社会
系教科教
育学会
『社会系教科教育学研究』第9号 1997
(pp.7
レ78
)
小学校社会科における地域学習の授業設計
一社
会
変動
に
ともな
う個
・集
合体の
価
値
対立の
変化
を視
点
と
して
−
Planning Community-Based Lessons m Elementary Social Studies:
With Respect to
the Dynamics of Individuality-Collectivity Value Conflicts
along the Social Change
はじめに
社会科
で対象
とされる事象は
,人間の
主体的な
意志や主観的判
断に基
づく諸行為と不可分に結び
ついている
。これ
は他の教科と大きく異なる社会
科の特徴
である
。そ
して
,こう
した
人間の諸行為
は
時代という状況の影響
を受け
,変化
してきた
。
この
ような前提に立ち
,本研究では
,社会科の
授
業内容
を規定する最大の
要因を
「 ̄
社会変動
」と
し
,その
時代の社会構造や子どもや教師の価値観
がタイム
リ
ーに現れ
る地域学習
を分析
対象
と
した
。
人の
行為が事象
を生み
,その事象を学ぶのが社
会科であるとす
るならば
,人々の
行為志向は社会
科の内容に大きな影響を与える
。そ
して
,この
行
為の指針
として作用するのが価値である
(‰し
たがって
,内容
的に見れ
ば
,社会科地域学習の
中
に価値は何
らかの形で組み
込まれ
ているはずであ
る。
本研究では
,地域学習に組み
込まれ
ている価
値
を分析するために
,
「個
・集合体の価値対立」と
いうフ
レ
ーム
を用
いた
Oこのフレームによって,
社会科誕生から今
日ま
での
地域学習の授業分析を
行い
,個
・集合体の価値対立の
時代的特徴
を示
し,
この視点か
ら今
日における地域学習の問題点を明
らかに
した
(2
。
)
本稿では
,こう
した分析によって導き出された
授
業理論仮説
,
「個の
充足
・自己実現志向と集合
体の調和維持
・共通
目標達成志向との対立が
,現
代の
社
会
を反
映
した
『個
・集合
体の
構
造
的価
値
対
立
』で
あ
る
。
した
が
っ
て
,
この
構
造
的価
値
対立
を
知
る
・分か
る
過程
(社
会
認識
)
と考
える
過程
(価
値
判断
)
と
を組み
込ん
だ授
業設計
が
,今
日的
地域
石
原
一
則
(島田市立神座
小学校)
学習
に
求め
られ
る
。
」
を
以下の
手順で検
証
してい
く
。まず
,この
授
業理
論仮
説の
前
提で
あ
る個
・集
合
体の
価
値
対立
が
,どの
よ
うに
変
化
して
きたか
を
明
らか
に
す
る
。次
に
,今
日の
社
会構
造の
様
相か
ら
「構
造
的価値
対立
」という概念
について述べる
。
そ
して
,最
後に
「個
・集
合体の構
造的価値対立
」
を組み
込ん
だ
地域
学習
モ
デル
を構
想
す
る
。
2。地域学習に
おける個
・集合体の価値対立の様
相
(1)社会
変動の
中の1970
年という時代
1955
年に始ま
った高度経済成長が終焉す
るまで
の20
年間
で
,日本は大き
く変貌
した。急激
な都市
化は家族の核家族化
・小家族化
を生み
,自然村に
おける精神や風士匪を
一気に崩壊させていった
。
また
,日本型組織は,この
時代には効率的に機能
し
,消
費生活に
おける平準化等
,人々の
生活構造
も大き
く変化
した
。
この
時代における価値は
,経済優先であ
り,そ
の価イ
直
は
国や大企
業の論理でもあった
。ところが
1973
年の第
一次石油シ
ョック
を契機に
日本は低成
長時代に
突入
してい
く
。そ
してその前後か
ら,経
済優
先の社会に
対する
矛盾が指摘
され
る
よ
うにな
っ
た
。 1960
年代後半か
ら起こ
り始めた匚
住民運動」
は
,国
・企業の論理に対
して個が異議
を唱
えた
生
活者主体の論理に基づく行動であった
。
これは,
個
・集合体の価値対立の典型である。そ
してこの
視
