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樹状細胞の腫瘍治療効果に対する IFNγ の影響

腫瘍罹患者は、免疫機能が低下している状態と考えられ、本来免疫機能によ って捕捉、排除されるべき腫瘍が免疫から逃れている。そこで、患者の免疫機 能を高めることによって免疫細胞が腫瘍を認識し、排除する方向へ誘導するこ とが、免疫学的腫瘍治療である。緒言で述べたように、最近、生体外で分化誘 導したDCに腫瘍抗原を認識させ、腫瘍罹患者の体内にもどし、腫瘍への免疫能 を獲得させる、腫瘍の免疫学的治療が試みられている(Engell-Noerregaard et al.

2009; Curti et al.2007; Bachleitner-Hofmann et al. 2009; Palmer et al. 2009; Kim et al.

2007; Lepisto et al. 2008)。免疫学的治療法は、腫瘍罹患者のもつ細胞を利用し、

その機能を高めることによって治療するため、後遺症や副作用が尐ない、画期 的な治療法である。現在、ヒトでは腫瘍抗原を認識させたDCによるフェーズⅠ の臨床研究が行われている(Geiger et al. 2001; Lotem et al. 2006)。しかし、樹状 細胞のみでの治療ではあまり効果が得られておらず(Morse et al 1999; Svane et al.

2004)、DC療法の確立には至っていない。また、イヌについては、DCの臨床へ

の応用はほとんど行われていないのが現状である。

そこで、前章で得られたイヌ単球由来DCに対するIFNγの影響に関する基礎 知見をもとに、本章では、イヌにおいて自然発症した腫瘍に対してDCを用いて 免疫治療を行い、その治療効果に対するIFNγの影響を検討した。

材料と方法

1. 供試動物および材料

大阪府堺市内の新金岡動物病院に来院した腫瘍罹患犬7頭(5-17 歳)につい て、飼い主に対し、インフォームドコンセントを充分に行った後、治療を開始

した。腫瘍罹患犬は、治療前後において血液検査など必要な検査を行い、摘出 した腫瘍は病理組織検査によって診断を行った。また、摘出腫瘍の一部は、ラ イセート(腫瘍抗原)の作製に供した。ヘパリン処理を施した注射筒および注 射針を用いて、腫瘍罹患犬の橈側皮静脈より無菌的に8~20 mLの末梢血を採取 し、単球の分離およびDCへの分化誘導を行った。

2.末梢血単球の分離およびDCの準備

末梢血単球の分離は、第1章の第1節で述べた方法に従って行った。ただし、

プラスチック付着法によるCD14陽性細胞の純化は、省略し、単球の分離は、抗 ヒトCD14マイクロビーズを用いたMACS法のみによって行った。単球からDC への分化誘導も、イヌGM-CSFおよびIL-4を用いて第1章の第1節で述べた方 法に従って行った。DC による抗原の取り込みおよび提示能を評価するために、

Geigerら(2001)の報告に従って、誘導したDCをKLH(SIGMA社製、St. Louis、

MI、USA)、50 μg/mLとともに2~3時間インキュベートし、そののち回収して

治療に供した。

3.腫瘍ライセートの作製

摘出腫瘍を使用できた例について、腫瘍ライセートを Geiger ら(2001)の方 法にしたがって作製した。すなわち、腫瘍を滅菌シャーレ上で細分し、金属メ ッシュで濾過してPBS(-)中に浮遊させた。マイクロチューブに入れ、4 ℃、

17,000 × g、ブレーキなしで遠心し、上清を除去した後、PBS(-)で浮遊し、

液体窒素で凍結、37 ℃のウォーターバスで融解し、撹拌した。凍結、融解を 5

~6回繰り返し、4 ℃、17,000 × gで遠心し、上清を腫瘍ライセートとした。腫 瘍ライセートはプロテインアッセイ CBB 溶液(5 倍濃縮、ナカライテスク社製、

