではあまり効果が得られておらず(Morse et al 1999; Svane et al. 2004)、DC 療法の確立には至っていない。また、イヌについては、DC の臨床へ の応用はほとんど行われていないのが現状である。 そこで、前章で得られたイヌ単球由来 DC に対する IFNγ の影響に関する基礎 知見をもとに、本章では、イヌにおいて自然発症した腫瘍に対して DC を用いて 免疫治療を行い、その治療効果に対するIFNγ の影響を検討した。材料と方法
1. 供試動物および材料 大阪府堺市内の新金岡動物病院に来院した腫瘍罹患犬 7 頭(5-17 歳)につい て、飼い主に対し、インフォームドコンセントを充分に行った後、治療を開始した。腫瘍罹患犬は、治療前後において血液検査など必要な検査を行い、摘出 した腫瘍は病理組織検査によって診断を行った。また、摘出腫瘍の一部は、ラ イセート(腫瘍抗原)の作製に供した。ヘパリン処理を施した注射筒および注 射針を用いて、腫瘍罹患犬の橈側皮静脈より無菌的に 8~20 mL の末梢血を採取 し、単球の分離および DC への分化誘導を行った。 2.末梢血単球の分離および DC の準備 末梢血単球の分離は、第 1 章の第 1 節で述べた方法に従って行った。ただし、 プラスチック付着法による CD14 陽性細胞の純化は、省略し、単球の分離は、抗 ヒト CD14 マイクロビーズを用いた MACS 法のみによって行った。単球から DC への分化誘導も、イヌ GM-CSF および IL-4 を用いて第 1 章の第 1 節で述べた方 法に従って行った。DC による抗原の取り込みおよび提示能を評価するために、 Geiger ら(2001)の報告に従って、誘導した DC を KLH(SIGMA 社製、St. Louis、 MI、USA)、50 μg/mL とともに 2~3 時間インキュベートし、そののち回収して 治療に供した。 3.腫瘍ライセートの作製 摘出腫瘍を使用できた例について、腫瘍ライセートを Geiger ら(2001)の方 法にしたがって作製した。すなわち、腫瘍を滅菌シャーレ上で細分し、金属メ ッシュで濾過して PBS(-)中に浮遊させた。マイクロチューブに入れ、4 ℃、 17,000 × g、ブレーキなしで遠心し、上清を除去した後、PBS(-)で浮遊し、 液体窒素で凍結、37 ℃のウォーターバスで融解し、撹拌した。凍結、融解を 5 ~6 回繰り返し、4 ℃、17,000 × g で遠心し、上清を腫瘍ライセートとした。腫 瘍ライセートはプロテインアッセイ CBB 溶液(5 倍濃縮、ナカライテスク社製、 京都)を用いてタンパク定量を行い、PBS(-)で希釈して 1 mg/mL に調整し、 実験に供した。腫瘍ライセートは使用までマイナス 80 ℃で保存した。
4.DC と IFNγ を併用した治療プロトコール
DC と IFNγ の併用処置プロトコールを Fig. 2-1 に示す。Complete Treatment(以 下[DC+IFNγ]治療)として以下の処置を行った。 ① 未成熟 DC へ分化誘導した培養細胞と組換え型イヌ IFNγ(インタードッグ®、 東レ社製)1 万単位/kg を混合し、腫瘍組織内および所属リンパ節に注入した。 ② ①の 2 日および 5 日後に同 IFNγ(1 万単位/kg)のみを腫瘍組織内および所属 リンパ節に注入した。 以後,①の DC と IFNγ の投与およびそれに続く②の IFNγ の追加投与を 7 日 ごとに行い、これを 1 サイクルとして 8 サイクル以上行った。DC の投与間隔は Geiger ら(2001)に従って決定した。IFNγ の投薬量、投与間隔は製造会社のア レルギー治療用のプロトコ-ルに準じて行った。 5.腫瘍に対する治療効果の検討 腫瘍に対する治療効果の評価は、Table 1 に示す WHO の判定基準に従い、完 全奏効、部分奏効、安定および進行の 4 段階に分けて評価を行った。ここで、 完全奏効とは、検出可能なすべての腫瘍病変が消滅している状態を、部分奏効 とは、病変の最長径の和が 50% 以上減尐し、新たな病変の発生が無い状態を、 安定とは、病変の最長径の和が 50% 未満減尐あるいは 25%未満増加している状 態を、進行とは、病変の最長径の和が 25% 以上増加しているかあるいは新たな 転移病変が発生している状態を示す。 6.DC による免疫効果の検討 腫瘍組織内に注入した DC による抗腫瘍免疫賦活能を評価するために、[DC +IFNγ]治療開始前および 8 サイクル終了後に、腫瘍罹患犬から末梢血単核細 胞を採取して、10%FBS 加 RPMI 培地に浮遊し、96 ウェルマイクロプレートの