点か
ら見ると,
1970
年代は大きなパラダイム
転
換の時代だ
ったのである。
(2)個
・集合体の価値対立の
変化
1955
年までの地域学習は戦後の復興か
ら経済的
71
な自 立が国民 共通 の価値 とな って い た。 し たがっ
て、こ の時代 は「 個・集 合体同 価イ直」 の時 代 で あ
る。
1970年頃 まで の地 域学習 は、 日本 全体 が平準化
を志向 した経 済優先 の社会 の反映で あ った。 この
時代 は「 集合 体に よる個 の内包」 とい う構 造 の時
代で ある。
1970年以 降 に は、 経済優 先に対 して待 ったを か
ける個 が地域学 習 の中 に現 れてく る。 筆者 が言 う
個・集合 体 の価値対立 はこの時代 になって 初 めて
生 ま れた。 し たがって、 こ の時代を「 個・集 合体
の価値対立 の萌芽」 期で あ るとと らえ る。
(3
)
(3) 1970年 代 の個・ 集合 体の 価イ直対立
1970年代 の個・集 合体 の価値対 立 は, 集合 体の
優位性 に対 す る個 の立場 に立 った矛盾 の指摘 とい
う形で 現 れて い る場 合が多 い。 した がって,弱 い
立場 の個に立 っ た認 識 の授業 が多 く な る。 ま た,
この時 代 の公 害問題, ま たは ゴミ処 理場 をめ ぐる
問 題 にお け る個の志向 性 は総て, 自 らの生 活 の安
全 に関 わっ た もので あ る。 小工場を 扱 った授業 に
お いて も, そ の労働条 件 の改善が 個の志向 性 とし
て 指摘で き るものが多 い。
二
対 象 志 向 性 状 況 に お け る関 係 認 識 で の 比 重 個 地 域 住 民 安 全 な 生 活 弱 い 立 場 ○ 集 合 体 地 域 工 場 生 産 の 増 大 強 い 立 場 瑤 . [ 図 1 ] 出典:三上勝康 (4) 1980 年 代 の 個 ・ 集 合 体 の 価 値 対 立 1970年代 の個・ 集合体 の価値対立 の典型 実践記録 公害と取り組む実践「生活教育」1971.6 人 々 が 生 活 全 般 に 付 加 価 値 を 求 め る 時 代 と な っ た 70年 代 半 ば か ら80 年 代 半 ば は, 安 定 成 長 の 時 代 で, 日 本 は 押 し も 押 さ れ ぬ 世 界 の 経 済 大 国 の 地 位 を 確 立 し て い く。 そ し て80 年 代 半 ば か ら始 ま っ た バ ブ ル景 気 は消 費 生 活 の 曇 壯化 ・ 多 様化 を 生 ん だ。のであ る。 この時 代 の地 域学 習で は, 個・集 合体
の両 方 の立 場 に立 っ た実 践 が多 くな る。 個 が弱者
と見 られた70年代 の実践 と比 べ ると, 大 きな変 化
で あ る。
二
対 象 志 向 性 状 況 に お け る 関 係 認 識 で の 比 重 個 生 協 で 買 う 人 安 全 ・ 高 品 質 少 数 だ が集 合 体 と対 等 の 立 場 ○ 集 合 体 ス ー パ ー で買 う 人 手 軽 さ ・ 安 さ 状 況 に お い て 支 配 的 ○ 〔 図2 〕1980 年 代 の 個 ・ 集 合 体 の 価 値 対 立 の 典 型 出典 : 若 狭 蔵之 助 学 習 主 体 を 育 て る 授 業 小 学 校 3年 の 社 会 科 の 実 践 生 協 が く え ん 班 の お ば さ ん たち 「 生 活 教 育 」1979.4 3。 個 ・ 集 合 体 の 構 造 的 価 値 対 立 と 授 業 設 計 モ デ 人 一 人 の存 在 を 更 に 個 人 的 に し, 家 族 の 持 っ て い ル た 機 能 は他 の 機 関 に 分 業 さ れ, 今 後 益 々 こ の 傾 向 (1 ) 現 代 日 本 の 産 業 ・ 家 族 構 造 は 強 ま る と予 想 し て い る(6)。 