京都)を用いてタンパク定量を行い、PBS(-)で希釈して1 mg/mLに調整し、

実験に供した。腫瘍ライセートは使用までマイナス80 ℃で保存した。

4.DCとIFNγを併用した治療プロトコール

DCとIFNγの併用処置プロトコールをFig. 2-1に示す。Complete Treatment(以 下[DC+IFNγ]治療)として以下の処置を行った。

① 未成熟DCへ分化誘導した培養細胞と組換え型イヌIFNγ(インタードッグ®、 東レ社製)1万単位/kgを混合し、腫瘍組織内および所属リンパ節に注入した。

② ①の2日および5日後に同IFNγ(1万単位/kg)のみを腫瘍組織内および所属 リンパ節に注入した。

以後,①のDCとIFNγの投与およびそれに続く②のIFNγの追加投与を7日 ごとに行い、これを1サイクルとして8サイクル以上行った。DCの投与間隔は

Geigerら(2001)に従って決定した。IFNγの投薬量、投与間隔は製造会社のア

レルギー治療用のプロトコ-ルに準じて行った。

5.腫瘍に対する治療効果の検討

腫瘍に対する治療効果の評価は、Table 1に示すWHOの判定基準に従い、完 全奏効、部分奏効、安定および進行の 4 段階に分けて評価を行った。ここで、

完全奏効とは、検出可能なすべての腫瘍病変が消滅している状態を、部分奏効 とは、病変の最長径の和が 50% 以上減尐し、新たな病変の発生が無い状態を、

安定とは、病変の最長径の和が50% 未満減尐あるいは25%未満増加している状 態を、進行とは、病変の最長径の和が25% 以上増加しているかあるいは新たな 転移病変が発生している状態を示す。

6.DCによる免疫効果の検討

腫瘍組織内に注入したDCによる抗腫瘍免疫賦活能を評価するために、[DC

+IFNγ]治療開始前および8サイクル終了後に、腫瘍罹患犬から末梢血単核細 胞を採取して、10%FBS加RPMI培地に浮遊し、96ウェルマイクロプレートの

ウェル中で、3×105 個の細胞をKLH(0、20、40、80 および100 μg/mL)または 腫瘍ライセート(0、30、100、300 μg /mL)とともに37 ℃、5%CO2の湿環境下で 4~5日間培養した。その後[3H]-thymidineを各ウェルに18.5 kBqずつ添加し、さ らに16時間培養し、PHDTM cell harvester(Cambridge Technology 社製、Cambridge、 MA、USA)を用いて、培養細胞をガラス繊維濾紙(アドバンテック東洋社製、

東京)に付着させ、TRI-CARB®2200CA型シンチレーションカウンター

(PACKARD社製、Canberra、Australlia)によってリンパ球DNAへ取り込まれ た[3H]-thymidineの放射能(cpm)を測定した。

7.統計処理

すべての測定値は平均値±標準誤差で表し、StatView(Hulinks Inc.社製)を用 いてANOVAおよびFisher’s PLSD法により差の検定を行った。P<0.05の場合に 有意差ありとした。

結果

1. 樹状細胞療法による細胞治療効果

種々のイヌ自然発生腫瘍に対するDCの治療効果をTable 2にまとめて示した。

現在までに、A皮脂腺上皮腫1例、B線維肉腫1例、C乳腺管癌4例およびD 直腸癌1例の計7例について治療を完了し、このうちC3例およびD1例の計4 例について完全奏功を、A、BおよびC各1例の計3例について部分奏功を得た。

また、上記7例の他に、乳腺管癌の1例をDC単独(7日毎、4回)で、2例 をIFNγ単独(1万単位/Kg、週3回、14日間)によって治療を行ったが、いず れも腫瘍細胞の増殖を抑制することはできなかった(データ示さず)。

各症例ごとの治療経過は以下の通りであった。

(1) 症例1

シーズー種、雌、17歳齢。1ヶ月間で大豆大からゴルフボール大に成長した

腫瘍(Fig. 2-2A)が左後肢の足蹠にあり、全身にも無数に小豆大~小指頭大のいぼ

状の腫瘍(Fig. 2-3A)が見られた。パンチバイオプシーによって採取したサンプ ルの病理組織学的検査の結果、方形濃染性の基底細胞に類似した細胞の胞巣状 の増生があり、また、その周囲に明るく泡沫状の細胞質と小さな核を持った皮 脂腺細胞への分化が認められることから、皮脂腺上皮腫と診断された(Fig. 2-2B)。