ウェル中で、3×105
個の細胞を KLH(0、20、40、80 および 100 μg/mL)または 腫瘍ライセート(0、30、100、300 μg /mL)とともに 37 ℃、5%CO2の湿環境下で
4~5 日間培養した。その後[3H]-thymidine を各ウェルに 18.5 kBq ずつ添加し、さ らに 16 時間培養し、PHDTM
cell harvester(Cambridge Technology 社製、Cambridge、 MA、USA)を用いて、培養細胞をガラス繊維濾紙(アドバンテック東洋社製、 東京)に付着させ、TRI-CARB®
2200CA 型シンチレーションカウンター
(PACKARD 社製、Canberra、Australlia)によってリンパ球 DNA へ取り込まれ た[3
H]-thymidine の放射能(cpm)を測定した。 7.統計処理
すべての測定値は平均値±標準誤差で表し、StatViewⓇ(Hulinks Inc.社製)を用
いて ANOVA および Fisher’s PLSD 法により差の検定を行った。P<0.05 の場合に 有意差ありとした。
結果
1. 樹状細胞療法による細胞治療効果 種々のイヌ自然発生腫瘍に対する DC の治療効果を Table 2 にまとめて示した。 現在までに、A 皮脂腺上皮腫 1 例、B 線維肉腫 1 例、C 乳腺管癌 4 例および D 直腸癌 1 例の計 7 例について治療を完了し、このうち C3 例および D1例の計 4 例について完全奏功を、A、B および C 各1例の計 3 例について部分奏功を得た。 また、上記 7 例の他に、乳腺管癌の 1 例を DC 単独(7 日毎、4 回)で、2 例 をIFNγ 単独(1 万単位/Kg、週 3 回、14 日間)によって治療を行ったが、いず れも腫瘍細胞の増殖を抑制することはできなかった(データ示さず)。 各症例ごとの治療経過は以下の通りであった。(1) 症例1 シーズー種、雌、17 歳齢。1ヶ月間で大豆大からゴルフボール大に成長した 腫瘍(Fig. 2-2A)が左後肢の足蹠にあり、全身にも無数に小豆大~小指頭大のいぼ 状の腫瘍(Fig. 2-3A)が見られた。パンチバイオプシーによって採取したサンプ ルの病理組織学的検査の結果、方形濃染性の基底細胞に類似した細胞の胞巣状 の増生があり、また、その周囲に明るく泡沫状の細胞質と小さな核を持った皮 脂腺細胞への分化が認められることから、皮脂腺上皮腫と診断された(Fig. 2-2B)。 血液検査の結果、中等度の白血球(分葉核好中球)増加(総白血球数:266 × 102/μL、好中球数:223 × 102/μL)と軽度の貧血(PCV:32.9%、RBC:523 × 104/μL) が見られた。血液生化学検査で血中尿素窒素(BUN)(63 mg/dL; 参考範囲、 4.8–31.4 mg/dL)とクレアチニン(2.3 mg/dL; 参考範囲、 0.2–1.6 mg/dL)のわず かな上昇が検出されたが、これは高齢のイヌ・ネコで起こる慢性腎疾患である と思われた。これらの結果より、高齢および慢性腎不全の基礎疾患から外科手 術による治療はできないものと判断された。 本症例に対し、症例の末梢血単球より分化誘導した DC(0.6 × 106~3.3 × 106 個)を 7 日ごとに 6 回、足蹠腫瘍部位に注入したところ、腫瘍の成長速度は、 低下したものの、投与開始から 40 日経過しても大きさが減尐することはなかっ た(Fig. 2-2C)。 そこで、上記処置にIFNγ を加え、症例の末梢血単球より分化誘導した DC(3.6 × 105~3.3 × 106個)を 7 日ごとに IFNγ とともに足蹠腫瘍部位に注入([DC+IFNγ] 治療)を行ったところ、腫瘍の著しい退縮が見られ、Fig. 2-2D に示すように、 DC 注入開始 42 日後には、腫瘍の体積が約 1/5 程度までに減尐した。また、一部 にメラニン色素が沈着した正常皮膚組織の再生も認められた(Fig. 2-4)。 さらに、この時点では、DC および IFNγ を直接注入しなかった体幹の腫瘍の 多くが退縮し、退縮部位には、色素沈着が認められた(Fig. 2-3B)。この時点で