つ ま り , 現 代 日 本 現 代 の 日 本 の 産 業 構 造 は, 第 三 次 産 業 , つ ま り の 産業 構 造 , 家 族 構 造 は 個 人 の 能 力 , と り わ け 新 実 体 の あ る モ ノ を 作 り 出 咨 な い 産 業 が 増 加 し, 経 し い 発 想 を 生 み出 す 匚知 識 」 重 視 の方 向 で 変 化 し 済 の サ ー ビ ス 化 か 進 行 し て い る。 こ れ は, P.F. ド て い る ので あ る。 ラ ッ カ ーが 指 摘 し た 「 ̄知 識 」 の仕 事 へ の 適 応 の 度 (2 ) 現 代 日 本 の組 織 構 造 合 い が 増 し て い る あ ら わ れ と 見 る こ と が で き 新 し い 発 想 を 生 み 出 す 匚知 識」 重 視 の 方 向 に と る(4)O も な う 個 人 の 台 頭 は , 日 本 シ ス テ ム と 呼 ば れ, 現 こ れ と同 じ こ と を , 堺 屋 太 一 氏 は 匚知 価 社 会 」 在 に 至 る経 済 発 展 に お い て 機 能 し て き た 組 織 の 崩 と い う概 念 で 述 べ て い る(5)。 そ し て 氏 は, こ の 壊 に もつ な が っ て き て い る 。 知 価 社 会 に お け る 家 族 構 造 につ い て も言 及 し, 現 太 田 肇 氏 は, プ ロ フ ェ ッ シ ョ ナ ル 的 な 価 値 観 に 在 の 核 家 族 化 に お け る知 価 社 会 の 進 行 は, 家 族 一 基 づ く個 人 に よ っ て 形 成 さ れ る 組 織 を プ ロ フ ェ ッ −72 −シ ョナル・ モデ ルとし, 従 来型 の組織を組 織人 モ
【 組 織 人 モ デ ル 】 組 織 ・ 仕 事 ← 最 大 限 の 貢 献 〔 最 適 基 準 〕 高 次 欲 求 お よ び 低 次 欲 求 の充 足 【 プ ロ フ ェ ッ ショ ナ ル ・ モ デ ル】 → デ ル と し て〔 図 3 〕の よ う に 比 較 し て い る。 個 人 j・E ・ヽ こm=1 −− ͡-= こ 4−m ͡ 一 志4・ 組 織 沁 `ヌ ゛4 杞 叮1 廴. り 只 圦 個 人 耳 又ノ 丶14K ゛ノ タ4、 閃八 仕 事 〔 満 足 基 準 〕 〔 最 適 基 準 〕 高 ふ か い l l 心 I XJふ 况N 社 『司仄 飫氷 允 疋り 采1干と貶乍子 及 び 低 次 欲 求 の充 足 回 叺 飫 氷 9 允 疋 会 〔 図 3 〕組 織 人 モ デ ル と プ ロ フ ェ ッ シ ョ ナ ル ・ モ デ ル 出典: 太田肇「 個人尊重の組織論」中央公論社1996.2 p.99 組 織 人 モ デ ルで は, 組 織 か ら得 る報酬 によ っ て, 生 き る た め に必 要 な 低 次 の欲 求 か ら, 尊 敬 ・ 自尊 ・ 自 己 実 現 等 の高 次 の 欲 求 を 充 足 し よ う と す る の に 対 し て, プ ロ フ ェ ッ シ ョ ナ ル ・ モ デ ル で は, 自 分 の 仕 事 の成 果 に よ っ て 欲 求 は充 足 さ れ る。 つ ま り, 彼 ら の生 き 甲 斐 は 組 織 よ り も 自 分 の 仕 事 に あ る 。 大 企 業 を 自 ら退 職 し , ベ ン チ ャ ー企 業 を 起 こ し て 活 躍 し て い る人 た ち が, プ ロ フ ェ ッ シ ョ ナ ル ・ モ デ ル の好 例 で あ る。 こ う し た 個 の 台 頭 に よ り, 日 本 の 組 織 も徐 々 に 変 化 し て い く こ とが予 想 さ れる。 し か し , 全 体 的 に は ま だ ま だ 個 人 は 組 織 の 中 に埋 没 し て し ま って い る。 (3) 競 争 の 原 理 と 構 造 的 価 値 対 立 元 来 , 日 本 は 調 和 を 大 切 に す る民 族 で あ る と言 わ れ て き た 。 家 族 ・ 地 域 社 会 で の調 和, 企 業 組 織 内 で の調 和 , そ し て 消 費 行 動 で も調 和 が 善 で あ る と 考 え ら れ て き た 。 し か し , 前 節 で 明 ら か に し た 通 り , 個人 の台 頭 に よ り そ の 調 和 も 崩 壊 し つ つ あ る。 