血液検査の結果、中等度の白血球(分葉核好中球)増加(総白血球数:266 × 102/μL、好中球数:223 × 102/μL)と軽度の貧血(PCV:32.9%、RBC:523 × 104/μL)

が見られた。血液生化学検査で血中尿素窒素(BUN)(63 mg/dL; 参考範囲、

4.8–31.4 mg/dL)とクレアチニン(2.3 mg/dL; 参考範囲、 0.2–1.6 mg/dL)のわず かな上昇が検出されたが、これは高齢のイヌ・ネコで起こる慢性腎疾患である と思われた。これらの結果より、高齢および慢性腎不全の基礎疾患から外科手 術による治療はできないものと判断された。

本症例に対し、症例の末梢血単球より分化誘導したDC(0.6 × 106~3.3 × 106 個)を7日ごとに6回、足蹠腫瘍部位に注入したところ、腫瘍の成長速度は、

低下したものの、投与開始から40日経過しても大きさが減尐することはなかっ た(Fig. 2-2C)。

そこで、上記処置にIFNγを加え、症例の末梢血単球より分化誘導したDC(3.6

× 105~3.3 × 106個)を7日ごとにIFNγとともに足蹠腫瘍部位に注入([DC+IFNγ] 治療)を行ったところ、腫瘍の著しい退縮が見られ、Fig. 2-2Dに示すように、

DC注入開始42日後には、腫瘍の体積が約1/5程度までに減尐した。また、一部 にメラニン色素が沈着した正常皮膚組織の再生も認められた(Fig. 2-4)。

さらに、この時点では、DCおよびIFNγを直接注入しなかった体幹の腫瘍の 多くが退縮し、退縮部位には、色素沈着が認められた(Fig. 2-3B)。この時点で

の白血球数は、正常範囲(126 × 102/μL)にまで減尐した。貧血がやや高度にな った(PCV:20.4%、RBC:312 × 104/μL)が、黄疸は認められず、血清中の総胆 汁酸濃度は正常であった。

パンチバイオプシーによって採取した壊死部位の皮膚組織標本では、メラニ ン色素の沈着が認められるものの腫瘍細胞は見られなかった(データ示さず)。

その42日後には、足蹠の腫瘍は大豆大となったために切除した。その後も同様 の処置を続けた結果、全身に認められたいぼ状の腫瘍も退縮し、減尐していっ た。8回の[DC+IFNγ]治療後、IFNγの2回目と5回目の投与は省いたが、そ れにも関わらず腫瘍は縮小し続けた。

治療開始140日後から食欲減退し、BUNとクレアチニンのレベルは徐々に上 昇し、ヘマトクリット値は徐々に減尐したために、腎疾患に対する治療を行っ た。しかしながら、157日後にBUNおよびクレアチニンはそれぞれ143 mg/dL

および4.3 mg/dLに達して死亡した。死亡時まで、足蹠腫瘍の再発は認められな

かった。

(2) 症例2

ビーグル種、雌、14歳齢。口腔から膿を排出しており、右下顎の頬側と舌下 に限界不明瞭な腫瘍を認めた(Fig. 2-5A)。腫瘍の一部を切除し、スタンプ標本 を作製して検査を行ったところ、多形性異型核を有する紡錘形の細胞が認めら れた(Fig. 2-5B)。摘出腫瘍の病理組織学的検査の結果、線維肉腫と診断された。

血液検査の結果、高度な白血球(分葉核好中球)の増加(総白血球数:485 × 102/μL、好中球数:441 × 102/μL)と中等度の貧血(PCV:24.5%、RBC:377 × 104/μL) が見られた。血液生化学検査では、特記する異常は認められなかった。

レントゲン検査により腫瘍は下顎骨内に浸潤していることがわかったが、下 顎の切除に関して、飼い主の同意が得られなかったため、全腫瘍組織の摘出は できなかった。残存する腫瘍細胞の増殖を防ぐためにIFNγ(1万単位/kg)を隔

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