の白血球数は、正常範囲(126 × 102/μL)にまで減尐した。貧血がやや高度にな った(PCV:20.4%、RBC:312 × 104/μL)が、黄疸は認められず、血清中の総胆 汁酸濃度は正常であった。 パンチバイオプシーによって採取した壊死部位の皮膚組織標本では、メラニ ン色素の沈着が認められるものの腫瘍細胞は見られなかった(データ示さず)。 その 42 日後には、足蹠の腫瘍は大豆大となったために切除した。その後も同様 の処置を続けた結果、全身に認められたいぼ状の腫瘍も退縮し、減尐していっ た。8 回の[DC+IFNγ]治療後、IFNγ の 2 回目と 5 回目の投与は省いたが、そ れにも関わらず腫瘍は縮小し続けた。 治療開始 140 日後から食欲減退し、BUN とクレアチニンのレベルは徐々に上 昇し、ヘマトクリット値は徐々に減尐したために、腎疾患に対する治療を行っ た。しかしながら、157 日後に BUN およびクレアチニンはそれぞれ 143 mg/dL および 4.3 mg/dL に達して死亡した。死亡時まで、足蹠腫瘍の再発は認められな かった。 (2) 症例2 ビーグル種、雌、14 歳齢。口腔から膿を排出しており、右下顎の頬側と舌下 に限界不明瞭な腫瘍を認めた(Fig. 2-5A)。腫瘍の一部を切除し、スタンプ標本 を作製して検査を行ったところ、多形性異型核を有する紡錘形の細胞が認めら れた(Fig. 2-5B)。摘出腫瘍の病理組織学的検査の結果、線維肉腫と診断された。 血液検査の結果、高度な白血球(分葉核好中球)の増加(総白血球数:485 × 102/μL、好中球数:441 × 102/μL)と中等度の貧血(PCV:24.5%、RBC:377 × 104/μL) が見られた。血液生化学検査では、特記する異常は認められなかった。 レントゲン検査により腫瘍は下顎骨内に浸潤していることがわかったが、下 顎の切除に関して、飼い主の同意が得られなかったため、全腫瘍組織の摘出は できなかった。残存する腫瘍細胞の増殖を防ぐためにIFNγ(1 万単位/kg)を隔
日腫瘍切除跡に注入した。しかしながら、口腔内患部に残存した腫瘍細胞の増 生を抑制できず、イヌIFNγ 投与開始から 10 日で、腫瘍が切除前のほぼ半分の 大きさにまで成長した(Fig. 2-5C) そこで、[DC+IFNγ]治療(DC 数: 3.1 × 106~8.2 × 106個)を行ったところ、 腫瘍組織の壊死がおこり、28 日後には腫瘍のほぼ全域が壊死組織の外観を呈し た(Fig. 2-5D)。壊死様組織は、融解が強く、指で容易に部分剥離できたため、 スタンプ標本を作製して検査を行ったところ、好中球の著しい浸潤と変性壊死 した腫瘍細胞が認められ、壊死組織に置換されていることが判明した。 その後治療を継続したが、壊死組織が拡大し、[DC+IFNγ]治療開始 69 日後、 拡大した壊死組織が原因と思われる播種性血管内凝固(DIC)を発症し、それに より死亡した。 (3) 症例3 ヨークシャーテリア種、雌、11 歳齢。左側第 2 乳頭下から頭側に 40 ×30 mm 大の潰瘍性の腫瘍が見られた(Fig. 2-6A)。腫瘍の一部を切除し、スタンプ塗沫 標本を作製して、検査を行ったところ、異型性の高い大型の核をもった泡沫状 類円形細胞が認められた。摘出腫瘍の病理組織学的検査の結果、乳管腺癌と診 断された(Fig. 2-6B)。リンパ節や肺に転移は認められず、腫瘍は直接的に皮膚 に広がっており、TNM 分類に基づいてⅢB の臨床ステージと考えられた。 血液検査および血液生化学検査では、異常は認められなかった。 本症例に対して、[DC+IFNγ]治療(DC 数: 4.1 × 105~1.2 × 106個)を行っ たところ、治療開始 28 日後には、腫瘍が約 1/2 大(20x15cm)に縮小し、他の腫瘍 部位は、線維組織に置換された(Fig. 2-6C)。治療開始 56 日後には、腫瘍が完全 に消滅し、瘢痕のみとなった(Fig. 2-6D)。この時点で FNA による検査を行った が、悪性所見は、認められなかった。 その後 140 日まで、IFNγ の追加投与を省いて、7 日ごとの[DC+IFNγ]投与