カ レ ル ・ ヴ ァ ン・ ウ オ ル フ レ ン は 日 本 に お け る 調 和 の イ デ オ ロ ギ ー の 有 害 性 は, 社 会 にお け る対 立 の 正 当 な 役 割 ま で 否 定 し て き た と こ ろ に あ る と 述 べ る(7)。 そ し て 対 立 は 民 主 的 な 体 制 に お い て 不 可 欠 な も の だ と も述 べ て い る。 氏 が こ こ で 述 べ た 対 立 と い う 言 葉 を 競 争 と い う 言 葉 に 置 き 換 え る と, 日 本 に お け る 不 当 な 調 和 に よ る シ ス テ ム は, 競 争 の原 理 を 廃 し た と こ ろ に 成 り 立 って き た と言 え る 。 こ の よ う な 構 造 が 崩 壊 し つ つ あ る 現 在 , 競 争 秩 序 の 維 持 が 図 ら れ た上 で の 規 制 撤 廃 が 新 し い 産 業 社 会 の重 要 な 課 題 で あ る と 田 中 直 毅 は 述 べ る(‰ し か し, 機 は熟 し た 現 在 に お い て も, な か な か 規 制 撤 廃 が思 う よ う に 進 ん で い な い 。 こ の原 因 を 氏 は , 護 民 官 と し て の政 府 の活 動 に あ ると指 摘 す る。 そ し て 「 市 場 原 理 ( 競 争 の 原 理 : 筆 者 加 筆 ) が 覆 う 範 囲 は き わ め て 狭 い が ゆ え に, こ れを官 の論 理, 護 民 官 の 論 理 で 補 完 せ ねば な ら な い 」(9)と い う の が 護 民 官 の正 当 性 で あ る。 そ し て こ の正 当 性 に 基 づ き, 政 府 ・官 僚 に よ る民 間 事 業 へ の介 入 が 行 わ れ て き た。 こ こ で 述 べ た 規 制 撤 廃 を め ぐ る対 立 は, 民 対 官 と 設 定 で き る。 民 ( 個 と 設 定) の志 向 性 は 自 由 な 競 争 , 能 力 の 尊 重 で あ る。 一 方 , 官 ( 集 合 体 と 設 定 ) の 志 向 性 は現 状 の 維 持 , 既 得 権 の保 護 で あ る。 こ の対 立 構 造 は, 日 本 の構 造 そ の も の に 関 わ る 対 立 で あ る 。 こ の 対 立 を も う 少 し 適 応 性 の 高 い 言 葉 に 置 き 換 え る と, 個 の 充 足 ・ 自 己 実 現 志 向 と 集 合体 の調和 維持・ 共通 目標達 成志 向 の対 立 とな る。
こ の対立 を 厂
個・集 合体 の構造的 価値対立」 と呼
ぶ。
(4)授業理論仮説
と授業設計モデル
現代の社会構造における個
・集合体の価値対立
が
匚
構造的価値対立」であると述べ
た。
地域学習は社会構造の反映であ
り
,現在の社会
構造において匚
構造的価値対立
」が顕在化
してい
ると仮定するならば
,工990
年代の
地域
学習か
らは
,
この厂
構造的価値対立
」が見えて
こなけれ
ばなら
ない。そ
こで
,冂。は
じめに」で示した授業理
論仮説を設定
した
。
匚
構造
的価値対立
」が分かるとは
,社会変動に
ともなって
変化
してきた個
・集合体の関係が分か
ることである。そ
して,構造的価値
対立は今後の
厂
 ̄
 ̄
 ̄
 ̄
 ̄
 ̄
’概念探求過程
|
→
扉 盲 ぶ
|
概
念
的
知
識獲
得
私)
→  ̄ ̄ ̄ ̄| 厂 ̄ ̄ ̄ ̄|厂 ̄ ̄ ̄対立明示
・価値選
択
社会構造
を規定
していく概念なので
,市
民的資質
形成
を意
図する社会科の授
業に
おいては
,この概
念
を子どもたちが
自分の問題として考
える場の設
定が必要で
ある。
つま
り
,この
ような対立構造が意
図され
,関係
を踏まえた認識過程と主体的に考
えさせ価値判断
を行わせる場の設定が,
1990
年代の地域
学習には
求められ
る
。
この授
業設計理論仮説に基づいて授業設計をモ
デル
化
(10
)
したものが
〔図4〕である
。また,
〔図
5〕は授
業設計モデル
を段階に分
けた図で
ある。
価 値 分 析 過 程一
一
一
………一
一
1
1
1
1
→○盲肩
口・
匚 概念探求E(集こ竺匸口 l
l
未来
f測
匸______
…_________
____…匸_二_…__…__…___……______……___…_
J I | ___」〔図4〕授業設計モデル
注
(1)価値選択
と価値判断は
次の
ように規
定す
る
。
・価値選
択………イ
反
の
意志決
定
,直感
的価値判断
・価値判断………意
志決定,合理
的価値判
断
(2)価
値分析
過程の
終末は未
来予測
で終わ
ることも
ある
。
(3)概
念探求
Aと概
念探求
Bの探
求過程は
,単元に
よって単線型と複
線型の両方が考えられ
る。
(4)概
念探求過程
と価値分析過程
との重
な
りは単元に
よって変化する
。
概念探求過程
A
問
把
題
握
B情報収集
問題検証
価
値
分
析
過 程
C価
合理
値
論
的
争
意
問
志
題
決
把握
定
〔図
5〕学習過程の段階モデル
こ
こで
示
した
各
段
階
に
おけ
る教
師の
構
えと
,予
想
され
る子
どもの
姿は
以下の
通
りで
ある
。
【Aの
段階
】
・教師
の構
え‥・地
域の
事
象の
中に
存在
す
る個
と
集合体
の
価
値
対立
は社
会
を反映
した
もの
で
あ
る
。
・子
どもの
姿
・
・
・ぼ
くらの
身
近な
地域
も
よ
く見
74
D未
来予測
てみ
る
とい
ろい
ろな考
え
方が
ある
ん
だ
な
O
【Bの
段階
】
・教
師
の
構
え
・・
・子
どもに与
えられ
る情
報が
,
説
明
的
(概
念
的
)知
識
を背
景
と
した
質の
高
いも
の
で
,個
・集
合体の
どち
らか
一方
に偏
る
こ
とが
な
けれ
ば
,子
どもが
価
値
判断する際の根拠
は
,
よ
り客観
性の
高
いもの
に
な
る
。
・子
どもの
姿
・
・・今が
ど
う
して
こうなの
か
,な
ぜ
OOさん
が
こ
うす
るの
か
が
分か
った
ぞ
。
【Cの
段
階
】
・教
師の
構
え
・
・・話
し合
いの
段階
で
,何
らか
の
基
準
を設
定
し
,価
値の
序列
化
をは
か
る
こ
とが
合
理
的な価
値
判
断
に
つなが
る
。
・子
どもの
姿
・
・・○
○か
ら考
えれ
ば
,
こっ
ちの
方が
大
切
じゃ
な
いか
な
。
自分が
考
えた
こ
とも
こ
う
してみ
る
と
,絶
対
とは
言
えな
いな
。で
も
,
自
分は
最
終
的には
こ
っち
を選
ぶ
よ
。
【Dの
段
階
】
・教
師の
構
え
・・
・クラス
は社
会
の
縮
図で
あ
る
と
い
う認
識
,つ
ま
り,価
値
判
断の
結
果ク
ラス
の
子
ども
た
ちの
考
えは
2分
され
る
。それ
が
現
実の
社
会
の
姿
でも
あ
る
。
・子
どもの
姿
・
・
・一
つに
決め
て
い
くって
大
変だ
け
ど大切
な
こと
でも
あるん
だな
。
どち
らに
とっ
ても
よ
い
とい
う方
法は
な
いか
な
。
4。個
・集合体の構造的価値対立
を組み込んだ地
域学
習の授業設計
(1)対象地域の設定と教材化
社会科の授業を規定
してきたものは
,社会
変動
である
。という前提に本研究は立っている。そ
し
て高齢者福祉に関する我が国の政策は
,大きく社
会
変動の規定を受けてきた
。したが
って
,高齢者
福祉は授
業設計において格好の題材
である
。
東京都
中野区は福祉行政に
おいて
,全国的にみ
れば先進
的であると評価できる
。 1988
年か
ら検討
が始まった地域型福祉サ
ー
ビス
実現に向けての取
り組みは
,現行の
区本庁一
ヵ所によるサー
ビスの
供給体制
を改め
,各地域セ
ンター
ごとの供給体制
と
して再編成するというもの
で
,利用者を本位に
した細分化の傾
向である
。また
,中野区では
,こ
う
した行政地域
レベル
での細
分化
とは
別に
,コ
ミュ
ニティ
ー
レベルでも先進的な活動が展開され
てい
る
。それ
らの
活動
団体の
多くは
,地域の意見
を吸
い上げ
,区に要望