のみを継続して行い、さらにその後は、[DC+IFNγ]投与のみを 14 日ごとに行 った。現在、治療開始から 800 日以上経過したが、再発および肺への転移は認 められていない。 (4) 症例4 ビーグル種、雌、7 歳齢。110 × 115 × 72 mm 大の胸部腫瘍があった。腫瘍の一 部を切除して病理組織検査をした結果、乳管腺癌と診断された。局所的に腋窩 リンパ節と鼠径リンパ節に転移が認められたが肺や肝臓への転移はなく、ステ ージⅢA の臨床ステージと考えられた。 血液検査および血液生化学検査では、異常は認められなかった。 この症例では、腫瘍が大きく、浸潤性が強いため、外科的に除去しても再発 の恐れが高いと思われたため、[DC+IFNγ]治療を選択した。[DC+IFNγ]治療 (DC 数: 1.9 × 106~4.8 × 106個)を 19 サイクル処置した結果、腫瘍は壊死、 溶解を起こし、もとの大きさの半分以下になった。 その後治療を継続したが、[DC+IFNγ]治療開始 195 日後、著しく体重が減 尐し、多量の壊死組織が原因と思われる DIC を発症し、それにより死亡した。 死亡時の剖検では、ほとんどすべての腫瘍は壊死を起こしていたが、胸壁に 浸潤しておらず、肺あるいはその他の組織への転移は認めらなかった。 (5) 症例5 ヨークシャーテリア種、雌、5 歳齢。左側第 2 乳頭と第 3 乳頭の間の皮下に 35 × 25 mm 大の楕円形赤紫色の硬結(厚さ 5 mm)が見られた(Fig. 2-7A)。バ イオプシーによって腫瘍の一部を切除して病理組織学的検査を行ったところ、 軽度な異型性を示す乳管上皮細胞の乳頭状の増生と多層化が認められ、乳管腺 癌と診断された(Fig. 2-7B)。また、リンパ節、肺および肝臓への転移はなく、 ステージⅡB の臨床ステージと考えられた。
血液検査および生化学的検査では、異常は認められなかった。 本症例に対して、[DC+IFNγ]治療(DC 数: 5.4 × 105~2.3 × 106個)を行っ たところ、腫瘍は減尐し、治療開始から 60 日後には、約 1/4 の大きさまで退縮 した(Fig. 2-8A)。この時点で、腫瘍をすべて摘出し、組織学的検査をおこなっ たところ、Fig. 2-8B に示すように、腺管構造が散見されるものの、ほとんどが 線維組織に置換されていた。 その後治療を中止し、経過を観察した。現在治療開始から 800 日以上経過し たが、再発は認められていない。 (6) 症例6 ヨークシャーテリア種、雌、13 歳齢。右側第 5 乳頭下に直径 15 mm 大の腫瘍 の形成が見られた(Fig. 2-9A)。FNA によって塗沫標本を作製して検査した結果、 核および細胞の大小不同を伴った異型性のある細胞集団が認められ、乳管腺癌 が強く疑われた(Fig. 2-9B)。リンパ節、肺および肝臓への転移は無かった(ス テージⅡA)。 血液検査および血液生化学検査では、異常は認められなかった。 本症例に対して、[DC+IFNγ]治療(DC 数: 4.2 × 105~2.0 × 106個)を行っ たところ、腫瘍は退縮し、治療開始から 30 日後には、すべて線維組織様の外観 を示した(Fig. 2-10A)。また、FNA による塗沫標本を検査したところ、わずか な炎症性細胞を認めるのみであった(Fig. 2-10B)。 [DC+IFNγ]治療を 8 サイクル行った時点で治療を中止し、その後経過を観 察した。現在治療開始から 800 日以上経過したが、再発および肺への転移は認 められていない。 (7) 症例7 ビーグル種、雄、12 歳齢。排便困難で、排便時の出血が頻繁に観察された。