・提案す
る匚
住
区協議会
」とい
う機関か
ら誕生
している
。その中のーつが
「野方
の福祉を考
える会
」で
ある。地域
民間のボ
ランテ
ィ
ア
団体である匚
野方の福祉
を考
える会
」は
,区が
設置
した野方地区セ
ンター
内に事務所
を構
え,区
一75−
の地区センター
朧員
と連
携
を図
りなが
ら活
動
を行
っ
ている。
本小単元の授業設計では
,集合体
を
「中野
区」
,
個
を
「野方福祉
を考
える会
」と設定する
。この両
者は連携
し合って地域福祉
を推進
していると前に
述べた
。では
,サー
ビスの利用者である
区民は満
足
しているのであろうか
。
中野区には区民か
らの福祉に関する相談を受け
付ける窓口がある
。そこに寄せ
られ
る相談の件数
は
,8年間
で10
倍にもふ
くれ
上がった
。この本質
的な原因は
,サー
ビスの絶対数の不足にある。そ
こで
,区は限られ
たサー
ビス
を公平に分配するた
めに
,調査や選考会
を行
い,よ
り困っている人を
優
先
してきた
。ここには
,措置制度と
して伝統的
に
とらえられ
てきた福祉の考え方
,つま
り,弱者
保護の
志向性がはた
らくの
である
。こうした大前
提に貫かれ
たタテの組織である区が行
う福祉サ
ー
ビス
は
,利用者の選
択を最大限に尊重
した
柔軟な
サー
ビス
とは言い難い。利用者の
不満はこう
した
ところにも
ある。
それに
対
して
「野方の福祉
を考える会
」は
,地
域の高齢者の
自立
を目指
した団体である
。そ
して
ヨコの組織なの
で
,会の構成員の独
自の発想がそ
のままサー
ビスに生か
され
ていく。また
,対応も
柔軟である
。
この
ように
,両者の志向性は対立す
る
。
しか
し,
この対立は
,実は現象的なものであることに気づ
く
。つま
り,今の社会構造でこの
ように対立
して
いる両者の
志向性の
違いによる対立は
,仮に未来
に
おいて区の福祉財源が充分に確
保されれ
ば
,な
くなる可能性が
ある
。
(2)個
・集合体の
対立構造
本単元における認識内容の
中核ともいえる個
・
集合体の構造的価値対立は
,匚
野方の福祉
を考え
る会
」の高齢者の
自立志向
(個の
充足
・自己実現
志向)と
,中野区の最弱者保護志向
(調和維持
・
共通
それは
目標達成
,
〔図6〕のよ
志向)との対立である
うに表す
ことが
。
できる。
福 祉 サ ー ビ ス の 利 用 者 《志 向 性 》 ・ 利 用 しや す い サ ー ビ ス 野 方 の 福 祉 を 考 え る 会 《 志 向 性 》 ・ き め こ ま か な サ ー ビ ス ・ 高 齢 者 の 自立 ││ ・ サ ー ビ ス の有 料 化 要 求 〈 問 題 点 〉 財 政 難 ボ ラ ン テ ィ ア サ ー ビ ス − − − − ︱ 現 象 的 対 立
|
本 質 的 問 題
76 − 提 案 集 合 体 中 野 区 《志 向 性 》 ・ 弱 者 優 先 の サ ー ビ ス l ・ サ ー ビ ス の 見 直 し 改 善 ︱11111 1 ・ サ ー ビ ス の 公 平 分 配, 弱 者 保 護方 の福祉を考 え る会」 のような「 高齢 者 の自
立」 に向 けたサ ービ ス提 供 を 行 う た めに は,
財 源をど う確保 するか は, 重要 な問題 であ る
ことが分 かる。
・公平性 , 権利 哇, 選択性 の 3つ の観点 か ら,
「福 祉 サービ スは有料化 す べ き か」 と い う論
争問 題を 考え ること ができ る。
| | __ __l 財 源 確 保 ・ サ ービ ス充 実 公 平 性 権 利 性 選 択 性〔 図6 〕 個 ・ 集 合 体 の 対 立 構 造
こと が分かり, 地 域の ボラ ンティ ア団 体「 野
(3) 授業 モデ ル
ア.小単 元名 「中野 区 の地 域福 祉」
イ.目 標
・福祉 サ ービスを利 用す る人 たち の要求 の高ま
り と, サービ スを利 用 したい人 たち の増 加に
よって, 中 野区 の福祉 に関す る相談件数 は8
年 間で10倍にな った ことが分 かる.
・弱者 を保護 す る形 の サービ ス分 配を中 野区 が
行 って いるの は, 財政的 な問題 が背景 にあ る
ウ/指 導計画
時 段 階 ・ 主 な 問 い 目 標 資 料 1 A 問 題 把 握 予 想 中 野 区 の福 祉 サ ービ ス が ど の よ う に 変 化 し て き た か 調 べ よ う。 中 野 区 の福 祉 サ ー ビ ス は 8年 前 よ り もず っ と よ く な っ て い る の に, な ぜ 福 祉 に関 す る 相 談 件 数 は,10 倍 に 増 え て い る の だ ろ う か 。 中 野 区 の 福 祉 サ ー ビ スが 8年 前 よ り もず っ と 充 実 し て き て い る こ と に 気 づ か せ る 高 齢 者 が い る家 庭 の 子 ど も た ち の 意 見 も取 り あ げ , 多 様 な 視 点 か ら予 想 を 出 さ せ る 。 中 野 区 高 齢 者 福 祉 サ ー ビ ス推 移 の 表 推 移 の表 2 ● 3 A 仮 説 設 定 検証 ① 仮 説 を 立 て て み よ う 。 【 仮 説 1】 利 用 者 の 福 祉 サ ー ビ ス の 関 心 が 高 い う 人 が 増 え た り し た。 利 用 者 の求 め る 福 祉 サ ービ ス と , 国 の政 策 は ど の よ う に変 化 し て き た の だ ろ う か。 利 用 し た い 人 は ,す ぐ に サ ー ビ ス が 受 け ら れ る のだ ろ う か 。 利 用 者 に 視 点 を 当 て て 仮 説 を 立 て さ せ る。 lミっ た り , サ ー ビ スを 利 用 し た い と 国 の 政 策 と利 用 者 のニ ー ズ が 施 設 福 祉 か ら 在 宅 福 祉 に 変 化 して き た こ と や, 高 齢 者 を 介 護 す る 家 族 の 生 活 権 も 認 め ら れつ つ あ る こ とを 理 解 さ せ る 。 区 のサ・- ビ ス は 充 実 し つ つ もま だ ま だ 不 足 して い る こ とを 予 見 さ せ る。 国 の高 齢 者 福 祉 関 連 年 表 高 齢 者 福 祉 窓 口 で の相 談 件 数 内 容 別 一 覧4 ● 5 B 仮 説 修正 新 た な 問 題 把 握 検証 ② 【 仮 説 2】 利 用 者 の 福 祉 サ ー ビ ス に 対 す る関 疋 を 利 用 し た い と い う 人 が 増 え た り し 大 利 用 者 は 福 祉 サ ー ビ スを す ぐ に利 用 し た い の に, な ぜ 区 は利 用 者 を 待 た せ て , 調 査 や 選 考 会 を 行 う のだ ろ う か 。 区 役 所 以 外 で 福 祉 サ ー ビ スを 行 っ て い る と こ ろ は な い だ ろ う か 。 が 高 ま っ た り, サ ー ビ ス を 利 用 し た が , 区 の サ ー ビ ス は不 足 し て い る。 区 で は弱 者 の保 護を 第一 に考え て いる の で, 所 得 の調 査 や 選 考 会 に よ っ て , より 困 って い る人 たち に サ ービ スを 提 供し よ うと して い るこ とを 理解 さ せる。 匚野 方 の福 祉 を 考 え る会 」 の 存 在 に 気 づ か せ て , 会 が ボ ラ ン テ ィ ア 団 体 で あ る こ と を 知 ら せ る。 中 野 区 高 齢 者 福 祉 の ご 案 内 平 成 8 年 度 野 方 の 福 祉 を 考 え る会 メ ッ セ ー ジ 6 ● 7 新 た な 問 題 把 握 検 証 ③ 価値 論 争 前 提 確 認 「 野 方 の福 祉を 考 え る 会」 は ボ ラ ン テ ィ ア 団 体 な の に, な ぜ 利 用 者 か ら お 金を と る の だ ろ う か 。 最 弱 者 保 護 と い う 区 の考 え 方 と 高 齢 者 の 自 立 と い う 匚野 方 の 福 祉 を 考 え る 会 」 の考 え で は , ど ち ら が 正 し の だ ろ う 。 厂野方 の福 祉 を 考 え る会 ] は 高 齢 者 が , 自 分 で す る よ う にな る こ と を 目 的 と し て, 一 回 の サ ー ビ ス に つ き一 律500 円 を 徴 収 し て い る こ と を 理 解 さ せ る。 