直腸触診により、肛門入口から 4~5cm の左側直腸壁に 20 × 30 mm 大のポリー プが数個確認された。バイオプシーによって腫瘍の一部を切除し、病理組織学 的検査を行ったところ、腺癌と診断された(データ示さず)。リンパ節転移は認 められなかった。 血液検査および血液生化学検査では、異常は認められなかった。 [DC+IFNγ]治療(DC 数:6.4 × 105~1.4 × 106個)を 35 サイクル行った。 治療開始 154 日後には、腫瘍は消失し、線維組織に置き換わっていた。現在治 療開始から 800 日以上経過したが、再発は認められていない。 上記 7 症例の他に、2 例の乳管腺癌(ステージⅡB およびⅡA)に対して IFNγ による治療(104 U/Kg 隔日投与)を 2 週間、1 例の乳管腺癌(ステージⅡB)に 対して DC のみの治療(DC 数:8.1 × 105~2.0 × 106個、7 日毎の投与)を 6 回行 ったが、いずれにおいても腫瘍の増殖を抑制することができなかった。 2. 樹状細胞の抗原提示および免疫能 DC の抗原提示および免疫能を検討するために、症例2および症例7以外の 5 症例について末梢血リンパ球の KLH に対する反応性を治療前と [DC+IFNγ] 治療開始 63 日後とで比較した。治療前では、いずれの濃度の KLH に対しても ほとんど反応がみられなかったが、63 日後では、80 μg/mL まで濃度依存性の反 応がみられ、検査に用いたすべての KLH 濃度で、治療前における反応に比べ、 有意な反応の増加が認められた(Fig. 2-11)。80 μg/mL 以上の KLH 濃度では、80 μg/mL での反応と比較して有意な反応の増加は見られなかった(データ示さず)。 DC の注入によって、腫瘍細胞抗原に対する反応性が増加したかを検討するた めに、症例1、症例3、症例4、および症例5の 4 症例を用いて DC の可溶性抗 原に対するそれぞれの末梢血リンパ球の反応性を[DC+IFNγ]治療 7 日後と 63 日後とで比較したところ、7 日後では、ほとんど反応がみられなかったのに対し、 63 日後では、300 μg/mL まで濃度依存性の反応が見られた(Fig. 2-12)。1,000
μg/mL の腫瘍ライセート濃度では、300 μg/mL での反応と比較して有意な反応の 増加は見られなかった(データ示さず)。
考察
本章では、イヌに自然発生した腫瘍に対する治療効果を検討した。 IFNγ は、強力な Th1 免疫系の増強剤で、腫瘍に対するエフェクター細胞を活 性化する。この性質を利用して、ヒトでは腎細胞癌などにIFNγ のみ投与による 治療が行われており、血中腫瘍関連マーカーの有意な減尐(Aulitzky et al. 1987) や生存期間の有意な延長(Otto et al. 1988)が認められている。そこで、本研究で も症例2(線維肉腫)の初期治療および今回データを示さなかった乳癌 2 症例 について、IFNγ のみでの腫瘍治療を行ったが、腫瘍の成長を抑制することはで きなかった。また、症例1(皮脂線上皮腫)の初期治療と今回データを示さな かった乳癌 1 症例の治療を DC のみで行ったが、IFNγ のみと同様腫瘍を退縮で きなかった。そこで、前章で得られた知見に基づき、IFNγ と DC を併用した治 療法を4種類 7 症例の腫瘍について行ったところ、7 症例すべてに腫瘍が退縮し、 そのうちの 4 例に完全奏功が認められた。特に症例 3 は、炎症性乳癌と呼ばれ、 この疾患に対する外科的治療は不可能であり、内科的治療でも予後不良とされ ている(Marconato et al. 2009)。しかしながら、本研究で開発した IFNγ と DC の 併用療法によって、腫瘍を完全退縮させることができた。現在までに、ヒトの 様々な癌(Höltl et al. 2002; Märten et al. 2002; Kim et al. 2007; Curti et al. 2007; Lepisto et al. 2008; Engell-Noerregaard et al. 2009; Bachleitner-Hofmann et al. 2009; Palmer et al. 2009)あるいはイヌのメラノーマ(Gyorffy et al. 2005)に対して DC 治療が行われてきたが、本研究で示すような高い治療効果を得られたものはな い。腫瘍発症犬からは 8~20 mL の血液を採取し、0.4~18 ×106 個の DC を回収することができた。ヒトでは、2~50×106個の DC を用いており、体重あたりで
は同等な数と思われる。
ヒトでは、既に特定されているさまざまな腫瘍抗原や腫瘍由来の mRNA など を DC に認識させて DC 療法が行われている(Geiger et al.2001; Lotem et al. 2006)。 生体外で DC に分化誘導した細胞に直接腫瘍抗原を認識させるこの方法により、 生体内にあるより腫瘍抗原に遭遇・接着する確率が高くなり、効率よく抗原を認 識させることができる。しかし、イヌにおいては特定された腫瘍抗原が皆無で あるため、腫瘍抗原を使用した DC 療法を行うことができない。この問題を解決 するため、本研究では、抗原取り込み能を有する未成熟 DC を腫瘍部位に注入す ることにより、直接腫瘍抗原をとりこませ、IFNγ の刺激により、腫瘍局所で成 熟させることで、抗原提示能を高め、効率的に抗腫瘍免疫反応を賦活させるこ とを試みた。その結果、腫瘍の退縮効果が見られたことにより、DC と IFNγ を 腫瘍局所へ直接投与することにより、DC が腫瘍抗原を提示し、抗腫瘍免疫反応 が賦活されていることが確認できた。 本研究における腫瘍の退縮が DC と IFNγ の投与による効果であることを確か めるために、投与前の DC に認識させておいた KLH および腫瘍ライセートにつ いて、治療の前後でリンパ球の増殖反応を比較した。KLH は、Megathura crenulata から抽出した酸素輸送タンパク質であるヘモシアニンで、自然に生活している うえでは遭遇し得ない抗原であるため、免疫原として広く用いられている。ま た、最近では DC 上のマンノースレセプターに結合して DC の成熟を促すことが 知られており、ヒトの DC 療法においても用いられている(Geiger et al.2001; Presicce et al. 2008; Kobayashi et al.2001)。本研究においても、DC の成熟刺激と 免疫賦活能の評価のため、DC 投与前に添加した。本研究の結果からは KLH に よる DC の成熟刺激の評価はできなかったが、DC に KLH を添加したすべての 症例について、治療後に KLH に対する反応が認められ、今回用いた DC の抗原 取り込み・認識・提示は正常に行われていることが確認できた。さらに、DC に
腫瘍ライセートを添加したすべての症例について、治療後に腫瘍ライセートに 対する反応が認められ、さらに腫瘍の退縮が見られたことから、腫瘍抗原が特 定されていないイヌについても、この方法により DC に効率的に腫瘍抗原を認 識・提示させ、その結果として抗腫瘍免疫を賦活増強させうることがわかった。 また、1 症例において、DC と IFNγ を注入した腫瘍部位が退縮しただけでなく、 全身の皮膚に広がっていたいぼ状の腫瘍が退縮し、脱落が肉眼で確認できた。 これは DC の認識した情報に基づいて活性化した腫瘍抗原特異的な免疫細胞が 血行性あるいはリンパ行性に全身の腫瘍組織に到達し、そこで腫瘍細胞を攻撃 していると考えられる。したがって、本治療プロトコールにより腫瘍の転移に よる再発を抑制できる可能性が示唆された。 部分退縮が見られた 3 症例については治療の途中で死亡した。症例1につい ては、治療前から慢性的な BUN およびクレアチニンの上昇がみられた。DC 療 法において考えられる問題点の一つとして、DC が破壊された正常組織の抗原を 取り込み、それを提示することによって、自己免疫疾患に陥る懸念があること が挙げられる。しかし、生体内において、自己抗原に対して免疫寛容を積極的 に誘導する DC が報告されており(Lutz and Schuler 2002; Mahnke et al. 2003)、ま た、本研究において治療を行ったいずれの症例においても、発熱や発赤などの 自己免疫疾患の兆候は認められなかった。症例1についても、総胆汁酸濃度が 正常値であり、黄疸が認められなかったことから、自己免疫反応による溶血が 貧血の原因であったとは考えにくい。症例1は、高齢(17 歳)のシーズーであ った。老齢の小型犬においては、慢性腎炎などの慢性腎不全が高率に認められ、 しばしば死因となっている(Cowgill and Spangler 1981)。また、ヒトの腎細胞 癌に対してIFNγ のみによって治療が行われているが、BUN およびクレアチニン の上昇、その他の腎障害あるいは貧血は認められていない(Recombinant human interferon gamma(S-6810) research group on renal cell carcinoma 1987)。本研究にお いても他の治療例で腎機能の異常を呈したイヌはなかった。したがって、症例 1