最 弱 者 を 保 護 し な が ら も高 齢 者 が が 自立 し た 生 活 を 営 め る よ う に 福 祉 サ ー ビ スを 整 備 す る た め に は, 安 定 し た財 源 の 確 保 必 要 で あ る こ とを 理 解 さ せ る。 8 9 10 C 論 争 問 題 検 討 D 未 来 予 測 誰 も が, 身 近 に, 必 要 な サ ー ビ ス を ス ム ー ズ に手 に 入 れ ら れ る た め に は, 福 祉 サ ー ビ ス は 有 料 化 す る べ き か 。 意 見 が二 つ に 分 か れ て し ま っ た け れ ど 別 の ア イデ ア は な い か 。 公 平 性, 権 利 性 , 選 択 性 の 3つ の 観 点 か ら根 拠 を 明 確 化 さ せ ( 3つ の 観点 の 優先 順 位 を つ け さ せ る ) 福 祉 の 有 料 化 に つ い て 考 え さ せ る 。 未 来 の福 祉 の た め に ど う す れば い い の か , 考 え さ せ る 。 5。 授 業 モデ ル の 成 果 現 在 行 わ れ て い る 様 々 な 社 会 科 教 育 実 践 を 見 て み る と, 本 来 相 互 補 完 的 関 係 に あ る べ き も の の 乖 離 が 顕 在 化 し て い る こ と に 気 が つ く。 以 下 , そ れ らを 明 ら か に し , 本 授 業 モ デ ル の 意 味 を 述 べ る。 (1 ) 認 識 ( 知 識 獲 得 ) と 価 値 判 断 ・ 意 志 決 定 一 つ め の乖 離 は, 認 識( 知識 習得 ) と価 値判 断 ・ 意 志 決 定 と の 乖 離 で あ る。 こ の 乖 離 の 背 景 に は, 子 ど も が 主 体 的 に 価 値 判 断 ・ 意 志 決 定 を 行 う 学 習 が 成 立 す る た め に は, 知 識 を 習 得 さ せ る 過 程 が 弊 害 に な る と い う 誤 解 が 潜 ん で い る。 価 値 判 断 ・ 意 志 決 定 と い う 行 為 は 極 め て 主 観 的 な 行 為 で あ る。 し た が って , 最 終 的 に は, 自 分 が ど う 考 え るか な の で あ る。 し か し, 社 会 科 で 行 う 価 値 判 断 や 意 志 決 定 に は, 自 分 と問 題 と な る 事 象 を 包 み込 ん で い る 大 き な 社 会 の 存 在 の 認 識 が 前 提 と な ら な け れ ば な ら な い。 そ れ は, 社 会 的 規 範 で あ り 歴 史 的 背景 で あ るO こ れ らを 抜 き に価 値判 断 ・ 意 志 決 定 を 行 う こ と は, 社 会 の一 員 で あ る と い う 自覚 を 抜 き に し た 市 民 的 資 質 形 成 と は ほ ど遠 い 議 論 と な り 下 が っ て し ま う。 岩 田 一 彦氏 は概 念探 究 過 程 と価 値 分 析過 程 によ っ て 単 元 の 学 習 は 構 成 さ れ る べ き だ と 述 べ て い る(11)。 氏 の理 論 を 借 り て , 上 記 の 論 を 整 理 す る と次 の よ う に な る。 「 概 念 探 究 過 程 で 獲 得 さ れ た 知 識 は 価 値 分 析 過 程 で の 基 礎 的 ・ 基 本 的 情 報 と な り, そ れ プ ラ ス 一 人 一 人 の 価 値 観 で 価 値 判 断 ・ 意 志 決 定 は 行 わ れ る。」 本 小 単 元 で は, 概 念 探 究 過 程 に お い て 利 用 者 主 体 , 在 宅 福 祉 重 視 の 福 祉 サ ー ビ ス に変 化 し て き た こ と と, 中 野 区 と 「 野 方 の 福 祉 を 考 え る 会 」 の 志 向 性 の 違 い が あ る こ と の 2点 を 学 ば せ る。 これ は, 構 造 的 価 値 対 立 を 知 る ・ 分 か る段 階 で あ る。 そ し て こ こ で 得 た 知 識 を 基 に, 本 質 的 な 問 題 で あ る 財 源 確 保 を め ぐ っ て 厂福 祉 は有 料 化 す る ぺ き か 」 と い う 論 争 問 題 を 考 え る。 こ の 場 合 , 概 念 探 究 と 価 値 分 析 は 相 互 補 完 的 な 関 係 に あ り , こ の 2つ の学 習 過 程 が あ って 初 め て , 市 民 的 資 質 形 成 と し て の