においては、治療以前から老齢に伴う慢性腎炎があり、この疾患に伴うエリス ロポエチン産生低下によって重度の貧血がおこり、これらが死因になったと考 える。症例2および症例4では、悪疫質および DIC が認められ、これらが原因 となり死亡したと考える。DC と IFNγ の併用治療によって、腫瘍細胞は壊死に 陥る。壊死組織があまり大きくないの場合、吸収されて治癒あるいは瘢痕とな るが、上記 2 症例においては、腫瘍体積が大きく、そのため治療によってでき た壊死組織が大きく、悪液質、DIC などの腫瘍融解症候群を高度に発症したも のと考える。この腫瘍壊死を引き起こすことが本治療法の重大な問題点であり、 大量の細胞壊死が予想される場合には、本治療を始める前に手術あるいは放射 線治療によって腫瘍体積を減尐させる必要がある。 以上、腫瘍罹患犬の末梢血単球から分化誘導した DC と IFNγ を併用した治療 によって、腫瘍抗原に対する免疫反応を効果的に賦活し、イヌ腫瘍を退縮させ、 転移、再発を抑制できることが明らかになった。今後は症例を増やし、適用症 例を検討するとともに、より安全性の高い治療プロトコールを確立していきた い。
小括
IFNγ を自己の DC とともに投与することにより、生体内における抗腫瘍免疫 反応を賦活、増強し、それによって自然発症した腫瘍を退縮させ得ることが示 唆された。総合考察
本研究では、IFNγ が DC の成熟、免疫活性化能および腫瘍傷害能を著しく増 強することを明らかにした。また、IFNγ を DC とともに腫瘍組織内に注入する ことによって、腫瘍を著しく退縮させることに成功した。 最近、癌治療における予後や患者の生存期間を左右する条件として、癌細胞 の悪性度や病変の進行度のに加え、癌間質組織のおける細胞および液性成分か らなる癌微小環境が注目されるようになってきた。特に癌微小環境内の免疫状 態は、非常に重要とされ(Clark et al. 1989; Dave et al. 2004; Pagès et al. 2005)、た とえば、手術摘出した癌組織の微小環境内に、CTL などの Th1 免疫系細胞が活 性化している場合には、患者の生存率は非常に高く(Nakano et al. 2001; Gao et al. 2007)、反対に免疫抑制因子を分泌する炎症細胞や抑制性 T 細胞が多い場合には、 癌細胞の増殖は促進され、患者の生存率が低くなることが判明している(Coussens and Werb 2002; Sato et al. 2005)。 これらの現象を翻せば、癌組織内に Th1 免疫系細胞を集め、それらを活性化する微小環境を構築できれば、癌治療の 効果を高めらることが期待できる。本研究では、この考えに基づき、強力な Th1 免疫系の増強剤であるIFNγ を直接癌組織内に注入して、Th1 免疫系の活性化を 促す癌微小環境を構築した。このことが本研究において非常に良好な臨床効果 を得ることができた一つの要因であると思われる。これまでに、ヒトにおいて、 Th1 免疫系の増強剤である IL-2 あるいは IL-12 を DC と併用して治療し、その効 果が検討されている(Redman et al. 2008; Homma et al. 2005)。それらにおいては、 サイトカインを併用することにより、全身的な(末梢血リンパ球の)癌細胞特 異的免疫反応をより増強することができたが、癌に対する治療効果は、サイト カインを併用しない場合と同じであった。それらの研究では、サイトカインを 静脈内投与しているために癌微小環境に及ぼす影響が尐なく、そのため、治療 効果の改善ができなかったものと思われる。